労働総研ニュースNo.336 2018年3月



目   次

技術革新の脅威と「働き方改革」 木下 壽國 
経団連「経労委報告」と「働き方改革」 牧野 富夫 
常任理事会報告ほか




技術革新の脅威と「働き方改革」

木下 壽國

 「働き方改革」に絡んで技術革新の動向に大きな注目が集まっている。2016年には、モノにセンサーをつけてインターネット上で管理する“IoT”が産業界で大ブレーク、17年には、いわゆる“AI”(人工知能)がこれまた大ブームになった。その流れは、基本的に18年も続いている。そんな中、IT・エレクトロニクス関連企業を束ねる電子情報技術産業協会(会長・長榮周作パナソニック会長)はさきごろ、国内企業のIT調査(17年実施)の結果を発表した。それによると、IT投資が「極めて重要」と答えた企業は、前回調査(13年)の16%から26%へと約1.6倍に増えていた。企業が技術革新を明確に意識していることがわかる。ただ、結果は調査側にとって必ずしも満足できるものではなかったようで、報告した東純一氏(富士通執行役員)は「AIは、ブームが先行。働き方改革は、残業削減などではなく、本来は生産性を上げることを基本にしていかなくては」と述べた。ここには、働き方改革や技術革新を生産性向上につなげていきたいとの経済界の本音がのぞく。
 では労働側は、この結果をどうとらえるべきか。“AI”はまだブームにとどまっている程度だから、たいしたことはないと高をくくっていられるだろうか。断じて「ノー」である。筆者は「週刊金曜日」(17年11月24日号)に、クラウド技術と高度化したスマホとの結びつきがテレワークの実現を可能にしたのだと書いた。わずかこの1、2年で各技術や機器が飛躍的な進歩を遂げ、要素技術を組み合わせることで、これまでは難しかったテレワークなども容易にできるようになっているのだ。
 「週刊エコノミスト」(17年11月28日号)は、会計士・税理士業界を取り上げ、クラウドを利用した会計ソフトが彼らの職を奪う危険性を指摘している。筆者も、あるビジネスセミナーで、会計事務所の経営者がこのままでは会計士の仕事がなくなっていく、と危機感を漏らすのを聞いたことがある。背景には、電子帳簿保存法の規制緩和(17年)や税金申告作業の電子化推進など、デジタル化を進める法・制度の後押しがある。要するに国が、それらを推進しているのだ。最近突然の「流出」で大きな話題になった「コインチェック」にも同様の構図が見られる。金融庁は改正資金決済法(17年施行)で仮想通貨を法的に位置づけており、問題が起きても電子化の規制には消極的だ。ウーバーによる“白タク”や、ネットを利用した“民泊”も同じ流れの上にあり、技術革新を生産性向上へ、というのは政府の一貫した姿勢になっている。そして、それらの労働版総仕上げともいうべきものが、政府が今国会に提出しようとしている「働き方改革」法案の本質なのだ。

(きのした としくに・会員・ライター)

経団連「経労委報告」と「働き方改革」
―― 「もっと働け」プラス「ちゃんと働け」で搾取強化 ――

牧野 富夫

はじめに

 安倍晋三首相は、今通常国会を「“働き方”国会」と特徴づける。しかし、政府の「働き方改革」なるものが多岐にわたり、わかりにくい(関連法案8本を一括)。わかりにくいのは「多岐にわたる」こと以上に、「立場」が隠されているからだ。政府の「働き方改革」は、財界・大企業のための「改革」である。労働者からすれば「改悪」以外のなにものでもない。にもかかわらず、「中立」を装っている。安倍首相は「働く人の立場に立った改革」、「労働者に寄り添う改革」である、とまでいう。
 対して経団連の「経労委報告」は旗幟鮮明である。財界の総本山とされる経団連がつくり提起した生粋の「大企業のための働き方改革」である。こちらは「資本の論理」・財界の「立場」丸出しである(そうでない箇所もあるが)。基本視点・内容は、どちらも同じである。小論では、政府の「働き方改革」を、その本家である経団連の「働き方改革」を重視しつつ検討する。
 あらかじめ、経団連や安倍政権の「働き方改革」とは何か、ズバリ示そう。「もっと働け」から「ちゃんと働け」へのギアチェンジだとされる。しかし、これは表向きの言い草で、事実に反する。本当は、これまでの「もっと働け」も新手法で強め、そのうえ「ちゃんと働け」という新しい搾取方法も付加する、ということだ。「Aの代わりにBでいく」ではなく、「AもBも」という「欲張りな改悪」である。何のためか。大企業・財界の成長戦略のためであり、少子化による「労働力不足」下の搾取強化の追求という側面が大きい。
 春闘で労働者・労働組合がたたかう相手は、企業・財界だけではない。相手は企業・財界と政府の“二人三脚”なのだ。だから大きな力の差がある。この力関係のまま団体交渉を繰り返しても、労働者・労働組合の要求を実現させることは難しい。国民世論を味方に、こちらは国民との“二人三脚”で立ち向うことだ。これが“国民春闘”体制にほかならない。国民の理解がなければストライキも打てないではないか。
 国民との二人三脚を強めるには、賃金・労働時間の改善など労働者固有の要求だけでなく、消費税増税を止めさせ、各種の社会保障などを拡充させるためのたたかいも強めなくてはならない。こうした国民的な要求の実現には、要求の一致する野党との共闘も強めることだ。さいわいいま、このようなスクラムが「市民と野党の共闘」として全国に広がっている。憲法をめぐるたたかいが今年の焦点になっている。国民春闘を前進させる絶好のチャンスである。
 なお、今通常国会で始まった「働き方改革」の議論は、昨年3月にまとめられた実行計画にもとづく「法案要綱」(昨年9月)をめぐって展開されている。「働き方改革」の目玉は二つで、「長時間労働の是正」と「同一労働同一賃金」とされるが、後者についての記述が「法案要綱」にみあたらない。しかし安倍首相は、それを目玉として強調し続けている。ここでは「同一賃金」論については、16年12月政府作成の「同一労働同一賃金のガイドライン」を念頭に、とくに「経団連報告」を対象に検討する。

1 「官製春闘」・同一労働同一賃金・最低賃金

 なんといっても春闘の花は大幅賃上げである。早々と安倍政権が「3%アップ」(定期昇給込み)を呼びかけ、経団連がこれに「年収3%アップ」で応じている。経団連のねらいは、ベースアップはなるべく抑え、一時金(ボーナス)などを含め年収ベースで「3%アップ」に努める、というものだ。メディアがこれをとらえ、18春闘を「官製春闘」の“完成”と特徴づけている。たしかに春闘賃上げの呼びかけを政府が数字で示したのは今回が初めてだ。
 以下まず、この「官製春闘」なるもののオモテとウラを考える。ついで、これも政府が鳴り物入りで宣伝する「同一労働同一賃金」とはいかなる内容か、経団連の見解を中心に検討する。安倍政権は「同一労働同一賃金」を「働き方改革」関連法案のなかでも「売り」と位置づけている。野党のなかにも、束ねられた「働き方改革」関連法案のうち「同一労働同一賃金」は「歓迎できる」と評価する向きもある。しかと見極めたい。
いま一つ、最低賃金制の改善もそれ自体はむろん重要である。これは同一労働同一賃金と一対で改革されると効果が大きい。とりわけナショナルミニマムの基軸としての最低賃金制の役割は大きい。しかし、「報告」はこれに敵対する。

a)「官製春闘」のオモテとウラ
 いま大企業の経営状態は隠そうにも隠せないくらい快調で大儲けしている。たとえば、トヨタの18年3月期見通しは、純利益で2.4兆円に上る。これは日本企業最高の記録更新である。また17年4〜12月期の決算でも、営業利益は前年同期比でなんと40.5%増の2兆131億円に跳ね上がった。これはトヨタだけの話ではなく、軒並み最高益を見込むという状況になっている。「経常利益はリーマンショック後最大である」(日経、2月8日付)。また、大企業の内部留保は、いまや400兆円を突破している。
 これに対して労働者の状態はどうか。賃金は、ここ数年名目賃金が雀の涙ほど上がったものの、実質賃金は前世紀末いらい低下傾向にあり、昨年もマイナスだ。貯金ゼロ世帯が3割を超え(単身世帯では約半数におよぶ)、当然ながら個人消費が落ち込んでいる。この落差・矛盾を緩和するには、大幅賃上げしかない。全労連が月2万円以上の賃上げを決め、傘下のJMITUは月3万円以上の賃上げを要求している。控え目ではあるが、これは値切れない労働者のギリギリの要求にちがいない。だれがみても大幅賃上げ当然の今春闘なのだ。
 今春闘の賃金をめぐる情勢は、このようである。そこに安倍政権が「3%賃上げ」(定期昇給込み)を演出した理由がある。「真のねらい」(ウラ)は何か。放置すれば10%超の大幅賃上げになることを恐れ、「定昇込み3%」という「微小賃上げガイドライン」を打ち出したのだ。「官製春闘」のオモテの顔は「賃上げ奨励」にみえるが、ウラの顔は「賃金抑制」なのである。メディアが気づかぬはずはないが、オモテの顔(「賃上げ奨励」)しか報じない。すべからく安倍政権の口先政治は「二枚舌」である。
 残念なのは、最大の労働団体=連合の動きである。「定昇込み4%賃上げ」(ベア2%)という自粛要求にとどまっている。だから事実としていま、政府・財界・連合という賃金抑制のトライアングルが形成されているのだ。
 これを突破しなければ日本経済は浮上しない。経団連よ、目先の利益に埋没するなかれ、と言いたい。労働者が驚くような大幅賃上げをしなければデフレ脱却など夢のまた夢に終わる。個人消費は「ちびちび賃上げ」では伸びるはずがない。ドカンと上げてみよ、労働者の財布の紐は必ず緩む。

b) 「同一労働同一賃金」をめぐる迷走
 そもそも「同一労働同一賃金」とは、資本による男女間その他の賃金差別の解消を求める労働者・労働組合のたたかいの原則である。のちこの原則は、ILO設立の根拠となったヴェルサイユ条約(1919年)で宣言され、1951年には男女の同一価値労働同一賃金を明記したILO100号条約と90号勧告が成立している。この原則は、企業や産業の違いを越えて同一価値の労働であれば、性別・年齢・職種などの違いにかかわらず同一・同等の賃金を支払うべき制度として、多くの国で制度化(法制化)されている。
 ところが、いま政府の「働き方改革」の一環として予定されている「同一労働同一賃金」は、同一企業の正規雇用労働者と非正規雇用労働者間の賃金格差の縮小だけに矮小化したもので、労働者・労働組合が要求する制度とは大きくかけ離れた代物である。それだけではない。それは格差縮小を謳いながら、「正社員改革」の名のもとに正規雇用の賃金を下げ、賃金の“低位平準化”をねらった賃金抑制策なのだ。
 経団連の「同一労働同一賃金」憎悪は強く、「成果主義」化をもって「同一労働同一賃金」に代えたいのだ。この「ごまかし」が2011年の「経労委報告」いらい一貫した立場である。その隠されたねらいは、「同一労働同一賃金」導入の土壌づくりをするかにみせ、このさい一挙に「年功賃金」を解体することにある。18年「報告」では、つぎのように述べている。
 「今後、正社員とパート・有期・派遣社員との不合理な待遇差の解消を目的とした、同一労働同一賃金の法制化が予定されている。企業労使で十分に話し合い、雇用形態ごとの職務内容や人材活用の仕組みなどを整理するとともに、待遇の納得感を高めていくため、賃金制度や福利厚生・教育訓練制度について再点検した上で、必要な見直しを図っていくことが望ましい」(「報告」72ページ)。
 みてのとおり、のらりくらりの記述で、「欠陥商品」である政府の「同一労働同一賃金」構想にさえ背を向けているのだ。盗人猛々しい。これでは安倍首相のいう「非正規労働者という“言葉の一掃”」(ガイドライン案)は仮にできても、差別の実態を解消することはできない。

c) 最低賃金制度の行方
 「経団連報告」は、「日経連報告」いらい一貫して最低賃金制についても背を向けつづけている。その根底には「賃金は労使が交渉して決めるものだ」という「博物館入りの思想」が脈打っている。18年「報告」では、こう述べる。「政府の引き上げ方針への配慮は一定程度必要ではあるが、収益の持続的な改善・拡大や生産性向上を伴わない形での最低賃金の大幅な引き上げが継続されれば、最低賃金の影響を受けやすい中小零細企業の経営を直撃し、そこで働く社員の雇用が失われるだけでなく、事業の継続事態を危うくし、地域経済に悪影響を及ぼしかねない」(74ページ)。さらに特定最低賃金(産業別最低賃金)については、80年代の初頭いらい「廃止せよ」と主張し続けている。
 ここで「報告」は、中小企業への影響を心配してみせるが、中小企業の経営状態を心配しているのではない。中小企業の低賃金を下請支配などで利用している自分たち大企業が困るというのがホンネなのだ。
 いまみた「同一労働同一賃金」や「最低賃金制」をめぐって政府と財界の間に本質的な主張の差はない。あってもそれは両者の役割分担というべきものだろう。この田舎芝居に欠落しているのが“生活”論であり“人権”論である。最低賃金は健康で文化的な最低限度の生活のできるレベルでなければならない。ところが、この国の最低賃金額は「主婦パート」を想定したもので、これでは独立した労働者の生活は成り立たない。結果、文字通りの「“最低”賃金」(食えない最賃)になっているのだ。
 最低賃金制の役割は重大で、それはナショナルミニマムの基軸となることが期待されている。それには全国一律であることが望ましい。狭い国土の日本に47もの地域別最低賃金があるのは滑稽ですらある。低く過ぎてまったく魅力なし、である。アルバイト学生らにその地域の最低賃金額を問うても正答できる学生はほとんどいない。とりあえず全国一律で“月額20万円”を実現すべし、と強調しておく。

2 ムチャクチャ労働時間――残業規制・残業代ゼロ制度・裁量労働制

 労働時間は、賃金と一対の労働条件の「キー概念」である。賃金は時間概念なしには成立しない。それは時間賃金だけでなく個数賃金(出来高賃金)についても同じだ。なぜなら、個数賃金は時間賃金の転化形態だから。ゆえに、政府・財界が制度化をたくらむ「高度プロフェッショナル制」(以下、「高プロ制」)は、労働時間概念を破壊するだけでなく、賃金概念をも破壊するものである。こうした重大な理論問題があることを指摘したうえで、政府・財界の「労働時間改革」をみる。
 「経団連報告」は「2017年9月15日に厚生労働省の労働政策審議会は、労働者の長時間労働・過重労働の防止と柔軟な働き方の実現に向けて改正労働基準法等の法律案要綱を取りまとめた」として、まず「長時間労働・過重労働の防止」についてつぎのように述べる。
 「経団連と連合による『時間外労働の上限規制等に関する労使合意』(2017年3月13日)を踏まえ、時間外労働の上限規制が罰則付きで導入される予定である。これは1947年に制定された労働基準法70年の歴史の中でも画期的な改正といえる」と大げさだが、「ない方が“まだまし”」といえる代物なのだ。
 残業代ゼロ制度が「高度プロフェッショナル制度」と昔の名前「ホワイトカラーエグゼンプション」を捨て今度こそはとばかりに提起されている。さらに、「みなし労働時間制」の一種である「企画業務型裁量労働制」を企業がより使いやすくする規制緩和もたくらむ。

a) 長時間残業温存のための欺瞞的「上限規制」
 労働基準法第32条は、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」、その2項で「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き8時間を超えて、労働させてはならない」と定めている。
 これが「週」および「日」の労働時間の原則である。87年の法「改正」で「週」と「日」の順序が逆転したが、曲がりなりにも原則は「8時間労働制」をとどめている。労働者は一日を単位に再生産されているから、「1日単位の原則」が決定的に重要なのだ。
 ところが、労基法第36条にもとづき労使協定を結ぶなど所定の手続きをとり、時間外労働の所定の割増賃金を支払えば、使用者は労働者に1日8時間を超えて何時間でも労働させることができる。
 98年以降、時間外労働については限度基準(大臣告示)ができ、それは1週間で15時間、1ヵ月は45時間、1年間で360時間である。ただし、「特別条項付き協定」を結べば、限度時間を超える時間を「延長時間」とすることができ、これにも抜け道がある。
 そこで、つぎのような罰則付き時間外労働の上限規制をもつ「働き方関連法案(要綱)」になっている。まず「原則」を「月45時間以内かつ年360時間以内」とし、以下のような「特例」を設けるというものだ。
 (1) 休日労働を含み、単月で月100時間未満
 (2) 休日労働を含み、2〜6ヵ月で月80時間未満
 (3) 時間外労働は年720時間以内(休日込みでは960時間)
 (4) 原則である月45時間の時間外労働を上回る月は年6ヵ月まで
 以上のような経団連が「満足する」上限規制案は、これをヨーロッパの労使関係者が知れば腰を抜かすだろう。筆者に言わせれば、こんな「規制」はないほうが“まだまし”だ。企業が安心して労働者に長時間残業をさせることができる装置をつくる、ということだ。労働者をなめるでない、と叫びたい。ここでも残念ながら、連合(幹部)が利用されている。

b) 名称を変えた「残業代ゼロ制度」
 これの制度化は、第一次安倍政権のころ、ホワイトカラーエグゼンプションとして制度化が試みられた。しかし、労働者・労働組合などの猛反対で断念せざるをえなかった。このたび、「柔軟な働き方の実現」の柱として、その名も「高度プロフェッショナル制度」(以下「高プロ制」)で法制化がねらわれている。今度こそはと財界・企業の政府へのプレッシャーが強く、安倍政権としてもなんとしても、というわけだ。「決める政治」(「みんなで決める」でなく、権力者が決める政治=独裁)は許せない。
  「高プロ制」とは、約言すれば、こうなる。一定層以上の労働者の賃金は、労働時間の長短ではなく、(労働の)「成果」による、というもの。だから、労働基準法の労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金等に関する規定は(年104日・4週4日の休暇を付与すれば)適用しない、と。いま想定されている対象労働者は、職務の範囲が明確で、専門的知識を必要とする年収1075万円以上の労働者だ。どのような業務の労働者が対象になるかは、法律ができたあと省令で定める、と不透明だ。
 これの導入に血道を上げる財界・企業のねらいは2点である。一つは、よく知れ渡っている「残業代ゼロ」ねらいであり、詳述の必要はなかろう。もう一点は、年功賃金を一掃し、「成果主義」賃金を導入・徹底させることだ。この制度をいったん導入すれば、年収要件はどんどん下がる。経団連は年収400万円層まで下げる心算である。ということは、その年収クラスの労働者層まで成果主義賃金が広がり、企業がもっとも年功賃金を邪魔だと思っている層が成果主義賃金でカバーされることになる。成果主義賃金が年収400万層まで広がれば、年功賃金の企業にとっての障害はなくなり、これはもう年功賃金の一掃であり、隠された目的の達成となる。

c) 「企画業務型裁量労働」の規制緩和
 すでにみた「高プロ制」の導入が、労基法「改正」案の最大の問題点である。しかし、それを補完するものとして「企画業務型裁量労働制」の規制緩和がある。
 これには年収要件がなく、当面高所得層限定とされる「高プロ制」を補完する役割を果たすことが期待されている。
 しかし、現行制度では企画・立案・調査および分析の業務と限られ、手続き要件もきびしい。そのため、対象業務の拡大と手続き要件の規制緩和によってより多くの労働者を「残業代ゼロ」で働かせることが法「改正」の目的である。もし「高プロ制」の導入とこの「裁量労働」の規制緩和が実現すれば、「合法的サービス残業」(見えない残業)を蔓延させることになる。
 そもそも「みなし労働」の一種として「専門業務型裁量労働制」が労基法上に登場したのは87年の労基法「改正」により1988年からであった。当初はこの「専門業務型裁量労働制」だけであったが、これだと「専門業務」にしか適用できないので、財界の注文で情報システム分析・編集・デザイナーなど19業務を指定して2000年に発足したのがこの「企画業務型」なのだ。しかし、財界がこれでは法制上の要件がきびしく使いにくいと圧力をかけ、「世界一、企業が活動しやすい国」をめざす安倍政権のもとで実現がもくろまれている。
 「改正」点は大きく2つ。第1は企画・立案・調査および分析など以外への対象業務の拡大である。第2は手続き要件の緩和である。第1の業務の拡大対象は「当該事項の実施の管理、評価を行う業務」、「商品の販売、法人顧客との契約、締結、勧誘を行う業務」であり、広く営業業務一般への拡大である。これは大きい。第2の手続き要件の緩和とは、労働基準監督署への届け出が、現在は「事業所ごとに労使委員会の決議を届け出る」が、これを「本社一括届け出」に変える。また「6ヵ月ごとの定期報告」が「6ヵ月後の1回だけ」へと簡素化される。みてのとおり、企業にとって使い勝手が断然よくなるのだ。
 「企画業務型裁量労働制」のこのような規制緩和が実現すれば、上記の「高プロ制」の導入とあいまって、この国は現在以上の「過労死大国」となることは必定である。だんこ阻止せねばならぬ。

おわりに
―― 現代資本主義における労働者の再生産

 現代資本主義での私たち労働者の生活は、「直接賃金」(通常の意味での賃金)と「間接賃金」(所得の再分配としての社会保障など)の「合わせて一本」で維持されるものとされる。現状もきわめて不十分ながら「合わせて一本」の形にはなっている。しかし、実情は「直接賃金」も「間接賃金」も共に貧しく、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(憲法第25条)レベルには遠く及ばない。
 ゆりかごから墓場まで隙間なく社会保障が整備され、これと直接賃金の「合わせて一本」で「健康で文化的な最低限度の生活ができる」社会をめざすのが“国民春闘”の主要課題である。私たちの生涯を支えるものは、労働可能な「現役世代」では賃金が「主」で社会保障は「従」、学業を終えるまでと、「現役世代」を終えたあとは社会保障が生活を支える、ということだ。憲法第25条の2項で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上に努めなければならない」と定めているのは、そのためである。
 以上のことは、言い換えれば、労働者・労働力の再生産の「社会化」を意味する。それは直接賃金に関して「同一労働同一賃金」を可能にする前提条件ともなる。賃金は労働者本人だけでなく、その家族の生活費も含む。そうでなくては労働者・労働力の世代を越えた再生産ができないからである。その家族の生活費部分は「社会化」され、社会保障として担われる、ということだ。
 欧州の主要国で「同一労働同一賃金」の制度化がすすんでいる条件・背景として、それらの国々では、労働市場が横断的であることに加えて、社会保障が比較的充実していることを指摘できる。この点、くわしくは別稿に譲りたい。

(まきの とみお・労働総研顧問)

第6回常任理事会報告

 2016〜17年度第6回常任理事会は、都内で、2018年1月20日、小越洋之助代表理事の司会で行われた。
I 報告事項
 『2018年国民春闘白書』刊行、「2018春闘提言“アベノミクス”と対決し、大幅賃上げで経済改革を」記者発表など、前回常任理事会以降の研究活動、企画委員会・事務局活動について藤田宏事務局次長より報告され、承認された。
U 協議事項
 藤田実事務局長より、研究部会代表者会議議案「労働総研・次期研究所プロジェクトと研究体制の在り方について」が報告され、討論の上、報告内容を確認した。

第2回研究部会代表者会議報告

 2016〜17年度第2回研究部会代表者会議は、都内で、2018年1月20日、小越洋之助代表理事の司会で行われた。
 藤田実事務局長より、次期の研究所プロジェクトについて、青年労働者の貧困についてその実態をあきらかにするなかで、青年労働者結集の条件を提起することを目的に、テーマ(案)として「『働く貧困』と青年労働者」が報告された。そして、青年の実態を把握するための「青年の生活・意識実態調査」の実施すること、プロジェクト推進チームを発足させることなどが報告された。
 次に、研究所プロジェクト中心の研究体制の課題を検討するために、各研究部会で議論するとともに、常任理事、研究部会責任者などで構成する研究体制の在り方検討チームを発足させることが報告された。また、研究所プロジェクトの研究期間について、時々の情勢が必要とする研究と成果の発表についてなどが報告された。
 それぞれについて、討論をおこない、以上の報告事項は、今後論議を重ね、定例総会にて決定することが確認された。

12月の研究活動

12月1日 労働時間・健康問題研究部会
   7日 女性労働研究部会
  11日 中小企業問題研究部会(公開)
  20日 労働組合研究部会
  21日 国際労働研究部会
  22日 賃金最賃問題研究部会

12月の事務局日誌

12月5日 企画委員会
  16日 労働総研クォータリー編集委員会
  20日 労働法制中央連絡会事務局団体会議