| 市町村合併問題が地方自治体の大きな問題になってきました。佐賀県でも井本知事が先頭にたって合併運動を推進しています。 住民の立場からみて、市町村合併はどういう問題があるのか いろいろな角度から考えてみたいと思います。 先に掲載した「鹿島市民フォーラムに参加しての感想」(10/25)につづく第2弾として、財政問題について考えてみました。 |
1、合併推進のために財政問題を二重に利用する政府と県国も県も、市町村合併の推進に財政問題を最大限に利用しています。
その一つは、今、合併しなければならない理由として、「国・地方における厳しい財政状況」をあげています。たとえば、佐賀県が作成して県民に配っているパンフレット「さが進化論」には次のように書いてあります。
もう一つは、合併推進のための「アメとムチ」として、地方財政制度とくに地方交付税制度を最大限に利用していることです。
「国・地方を合わせた債務残高は、2001年度末には約666兆円(国民1人あたり約520万円の借金)にもなるといわれています。
これはGNPの約1.4倍にあたります。このように国も地方も多くの借金を抱えている中で、今日の社会経済情勢から見て、現行の地方財政制度が将来に亘って維持されることは困難なため、まさに地方の構造改革が必要となっています。」このレポートの本題は、合併推進のための「アメとムチ」として、政府が地方財政制度を利用しているということですが、その前に、国や地方の財政状況が悪くなったのはなぜかということをはっきりしておかなければなりません。
それは、アメリカと財界の圧力で公共事業費を10年間で630兆円もの巨大な額にふくらませ、地方にも借金を押しつけてきた政府の政策に最大の原因があります。その結果、国も地方も借金地獄におちいったのです。
このことにほおかむりして、「1億総ざんげ」で国民に借金の責任を押しつける政府のやりかたは無責任極まりないと言わなければなりません。公共事業バラマキに反省のない政府ですから、今度は(あとで詳しく述べますが)、「合併バブル」で公共事業をばらまこうとしているのではないでしょうか。2、地方交付税制度を利用して合併推進の道具に
合併後の市町村に対する優遇策として政府がつくった制度の中に「合併算定替」というのがあります。普通交付税の算定の特例で「合併後10ヵ年度は、合併しなかった場合の普通交付税を全額保障する。さらに、その後5ヵ年度は、激変緩和措置を講じる」(佐賀県市町村合併推進要綱)というものです。
まず、これがどういう制度であり、実際にどうなるのか佐賀県の実例で見てみたいと思います。(1)地方交付税制度とは
普通地方交付税の算定は、基準財政需要額から基準財政収入額を差し引いて行われます。基準財政需要額というのは、各自治体が標準的な行政水準を維持するために必要な一般財源の額を算定したものです。
その差額(普通地方交付税)は、国が徴収する所得税と酒税の収入見込額の32%、法人税の収入見込額の35.8%、消費税の収入見込額の29.5%、タバコ税の収入見込額の25%を財源とする地方交付税会計からから交付されます。
わかりやすくいえば、全国の地方自治体による財源のプール制度だといっていいと思います。
(2)自治体の規模によって大きく違う住民1人あたりの普通交付税額
県内の49市町村を住民1人あたりの普通交付税額(2000年度)が大きい順に並べてみました。
この表を見ると、住民1人あたりの普通交付税は背振村の55万7800円、三瀬村の51万4700円、七山村の40万4400円と人口の少ない村がトップに並んでいることがわかります。佐賀市の5万2100円、鳥栖市の4万9800円にくらべると10倍ほどの金額です。
なぜ、小規模な自治体の住民1人あたりの普通交付税額が大きくなるのか。それは、住民1人あたりの基準財政需要額を見ればわかります。
どんな小さな自治体でも、役場や議会を維持し、学校や保育所を作り、集落と集落をつなぐ道路を整備し、山や河川を守っていくためには最小限の経費はかかります。とくに、山間部の割合が大きくて人口密度が低い町村の住民1人あたりの基準財政需要額が大きくなるのは当然だといっていいでしょう。
その一方で、農山村の自治体は独自財源が少ないので基準財政需要額と基準財政収入額との差はますます大きくなります。
逆にいえば、どんな過疎地でも離島でも国民が憲法で定める文化的な生活を維持するために地方交付税制度は無くてはならない制度だということです。(3)合併して自治体の規模が大きくなれば、1人あたり交付税額は減る
では、いくつかの市町村が合併して人口規模が大きくなれば交付税額はどうなるでしょうか。
資料の表を見ただけで、人口が増えれば一人あたりの基準財政需要額が小さくなり、これにともなって一人あたりの普通交付税額も小さくなるだろうということがわかります。
そこで、私の住んでいる藤津郡太良町では、鹿島市、太良町、塩田町、嬉野町の合併の話が出ていますが、この1市3町のケースではどうなるか実際に見てみることにしましょう。
(合併市は都市類型2-1であるが、総務省指数表にデータがないので類型2-2を適用した)
市町村 人口
1995年
国勢調査人口
2000年
国勢調査基準財政
需要額人口1人
あたり
基準財政
需要額基準財政
収入額2000年度
普通交付税
決定額合併後の
普通交付税
見込額2000年度
決定額と
合併後見込額
との差額鹿島市 34,083 33,215 6,884,835 202.0 2,614,390 4,270445 太良町 11,681 11,410 2,961,746 253.6 694,297 2,267,449 塩田町 11,815 11,679 2,808,919 236.3 810,810 1,998,109 嬉野町 20,504 19,645 3,778,322 184.3 1,629,263 2,149,069 合 計 78,153 75,679 16,433,822 210.3 5,748,750 10,685,072 合併後の普通交付税計算
都市類型2-2 62,904 11,431,099 181.7 合併市 75,679 13,750,874 181.7 5,748,750 10,685,072 8,002,124 2,682,948 この作業をするにあたっては、次のとおりにしました。
- @
- 合併の組合わせは県の「パターンB」によった。
- A
- 県内の市町村の財政数字は県・市町村課「2000年度地方交付税に関する資料」によった。
- B
- 類似都市に関する資料は総務省自治財政局財務調査課編「1999年度類似団体別市町村財政指数表」によった。
- C
- 次のような方法によって資料を作成した。基準財政需要額の算出には人口のほか自治体の面積など多くの項目を基準にしなければならないが、複雑になるので人口のみを基準にして計算した
- それぞれの市町村の「合併後」の人口(2000年度国調)と就業人口構成(1995年国調)によって都市及び町村類型を判断した。類似都市がゼロまたは1団体しかない場合は指数表が作成されていないので、その近くの類型を適用した。
- 類似都市平均人口と平均基準財政需要額から住民1人あたりの基準財政需要額を割り出した。
- 1人あたり基準財政需要額に合併後の人口(2000年国調)をかけて基準財政需要額を算出した。
- 基準財政収入額は合併前の各市町村の合計額をそのままつかった。
- 合併後の基準財政需要額と基準財政収入額都の差から合併後の普通地方交付税額をもとめた
- こうして求めた合併後の普通地方交付税額と現在の市町村の普通地方交付税額の合計の差を求めた。これが、合併後減額になる普通地方交付税額である。
鹿島市など1市3町が合併すると人口75,679人(2000年国勢調査)になります。都市類型でいえば2-1になります。ところが、都市類型「2-1」は現在1市しかなく、総務省の指数表にはデータが載っていません。
そこで、その隣の「2-2」の資料を使うことにしました。(県内では、同じように処理したケースがほかにも唐津市と9町、武雄市と7町のケースの2件ありました。)
全国の都市類型「2-2」22市の平均人口は62,904人(1995国勢調査)で、人口1人あたりの基準財政需要額は181.1千円になります。
この181.1千円に新しく合併してできる市の人口75,679人(2000年国勢調査)をかけると基準財政需要額の総額・13,750,874千円がでてきます。これから、合併前の基準財政収入額(税収額は合併前も合併後もかわらないものとしました)をさしひくと、新しく発足する市の普通交付税額は8,002,124千円になります。
ところが、鹿島市など1市3町の合併前の普通交付税額の合計額は10,685,072千円です。合併前よりも、2,682,948千円減ることになります。実際に作業しながら、合併後の自治体の住民一人あたりの基準財政需要額については、総務省の「類似団体別市町村財政指数表」をそのままあてはめるのは実態に合わないなという感じを持ちましたが、とりあえずこの指数表にもとづいて試算した全県的な合計は次のとおりです。
市 町 村 人口 2000年 国勢調査 基準財政需要額 人口1人あたり 基準財政需要額 基準財政収入額 2000年度 普通交付税 決定額 合併後の普通交付税見込額 2000年度決定額と合併後見込額との差 佐賀市と6町 241,406 41,111,442 170.3 23,795,634 19,457,272 17,315,808 2,141,464 唐津市と9町 141,130 24,895,332 176.4 14,991,824 20,367,721 9,903,508 10,464,213 鳥栖市と基山町 79,902 12,736,379 159.4 9,813,092 4,277,749 2,923,287 1,354,462 多久市と4町 69,324 11,050,246 159.4 5,174,216 9,700,133 5,876,030 3,824,103 伊万里市と2町 81,457 13,847,690 170.0 7,119,172 10,168,304 6,728,518 3,439,786 武雄市と7町 99,548 16,923,160 170.0 7,989,171 15,016,353 8,933,989 6,082,364 鹿島市と3町 75,679 13,750,874 181.7 5,748,750 10,685,072 8,002,124 2,682,948 神埼町など3町3村 51,360 9,871,392 192.2 4,526,685 7,878,303 5,344,707 2,533,596 中原町など4町 36,848 5,976,746 162.2 3,425,128 4,419,900 2,551,618 1,868,282 全 県 合 計 876,654 150,163,260 82,583,672 101,970,807 67,579,588 34,391,219 この表では、仮に「合併パターンB」のとおり合併が進むと、県内で年間約344億円の普通交付税が減ることになります。これでは、大変です。
そこで、政府が考え出したのが次に述べる「普通交付税の算定の特例」いわゆる「合併算定替」といわれるものです。3、合併推進のための大盤振る舞い
合併推進のために国や県がとっている主な財政優遇策にはつぎのようなものがあります。
項 目 説 明 合併算定替 合併後の10年間は合併しなかった場合の普通交付税を全額保障。その後5年間は激変緩和措置 合併特例債 市町村建設計画に基づき合併後10ヵ年度の間に実施する公共的施設の整備事業および合併後の市町村の連携の強化、旧市町村の区域の地域振興等のために設けられる基金の造成について、過疎債に準じた合併特例債の対象とする。充当率95%、普通交付税措置率70% 合併直後の臨時的経費に対する普通交付税措置 合併直後の行政の一体化、行政水準、住民負担の格差是正等のために臨時的に必要となる経常経費について、5ヵ年度にわたり普通交付税による包括的財政措置を講じる 合併市町村補助金 人口規模に応じた合併市町村ごとの額の合算額(単年度)を補助。合併後3ヵ年度 県の合併市町村交付金 合併後の新市町村に対し、構成市町村数に応じて10億円を限度として補助(合併後5年間を限度) これらの制度に基づいて、鹿島市と3町が合併したらどうなるかを試算したのが次の表です。
項 目 説 明 金 額 普通交付税の合併算定替 10年間は差額全額保障。
このあと5年間は激変緩和措置総額215.0億円 合併特例債の借入限度額 合併から10年間の標準全体事業費の95% 総額339.6億円 臨時的経費にたいする
普通交付税措置5年間の合計額(普通交付税に上乗せ) 総額7.4億円 国の合併市町村補助金 合併後3年間 年額2.0億円 県の合併交付金 合併後5年間で 総額7.0億円 まさに、「大盤振る舞い」というよりほかはありません。
しかし、大盤振る舞いはいつまでも続きません。「合併バブル」のあとには借金地獄が待ちかまえています。4、合併後の財政シュミレーション---11〜14年後に負担増に逆転
時の経過とともに、合併した自治体の財政がどうなるか試算してみました。合併に対する優遇措置は国と県でいろいろありますが、そのうち最も中心になる地方交付税の算定の特例(合併算定替)と合併特例債の発行・償還に限定しましした。
その、要領は次のとおりです。
- @
- 合併後の交付税の算出については、第2章で述べた算出方法によった。
- A
- 合併後の財政の取り扱いについては、すべて国・県が明らかにしている方針によった。
- B
- この後、人口などの条件はすべて変化しないものと仮定した。
- C
- 以上のことを前提にして、次のような方法で計算した。
- 合併特例債は限度いっぱい活用する。償還は3年据え置き、年利2.0%、12年で償還するものとした。また、毎年均等に元利合計を返済し、そのうちの70%は普通地方交付税で措置されるものとした。 (12/10に県・市町村課に電話で問いあわせたところ、「償還は3年据え置き、12年で償還、元利合計の70%を交付税で措置する。政府系金融機関で借りるか縁故債にするかは問わない」ということであった。そこで、政府系金融機関、縁故債の平均的なものとして金利は年2.0%とした)
- 地方交付税の算定の特例による経過措置額と合併特例債発行による収入を「合併優遇措置額」とした。さらに、自主財源で負担しなければならない合併特例債の元利償還金(30%)を算出した。
- 「合併による財政優遇措置の合計」と「合併特例債元利償還自主財源負担分」を比較した。この差がマイナスになった時点で、合併効果は消滅し、負担の重みのみが残ってくる。「逆転の時期」である。
県の「合併パターンB」にもとづいて試算した結果は次のとおりです。
鳥栖市と基山町、中原町、北茂安町、三根町、上峰町の1市5町の合併ケースについても試算してみてほしいという要望がありましたので、紹介します。、
これを見ると、いずれも11〜14年後には借金返済の方が大きくなることがわかります。
「合併バブル」の時期に建設した公共施設の維持費負担を含めれば、合併後10年をすぎると今度はより大きな財政逼迫に苦しむことになるのではないでしょうか。5、合併しない市町村には交付税減額でしめあげ
その一方で、合併しない市町村は地方交付税の減額でしめあげようとしています。
交付税の算定にこれまで「段階補正」というのがありました。小規模な市町村ほど地方交付税を割り増しする制度で、背振村や三瀬村など人口の少ない山村の住民の暮しを守るためにはなくてはならない制度でした。
対象となる事業費は、消防費、その他の土木費、その他の教育費、生活保護費、社会福祉費、保健衛生費、高齢者保健福祉費、農業行政費、商工行政費、企画振興費、徴税費、戸籍住民基本台帳費およびその他の諸費の13費目です。
すでに、1998年度から人口4000人未満の自治体の割増率を一律にする措置がとられていましたが、政府はこれをさらに拡大しようとしています。
そのやり方は、これまでの「全団体の平均を基礎として割増率を算出する方法」から「より効率的な財政運営を行っている上位三分の二の団体の平均を基礎とする」ものに改めるものです。これによって、全国の9割をこえる約3000の市町村が交付税「段階補正見なおし」の対象になるといわれています。
小規模な自治体を交付税制度の見なおしで合併に追いこもうとする政府の方針が見えみえです。6、地方交付税制度を政府の政策目的に使うのはまちがっている
最初にも述べたとおり、地方交付税制度は全国の地方自治体のプール会計ともいうべきものです。
大きな都市でも地方の小さな町村でも、どこに住んでいても最低限の福祉や教育、生活環境整備などを保障するためにはなくてはならない制度です。全国の自治体の共通の財産といってもいいでしょう。
そういう地方交付税制度を政府の特定の政策目的、この場合には市町村合併という政策目的のために恣意的に使うのは全くまちがっていると思います。
11月28日に行われた全国町村長大会の「市町村合併にかんする緊急決議」が、「市町村合併の強制を意図した地方交付税算定の見なおしは絶対に行わないこと」と政府に要求しているのは当然だと思います。