労働総研ニュースNo.340・341 2018年7・8月



目   次

2018〜19年度定例総会方針(案)
[I]2016-17年度における活動報告
[II]研究所をめぐる情勢の特徴
[III]2018-19年度の事業計画
[IV]2018-19年度研究所活動の充実と改善
常任理事会報告ほか




労働運動総合研究所2018〜19年度定例総会方針(案)
2018年7月29日(日)14〜17時・全労連会館

I.2016〜17年度における活動報告

 労働総研はこの2年間、研究所プロジェクトや研究部会などの研究活動をすすめるとともに、労働運動の直面する課題に積極的に応える政策提言活動なども重視し、「労働運動の必要に応え、その前進に理論的実践的に役立つ調査研究所」として積極的な役割を果たしてきた。

1.研究所プロジェクト ――「現代日本の労働と貧困プロジェクト」の成果の普及

 前期とりくんだ「現代日本の労働と貧困プロジェクト」の成果の普及活動として、研究所プロジェクト報告発表(『労働総研クォータリー』No.104 2016年秋季・2017年冬季合併号)とともに、公開研究会「安倍『働き方改革』を斬る―研究所プロジェクト報告『現代日本の労働と貧困』と関わって」(2016年10月28日)を開催した。

2.研究所の政策発表

 労働運動の直面する課題に積極的に応える政策提言活動として、「2017年春闘提言・労働者のたたかいこそ展望を切り開く力―安倍内閣の『働き方改革』と労働組合の社会的責任―」(2017年1月17日)、「2018春闘提言・“アベノミクス”と対決し、大幅賃上げで経済改革を」 (2018年1月18日) を発表した。

3.労働総研の研究体制の在り方検討チーム

 常任理事、研究部会責任者などで構成し、第6回常任理事会で決定、発足。次期研究所プロジェクト研究テーマ、研究所プロジェクトと各研究部会の研究テーマの調整、研究予算の在り方、各研究部会の再編など、研究所プロジェクト中心の研究体制に移行していくうえで生まれる諸課題について、論議、検討してきた。

4.研究部会

  「労働総研アニュアル・リポート2015」(「労働総研ニュース」No.318・319、2016年9・10月号掲載)、「労働総研アニュアル・リポート2016」(「労働総研ニュース」No.329・330、2017年8・9月号掲載)を発表。
 (1)賃金最賃問題研究部会(16回開催・うち1回公開シンポ)
 (2)女性労働研究部会(14回)
 (3)中小企業問題研究部会(10回・毎回公開研究会で開催)
 (4)国際労働研究部会(13回・うち1回公開研究会)
 (5)労働時間・健康問題研究部会(11回)
 (6)労働者状態統計分析研究部会(2回・国民春闘白書編集委員会を含む)、全労連・労働総研編『2017年国民春闘白書』『2018年国民春闘白書』発表
 (7)労働組合研究部会(16回・うち1回拡大研究会)、「地方組織調査報告書」(2016年12月)、『労働総研クォータリー』No.106・2017年夏季号「特集・全労連地方組織の現状と課題」
 (8)関西圏産業労働研究部会(9回)
 (9)社会保障研究部会(7回)
 (10)労働運動史研究部会(4回)

5.公開研究会

 公開研究会として、「『1億総活躍社会』における同一労働同一賃金問題」賃金最賃問題研究部会公開シンポ(2016年11月11日)、「内部留保の社会的活用と17春闘の課題」(2017年2月10日)、「重大化する『働く貧困』と全国一律最賃制」(2017年5月12日)、「AIと労働問題」経済分析研究会(2018年3月24日)を開催した。

6.研究交流会

 定例総会未開催年に労働総研の研究活動の課題と論点を交流するとりくみとして、「『貧困』問題打開の道を考える」をテーマに全国研究交流会(2017年7月29日)を開催した。交流会では、報告「全国時給調査は何を示すか(中間報告)」(中澤秀一常任理事)、「『貧困』打開とナショナルミニマム」(浜岡政好研究員)の2つの報告を受け、「貧困」問題打開の方向について議論を深めた。また、プロジェクトと研究部会間の研究交流をすすめるため、研究部会代表者会議(2017年1月21日・2018年1月20日)を開催した。その他、「労働総研ニュース」にて各研究部会報告を掲載した。

7.研究会

 (1)経済分析研究会(6回開催・うち1回公開研究会)、『労働総研クォータリー』No.107 2017年秋季号「特集・徹底批判・安倍『働き方改革実行計画』」
 (2)大企業問題研究会(5回)、『労働総研クォータリー』No.110 2018年夏季号「特集・大企業の社会的責任と労働運動の課題」
 (3)若者の仕事とくらし研究会
 (4)E.W.S(English Writing School)(毎月2回)

8.出版・広報 

 『労働総研クォータリー』「労働総研ニュース」の定期発行、ホームページの更新につとめた。

9.産別会議記念労働図書資料室

 堀江文庫をはじめ労働図書など、資料の収集、整理、公開をおこなっている。整理された図書の分類項目の一覧を図書資料室ホームページに掲載している。

10.その他

 労働法制中央連絡会・(公財)全労連会館理事会・「日本航空の不当解雇撤回をめざす国民支援共闘会議」・「日本IBM解雇撤回闘争支援全国連絡会」などに参加している。また、「電機産業政策シンポジウム」を後援した(2017年4月15日)。

II.研究所をめぐる情勢の特徴

1.安倍強権政治の暴走と反撃を前進させる国民的共同

 (1)9条改憲と「戦争する国づくり」の新段階

 総裁3選をめざす安倍首相は任期中の改正憲法施行に執念を燃やしている。自民党の改憲案は自衛隊明文化など4本柱だが最大の狙いは9条改悪にある。安倍首相は「自衛隊違憲論争に終止符を打つ」として、現在の9条1項、2項は残し、新しく「9条の2」を設け「必要な自衛の措置を妨げず」と自衛隊の存在などを明記すること主張している。しかし、「自衛」の範囲に限定もなく、例外規定を設けることは、「戦争放棄」「戦力不保持」を明文化している9条1項と2項を空文化させ、違憲の「安保法制」や海外での無制限な武力行使など集団的自衛権行使の合憲化をめざすものである。
 また、安倍政権は世界で唯一の被爆国の政府でありながら核兵器禁止条約に背を向け、改憲策動と一体で日米軍事同盟における日本の役割を拡大している。さらに北朝鮮の「脅威」や中国の軍事動向などを口実に軍備増強・拡大を強め、昨年12月にはアメリカからイージス・アショア2基購入(約2000億円)を閣議決定している。自民党もまた防衛計画大綱の見直しに向けて、専守防衛に反する「空母」や「敵基地攻撃能力」保有の検討、「GDP比2%を目標とするNATOの防衛費を参考に十分な予算を確保する」ことなどを政府に要求している。安倍政権による「戦争する国づくり」は新しい段階に入りつつある。
 他方で、「朝鮮半島の非核化」を合意した米朝首脳会談や南北首脳会談は日本や東アジアの平和にとって新たな局面を切り開く可能性を示している。これを実効あるものとする国際世論形成のために日本政府の主体的な努力が強く求められている。

 (2)行政を歪め、政治を腐敗させる安倍強権政治

 国民本位であるべき行政が歪められ、防衛省や財務省の文書隠蔽など国権の最高機関である国会の権威までが貶められている。「森友・加計」問題はその最たる象徴である。
 この背景には、各省幹部人事の一元的管理で官邸の影響力強化のために第2次安倍政権成立後に発足した内閣人事局の存在がある。99年7月の内閣法改正では省庁への指揮監督権の強化と同時に政策のトップダウンを可能とする内閣の発議権が法制化されている。2001年には「経済財政諮問会議」が発足、以降、財界・大企業の意向が直に政策に反映される首相直轄の各種「会議」が数多く設けられ、行政を官邸からのトップダウン追随と官邸の意向最優先へと大きく歪め、労働政策立案にかかわる「公労使による三者構成」の審議会までが形骸化される状況を生み出している。
 また、安倍一強政権の背景には、総裁派閥(協力派閥を含む)が党内人事や選挙での候補者公認に絶対的優位に立ち、党内の多様な意見を抑えこむような政権党内の仕組み、さらには半数以下の得票率で四分の三もの議席を独占し、多様な国民の意見を切り捨てる小選挙区制という現行選挙制度がある。「政治改革」の名により導入されたこの小選挙区制こそが今日の安倍一強政権を生み出し、わが国の政治さらには行政をも劣化・腐敗させ、民主主義を危機に陥れている元凶となっている。

 (3)課題別共闘から安倍内閣退陣要求へ前進する国民共同

 安倍強権政治への労働者、国民の怒りは全国各地に大きく広がり、様々な国民的共同がかつてなく大きく前進している。改憲阻止にむけ「9条の会」は各界・各層に多角的重層的に全国各地に広がり、いまでは「共同センター」や「9条の会」などに参加する広範な個人や諸団体を文字通り総結集した「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が結成され「3000万署名」など国民的な運動が全国各地で展開されている。それだけでなく6月10日には「脱原発」や「辺野古」「森友・加計」「雇用」等々の様々な課題別共闘組織が「9条改憲NO!」と「安倍政権の退陣要求」で大同団結して国会前行動を展開したように国民的共闘はこれまでとは違った発展を遂げてきている。こうした国民的共同の下支えの役割を全国各地で果たしているのが全労連と地方組織である。
 国民的共同の前進は国会における野党共闘の下支えともなり、両者は相互に相乗効果を発揮している。6野党の共闘は「森友・加計」問題での政権追及はもとより「裁量労働制拡大」の法案からの削除、「子どもの生活底上げ法案」の共同提出を実現し、原発問題でも4野党共同による「原発ゼロ基本法」が国会に提出されている。
 こうした国民的共同と野党の共闘をさらに前進させ、来年の参院選挙で自民党と公明党、さらにはその補完勢力を少数に追い込むために野党共闘を強化する、そのためにも土台となる国民的共同の全国的ないっそうの発展が課題となっている。

2.問われる大企業の社会的責任と日本経済

 (1)グローバル展開し、金融重視経営に傾斜する財界と日本経済

 財界は、従来の国内経済を基盤とした企業成長路線よりも、国内経済の基盤を掘り崩してもグローバル展開で企業を成長させる戦略をとるようになっている。日本企業の海外生産比率は、国内全法人ベースでも、2015年度には過去最高の25.3%になっている。(経済産業省「海外事業活動基本調査」)
 国内生産の動向をみると、日銀の「異次元の」金融緩和により円安に転換したことで、輸出は増大したが、輸出数量自体は増加していない。それは、国内生産が増大していないと言うことを意味する。国内生産が増大しなければ、設備投資も増大しない。設備投資の増加率自体、90年代後半から低下している。つまり企業は輸出の増大に対しては、遊休生産能力を活用して国内工場の増産で対応できる程度に収め、新たに設備投資を行う行動をとらなくなったということである。
 このように本業である事業部門への投資を押さえながら、企業は売上高の増大以上に経常利益を増加させている。売上高以上に経常利益を増大させている要因は、原価や労務費の削減による営業利益の増大であり、金融費用の削減あるいは金融利益の増大である。
 まず大企業は、経常利益を大幅に増加したにもかかわらず、それを賃金には分配していない。その結果、労働分配率は2013年の68.1%から2017年には59.3%に低下している。他方で利益では国内生産活動の成果である「営業利益」より、海外子会社や株・債券からの収入である「営業外収益」が大きく増えている。また内部留保の活用先である「投資有価証券」は4年間に29.1%、68.6兆円も増えた。つまり、本業以外で収益を上げられる体制の強化である。

 (2)増大する内部留保の社会的還元は急務

 賃金を抑える一方で、大企業(資本金10億円以上)は内部留保を増大させている。2012年度から4年間に「内部留保」はさらに25.7%、123.5兆円も上積みされた。利益剰余金だけをとりだしても13年度の37兆2626億円が、16年度には46兆612億円に増加している。
 内部留保と労働分配率の関係を見ると、2000年代前半までは内部留保は200兆円程度に止まっている一方で、労働分配率も低下し63%程度まで低下させた。これは1997年の金融危機と2001年のITバブル崩壊などを受けたリストラで賃金を抑制した結果であるが、企業収益の低迷を受けて内部留保自体も増加していない。
 ところが2008年のリーマンショック以後は、人件費の削減や生産コストの削減、金融費用の削減などで経常利益の確保にはしる一方で、増大した経常利益を内部留保として蓄積するようになったのである。
 大企業は売上高が増加しない中でも、人件費を抑制したり、異常な金融緩和により実現した低金利で金融費用を削減したりして増大させた経常利益を、配当金や内部留保として蓄積しているのである。しかも蓄積した内部留保は、設備投資として再投資するわけではなく、主として金融投資などに使用されている。この増大した内部留保を、賃金や生産的投資などに活用させることは必須の課題である。

 (3)問われる大企業の社会的責任と経済再生の課題

 日本経済のなかで絶大な力をもつ大企業は、国民経済や国民生活を顧みず、自社の利益の増大のみを目指して、リストラや工場閉鎖など産業の空洞化を推し進めてきた。その結果、日本経済は長期の停滞に陥っている。
 企業にためこまれている内部留保を労働条件改善や中小企業に還元し、所得を増やし、内需を喚起し、企業活動を活発化する“好循環”へ転換させる必要がある。そのためにも、大企業に対してその経済力にふさわしい社会的責任を果たさせる必要がある。

3.「貧困大国」日本と国民各層で進行する雇用・労働条件の悪化

 (1)安倍「働き方改革」と雇用・労働条件の悪化

 「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」とした安倍内閣は、矢継ぎ早に「一億総活躍社会」なる成長戦略として「働き方改革」を実行している。過労死ラインを容認する「労働時間の上限規制」、ホワイトカラー労働者を定額働き放題にさせる「高度プロフェッショナル制」、「人材活用の仕組み」を残し、正規・非正規間の身分的関係を克服できない日本的な「同一労働同一賃金」、裁量労働制の適用拡大はデータの不備を厳しく指摘され除かれたが一括法案」して提出され衆議院で強行採決した。
 この「働き方改革」はあたかも労働者のためになるかのように装いつつ、その本質は財界・大企業が労働者を一層の長時間労働、過密労働に駆り出し、人件費の大幅削減と生産性の増大を狙うものである。希代の悪法が通れば、要員不足の中での長時間労働、過重労働、職場のパワハラ・ストレスなどで労働者がうつ病の発症、過労死する危険がますます増える。
 さらに雇用対策法に「生産性向上」や「多様な働き方」の理念を挿入することは、安定雇用の理念を崩壊させ、労働者性の否定や労働法適用除外、ひいては賃金労働者を契約型の自営業主に置きかえる。「契約労働」が増えれば、生活できない、失業の多発、生活不安の激増となり、企業の雇用責任を不問・免罪して労働者の雇用・労働条件の悪化が必至となろう。

 (2)富の偏在・働く「貧困」の増大と若者の未来

 グローバル化における富裕層の政策支配、新自由主義の跋扈において、世界的に富の偏在が起こり、格差と貧困が広がっている。貧困を正す国際協力団体オックスファムによれば、ビル・ゲイツなど「世界の超冨豪8人の富は世界人口の下位36億人の富と同じ」である(17年1月『99%のための経済』)。さらに、世界で生まれた富の82%が最も豊かな1%の富裕層で占められ、富裕な国でも貧しい国でも労働条件の規制が削減され、労働者は賃金の削減や「底辺への競争」を強いられている、と指摘した。(『格差に関する2018年版報告書』)
 少数の富裕層の富の増大に対比した労働者と国民諸階層の所得の低下という現象は日本でも例外ではない。2000年代から顕著になった「株主資本主義」の進展の中で、一握りの富裕層が登場し、かれらの株主配当は1999年度の3.15兆円から2016年度には15.5兆円と5倍に増えた。(全労連・労働総研編『2018年国民春闘白書』)。他面で、株や預貯金を含めて金融資産がゼロの世帯は単身世帯で46.4%、2人以上世帯では過去最高の31.2%になった。(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」2017年)
 経営者の役員報酬も増加している。トヨタの2018年3月期、取締役6人は賞与だけで12億2400万円(1人当たり2億4000万円)である(「毎日」2018年5月14日)。
 大企業内での内部留保(資本金10億円以上)は、16年度では403.4兆円となり、国家予算の約4倍に積み上がり、さらに18年1〜3月期には総額423兆5000億円と前年同期対比23兆1000億円も増え、史上最高を記録した。(財務省2018年6月1日発表)。
 その原因は法人税減税、賃金削減、下請単価の切り下げなどである。こうして労働分配率は低下し、相対的貧困率は17年で15.6%(「平成28年国民生活基礎調査の概況」)、年収500万円〜900万円の「中間層の疲弊」や、年収200万円以下の「ワーキングプア」は11〜16年に1100万人を超えるという高止まり・恒常化現象が起きている。
 格差と貧困の厳しい現実が日本でも可視化され、その影響をとくに受けている層に、若者・青年がいる。大企業の常時リストラ、ブラック企業の横行の中で、若者の職場は忙しい、休みが取れない、労働条件が約束と違う、生活に余裕がない、賃金が安すぎる、派遣など非正規雇用から抜け出せない、将来不安というルツボにある。そこでの貧困現象は、「働き過ぎ、働かせ過ぎ」や「雇用の不安定・半失業」、「生活できない低賃金と昇給の展望なし」という雇用形態・労働時間・賃金におけるトータルな劣化が根底にある。
 その中で、若者の要求・課題は多様である。長時間労働の廃止、生活できる賃金の確保、半失業状態を改善し、安定雇用化をめざす、安価な住宅の確保、不法な求人広告や固定残業代制に見られる「ブラック企業」の撲滅、パワハラ、セクハラの横行という「虐待的管理」の廃止、高額の奨学金負担軽減など、総じて現実の働き方の健全化と将来不安の解消がある。若者が未来を展望できる組合組織化がとくに重要である。

(3)雇用の劣化を加速する「生産性向上」

 安倍内閣の労働政策のキーワードは「生産性の向上」である。政府はそのために労働規制の解体を企図してきた。人工知能、ロボットなどの導入は雇用の削減・劣化による大企業本位の労働生産性増大の手段となりうる。失業の増大とともに賃金水準の低下となれば、労働者保護なしの生産性向上はストップするしかない。
 この間、リストラによる正規雇用の減少、限定正社員を利用した労働条件の引き下げ、非正規雇用の増大、過度労働による労働者の磨滅など「雇用の劣化」が進んだ。同時に、大企業内での「仕事・役割・貢献度賃金」の導入は「生産性に見合った賃金体系」として、労働者は「成果」を限りなく強制される。成果主義化は査定で成果を挙げた労働者だけが優遇され、多くの労働者は賃上げにならず、特定の労働者は意図的に賃金を下げる運用すら行われている。
 非正規雇用の分野では、ジョブ・カードの広がりがある。厚生労働省は、「生涯を通じたキャリア・プランニングのツール」「円滑な就職等のための職業能力証明のツール」として新「ジョブ・カード」を活用することとし、ジョブセンターを設置するなどその促進に努めている。職業能力の向上や、その結果として安定した雇用へ就くことは労働者の切実な要求であるが、実際に使われている評価シートの内容は人事考課的側面を強く有しており、企業による労働者の選別(企業のいいなりに働き、使用者に協調的と思われる労働者を優先的に採用するなど)の手段として利用されることが危惧される。非正規雇用者の正規化への道は、こうした恣意性を排除したものとすることが必要であり、それこそが雇用の劣化を食い止める道となるであろう。

(4)進む生存権破壊と社会保障の危機

 安倍政権は12年末政権発足後、生活保護の「生活扶助」費を13〜15年に段階的に切り下げ、15年には「冬季加算」の減額、「住宅扶助」の削減を行った。さらに18年10月より生活保護費の生活扶助費を最大5%引き下げ(マイナス210億円)を計画している。これが実行されれば、13年以来合計1480億円の削減となる。いうまでもなく、生活保護制度は憲法第25条の生存権保障を具体化した生活困窮者の最後の命綱であり、その金額は国民的最低生活保障(ナショナル・ミニマム)の水準を担っている。政府は財政危機を口実に、社会保障費削減の突破口として、生活保護費の大幅切り下げを図り、これを手始めに医療・年金・介護などの給付切り下げや社会保険料の大幅引き上げをもくろんでいる。
 これは自民党や財界のいう「自立・自助」自己責任論によるが、生活保護の切り下げは現役労働者の賃下げをも誘導させるものである。また、日本ではこの制度の受給において「スティグマ」(恥の烙印)を受容させるという選別性が著しい。受給のプロセスや結果でも「水際作戦」や意図的な「バッシング」により、16年度では保護基準以下の貧困世帯(705万人)のうち受給者はわずか22.9%にすぎない。
 安倍政権はさらに、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定し、来年10月からの消費税率10%への引き上げとともに、「財政健全化」を口実にした社会保障費の大幅カットを強行しようとしている。
 改めて憲法25条における生存権保障、全国民への「健康で文化的な最低限の生活」の権利としての保障に立ち返り、社会保障を自己責任化する政治動向を批判し、労働者・国民の立場から労働政策と社会保障政策を連動させ、希望ある展望を作り出す主体の構築が必要である。

4.歴史的岐路に立つ情勢と研究所の調査・研究課題

 (1)職場に渦巻く切実な要求とその基本的性格

 1989年11月に全労連と連合の2つのナショナルセンターが結成されてから、30年が経過する。この30年は、新自由主義的「構造改革」路線にもとづく規制緩和が経済、労働などすべての分野で推し進められてきた時期といえる。
 いま、その矛盾がいたるところで噴出している。日本経済は、1990年のバブル崩壊以降、“失われた20年”といわれるような長期デフレ不況に陥っている。この間、経済成長率は低迷し、労働者の賃金は1997年をピークに下落するだけでなく、働くルールが破壊され、過労死、過労自殺、メンタルヘルス障害など、労働者の生命、健康を脅かす状況が広がっている。「働く貧困」が深刻化し、年収300万円未満の「貧困層」は、2729万人にも上り、労働者のなかに占める割合は、47.6%にもなっている。(国税庁「民間給与実態調査」)
 職場には、労働者の切実な要求が渦巻いている。重要なことは、労働者の切実な要求を実現するたたかいが、国の政治・経済の在り方と直結する課題になっているということである。労働者の切実な賃上げ要求は、デフレ不況を打開し、日本経済の国民的再生にとって不可欠な課題になっている。職場の過酷な労働条件を打開する取り組みは、安倍「働き方改革」と対決し、国の法律として働くルールを確立するためのたたかいの展望を切り開くものとなっている。

 (2)たたかう労働組合の役割の出番のとき

 職場における矛盾が激化する下で、労働者の要求を実現するという労働組合存立の原点に立って、労働組合本来の役割を発揮することが求められている。
 いま、労働組合存立の原点に立った、たたかう労働組合の前進こそが期待されている。全労連は結成以来、全労連を敵視する政府や財界の攻撃と対峙し、労働者・国民の切実な要求を取り上げ、たたかい、社会的な影響力をつちかってきた。
 全労連は、いま、安倍「働き方改革」の本質を明らかにし、働くルールの確立を掲げて、この攻撃とたたかうと同時に、「全国一律最賃制の確立」「最低賃金の引上げ」「同一労働同一賃金」など「社会的な賃金闘争」を前進させるために奮闘している。全労連運動の前進なしには、労働者の権利と要求を実現することはできない。
 正規、非正規を問わず、仕事と生活の両面で苦しんでいる広範な労働者の要求を前面にした取り組みをつよめ、労働組合への結集を強く働きかけていくことが求められている。
 労働組合の最大の力は、「団結力」である。安倍政権の下で加速度的に拡大している格差と貧困、各分野で矛盾が激化する状況の下で、世論と切実な要求にもとづく共同をひろげ、全労連の社会的な影響力を拡大し、組織強化につなげていくことが求められている。
 同時に、「安倍政治ノー」の市民的運動が前進する中で、その広がりに呼応しながら、労働組合間の共同、地域的な共同の前進に力をつくすことが期待されている。

III 2018〜19年度の事業計画

 労働総研は、政策提起を中心とした調査・研究活動を、歴史的岐路に立つ情勢にふさわしいかたちで、これまでの成果も生かし、発展させることが求められている。
労働総研の研究体制を効率的かつ充実した調査・研究体制としていくために、研究所プロジェクト中心の研究体制を確立する。

 1.研究所プロジェクト中心の研究体制の確立

 労働総研の英知を結集し、各研究部会との連携も重視した研究所プロジェクト中心の研究体制を確立する。そのために、常任理事と研究部会責任者も加わった研究所プロジェクト推進チームをつくる。
 研究所プロジェクトは、2期4年で成果をまとめることとする。基本的なスケジュールは、プロジェクト報告は3年間でまとめ、残り期間の1年は成果の普及、次期研究テーマの議論をするようにする。具体的なスケジュールは以下のようになる。
 初年度:総会(研究テーマの決定)⇒2年目:全国研究交流会(研究チームの研究進展具合の報告、会員の意見集約)⇒3年目:総会(研究中間報告、会員の意見集約)⇒最終年度:全国研究交流会(研究最終報告、次期研究テーマについての検討開始)
 各研究部会は、独自の研究テーマと同時に、研究所プロジェクトと関連するテーマについても、研究所プロジェクト推進チームの議論を踏まえて、目的意識的に研究するようにする。

 2.18〜21年度研究所プロジェクト――「働く貧困」と若者結集の課題を探る

 (1)研究所プロジェクトのテーマと推進体制

 今期・研究所プロジェクトのテーマは「働く貧困と若者」とする。その目的は、働く若者(18〜35歳)の置かれた状態を明らかにするなかで、若者結集の条件を提起することにある。
 このプロジェクトの意義は、(1)若者は日本社会の担い手である。労働組合にとっても同様であり、若者の結集なしに、その未来はない。若者結集の条件を明らかにすることは、全労連の運動にとっても重要になっている。(2)90年代後半以降、若者の状態悪化が急速に進行し、青年問題の重要性が強調されているにもかかわらず、働く若者の生活と意識の分析・研究は、必ずしも十分に行われているとはいえず、労働総研として、本格的にこの問題に取り組む中で、若者結集の政策課題を提起することは大きな意義をもつ。(3)貧困打開の運動など若者の間には新しい市民運動の流れが登場するとともに、その一方では、若者の間には、他の年齢層と比べて自民党支持層が多いという現実がある。そのギャップはどこから生まれるのかについても、若者の置かれた現状を明らかにする中で解明する。それは労働組合に若者の結集を図るうえでも重要な課題になっている。
 研究所プロジェクトは、常任理事と各研究部会責任者による研究所プロジェクト推進チームを中心に進めることとする。責任者は、代表理事とする。

 (2)「若者の生活・意識調査」を中心とした実態分析

 1)「働く若者の生活・意識調査」
 研究所プロジェクト「働く貧困と若者」の具体化の一歩として、全労連、地方労連・各産別の協力を得て「働く若者の生活・意識調査」(「若者1000人アンケート実態調査」)に着手する。
 この調査は、全労連青年部の協力も得て、若者調査推進チーム(事務局長、全労連青年部、若手研究者、事務局次長など)を結成し、調査の具体的作業を進めることにする。
 調査票については、労働総研の会員全体の英知を結集するために、メールで調査票案を送付し、調査票を充実するための意見を募集し、その意見を踏まえて、調査票を確定することにした。

 2)「若者100人聞き取り調査」
 「若者1000人アンケート実態調査」と同時に、全労連青年部と協力して「若者100人・聞き取り調査」をおこなう。アンケート調査で示された青年の生活・労働の実態とかかわって、聞き取り調査によって、青年の要求と要求政策の課題を整理する。
 この調査は、地方の会員の協力も得て進めることにする。

 (3)「若者調査」成功のための募金

 「若者1000人アンケート実態調査」には、地方会員の調査費、交流参加、アンケート回収費用など、多額の調査費用が必要になる。調査を円滑に進めるために、「若者調査推進募金」(一口1万円)を募ることにする。

 (4)調査結果と若者結集のための政策提言

 プロジェクト推進チームは、「若者の生活・意識調査」結果にもとづく若者の状態について分析を進め、若者結集のための政策提言をまとめる。そのために、責任者である代表理事のもとに作業チームを設ける。

 3.労働運動前進の理論・政策課題充実に向けた研究体制の整備・再編

 安倍「働き方改革」が強行されるという新たな局面を迎える中で、職場から働くルールをどのように確立していくのか、「生産性向上」と仕事と役割・貢献度に応じた賃金体系など労働者を分断する攻撃が激化する中で、この攻撃にどのように反撃していくのか、また、職場・地域を基礎にしてどう運動と組織化を前進させるかなど、日本の労働運動の前進に寄与する理論的・政策的活動を強化する。

 (1)研究部会の再編

 労働総研の各研究部会は、労働運動前進のための理論・政策課題に積極的に挑戦し、政策提言、公開研究会などで、その成果を普及してきた。前年度の労働総研の研究部会は、「賃金・最賃問題」「女性労働」「中小企業問題」「国際労働」「労働時間・健康問題」「労働者状態統計分析」「労働組合」「労働運動史」「関西圏産業労働」「社会保障」の10研究部会体制をとってきた。この体制について、研究所プロジェクト中心の研究体制とすることとかかわって、各研究部会の研究テーマについても調整することが必要になっている。そうした見地から、研究部会の統合、再編をおこない、効率的な研究体制を整備する。本年度の研究部会の体制については、総会後8月末までに研究会のテーマも含め申請の手続きをとることにする。これを受けて、常任理事会で検討し、研究部会をスタートさせることにする。
 研究部会の研究成果については、労働総研の2年サイクルの運営とあわせて、成果をまとめるようにする。

 (2)研究会――研究成果の発表、報告の目的意識的追求

 *経済分析研究会 AIと労働問題など、時々の労働問題の焦点になっている問題を取り上げ、研究する。その成果を公開研究会などで発表する。
 *大企業問題研究会 安倍「働き方改革」が大企業で具体化される中で生まれる職場の矛盾、財界・大企業の経営戦略、大企業労組と連合の動向の分析などを通じて、大企業職場における労働運動前進の条件を探る。
 *若者の仕事とくらし研究会 研究所プロジェクト「働く貧困と若者」との連携を強化し、働く青年の意識との関連で大学生のアルバイトなどにかかわる実態・意識調査なども行い、研究所プロジェクトに貢献する。
 *EWS これまで続けてきたように、英語の基本を繰り返し確認しながら、実践的な英語の書き方、とりわけ労働総研や労働組合の対外むけの広報に役立つ文書作成についても重視する。

 (3)国際労働問題については、国際問題報告・学習会を適宜開催

 国際労働研究部会は、全労連が発行する『世界の労働者のたたかい』の執筆・編集に協力することを中心にした活動をおこなってきた。同誌の発行が取りやめになったこととかかわって、国際労働問題については、時々の国際労働の焦点になっている課題について、報告・学習会を適宜開催する取り組みを進めることにする。

 4.全労連運動への寄与――情勢が求める実践的政策課題に取り組む研究会の新設

 研究所プロジェクトを2期4年間でまとめることとかかわって、時々の情勢のなかで、全労連運動が直面する政策課題に寄与することが必要である。これら政策課題について取り組む研究会を、全労連の協力も得て、適宜発足させ、全労連運動に寄与する。当面、全労連の提起を受けて、2つの研究会を新設している。
 *内部留保課税についての研究会 小栗崇資駒澤大学教授(会員)を中心に、内部留保に関心を持つ在京メンバー、全労連の担当者等で発足。研究成果をまとめ記者会見する。
 *労働者の連帯の再構築についての研究会
ナショナルミニマム問題ともかかわって、職場から労働者の連帯と参加を図り、職場を基礎にした運動の活性化を実現するための課題がどこにあるかについて、検討する。

IV.2018〜19年度研究所活動の充実と改善

 1.会員・読者拡大

 研究所プロジェクトの取り組み、シンポジウム、各種研究会など労働総研の具体的な研究活動を通して、会員拡大をすすめる。若手研究者・女性研究者の拡大をとくに重視する。実践的・理論的運動家にも会員拡大を呼びかける。また、『労働総研クォータリー』の新聞広告、ホームページなどによる宣伝の強化などを通じて、より広範な人に『労働総研クォータリー』の普及を行なう。

 2.地方会員の活動参加

 労働総研会員の英知を結集して研究所プロジェクトを成功させる取り組み、シンポジウムや公開研究会への参加を呼びかけるとともに、「労働総研ニュース」『労働総研クォータリー』への寄稿により、会員相互の交流の活発化を図る。地方会員の活動参加を多様な形でどうすすめるかについてもひきつづき研究していく。

 3.事務局体制の強化

 ボランティアの力も活かして、事務局活動を強化する。ひきつづき、『労働総研クォータリー』編集委員会などの円滑な運営のために機動的に支援する体制を強める。

 4.顧問・研究員制度の活用

 労働総研設立以来の経験・教訓を活かし、意識的に継承・発展していくためにも、顧問・研究員制度の活用は欠かせない。顧問・研究員との意見交換会などを、適切な時期に開催する。

2016〜17年度第8回常任理事会報告

 2016〜17年度第8回常任理事会は、2018年6月16日、小越洋之助代表理事の司会で行われた。

I 報告事項
 前回常任理事会以降の研究活動、企画委員会・事務局活動について藤田宏事務局次長より報告され、承認された。

II 協議事項
 1) 事務局次長より、次期研究所プロジェクトなどの進捗状況が報告され、承認された。
 2) 事務局次長より、第2回理事会での討論をふまえて文章化された2018-19年度定例総会方針案が提案された。討議をおこない、出された意見にもとづき必要な文章の補強をおこなうことを確認した。

研究部会報告

・女性労働研究部会(4月26日)
 「多様で柔軟な働き方をめぐる最近のうごきと課題」について中嶋晴代さんが「雇用類似の働き方に関する検討会報告」を中心に報告した。「雇用関係によらない働き方」がすすめられる下で、「労基法研究会報告の『労働者』の判断基準」の見直し、職場から非正規への置き換えや業務委託化等を許さず、労働者性を認めさせるたたかいの強化、「働き方改革関係一括法案」阻止、女性が働きやすい労働条件の確立と職場づくりなどが論議された。

6月の研究活動

6月1日 若者調査企画推進チーム
  5日 女性労働研究部会
  14日 国際労働研究部会
  15日 労働組合研究部会
  18日 内部留保に関する研究会
  19日 賃金最賃問題研究部会
  25日 労働運動史研究部会
  29日 若者調査企画推進チーム

6月の事務局日誌

6月7日 (公財)全労連会館理事会
  9日 労働総研クォータリー編集委員会
     労働者教育協会総会へメッセージ
  16日 第8回常任理事会
  20日 企画委員会
  22日 労働法制中央連絡会事務局団体会議