佐賀県、太良町、教育委員会、太良高校、多良中学校、大浦小学校、大浦中学校、多良小学校 評論・佐賀と太良

太良町の教育について真剣な議論

「ゆたたりの里教育フォーラム」に参加しての感想

2001年10月20日


 今日(10/20)の午後、太良町自然休養村管理センターで「ゆたたりの里教育フォーラム」があったので参加しました。太良町の子供たちのリアルな実態と学校、父母、教育委員会、地域の取り組みを聞くことができ大変有意義でした。

 パネルデイスカッションでは、太良高等学校の福地萬三晃校長、大浦中学校の内田洋一郎校長、多良中学校PTAの菅原貞春会長、太良町教育委員会の岡弘俊教育長の四人がまず、太良町の子供たちと教育の現状について発言しました。

 太良高校の福地校長は、「太良高校へ赴任してビックリしたのは身体的に虚弱な生徒の割合が多いことだった」と切り出しました。内臓関係の疾患を持っている子が多いこと、それに加えて精神的な弱さ---日常生活の不規則さがその原因だと言うことでした。
 また、基礎的な学力が出来ていない、小学校を卒業しているのかと思う生徒がかなりいる、今は減ったが、かっては年間100件に及ぶほど問題行動が多かったなどの問題点を報告しました。
 大浦中学校の内田校長は、大浦中学校区は世帯の70%が農業・漁業だが漁業関係の50%が出稼ぎに出ざるをえないほど、農業・漁業の不振のなかであえいでいるという現状から切り出しました。そんななかで、子供たちを進学させ、他の職業につかせたいという父母が増えていること、教育には関心があっても関わる余裕がないという親の厳しい現実を語りました。
 そして、四月に赴任してビックリしたのは、自動車による生徒の送り迎えが多くて異様な感じがした、親が子ばなれしていない、子供の自立が出来ていない、基本的な生活習慣ができていないことなどを語りました。
 多良中学校PTAの菅原会長は、父母の間で話題になるのは、最近の子供たちの学力低下。「心の教育」が十分出来ていないのではないかと考えると発言しました。
 太良町教育委員会の岡教育長は、「教育長になってからいちばん驚いたのは、太良の中学校の生徒がなぜ、こんなに勉強しないのだろうということだった」ということから切り出しました。
 岡教育長は、以前は鹿島高校に多良から20名は受かっていたのに、今では7〜8名しか合格していないと数字もあげていました。(鹿島高校の資料では、今年5月1日現在の在校生のうち多良中出身者は3年生で16名、2年生で15名、1年生で7名、大浦中出身者はそれぞれ8名、9名、8名)。
 中学校では間に合わない、小学校からくせをつけなければならないということで、小学校・中学校の連携をはじめ、今年度からその予算をつけたということです。

 そのあと、@中高一貫教育、A小中高及び地域・家庭の連携、B地域の教育力の向上という三つのテーマでパネラーがそれぞれ発言しました。

 各パネラーの発言をきいていて、太良町の子供たちのおかれている状況、問題点をおぼろげながらつかむことができました。
 基礎学力の低下と基本的生活習慣の欠如---問題点はここに集約されているとおもいました。
 これは、いま全国的に問題になっていることですが、太良で近年とりわけ深刻になってきたのはなぜか?
 単純化することはできませんが、全国的な不況にくわえて太良町経済の柱である農業・漁業の深刻な落ちこみが関係しているのではないか。まず、親たちが生業に希望と展望を失い、家庭や地域が子供たちを教育する力を失ってきているのではないかとおもいました。
 親の絶望は一面では子供達に対する教育やしつけの放棄となってあらわれ、他の一面では大浦中学校の内田校長が指摘したような進学第一主義への傾斜となり、それが自動車による生徒たちの送迎といういびつさを生み出しているのではないかとないかとおもいました。
 いずれにしても、各パネラーが指摘したことが太良の子供たちの現実であり、そこから、出発しなければならないとおもいました。

 それでは、どうやって、子供たちに基本的な生活習慣を身につけさせ、基礎的学力をつけさせ、身体でも徳育の点でもしっかりした子供達に育て上げて行くかということです。
 各パネラーの発言からその努力が模索されていることを感じとることが出来ました。それをふまえて、いろいろと考えてみました。

 まず、大前提として、太良の子供たちの現状を町民にリアルに知ってもらうことが大切だと思いました。現在、子供たちを学校に通わせている家庭の父母だけではなく、子育てを終わった世代にも、年輩の世代にも次代の太良をになう子供たちの現状をリアルに知ってもらうことが出発点だと思います。
 なぜ、こんな状況になったのか、どうしたらいいのか、自分(子供がもう独立した人でも)はどんなことが出来るのか---町民のなかでの関心と議論をまきおこすことが必要だと思います。

 今、町内ではいろいろなとりくみが始まっていますが、取り組みの方向を三つに整理してみました。

  • 基礎的な学力を身につけさせることを中心にした小学校と中学校の連携
  • 子供たちの多面的な発達と成長を保障する中等教育---中学校と高校の連携
  • 基本的な生活習慣を身につけさせることを中心にした学校と地域の連携

 教育委員会の岡教育長は各行政区で教育懇談会を開いていること、すでに8行政区で開催したことを紹介していました。
 大浦中学校の内田校長は家庭の教育力の回復こそ、教育の回復の基本だと強調していました。
 太良中学校PTAの菅原会長も家庭の教育力を強調していました。
 私も、学校の取り組みとあわせて地域と家庭の教育力の回復をはかることがどうしても必要だと思います。そして、現状では、一番困難な課題ではないかと思います。なぜなら、前にものべた通り地域経済の不振、展望のなさが親たちに自信を失わせ、地域そのものの成り立ちを危うくしているからです。
 私は、先に「どうしたら、町の経済に元気をとりもどし、暮らしをよくすることができるのか?」と題するレポートをまとめましたが、太良町の産業・経済の再生のための努力と地域・家庭の教育力の回復は不可分のものだと思います。
 不況と洪水のような農林水産物の輸入、製造業の空洞化という逆境のなかで生業を守り、家族を養うために太良の親たちが必至になって努力している、子孫のためにゆたかな森と田畑、きれいな水と海、すぐれた文化を残そうと町をあげて努力している---そういう努力と結びついてこそ地域と家庭の教育力を取り戻すことが出来るのではないかと思います。
 もちろん、そういう努力をしていれば自動的に地域や家庭の教育力が回復するというのではありません。戦後史をふりかえれば、高度成長、バブルのなかで地域や家庭の教育力が低下していったのですから。
 いま、太良町の親たちに求められているのは町づくりと人づくりの両面に強い親になるということだと思いますがどうでしょうか。

 さて、そういう中での太良高校と太良中学校・大浦中学校の「中高一貫教育」をどう考えるかです。
 県教育委員会の「中高一貫教育」の施策については10/18の記事でふれました。そこに書いた通り県教育委員会の「中高一貫教育」方針のもとになった選別主義、学校の格差拡大についてはきびしく批判したいと思いますが、太良町内での「連携型中高一貫教育」の実施については太良町の実態のなかで考えたいと思います。たらいの水といっしょに赤ん坊まで流してしまう機械的なことはすべきではありません。
 太良町の子供たちの教育の課題、基礎的な学力と基本的な生活習慣を身につけることを基本にして、子供たちの能力を多面的に発達させるという課題は当然中学校と高等学校の連携を必要としますが、これにたいして現在計画されている太良高校を中心にした「連携型中高一貫教育」がどんな役割を果たすかです。

 私は、中学校と高等学校がお互いに連携して子供たちの教育にあたるという点では積極的な点があるとおもいます。これまで、どちらかと言えば地域から離れた存在であった県立高校が地域と結びついていくことは太良町の子供たちの教育をどうするかという全町民的な課題を進めて行く上で積極的な役割を果たすと思います。
 私は、佐賀県でも小学区から中学区へと高校の学区を広げていったことが、受験競争を激化させ、教育をいびつにして行ったのではないか、以前のような小学区に戻すべきだと考えています。その点から言えば太良町内での「連携型中高一貫教育」はそれに近いものになっていく可能性もあると思います。

 同時に、太良町内の中学校卒業生の進学先としては太良高校はこれまで四分の一程度であり、太良高校の入学者のうち太良町内の卒業生が占める比率は4割台だというこれまでの現実からいろいろな複雑な問題も出てくることを考えておかなければならないと思います。
 パネラーの太良中学校PTAの菅原会長は最初「他の高校には行かれんとね」という父母もいたということを紹介していました。
 たとえば入学者の選抜です。
 太良中学校と大浦中学校の生徒については「簡便な方法による選抜での入学」とあります。他の中学校か太良高校へ入学するためにはこれまでどおりの入試をくぐらねばなりません。「機会均等」という点からみて問題は生じないでしょうか?
 このような「簡便な方法による選抜での入学」が繰りかえされれば、おそらく太良町内の中学校卒業生の中で太良高校へ入学する子供たちの比率は高まり、太良高校の生徒のなかでの太良町出身者の比率は高まって行くだろうと予測されます。生徒の学力、関心、高校卒業後の進路などはいまよりうんと幅が広くなり、それにこたえる講座や教師、スタッフの充実がもとめられるだろうと思います。、
 岡教育長は多良の中学生が勉強しないことを指摘し、その指標として鹿島高校合格者の数が減っていることをあげました。こんどは、逆に、地域と親、小学校、中学校の努力で子供たちの基礎学力が向上すれば鹿島高校や他の高校への合格者がふえ、太良高校への進学者は減ることになります。他市町出身者の割合が大きくなるという自己矛盾も考えられます。
 教師は自分の学校内だけでなく、グループ全体、地域全体を視野にいれた教育活動をもとめられ、その時間も必要になります。太良高校の福地校長は「中高一貫教育の実施は教師に大きな負担をかけている。県・町からの財政的援助をお願いしたい」と発言していました。
 県教育委員会の方針では致遠館高校グループでは併設中学校の新設、寄宿舎の設置など相当な財政支出を予定していますが、太良高校グループについては安上がりに済まそうとしています。この点にも、進学エリート校づくりを本命と考える県教育委員会の方針のゆがみがあらわれているのではないでしょうか。
 太良高校自体の教育力を引き上げるための教職員の増員、施設・設備の充実が伴わなければ太良中学校や大浦中学校内部での子供たちの選別の助長と対立の激化、他市町の太良高校進学希望者との矛盾の激化という意図しない結果におちいる危険があることも考えておかなければならないと思います。

 このように、太良町での「連携型中高一貫教育」は「両刃の剣」だと思います。
 それだけに、入試などのせまい問題に解消してはならない、太良の子供たちの教育をどうするのか、中等教育をどうするのかという基本点にたえずたちもどって学校も地域も家庭も含めた論議が必要だとおもいます。

 太良町の子供たちの教育について考えさせられた有意義な企画でした。主催者である町教育委員会、現状を率直に語ってくれたパネラーのみなさんに感謝したいと思います。
 ただ、一般町民の参加が少なかったようで、ここにも太良町の教育の現実が反映しているのかなと残念でした。  


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