労働総研ニュースNo.344 2018年11月



目   次

解雇自由化に歯止めをかけたロックアウト解雇撤回闘争の勝利 三木 陵一
常任理事会報告他




解雇自由化に歯止めをかけたロックアウト解雇撤回闘争の勝利
―日本IBM・ロックアウト解雇撤回闘争の意義―

三木 陵一

はじめに 日本IBM解雇撤回闘争の大勝利

 JMITU日本IBMにおけるロックアウト解雇撤回闘争は、2018年3月、最後の裁判である第5次訴訟の和解が成立し5つの裁判すべてが解決しました。「原告11名全員の解雇撤回もしくは無効、うち3名の職場復帰」という画期的な大勝利です。
 この小論は、日本IBMロックアウト解雇撤回闘争の意義とあわせて、並行してたたかわれている賃金減額撤回闘争についてご報告するものです。(注1)
 まず、ロックアウト解雇撤回闘争です。
 ロックアウト解雇撤回闘争は11名の原告による5つの裁判をたたかいました。2012年に提訴した1次事件(原告3名)と2次事件(2名)は、東京地裁では並行審理で行われ、2016年3月にいずれもが解雇無効の勝利判決を勝ち取りました。その後、会社が東京高裁に控訴。高裁では別々の部に係属されましたが、結局、1次、2次事件とも、2017年12月26日、原告全員の解雇を撤回するという和解が成立しました。
 3次事件(原告4名)は、2013年に東京地裁に提訴し、2017年4月に地裁にて和解が成立し、原告4名の解雇を撤回させるとともに、2名が職場に復帰しました。
 4次事件(原告1名)は、2014年に東京地裁に提訴し、2017年3月に解雇無効の勝利判決が示されました。会社は控訴を断念し、勝利判決が確定、原告は同年5月に職場復帰しました。
 最後の5次事件(原告1名)は、2015年に東京地裁に提訴し、2017年9月にやはり解雇無効の勝利判決が示されました。今度は、会社は控訴し、2018年3月に東京高裁での和解が成立しました。(

 ロックアウト解雇裁判の概要

  原告 提訴日 東京地裁 東京高裁
第1次 3人 2012年10月15日 36部
16年3月28日勝訴
8部
17年12月26日和解
第2次 2人 2013年6月20日 36部
16年3月28日勝訴
9部
17年12月26日和解
第3次 4人 2013年9月26日 11部
17年4月25日和解
 
第4次 1人 2014年7月3日 11部
17年3月8日勝訴
(確定)
 
第5次 1人 2015年6月3日 36部
17年9月14日勝訴
21部
18年3月26日和解

1 ロックアウト解雇とは

組合員の4人に1人が解雇の対象に

 日本IBMでは、2012年7月から2015年3月までのわずか3年余りのあいだにJMITU日本IBM支部組合員34名(うち1人は解雇通告後に組合加入)に対し連続的な解雇攻撃が相次ぎました。仕事中に突然、別室に呼び出され、解雇を言い渡され、そのまま、職場から放り出されるという、極めて乱暴で非人間的なやり方から、組合員は、これらの解雇を「ロックアウト解雇」と呼びました。
 2012年当時、職場に在籍していた組合員は約140名でしたから、4分の1にあたる組合員が解雇通告を受けたことになります。
 最初のロックアウト解雇が行われたのは2012年7月です(1人)。9月に入ると、18日に3名、19日に2名、20日に3名、21日に1名、10月2日に1名と、わずか1週間あまりの間に10名の組合員が次から次へと解雇通告を受けるという事態へと発展していきました。そのあとも、翌2013年6月には14名、2014年3月に4名、2015年3月に5名と、概ね9ヵ月間隔で、四半期決算月になると組合員を狙い打ちした大量解雇通告が続きました。

不当なロックアウト解雇

 「ロックアウト解雇」では、日本IBMでの終業時間の30分ほど前に突然会議室に呼び出され、いきなり、解雇予告通知を手渡されます。そして、終業時間までに、私物をまとめて会社から出ていくように言われます。極めて非人道的で乱暴な解雇です。
 ロックアウト解雇の不当性のもうひとつは、解雇の合理的な理由がまったくないということです。解雇予告通知書には、被解雇者の成績が不良であると記載されていますが、その具体的な説明は一切ありません。そして、裁判になると、細かい被解雇者の仕事上のミスや失敗などを針小棒大にとりあげてきました。

労働組合との協議も拒否

 日本IBMは、当初、「ロックアウト解雇」についての団体交渉を拒否しました。そこで、組合は、2012年11月5日に東京都労委に団体交渉拒否の不当労働行為救済申立を行いました。これは、別件ですでに予定されていた9月21日の団体交渉の議題に9月18日から始まった「ロックアウト解雇」の問題を追加するよう組合が申し入れたのに対し、日本IBMがこれを拒否したことが不当労働行為にあたるとしたものです。翌2013年8月には、東京都労働委員会から、団交拒否の不当労働行為にあたると認定され、ポストノーティス(陳謝文掲示)の救済命令が出されました。会社は中労委に再審査を申し立てましたが、中労委においても、2015年6月17日に命令が出されて、不当労働行為であることが確定しました。日本IBMは、この命令を受けて、その後、形式上は団交を行うようになったものの、解雇の理由を具体的に明らかにしない不誠実な態度は変わらないままでした。

2 「ロックアウト解雇」のねらい
―リストラ推進と労働組合の破壊を企む

人減らしリストラという経営上の理由が目的なのは明らか

 日本IBMはなぜ、このような解雇攻撃を突然仕掛けてきたのでしょうか。これまで、日本IBMでは、成果・業績を理由とした「普通解雇」はまったくありませんでした。 2012年になって、突然、しかも、労働組合の組合員にのみ集中して「普通解雇」が急増したことに合理的な説明はつきません。
 ロックアウト解雇が始まった2012年は、IBMが米国、インド、フランスなど全世界で人員削減のリストラを実施した時期に一致しています。米IBMには、“work force rebalancing charge(人員再調整費用)”と呼ばれる経費が予算化されています。簡単に言うと、人件費削減をすすめるために使われる「リストラ費用」のことで、主に退職勧奨を行う際の退職加算金などに使われるようです。この人員再調整費用の推移を見ると、これがより多く予算化されている時期と日本IBMにおいてロックアウト解雇が行われた時期はみごとに一致しています。日本IBMが、米IBMの方針にもとづき、「人員削減=リストラ」という経営上の目的をもって、ロックアウト解雇を実施していたことは明らかです。

労働者の雇用をまもる砦となっている労働組合の解体を画策

 それまでの日本IBMでの人員削減=リストラの手法は、いわゆる「退職勧奨」(実際は強要)が基本でした。では、なぜ、日本IBMは、これまでの「退職勧奨」ではなく、「ロックアウト解雇」というより乱暴な手法へと変化させたのでしょうか?
 実は、日本IBMでは、2008年のリーマンショックの直後、「RAプログラム」と呼ばれるリストラ計画が実施され、全社的な退職強要により1300人を超える人員削減が行われました。しかし、このリストラは、IBMの経営者にとっては、必ずしも成功したとは言えませんでした。なぜなら、このとき、JMITU日本IBM支部は、「労働組合に加入し退職強要をはねかえそう」と職場に呼びかけ、その結果、50人を超える労働者が組合に加入したのです。JMITU日本IBM支部のたたかいは、全国の注目を浴び、マスコミでも大きく取り上げられました。まさに、JMITU日本IBM支部は、リストラ・退職勧奨の攻撃から職場労働者の雇用をまもる砦となっていたのです。
 日本IBMの経営陣は、労働者の雇用と権利をまもるためにたたかうJMITU日本IBM支部を嫌悪し、その解体を企んだと思われます。とりわけ、2012年、半世紀ぶりに米国から日本IBMの社長として派遣されたマーティン・イエッタ−は組合嫌悪の意思を強く持っていたと推測されます。というのも、「マーティン・イエッター社長は、退職強要をした労働者が労組に加入し、人員削減に抵抗することを嫌悪しており、労組に加入しても無駄であると明確にするために、先ず組合員から解雇することを企図した」という匿名のメールが組合に寄せられたのです。

3 ロックアウト解雇撤回闘争の意義

4つの裁判でいずれも解雇無効の勝利判決を勝ち取る

 このように、ロックアウト解雇は、労働組合の解体を企図した極めて乱暴な攻撃でしたが、JMITU日本IBM支部と組合員はこの攻撃に甘んじませんでした。解雇通告を受けた34名のうち11名の組合員が「解雇は認められない」と裁判に立ち上がったのです。
 東京地裁で行われた5次にわたる裁判では、和解で解決した3次事件を除く4つの事件すべてで解雇を無効とする勝利判決が申し渡されました。
 4つの判決は、いずれも「原告らには、一部に業績不良があるとしたものの、業務を担当させられないほどのものとは認められず、相対評価による低評価が続いたからといって解雇すべきほどのものとも認められない」として、解雇権濫用法理に照らして「本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、権利濫用」として、原告らへの解雇は無効としました。
 こうした勝利の要因はどこにあったのでしょうか?

原告を支えた労働組合の団結の力

 第一に、JMITU日本IBM支部の労働組合としての団結の力です。今回の事件は、わずか3年あまりの間に組合員の4人に1人が解雇されるという極めて乱暴な攻撃でした。解雇が始まった当初は、本当にこのままでは労働組合は潰されてしまうのではないかという恐怖と不安が労働組合全体にひろがりました。しかも、労働者にとって、どんなにひどい攻撃を受けたとしても、家族との関係や生活のことを考えるとそう簡単には裁判に立ち上がることはできません。しかし、そうしたなかで、11名もの組合員が原告として裁判に立ち上がってくれました。どんなに不当な攻撃であっても、それに立ち向かう原告がいなければ闘い(裁判)を起こすことはできません。11名の仲間が闘いの先頭にたってくれた、これがなによりもロックアウト解雇の攻撃から労働組合と職場をまもった第一の力でした。
 それでは、なぜ、11名の仲間が裁判に立ち上がることができたのか?もちろん原告の勇気と決意によるものであるわけですが、特筆すべきは、原告を激励し、支えたJMITU日本IBM支部の団結の力、とくに三役をはじめ執行部の努力です。たとえば、組合は組合員への解雇が続いたもとで「やるべきことをしっかりやろう」と決め、組合員から「解雇予告通告を受けた」と知らせが届くと、なによりもまずその組合員のもとに駆けつけ、場合によっては、組合員の家まで足を運び、組合員への解雇は極めて不当なものであり、組合員にはなんの落ち度もないということを丁寧に家族に説明するなどの努力を惜しみませんでした。こうした組合員の気持ちに寄り添い、激励して団結を固めた、日本IBM支部の活動は、たたかいの勝利の大きな力となりました。

解雇の不当労働行為性、リストラという本質を真正面から迫ったことが勝利判決の力となった

 裁判では、@会社が主張する「業績不良」は解雇の理由とはならない、A組合解体を企図した不当労働行為、B人減らしリストラを推進するための不当な解雇という3点を争点として争いました。
 解雇の不当労働行為性や会社の経営戦略については、残念ながら、判決では一切触れておらず、解雇が不当労働行為という原告側の主張は認められませんでした。しかし、裁判官がこれら一連のロックアウト解雇を個別の解雇と見ていたわけではなく、法廷や和解などでの裁判官の言動からは、明らかに裁判官は解雇の背景に会社の経営施策があると考えていることが伺われました。
 いっぽう、個別理由の点では、いずれの判決も「低評価が続いたからといって解雇すべきほどのものとも認められない」と断定しました。これは弁護団と原告の努力の結果です。しかし、注意して判決を読むと、会社が主張した原告らの業務上のミスや失敗について、少なくない部分を事実認定し、「業績不良」があるとしています。もちろん、判決は、「業績不良」はあるにしても「解雇すべき程のものとは認められない」と判断してくれたわけですが、どこからが解雇するに相当で、どこからがそうでないかという境界線は明確にあるわけではありません。結局、「業績不良がある」と判断されると、それが解雇の合理的理由となるかどうかは、裁判官の総合的判断に委ねられてしまうことになります。そして、裁判官の判断は、往々にしてその時々の世論の風によって左右されます。今日、多くの企業で成果主義が導入され、少しのミスや失敗で成果・業績が下がって当たり前という社会的雰囲気が醸し出されています。いま、日本社会は、解雇規制に対しハードルがうんと低くなっていると言わざるを得ません。
 今回の事件では、労働組合に結集し、集団で裁判をおこし、日本IBMのリストラ施策と組合つぶしの攻撃という解雇の本質を真正面から裁判で問いました。このことが、「業績不良」が解雇するに相当かどうかのハードルを高くすることに成功した要因と言えます。言い換えると、「業績不良」を理由にした解雇でも、仮に、労働者個人がひとりで裁判をおこした場合、今回と同じような結論とはならない可能性もあることに注意しなければなりません。

全国的な支援のもと、「解雇の自由化を許すな!」の大きな世論がひろがる

 ロックアウト解雇の特徴は、その目的が企業の利益追求という経営上の都合であるにもかかわらず、解雇の理由を「(労働者の)業績不良」として、労働者側に解雇の原因があるとすり替え、解雇の規制を免れようとしているところにあります。
 日本社会では、長いあいだの労働者のたたかいによって、使用者による一方的な解雇は規制されてきました。ところが、企業間競争が激しくなり、利益追求への企業の欲求がかつてなく強まるもと、解雇への使用者の躊躇がしだいに薄れてきています。資本の要求を背景に、解雇の規制をなくすべきだという主張もひろがっています。
 厚生労働省は今、「解雇の金銭解決システム」の検討を始めています。「解雇の金銭解決システム」とは、合理的な理由や社会的相当性が認められない解雇であっても、使用者が一定の金銭を労働者に支払うことでその解雇を認めようというものです。まさに「解雇の自由化」の制度といえます。こうした制度を厚労省が検討を始めた背景には、解雇規制を敵視し、解雇を自由にできるようにすべきという財界・大企業の強い要求があることは明らかです。
 わたしたちは、「リストラの毒見役」(注2) と言われる日本IBMでロックアウト解雇がはじまったとき、まさに、こうした社会の動きと無関係ではなく、ロックアウト解雇を止めなければ、おそらく社会全体にひろがっていくだろうと考えました。実際、最近、マスコミ等でも、ロックアウト解雇と思われるような裁判のニュースを見かけるようになっています。このように、ロックアウト解雇とのたたかいは、たんに日本IBMではたらく労働者の雇用をまもるというだけでなく、「解雇の自由化」を許さない、日本の労働者全体の課題でもあります。
 こうした意義を、全労連をはじめ全国の労働組合が受け止めていただき、ロックアウト解雇とのたたかいには、全国の労働組合からの大きな支援を受けることができました。「日本IBM解雇撤回闘争支援全国連絡会」が立ち上げられ、争議支援行動では常にメイン行動に位置づけてもらいました。また、国会では、日本共産党にこの事件について質問で取り上げていただきました。こうした全国的な支援のもと、マスコミもたたかいに注目し、「日本最大のブラック企業・日本IBM」などと週刊誌に掲載されたこともあります。
 デジタル大辞林には「ロックアウト解雇」という言葉が掲載され、「企業が労働者に対して、正当な理由がなく解雇を通告し、職場から締め出すこと」と説明されています。労働争議のなかで生まれた言葉が辞書にまで掲載されるということは滅多にはありません。それほど、ロックアウト解雇撤回闘争は、社会的世論をひろげることに成功したと言えるでしょう。それだけに、すべての解雇を撤回させ、「解雇の自由化」の動きに一定の歯止めをかけることができたのは非常に大きな社会的意義をもつものです。

4 賃金減額とのたたかい

成果主義による賃金減額の不当性を問う裁判

 日本IBMでは、ロックアウト解雇裁判と並行して、賃金減額裁判がたたかわれてきました。賃金減額裁判とは、成果主義による低評価を理由にした賃金減額は労働条件の不利益変更にあたるとして争った裁判のことです。
 日本IBMの賃金制度は完全な成果主義です。すなわち、毎年の賃金改定は、上司による個別評価によって決定されます。とりわけ、2013年以降、業績が低いと評価された労働者に対しては大幅な賃金減額が行なわれました。これに対し、組合員9名が、2013年9月に東京地裁に裁判をおこしました。
 賃金減額事件は、ロックアウト解雇事件と同様に重要な裁判です。なぜなら、多くの企業に成果主義がひろがっており、もし、判決で「成果主義による賃金減額は違法」という判断が示されたならば、その影響は計り知れないからです。

賃金減額は労働条件の不利益変更であり労働契約法10条違反

 わたしたちは、裁判において、日本IBMが賃金減額の根拠とする就業規則とそれにもとづく賃金減額は労働契約法10条違反であり無効と主張しました。労働契約法10条とは、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更する場合は合理的なものでなければならないという規定です。わたしたちは、以下の4つの理由をあげました。
 @不利益の程度が著しい(原告の賃金減額は、8.26%〜12.80%、金額にして26,300円〜76,300円にも及ぶ)。
 A日本IBMは毎年、数百億円の利益をあげており、賃金を減額するような経営上の必要性はない。
 B基準が何もなく使用者のフリーハンドで減額されており、また、減額に対する代替措置もない。
 CJMITU日本IBM支部は、就業規則変更に強く反対したが、会社は十分な協議を行うことなく一方的に就業規則を変更した。

原告の主張を100%認める画期的な勝利

 裁判は、2015年秋に結審し、和解に入りました。裁判官は、原告側の要求どおりの内容で和解するよう日本IBMを説得しましたが、日本IBMは、驚くべき方法で裁判を終結させました。それは「請求認諾」というやり方です。「請求認諾」というのは、民事訴訟において、被告が、原告の請求にすべて応じることで裁判を終結させることを言います。実は、日本IBMは、和解交渉で「守秘義務条項」を入れることに執拗にこだわっていました。日本IBMは、賃金減額を元に戻すという和解の内容を世間に知られることを怖れていたのです。しかし、私たちは、「守秘義務条項を入れるのであれば、和解はしない」という方針を最後まで貫きました。結局、日本IBMは、「請求認諾」という、いわば白旗をあげるようなやり方をとってでも和解に応じることを避けたのです。
 このように、賃金減額の裁判は、「請求認諾」という異例の終結となりました。ところが、日本IBMは、原告らの過去の減額分は裁判での請求どおり支払ったものの賃金額そのものは元に戻さず、翌月からはふたたび減額した賃金を支払ってきました。会社は、裁判では、「請求認諾」という手続で、原告らの主張を全面的に認めたのですから、本来なら、過去分を支払うだけでなく、賃金そのものを元に戻すことは当たり前です。しかし、日本IBMは、そうした常識すらもまもりませんでした。
 わたしたちはやむなく、2016年2月、賃金減額事件の原告らにあらたに賃金を減額された組合員を加え、総勢21名(その後1名追加)で第2次賃金減額事件を提訴しました。
 提訴の内容は基本的に最初の事件と同じです。ただし、請求趣旨に、減額される前の賃金を受け取るという労働契約上の地位にあることの確認を付け加えました。
 この第2次賃金減額事件は、提訴からわずか1年余りという短期間で結審し、2017年6月28日、和解が成立しました。和解では、会社が賃金減額措置を撤回し、原告らの賃金を減額前に戻すと同時に、減額前との差額賃金及び遅延損害金を支払うことを骨子とするものです。
 この和解内容は、成果主義による低評価にもとづく賃金減額を会社が撤回したという、極めて画期的であり、成果主義のもと賃金減額を押し付けられている全国の労働者を激励するものと言えます。

賃金制度の廃止を求め、あらたなたたかいを

 しかし、この第2次賃金減額事件で和解したあとも、会社は相変わらず、低評価により賃金を減額する仕組みを含む賃金制度そのものは廃止しません。結局、2017年、2018年の給与改定では、あいかわらず賃金減額が強行されました(組合員には減額対象者なし)。組合では、会社に対し、賃金減額の仕組みそのものを廃止することを要求するとともに、2017年の減額対象者や第2次裁判提訴後に組合に加入してきた組合員で2016年以前の賃金減額対象者を原告として、2018年10月12日、東京地裁に第3次賃金減額訴訟を提訴しました。

5 バンド8以上の組合員資格を認めさせる
―都労委での和解

 JMITU日本IBM支部は、ロックアウト解雇や賃金減額とのたたかいをすすめるとともに、東京都労働委員会に不当労働行為救済申立を行っていました。これは、いわゆるバンド8以上(社会一般では課長職に相当)の組合員資格をめぐる争いです。ここでも、9月25日、事実上、バンド8以上の組合加入を認める内容での会社との和解が成立しました。和解の内容(骨子)は以下のとおりです。
 (1)会社は、今後、組合員の範囲は基本的に組合が自主的に決定すべき事柄であることを尊重する。
 (2)会社は、今後、バンド8以上の従業員が組合に加入した場合、当該従業員がバンド8以上であることのみを理由に当該従業員が組合員資格を欠くとの主張はせず、本件と類似の紛争を惹起させないよう留意する。
 (3)会社は、バンド8組合員らが労働組合法第2条但書各号の定める利益代表者ではなく、組合員資格を有することを認める。
 これによって組合加入対象者がひろがり、組織拡大が前進することが期待されます。

6 最後に
―日本IBMの職場にたたかう労働組合の砦を

 ロックアウト解雇とのたたかいの勝利は、労働組合の職場での存在感を確実に引き上げ、今後のたたかいの貴重な財産となりました。いま、まさに、JMITU日本IBM支部は、日本IBMではたらく労働者にとって“希望の星”と言えます。
 実際、裁判闘争の勝利が確実となるなかで、2016年に入ると、ロックアウト解雇が始まって以降、止まっていた組合加入がふたたび増え始めています。引き続き、組合員を増やし、労働者の雇用と権利をまもるたたかう労働組合の砦を職場に築く、そのあらたな課題に向け、いま組合は全力をあげています。

(みき りょういち・JMITU中央執行委員長)

(注)
1 たたかいが始まった当時はJMIUでしたが、2016年にJMIUと通信労組の統一でJMITUとなりました。この報告では特に区別することなく、当時についてもJMITUと表記します。
2 日経ビジネス2001年4月23日号で、日本IBMの大歳社長(当時)は編集部のインタビューに答えて「日本IBMが日本の人事制度の毒見役」と答えています。

2018〜19年度第1回常任理事会報告

 労働総研2018〜19年度第1回常任理事会は、全労連会館で、2018年10月6日午後1時30分〜4時、熊谷金道代表理事の司会で行われた。
1.報告事項
 斎藤力事務局次長より、定例総会方針案の補強・修正部分について報告され、承認された(別記参照)。また、定例総会以降の研究活動や企画委員会・事務局活動などについて報告され、承認された。
2.協議事項
(1)藤田実事務局長より、入退会の申請が報告され、承認された。
(2)事務局長より、2018〜19年度の研究員として、荒堀広、金田豊、木地孝之、浜岡政好の各氏が提案され、承認された。また、企画委員会、『労働総研クォータリー』編集委員会、国民春闘白書編集委員会などの体制についても提案され、それぞれ承認された。
(3)事務局長より、年間スケジュール案について提案され、承認された。
(4)事務局長より以下の研究部会の設立申請書が報告され、承認された。
 賃金・最賃問題研究部会、女性労働研究部会、中小企業問題研究部会、労働時間・健康問題研究部会、労働組合研究部会、労働運動史研究部会、関西圏産業労働研究部会、社会保障研究部会。
(5)研究所プロジェクト(若者調査)の具体化について、工程表など調査推進チームの進行状況が事務局次長より報告され、討議の上、承認された。
(6)雇用問題の研究のための研究会について、討議の上、企画委員会で検討して、第2回常任理事会にて具体化することが承認された。

2018〜19年度定例総会方針(案)の補強・修正部分

 定例総会の討論を受け、「労働運動総合研究所2018〜19年度定例総会方針(案)」で補強および修正された箇所は、「労働総研ニュース」2018年7・8月号(340・341)の以下の部分。
【補強部分】
・3ページ・左段・下から18行目に挿入
「……ことなどを政府に要求している」の後に、「第2次安倍政権の発足後、防衛費は13年度から6年連続で増加し、18年度当初予算は5兆1900億円に達し、安倍政権による『戦争する国づくり』は新しい段階に入りつつある。」
・3ページ・左段・下から16行目に挿入
「安倍政権は、沖縄の民意と法を無視して、辺野古新基地建設工事を強行しようとしている。これに対して沖縄県は、辺野古沿岸部の埋め立て承認の撤回に向けた検討を進めており、新基地建設は県知事選の大きな争点となることが確実である。」
・5ページ・左段・上から8行目に挿入
「また、日本を代表する大企業でデータ改ざん・ねつ造が相次ぎ、製品の安全性にも大きな影響を及ぼしている。これは、利益至上主義にこだわり、企業倫理を喪失させていることの端的な表れである。」
・6ページ・左段・上から11行目に挿入
「生活保護受給世帯に準ずる所得しか得られない世帯も相当数に上っており、政府が唱える『少子化対策』『次世代育成』は絵に描いた餅になっているのが実情であり、こうした状況の下では労働力の質・量ともに健全な確保を図ることは極めて困難となっている。」
・6ページ・左段・最下行に挿入
「政府・財界が未来戦略として掲げる『Society 5.0』は、『人づくり革命』『生産性向上』『働き方改革』などと一体となって、労働者使い捨て、大企業本位の日本経済をめざすものである。一方で、人工知能、ロボットなどは、例えば福祉・介護などの分野で労働負担の軽減、サービス向上への寄与が期待されており、先端技術を労働者・国民本位に活用していくことができるかどうかが今後の日本の課題として問われている。」
【修正部分】
・5ページ・左段・下から13行目
「データの不備を厳しく指摘され除かれたが一括法案」して」→「データの不備を厳しく指摘され除かれたが一括法案として」
・7ページ・左段・上から19行目
「「健康で文化的な最低限の生活」」→「「健康で文化的な最低限度の生活」」

研究部会報告

・労働時間・健康問題研究部会(9月14日)
 安倍「働き方改革」一括法と労働時間制の課題をテーマに、鷲谷徹中央大教授から、「労働時間規制の歴史的転換」〜「高度プロフェショナル制度」がもたらすものとして、「働き方改革関連法」成立と「高プロ」問題点を、これまでの経過をふまえて、解明された。また、今年度の研究活動計画も協議した。

9〜10月の研究活動

9月10日 労働運動史研究部会
  11日 賃金最賃問題研究部会
  14日 労働時間・健康問題研究部会
  21日 若者調査推進チーム
  23日 社会保障研究部会
  28日 労働組合研究部会
     国際労働研究部会
10月1日 中小企業問題研究部会(公開)
  16日 賃金最賃問題研究部会
  18日 労働組合研究部会
  23日 女性労働研究部会
  30日 若者調査推進チーム

9〜10月の事務局日誌

9月1日 日本IBM勝利解決報告集会
     建交労大会へメッセージ
  6日 全法務大会へメッセージ
  9日 国土交通労組大会・全生連大会へメッセージ
  14日 労働法制中連事務局団体会議
  15日 電機懇30周年記念レセプションであいさつ
     埼労連大会・福祉保育労大会へメッセージ
  16日 電機・情報ユニオン大会であいさつ
  18日 企画委員会
  19日 生協労連大会へメッセージ
  20日 生協労連50周年記念レセプション
     全損保大会・全労働大会へメッセージ
  22日 労働総研クォータリー編集委員会
  26日 浜林正夫さんを偲ぶつどい
  30日 東京地評大会へメッセージ
10月4日 労働法制中央連絡会総会
  6日 第1回常任理事会
  10日 労働法制中連事務局団体会議
  16日 自交総連大会へメッセージ
  25日 国民春闘共闘年次総会