労働総研ニュースNo.356 2019年11月



目   次

全国一律最低賃金制度の実現に向けて 黒澤幸一




全国一律最低賃金制度の実現に向けて

黒澤 幸一

はじめに

 最低賃金制度の抜本的な改善を迫る全労連・国民春闘共闘「全国最低賃金アクションプラン」の運動は、いま大きく動きはじめている。
 全労連・国民春闘共闘は結成以来30年、経済要求の柱として最低賃金の改善を求めてきた。最低賃金の抜本的な引き上げと地域差解消が、格差の是正、貧困の解消、日本経済再生に必要不可欠であることの社会的な合意がつくられつつある。特に、政治課題として浮上し、長期にわたる粘り強い運動が「重い議論の扉を開き始めた」(小田川義和全労連議長2019.6)のが到達ではないか。
 私たちの要求の第一は、抜本的に引き上げて、「直ちに時間額1000円、めざせ1500円」にすること。第二は、地域別最賃を解消し、「全国一律最低賃金制」にすること。そのための最賃法の改正を政府に要請してきた。第三には、政府・自治体に対し、最低賃金の引き上げを円滑に行えるように中小企業支援を抜本的に強化することである。
 全国最賃アクションプラン(別称:人間らしく暮らせる全国一律最低賃制度の実現をめざす行動計画)は、全労連第28回定期大会(2016年7月)で確認された。今年度は、最終年度を迎えている。アクションプランは、2020年春の通常国会での最低賃金法の改正をめざすプランで進められてきた4カ年計画。いよいよ正念場を迎えた。
 いま、要求実現に必要なことは、組合員が当事者として職場・地域から声をあげ、変えていく、運動の構築である。最低賃金運動を「運動は前進したが、労働組合は小さくなった」とならないように運動をつくること、このことが最低賃金の全国一律化という大きな政策要求を実現させるカギなのではないかと考える。

I 運動の到達

 2019年度の最低賃金は10月に改定された。全国加重平均で前年度比27円増の901円。東京1,013円、神奈川1,011円と、初めて1,000円を上回った。東北、四国、九州地方を中心に15県が最低額の790円となった。運動の成果である。しかし、2010年6月民主党政権下での政労使合意「2020年までに最低800円、全国平均1000円」ですら反故にする低額決着である。この間の運動が反映し、16年ぶりに地域間格差は1円縮小され、223円としたものの、大きな格差は解消されていない。

1 求められる「未来像共有型」の運動

(1)「全国一律1500円になったら?」アンケート

 先日、全労連は新宿で若者23人に「最低賃金が全国一律1500円になったら何がしたいか」などアンケートを行った。「海外旅行に行きたい」「焼肉が食べたい」などの声とともに、20代10人中4人の若者が「貯金する」と答えた。また、最賃1500円が「地元に帰って働く動機になるか」との問いに、6割の人が「動機になる」と答えた。中央最低賃金審議会に向けた寄せ書きには「3人の子どもと外食ができる」「一人親家庭でも何とかやれるようにしてほしい」「自立して一人暮らししたい」など切実な声が寄せられた。

(2)自治体決議、全国知事会、弁護士会など

 全国321自治体の議会で、最低賃金の地域間格差是正、大幅引き上げを求める意見書が採択されている。全国一律最賃制の実現を求める決議は、秋田では県労連の努力から県内8割の20自治体をはじめ、27自治体で決議されている。地方の最賃審議会での意見陳述は、今年、千葉と埼玉で実現するなど26県で実施されている。
 全国知事会は、政府に対する「女性の活躍」に向けた政策提言で「地域間格差につながっているランク制度を廃止して、全国一律最低賃金の実現」(2018年)が掲げられている。2019年度予算要望にそのまま盛り込まれ、政府に求めている。先の参議院選挙に向けては、全政党に対し「最低賃金の地域間格差解消」を公約とするよう求めた。
 日本弁護士会をはじめ全国27弁護士会が、最賃引き上げ、地域間格差の是正を求める会長声明を発出。全労連の最低生計費試算調査の結果を引用する弁護士会も出てきた。日本弁護士会は、全国一律最低賃金制度の確立に踏み込んだ提言について、検討・協議を始めている。
 こうした、地方自治体や、知事会、弁護士会などの動きは、C・Dランク地域を中心に地域間格差の是正を求めるブロック毎のキャラバン行動など、全国各地で粘り強く展開されてきた最賃運動の成果であり、政治課題に浮上させる原動力となっている。

(3)未来像の共有で組織化する

 「全国一律1500円になったら何ができるか」「何がしたいか」。この問いは、要求が実現したら可能となる未来像(ビジョン)を共有することで、「それならやってみよう」と運動を前向きに組織する方向性をもっている。「とんでもない最賃だ」と告発するだけでなく、自治体やなかなか合意をつくれない中小企業団体に対しても、労働者の購買力が上がり、地域が元気になれば、営業も活性化する展望をもっと示していくことが重要である。

2 最低生計費試算調査が示す2つの事実

(1)「健康で文化的な生活」の可視化

 全労連は、最低生計費試算調査を「健康で文化的な生活」に必要な生計費を可視化することを目的に実施している。「最低」とは言うものの、ギリギリの生計費ではない。これまでに全国17道府県で実施し、現在2都県で調査中。東京での調査が5月に始まり、12月18日に発表できる予定である。最賃運動を進めるうえで、極めて大きな社会的なインパクトを与えている。同時に、最低賃金の抜本改善を進める必要性の合意形成に大きな役割を果たしている。また、運動をする側が科学的データを持つこととで、確信をもって訴えられる根拠となっている。今年は、山口県労連、京都総評、鹿児島県労連、長崎県労連があいついで調査結果を発表した。いずれも、税込みで月23万円から24万円、時給に換算すると1,500円〜1,600円が必要との結果で、全国のこれまでの結果と同様の結果となっている。

(2)「地方は生活費が安い」は誤り

 結果から言えることは3つ。1つは、現行の最低賃金では、人前に出て恥ずかしい思いをしないですむ程度の暮らしですら困難であり、若者が自立することができない水準であるということ。2つ目には、都道府県別に最低賃金が設けられていることに根拠はないこと。トータルな生計費としては地域間で大きな差はない。最低賃金がAランクからDランクまで格差が付けられていることに合理的な根拠はないということ。3つ目、結論として、最低賃金は1500円以上で全国一律でなければならないことを明確に根拠付けた。
 「地方は生活費が安くて済む」という漠然とした常識の見直しを迫るものである。調査を取り組んだ組織と組合員に大きな確信を広げている。また、TV、新聞、雑誌、インターネットなどで報道が相次いで行われ、最賃運動の世論化に大きな影響を与えている。

3 参議院選挙でほぼ全ての政党が最賃を公約

(1)相次いだ国会質問と野党合意で「最賃1500円」

 通常国会では、日本共産党、社民党をはじめ、立憲民主、国民民主、自民党が、相次いで最賃引き上げの必要性を訴える立場で質問に立ち、政府に迫った。参議院選挙では市民連合が「地域間の大きな格差を是正しつつ最低賃金1500円をめざす」を政策提言し、立憲4野党1会派が合意し、選挙戦がたたかわれた。画期的な運動の前進である。

(2)参議院選挙の公約

 各政党も、「2020年代のできるだけ早期に、全国加重平均で1千円を実現」(自民)、「2020年代前半に全国加重平均で1千円超」(公明)、「5年以内に最低賃金1300円」(立憲民主)、「全国どこでも時給1千円以上を早期に実現」(国民民主)、「直ちに1千円に引き上げ、1500円をめざす。全国一律制も創設」(共産)、「全国一律1500円の実現」(社民)など、維新を除くすべての政党が最賃引き上げを公約とするなど、政治課題として浮上させてきた。

(3)全国一律が政治課題に浮上

 こうした到達を背景に、今年2月に自民党の一部国会議員が最低賃金一元化議員連盟を発足。4月には同議連の会合に全労連から私と、最低生計費試算調査を監修する静岡県立大学短期大学部・中澤秀一准教授が招かれ、意見を述べた。また、同時期に立憲民主党内に最低賃金作業チームが立ち上げられ、「最低賃金は全国一律が必要」がチームの総意となっている。

(4)9.30国会内集会で主要政党の国会議員が政策を語る

 最低賃金10月改定を機に、全労連・国民春闘共闘、東京地評・東京春闘共闘は、「9.30国会内集会」を開催し、立ち見も出る220人余りの参加で成功させた。この集会には、自民党をはじめ主要政党の参加があり、最低賃金政策を語るとともに、全国一律最賃制を求める請願署名を参加した国会議員に託した。
 集会で発言された国会議員からは異口同音に、「貧困の解消と地域経済の再生には、最低賃金の引き上げによる、国民所得の底上げが不可欠である」こと。「地域間格差を是正しないと、人口の東京一極集中は解消されず、地方の衰退を止められない」ことが述べられた。ここに大きな特徴と運動の到達がある。
 貴重な発言であるので、各議員の発言の概要を紹介する。

 ○ 長野県出身の国会議員として、地方創生を何とかしたい。風光明媚な地域からどんどん若者が離れて戻ってこない。賃金政策が起因している。そこで、最低賃金の一元化と引き上げをセットでやっていこうと議連をつくり、勉強をはじめた。まだ、自民党の政策に結実してはいない。しかし、骨太方針にも「格差是正の必要性」を盛り込ませた。主要先進国で公定価格の最低賃金がバラバラな国はない。世界の様々な知恵を集めて、中小企業支援とセットでしっかりやっていく。医療、介護、全国一律の公定価格で運営しているのに、地方の看護師・介護士の賃金は低い。これを放置していては地方をますます疲弊させる原因になる。払うべきものはしっかり払う、このことが大切だ。議連として頑張っていく。【自民党 最低賃金一元化議連 事務局長 務台俊介 衆議院議員】

 ○ 「最低賃金、扱わせてくれ」と作業チームには自分で手を上げた。4月の作業チームの結論は「全国一律1300円」にすること。そして、パッケージとして中小企業支援を数兆円レベルでやる。参議院選挙の中心政策に掲げた。安倍政権のトリクルダウン理論は、世界的にも失敗。中小企業支援では、社会保険料の軽減策、大企業による下請けいじめを止めることが重要だ。1300円になれば、労働者6千万人のうち2千万人強の所得がアップする。1000円では生活できない。1300円で年間276万円、これを5年かけて徐々に上げ、全国一律にする。その結果、消費力がアップすることで、企業も儲かり、給与を上げて、さらに消費力を上げる好循環をつくる。足腰の強い日本経済にできると考えている。頑張っていく。【立憲民主党 厚労部会最低賃金作業チーム長 末松義規 衆議院議員】

 ○ 最低生計費試算調査の結果を聞いて、最低賃金1500円は、人間が生きていく上で、若者が暮らしていく上で、最低限の水準だと思った。現に、ニューヨークやカルフォルニアは1500円、ヨーロッパ、ドイツ、フランスは1000円を超えている。日本だけができていない。景気が良くなれば中小企業は潤う。鶏が先か卵が先かの話。最低賃金を上げて皆が安心して暮らせるようにする事が大切。消費が増え、経済が良くなれば、中小企業も潤う。大企業ばかり優遇せず、中小企業にもっと優遇することが大切。これが日本経済を良くする最良の経済対策。1500円が必要だ。しっかり、経済対策として最低賃金を引き上げて、経済活性化を図る。みなさんの考えに賛同する。勉強させていただいて、頑張る。【国民民主党 総務局長 奥野総一郎 衆議院議員】

 ○ 全国一律でただちに1000円、そして速やかに1500円に引き上げていく。これが政策。安定した社会保障をつくり発展させるためにも、賃金を底上げすることが一番の力になる。原資はある。毎年10兆円以上積み上がっている大企業の内部留保を賃上げに回させること。これは政治の責任。いまも最低賃金は、生活保護を下回っている。東京23区で、生活扶助と住宅扶助の限度額を足すと13万2千円。東京の最賃1,013円は、実労働時間の平均154時間で15万6千円。社会保険料・税を抜くと12万6千円。健康で文化的な生活ではない。中小企業支援でも、賃上げしたら減税では機能しない。赤字の中小企業が多く、もともと法人税を納めていない。社会保険料の負担軽減などが必要だ。与野党含めて力を合わせて頑張りたい。【日本共産党 厚労部会長 宮本 徹 衆議院議員】

 ○ 最低賃金をすぐに1000円、そして直ちに1500円をめざすことを公約にかかげてきた。超党派でのこうした集会を歓迎したい。参院選でも若い人たちは「1500円」に反応。非正規労働者は4割に達し、女性の54%に達している。最低賃金を上げることが決定的に重要。東京や神奈川で1000円を超えたのは運動の成果。しかし、これでは税抜きで年収200万円にもならない。働く人の収入が上がれば、地域で物を買い、その地域の好循環を生む。地域間格差があると人口移動につながる。看護師や保育士も給与の高いところに流れてしまう。地方だから生活費が安くて済むと言うのは間違い。地方では、自動車が必需品。食べられない。生きられない。子育てできない。先が見えない。賃金を上げて変えましょう。【社会民主党 副党首 福島みずほ 参議院議員】
 ○ 最低賃金を1000円にする、そして、早急に1500円にする取り組みはすばらしい。さっさと1500円にしろということ。政府が保障して1500円にしていくことが必要。中小零細企業も傷つかない。そのために、消費税を止めること。中小企業が力を取り戻すことができる。時給を上げることも可能。最低賃金全国一律1500円が、人間の尊厳を守ることにつながる。力を合わせてまいりましょう。【れいわ新選組 山本太郎代表】

4 中小企業支援はセット、韓国の最賃運動に学ぶ

(1)地元住民の購買力を上げ、地域活性化で合意形成を

 最低賃金の抜本的な引き上げは、中長期的に見れば中小企業の経営に好循環を生み出すが、当面は、経営に対して一定の負担を求めることになる。現在の中小零細企業の経営実態を考慮すれば、政府の責任による特別の支援策が必要である。
 全労連・国民春闘共闘は、最低賃金の抜本的な引き上げ、全国一律制の確立を円滑にすすめるための実効ある中小企業支援策の実施を政府に求めていく方針を打ち出している。具体的には、(1)直接的な資金支援、(2)社会保険料・税の負担軽減策、(3)下請け単価の切り下げ規制など公正取引ルールの確立、(4)実効ある公契約条例の確立、(5)地域における雇用や仕事量の確保策などを柱に議論をすすめていき、具体化し、内外に知らせていくことが必要となっている。地元の地域住民の購買力を引き上げることが、中小企業経営の活性化につながることで合意形成を図ることが求められている。

(2)韓国は大幅な引き上げで低賃金労働者が減少

 韓国の最賃引き上げは本当に失敗なのだろうか。韓国の最低賃金は、2018年16.4%、2019年10.9%、2020年2.9%引き上げられ、17年6,470ウォンから8,590ウォン(約790円、時給ベース、1ウォン=0.09円)へと改善してきた。2020年までに1万ウォンにするという現大統領の公約実現は困難とされるが、大幅に引き上げられてきた。日本の経営側は、盛んに韓国での大幅な引き上げを「雇用減となり失敗・失政」と喧伝し、引き上げを抑制する根拠にしている。
 韓国の最低賃金制度で最も権威ある研究者とされる韓国労働社会研究所理事長・金ユソン氏の論文を手にすることができた。「2018年最低賃金引き上げが賃金不平等の縮小へ及ぼした影響」の分析では、引き上げによって2017年と2018年の比較で「ジニ係数は0.3169から0.3092へと改善。低賃金階層は、445万人(22.5%)から311万人(15.7%)へと134万人減となった。」ことを示し、「2018年の大幅引き上げは、低賃金階層の賃金引き上げ、賃金不平等の縮小、低賃金階層の縮小に肯定的な影響を及ぼした」と結論付けている。
 また、韓国民主労総政策局長・イ・ジュホ氏は、全労連との懇談で「失業増は、全国チェーン化する大企業のロイヤリティ強化等によるところが大きい」(2019.10.25)と説明し、「最低賃金の大幅引き上げを原因とするのは、適当ではない」としている。
 実際、韓国の就業者数は「2019年6月に前年同月に比べ28.2万人も増加している」   (「Newsweek」金明中・ニッセイ基礎研究所2019.7.23)と改善してきている。日本の経営者側が、一刀両断に「韓国の最賃政策は失敗」と評価するのは、時期尚早ではないか。

II 2020年春に全国一律最賃の実現へ正念場(方針)

 2019年秋から来春へと運動を押し上げ、超党派の議連の結成などを促し、2020年春の通常国会に法改正案を提出させる運動を展開する。2019年最賃改定が終えても勢いを落とさず、来年春に向けて運動を前進させる。第1の運動のピークを11月7日中央行動に設定し、第2のピークを3月の中央行動に設定する。
 具体的には、最賃運動と労働組合が内外に見える取り組みを飛躍的に増やし、世論をさらに喚起し、政党、国会議員および政府厚生労働省に法改正の政治決断を迫る。特に、野党および国会議員へのアプローチが国会内での議論を活発に行わせるために重要と考える。
 職場・地域から、いままで以上に声が上がることが必要である。労働者の労働組合への結集を強めることなしに、労働者が声を上げることは困難である。制度要求実現と組織拡大・強化を有機的に結んだとりくみを追求する。特に、非正規労働者、女性、若者、最低賃金付近の賃金で働く正規雇用労働者などを最賃当事者とする運動を展開し、当事者が前面に立つたたかいをめざすことが重要と考える。

(1)現段階の評価をどうみるか

 では、現在の運動の到達をどう見るか考えてみたい。
 地域間格差の問題は、全国一律とまでは言わないが、「是正の必要性」は社会的な合意となりつつあるのが到達ではないか。これらは、この小論でも述べてきたように、市民連合と立憲野党の合意、参議院選挙公約、全国知事会の姿勢、自民一元化議連、立憲作業チーム、マスコミ報道・社説、学者の意見の変化、弁護士会、自治体決議、国際的な最賃重視の流れ、そして、政府の骨太方針などの変化に現れている。
 一方、経営側は、地域経済活性化に賃金引き上げが必要であることを否定しない。しかし、現実の引き上げ議論となると、中小企業団体をはじめ「体力がない」「潰れてしまう」と概ね反発する姿勢を強めている。また、格差是正の必要性に対して合理的な反論は見られない。日本商工会議所・東京商工会議所は、韓国の引き上げなどを口実に、最低賃金引き上げに反対する声明をだしている。また、政府主導での引き上げに反発している。
 もう一つの側面として、組合員の中での運動の構築について、よく見る必要がある。社会的な世論の広がりを背景に、全国集会や各地の集会も参加が明らかに増えている。しかし、まだまだ、社会的な世論の広がりと職場の組合員などの関心にはギャップがあるのではないか。最低賃金付近の賃金で働く労働者の問題だけではなく、低迷する賃金実態から労働者全体の賃金底上げ、初任給引き上げなどに直結する問題であることの現場組合員との認識の共有が今後の運動の要となるのではないか。最賃法改正に向けて、もう一押しの情勢である。この流れを閉ざさないことが必要である。この運動を、献身的な組合幹部偏重の運動に終わらせてはならない。組合員が自らの問題として声を上げ、「当事者感のある」運動へと引き上げることが求められていると考える。ここを強調したい。

(2)打開する方向性と課題の整理

 職場の組合員の立ち上がり、当事者が見える運動となるように運動の重点を置きたい。職場の非正規労働者、若者、女性、低賃金正規雇用労働者などを最賃当事者として、ここに理解者を増やし、行動への具体的な参加を促していくことが重要ではないか。組合員と現場に依拠する運動である。最賃当事者が声を上げるには、労働組合への組織化が必要である。いまこそ、職場の組合員、未組織の仲間へのアプローチを強めることが、最賃運動を飛躍的に前進させることにつながると考える。
 国会、国会議員対策を具体化し、法案化に向けた具体的な手立てが必要となっている。全労連として議員や政党との関係構築を図り具体化していくこととする。
 「最賃を上げたら潰れる」とする中小企業経営者の近視眼的な不安の視点を変えさせる取り組みが必要となっている。地域循環型経済への転換の必要性を広げること、既存の業務改善助成金制度の使い勝手の悪さの改善、公正取引ルールの構築、適正単価の確立など、中小企業支援策の具体的な提示の具体化が急がれる。そして、地域に届けボトムアップで変えていくことが必要である。ともにたたかう立場になれるように促す取り組みが必要となっている。

おわりに

 最賃運動を前進させる意義をあらためて共有したい。
 最賃運動には3つの意義がある。(1)貧困と格差をなくす人権闘争であること、(2)地域経済再生の要としての経済政策であること、(3)労働運動再生へ労働組合の威信をかけた運動であること。正規雇用労働者、男性中心の労働運動から、非正規雇用労働者、若者、女性など全ての労働者を包摂する労働運動へと変わる契機にする。この運動を通じて「ひと皮剥けた」と実感できる運動にすることではないか。
 そして、大企業中心の新自由主義経済社会から労働者・国民の生活を底上げし、地域循環型経済への転換を迫る太い柱で一致してたたかうことが重要になっている。
 (くろさわ こういち・全労連事務局次長)