労働総研ニュース No.365・366 2020年8・9月



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目   次

2020〜21年度定例総会方針(案)
[T]2018-19年度における活動報告
[U]研究所をめぐる情勢の特徴
[V]2020-21年度の研究課題と事業計画
[W]2020-21年度研究所活動の充実と改善
研究部会報告ほか




労働運動総合研究所2020〜21年度定例総会方針(案)

2020年8月1日(土) 13時30分〜16時・全労連会館

T.2018〜19年度における活動報告

1.研究所プロジェクト ――「働く貧困と若者」

 前回定例総会の決定を受け、2018年11月に「若者の仕事と暮らしに関するアンケート調査」の調査項目を決定し、同年11月から19年1月にかけて全労連加盟および国民春闘共闘委員会参加の労働組合、その他の団体に調査への協力を依頼した。アンケート調査への回答期間を19年1〜4月(7〜8月に8県労連に追加調査を要請)とし、1,528人から回答を得た。7月の全国研究交流会にアンケート調査に関する中間報告を行い、11月には集計状況を基に国公労連役員と意見交換を行った。
 研究所プロジェクトの中心となる若者調査推進のために会員に呼びかけた募金には、36人から合わせて34万5,000円が寄せられた。

2.研究所の政策発表

 各年の春闘を前に、「2019年春闘提言・賃上げ、労働条件の改善こそ経済回復の道」(2019年1月16日)、「2020年春闘提言・働くルールの確立、最賃引き上げなどで国民生活改善を」(2020年1月20日)を発表した。

3.研究部会

 前回定例総会では、今後は研究所プロジェクト中心の研究所体制を確立することとし、研究部会の統合、再編を行い、効率的な研究体制を整備することが確認された。
 これに伴い、労働者状態統計分析研究部会は国民春闘白書編集委員会・執筆者担当者会議に振り替えることとした。また、国際労働研究部会は運営委員の減少により、随時開催の研究会とした。
 各研究部会の活動については、「労働総研アニュアル・リポート2017年度」(「労働総研ニュース」No.342・343、2018年9・10月号掲載)、「労働総研アニュアル・リポート2018年度」(「労働総研ニュース」No.353・354、2019年8・9月号掲載)で報告した。
 各研究部会の開催状況および研究結果の発表は以下のとおりである。
(1)賃金・最低賃金問題研究部会(17回開催、うち1回は公開研究会として開催。研究成果として、『労働総研クォータリー』112・2019年冬季号「特集・最低賃金制の現状分析とその在り方について――労働組合運動への提言」を発表。
(2)女性労働研究部会(15回)
(3)中小企業問題研究部会(9回、毎回公開研究会として開催)
(4)労働時間・健康問題研究部会(11回)
(5)労働組合研究部会(17回)。研究成果として、『労働総研クォータリー』115・2019年秋季号・2020年冬季号合併号「特集・労働戦線再編30年と戦後労働運動を考える」を発表。
(6)労働運動史研究部会(6回)
(7)社会保障研究部会(8回)
(8)関西圏産業労働研究部会(5回)

4.公開研究会

 今期は労働総研主催による公開研究会の開催はできなかったが、研究部会主催による公開研究会は上記のとおり。

5.研究交流会

 定例総会未開催年に開いている全国研究交流会を19年7月27日に開催した。交流会では、報告Tとして「若者の仕事と暮らしに関するアンケート調査」中間報告(村上英吾常任理事)、報告Uとして、(1)「問題提起としてのベーシックインカム」(赤堀正成常任理事)、(2)「ベルリンにおけるベーシックインカムの実験」(松丸和夫代表理事)が行われ、意見交換をした。また、研究部会代表者会議を19年1月26日、20年1月25日に開催した。

6.研究会

 今期は、以下の5つの研究会が開かれた。
(1)内部留保活用についての研究会。研究成果として、『労働総研クォータリー』111・2018年秋季号「特集・内部留保の社会的活用と日本経済」を発表。
(2)大企業問題研究会(2回)。研究成果として、『労働総研クォータリー』110・2018年夏季号「特集・大企業の社会的責任と労働運動の課題」を発表。
(3)国際労働研究会(5回=国際労働研究部会としての開催を含む)
(4)雇用問題研究会(6回、うち1回はオンラインによる開催)。19年3月に発足
(5)労働者の連帯の再構築についての研究会(2回)。19年9月に発足

7.出版・広報

 全労連・労働総研編『2019年国民春闘白書』(2018年11月)、『2020年国民春闘白書』(2019年11月)を作成・発行した。また、『労働総研クォータリー』、「労働総研ニュース」の定期発行、ホームページの更新を行った。

8.産別会議記念労働図書資料室

 堀江文庫をはじめ労働図書など、資料の収集、整理、公開を行っている。整理された図書の分類項目の一覧を図書資料室ホームページに掲載している。

9.その他

 労働法制中央連絡会、(公財)全労連会館理事会などに参加した。

U.研究所をめぐる情勢の特徴

1.消費税増税と新型コロナウイルス問題で経済危機の深刻化

 (1)労働者の生活困難の増大と中小企業・業者の倒産・廃業の危機

 (1)消費増税で需要減退の上に、新型コロナウイルスで3〜4月は経済活動・事業活動の停止状態
 2月からの新型コロナの感染拡大は、政府の対応の失敗と影響を受ける労働者や中小企業への対応の遅さもあり、日本の経済状況は、戦後最大の危機に直面している。
 新型コロナの感染拡大で、多くの業種で3月上旬からわずかな補償だけで全面的な休業要請や短縮営業を強いられ、また外出自粛や消費減退により経済活動や事業活動は停止を余儀なくされた。これにより、外食産業や小売業、各種サービス業では、売上高は前年比8〜9割減となっている。
 しかし経済活動や事業活動の停滞は、新型コロナの影響だけではない。19年10月から商業販売額は前年同月比でマイナスが続いていることに示されているように、消費増税の影響が大きいということである。「家計調査」で2人以上世帯の消費支出の対前年同月比の実質増減率を見れば、10月の-5.1%から2月の-0.3%までマイナスとなったあと、新型コロナの影響が出た3月は-6.0%、4月は-11.1%と大きく減少している。
 このように考えれば、経済の停滞は19年10月の消費増税から始まり、そこに新型コロナの感染拡大が襲いかかり、景気後退を深刻化させたというべきである。

 (2)緊急事態宣言解除後も需要不足は深刻
 新型コロナの感染拡大による経済への影響では、事業活動が再開したとしても、長期にわたって停滞状態が続く。ワクチンや治療薬が開発されるまでは、感染を防ぐためには、密接な接触は避ける必要があるからである。政府が言う「新しい生活様式」のもとで、できるだけ外出を避け、他人との接触を少なくするようにすれば、収容定員を少なくしたり、滞留時間を短くする必要があるため、事業活動には一定の制約を受けることになる。売上高や収益は低下せざるを得ない。
 また感染が完全に収束するまでは、さまざまな消費行動も慎重にならざるをえない。食料品などの生活必需品を別とすれば、個人消費は3月以降は大幅にマイナスになることが予想される。これにコロナ禍による事業活動の後退を理由に、雇い止めや解雇の増加、賃金の抑制が続けば、消費需要はより一層低下する可能性がある。日本経済は深刻な需要不足が長期化する可能性がある。

 (3)倒産・廃業の増加と生活困難な労働者激増の恐れ
 感染拡大による、消費需要の停滞や設備投資の停滞が続けば、中小企業や零細事業主を中心に、倒産・廃業が増加する危険性がある。商工リサーチの調べによれば、4月の企業倒産件数は743件(前年同月比15.1%増)負債総額が1,449億9,000万円(35.6%増)と大きく増大している。しかも注意すべきは、倒産件数は2019年9月から8カ月連続で前年同月を上回っていて、これはリーマンショック時の5カ月連続を抜いているということである。すでに消費増税の影響で、経営困難に陥っている企業が増大しているうえに、新型コロナによる事業活動の停滞が続けば、今後、倒産・廃業件数が激増する危険性がある。
 倒産・廃業増加や事業活動の停滞が続けば、労働者の解雇も増加することになる。4月の完全失業率は、2.6%と諸外国と比べて低い水準に止まっているが、休業者は過去最大の597万人に上った。事業活動の再開や再開しても低調な状態が続けば、休業者を解雇することで、失業者が激増する恐れがある。コロナ関連の解雇や雇い止めは、5月21日時点で1万835人だったのが、6月4日には2万540人になった。わずか2週間で1万人も増加したのである。このうち、派遣労働者や契約労働者など非正規労働者の数は厚労省も把握しておらず、このままではリーマンショック以上の派遣切りが行われることも十分予想される。すでにマスコミ報道されているように、派遣切りにあい、生活困難になった労働者は多く現れている。今こそ、雇い止めを行わず、大企業を中心に内部留保を利用して雇用を維持するように、運動を強める必要がある。

 (2)政府・日銀による対策の遅れと行き詰まり

 (1)廃業や倒産の危機に対応できない政府の経済対策
 中小企業や業者は、消費増税で売上げが回復しないうちに新型コロナで売上げは8〜9割も減少した。多くの業種で営業継続が困難になる状況に追い込まれている。
 しかし政府は、新型コロナ対策でテレワークや休業要請を行う一方で、それに対する補償はわずかしか行わないという姿勢をとっている。一次と二次の補正予算では、歳出総額で57.5兆円、民間支出を合わせると、全体で233兆円に上る、過去に例を見ない事業規模となっている。
 しかし、この間の政府の経済対策は混乱を極めている。特別定額給付金も、当初は月収が大幅に減少した世帯を中心に30万円の給付であったが、枠が狭すぎるとか対象世帯がわかりにくいといった批判の高まりにより、所得制限なしの一律10万円の特別定額給付金となった。しかし決定が遅れた上に、オンライン申請の不備もあり、給付金の支給は遅れている。しかも、ホームレスや難民申請中の外国人など住民登録していない人は申請できないほか、日本語の読み書きが不得意な外国人には日本語書式での申請は困難になっているという。
 中小企業やフリーランスなどの個人事業主対象の持続化給付金の支給も、申請開始日に申請した企業でも、6月上旬になってもまだ支給されていないケースが多いと報道されている。このままでは、企業活動の維持が難しいという声が多数出されているにもかかわらず、対応が遅れている。

 (2)実体経済の浮揚に失敗してきた日銀の金融緩和策
 日本銀行は、4月27日に、国債を制限なく必要な量を購入するほか、社債などの買い入れ枠は合計20兆円と従来の3倍近くに増やす、追加の金融緩和策を決めた。これにより日銀は市場に供給する資金を増やし、財政や企業の資金繰りを支援するという。
 日銀による社債の買い入れ枠を増やしたり中小企業向け融資をゼロ金利で金融機関に貸し出すことを決めることは、緊急の企業の資金繰り支援としては必要な措置である。
 しかし同時に考えなければならないことは、日銀のこれまでの金融緩和策では、実体経済を成長構造に乗せる効果はなかったということである。日銀はアベノミクスを支援するとして、金融緩和による円安誘導や株式購入による株価の買い支えをしてきたが、それは輸出大企業を支援することになっても、家計消費を拡大することで内需産業に需要を波及させることはできなかった。実質家計最終消費支出は18年、19年と2年連続-0.2%のマイナスであったし、民間企業設備投資も2.1%、0.7%と停滞している。輸出大企業はグローバル企業として、海外生産を強めていることもあり、輸出強化策をとっても、国内設備投資を大幅に拡大させることはしないからである。
 このように考えると、日銀がどんなに金融緩和策をとっても、実体経済を浮揚させることはないのである。今、必要なことは中小企業や業者の営業と生活を守り、労働者・国民の生活を維持するために、継続的な生活保障措置をとることである。
またコロナ後の経済を展望すれば、農業、部品から完成品までのフルセットでの製造業、医療、卸売・小売、研究開発、文化、教育、各種サービス業など国民の健康と命、国民生活を守る産業、すなわち国民生活を重視した経済こそが重要である。

2.安倍自公政権の継続にストップを

 (1)「新型コロナ」が明らかにした医療といのち切り捨ての新自由主義

 日本社会と世界を突然襲った新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大(パンデミック)は、「医療崩壊」を招きかねなかった日本の医療制度と安倍政権の医療切り捨てといった新自由主義政策の実態を浮き彫りにした。
 わが国の感染症病床は1996年の9,716床から2018年には1,882床へと大幅に削減されている。安倍政権は、2015年6月に全国の病床数を最大20万床削減する「地域医療構想」を打ち出し、「骨太方針2019」では「医療供給体制の効率化」として病床数削減を強調、削減医療機関への財政優遇の拡大を打ち出した。厚労省はその加速、拡大に向け、424の公立・公的病院の統廃合をめざし、対象病院名を公表した。新型コロナ問題が今なお深刻なもとでも、安倍政権と厚労省はこの地域医療切り捨ての統廃合計画の推進に固執している。

 (2)後を絶たない隠蔽、改ざんなど、行政を歪める安倍政権の政治私物化

 安倍政権は一強支配による政治腐敗を強め、「森友」「加計」問題にとどまらず、首相側近の河井法相、菅原経済産業相が相次いで公選法違反疑惑で辞任した際にも、「責任痛感」を繰り返すのみで、当事者に説明責任を促してもいない。「森友」問題で自殺した近畿財務局職員が「文書改ざん」の経過を遺書で明らかにしたが、安倍内閣は真相解明の再調査すら拒否している。
 しかし、労働者、国民は安倍政権の横暴を絶対に許さない。「桜を見る会」問題では、全国の500人を超える弁護士や法学者が安倍首相などを東京地検に告発したように、政権の逃げ切りを許さない追及は続いている。そればかりではない。国民の怒りが大爆発したのが「検察庁法改定案」であった。この法案は検察庁の最高幹部人事をめぐって、従来の法解釈を変更、検察人事を私物化、政権に近い幹部を「余人をもって替え難い」として定年延長したことを法的に後付けるものであった。SNSを利用しての著名人多数の反対意見表明など、「政権の横暴を許さない」国民世論の大きな広がりと弁護士会、検察OB等々の猛反撃などで通常国会での成立を断念させた。しかも、その当事者が賭博行為で厳正な処分なし(訓告)で辞職したのに、安倍首相は自らの任命責任をなんら具体的に明らかにしていない。内閣支持率の急低下は、こうした安倍政権に対する国民の怒りのさらなる拡大を明確にしている。

 (3)対米追随で軍拡路線をすすめ改憲に固執する安倍政権

 安倍首相は政権の座に就いて以来一貫して対米従属を強め、軍備拡大と憲法改悪に固執している。第一次安倍政権時には教育基本法の改悪、防衛庁の防衛省への昇格、改憲準備の「国民投票法」を成立させ、第二次政権発足後は武器の海外輸出に道を開き、「集団的自衛権行使」容認へ憲法解釈の変更を閣議決定、違憲の「安保法制」を成立させている。
 「防衛予算」は5兆3千億円にまで増大、武器購入等の後年度負担も5兆4千億円に膨らみ、米軍基地再編費も1,937億円、在日米軍への「思いやり予算」も約4千億円にも達している。トランプ政権は日本の負担を4〜5倍化することを求めているとも言われている。韓国政府は新型コロナ禍対策で軍事費削減にも踏み込んだが、安倍政権は赤字国債発行のみに財源を依存、軍事費を絶対的な聖域として見直しや削減を一切行おうとしていない。
 「辺野古新基地建設」も軟弱地盤や多様なサンゴ礁の存在により当初計画の破綻が明らかにされ、調査の専門家と施行業者の癒着問題すら指摘されているのに、安倍政権は沖縄県民の切実な願いをふみにじり「唯一の解決策」として今なお固執している。
 さらに、日本中が新型コロナ対策の最中、安倍首相は憲法記念日のメッセージで、自衛隊明記の9条改憲にとどまらず、コロナ禍を口実に現行憲法制定時に明確に否定された「緊急事態条項」の必要性に踏む込み、改憲への執念を改めて強調している。

 (4)市民と野党との共闘で安倍自公政権と悪政にストップを

 最近の世論調査での急速な安倍内閣と自民党支持率の低下は、安倍自公政権の継続はもはや許さないという国民世論の広がりを示している。しかし、問題はこうした局面で、自公政権に代わるべき野党の支持率がほとんど上昇しておらず、「支持政党なし」層が国民のなかに大きく拡大していることである。これは、野党が自民党に代わって政権を担いうる勢力として国民に受け止められていないことの裏返しでもある。その背景には、政治革新への国民への期待を裏切った90年代の「自・社・さ」政権やその後の民主党政権の迷走・失敗、四分五裂した野党の分散状況などへの国民の不信感があることは否めない。
 安倍自公政権とのたたかいで「市民と野党の共闘」は様々な課題別の運動を前進させ、昨年の参議院選挙ではすべての1人区で野党統一候補を擁立し、自民党の単独過半数割れや自公・維新の改憲勢力を「3分の2」議席割れに追い込む成果をあげている。
 国民が野党に求めているのは、国民の要求や願いに真にこたえる新たな政治と頼りがいのある強固な連合政権確立への具体的な展望を示すことである。そのためにも、5野党・会派と「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の合意による13項目の「共通政策」(2019年5月)などを基本に、野党間で連合政権への合意形成を推し進め、自公政権に代わる新たな政治の具体的な展望を国民に示すことが求められている。その前進のためにも、労働者、国民が具体的な運動を通じてその後押しを積極的に推し進めることが重要になっている。

3.新型コロナショックで脅かされる働く者の労働と生活

 (1)新型コロナショックで高まる大量失業の危険

 2020年4月の「労働力調査」によると、新型コロナショックの影響を受け、一時的に仕事を休む休業者数は600万人に膨らんだ。特に非正規労働者は前年同月と比べて、97万人も減少している。まさに、景気の調節弁として解雇や雇い止めが横行している。厚生労働省は、6月19日現在集計分で新型コロナウイルス感染拡大に関連した解雇や雇い止めは見込みを含めて2万6,552人だったと発表した。そのうち非正規労働者は前の週より1,015人増の7,959人だった。業種別では、ホテルや旅館など宿泊業が最も多く5,508人,ついで飲食業が3,991人、製造業が3,684人、タクシーや観光バスなど道路旅客運送業が2,448人だった。
 支給要件を緩和し、日額の上限も倍加した雇用調整助成金の支給件数は、5月1日に284件にとどまっていたが、6月には132,298件へと跳ね上がっている。ドイツでは、5月時点でホテル業を筆頭に800万人以上の操業短縮手当(Kurzarbeitergeld)が支給されているのと比べれば、低い水準である。
 完全失業率は2.7%と前年同月と比べて若干の上昇だった。しかし、6月に実施されたNPO法人や弁護士などでつくる「電話相談会」では、全国から1,217件の相談が寄せられ、「コロナの第2波が来ることを理由に解雇すると言われた」「6月は給料を払えないと退職勧奨された」など労働問題の相談が4月中旬の電話相談会から倍近く増加している。2019年10月の消費増税以降減少してきた2人以上世帯の消費支出も、対前年同月比で、2020年1月−3.9%、2月−0.3%、3月−6.0%、4月は−11.1%と落ち込みが加速している。
 一方,東京商工リサーチによると、企業倒産は、6月中旬で「新型コロナ」関連の経営破たん(負債1,000万円以上)は、全国で250件に達した。2月の2件、3月の23件から急増した。外出自粛や店舗の営業自粛要請、インバウンド需要の急減等の影響を受け、休業者が失業者に転化する危険が高まっている。

(2)パートタイム・有期雇用労働法の施行

 2020年は、「働き方改革関連法」施行後2年目に入った。4月にはパートタイム・有期雇用労働法(中小企業は2021年施行)が施行された。対象となるのは、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者である。同法に罰則規定はないが、以後、(1)不合理な待遇差の禁止、(2)労働者に対する待遇に関する説明義務の強化が事業主に課され、(3)行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備がはかられることになった。
 具体的に不合理な待遇差とは、「同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けること」が禁止された。そして、「同一労働同一賃金ガイドライン」では、どのような待遇差が不合理に当たるかを例示している。
 (@)基本給については、労働者の「(1)能力又は経験に応じて」、「(2)業績又は成果に応じて」、「(3)勤続年数に応じて」支給する場合は、(1)、(2)、(3)に応じた部分について、同一であれば同一の支給を求め、一定の違いがあった場合には、その相違に応じた支給を求めている。 
 (A)役職手当等については、正社員と同一の役職に就くパートタイム労働者・有期雇用労働者には、同一の支給をしなければならないとしている。
 (B)通勤手当等についても、パートタイム労働者・有期雇用労働者には正社員と同一の支給をしなければならない。
 (C)会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについても、正社員と同一の貢献であるパートタイム労働者・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。
 性差別賃金、雇用形態による賃金差別をなくしていくたたかいは、新たな段階に入っている。

(3)労働時間の上限規制をめぐって

 2019年4月施行の「働き方改革関連法」は、労働時間の上限規制について適用除外や猶予期間が設けられている。例えば、「給特法」(2019年12月成立)によって、2021年4月から教育現場への1年単位での変形労働時間制を地方自治体の条例によって導入できることになった。これは、現在の教員の長時間労働を解消するどころか、助長する恐れのある悪法である。
 応召義務を課されている医師の長時間労働については、どのように是正するかまだ見通しすら立っていない。過労死ラインの2倍近い年間1,860時間の残業を認める「医師の働き方改革に関する検討会報告書」(2019年3月)」が政府に提出されている。年間960時間の残業の上限規制の実現は、2035年度末以降の見通しである。
 自動車運転労働者の長時間労働問題についても、休日労働は別枠としたまま、年間960時間の残業が許容され、しかもその適用は2024年とされている。
 建設工事従事者の残業規制は、5年の猶予期間を経た2024年4月から一般労働者と同じく単月で100時間未満、2〜6月で平均80時間すなわち年間で960時間が残業の上限となる。ただし、「災害の復旧・復興の事業」を除外するとしている。ゼネコン職員の長時間労働による過労自殺や現場作業者の長時間労働が是正されない背景は根深い。
 労働時間短縮のたたかいは、労働者の命を守るたたかいであり、人間らしい働き方を実現するために避けて通れない課題である。

 (4)労働者を保護の対象から排除する「雇用によらない働き方」

 2020年3月末に成立した改悪「高年齢者雇用安定法」は、なんら強制力のない70歳までの就業機会の確保を名目に、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置の一つの選択肢として、「労使で同意した上での雇用以外の措置」を認めた。具体的には、継続的に業務委託契約する制度の導入に道を開いた。急速に拡大するウーバーイーツの「雇用によらない働き方」に加えて、65歳以上の雇用機会を求める求職者に非雇用の働き方を拡大する意図がある。
 フリーランスで働く人について、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、休業補償など法的保護が不十分な実態が浮き彫りになっている。そのため、個人事業主などフリーランスで働く人を保護するため、労災保険に加入できる範囲を拡大する政府方針を固めた。

 (5)ハラスメント禁止とジェンダー平等の実現をめざすたたかい

 2019年6月、ILO総会で「仕事の世界における暴力とハラスメント禁止条約」が採択された一方、わが国の「パワハラ・セクハラ防止に関する法改正」は禁止規定とせず、「防止のための雇用管理上必要な措置義務」にとどめ、ハラスメントの指針では「該当しない例」として加害者・使用者が言い逃れできる例を記載するなど問題がある。ハラスメントに対する運動も広がっており、ハラスメントのない職場づくりが求められる。
 SDGs(持続可能な開発目標)の第5に掲げられている「ジェンダー平等の実現」をめざす国内外のたたかいも新たな段階に至っている。

 (6)新型コロナ感染症による在宅勤務の拡大

 国を挙げての在宅勤務の拡大政策は、労働者の働き方に大きな影響を与え、アフターコロナにも継続していくだろう。その際、労働時間管理やワークライフバランスの実現の視点から、新しい労働条件改善の課題が生じるだろう。研究所としての研究課題の追加と見直しが求められる。

V 2020〜21年度の研究課題と事業計画

1.労働総研に求められる調査・研究課題

 大企業本位の経済・雇用政策を強行してきた保守政権の下で、労働者の雇用・労働条件の劣化は深刻の度を増している。特に、第二次安倍政権が最重要課題と位置づけた「働き方改革」は、労働者を労働時間規制の対象から排除する仕組みを設け、「同一労働同一賃金」を謳いながら雇用・労働条件における差別の固定化を図ろうとするなど、働くルールの確立を求める労働者の要求、たたかいと真っ向から対立するものとなっている。一方で、全労連を中心とする全国一律最低賃金制の確立を求める運動が、与党内の一部をも突き動かし、国民世論を広げるなど大きな前進を見せている。
 労働総研は、全労連と協力しながら、労働者の権利向上を図り、大企業を中心とした巨額な内部留保に対する批判を行うと共に、その活用を打ち出すなど、労働者・労働組合の運動に貢献する調査・研究活動を行ってきた。
 今後も、これまでの蓄積を活かしながら、運動の発展に寄与する調査・研究活動を進める。今期は、特に以下の点に重点を置いた調査・研究活動を行う。
 (1)研究所プロジェクトを中心とした調査・研究活動を推進する。
 (2)新型コロナウイルス感染拡大で明らかになった日本の雇用・労働をめぐる諸問題の解明・整理と、今後必要な政策・制度の方向を明らかにする。その際、在宅勤務の拡大による働き方への影響、労働時間管理やワークライフバランスの実現の視点から求められる課題の検討も視野に入れる。
 (3)労働者保護の対象から排除される労働者(雇用によらない働き方、個人事業主化など)に関する問題の追究。
 (4)労働組合への結集(特に若年層)の可能性を探求する。
 (5)全労連と協議しながら、労働運動の前進に向けた理論的・政策的な貢献を積極的に行う。

2.18〜21年度研究所プロジェクトについて

 (1)研究所プロジェクトのテーマに関して――「労働組合への若者結集の条件(労働組合への組織化)」を中心に

 前回定例総会では、18〜21年度の研究所プロジェクトのテーマを「働く貧困と若者」とし、その目的を「働く若者(18〜35歳)の置かれた状態を明らかにするなかで若者結集の条件を提起すること」とした。
 一方、実施した若者アンケート調査では、調査依頼を主として労働組合を通じて行ったことなどを反映して、調査回答者の多数を正規雇用労働者、労働組合加入者が占め、「働く貧困」を前面に据えた調査結果の分析には大きな制約があると考えられる。
 こうしたことから、調査によって明らかとなった若者の置かれた状態を的確に分析しながら、「労働組合への若者結集の条件(労働組合への組織化)」を探ることをプロジェクトの中心的な課題に据えることとする。一方、新型コロナウイルス問題を通じても明らかとなったように、若者を取り巻く雇用・生活問題には深刻なものがある。こうした実態を明らかにする意味からも、聞き取り調査や労働組合との懇談などを通じて、働く若者の貧困問題も深めることとする。

 (2)聞き取り調査の実施

 アンケート調査を補足・強化する観点から聞き取り調査を行う。聞き取り調査の規模は50人以上をめざす。
 新型コロナウイルス感染拡大の第2波、第3波の到来が確実と言われる中で、聞き取り調査の時期をいつに設定するかが問題となるが、対面によらない方法での実施(オンラインの活用など)も検討しながら、今年末〜来年初めの実施をめざして聞き取り調査項目の設定を急ぐ。

 (3)調査結果の分析と労働組合への若者結集に向けた政策提言

 アンケート調査の分析結果を『労働総研クォータリー』誌上で発表すると共に、労働組合への若者結集に向けた政策提言を行うこととする。

3.労働運動の前進に寄与する、持続可能な研究体制の整備・再編

 (1)研究所プロジェクト中心の研究体制の確立…研究部会体制の再検討

 常設研究部会(現在、8研究部会)は労働総研発足以来、研究者を組織し、全労連運動上の理論的諸課題を解明する点で大きな役割を果たしてきた。また、それぞれの研究成果を2〜3年ごとに書籍やブックレット、『労働総研クォータリー』などに発表し、理論面でも大きな成果をあげてきた。
 しかしここ数年、研究所財政は会費など経常収入で必要な経費をまかなうことが困難となり、積立金からの補填に頼らざるを得ない状況となっている。現状のままでは、その積立金もいずれは底をつき、従来のような研究体制を構築できないことが予想される。
 一方で、ギグ・エコノミーの増大による非正規労働者や雇用関係によらない労働者の増大、黒字リストラの増大、賃金の停滞など労働者や雇用関係をめぐる状況の悪化に対抗する理論の構築は喫緊の課題であり、労働総研に課せられた課題は大きい。
 財政上の問題を克服しつつ、労働総研に課せられた役割を果たし、労働者と労働運動に役立つ研究所体制を維持するためには、研究体制の再検討は避けることのできない課題になっている。
 18年定例総会では研究所プロジェクト中心の研究体制と研究部会の再編が提案され、確認された。研究部会の統合・再編は、常任理事会を中心に議論されたが、抜本的な統合・再編には至っていない。
 「研究所プロジェクト中心の研究体制の確立」という前回総会の決定および今後の財政見通しからして、研究部会のあり方についての検討を急ぐことは労働総研が担うべき責任からしても避けられない課題であり、次期定例総会に向けて常任理事会で検討を強めることとする。検討のスケジュールは以下のとおりとする。
 (1)2020年8月……定例総会で検討開始の提案と承認。
 (2)2020年下半期……検討チームの発足。
 (3)2022年総会……研究部会再検討案の提案と承認。
 (4)2022年度より……新研究体制での研究活動の開始

 (2)研究会――研究所に求められる課題への迅速な対応

 労働総研に求められる研究テーマに迅速に対応すると共に、全労連運動への寄与を図る観点から、常設研究部会に加えて下記の研究会を設置する。研究会は、『労働総研クォータリー』などを通して研究成果を発表すると共に、公開研究会の開催も追求する。
 (1)大企業問題研究会
 (2)国際労働研究会
 (3)雇用問題研究会
 (4)労働者の連帯の再構築についての研究会
 上記研究会に加え、必要に応じて常任理事会の承認を得て研究会を設置する。

W.2020〜21年度研究所活動の充実と改善

 1.会員・読者拡大

 近年、会員の高齢化などにより個人会員が徐々に減少している。一方、会員の働きかけにより、若手研究者、大学院生の加入が増加傾向にある。研究部会の再編、研究会の活動などを通して若手研究者、院生などが関心を持つテーマを設定し、かつ自由な意見交換ができる場を意識的に作り出し、魅力ある労働総研づくりをめざす。また、『労働総研クォータリー』の企画の充実を通して読者拡大を図る。

 2.地方会員の活動参加

 関西圏産業労働研究部会、大企業問題研究会を除くと、東京中心の研究部会、研究会の体制となっているが、財政的な制約もあり、地方会員の労働総研の活動への参画が難しいのが現状である。こうした中でも地方会員の研究部会、研究会への参加の機会を増やすことができるよう、オンラインなど多様な形での研究会開催の可能性を追求する。

 3.事務局体制の強化

 引き続き、常勤2人の事務局体制を維持する。事務局体制を補強するための会員によるボランティア的な協力、『労働総研クォータリー』の円滑な運営などにより必要な活動の強化を図る。

 4.顧問・研究員制度の活用

 長年の経験・豊富な知識を持つ顧問・研究員の存在は労働総研の財産である。その力を最大限に発揮してもらうため、企画委員会、事務局との意見交換の場などを設ける。

研究部会報告

・労働時間健康問題研究部会(3月13日)
 報告は、鷲谷徹氏(中央大名誉教授)による「労働時間をいかに正確に把握するか」で、働き方改革関連法に関連して高プロ制度、企画業務労働制の内容をふまえて、いかに実労働時間の正確な把握をするかを解説。特に厚労省毎月勤労統計調査の問題点を鋭く言及され、総務省労働力調査、社会生活基本調査との比較とOECD調査での国際比較から日本の労働時間問題と課題を明らかにされた。岩橋祐治氏(全労連副議長、いのちと健康全国センター事務局長)からは全労連「時間外労働の上限規制と36協定についての調査」の中間集約の内容とコメント。全労連の労基法改定に伴うこの間の新36協定闘争の取り組み状況の特徴と今後の運動課題も明らかにされた。藤田実氏(労働総研事務局長)からは「経労委報告」を読む(赤旗連載)の紹介とコメント。討論では、日本での正確な労働時間実態把握での問題と課題、労働時間の国際比較での注意点と課題、労基法改定による労働時間制度の動向と運動課題など。

・中小企業問題研究部会(6月12日)
 この間に展開された「新型コロナウイルス対策、各労組・団体の取りくみ」について、活動を交流・研究。部会事務局の中島理事が「感染問題を巡る動きと、自治体の支援策調査」について報告。中小企業団体からは中同協の平田事務局長と全商連の藤田事務局員が、「調査活動と政府への緊急提言・要請行動」を報告。労働組合からは、全労連の秋山常任幹事が「電話相談、緊急提言と政府要請行動」について報告。続いて各産業別組織から、日本医労連・森田書記長、自交総連・菊池書記長、全労連・全国一般の林書記長、映演労連・梯書記長、JMITU・三木委員長、生協労連・桑田元委員長が、苦境を跳ね返す成果を含む活動報告を行った。金融ネットの田中事務局長が「コロナウイルスとたたかう世界の労働組合」について報告。

4〜6月の研究活動

4月11日 関西圏産業労働研究部会
5月31日 雇用問題研究会
6月12日 中小企業問題研究部会
  21日 若者調査集計作業チーム
  28日 社会保障研究部会  
  29日 賃金最賃問題研究部会

4〜6月の事務局日誌

5月14日 労働法制中連事務局団体会議
  31日 自治体問題研究所総会へメッセージ
6月12日 労働法制中連事務局団体会議
  26日 会計監査