労働総研ニュースNo.337 2018年4月



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働き方改革:高度プロフェッショナル制度の欺瞞 緒方 桂子
注目を集めたスペインとアメリカのストライキ 岡田 則男
常任理事会報告ほか




働き方改革:高度プロフェッショナル制度の欺瞞

緒方 桂子

 第196回国会は「働き方改革」国会と位置づけられている。ここでは新たに創設が目指されている高度プロフェッショナル制度(高プロ)について述べてみたい。
 高プロ(特定高度専門業務・成果型労働制)は、(1)高度の専門知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務を、(2)年間平均給与額の3倍を相当程度上回る額の年収を受け取る労働者が、(3)同意した場合に労働時間規制から除外することができる。(1)として、今のところ、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務、コンサルタントの業務、研究開発業務等が想定されているようである(2015.2.13「今後の労働時間法制等の在り方について」(建議)参照)。また、(2)として年収1075万円という金額が具体的に挙げられている。
 高プロは、「働き方改革」において、「意欲と能力のある労働者の自己実現の支援」と位置づけられている。時間に縛られず働き、あげた業績(成果)に相応した処遇を受ける労働者のイメージである。たしかにこのような労働者はいるだろう。
 しかし、現行法の下でもこのような働き方はまったく可能である。日本の時間外労働に対する規制はきわめて緩い。また、成果に応じて給与額を決定することも法的にまったく問題がない。さらに、上記@に挙げられている業務のうち「金融商品のディーリング業務」以外の4業務は専門業務型裁量労働制の対象であり、現在でも、厳格な労働時間規制の対象から除外されている。加えて、職制上の管理職ではないもののその権限や処遇のあり方から特に法の保護を及ぼす必要がないとされている者(「スタッフ職」という)は、労基法41条2号の対象に含めて労働時間規制から外すという行政解釈が行われてきた(昭52.3.7基発119号)。
 法改正を行わなければ労働者の「自己実現」が阻まれるかのようないいぶりはまるで意図的な印象操作である。なぜ強行しようとするのか。人件費削減と将来的な対象範囲の拡大がもくろまれているとの非難の方が真実を言い当てているように思えてならない。
 *なお、「働き方改革」の労働時間法制改変に関してより詳しく検討した最近の論文として、緒方桂子「『働き方改革』における労働時間法制改変の表と裏」法と民主主義526号。

(おがた けいこ・常任理事・南山大学教授)

注目を集めたスペインとアメリカのストライキ

岡田 則男

 多くの資本主義国で非正規労働者が増大し、資本の労働保護法制や労働組合の権利への攻撃がつよまって労働組合運動が次々とあらたな困難に直面しているなか、最近注目すべきたたかいがあった。ひとつは3月8日の国際女性デーへの大規模な取り組みに見られるような、スペインの労働組合中央組織、――「労働者委員会」(CCOO)と労働総同盟(UGT)を主力とした格差反対から年金の増額まで様々な要求にもとづく運動である。もうひとつは米国のウエストバージニア州の教職員が州内すべての公立学校で9日におよぶストライキで基本的な要求をかかげてたたかったことである。

1. スペインの「女のストライキ」に500万人

 3月8日、今年も世界中の国々で国際女性デーのさまざまなイベントがあった。スペインでは、異例の「ストライキ」であった。首都マドリードでは零時過ぎから賃金を含め女性にたいするいろいろな差別や暴力に抗議する集会がはじまった。夜が明けてスペイン全土100余りの市や町で国際女性デーのデモや集会が行われた。
 500万人を超える人々が賃金差別や非正規労働者の雇用・労働条件に抗議する部分ストに参加したとのことである。日本を含め世界各地で毎年行われている国際女性デーであるが、人口4700万ほどのスペインでこの数字は世界中のメディアも詳しく報じた。女性の賃金の男性との格差、家庭内暴力をなくせなど、女性の地位の向上を求める大行動であるが、今回スペインでは他の国々とは様相がちがったのは全国規模の「女のストライキ」で取り組んだことだった。
 それを呼びかけたのはいわば「3・8実行委員会」(Comisión 8M)。3月8日に向けて記者会見、集会などをひらいて宣伝するなど半年以上の時間をかけて準備したものだった。労働組合の主要中央組織(ナショナルセンター)である「労働者委員会」(CCOO)、労働総同盟(UGT)が全面的支援に取り組んだ。3・8抗議行動を支持する労働組合は15分間のストライキを呼びかけた。労働組合以外の労働者、学生も参加してた全国「ストライキ」となった。昨年も「女のストライキ」はあったが、労働組合の参加・支援はなかった。本来の意味での「ストライキ」ではない。女性は職場に行かない、家事もしない、家族の介護もしない、さらにはお金を使わないことによっていかに消費者としての女性の力が大きいかをしめそう――実行委員会はこうよびかけた。学生も授業に行かず「ストライキ」に参加した。
 全国15か所でデモ行進、約100か所で集会がおこなわれた。首都マドリードでは1万人が参加。学生も2000人が大学地区をそれぞれデモ行進した。
 政党ではスペイン共産党を中心にした「統一左翼」(IU)、市民の不服従運動を基盤につくられた「ポデモス」が支援した(*)。社会民主党の社会労働党(PSOE)は労働組合の2時間のストを支持した。
 「3・8スト」で、デモや集会が各地を埋め尽くした様子は国内のテレビ、新聞だけでなくニューヨークタイムズやBBC、CNNなど多くのメディアでも大きく報じられた。
 一挙に国民的かつ戦闘的な「国際女性デー」となるなかで、新自由主義にもとづく緊縮政策を押し付ける与党の国民党(PP)が「3・8スト」を批判したのは不思議なことではないが、ここで「日本型スト」をめぐる議論が起きた。発端は2月21日のガルシア・テヘリーナ農業相の発言だった。日本人はストライキなんかやらないで長時間働いて成功しているかのような、スペイン語圏でときどき語られる「神話」を持ち出して「私だったらもっとこの日(国際女性デー)を日本型のストライキで過ごします。もっと長い時間働いて持っている能力をもっと発揮するように」と発言し物議をかもし労働組合などの批判を招いた。
 *スペインでは2011年5月、投機的金融資本のいいなりになって経済危機を労働者の犠牲で乗り切ろうとするスペイン政府、欧州連合(EU)の緊縮政策の押し付けに怒った若者たちが抗議行動にたちあがった。5月15日にマドリードのプエルタ・デル・ソル(太陽の門)広場の座り込みが全国に広がったので、15−M運動という。これは少し前の2月の「アラブの春」に続く動きであり、また同年9月米国では「ウォール街を占拠せよ」(オキュパイ)運動が始まる。ポデモスは、統一左翼と政策協定にもとづく「ウニドス・ポデモス」という会派で議会内外で共同している。

年金引上げを求める大行動
 さらに、スペインでは年金支給額の引き上げをめぐって、政府が昨年決定した0.25%の年金引き上げでは生活ができないと、引き上げを要求する運動が全国的にひろがっている。今年に入ってからは2月15日、22日マドリードを中心にデモや集会がおこなわれ、3月1日には年金生活者がマドリードの街頭に繰り出した。3月17日にも全国100を超える市や町でCCOOやUGTなどの労働組合も参加してデモや集会を繰り広げた。
 スペインはこの数年間に景気が回復し、GDP(国内総生産)成長率は2015年以来3%台であるが、物価が上昇し、政府の0.25%の増額に不安と不満が増大している。
 出生率が欧州でも最低レベルで、2031年には人口の25.6%が64歳以上の高齢者になるとの予測があり、将来的に年金制度を維持することが難しくなるのではないかとの懸念が広まっている。
 世界的経済・金融危機が始まってから数年後の2011年に発足したマリアノ・ラホイ政権は厳しい緊縮政策を実行し、年金基金668億ユーロに手をつけて野党の強い批判をあびた。そうしたなか、同政権は国民にたいして、民間の年金プランに加入することを勧めている。社会労働党などは、年金制度の民営化を目指すものだとラホイ首相を批判。CCOOなど労働組合は、公的年金制度を守り年金支給額の引き上げを要求して年金者の組織と共同の行動を進めている。
 CCOOなど労働組合や年金者組織のねばりづよい行動が展開されるなかで、ラホイ首相は、みずからの経済政策を正当化しつつも、年金については将来にはよりよい年金にするよう努力を払うと、抽象的ではあるが言明せざるを得なかった。

広がり続ける格差と貧困、不安定雇用
 景気回復がいわれるなかでもスペインの貧困率は22.3%。実に1000万人が貧困状態にあるという。近い将来28%になるという予測もある。貧困ラインは年収が単身者で8,209ユーロ(約100万円)、大人2人と子ども2人の世帯では17,238ユーロ(約224万円)となっている。
 今とくに深刻なのは、経済成長を続けているスペインで給与が、年齢が若いほど上昇率が低いことだ。2015年の調査によれば、40代以下の労働者は下がっており、40歳以上ではわずかに増えており、60〜64歳は2.55%増えているとのことである(国家統計研究所(INE)が2017年7月に発表)。2015年にはじめて全体として給与が下がった。具体的にどのぐらいの給与所得があるのかというと、24歳以下が11,228ユーロ(約146万円)で前年比5.1%減。25〜29歳は16,064ユーロ(約200万円)で前年比1.6%減。30〜34歳は19,597ユーロ(約254万円)で前年より3%減。35〜39歳は22,397ユーロ(約291万円)で、2.3%減だった。)
 スペインの給与はでは勤続年数で増えていくので、転職すればそれだけ不利ということになる。ちなみに2015年の年間給与の全体の平均は16,498ユーロ(約214万円)で前年よりわずかに8%増だった。これらは非正規を含めた数字である。
 正規労働者(フルタイム)は平均で27,039ユーロ(約351万円)、非正規で常用雇用労働者の平均給与は24,561ユーロ(約320万ユーロ)、有期契約の非正規の場合は16,422ユーロ(約213万円)となっていた。女性の賃金は男性の77.1%であった。
 スペインの労働者の不安定雇用(precariedad laboral)率は欧州連合のなかでも最も高いという。主にヨーロッパで使われている「不安定雇用」は非正規、低賃金、労働者保護なしの雇用状態をいうが、2016年当時でEU全体の平均が14.2%だったのにたいしスペインでは26.1%であった(経済協力開発機構(OECD)の統計によると、スペインは臨時、派遣、労働時間の定めのない仕事などすべての総称のようである)。非正規率をすくなくともEUなみに引き下げていかないと、雇用増も再配分増も不可能であるとCCOOなどは指摘し、格差をなくすこととあわせてたたかいの重要な課題として位置付けている。
 CCOOは2月、派遣、臨時、パートなど不安定雇用の悪用がどのように行われているかの分析と対応を議論する会議を開いた。法律家と全国から集まった労働組合活動家が参加した。ウナイ・ソルドCCOO書記長は、スペインで一時雇用の割合が最も高いのは、一時雇いという悪質な手段がとられている結果だと強調した。法的観点から、またとくに労働組合の行動によって、とくに青年や女性の問題になっている不安定雇用をなくすこと、それは労働組合の最優先課題であり、先に触れた「3・8スト」がこの点で非常に重要な取り組みになるとものべた。
 スペインのラホイ政権は軍備増強計画で今後15年に100億ユーロ余り(約1兆3千億円)をつぎ込む方針であると報じられている。この金額はスペインの最低年金支給額の引き上げに必要な30億ユーロの3倍だと、オンライン新聞「エル・プルラル」は書いている。しかし、一連の年金引きあげ要求の運動のなかでは語られていない。

2. ウエストバージニアの教員、公務員のたたかい

 米国でも、労働組合運動の衰退が当たり前のように語られるようになって久しい。今回のウエストバージニアの教員ストは、5%の給与引き上げを勝ち取って注目を集めた。
 ウエストバージニアといえば、『カントリー・ロード』として日本でもよく歌われてきた”Take Me Home, Country Roads”を思い浮かべる人も少なくないであろう。最近ではまた、2016年の大統領選挙で勝利したドナルド・トランプの重要な票田であったことでも話題になった。トランプは多くの内外の反対を振り切って地球温暖化を止めるパリ協定から離脱してでも低迷する石炭産業を「守る」ことを実行している。このウエストバージニアでこのほど大きな注目を集めたのが、公立学校教員がストライキをたたかって給与引き上げ5%を勝ち取ったことである。この引き上げは州のすべての職員に適用する見通しだという。また州は、健康保険にかかるコストの増大にどう対処するかについての検討を開始することについて同意した。
 2月22日、州内50の郡(counties)の公立学校の教員は学校に現れず、すべての学校が休校になった。なぜ、先生たちはこういう行動をとったのか。ひとつに、教員(だけでなく州、市町村の公務員)の給与があまりにも少ないことにたいする不満が渦巻いていたこと。そしてそれと関連して教員不足が慢性化しており、多くの学校が複式学級を実施したり、担当外の教科も兼任しなければならないなどの問題をかかえている。学校現場では、教員になり手がいないために、たとえば数学の教免をもつ先生に数学をおそわったことがないままに卒業する生徒もいるほどだという。
 最大の教員組合「ウエストバージニア教育協会」がストを決行したものだったが、先生たちのみずからの生活だけの問題ではく、教育条件を改善するために必要なこととして位置付けられたのであった。

5%引き上げ勝ち取る
 ウエストバージニアは、米国でももっとも貧しい州のひとつとしても知られ、公立学校教員の給与も最も低い州のひとつであるが、これまで4年間昇給がなかった。教員組合は向こう3年にわたって1万ドルの引き上げを要求している。
 教員の給与額(2017年)は全米平均が58,950ドル(約760万円)に対して、ウエストバージニアでは平均44,000ドル(約570万円)。それほど低くないように見えるが、全米のランキングでは50州のうち48位である。このため隣接のメリーランド、バージニア、ペンシルベニア、オハイオの各州との境近くに住む人たちは賃金のよいこれらの州に職を見つけようとする。週末ファストフードなどのアルバイトをする教員も少なくないという。
 当初、州知事は議会が承認した給与の2%引上げの法案に署名したが、教員たちは、健康保険料の値上がり分にも満たないとして5%の引き上げを求めたのであった。
 ストライキの結果、ジム・ジャスティス州知事と州の教員組合の間で5%の引き上げ法案を州議会にかける合意が成立し、州議会上下両院も全会一致でこれを承認した。しかし州議会上院議員の多くはこの法案に否定的で、逆に4%の引き上げを提案した。それにたいして教員組合側は強く反発した。また、今回の合意は「健康保険」、つまり州の保険料の値上がりのなかで州の公務員保険局が保険の運用などの問題を解決する内容がふくまれていないため、教員組合は直ちにストを解除することはしなかった。「これはすごく大きな問題なんです。健康保険は何度も改悪されてきて、生存するために非常にカネがかかるようになってしまっています」と中学教員で組合活動家はいう(オンラインJacobin誌)。
 そして3月6日、両院協議会がひらかれて5%の引き上げ法案に同意。下院でも上院でも反対なしで、引き上げ法案が承認された。これで、教員だけでなく職員、州警察官の給与も上がる見通しとなった。
 (*)米国では国の公的健康保険制度がないため、民間の医療保険に加入しなければならない。保険料は年々上がる。公務員や民間の企業で正規職員・社員として雇用されていれば通常どこかの保険会社の健康保険に加入し、保険料は労使が一定の割合を負担するようになっている。民間企業では労働協約改定交渉のさいに負担率を決めている。

たたかいの歴史・教訓を受け継ぐ
 ウエストバージニアでは、公立学校教員を含む公務員は団体交渉権がなく、ストライキが禁止されている。つまり、同州の公務員は法的に認められた手段で罷業に打って出ることはできないのであるが、実際に労働者が組織して団結すれば、合法かどうかという問題は二の次になる、というわけである。
 米国で公務員が組織的なたたかいに取り組むというのは50年代以降のことだった。それまで公務員の労働組合はほとんどなかった。団体交渉権が認められた州は1955年に1州(ニューヨーク)、65年にやっと10州という状況であった。1960年にニューヨークの教員が職場放棄でたたかったことで大きな変化がうまれた。
 60年代から70年代に公務労働者のストライキが盛んにおこなわれた。幾百万の公務労働者が参加した。いわば「違法スト」が多く、議会はストに処罰で対処し、裁判所は「差し止め命令」をだし、企業の側にたつメディアはストを声高に非難するという状況になるのであるが、もしストライキが大規模で、大義が明確で、コミュニティの支持が得られれば、厳しいペナルティが課されることもなかったという。このようなたたかいの伝統を公務労働者は引き継いできており、今回のウエストバージニア州の教員たちも、こうした流れを汲んで「草の根の反乱」的なストライキを行い、賃上げ要求を勝ち取ったのであった。
 ただし、法律を無視して実力行使すればいつでもたたかいに勝利できるとはかぎらないことを歴史が教えている。1980年代はじめ、レーガン政権が発足して最初に着手したのは新自由主義政策遂行のじゃまになる労働組合つぶしであった。航空管制官の組合がストライキをすると、代替要員をいれて、スト参加組合員は解雇されたのが代表的な例である。
 「100年前、ウエストバージニアの炭鉱労働者は公正な賃金働くものとしての尊厳を求めるたたかいの先頭に立ちました。今日、ウエストバージニアの学校の先生たちはその勇敢な伝統を受け継いでいます。私はその正義と尊厳のためにともにたたかいます」――2016年の大統領選挙で大企業優先の政治から働くもののための民主的な政治への転換を訴えて善戦したバーニー・サンダース上院議員がツイッターでこうコメントした(3月3日)。
 2016年の大統領選挙でウエストバージニアの有権者はトランプに投票した人のほうが多かった。しかし民主党の予備選挙では、ヒラリー・クリントンよりもサンダース候補への強い支持があった。革新的な人々の間には、この直近の大統領選挙にみられた保守の看板を、むかしの炭鉱労働者のたたかいのような、労働者の利益を守る立場に戻るのではないかとの期待があるといわれている。
 ウエストバージニアの教職員は、米国史上最大のストライキとなった1921年の「ブレア山のたたかい」でピケを張った炭鉱労働者がそうしたように赤いシャツ、バンダナ姿で集会などの行動に参加した。
 今回のストライキで教職員はまた、一般の州民の間で、公立学校がかかえる問題、教員の給与待遇の実情にたいする関心を高め、州内で広範な草の根の連帯も生まれた。それは1960年代、70年代に多くの地方で繰り広げられた公務労働者のたたかいを想起させるものでもあった。たとえば1974年に米東部のメリーランド州ボルティモア市で清掃労働者のストライキである。当時、収集されないごみの山があちこちにでき、市のその他の職員がピケに加わり、彼ら自身もストライキに入ったことで町中に問題が知られるようになり、市の重い腰を上げさせた。なぜこれが大事かといえば、州、地方公務員のばあい、当局は要求や不満を、職場ごとの個別の問題として処理しようとするのが通例になっているからである。今回、ウエストバージニアでは、草の根からの声と力を最大限引き出して、教員組合の指導部が「もう仕事に戻ろう」とよびかけることがあってもそれを拒否してストライキを続けたとのことである。組合の狭量な指導部を交代させたり、新しい組合をつくったところもあったという。
 ウエストバージニアの今回のストライキは他の州の教職員、公務員にも「たたかえば勝ち取れる」という確信を持たせ励ましとなったようだ。ケンタッキー州では州議会で共和党の議員が退職手当のカットを提案したのに対し、議会公聴会に数百人が詰めかけ否決を求めた。同州の28の学校で教員がそれぞれ集まってデモを行うことを決めた。オクラホマ州でも教職員4万1000人がストライキを構えている。オクラホマ教育協会のアリシア・プリースト委員長は、一部の教員は職場放棄などの行動に後ろ向きだったが、ウエストバージニアのストライキで目的意識を強くしたと語っている(ブルームバーグ)。

バージニア・オプション
 折しも米国では、連邦最高裁判所が国の公務員労働組合の死活にかかわる訴訟の審理を開始した(2月28日)。これは米国の50州のうち半数以上の28に広がった「労働権法」で公務労働者が組合に加入しない自由を認めた州法にかかわる問題である。この悪法を「根拠」に、公務員組合が非組合員をふくめて公務労働者から組合費を集めるのは違法であるとする人が裁判に訴え、米国州郡市町村職員連盟(AFSCME)という州・地方自治体労働者の組合の全米組織を訴えたものである。
 連邦最高裁は9人の判事で構成されるが、保守派のアントニン・スカリア判事が2016年2月に死去したため、この訴訟をめぐっては4対4と別れた。その後トランプ政権はあらたに、超保守派のニール・ゴーサッチ氏(コロラド州デンバー第10巡回控訴裁判所)を指名し承認されたため、反労組の最高裁決定になることが懸念されている。
 「労働権法」を主張する保守派は、雇用、労働問題は個別に雇用者と労働者が話し合って解決を図るべきであるとの立場で、組合を事実上否定する。その意味で、今回のウエストバージニアのたたかいは、連帯と戦闘性を大事にし、一般の労働組合員の行動、草の根からの力を発揮する、そういうたたかいかたで、保守派からの反労組攻撃への反撃を加えたものといえるかもしれない。これを「バージニア・オプション」(バージニア方式)と呼んでいる。

(おかだ のりお・常任理事・ジャーナリスト)

第7回常任理事会報告

 2016〜17年度第7回常任理事会は、都内で、2018年3月17日、小越洋之助代表理事の司会で行われた。
T 報告事項
 前回常任理事会以降の研究活動、企画委員会・事務局活動について藤田宏事務局次長より報告され、承認された。
U 協議事項
 常任理事会に先立って開催した「研究体制の在り方検討チーム」(常任理事会・研究部会責任者で構成)で議論された、定例総会までの研究所プロジェクトなどの工程表、研究所プロジェクトと研究体制の在り方について、および研究予算の在り方、研究所プロジェクトテーマと各研究部会の研究テーマについて、承認した。今後の総会までの主な日程として、第2回理事会を5月12日に、第3回理事会および2018〜19年度定例総会を7月29日に開催することとした。

研究部会報告

・労働時間・健康問題研究部会(2月9日)
 鷲谷徹中央大教授から、いま焦点の働き方改革一括法案の「労働時間問題をめぐる政策対抗―『働き方改革実行計画』をめぐって」と佐々木昭三常任理事から研究所プロジェクトの関連で「青年労働者の過労死・過重労働」の報告と討論を行った。

1〜3月の研究活動

1月26日 労働組合研究部会
2月4日 社会保障研究部会
  6日 女性労働研究部会
     賃金最賃問題研究部会
  9日 労働時間・健康問題研究部会
     国際労働研究部会
  14日 労働組合研究部会
  20日 中小企業問題研究部会(公開)
  23日 若者調査企画推進チーム
3月1日 内部留保に関する研究会
  3日 大企業問題研究会
  9日 国際労働研究部会
  20日 賃金最賃問題研究部会
  24日 経済分析研究会(公開)
  27日 労働組合研究部会
  29日 女性労働研究部会

1〜3月の事務局日誌

1月12日 全労連旗びらき
  18日 2018春闘提言記者発表
  20日 第6回常任理事会
     第2回研究部会代表者会議
  22日 労働法制中央連絡会事務局団体会議
  26日 労働運動記者会(三田クラブ)総会
  27日 電機・情報ユニオン旗びらき
2月10日 労働法制中央連絡会『安倍「働き方改革一括法案」阻止!2.10決起集会』であいさつ
  17日 全教大会へメッセージ
  22日 全日本民医連総会へメッセージ
  26日 労働法制中央連絡会事務局団体会議
3月2日 企画委員会
  8日 (公財)全労連会館理事会
  10日 労働総研クォータリー編集委員会
  14日 全損保大会へメッセージ
  17日 第7回常任理事会
     研究体制の在り方検討チーム
  20日 労働法制中央連絡会事務局団体会議