労働総研ニュースNo.325 2017年4月



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「ブラック」な働かせ方を生まない社会へ 岩崎 明日香 
トランプ政権の危険な進路 岡田 則男 
研究部会報告ほか




「ブラック」な働かせ方を生まない社会へ

岩崎 明日香

 2015年に入会し、女性労働研究部会に参加しています。どうぞよろしくお願いします。
 2013年までは青年運動の中で、主に若い世代の雇用実態を直接聞いてきました。「いつも疲れ切っていて、お客さんに心から『ありがとう』を言えない。そんな自分が情けない」(コンビニエンスストアの社員)、「クリニックには看護師がひとりもおらず、医療事務が行なってはいけない診療補助という仕事をさせられた。厚労省に問い合わせて違法だとわかり、上司に伝えたところ、仕事を外され、デマまで流されて退職を余儀なくされた」(小児科クリニックの医療事務・非正規)。こうした声に出会う中で、私が特に強い怒りを感じてきたのは、社会に出て間もない若い世代に対して、異常な長時間労働やパワーハラスメントを強いた上に、労働者の誇り、人間としての良心までも不当に踏みにじる事態が横行していることです。
 身も心もぼろぼろにされた若者たちが、自ら「ブラック会社」「ブラック企業」という言葉を使い始め、インターネットで、友人どうしの会話で広がり、初めて国会の場で「ブラック企業」の違法・無法が労働者の生の声とともに告発されたのが2013年。当時、仲間たちとつくった号外ビラを、街頭・駅頭で「国会で『ブラック企業』が追及されました!」と声を上げて配ると、スーツ姿の若い労働者や就活生、高校生など、道行く人々が我も我もと取りに来た姿は、今も鮮明に覚えています。「自己責任論」の名のもとに苦しめられてきた若い世代が必ずこれから反撃に立ち上がるだろうという、あのとき感じた希望は、その後さまざまな場でたたかう若者を見る中で、より固い確信に変わってきました。
 あれから3年半が経ち、「ブラック企業」規制の課題では、いくつかの前向きな成果が築かれました。厚労省の重点調査と監督、「固定残業代」制度による虚偽・誇大の求人広告の是正、2015年6月の改正青少年雇用促進法の全会一致での成立(ハローワークへのブラック企業の新卒求人拒否、募集・採用・労働時間の情報開示を企業に義務化)など、いずれも社会的世論と運動が実ったものでした。
 同時に、「ブラック企業」規制を本気ですすめるには、「ブラック」な働かせ方を生まない、蔓延させないための、労働政策の抜本的な転換が不可欠。電通で過労自殺に追いやられた橋まつりさんの遺した悲痛な言葉の数々を読むたびに、そのことを痛感する日々です。

(いわさき あすか・会員・女性労働研究部会)

トランプ政権の危険な進路

岡田 則男

 「不動産王」といわれるドナルド・トランプが大統領となって新政権が発足してから100日目になろうとする米国は、かつてない混乱が続いている。オバマ前政権までの政治の在り方から政策、政府の仕事にいたるまで、多くを否定してトランプ流の政治に専制的手法で着手し、その危険なやり方に多くの国民が気付き、就任後最初の100日間にも、トランプ政権の政策に抗議する国民のデモや集会が続いている。この時期の米国では前代未聞のことである。政権発足当初の世論調査ではトランプ大統領を是とする人は40%で、歴代大統領で最低を記録した。ちなみにオバマ前大統領が2009年に就任したときは85%の支持率であった。
 トランプは2016年の大統領選挙で当選したが、有権者の一般投票の得票数では民主党のヒラリー・クリントンのほうが300万票近くも多かった。それにもかかわらず最終的に直接投票する「選挙人団」(electoral college)を各州「勝者総取り」でえらぶ選挙システムゆえにこのような結果になりえたのである。就任後の新政権への抗議、「トランプ辞めろ」コールの広がりは、その意味では不思議なことではない。国内外に重大な危険をもたらそうとしている点を、いくつか見ておきたいと思う。

異常なメディア対応、偏執狂?

 トランプは、自分の気に入らない(都合の悪い)ニュース報道がされると条件反射的に「フェイク・ニュース」(偽のニュース)だとツイッターで一蹴して見せるのが常になった。1月20日の大統領就任式で米連邦議会議事堂とリンカン記念堂の間の大きな広場(ナショナル・モール)に集まった人数を報道機関が80万と報じると、トランプは、「150万人はいた」「メディアは嘘を伝えている」と激しく非難した。
 さらに大統領選挙中にトランプ陣営がかかわってロシアの干渉(ハッキング)があった可能性が伝えられている問題をめぐって、メディアへの敵対姿勢は一層エスカレートした。トランプ陣営の人間とロシアとの間にやり取りがあったことを示す連邦捜査局(FBI)の報告書が報じられると、トランプは「許しがたい漏えい」などと批判した。このような事実が立証されれば、トランプ大統領の命取りにもなりかねない重大な問題であるだけに、ホワイトハウスのマスコミ対応は一層閉鎖的、差別的になった。
 反対意見や批判を徹底的に封じ込める手法は、既存の主要報道機関に対して行われてきた。ニューヨーク・タイムズやCNNテレビなど、トランプ政権の政策や見解を批判的に取り扱ったものにたいしては「嘘ばかり流す」「偽(fake)ニュース」などとツイッターで非難している。トランプは2月17日、就任後初めての単独記者会見をひらき、これまでの「成果」を自画自賛する(だが具体的ではない)一方、主要メディアにたいする批判を連発しながら、「フレンドリーな記者」にだけ質問させた。
 それから1週間後の2月24日、ショーン・スパイサー大統領報道官が記者会見を変更して記者懇談会を行った際、ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズ、CNNなど少なくとも10の報道機関が会見場となった報道官室から排除されるという前代未聞の事態が起きた。その数時間前トランプがこれらの報道機関を名指しし「国民の敵」と批判したことに沿った措置だった。右翼的なメディアのブライトバートなど政権に「好意的」(friendly)なメディアを「信頼できる」報道機関として扱い質問を認めた。あからさまな差別に批判をあびたのは当然だが、それでも、当のスパイサー報道官は「歴代のどの政権より、報道に開かれている」と言い張っている。
 3月5日、前政権のあらゆる政策にかみついてきたトランプは突然、バラック・オバマ前大統領が昨年の大統領選挙の最中にニューヨーク・マンハッタンの「トランプタワー」にある自分の事務所に盗聴を仕掛けたと言いだした。ホワイトハウスは議会に調査するよう迫った。トランプは「盗聴」の証拠は何も示さなかった。わが国の安倍晋三総理大臣が「信頼できる人」だといい、その「指導力によって、米国が偉大な国になることを期待しており、信頼できる同盟国として役割を果たしていきたい」(1月28日のトランプとの電話会談のあと)とトランプを持ち上げたのとちがい、米国では多くの人がいまやトランプは「偏執狂」と見るようになっている。
 なお、オバマ前政権による「盗聴」疑惑というこの話は、マーク・レビンと言う男が自らホストをつとめる右翼的なラジオ・トークショーで、オバマ政権は大統領選挙中にトランプ陣営のロシアの工作員とのやりとりを監視するために「警察的手法」を使ったとのべたことを受けたものだった。新右翼のニュース・メディアで、トランプ大統領のホワイトハウスで「首席戦略官兼上級顧問」に任命されたスティーブン・バノンが会長を務めたブライトバート・ニュースがこの発言を伝えたものだった。それにしても、核攻撃の命令を発することができるトランプが、このような右翼の言い分にもとづいて、あれこれの事態に対処するとなれば、大変なことである。
 この騒ぎから10日後、スパイサー報道官は、トランプ大統領は「オバマが個人的に自分に盗聴器を仕掛けたとは考えていない」、「オバマ政権による監視活動一般を非難したものだった」と言いわけをし、トランプの「フェイク(嘘)」だったことを事実上認めた。

「ロシア」関係の疑惑

 トランプ政権とロシアとの関係がスキャンダルのテーマになっている。
 1月6日、中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI),国家安全保障局(NSA)が、「ロシアが米大統領選挙でトランプの勝利を助けるために介入しようとした」との報告書が明らかにされた。このなかで、米大統領選挙でロシアがトランプ陣営を支援すること、トランプ大統領が実現したら、ウクライナ問題を脇にはずすことなどが合意されていたことなどがのべられていた。
 フリン大統領補佐官(国家安全保障担当)が2月14日に更迭された。政権発足前の12月に同氏がロシアの駐米大使との電話で対露制裁の解除を協議していたという疑惑が指摘されたためだった。またそのことをペンス副大統領に報告していなかったことが問題になったとされる。3月になって人種主義的発言や移民政策で強硬な立場をとって諸方面から批判を浴びながらも司法長官への指名が承認されたジェフ・セッションも、昨年の大統領選挙中にロシアの駐米大使と会っていたことが明らかになり、民主党などから辞任要求が噴出した。
 トランプ政権は、オバマ前政権下で確かに悪化していた対露関係をなんとか「改善」させようとした。シリア内戦では、ロシアの支援を受けるアサド政権にたいし米国が支援する反政府勢力という構図があり、停戦協議もなかなか進展していない。ウクライナ問題では、クリミア併合を違法だとする欧米がロシア制裁を実施したが、これにたいしトランプ大統領らは、ロシアとの関係改善に強い関心をもってきた。トランプの最大の関心は米国のビジネスであり、ロシアとのある種の協調をはかることであり、そのために選挙中からロシアとの連絡を取っていたと考えられる。
 CNNやニューヨーク・タイムズが、こうしたトランプ・ロシアのやりとりを報じると、トランプ側は、それらの記者を調査(犯人探し)をするようFBIに要求した。セッション司法長官の就任前のロシアの駐米大使との接触を批判されると、3月4日、「オバマ前大統領は選挙期間中に(ニューヨーク・マンハッタンの)トランプタワーに盗聴器を仕掛けていた」と、なんの証拠、根拠もしめすことなくツイッターで反撃。これについてカリフォルニア選出のテッド・リウ下院議員は「もしトランプタワーの電話が盗聴されていたというのが正確なら、裁判その礼状をとってFBIが実行しているはずだ、もしそうであればトランプの側に何か疑惑があったということだ」といった。いずれにしても、真相は解明されていない。

アメリカ・ファースト

 トランプは選挙中から「アメリカ・ファースト」(アメリカ第一主義)、「アメリカを再び偉大な国に」のスローガンをずっと繰り返し唱えている。就任演説も、それ以外に理念、政策らしきものはない。新政権がすすめているのはトランプ型専制政治といってもよい。米国の資本主義体制を守る、あるいは再生させるために、特に大企業の「ビジネス」の妨げになると考える規制や法律、予算などを廃止することも考えている。
 日本を含め世界が注目しなければならないのは、トランプ政権が世界における相対的地位をいっそう低下させてきた米国の核戦力を含む軍事力を再構築することをめざす、文字通りの「力の政策」を強調していることである。これまで米国は8年間(オバマ政権時代)軍への予算が少なすぎたとして、トランプは1月下旬「軍隊の大々的な再建」を実施する大統領令に署名した。艦船、航空機、兵器それに核兵器の近代化などである。
 トランプは、2月28日に初めて上下両院合同会議で施政方針演説をおこない、富裕層、大企業にたいする減税とともに、史上最大の軍事費増(540億ドル)を打ち出した。その半面、環境保護庁予算の削減、医療(オバマ政権で始まったオバマケアと呼ばれる医療保険制度の廃止)、教育の分野で支出削減、フードスタンプをはじめ貧困層のためのセーフティネットのための予算削減を目論んでいる。
 トランプが進めているこれらの政策は、かつて80年代の初めにレーガン大統領が「小さな政府」「強大なアメリカ」を掲げた路線の21世紀版といえるかもしれない。今日、「ソ連の脅威」「共産主義の脅威」が存在しないなか、「テロとのたたかい」が米国の軍拡路線の口実として前面に押し出されるようになっている。国内政策的には、レーガン流の「小さな政府」による公共支出の抑制ないしは削減だけでなく、政府の機能や規制を否定するような姿勢で臨んでいる。国の財政支出は、極端にいえば国防(軍備増強)を優先させ、軍需産業を盛んにするためのもので、環境保護庁のもとで行われているさまざまな環境保護上の規制を廃止し、人員を削減して予算を削減しようとしているのである。
 そして、トランプは国民の反発を招くような一連の政策を議会に諮ることなく実施するために一方的な、しかも法律と同じ効力をもつ、大統領令(executive order)16件、覚書(memorandum)13件、宣言(proclamation)5件を連発してきた(3月6日現在)。

 <アメリカ・ファーストの歴史>
 このスローガンは第1次世界大戦で11万6000人もの死者を出した米国で、この戦争で英、仏、軍需産業は米国をだまして資源の無駄遣いさせ、若者を死なせたと、非難がおきたときに非戦運動としてあらわれた。30年代には、ヒトラーは米国にとって本当に脅威なのか、英国は支援する価値のある同盟国なのかといった疑問があらわれるなかで孤立主義の運動が大学のキャンパスを中心に起こった。当時若者たちは、好戦的愛国主義は古臭いと批判した。1940年、「アメリカ・ファースト」はアメリカの第2次世界大戦への参戦に反対するグループのことだった。単純に反戦、戦争拒否ではなく、反ユダヤ主義とつながっており、それ自体タブーだったという。以降アメリカの政治の世界ではこの言葉はほとんど使われずにいた。近年でこれを使ったのは1990年代前半に大統領選で共和党の候補指名争いに参戦した保守派のパット・ブキャナンだった。それに今回のトランプで、アメリカの通商政策からエネルギー政策、退役軍人の問題にいたるまで「アメリカ・ファースト」で括っている。かつての「反ユダヤ」はトランプにあっては「反イスラム」になっている。
 トランプ政権の黒幕ともいわれるスティーブン・バノンと言う人物はとりわけ外交政策の中心にあり、この「アメリカ・ファースト」戦略を進めている。資本主義は西欧文明によって立つものであり、いま米国の資本主義が危機に陥っているのは野蛮な幾百万もの移民が群がっているからであるといい、資本主義と切り離すことができないユダヤ・キリスト教的価値観とイスラム過激主義の対決があり、「イスラム・ファシズム」にたいするグロ−バルな戦争の段階に入っているとさえ言う(2014年にHuman Dignity Institute(人間の尊厳研究所)での講演)。彼の終末論的発想は米国の再生は暴力を通じて行われること、戦争のなかに変革を見出すというものだという。そうした考えかたについてバノン自身は「私はレーニン主義者だ」といっている。「レーニンは国家を破壊することを求めていた。私も目標も同じだ。私はあらゆるものを崩壊させ、全てのエスタブリッシュメント(支配階級)を壊したい」と米ニュースサイト「デイリー・ビースト」の取材に応えて述べた(「ロシア革命100年と極右・ポピュリズムの波」東京新聞2017年2月21日)。

 <労働者が惹かれたTPP離脱>
 最初に署名した大統領令は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、それにカナダとメキシコとの3か国による北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉であった。米国が先導的役割をはたしてきたはずの自由貿易体制を見直し「安い海外製品が米国に流入し雇用を奪っている」状況を変えようという触れ込みだが、それよりも貿易の相手国に一層の市場開放を求め、中国などからの安価な輸入品に「国境税」なるものをかけるというものである。ホワイトハウスで大統領令に署名するみずからの動画や画像を配信させることで、トランプはいかに米国を第一に考え、国内の労働者の利益、雇用を優先させているかを国民に印象づけようとした。
 これまで米国の二大政党――共和党と民主党はいずれも、米国資本主義体制をまもりぬき、大企業の利益を最大限に優先させ、「労働者のために」とは言ってこなかった。二大政党の政治支配のもとで、2008年のリーマンショック以来の経済危機への対応でも、米国政治は自動車産業や投資銀行などの救済し、労働者にそのツケを回した。とくに大企業がリーマンショック以前の利潤を上回るようになったのにたいし、格差と貧困が増大し、労働者の実質賃金は下がりっぱなしの状態が続いている。ミシガン州などの中西部の工業地帯が「ラスト・ベルト」(錆つき地帯)などと呼ばれるほどに製造業が衰退(海外に工場を移転させたことなど)した。工場労働者を中心とした「労働者階級」が、共和党、民主党の「エスタブリッシュメント」(支配層の利益を代表する層)に不満をつのらせ政治不信を強めるなか、トランプは、そうした問題に具体的に対応するのではなく「アメリカ・ファースト」のスローガンで、TPPからの脱退で国民の要求にこたえるポーズをとって支持を集めたのであった。

 <イスラム教徒の入国禁止>
 「不法移民」対策も同様である。メキシコとの国境に壁を建設することとあわせて、トランプ政権はイスラム圏からの入国禁止・制限に執念を燃やしている。しかし、当然のことながら世論、司法に違憲と指摘されている。
 1月27日、トランプ政権は7つのイスラム諸国の人の米国入国禁止の大統領令を出した。明らかに人種差別、イスラム教徒に対する差別である。テロリストを入国させないためというものだったが、9・11同時テロを起こしたアルカイダつながりの人たちのサウジアラビアやトルコなどがふくまれていない。トランプがビジネスを展開している国は除外したのではないかともいわれた。ワシントン州などの提訴により連邦地裁がこの措置は違憲であるとして執行を停止した。
 大統領側は控訴したが却下された。米国内だけでなく同盟国を含む多くの政府首脳からも一斉に批判をあびた。それはまぎれもなく人権侵害を含む国際問題だから当然のことだった。日本の安倍政権が、これは「国内問題だから」コメントを差し控えるという態度をとったことは、異常なことであった。
 結局トランプ政権は、連邦最高裁への上告を断念し、3月6日にイスラム圏6か国(イラクを外した)からの入国を90日間禁止するという改定大統領令を出した。発効済みのビザやグリーンカード(永住権)保有者は入国を認めるなど制限を幾分緩和したものだが、基本的にイスラム教への差別、人権侵害で、憲法違反に変わりはない。この新大統領令についても「憲法違反」としてハワイ州が全米に先駆けて同大統領令の差し止めをホノルルの連邦地裁に申し立てた。3月15日、同地裁は全米で執行の停止を命じる仮処分をだした。ワシントン州もシアトル連邦地裁に差し止めを求める申し立てを通告、これにニューヨーク、オレゴン、マサチューセッツ、メリーランド、カリフォルニアの各州が加わったと報じられた(3月13日)。
 イスラム教徒の米国入国禁止を提唱して広範な批判を浴びたため、その後「宗教」を理由にした入国禁止するという考え方を修正し、「テロから米国を守る」ための措置であることを強調するようになった。しかし、イスラムを敵視する姿勢はトランプ政権の基本的な立場であることに変わりはない。

 <環境保護行政・機構・予算に反対>
 地球環境を守るための国際的な努力にも、新政権は重大な障害になろうとしている。環境保護のため国内で企業活動を阻むと考える規制を取り払いたいトランプ政権は、環境保護庁(EPA)の大幅予算削減を狙っている。トランプはこれまで一貫して、「こんなカネのかかる地球温暖化問題などというたわごとはやめさせなければいけない。地球は凍りつつある、記録的に低い温度になっているのに、地球温暖化の科学者たちは氷にはまって動けなくなっている」(2014年1月1日のツィート)、「地球温暖化は中国の陰謀だ」などと、世界の温暖化の努力を嘲笑、批判してきた。気候変動分野への無駄な支出をやめて今後8年で1,000億ドルの節約をし、国内のインフラ整備に使うのがよいとも言った(2016年10月声明で)。就任してからは、気候変動行動計画などの「有害で不用な政策」を撤廃すれば労働者の賃金が今後7年で300億ドル以上増加する、などとわけのわからないことも言った(2017年1月)。
 プルイットEPA長官は、「二酸化炭素が地球温暖化の主因という考え方に与しない」とあらためて発言した(2017年3月9日)。国連の「気候変動に関する政府間パネル」の、二酸化炭素が温暖化の最大の原因であるとの見地に真っ向から異議を唱えている。プルイット任命は「放火魔を消防署の責任者にするようなもの」で「気候変動の危機が手に負えなくなるのを喜んでいるように見える」とシエラ・クラブ(環境保護団体)のマイケル・ブルン事務局長は皮肉った(3月10日AP)。

 <オバマケアの廃止>
 議会演説でトランプは、オバマケアは破たんしたから廃止し、それに代わるものを作ると正式に宣言した。トランプは昨年の選挙中から、オバマ政権下で実施した医療保険制度改革(オバマケア)の廃止を明確に訴えていたが、就任直後の1月21日、大統領として最優先課題はオバマケアを廃止することだとして、その方向をすすめる大統領令に署名した。
 そもそも、オバマケアはオバマ政権が保険加入を義務付けるもので当初は、公的な医療保険という要素も取り入れる考えだったが、共和党など保守派や財界などの強い抵抗があり、議会を通ったのは民間の保険を使うものになった。保険会社は顧客を増やすことができ、公的な支出を抑えるものに内容を後退させ、共和党が受け入れられるものになったのである。日本などで考える「国民皆保険」ではなかった。
 今回トランプ政権与党の共和党が出した法案について議会予算局(CBO)は3月13日、政府は今後10年で数十億ドルを節約するが、2018年までに1400万人が無保険状態になるとの予測を発表した。それは、オバマケアのもとでつくられた保険市場を使ってきた人たち、団体保険にはいっていない人たちで、一般の保険に加入ない人が多数出ることによる。また、民間の保険を買っても、保険料負担が高いため、保険をあきらめる人がでることが予想されるからだという。提案した代替案は共和党多数の議会でも支持が十分得られず、トランプは法案を取り下げた(3月24日)。大きな敗北となった。

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 トランプ政権はこれらの施策を「米国の労働者をまもる」「雇用をまもる」といった副題をつけていることが多い。少なからぬ労働者、とりわけ没落して政治に不満を募らせている白人労働者、中間層の期待にこたえることができるのかどうか、評価を下すにはすくなくとも次の中間選挙までの2年間の政権運営をみなければならない。

(おかだ のりお・常任理事・ジャーナリスト)

研究部会報告

労働時間・健康問題研究部会(2月17日)
 これまで労働時間健康問題というと、職場・労組の取り組みとしてとらえていたが、寝だめ・食いだめのできない人間は毎日の暮らし、特に家庭を含めた家族の暮らし、子どもの教育などを含めた日常の暮らしをより豊かにするための必要という観点から労働時間を考える必要があろう。この視点で育児・子どもたちの教育訓練、そのためのあたりまえの生活時間をどう確保するのか、という角度から考える。その意味で、全労連、自由法曹団、労働法制中央連絡会の三者が主催する「働き方改革」批判検討会と、学習決起集会を成功させることに集中し、公開研究会をそのあと準備することとした。
女性労働研究部会(2月23日)
 「配偶者控除の見直し―政府税制調査会における検討と2017年度税制改正大綱」について中嶋晴代さんが報告した。税制調査会は2000年頃から配偶者控除の見直しについて論議し、「見直しが必要」としたが、具体案はまとまっていない。一方、政府は昨年末に「配偶者控除の控除対象配偶者の合計所得金額を給与所得で150万円以下に引き上げる」こと等の税制改正大綱を閣議決定した。この改定では片働きやパート世帯と低所得の単身者やひとり親世帯との矛盾をさらにひろげ、就業調整を意識しなくて済む働き方にはならず、既婚女性を低賃金労働力として「活用」する本質は変わらないこと等が論議された。

3月の研究活動

3月10日 国際労働研究部会
  23日 賃金最賃問題研究部会
     女性労働研究部会
  24日 労働時間・健康問題研究部会
  27日 労働運動史研究部会
  29日 経済分析研究会
  30日 労働組合研究部会

3月の事務局日誌

3月5日 労働総研クォータリー編集委員会
  15日 全損保大会へメッセージ
  17日 企画委員会
  19日 井上久さんを偲ぶ会