首都圏・若年単身労働者世帯の最低生計費試算中間報告の概要

2008年7月18日
労働運動総合研究所
監修責任者 佛教大学教授 金澤誠一

○ 労働運動総合研究所は、首都圏の労働組合、東京地評、埼労連、神奈川労連、千葉労連、ならびに全労連との共同のもと、2008年4月に「持ち物財調査」と「生活実態調査」、「価格調査」を実施し、その第1次集約の結果に基づき、若年単身労働者世帯の「最低生計費」を試算した。

○ 首都圏に住む若年単身労働者世帯(25歳男性)の「最低生計費」は、月額232,658円(税等込み)という結果となった。これを時給にすると1,339円となる。
 生活保護基準(生活扶助費、冬季加算、年末一時金、勤労に伴う必要経費(基礎控除、特別控除)は、当該モデルを想定した場合、172,776円となる。これと比較するため、算定された「最低生計費」をもとにして、保護基準相当額(「最低生計費」から税金・保険料、医療扶助相当額、NHK受信料、実費控除を差し引いた額)を算出すると、172,873円となる。保護基準を100とした場合、「最低生計費」の保護基準相当額の指数は100.1となる。

○ 2007年改正の最低賃金法9条3項では「労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者の健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係わる施策との整合性に配慮するものとする」と、生活保護と最低賃金との整合性を考慮することが明記されている。ここで試算された「最低生計費」は、生活保護基準をわずかに上回るが、ほぼそれに相当する額である。

○ なお、「最低生計費」未満の若年単身世帯(30歳未満)の割合は、総務省『平成16年国消費実態調査』に基づいて計算すると、54.0%となる。

1.試算の対象と地域

 対象・・・25歳男性を想定
 地域・・・埼玉県さいたま市内在住(都心部に通勤しているものとした。)

2.試算の目的

 最低賃金、生活保護、最低保障年金などの社会保障制度の在り方を議論する際の基礎資料を求めることを目的とした。

3.最低生活の保障

 「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するためには、どれだけの収入が必要かが問題となるが、ただ単に収入の水準だけが問題となるのではない。その収入によって「どういったことができるのか」「どういった状態になりうるのか」といった「生活の質」が問題となる。その最低限保障されるべき「生活の質」として以下のことを考えた。

 第1に、「適切な栄養をえているか」「雨露をしのぐことができるか」「避けられる病気にかかっていないか」「健康状態にあるか」といった基本的な健康・生命を維持するための「生活の質」(1998年ノーベル経済学賞受賞者であるアマルティア・センの言う生活の「機能」、アマルティア・セン著、池本幸生・野上裕生・佐藤仁訳『不平等の再検討』岩波書店、1999年参照)を確保すること。

 第2に、「読み書きができるか」「移動することができるか」「人前に出て恥をかかないでいられるか」「自尊心を保つことができるか」「社会生活に参加しているか」といった社会・文化的な「生活の質」(アマルティア・センの言う生活の「機能」、前掲書参照)を確保すること。

4.算定の方法

 マーケット・バスケット方式(全物量積み上げ方式)を採用した。

 必要な物量・サービスを知るために「持ち物財調査」を実施した。また、今日の生活様式を知るために「生活実態調査」を実施した。この2つの調査で知り得た事実に基づいて、最低限必要な消費財貨を一つ一つ積み上げて算定した。また、これらの消費財貨の価格を調べるため、さいたま市において「価格調査」を実施した。

* 調査による第1次回収集計件数(746ケース、うち若年単身世帯76ケースを対象に分析した。)

5.算定結果(総括表参照)

算定された「最低生計費」は、 消費支出 172,529円
非消費支出 43,129円
予備費 17,000円
  計 232,658円

6.保護基準との比較

生活保護基準(1級地−1、さいたま市在住、25歳一人暮らしを想定)
生活扶助 第1類 40,270円
第2類 43,430円
住宅扶助 (特別基準) 47,700円
冬季加算 1,287円
期末手当 1,182円
基礎控除 25,520円
特別控除 (月額) 13,387円
   計 172,776円 ・・A

 *ただし、要否判定には、基礎控除の7割だけが認められ、冬季加算、期末一時金、特別控除は認められない。その額は、149,264円となる。・・B
 

「最低生計費」の保護基準相当額
「最低生計費」(税込み) 232,658円
税・社会保険料相当額 −43,129円
医療扶助相当額 −3,238円
NHK受信料 −1,345円
労働組合費 −3,000円
通勤費 −9,073円
172,873円 ・・C

C/A×100=100.1
C/B×100=115.8

7.「最低生計費」未満の割合

 「最低生計費」の年額=2,791,896円
 「最低生計費」未満の割合  54.0%

   若年単身世帯
25歳男性
賃貸アパート 1K25m2
消費支出 172,529
食費 41,064
 家での食費
 外食・昼食
 外食・会食
 廃棄率5%を加算
20,621
10,000
9,000
1,443
住居費 54,167
 家賃
 更新料月当たり
52,000
2,167
光熱・水道 8,768
 電気代
 ガス代
 他の光熱
 上下水道
4,007
2,566
396
1,799
家具・家事用品 4,001
家庭用耐久財
 室内装備・装飾品
 寝具類
 家事雑貨
 家事消耗品
1,941
177
593
619
671
被服及び履き物 6,897
 被服費
 履物
 洗濯代
5,759
671
467
保健医療 4,328
 医薬品
 健康保持用摂取品
 保健医療用品・器具
 保健医療サービス
1,013
506
584
2,225
交通・通信 16,211
 交通費
 通信費
9,073
7,138
教育
 学校教育費
 学校外教育費
教養娯楽 15,862
 教養娯楽用耐久財
 書籍・他の印刷物
 教養娯楽サービス
 旅行・帰省
 レジャー・スポーツ
 NHK受信料
3,167
4,350
8,345
5,000
1,000
1,345
その他 21,231
 理美容用品
 理美容サービス
 身の回り用品
 こづかい
 交際費・その他
530
2,000
484
6,000
12,217
非消費支出 43,129
 所得税
 住民税
 社会保険料
4,094
12,188
26,847
予備費 17,000
最低生計費(税抜き)
 (税込み)月額
 (税込み)年額
189,529
232,658
2,791,896

首都圏・若年単身労働者世帯の最低生計費試算中間報告案

(平成20年5月現在)

I はじめに−算定の対象と方法

1.算定の対象となる世帯と地域

 若年単身世帯モデルとして、25歳男性を想定した。
 居住地としては、首都圏の中でも「さいたま市」内とした。都心部にある会社に通勤しているものとしている。
 この世帯の生活を前提として、その実態調査の基礎の上に、以下で述べる算定方法によって、一つの理論値に到達したのである。

2.算定の目的と方法

(1)目的と意義

 その目的は、最低賃金、生活保護、最低保障年金などの社会保障運動の基礎資料を求めることにある。
 これまで、運動の要求の「目安」として生活保護基準を用いる場合が多かったが、老齢加算や母子加算の段階的削減から廃止、そしてまた、保護基準そのものの引き下げが図られようとしているとき、もはや既存の保護基準では、「目安」となることができなくなってきた。新しい要求の目標が必要となっている。
 収入の高さが問題であることは言うまでもないが、それだけでは不十分であろう。その収入で「どのようなことができるのか」「どのような状態となりうるのか」といった「生活の質」が問われなければならない。

(2)最低生活=「人間らしい生活」の考え方

 第1に、「適切な栄養をえているか」「雨露をしのぐことができるか」「避けられる病気にかかっていないか」「健康状態にあるか」といった基本的な健康・生命を維持するための「生活の質」(アマルティア・センの言う生活の「機能」、アマルティア・セン著、池本幸生・野上裕生・佐藤仁訳『不平等の再検討』岩波書店、1999年、参照)を確保すること。
 第2に、「読み書きができるか」「移動することができるか」「人前に出て恥をかかないでいられるか」「自尊心を保つことができるか」「社会生活に参加しているか」といった社会・文化的な「生活の質」(アマルティア・センの言う生活の「機能」、前掲書参照)を確保すること。
 こうした「生活の質」は憲法25条が規定する「健康で文化的な最低限度の生活」の意味内容であると考えた。
 朝日訴訟の最高裁判決では、「健康で文化的な最低限度の生活」をその時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるものであると述べ、その概念は抽象的・相対的なものであるとしている。そしてその具体化に当たっては、国の財政事情を無視することができず、また多方面にわたる複雑多様な、しかも高度な専門的技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするとしている。
 しかし、ここで述べた「生活の質」は、「健康で文化的な最低限度の生活」の意味内容について、一歩踏み込んだ解釈をするものである。相対的概念という意味で言えば、上記の「生活の質」を達成するためのさまざまな財やサービスが、時代とともに社会とともに変化するということである。しかし、上記の「生活の質」そのものは、歴史的にも社会的にも「絶対的」なものであると考える。
 言うまでもなく、個々人が自分の価値や目的あるいは人生設計を選択し、それに向かって活動することは自由(「積極的自由」)である。その意味では価値や目的、生活は多様化するのである。そうした自分が選択した価値や目的あるいは人生設計が、その人の人格を形成することになる。しかし、そうした人格は、それを取り巻く社会的・経済的あるいは文化的環境によって、影響を受けることが多いのである。低所得層や貧困層は、長い人生の中でさまざまな大切なものを失いながら生きていく場合が多いであろう。その悲哀ははかりしれないものがある。また、個々人が置かれている貧困や差別や身体的・精神的状態の違いによって、自分自身の欲求・価値・目的を抑制する可能性も高いのである。価値の多様性よりは、こうした個々人が置かれている身体的・精神的状況の多様性や、貧困や差別などの社会的状況の多様性に配慮する必要があるのである。そうした人格を取り巻く環境・状況の改善なくして、個々人の自由は保障されないと考えるのである。言い換えるならば、貧困からの自由としての最低生活の保障、差別からの自由、身体的・精神的状況からの自由といった「消極的自由」(「何々からの自由」として「何々からの開放」を意味している)が、公共政策によって実現されてこそ、積極的な自分自身の選択した価値や目的に向かって活動する自由が保障されるのである。

(3)算定の前提

 最低生計費は、その前提となる人々が置かれている身体的・精神的状況や社会状況の違いへの社会的配慮(公共政策)によって異なる。本来、そうした公共政策をも合わせた総合的なナショナルミニマムが必要である。ここでは、ナショナルミニマムの体系の「要」として「最低生計費」を試算するのである。したがって、ここでは、現在の公共政策に基づく社会的諸制度を前提とした。それは、社会保障・社会福祉諸制度や、住宅・教育などの「生活基盤」や人権、平和の状態などを意味している。

(4)算定の方法

 試算の方法としては、マーケットバスケット方式(全物量積み上げ方式)を採用した。それは、上記の目的を達成するために必要であるからである。最低限必要な「生活の質」を満たすために、どれだけの財が必要かを測るためには、必要な物量を一つ一つ積み上げる方法が最も適している。また、その当不当を判断するのに理解しやすいと考えた。それがこの方式を採用した最大の理由であるが、また、この方式の欠点も古くから指摘されている。それは、食費についてはカロリー計算や必要栄養を満たすような栄養学による一定の指標が存在するが、それ以外の費目については、具体的な指標が存在しない、といった指摘である。この欠点をどれだけ克服できるかが、この方式を採用して算定する場合、最大の鍵となる。
 ここで算定した「最低生計費」は一種の理論的生計費ではあるが、最低生活をありうべき一定の理想として現実の生活から遊離させて考えているわけではない。今日の労働者世帯の生活様式、慣習、社会活動を把握するために、「持ち物財調査」や「生活実態調査」「価格調査」を実施し、それを基礎資料として算定しているところに特徴がある。その算定の基本的な方法は、以下の通りである。

(注)マーケットバスケット方式で算定した例として、1974年に当時の総評が算定した「理論生計費」がある。これは、労働者の「あるべき生活像」を想定して算定している点に特徴がある。例えば、「より人間らしい生活」として次のように想定している。「労働時間短縮等を反映した能動型、主体的行動型の余暇を考慮すべきだ」として、「ハイキング、スキー、登山、家族旅行などの比重を高めたほか、単身世帯では語学研修、複数世帯では主婦のけいこごと、夫の趣味(釣り)、長男のサイクリング、長女のピアノのレッスンなどを配慮することにした。」と述べている。その結果、算定された「理論生計費」は、現実の賃金とは大きくかけ離れたものとなった。この例は、労働者の現実の生活様式や社会慣習、社会活動から遊離して理論的に生計費を算定したものといえる。

① 家具・家事用品、被服及び履物、教養娯楽耐久財、書籍・他の印刷物、教養娯楽用品、理美容用品、身の回り用品などは、「持ち物財調査」に基づいて、原則7割以上の保有率の物を「人前にでて恥をかかないでいられる」ために最低限必要な必需品と考え、それぞれの費目毎に積み上げて算定した。また、耐用年数については、国税庁「減価償却資産の耐用年数等に関する政令」を参考にした。
 購入先について、生活実態調査に基づき想定した。下着については、最も多いのが「大型スーパー」で59.0%、次いで「近くの商店街」の10.3%、「ディスカウントショップ」「専門店」の7.7%、「百貨店」の5.1%と続いていた。下着の購入先として最も多い大型スーパーを想定した。
 洋服については、最も多いのが「専門店」で46.2%、次いで「大型スーパー」の38.5%であった。このことから、最も多い専門店を想定した。
 電化製品については、同様に、最も多いのが「大型電気店」で56.4%、次いで「大型スーパー」の33.3%であった。このことから最も多い大型電気店を想定した。
 家庭雑貨については、最も多いのが「大型スーパー」で51.3%、次いで「ホームセンター」の17.9%、「百円ショップ」の15.4%と続いていた。この結果から最も多い大型スーパーを想定した。
 「価格調査」の方法としては、それぞれの品目のそのお店の最低価格、最多・標準価格、最高価格を調査した。外出用の品目については、「人前に出て恥をかかないように」最低価格は避けて、標準価格を用いた。それ以外については、最低価格を用いている。

② 食費については、2005年の総務庁「家計調査」の品目分類に基づいて、最も年間収入の低い第1五分位階層の100g当たりの消費単価を4つの食品群に分けてそれぞれ計算した。なお、2008年5月時点での食費の物価上昇率は、2005年に比べ2.6%増となっていることを考慮し、食費合計額に物価上昇分を加えている。
 次に、女子栄養大学出版部『2008年版五訂増補食品成分表資料編』に基づき、世帯モデル毎に、1日当たりの必要なカロリーを算出した。
 また、「4つの食品群の年齢別・性別・身体活動レベル別食品構成(1人1日当たりの重量=g)」(香川芳子:女子栄養大学教授案)に基づいて必要な栄養を満たすように、食費を試算した。香川教授の試案に基づきエネルギー必要量の1割は嗜好品でまかなうようにした。なお、食べ残しなどの廃棄率を5%とした。
 朝食については、生活実態調査の結果、若年単身の男性の場合、最も多いのが「家でしっかり食べている」の28.2%、次いで「家で牛乳やコーヒーですます」の20.5%、「通勤途上や職場でパンやそばなど」の17.9%、「朝食はとらない」の17.9%、「通勤途上や職場で牛乳やコーヒー」の12.8%と続いていた。かなりばらつきがあるが、家で食べるが約5割であることを考慮して、朝食は家でパンと牛乳あるいはコーヒーですますものとした。
 また、昼食については、最も多いのが「弁当やパンなどを買う」の35.9%、次いで「職場の食堂」の20.5%、「食堂や喫茶店や出前を利用」の20.5%、「職場の給食」の10.3%と続いていた。この結果をふまえ、食堂などを利用するものと想定した。また、その費用については、調査の結果、500円台が26.5%と最も多く、次いで600円台の14.7%、700円台の14.7%、800円台の14.7%、1000円以上11.8%と続いていた。これもばらつきが大きいが、最低費用として1食500円とした。
 夕食については、調査の結果、「家で食べる」が61.5%と最も多く、次いで「食堂などを利用」の33.3%であった。この結果をふまえ、夕食は家で食べるものとした。
 また、仕事の帰りや休日にお酒や会食にいきますかという問に対し、最も多いのが「月の数回程度」の53.8%、「ほとんでない」の25.6%、「週に2〜3回」の20.5%と続いていた。この結果から、友人などとの会食を月3回とした。その費用については、5000円台が最も多く31.0%、次いで3000円台の27.6%、4000円台の20.7%、2000円台の10.3%と続いていた。3000円台から5000円台に集中しているのが分かるが、その中での最低費用である1回3,000円とした。

③ 住居費については、公営住宅は少なく、現実に入ることが困難なため、民間借家を想定した。居住面積については、国土交通省「住生活基本計画」(平成18年度から平成27年度)による「最低居住面積水準」に基づき、単身世帯25m2、2人世帯30m2、3人世帯40m2、4人世帯50m2とした。
 生活実態調査では、家賃で最も多かったのが7万円台で25.7%、次いで6万円台の22.9%、5万円台の17.1%、8万円台の11.4%などと続いていた。ほぼ5万円台から8万円台に集中しているのが分かる。これを参考にしながら、さいたま市内及びその周辺での民間賃貸アパートについて住宅情報誌を用いて調査を行った。調査の結果では、単身用住宅として、25m2前後の民間賃貸アパート・マンションで、京浜東北線および埼京線沿線では家賃が5万円台から7万円台に多くみられ、平均6.1万円であった。これらの事実から、家賃は調査した中で最低価格であった5.2万円とした。
 また、更新期間については、生活実態調査によると、「ない」と答えた人は8.6%過ぎず、2年ごとの更新は62.9%に上った。ほとんどが2年ごとの更新があるものとした。その額は、ばらつきがあるが、最も多いのが6万円台で22.3%、次いで9万円以上の22.1%、7万円台が15.4%と続いていた。このことから、最低1ヶ月分の家賃に相当する更新料があるとした。

④ 教育費については、文科省平成18年度「子どもの学習費調査」に基づいて算定した。学校給食費は、食費の中に入れるために除外した。この調査の結果に基づき、支出率7割以上の費目について、その支出平均額を計上した。ただし、若年単身の場合には、教育費は該当しない。

⑤ 教養娯楽サービスについては、「生活実態調査」では、日帰り旅行については、「なし」が66.7%に上り、月1回の30.8%、2回の2.6%という結果から、日帰り旅行はないものとした。一泊以上の旅行については、「なし」が38.5%と最も多いのであるが、年1回〜3回が合計43.6%、4回以上の合計が18.0%という結果から、年2回と想定した。また、1回の費用としては、最も多いのが「1万〜2万5千円」の37.5%、次いで「2万5千〜5万円」の29.2%、「5万〜7万5千円」の12.5%と続いている。この結果から、1回3万円を想定した。また、休日や余暇の過ごし方について(複数回答)は、最も多いのが「自宅で休養」の89.7%、次いで「ショッピング」の33.3%、「友人や知人との交際」の33.3%、「映画などの鑑賞」の25.6%、「日帰り旅行」の25.6%、「読書」の23.1%、「スポーツなどの体力づくり」の15.4%、「社会活動」の12.8%と続いている。このことから、休日や余暇として、すでに友人や知人との交際として、会食を月2回としているが、その他にも、ショッピングしながら映画の鑑賞などを月1回するものと想定し、その費用として1回2,000円とした。

⑥ 理美容サービス

 理髪料として、成人男性の場合、1回4,000円、中学男子 1回3,000円、小学女子 1回2,500円、ヘアーカット代 1回3,300円として計算した。2か月に1回利用とした。

⑦ 交通・通信費については、「生活実態調査」では、自動車があるかに対し、「ない」と答えた人の割合が圧倒的に多く69.2%に上っていた。また、その必要性については、「あれば便利」と答えた人が最も多く53.8%、次いで「なくてよい」の20.5%、「なければないでよい」の15.4%であり、「生活必需品」と答えた人は10.3%でしかなかった。首都圏であり、公共交通機関が比較的利用しやすいことを前提に、自動車の所有はないものと想定した。自転車についても、「持ち物財調査」でもその保有は48.6%でしかなく、自転車もまたないものとした。それだけに、通勤ばかりでなく買い物や行楽時は公共交通機関の利用を想定して算定した。
 東京への勤務を想定していることから、通勤はJR埼京線を利用して、武蔵浦和から新宿までの定期券の定期代を想定した。この場合、6ヶ月定期代54,440円の1ヶ月分として9,073円とした。基本的には、この定期を利用して休日の行楽や買物を行うものとした。
通信費については、「平成16年全国消費実態調査」より30歳未満単身世帯男性の年間所得階級250~300万円未満の通信費を用いた。

⑧ 水道・光熱費、医療費については、「平成16年全国消費実態調査」より30歳未満単身世帯男性の年間収入250〜300万円未満の支出額を用いた。

⑨ 交際費・その他については、生活実態調査の結果をみると、第1に、親戚などの結婚式・お葬式などに参加しているかとの問に対し、最も多いのが「ほとんど参加」の64.1%、次いで「最近ほとんどよばれない」の15.4%、「経済的に無理」は7.7%でしかなかった。その回数は、最も多いのが年2回で48.1%、次いで1回の25.9%、3回の14.8%と続いている。この結果から、年2回の結婚式やお葬式・法事などへの参加を想定した。その費用は、1回2万円とした。
 第2に、見舞金やお年玉・その他の贈り物をあげているか、という問に対しては、最も多いのが「機会があるごとにあげている」で56.4%、次いで「最近上げる機会がない」の15.4%、「あげないことにしている」の15.4%と続いている。この結果から、お見舞い金やお年玉などを年4回として1回5,000円と想定した。
 第3に、お中元やお歳暮については、最も多い回答は「贈らないことにしている」の51.3%で、次いで「経済的に無理」の25.6%、「毎年決まって贈っている」の10.3%と続いていた。このことから、若年単身の場合には、お中元やお歳暮を贈る習慣がないものと判断される。調査の結果は、年齢階層によってかなりの差がみられた。
 第4に、自治会費などの負担費として、年間3,600円を想定した。生活実態調査では、近所づきあいがほとんどないことが分かる。ほとんど顔を合わせないかあいさつ程度である。実際には、自治会費も払っていない可能性が高いが、地域のお祭りや運動会などへの参加はないものとしても、自治会費を負担するのは、地域住民の義務であろうと考えた。
 第5に、住宅関係費として、共益費は「生活実態調査」では、男性の中で最も多かったのが3,000円台であった。また、さいたま市周辺の賃貸住宅情報誌による調査では、共益費の平均が3,000円強であった。これらの事実から、共益費を月3,000円とした。
 第6に、学生時代の同窓会を年1回、8,000円の参加費として算定した。
 第7に、労働組合費として月3,000円を想定した。
 第8に、その他会費として、年間3,000円を想定している。

⑩ こづかいについては、これまでの算定では計上しなかった教養娯楽費としての切り花代、鉢植え代などや旅行時の使い捨てカメラやその現像代など、また、飲食費としての喫茶店でのコーヒー代などを、こづかいとして一括してここに計上した。これは、「持ち物財調査」では保有率が分散していて7割には満たないが、個々人の趣味などの生活の多様性を考慮したものである。その額は、1日200円として月6,000円とした。

⑪ その他、予備費として、消費支出の1割を計上している。これは、これまで計上してきた最低生計費は、いわば平均的な人間を想定したものである。しかし、実際には、個々人の多様性が存在し、例えば、身長や体重の違いにより熱エネルギー量は異なる。また、めがねを必要としたり補聴器を必要としたり、その人の健康状態によっても異なる。医療費や交通通信費、冠婚葬祭費などもその時々によって異なる可能性がある。そういった点を考慮して予備費を設けたのである。

II 若年単身労働者世帯の費目毎の最低生計費試算

 上記の算定方法に基づいて、以下では費目毎に算定した。なお、算定に当たっては、小数点以下は四捨五入している。

1.食費の算定

表1−1.4つの食品群別にみた、100g当たりの消費単価

第1群 第2群
乳・乳製品 魚介・肉 豆・豆製品
26.60円 22.11円 129.41円 54.08円
第3群 第4群
野菜・海草 いも類 果物 穀類 砂糖 油脂
42.57円 24.33円 37.13円 45.48円 17.45円 34.28円
嗜好品(菓子、飲料、酒類)
57.13円(100カロリー当り68.23円)

「若年単身世帯モデル」

 25歳男性 1日当たり2,650kカロリー

表1.25歳、男性、身体活動レベルII、4つの栄養群別、必要な食品構成と金額

第1群  第2群
乳・乳製品 魚介・肉 豆・豆製品
必要量 金額 必要量 金額 必要量 金額 必要量 金額
300g 79.8円 50g 11.1円 140g 181.2 80g 43.3円
第3群
野菜・海草 いも類 果物
必要量 金額 必要量 金額 必要量 金額
350g 149円 100g 24.3円 200g 74.3円
第4群
穀類 砂糖 油脂
必要量 金額 必要量 金額 必要量 金額
400g 181.9円 10g 1.7円 30g 10.3円

1日エネルギー必要量の90%とその他の栄養必要量を満たし、それに嗜好品を加えた金額は、

2,385kカロリー 756.9円
嗜好品・265kカロリー 180.8円
合計 937.7円

 従って、1ヶ月、すべて家で食事をする場合には、937.7円×30日=28,131円となる。
 昼食の弁当と友人などとの会食は、次の通り算定した。

 弁当   1食   730kカロリー、 500円
 1ヶ月 20食 14,600kカロリー 10,000円
 会食 1回 定食(刺身天ぷら膳)とビール中びん2本
 986kカロリー+390kカロリー=1,376kカロリー
 月3回 4,128kカロリー 9,000円

 従って、家での食事、昼食・外食、会食の内訳は次のようになる。 

家での食事 56,797kカロリー 20,098円 ×1.026=20,621円
昼食 14,600kカロリー 10,000円
会食 4,128kカロリー 9,000円
廃棄率(5%) 3,975kカロリー 1,443円
合計 79,500kカロリー 41,064円

2.住居費の算定
「若年単身世帯モデル」

合計 54,167円
家賃 52,000円
更新料 月当たり 2,167円

3.水道・光熱費の算定
「若年単身世帯モデル」

合計 8,768円
電気代 4,007円
ガス代 2,566円
他の光熱 396円
上下水道代 1,799円

4.家具・家事用品の算定
「若年単身世帯モデル」

合計 4,001円

a.家庭用耐久消費財 月額 1,941円

家事用耐久財

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
自動炊飯器
電気冷蔵庫
電気掃除機
電気洗濯機
電子レンジ
ガステーブル
3,500
17,000
10,000
25,000
8,000
20,000
6年
6年
6年
6年
6年
6年





49
236
139
347
111
278
3.5合炊
100〜250リットル
小計 1,160

冷暖房用機器

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
ルームエアコン
電気こたつ
46,000
8,000
6年
6年

639
111
6〜9畳用
小計 750

一般家具

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
スチール棚
食卓用テーブル
3,000
2,500
15年
15年

17
14
小計 31

b.室内装備品 月額 177円

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
目覚まし時計
照明器具
カーテン
こたつ布団・カバー
810
2,780
3,400
4,980
8年
8年
5年
5年



8
29
57
83


1.8m×1.8m
小計 177

c.寝具類 月額 593円

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
敷きふとん
掛けふとん
タオルケット
毛布
まくら
シーツ
ふとんカバー
まくらカバー
4,900
3,000
1,900
3,000
1,500
1,000
1,900
500
5年
5年
3年
3年
3年
2年
2年
2年







82
50
53
83
42
83
158
42
小計 593

d.家事雑貨  月額 619円

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
飯茶碗
湯飲み茶碗
コーヒー・紅茶茶碗
どんぶり
吸い物茶碗
盛り皿・盛り鉢
小皿
コップ
スプーン
フォーク
中鍋
フライパン
やかん
包丁
まな板
たわし・スポンジ
はし
しゃもじ
ふきん
干し物さお
タオル
バスタオル
電球
蛍光灯
ドライバー
390
390
390
590
390
790
380
300
240
240
1,380
980
1,780
1,000
480
100
190
290
120
780
90
580
80
480
148
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
2年
5年
5年
5年
5年
5年
5年
5年
1年
5年
5年
1年
5年
1年
1年
1年
2年
15年
























33
33
33
49
33
66
32
25
8
8
23
16
30
17
8
8
6
5
10
13
38
97
7
20
1
60W
30型

小計 619

e.家庭用消耗品  月額 671円

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
ポリ袋
ティッシュペーパー
トイレットペーパー
台所用洗剤
トイレ用洗剤
洗濯用洗剤
298
298
278
145
198
198
1年
1年
1年
1年
1年
1年
48
12
24
12
12
12
24
60
46
145
198
198
50枚
5個
12ロール
400CC

粉末 1.1K
小計 671

6.被服および履物の算定
「若年単身世帯モデル」

被服 5,759円
履物 671円
洗濯代 467円
合計 6,897円

洋服

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
礼服
背広
替ズボン
ジャンパー
29,000
29,000
2,950
10,000
10年
4年
4年
4年




242
2,417
246
417
小計 3,322

シャツ・セーター類

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
ワイシャツ
長袖シャツ
半袖シャツ
ポロシャツ
3,200
1,000
1,000
1,000
2年
2年
2年
2年



667
208
208
83
小計 1,166

下着

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
シャツ(合・冬)
Tシャツ
ジャージ
トレーナー
パンツ・ブリーフ
400
500
1,500
1,000
500
2年
2年
2年
2年
1年

10


83
208
63
83
208
小計 645

他の被服

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
靴下
ネクタイ
ベルト・バンド
250
3,000
1,900
1年
4年
5年
12

250
313
63
小計 626

履物

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考

運動靴・スニーカー
サンダル
4,900
2,900
500
2年
2年
2年


408
242
21
小計 671

洗濯代
 スーツ3着分を想定した。
 1着1,400円×4/12=月額 467円

7.保健医療費の算定
「若年単身世帯モデル」

合計 4,328円
医薬品 1,013円
健康保持用摂取品 506円
保健医療用品・器具 584円
保健医療サービス 2,225円

8.交通・通信費の算定
「若年単身世帯モデル」

合計 16,211円
交通 9,073円
通信 7,138円

9.教養娯楽費の算定
「若年単身世帯モデル」

合計 15,862円

a.娯楽用耐久財

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
カラーテレビ
パソコン
90,000
80,000
5年
4年

1,500
1,667
26インチ
小計 3,167

b.書籍・他の印刷物

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
日刊新聞
単行本
3,850
1,000
月1紙
年6冊
3,850
500
小計 4,350

c.教養娯楽サービス

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
帰省・旅行
レジャー・スポーツ
NHK受信料
30,000
2,000
1,345
年2回
月1回
5,000
2,000
1,345
小計 8,345

10.理美容費の算定
「若年単身世帯モデル」

合計 2,530円

a.理美容用品 530円

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
ヘアードライヤー
歯ブラシ
かみそり
化粧石鹸
シャンプー
ボディシャンプー
歯磨き
980
98
50
66
95
39
141
6年
1年
1年
1年
1年
1年
1年


36
12
12
12
12
14
25
150
66
95
39
141
1個
100cc
100cc
100g
小計 530

b.理美容サービス 月 2,000円

12.身の回り用品の算定
「若年単身世帯モデル」

身の回り用品 合計 484円

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考

ショルダーバック
リュックサック
財布
腕時計
ハンカチ
1,000
5,000
3,000
2,500
4,000
315
2年
5年
5年
2年
10年
1年





83
83
50
104
33
131
小計 484

13.交際費・その他の算定
「若年単身世帯モデル」

 交際費・その他 月額 12,217円

品目 価格 耐用年数 消費量 月価格 備考
贈与金
住宅関係負担費
自治会費等負担費
同窓会参加費
労働組合費
その他会費
60,000
3,000
3,600
8,000
3,000
3,000





5,000
3,000
300
667
3,000
250
小計 12,217

14.こづかいの算定
「若年単身世帯モデル」

月 6,000円

III 最低生計費 総括表

   若年単身世帯
25歳男性
賃貸アパート 1K25m2
消費支出 172,529
食費 41,064
 家での食費
 外食・昼食
 外食・会食
 廃棄率5%を加算
20,621
10,000
9,000
1,443
住居費 54,167
 家賃
 更新料月当たり
52,000
2,167
光熱・水道 8,768
 電気代
 ガス代
 他の光熱
 上下水道
4,007
2,566
396
1,799
家具・家事用品 4,001
家庭用耐久財
 室内装備・装飾品
 寝具類
 家事雑貨
 家事消耗品
1,941
177
593
619
671
被服及び履き物 6,897
 被服費
 履物
 洗濯代
5,759
671
467
保健医療 4,328
 医薬品
 健康保持用摂取品
 保健医療用品・器具
 保健医療サービス
1,013
506
584
2,225
交通・通信 16,211
 交通費
 通信費
9,073
7,138
教育
 学校教育費
 学校外教育費
教養娯楽 15,862
 教養娯楽用耐久財
 書籍・他の印刷物
 教養娯楽サービス
 旅行・帰省
 レジャー・スポーツ
 NHK受信料
3,167
4,350
8,345
5,000
1,000
1,345
その他 21,231
 理美容用品
 理美容サービス
 身の回り用品
 こづかい
 交際費・その他
530
2,000
484
6,000
12,217
非消費支出 43,129
 所得税
 住民税
 社会保険料
4,094
12,188
26,847
予備費 17,000
 最低生計費(税抜き)
 (税込み)月額
 (税込み)年額
189,529
232,658
2,791,896

IV 算定された最低生計費の位置

1. 生活保護基準との比較

(1)若年単身世帯の生活保護基準

 さいたま市のような大都会は、「1級地−1」とランクされ、基準額は最も高くなる。まず、日常生活費として算定される個人単位の「生活扶助費」として、「第1類」がある。その額は、年齢階層別に定められ、20歳〜40歳は月額40,270円である。日常生活費の中の世帯単位消費される部分は「第2類」とされ、その額は世帯人員毎に定められ、単身者の場合には月額43,430円である。従って、生活扶助額の合計は、第1類と第2類を合わせた額となり、83,700円である。
 その他、当該モデルのように賃貸アパートに住んでいる場合には、「住宅扶助」が支給される。その「一般基準」は月額13,000円としているが、大都会のようにこのような低額のアパートは存在しないため、「特別基準」が定められている。埼玉県の場合、特別基準は単身世帯で47,700円以内となっている。当該モデルのほぼ家賃に近似している。また、暖房費として冬季加算(11月から3月まで)が埼玉県の場合には月3,090円が支給される。その他、期末一時扶助費(12月)として14,180円の支給がある。冬季加算と期末一時扶助費を月に直すと、2,469円となる。
 従って、生活扶助額と住宅扶助額、冬季加算、期末一時扶助費を合計すると、月133,869円ということになる。
 ただし、勤労している場合には、勤労に伴う必要経費として「基礎控除」が認められる。また、年間収入に対する勤労に伴う必要経費として「特別控除」が認められる。それは、収入額に応じて決められるが、例えば、月の収入が13.3万円とすると、基礎控除は25,520円となる。また、特別控除は年間収入に対して1割と定めているので、その額は160,643円である。これを12ヶ月で割ると13,387円となる。従って、基礎控除額と特別控除額を加えると月38,907円の勤労にともなう必要経費(勤労控除)が認められる。
 以上のことから、若年単身世帯モデルの生活保護制度による保護基準は、勤労控除を加えると172,776円ということになる。言うまでもなく、この額には税金や保険料が含まれていない。生活保護受給者はそれらが免除されている。また、病気などで医療費がかかる場合には、別途医療扶助が現物で支給される。

(2)生活保護基準と算定された「最低生計費」との比較

 上記の若年単身世帯モデルの生活保護制度による保護基準とここで算定された「最低生計費」とを比較することにするが、その場合、生活保護受給世帯の場合には免除されている税金や保険料、NHK受信料や医療扶助相当額、実費控除として通勤費や労働組合費を「最低生計費」から差し引いた額で比較するのが妥当であろう。
 当該モデルの生活保護制度による保護基準172,776円を100として、算定された「最低生計費」の保護基準相当額172,873円は、100.1倍とほとんど同額である。
 ここで算定された「最低生計費」の額は、きわめて現実的で切実な労働者の要求額を反映したものであることがわかる。結果的に、現在の保護基準の額が最低限必要な額と近似していることを証明する形になっている。
 改定された最低賃金法によれば、生活保護制度と最低賃金制との整合性への配慮が唱われている。ここで算定された「最低生計費」は、まさに最低限必要な財やサービスを積み上げて算定された最低生計費である。「最低生計費」(税込み)月232,658円は、時給(月173.8時間)に直せば1,339円ということになる。

2.「最低生計費」未満の人々の割合

 では、算定された「最低生計費」に満たない人々の割合はどれくらい存在するのであろうか。
 次の図は、厚生労働省「平成17年国民生活基礎調査」と総務省「平成16年全国消費実態調査」に基づいて、29歳以下単身世帯の年間収入階級別分布をみたものである。いずれも最頻度値は収入の低い階級に偏っている。「国民生活基礎調査」では、最頻度値は100〜150万円であり、「全国消費実態調査」では150~200万円である。この収入階級をピークに正規分布を描いている。しかし、全体としてみると、国民生活基礎調査の方が、低い収入階層に多く分布しているのが分かる。これは、集計数の違いによる誤差によるであろう。「国民生活基礎調査」では集計した29歳以下単身世帯の数は179に対し、「全国消費実態調査」では集計した同世帯の数は4,936に上っている。従って、誤差から言えば、「全国消費実態調査」の方が誤差は小さいといえるだろう。

 では、算定した「最低生計費」年間278万円未満の割合は、どれくらいになるのであろうか。「国民生活基礎調査」では、250万円未満が累積すると70.4%存在する。279万円は、250〜300万円未満の50分の29として計算すると、279万円未満は73.7%にも上ることになる。
 他方、「全国消費実態調査」によって計算するとどうなるであろうか。250万円未満は47.6%となり、279万円は、250〜300万円未満の50分の29として計算すると、279万円未満は54.0%にも上ることになる。
 統計によって著しく異なるが、集計数の多い「全国消費実態調査」の方が誤差は小さいと仮定してみても、算定した「最低生計費」未満の人々の数は、5割を超えているのである。「最低生計費」と保護基準が近似していた結果からみると、この5割という数字は、また実質的に生活保護基準に満たない人々の割合にほぼ相当するのである。いかに多くの若年労働者が低賃金にあえいでいるかが、これで証明されたのである。

V 対象となった若年単身労働者世帯の特徴

 2008年4月から6月にかけて実施された「持ち物財調査」「生活実態調査」(同一調査用紙)の内、「生活実態調査」に基づき、ここで対象となった若年単身世帯の特徴を分析する。この中間報告では、第1次集約として回収された747ケースについての集計結果である。その内、20歳代と30歳代の若年単身世帯は、76ケースあった。男女別内訳は、男性39ケース、女性37ケースとほぼ同数であった。以下、単身世帯平均でみているが、必要に応じて男女別にみることにする。

1.年齢構成

 20歳代が42.1%、30歳代が57.9%と、やや30歳代が多い。

2.住宅の所有形態

 最も多いのが「マンション・アパートの借家」で75.0%、次いで「社宅・官舎」の9.2%、持ち家も9.2%となっていた。男女間での違いはほとんどなかった。

3.家賃

 最も多いのが6万円台の27.3%、次いで7万円台の18.2%、5万円台の16.7%、8万円台の9.1%と続いていた。5万円台から7万円台に6割以上が集中している。男性の方が、一ランク高い結果となっていた。

4.共益費

 「なし」が19.7%にすぎなく、最も多いのが2千円台で19.7%、次いで3千円台の13.6%、1千円台の7.6%、4千円台と5千円台が4.5%となっている。男性では、最も多いのが3千円台で一ランク高い傾向にある。

5.更新期間

 最も多いのが2年ごとで72.7%を占め、1年ごとの4.5%を大きく引き離している。「なし」は7.6%にすぎなかった。男女共に同じ傾向にある。

6.更新料

 最も多いのが6万円台で22.3%、次いで9万円以上の22.1%、7万円台が15.4%と続いていた。女性の方が高いランクに分布する傾向にあった。

7.雇用形態

 最も多いのが「正規」で84.2%、臨時。非常勤、派遣、常勤パート、短時間パート、嘱託は、それぞれ数%分布しているが、それらを合計した非正規とすると14.3%となる。その他に、失業中が1.3%存在した。男女共に同じ傾向を示していた。

8.勤続年数

 最も多いのが「2〜5年未満」と「5〜10年未満」のそれぞれ27.6%、次いで「2年未満」の25.0%、「10〜15年未満」の10.5%と続いている。「2年未満」から「10〜15年未満」に集中しているのが分かる。

9.離職経験

 最も多いのが「なし」で61.8%、次いで1回の14.5%、2回の9.2%、4回の7.9%、3回の3.9%と続いている。男女別にみると、女性の方がやや離職経験が多い傾向にあった。

10.事業所規模

 最も多いのが「30〜100人未満」の34.2%、次いで「30人未満」の21.1%、「公務」の19.7%、「100〜300人未満」の11.8%と続いている。公務以外は、比較的規模の小さい事業所であることが分かる。男女別にみると、男性は公務が最も多く、女性は「30〜100人未満」が最も多かった。

11.企業規模

 最も多いのが「公務」の19.7%、次いで「30〜100人未満」と「1000人以上」の18.4%、「30人未満」の17.1%、「100〜300人未満」の10.5%と続いている。小規模企業と公務や大規模企業との両極に分布している。中規模が少ないのが特徴である。男女別にみると、男性は大企業と公務が最も多く、女性は小規模企業に集中している。

12.業種

 最も多いのが国家・地方「公務員」の合計23.8%、次いで「福祉」の21.1%、「医療」の10.5%、「消費関連製造」の9.2%、「卸・小売・飲食業」の7.9%、「運輸」の3.9%などと続いている。公務員と福祉・医療が多いのが特徴である。

13.仕事の内容

 最も多いのが「専門・技術職(2)(薬剤師、看護師、栄養士、保育士などの資格職)」の34.2%と「専門・技術職(1)」1.3%を合計して35.5%、次いで「事務職」の32.9%、「営業・販売・サービス」の13.2%、「現業・技術職」の6.6%、「運輸職」の5.3%と続いている。資格・専門職と事務職で7割近くを占めているのが特徴である。

14.1ヶ月の賃金(残業、税、保険料込みの額面)

 最も多いのが「15〜20万円未満」と「20〜25万円未満」のそれぞれ27.6%、次いで「30〜35万円未満」の14.5%、「25~30万円未満」の11.8%、「10~15万円未満」の7.9%と続いている。「15〜20万円未満」と「20〜25万円未満」の2つの賃金階級に55%占めているのが特徴である。
 男女別にみると、男性の場合、「20~25万円未満」が最も多く、この層を中心とした正規分布を示しているのに対し、女性の場合には、一ランク低い「15~20万円未満」がきわめて高く、この層を中心とした正規分布を示している。
 したがって、男性の場合には20万円未満が25.6%であるのに対し、女性の場合にはそれが51.3%と過半数に達するのである。

15.仕事に対する悩みや不満(複数回答)

 最も多いのが「賃金が安い」の47.4%、次いで「人手が足りない」の30.3%、「思うように仕事ができない」と「将来に展望がもてない」のそれぞれ22.4%、「忙しすぎる」の21.1%、「休みが取れない」の19.7%、「身体がもたない」の14.5%、「職場の人間関係」の11.8%、「残業が多い」と「仕事の進め方」のそれぞれ10.5%などと続いている。
 男女別にみた違いは、男性の場合第1位が「人手が足りない」で第2位が「賃金が安い」となっているのに対し、女性の場合にはそれが逆になっていることである。
 いずれにおいても、賃金が安いことに加え、人手が足りなく、忙しすぎて、残業が多く、身体が持たなく、しかも休みが取れないとなれば、将来に展望がもてないということになる。.

16.生活での困りごと(複数回答)

 最も多いのが「生活費が足りない」で48.7%、次いで「自分の健康・病気」の40.8%、「老後の生活設計」の32.9%、「自分の時間がとれない」の28.9%、「結婚問題」の23.7%などと続いている。
 男女間で第3位までを比較すると、男性の場合には、第1位が「自分の時間がとれない」、第2位が「生活費が足りない」、第3位が「自分の健康・病気」であるのに対し、女性の場合には、第1位が「生活費が足りない」、第2位が「自分の健康・病気」、第3位が「老後の生活設計」となっている。
 「生活費が足りない」と「自分の健康・病気」は共通している。先に見た仕事に対する悩みや不満と対比してみると、そのつながりが分かる。仕事上の悩みが賃金が安いこと忙しすぎることにあったが、それは生活上の悩みに直結し、生活費が足りなく、自分の健康・病気が心配ということになる。若者が自分の生活費や健康・病気に心配することは異常ともいえる。それはまた、仕事上においても生活上においても、将来の展望がもてないことにつながり、結婚問題や若くして老後の問題に展望をもてないことになる。一方では生活の多様性や価値観の多様性が唱われているが、はたして、そういった自由が存在するのであろうか。自分の価値や目的そして人生設計に向かって活動することは自由であり、そしてまたそれがその人の人格でもあるといわれるが、この調査の結果からは、そういった自由が存在するようには思えないのである。そしてまた、人格の形成がゆがめられているようにも思えるのである。人格を取り巻く社会的あるいは経済的環境が、自由を許していないように見えるのである。人格あるいは自由と環境との関係を今一度考えなければならない時期であろう。

17.主な相談相手(複数回答)

 第1位が「親」の55.3%、第2位が「職場の同僚」の47.4%、第3位が「学生時代の友人」の44.7%、第4位が「労働組合の役員」の18.4%、第5位が「職場の上司」の14.5%と続いている。
 男性の場合には、ほぼ総数の結果と同様の順位であるが、女性の場合には、「兄弟」が4位に入り、「職場の上司」が5位以内から消える。

18.負担に思っている家計支出は(複数回答)

 第1位が「家賃・地代」で60.5%、第2位が「税金」の30.3%、第3位が「食費」の28.9%、第4位と第5位が「水道・ガス・電気料金」と「車の維持費」であった。
 男女間でかなり異なっている。男性の場合には、第1位「家賃・地代」、第2位「食費」、第3位「交際費」、第4位「電話代」、第5位「ローン・借金返済」となっているのに対し、女性の場合には、第1位「家賃・地代」、第2位「税金」、第3位が同率で「水道・ガス・電気料金」、「車の維持費」、「保険・医療」となっている。第1位は同じであるが、第2位以降が全く異なっている。いずれにしても、若年単身では、家賃負担がかなり重いことが分かる。家賃の負担が重いことが、その他の負担感を増すのであろう。だからまた、家賃を払えるかどうかが、自立できる条件にもなる。家賃を払ったら、その他の負担が重く感じられることにもなる。

19.消費生活で今後充実したいもの(複数回答)

 20%以上の人が選択した費目を上げると、第1位が「貯金」の47.4%、第2位が「被服・履物」の42.1%、第3位が「旅行」の40.8%、第4位が「親戚・友人などとの交際」の39.5%、第5位が「食費」の36.8%、第6位が「読書・映画・観劇などの趣味」の28.9%、第7位が「もう少し広い家」の26.3%、第8位が「スポーツなどの趣味」の25.0%と続いていた。
 男性の場合には、第1位が「食費」、第2位が「親戚・友人との交際」と「貯金」、第4位が「被服・履物」、第5位が「スポーツなどの趣味」と「読書・映画・観劇などの趣味」、「旅行」、第8位が「もう少し広い家」と「こづかい」、「パソコンなどのIT機器」と続いている。
 女性の場合には、第1位が「貯金」、第2位が「旅行」、第3位が「被服・履物」、第4位が「親戚・友人などとの交際」、第5位が「読書・映画・観劇などの趣味」、第6位が「食費」と「もう少し広い家」、第8位が「スポーツなどの趣味」と続いている。
 男女共に、読書・映画・観劇、スポーツ、旅行などの趣味、あるいは被服・履物といって趣味に近い物を充実したいというのが目立つ。また、貯金がきわめて高い順位となっている。食費も高い割合である。
 先に見たように、第1に、賃金が安く、生活費が足りないこと、第2に、忙しすぎて、自分の時間がとれないことが分かったが、そのことはまた、第1に、食費といった基本的ニーズが満たされていない可能性が高いこと、第2に、さまざまな趣味や友人などとの交際が満たされていないことを表している。また、貯金の割合の高さは、貯金に回すだけの余裕がないことの現れであることは言うまでもないが、将来に対する準備金としての意味の強いことを考えれば、将来に対する不安の現れであり、不安そのものを表しているとも言える。「人間らしい生活」をするということは、ただ単に、健康や生命の維持といった労働力の生理的再生産ばかりではなく、自分の趣味や人との交流・交際など余暇の時間とそのための費用が必要であることを意味しているのであろう。

20.現在の暮らしは

 現在の暮らしは、最も多いのが「やや苦しい」の43.4%、次いで「普通」の37.2%、「苦しい」の19.7%と続いている。「ややゆとりがある」や「ゆとりがある」は、それぞれ3.9%、0.0%にすぎないのである。男女別にみると、女性の方が「やや苦しい」と「苦しい」が多く、それぞれ48.6%、27.0%に上っている。それに対し、男性の場合には、「普通」が最も多く43.6%、次いで「やや苦しい」の38.5%となっている。これは、」先に見た、賃金水準の違いに照応している。男性の場合には賃金階級が20〜25万円未満が最も多いのに対し、女性の場合には一ランク低い15〜20万円未満が最も多かったのである。

21.近所づきあい

 最も多いのが「あいさつ程度」で56.6%、次いで「ほとんど顔を合わせない」の38.2%とこの2つの項目に集中している。「立ち話をする」はわずかに2.6%にすぎない。男女間での大きな傾向に違いはないが、男性の方が「ほとんど顔を合わせない」の割合が高い。これは、他の結婚している世帯との大きな違いである。

22.地域で参加している社会活動(複数回答)

 最も多いのが「特にない」の72.4%、次いで「平和運動などの社会活動」の11.8%、「教養娯楽サークル」の7.9%、「スポーツ団体・クラブ」の3.9%と続いている。ほとんどの人が、何も参加していない状況である。それは、男女共に同じ傾向にあるが、女性の参加率の方が高い。これもまた、他の世帯との大きな違いである。既婚世帯の場合には、参加率がきわめて高くなる。