2015年12月25日、電通社員の��橋まつりさん(24歳)が社員寮４階から飛び降り自殺した。彼女は同年４月大手広告代理店電通に入社したばかりであり、10月から本採用となりインターネット広告などを担当した。入退館時間のデータから割り出すと月に105時間以上の残業をさせられていたことになる。記録には10月が69.9時間、11月が69.5時間と労働組合との協定の70時間ぎりぎりで記録されていた。2016年９月、労働基準監督署が労災認定した。電通では1991年にも男性が過労自殺しており、この会社のブラック企業ぶりが世間を騒がせた。このような電通を厚労省は労働時間に余裕がある企業として認定していた。
　紀元前の農耕・狩猟民族の働く時間は、現在残されている部族の働く時間から推測すると１日2.8〜7.6時間で平均６時間労働であった。労働時間とは、使用者または監督者の下で労働に服しなければならない時間のことを指す。産業革命時には長時間労働は能率がいいと思われていたので、イギリスの平均的な労働時間は１日10時間から16時間であった。休日は週１日である。「資本は社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命に対し、なんらの顧慮もはらわない。」フランスの労働者は1848年にようやく１日12時間労働を勝ち取った。1886年５月１日、アメリカで38万人以上の労働者と労働組合が８時間労働を求めてストライキを行った。だが、２日後、シカゴの労働者が警察官に射殺され、その翌日シカゴのヘイマーケット広場での労働者の集会に誰かが爆弾を投げ込んだ。警察は労働組合メンバー８人を犯人として逮捕し、裁判で４人が死刑になった。資本家は８時間労働制の約束を次々廃棄した。
　次に現代の労働時間の国際比較をする。経済協力開発機構(OECD)が2012年時点での加盟35か国のフルタイム労働者の年平均労働時間を発表したものである。平均労働時間が長い国、１位がメキシコで2226時間、２位が韓国で2090時間、日本が15位で1746時間。平均労働時間が短い国、１位がオランダで1381時間、２位がドイツで1397時間である。しかし日本の1746時間というのは、残業時間が把握されているのか疑問である。サービス残業がある。ちなみに3241人の労働基準監督官の一人当たりの労働者数は１万6200人でドイツの３倍である。若者に聴くと「仕事は給料が安くて、拘束時間が長くて、休みがない」という。
　政府・財界・アメリカの要求は新自由主義的規制緩和である。残業代を出さない、又解雇も自由にすることである。成果主義でとても働きにくい現状である。
　法律による残業の上限規制が必要である。政治的にも経済的にも資本の論理に任せてはいけない。労働者・国民のたたかいが必要である。

(かんだ　まさたか・会員・全国税労働組合OB)

はじめに

　ことしの「経営労働政策特別委員会報告」（以下「報告」）の序文で、日本経済団体連合会（経団連）会長の榊原定征が述べている。「安定した政権基盤を有する現政府だからこそ、国民の痛みを伴うものであっても、将来不安の払拭に欠かせない持続的な社会保障の確立に向けた改革や、働き方に中立的な税制の構築・見直しなどに迅速に取り組んでほしい」と。
　ここで榊原は、「社会保障の確立」や「中立的な税制の見直し」など狡猾な言い回しで、その下心を包み隠している。だが、かれが言外に匂わせていることは、政権基盤が安定（？）している安倍政権を最大限利用して積年の制度・施策改悪を急ぐべし、この千載一遇のチャンスを逃すな、ということなのだ。「報告」はまた、安倍政権が「最大のチャレンジ」と意気込む「働き方改革」と重ね合わせ、財界のあれこれのたくらみを実現させようとしている。そもそも「働き方改革」なる「働き方“改悪”」も震源は財界・経団連であって、安倍はそれを政策化・制度化する“便利屋”なのだ。もっとも安倍にその自覚はない。すべて「ボクちゃんが主役だ」と思い込んでいるようだから…。
　榊原は、安倍の明文「改憲」の野望も煽って激励する危険人物である。経済の軍事化に突進する「死の商人」の集団である経団連がニッポン会議などと結託して改憲（正しくは“壊憲”）勢力の急先鋒であることはいまや公然の秘密である。
　「報告」はもともと、財界の春闘対策の基本文書である。それがしだいに変容し、とくに安倍の「長期政権化」が喧伝されるようになって「報告」のテーマ・対象が一段と拡散し、財界戦略のオンパレードとなった感がある。そのためか、昨年から「報告」のタイトルも変わり、「経営労働政策“特別”委員会報告」と「特別」の２文字が付加された。そんな事情もあり、17年版「報告」の検討に先立ち、これまでの「報告」の流れ・変容をざっとふり返っておく。

１.「報告」の変遷

　「報告」は2017年版で42冊（42年分）を数える。2002年に日経連が経団連に事実上吸収され、2003年以降、「報告」が経団連から出されるようになってからでも14冊におよぶ。「報告」のタイトルも日経連時代に２回、経団連になってからも１回変わっている。
　冊子となった「報告」の第１号は、日経連から1975年春闘に向け74年11月に出（発売）され、タイトルは「大幅賃上げの行方研究委員会報告――労使とも国民経済の立場で考え直そう」であった。このようなタイトルの「報告」になったのは、74春闘で“賃金爆発”とマスコミが評した大幅賃上げ（32.9％）を労働者階級・労働組合が勝ち取ったからだ。記録的なストライキでたたかいとった賃上げである。この長ったらしい第１号「報告」のタイトルは、もう二度とこんな大幅賃上げは許さないぞ、という財界の悲願というか危機感の表明であった。果たして次年の75春闘ではどうなったか。13.1%の賃上げへと急降下した。第１号「報告」で提起された財界（日経連）のガイドライン＝15%以内にすっぽりおさまったのである。
　当時だれも予想できない低い賃上げであった。この「まさか」はなぜ起こったのか。労働運動の労使協調主義潮流が、こともあろうにすすんで「賃金自粛路線」を公然と表明したからである。日経連の賃金抑制のための「生産性基準原理」に労働運動の協調主義潮流が、それと瓜二つの「経済整合性論」で呼応し、のちに「管理春闘」と呼ばれる特異な春闘体制ができたのであった。財界が敵陣営である労働運動のなかに味方をつくった、ということだ。これが賃上げ急降下の最大の要因であった。
　凱旋した日経連は、76春闘に向けた「報告」のタイトルを「賃金問題研究委員会報告」と変えた。これは「大幅賃上げ」（賃金爆発）は退治した、今後はさらなる賃金抑制に踏み込むぞ、という宣言を意味した。以後、このタイトルが４年つづいた。マスコミが「管理春闘」と呼ぶようになった80年春闘から、「報告」のタイトルが「労働問題研究委員会報告」に変わった。ここで「報告」のタイトルが変わったのは、財界・資本が大幅賃上げを制圧しただけでなく、賃金そのものを思惑どおりにコントロールできるようになった、という「自信」の表明でもあった。以後、日経連は賃金領域を越えて攻撃の対象を「労働問題」全般にエスカレートさせた。
　この80春闘についての金子義雄の試算が興味深い。中央最低賃金審議会の会長などを歴任した有力なエコノミストの金子が、もし日本に労働組合がゼロだと仮定すれば、80年春に賃金はどう動くか、という試算を試みたのだ。その試算の結果は、なんと10％強賃金が上がる、というものだった。
　実際の賃金の動きはどうだったか。当時の労働組合のナショナルセンターは４つで、総評・同盟・中立労連・新産別であった。この年、はじめて４つの労働団体が超自粛要求の同盟の８％に同調、右へ倣いし、労働側は８％という統一要求で80春闘に臨んだ。結果、妥結はいずれも６%台（6.7%）だった。これとつきあわせると、金子試算の結果は衝撃的である。唖然とさせる結果だ。ほっとけば10％強アップしたはずの賃金を、労働組合が８％という超自粛要求で春闘に臨んだため、６％台に終わった、ということだ。この段階から、労働組合が春闘で賃上げではなく「賃下げのため」に「たたかう」ようになったのである。むろん、労使協調主義の「労働組合」の話だが、一国の労働市場は基本的に一つであり、春闘相場は一つであるので、階級的潮流もその巻き添えをくった。
　82年には、このような労働組合の潮流が「全民労協」をつくり、労働戦線の右翼的再編を本格化させた。これに対抗して労働組合の階級的潮流は「統一労組懇」のもとに団結し、89年に前者が連合、後者が全労連というナショナルセンターを結成した。90年代以降の「構造改革」のエスカレートは、こうした労働戦線の分断が可能にした。このころの「報告」は、この国の仕組みを、米日独占資本の餌食にするための「構造改革」を煽りに煽った。これは80年の社公合意を契機とする政治戦線における共産党排除とパラレルですすめられ、裏面で米日独占資本が暗躍した。
　2002年５月、日経連は経団連に吸収合併され、03年から「報告」は経団連から出されることになった（報告の名称も「経営労働政策委員会報告」へと変わる）。この吸収合併は財界組織の合理化にくわえ、労働問題・労働者階級対策という日経連の役割が完了したという支配階級の認識の反映でもあった（皮相的な認識であるが）。この「03年報告」ではじめて「ベアは論外、賃下げ不可避」論が打ち出され、「報告」の性格・対象が労働者対策から財界・大企業の意思統一の場に変わる。2016年版から「経営労働政策特別委員会報告」とタイトルに「特別」が付加された。理由はつまびらかにされていないが、「春闘対策」の卒業を暗に示すものだろう。ただし、それが義務教育の卒業なら、高校や大学がありうるが、当面「報告」のメインが春闘ではなくなったことだけは確かである。以下にみる17年版「報告」は、このような経過をたどった財界文書の現況であることに留意したい。

２.　2017年「報告」の特徴と問題点

　経団連会長の榊原定征が、つぎのように17年版「報告」を特徴づけている。「将来不安の払拭に向けた官民挙げての取組みの重要性を説くなど、従来に増して経団連としての意志と方向性を明確に書き著した。ともすると、経労委報告は、労使交渉における経営側の基本スタンスばかり注目されるが、2017年版では、働き方・休み方改革や、仕事と介護の両立支援、多様な人材の一層の活躍促進、労働時間制度改革、同一労働同一賃金、採用選考ルールの在り方など、労働政策や雇用に関する経団連の考え方を幅広く記している」（序文）と。みてのとおり、上述してきたことを裏づける記述になっているではないか。なお、そのサブタイトルは「人口減少を好機に変える人材の活躍推進と生産性の向上」とされ、人口減少を逆手にとり、搾取強化・企業の競争力強化をにらんでいる。
　「報告」は、こうした制度・政策にかかわることを第１〜２章で論じ、第３章で春闘に向けての経営側の基本スタンスに言及している。そこでここでは、第１〜２章関連の「報告」の核心的な部分を問題にし、次章で「報告」の第３章を取り上げる（「報告」は３章構成である）。

経団連の長時間労働「是正」論

　いまなぜこの国で「働き方」が問題視され、重大な社会問題になっているのか。その理由は明白で、電通の新人女性労働者の過労自殺に象徴されるような異常な長時間・変則労働が常態化し、労働者の健康や生活が著しく脅かされているからである。
　にもかかわらず、「報告」の第１章の表題が「企業の成長につながる働き方・休み方改革」とされ、いっそうの「企業の成長」＝「搾取強化」を追求するものとなっている。これでは、「長時間労働の是正」どころか、かえって過労死・過労自殺を増大させることは必定である。いったい経団連は何を考えているんだと、怒りを通り越し、あきれ返るばかりだ。
　そこに何が書かれているか。書き出しが、「わが国ではこれまで、長時間労働を前提とした業務分担や働き方が当たり前のように行われ、残業の多い社員を評価する風潮さえあった」となっている。いったい、1987年の労基法の労働時間部分の大幅「改正」時の反省は何だったのかといいたい。30年前にも同じことがいわれたではないか。これだと30年後も同じ「反省」が繰り返されるにちがいない。
　ついで、原因究明が欠落していることに失望し、あきれ果てる。何事によらず、現状を改めるには、なぜそのような現状になったのか、原因を究明しなくてはならない。このイロハを欠く「報告」について８名のアドバイザーとされる御用学者・「有識者」はなぜ沈黙したのか。無責任にも程がある。
　原因の究明なしに、おざなりな「改善策」が３点提示されている。退屈な内容だが、後段との関係もあり、お付き合いねがいたい。
　第１点．「経営トップのリーダーシップによる長時間労働是正」の強調である。「経営トップ自らが社内の意識改革を図るため、強いリーダーシップを発揮して、不必要な残業の削減による長時間労働の撲滅と、誰もが働きやすい職場環境の整備に強力に取り組んでいくことが求められる」として、「その際、業務改革の推進や柔軟かつ創造的な働き方の拡大などにより、社員一人ひとりの仕事の付加価値を高め、企業の成長へとつなげることが肝要である」と。引用の後段で、時短の前提は「企業の成長」であると駄目押ししている。これでは時短は、百年河清を待つがごとしではないか。
　第２点．「経済界の取組み」として、「経団連では、2016年度を『働き方・休み方改革集中取組み年』と位置付け、これまでにも増して活動を展開している」。「各企業のワーク・ライフ・バランスへの取組み事例集もホームページに公表するなど、企業の取組みを多面的に支援している」。ここにあるのは、“ライフ”を基準にワークをバランスさせる哲学が欠如したニセ「バランス」論である。
　第３点．「今後、さらにスピードを上げて改革を進めていくためには、経営計画などにおいて、年休取得促進や長時間労働是正に向けた数値目標を取り組み状況に合わせて設定し、PDCAをしっかりと回していくことが有効である」。「社員がより働きやすく、持てる能力を十分発揮できる職場へと変えていくことが、経営上の最重要課題であるという意識を持って取り組む必要がある」。こうした労働者排除のPDCAは、労働強化＝搾取強化の装置とならざるをえない。
　この３点とはまったく別に、経団連・企業が“本気”で「時短」を考えることもある。第１に、残業代（時間外労働手当）の節減のため（「サービス残業」隠蔽の追求）。第２に、外圧対策として、労働時間を数字の上で小さくみせるため（87年の労基法改悪の多くはこれ）。第３に、人口減少社会のもと、未就労の女性や高齢者などを労働力として利用するため（多様な短時間労働の利用）。
　しかし「報告」は、この第１点に対応させ、「高度プロフェッショナル制度」（＝「残業代ゼロ制度」）の導入を執拗にねらっている（第１次安倍政権時いらい）。第２点に対応させ、「企画業務型裁量労働制」や「フレックスタイム制」などのいっそうの規制緩和を追求している。第３点に対応させて、短時間労働者の拡大を、正規雇用労働者の「限定（ジョブ型）正社員」化などをつうじて、めざしている。
　なお一言。いま兼業・副業の「自由化」が推奨され、現に広がりつつある。放置すれば、新たな長時間労働と低賃金の温床となることは必至。在宅勤務ともあわせて、有効な対策・ルール化が求められる。

経団連の非正規雇用対策の問題点

　ここで「報告」や安倍政権の「働き方改革」のもう一本の柱である非正規雇用に対する対応をみておく。「報告」は非正規雇用労働者が６年連続で増加し、労働者に占める割合が37.5%になったと指摘する一方、「しかし、労働者の属性や非正規雇用を選択した理由はさまざまであり、総数や比率が増加したことだけを捉えて問題にするのは適当でなく、実態を十分に踏まえた議論を行う必要がある」とする。そのうえで、「正規雇用を希望して転職活動等を積極的に行っている者が、何年も非正規労働者として働き続けることがないよう、対策を講じることが重要である」と強調する。
　これは非正規雇用労働者問題の何たるかを棚上げした議論である。非正規雇用の問題点は、正規雇用と同じような仕事をしていながら雇用・賃金・権利などに大きな差別があること、長期間勤続しても昇給・昇格・昇進が正規雇用者に比べ雲泥の差（大きな差別）があること、である。これが、したい結婚さえできず生涯未婚者を増大させている。このような人権蹂躙の差別は「希望しての非正規雇用」であろうと「不本意の非正規雇用」であろうと許されない。望んで非正規で働く労働者の雇用・労働条件は劣悪でよいという発想は差別そのものである。はからずも経団連の同一労働同一賃金の原則に対する“無知”がここにも露呈している。詳述の暇はないが、経団連は企業内の賃金制度（賃金体系）と同一労働同一賃金の原則を混同している（『経済』2016年６月号の拙稿）。無知をよそおい、同一労働同一賃金を遠ざけているのであれば、いっそう罪深い。
　また「報告」は、「『非正規』という呼称はネガティブな印象を与えがちであることから、『非正規』に代わる新しい呼称を考える必要がある」として、あれこれ新呼称を品定めしている。経団連は「非正規雇用」問題を呼称の問題に矮小化し、呼称を変えることで、差別の現実は温存したい、ということか。
　90年代以降の長時間労働は、非正規雇用の増大と深く関連している。「構造改革」（新自由主義改革）が正規雇用の非正規化を急速に惹起し、そのため正規雇用が各企業・職場で「不足」し、正規雇用労働者の残業・時間外労働を急速に増大させたのである。したがって、今日の長時間労働を根本的に是正するには、非正規雇用の正規雇用化が不可欠なのだ。同時に、労働時間の上限規制の徹底が必須だ。まずは時間外労働の月45時間までという大臣告示の法制化、さらに根本的には１日８時間労働の徹底、例外でも１日10時間までという総労働時間の法的制限が求められる。
　「報告」も「時間外労働の上限規制のあり方」に言及してはいる。だが、政府の「働き方改革実現会議」で財界代表は、「業務上必要な繁忙期」を口実に、なんと年間１ヵ月以内では100時間までの時間外労働を可能にせよと主張し、いまそれが労基法「改正」の政府案になっている。政府が過労死ラインとする時間外労働月80時間を超える100時間を「改正」案に盛り込むなど、狂気の沙汰といわねばならぬ。

３. 17春闘めぐる財界・企業の矛盾と労働組合

　40年余の「報告」の流れは、すでにみた。春闘のメインテーマが賃金であることは一貫している。だが、「アベノミクス」下、支配階級の“賃金の位置づけ”が「変わった」。正確にはタテマエが「変わった」というべきだろう。以前は、財界にとって春闘は一貫して「賃金抑制の場」という位置づけであった。一部労働組合までこれに協力・加勢し、抑制策は「大成功」であった。
　この「大成功」がいま、日本経済の一大矛盾となって現象している。つまり、労働者・国民の財布の紐を引き締めさせる一方だったので、モノが売れないという日本経済の深刻な病を長期化させている。そこで安倍政権が、「アベノミクス」を取り繕う必要もあって、「経済の好循環」を訴え、政労使会議なるものを立ち上げ、「官制春闘」に乗り出した。だが、雀の涙ほど（定昇込みで２％あまり）の「賃上げ」しかならず、個人消費は冷え切ったままである。おまけに雇用の先行き不安、社会保障の連続カット、消費税のアップなど、「経済の好循環」に逆らう要因・条件ばかりがあふれかえっている。
　結果、経団連会長の榊原も「国民の間には将来不安が根強くあり、生活防衛的なマインドと相まって、個人消費は力強さを欠き、経済の好循環を十分に実感できずにいる」と厳しい現実を認めざるをえない。日本経済は深部できわめて深刻な危機に直面している、ということだ。
　そこで政府・財界は、からめ手として「働き方改革」を強化し、個人消費とアベノミクスを救済しようと安倍晋三を議長とする「働き方改革実現会議」をスタートさせ、ことし３月までに「改善計画」をまとめる手筈である。ところが、その「働き方改革」も上述のように破綻が確実な情勢である。それを察知してか榊原が「伸び悩んでいる個人消費を喚起するには、消費マインドの醸成と高揚が肝要である」として「経団連では、新たな消費喚起策とすべく、本年２月24日（金）から毎月最終金曜日に実施予定の『プレミアムフライデー』」を提起した。日本経済の病気がこれで快復可能だとは榊原自身も思っていないだろうが、おそらく「藁にもすがる」思いなのだろう。
　榊原経団連会長よ、こういうときは“藁”ではなく“労働者の知恵”にすがることだ。労働者の知恵とは、（１）大幅賃上げ、（２）消費税廃止（ゼロ）、（３）安心できる雇用と社会保障の３点セットである。「大幅賃上げ」とは雀の涙のような「賃上げ」ではなく、労働者がこれまで買い控えていたものを「よし買おう」という気分になるような「合理的な賃上げ」である。
　ひるがえって、足もとはどうか。「春闘始動」ということで日本経済新聞（17年２月３日付）がつぎのように報じている。「2017年の春季労使交渉が２月２日、本格に始まった。経営側はトランプ米政権の保護主義などを警戒し、負担が重いベースアップ（ベア）に慎重姿勢を見せる一方、労働組合はデフレ脱却に向けてベアにこだわる。経済の好循環を過去３年間に実現した賃上げ率２％を継続できるかが焦点になる」と報じている。経団連の会長榊原も「賃上げの勢いを継続する」とのべつつも、それはあくまでも「年収ベース」という始末だ。なんともケチくさい話ではないか。
　道は１つだ。上記“労働者の知恵”の「３点セット」を、ストライキを含む社会的な力で財界・企業に飲ませることである。国民の多くもそれを期待している。「市民と野党の共闘」で労働組合は大きな力を発揮した。やればできるのだ。

(まきの　とみお・顧問・日本大学名誉教授)

　2016〜17年度第１回研究部会代表者会議は、全労連会館で、2017年１月21日、藤田実事務局長の司会で行われた。
　はじめに事務局長より、今回の会議は、「研究所プロジェクト『現代の労働と貧困』」の成果を踏まえ、2017年春闘に向け、全労連春闘の前進に役立つ問題提起をどう行っていくかを議論し、その具体化をはかることが最大の目的であると報告された。
　そのうえに立って、各研究部会も日頃の研究活動の成果を土台に、現場に役立つ公開研究会やシンポジウムなどを積極的におこなっていくことの重要性が強調された。
　また、全労連・野村幸裕副議長（労働総研常任理事）より、2017春闘に向けての全労連方針について、「要求実現と組織の飛躍に挑戦」と題して特別報告があった。
　これらの問題提起と報告を受けて、討論では、すでに予定されている公開研究会「内部留保の社会的活用と17春闘」をはじめ、各研究部会でも様ざまな形で全労連運動に寄与する取り組みの具体化に努力することが確認された。
　また、各研究部会の新年度研究計画にもとづく今年度の活動の現状と今後の取り組みについて、各研究部会責任者や常任理事による討論、交流がおこなわれた。

　2016〜17年度第２回常任理事会は、全労連会館で、2017年１月21日、小越洋之助代表理事の司会で行われた。
I　報告事項
　『2017年国民春闘白書・データブック』の刊行や『2017春闘提言・労働者のたたかいこそ展望を切り開く力―安倍内閣の「働き方改革」と労働組合の社会的責任―』記者発表など、前回常任理事会以降の研究活動、企画委員会・事務局活動について藤田宏事務局次長より報告され、承認された。
II　協議事項
　研究部会代表者会議の議論を受けて、2017年春闘をはじめとした全労連運動に寄与する研究所活動についてのフリー討論をおこなった。

　労働総研は２月10日、公開研究会「内部留保の社会的活用と17春闘の課題」を開催した。
　小越洋之助代表理事の主催者あいさつの後、小栗崇資会員(駒澤大学教授)が「大企業における内部留保の構造とその活用」、藤田宏事務局次長が「『経労委報告』から見る内部留保の取り組みの到達点」と題してそれぞれ報告した。
　討論では、内部留保への課税をめぐっての新しい問題提起に関する発言をはじめ、参加者の活発な議論がおこなわれた。

・社会保障研究部会（2016年10月29日）
　研究所プロジェクトのために2015年に行った介護労働に関する聞き取り調査の報告書の扱いについて、大須さんから概要提案。討論の結果、ヒアリング部分と部会メンバーの報告部分とを合わせて、「調査報告書」を作成し、ヒアリングに協力をいただいた組織と個人に届けることとした。なお、研究所プロジェクトの最終報告（『労働総研クォータリー』2016/17秋冬合併号）も寄贈する。また、今年度の研究テーマをどうするかを議論した。さまざまな意見がだされ、次回に確定する。

・女性労働研究部会（１月27日)
　「アベ『働き方改革』と女性労働者」として上田裕子さんが、アベ「働き方改革」の主なテーマ、労働政策審議会の形骸化、「同一労働同一賃金ガイドライン（案）」などについて報告した。経団連等の要望も反映して労働政策が官邸主導ですすめられていることの問題点、「ガイドライン（案）」が提示した不合理な待遇差の事例等は、賃金では人材活用の仕組みが異なれば格差を是認するものであり、格差是正は福利厚生等にとどまることが懸念されること、均等法の雇用管理区分の廃止の必要性などが論議された。

・中小企業問題研究部会（公開）（２月２日）
　「2017年経労委報告と中小企業」をテーマに、元生協労連委員長の桑田富夫氏の報告を受けて、質疑討論した。今年の経労委報告の特徴については、（１）官製春闘４年目、企業側息切れも（「朝日」）、（２）「年収ベース」の賃上げ＝ベア、手当、賞与など多様な選択肢、（３）長時間労働の撲滅＝時間短縮で実質賃下げ、（４）働き方改革を推進＝労働法制を改悪して、女性・高齢者・外国人の活用などが報告された。全労連常幹の本件批判文書が紹介され、高く評価された。討論では、大企業の生産性が高いのは中小を叩いた犠牲の上にあげていることや、製造業は米国トランプ政策の先行き不透明で受注減になっていることなどが紹介された。労働総研の春闘提言で、中小企業での最賃引き上げに伴うコスト上昇分を100％価格に転嫁できる行政指導の施策が注目された。

１月20日　労働運動史研究部会
　　　　　　 賃金最賃問題研究部会
　　 26日　労働組合研究部会
　　 27日　女性労働研究部会
　　 28日　社会保障研究部会
２月 ２日　中小企業問題研究部会
　　　７日　経済分析研究会
　　 10日　公開研究会「内部留保の社会的活用と17春闘の課題」
　　　　　　 国際労働研究部会
　　 13日　労働組合研究部会
　　 17日　労働時間・健康問題研究部会
　　 21日　賃金最賃問題研究部会
　　 23日　女性労働研究部会

１月12日　全労連旗びらき
　　 13日　JMITU通信産業本部旗びらき
　　 18日　「2017春闘提言」記者発表
　　　　　　 労働法制中央連絡会事務局団体会議
　　 21日　第１回研究部会代表者会議
　　　　　　 第２回常任理事会
　　　　　　 電機・情報ユニオン旗びらき
　　 25日　今村天次さんを励ます集い
　　　　　　 三田クラブ総会
２月17日　労働法制中央連絡会事務局団体会議
　　 18日　全教大会へメッセージ