米倉斎加年さんといっしょに札幌と小樽へ多喜二の講演にいってきました。一昨年、所沢でやった「小林多喜二ー早春の賦」を今年七月北海道でやるので、そのプレ企画として、米倉さんは函館、旭川、釧路まで精力的に回っていました。プレ企画というのは、ようするに前宣伝なのですから「どうか皆さん、たくさん見に来てください」というのが普通ですが、米倉さんは「演劇というものはたくさんの人に見せるためにやっているのではない。誰もいないところでもやるものだ」というのです。たぶん、主催者はハラハラしていたのではないでしょうか。「一人でも二人でも来てくれる人があれば、その人に多喜二の言葉を伝えたい。これは芝居ではなく多喜二記念集会にしたい」というのが米倉さんの呼びかけでした。

 憲法九条にふれて、これを「おしつけだ」などと馬鹿なことをいうやつがいるが、多喜二をはじめ、何百万、何千万という人の屍のつみかさねの上に九条があると、米倉さんは強調していました。米倉さんの話では、戦地の兵士の間で『蟹工船』がひそかに回し読みされていたそうです。それを読んで、軍国主義教育で育てられた兵士のなかでも「この戦争はおかしい」という疑問がわいたといいます。いま「未来志向」といって過去を忘れさせようという政治家がいますが、未来は過去をひきずっているものです。過去を持たない未来は空想に過ぎません。


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