労働総研ニュースNo.321 2016年12月



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米山隆一新潟県知事誕生の現場から  上野 邦雄
2017春闘と第4次産業革命へ組合新ビジョン 青山 悠
公開研究会報告ほか




米山隆一新潟県知事誕生の現場から

上野 邦雄

 原発再稼働反対の米山隆一新潟県知事が10月16日、誕生した。快挙だ。労働総研理事として国民春闘白書の作成に長年かかわり、退職後故郷の新潟市に転居。市民団体「なくそう原発・新潟市民ネット」のメンバーとして原発ゼロの金曜日行動を毎週4年6ヵ月続けている。新潟県知事選の現場で、感じたことを報告する。
 知事選の勝因は、原発問題を最大の争点とし、泉田前知事の「福島原発事故の検証がない限り再稼働の議論はしない」という路線継承を明確にしたことだ。
 県政最大の課題は原発問題。柏崎刈羽原発再稼働反対の県民7割の声にこたえる米山擁立は多くの県民の支持を得た。電話作戦で新潟市民に支持を要請したが、評判は非常に良好。「(期日前投票で)もう入れてきたよ、米山さんへ」「うちは3票、米山さんだ」とか、対立候補(自民、公明推薦)の名前は出てこない。結局52万票対46万票で、6万票の差をつけた。
 米山候補は泉田路線を一歩進め、福島原発事故の検証だけでなく、原発事故の健康と生活への影響、避難計画の実効性など3つの検証がない限り再稼働の議論はしないとし、「県民の命と暮らしを守れない現状では再稼働は認められない」と明言した。
 県内世論形成の背景には、新潟駅前での金曜日行動など県内各地の運動がある。さらに新潟県16と長野県2の計18市民団体等が実行委員会を作り、総出力世界一の東電・柏崎刈羽原発の立地する柏崎市で3年連続で開いてきた「なくそう原発・柏崎大集会」開催の積み上げもある。私は集会実行委の事務局長を務めてきたが、特に今年は「人間の鎖/柏崎刈羽原発包囲」を中止し集会への変更があり、胃が痛くなる困難局面に陥った。しかし米山新知事誕生で報われた。
 市民プラス野党(共産、社民、自由≪生活≫)の共闘によって幅広い支持を得たことも知事選の勝因の一つだ。民進党も選挙中盤以降、中央から蓮舫代表なども米山支援に駆けつけ、逆転勝利に貢献した。
 共闘をお膳立てした「市民連合@新潟」は立派な組織で、「新潟市民ネット」も正式参加した。7月の参院選一人区では安保法制(戦争法)廃止の野党統一候補(森ゆうこ氏)を2000票差の大接戦の結果、当選させた。知事選では泉田前知事の不出馬による混乱の中、何とか告示の6日前に米山候補擁立にこぎつけた。選挙活動は連絡調整会議を開きながら各党の力の最大限の発揮を図った。私がいつものビラ配布地域へ行ったらもう米山候補のビラが配布済み。共闘ではあるが細かい調整はまだ無理。次の衆院選ではさらに野党共闘は進化するはずだ。
 とにかく保守王国の新潟県政で初の革新知事の誕生、しかも原発再稼働反対の立場だ。新潟県の運動がこんなに注目・評価されるなんて、本当に出来すぎ、出来すぎである。
 今後は、少数与党で苦労する米山新知事への支援が重要になる。知事は当選の翌日、「原発再稼働反対という負託を受けて、知事となった。この負託には実直であり誠実であるべきだ。もはや負託されたものを変えられる立場ではない」と語っている。新潟市の金曜日行動では米山支援の替歌を3曲作った。クリスマスにはデモ行進の前に「ジングルベル」の替歌を「♪…… 隆一 隆一 鈴が鳴る/52万票 大勝利 オー!/新知事 新知事 鈴が鳴る/革新 知事が 新潟に」と皆でうたう予定だ。

(うえの くにお・労働総研理事)

労働戦線NOW
2017春闘と第4次産業革命へ組合新ビジョン
―全労連は「社会的な春闘」と新たな統一戦線推進へ

青山 悠

 2017春闘が3月のヤマ場へ向け本格化した。米大統領選でのトランプ氏の勝利やイギリスのEU離脱などで日本経済の先行きも不透明になっている。一方、アベノミクスの破綻など経済低迷の打開には、個人消費拡大による経済の好循環へ賃上げの重要性を政労使、学識者とも強調しているのが特徴だ。また大手、中小を問わない人手不足も賃上げに有利とされている。
 さらに連合の各産別では、今後の焦点となる第4次産業革命と働き方の変化に対応した労働運動の新中期ビジョンの策定も特徴である。
 政治では野党共闘をめぐって連合内できしみも聞かれる。他方、全労連と各産別は「市民連合」など野党共闘の推進と統一戦線的な運動を重視し、衆議院選を含め今後の動向が注目される。

■政労使とも賃上げ強調

 不透明で変動的な経済情勢の17春闘情勢の特徴は、政労使、学識者とも賃上げ・ベア実施で一致していることである。
 連合の神津里季生会長は、2016春闘で物価分がほぼゼロでも定昇別に2%程度の基準要求(中小1万500円)を掲げ、3年連続でベアを獲得した成果を評価。「大手と中小の賃上げ率の乖離を圧縮し、非正規労働者では前年を上回る成果を得るなど、新しい傾向を導き出した。1年で終わらせては何の意味もない。持続させることが重要であり、17春闘でも継続へ運動を」と訴え、「労使の社会的責任」を強調している。
 経団連の榊原定征会長も、17年の春季労使交渉に向けた基本方針に関する議論として、経済の好循環の実現という社会的要請を受けて、賃金引上げのモメンタムを維持する必要があると指摘。「今年は業績が良くなかったから賃金を引き上げないという単純な話ではなく、中期的な業績の推移の中で、賃金引上げを呼びかけたい」との意向を表明している。
 ただし、賃上げの対象は収益拡大企業での一時金増額や子育て世代への配分、政府支援など、ベアの分断を狙っていることに要注意である。
 安倍首相も11月16日、経団連会長、連合会長も参加した「働き方改革実現会議」で、経済の好循環へ向け、財界に「少なくとも今年並みの水準の賃上げを期待している。特に、ベアは4年連続の実施をお願いしたい」と要請した。背景には、経団連も認めている消費支出の連続マイナスや「賃上げしないと、アベノミクスが機能しない」などの危機感もあると指摘されている。

■学識者は高めのベア提起

 学識者からは積極的な提言が目立つ。東大の渡辺努教授は「政府・日銀は金融政策を見直し、賃金をいかにして動かすかだ。物価上昇率でなく、賃金上昇率に切り変える『賃金ターゲット』の導入などが必要だ」(「日経」2016.7.25付)と提起している。
 小峰隆夫法政大学大学院教授も連合総研の情勢報告で家計所得を増やす「逆所得政策」を提起し、「労使双方が高めの賃上げが望ましいという姿勢で2017春闘に臨むべき」と提言した。
 首都大学東京大学院の脇田成教授は、企業の内部留保が毎年20兆円ずつ増えていると指摘。「賃上げしないとマクロ経済は回らない」と述べ、連合の2%程度のベア要求については取り切るぐらいの構えが必要との考えを示した。
 「労組は賃上げにもっと熱心であってよい。労組の経営への物わかりのよさは目に余るものがある」(朝日新聞10.15)と労働組合にハッパをかける経済人の論調も見られる。

■連合は連続ベアで「社会的役割春闘」

 連合春闘のキーワードは、「社会的役割春闘」と「ベア春闘の継続」である。「社会的役割春闘」とは、物価上昇率や経済成長が十分でなくても、経済の好循環実現へ賃上げを先行させる政策的な春闘である。基本構想でも、GDPの6割を占める個人消費が回復しない限り、デフレからの脱却や日本経済の自律的成長は達成できないと指摘。政府のトリクル・ダウンではなく、ボトムアップへ賃上げを先行させる「自律的成長」へとスタンス変えているのが今年の特徴である。
 要求は「2%程度基準」のベア(定期昇給相当分を含め4%)を確認した。昨年と同じ要求水準となる。要求表示で「程度」「基準」の2つの幅を待たせたのは、自動車、電機などの為替変動や物価が想定よりも下がることから、金属大手労組を中心に慎重姿勢がみられるなかで、「ベア要求で一致し、幅をもたせ2%以下もストライクゾーンへと広げる狙い」からである。
 中小の格差是正もこれまで以上に重視し、「大手追従・大手準拠」を脱却し、あるべき賃金水準への到達をめざす取り組みを継続。要求は1万500円(定昇相当4500円、ベア6000円)となる。月例賃金の底上げを重視し、「名目賃金の到達目標」「ミニマム基準」を設定。産別には3ポイントで賃金水準の情報を開示し、職種別・地域別の賃金水準の横断化もめざしている。
 非正規労働者の賃上げは正規との均等要求で時給35円増、時給1000円の実現を掲げている。
 連合の「社会的役割春闘」は経済指標後追いでないとはいえ、問題は生計費や膨大な大企業の内部留保還元など分配のゆがみ是正に大胆に踏み込んでいないことである。

■人手不足などで産別も4年連続ベア

 産別は人手不足なども背景に4年連続のベア要求で足並みをそろえる方向だ。自動車の相原康伸会長は「技術変革など第4次産業革命の国際競争力強化へ、現場力強化と人への投資、継続的・安定的な賃上げを」と4年連続のベア要求を表明。金属労協も連合のベア方針を踏まえ、昨年と同水準の3000円以上の要求を決めた。トヨタの17年3月期の決算予測は営業利益が円高などで前年同期より40.4%の減少とはいえ、1兆7000億円と膨大なもうけだ。内部留保の利益剰余金も9月までの3ヵ月間で6071億3100万円も増やし、付加価値を含め成果還元へ大手労使の社会的責任が問われている。
 連合の神津会長も17春闘で「減益になっても賃上げを行う。付加価値の配分をもっと浸透させていかなければならない」と強調している。
 電機連合も業種、企業のばらつきのなかで産別統一闘争を重視し、4年目の「社会的役割春闘」を推進する方向だ。基幹労連は2年サイクルの春闘で、造船が賃上げに取り組む春闘となり、産別として支援を強める方針だ。
 中小金属のJAMは要求を昨年同水準の1万500円に設定。人手不足を背景に、月例賃金の引き上げにこだわり、年齢や職種などの個別賃金を重視し、賃金の社会性を重視する方針だ。
 UAゼンセンは「デフレ打開には賃上げが必要であり、底上げ、格差是正だけでなく、正規を含む全体のベア春闘」を提起し、昨年と同水準のベア2%程度を要求する方針である。
 フード連合やJR連合も17春闘で中小支援と個人消費喚起へ継続的な賃上げを重視し、連合方針のベア2%程度を掲げる方針だ。

■付加価値配分と内部留保還元も

 連合春闘で新たな運動課題となり、2年目を迎える付加価値の適正還元や公正取引は、昨年以上に連合、各産別とも重視している。方針でも中小の格差是正への公正取引と、「サプライチェーン全体での付加価値の適正分配」を訴えいく必要があるとしている。
 取り組みでは「中小企業における取引関係に関する調査(最終報告)」をまとめた。調査は昨秋、資本金3億円未満の中小企業2万社に調査票を配り、4450社からの回答を踏まえ、恒常的な単価引き下げを見直すよう提言している。
 調査によると、過去3年間で製品やサービスの単価引き下げを要請された企業は、「1年に複数回あった」20.3%など53.2%にのぼる。業種別では自動車など「輸送用機械製造」(75.9%)、「電気機械製造」(67.8%)の飛び抜けた高さが目立つ。
 単価引き下げのために行った施策では、「(自社の)賃上げの見送りや一時金を見直した」23%など、人件費削減の連鎖が広がっている。報告書は「単価の引き上げは雇用と労働条件と密接に結びついており、単価を恒常的に引き下げる取引慣行は早急に見直すことが必要といえるだろう」と提起している。
 政府も消費喚起へ中小の賃上げ支援として、一律単価引き下げや下請け取引きガイドラインの改善など取引関係を改善する方向だ。連合の神津会長は「中小に力を持たせ、働く人を元気にさせるため総がかりで取り組む」「政府もとりくまざるを得ないのではないか」と述べている。
 取り組みでは、各経営者団体への要請や全国の地域フォーラムで公正取引と地域活性化、賃金引上げなどへ生かす方針である。
 内部留保(付加価値も入る)については、連合の神津会長が「内部留保はたまりにたまっており配分の問題が問われている」と指摘している。
 全労連の小田川議長も17国民春闘討論集会で「内部留保は313兆円と、15年より13兆円も上積みされている。中小企業などと連帯し、大企業の内部留保還元を求め、大企業の社会的責任の追及を」と呼びかけ、連合と共通している。

■第4次産業革命と働き方で組合新ビジョン

 労働運動の新たな動向では、第4次産業革命と呼ばれるAI(人工知能)やIoT(インターネットとモノの結合)などの技術革新に対応して、連合の産別大会では新たな運動の中期ビジョンの策定が目立った。
 第4次産業革命の影響について、経産省はAIなどにうまく取り組まなければ、2030年度には働く人が2015年度より735万人の減少と試算。職業を9つに分け、高度なコンサルティング゙を伴う保険商品の営業・販売は15年間で114万人増加するが、工場の製造ラインの人員、調達管理では300万人の雇用が失われると試算している。一方、ドイツでは最終的に新たな雇用の増加と生活水準の向上も予測している。
 金属労協は構造変化に対応し、大会で2020年代前半を見据えた「雇用」「賃金」「労働時間」などについて第3次賃金・労働政策を確認した。
 第1の雇用課題では、急激な技術革新に対し現場力を重視。長期雇用安定を基本に、転職や雇用の移動が不利にならないシステムを追求するとしている。非正規労働者の正社員への転換も重視している。
 第2の賃金課題では、研究開発など国際競争の確保には人件費コストの安さでなく、「先進国日本で基幹産業にふさわしい賃金水準」を重視し、賃上げにも積極的に取り組むとしている。
 第3の時短では、ワーク・ライフ・バランスの実現も掲げた。
 UAゼンセンも大会で10年後の「めざす社会」を展望した「2025中期ビジョン」の確認と実践を決めた。「豊かに生きていく持続可能な社会」への社会・経済システムの転換を重視し、内向な労働運動の打開へ、社会改革の原動力となるべき労働運動を強調している。
 基幹労連も大会で、6年前に決めた「産業・労働政策中期ビジョン」の見直しを決めた。あらゆる領域で多様な人材(ダイバーシティー)の確保に対応した政策で、大会では高齢者雇用の処遇にもかかわり代議員から多くの期待が表明されている。
 JAMも2019年の結成20周年に合わせた新たな運動ビジョンの確立へ、OBや外部有識者も加えた「JAM運動共創イニシアティブ」プロジェクトを立ち上げている。
 連合幹部は、かつて日経連が1995年に策定した「新時代の日本的経営」が雇用構造を変えたような変化も予測されるとし、労働界全体として雇用構造と働き方の変化に対して、中期運動ビジョンの確立が求められと語っている。
 海外では、ドイツのIGメタルが第4次産業革命への対抗戦略として、安定雇用の保障などを掲げた「第4次社会福祉国家革命」を提起しているのも注目される。

■全労連など世直し春闘へ

 全労連などは「社会的な春闘」を掲げ、生計費原則に基づく大幅賃上げと全国一律最制の確立などを重視している。労働法制、戦争法・改憲阻止ではストを含む全国闘争を提起し、新たな統一戦線的な春闘を展開している。要求はアンケートを踏まえ、昨年と同水準の2万円以上、時給150円以上を提起した。
 闘争体制では全組合参加の春闘をめざし、従来以上に産別・地方の統一闘争を重視し、「職場活動の活性化と組織拡大との相乗効果」を呼びかけている。統一闘争の強化へ向けて新設した春闘共闘の「春闘戦術会議」も注目される。
 社会的な春闘では、春闘を社会的にたたかうことを重視。賃金の底上げ・底支えを共通の目標に、全国一律最賃制の実現をめざす取り組みを強化し、最賃1000円と目標1500円を掲げている。公契約の拡大もこれまで以上に重要しているのも特徴だ。
 労働法制の闘いでは、残業代ゼロ法案の廃案と違法解雇の金銭解決の阻止を重視。法案反対だけでなく残業の上限規制、インターバル休憩の実現も掲げている。政府が同一労働同一賃金を提起していることについても、「期待を寄せる労働者もいるという現実を直視しなければならない」とし、働き方の改善に向けて労働組合が正面から取り組むことが大事だと訴えている。
 春闘討論集会が11月下旬に開かれ、賃上げ3万以上を掲げるJMITUや、4万円を要求する医労連などが生計費原則に基づく賃上げとスト計画を報告し、全国一律最賃制確立の取り組みや組織拡大も多くの組合から報告された。群馬からは「ストを経験したことのない組合もあり、全労連としてストの進め方などストのイメージの分かるビデオを」なども要望された。
 春闘最大のヤマ場(3月16日予定)には賃上げ、労働法制、憲法の3課題で民間はスト、公務組合は早朝職場集会で総決起する方針だ。

■労働団体の枠超えスト実践講座始まる

 労働界で注目される新たな動向は、日本労働弁護団がスト実践講座を始め、連合、全労連、全労協などが労働団体の枠を超え運動の交流を始めたことである。欧州並みのスト復権への新たな挑戦である。主催者あいさつで日本労働弁護団の幹事長で棗一郎弁護士は組合のストなしに危機感を表明し、「組合の力の伝承へいろいろな組合のストの流儀を交流し、労働運動の強化をめざそう」と訴えた。
 連合の私鉄総連・相模鉄道労組(1400人)は準大手ストとして注目されており、ストを構えた交渉で春闘のベア獲得や、非正規労働者の正社員化などの成果を報告した。
 全労連のJMITUは、「組合ではストは『伝家の宝刀』とはいわない。なぜなら常時、抜いており、錆びる暇がないからだ」と報告し、春闘の産別ストや労働法制改悪阻止、戦争法廃止など政治ストを含む運動の前進を報告した。
 連合東京の全国一般東京ゼネラルユニオン(21支部223人)の語学学校では「スト破りを防ぐための工夫」として10分間の反復ストを実施。スト後に職場に戻り、またストを反復。学校側は違法と提訴したが、組合側が勝訴した。
 日本の組合は世界でもストが少ないとされている。直近の国際比較では、日本の半日以上スト件数は39件にすぎないが、ドイツは673件で、金属産業労組(IGM)などがストで賃上げを獲得。アメリカは11件だが、1件当りの参加者は3400人と多い。韓国は111件で、16年10月には現代自動車が12年ぶりに全面ストを決行し、賃上げなどを獲得している。
 日本の労働運動をめぐる情勢は賃金・雇用・労働法制・憲法破壊など安倍暴政が目立つ。下山房雄九州大学名誉教授は「労組活動不振国を脱し日本の構造改革を」と訴えている。日本の労働運動も欧州なみへのスト復権は重要課題だ。

■「アベ働き方改革」との攻防

 17春闘では、労働法制を含め、働くルールの確立が大きな課題となる。安倍政権は、17年3月には「働き方改革実行計画」をまとめ、国会に関連法案の提出を狙っている。現在、政労使の「働き方改革実現会議」で検討されている課題は9項目だが、政府が特に重視している課題は「非正規の処遇改善」(同一労働同一賃金)と「長時間労働の規制」である。
 いずれも労働側や4野党が求めてきた課題だが、安倍政権は賃金、雇用、労働時間を含め限定正社員など「多様で柔軟な働き方」など雇用の流動化を推進し、法改正の実効性は疑問であり、働くルールの破壊も指摘されている。
 連合、全労連とも政府の「働き方改革」について対応方針や意見書をまとめ、実効性ある同一労働同一賃金の法改正や労働時間の上限規制、インターバル休憩などを求めている。4野党も長時間規制法案を国会に共同提出し、労働界と4野党との共闘拡大が可能となっている。

■連合は野党共闘できしみ

 政治では、連合の野党共闘をめぐりきしみが聞かれる。神津会長は、当初、7月の参院選挙の野党共闘については「1人区で3年前とは大幅に違った姿が実現でき一定の効果があった」との見解を表明。共産党や全労連とは「肩を組まない」としつつも、統一候補など野党共闘については「一強政治に対する政党間での対応」とし、地方連合も「それぞれの実状を踏まえた対応」との見解を表明していた。
 ところが、8月の参院選まとめでは、野党連携について「連合も戦術として容認」としつつも、連合のスタンスは結成以来、「共産党およびその支援団体とは、一線を画することが大原則」と、連携の歴史を逆戻りさせた。さらに「政権選択選挙となる衆院選では基本政策の合意がなければ進められない」と、否定的な立場を表明した。
 その後、10月の新潟知事選(統一候補勝利)や東京、福岡の衆院補選で「連合と民進党でボタンの掛け違いがあった」と指摘。11月の会見では、「野党共闘という実態はない。一強政治に対して政党の統一候補は当然」としつつも、「政策協定も結ばず、政党の相互推薦もしない」との見解を表明した。
 さらに連合の神津会長は、今秋からの政府の「働き方改革会議」に労働界から、ただ一人参加し、自民党の二階俊博幹事長と10月26日に都内ホテルで会談。野党共闘に否定的な神津氏との会談で「民進党けん制」とも指摘されている。
 この対応には、安倍政権の退陣を掲げて運動してきた連合方針との矛盾も指摘され、自公など改憲勢力が戦後初めて衆参で3分の2を占めたという危機感も希薄といえよう。他方、連合のまとめでは民進の議席減に対し、共産党は議席増となり「存在感を高め、国会の影響力も増し検討が必要」との見解も示している。
 連合内では、自治労や一部地方組織などの野党共闘推進や容認組織もあり、連合のまとめと今後の対応は一枚岩ではないといえる。さらに政策協定も相互推薦もない統一候補については「連合の身勝手だ」との批判の声も聞かれる。
 民進党の岡田克也代表は党代表選前のUAゼンセン大会などのあいさつで、前回の衆院選で1〜2万の差で落選した地域などに触れながら、「衆院295の小選挙区で共産党などと選挙協力を行えば、今の民進40からさらに約40議席も倍増する。政権を倒して新たな政治をつくるのも大きな政治合意だ。誰が新代表になっても協力の大筋は変わらないだろう」と述べている。
 民進党の野田佳彦幹事長も「衆院選で結果をだすためには、民進党単独だけでは厳しい結果が多い」として、他の野党との「できる限りの協力を」と表明している。

■全労連は新たな統一戦線推進

 全労連の小田川義和議長は野党共闘について改憲や戦争のできる国づくりに向けた暴走政治を止めるため、市民と野党の共闘を広げようと訴え、「もう一つのナショナルセンター」から特定の政党や労組との共闘を拒否する発言がなされていることに言及。「結果として市民の願いにそむき、安倍政治の延命に手を貸すものだ」と指摘した。その上で「一致点での闘いを広げるため努力を続ける」と述べた。17春闘方針でも、野党は共闘の世論を強め、政党間の協議促進を求め、衆院選挙のすべての選挙区で野党共闘実現するために、全労連も力と工夫をつくすと打ち出している。
 野党共闘とは綱領、政策が違っても、一致できる課題で共闘するのが基本だ。民進、共産、社民など4野党と市民連合は11月17日、参院選後初めて意見交換会を行い、総選挙へ向け選挙協力で一致した。共通政策は南スーダンPKOの駆け付け警護反対、長時間労働規制法案の成立などである。衆院選へ向け市民・野党の共闘深化をめざす第3回全国市民意見交換会が11月26日、東京で開かれ35以上の多くの都道府県の市民、労組が参加した。雇用・賃金・労働法制・憲法破壊の安倍暴政終止へ衆院選も視野に新たな統一戦線推進へ共同拡大の運動構築が求められている。

(あおやま ゆう・ジャーナリスト)

公開研究会報告

 労働総研は10月28日、公開研究会「安倍『働き方改革』を斬る―研究所プロジェクト報告『現代日本の労働と貧困』と関わって」を開催しました。
 藤田実事務局長の司会で進められ、大須眞治代表理事の主催者あいさつの後、小越洋之助代表理事・研究所プロジェクト責任者より「安倍『働き方改革』はなにをめざすのか―『労働における貧困』および『一億総活躍社会』との関係で―」、熊谷金道代表理事より「企業の横暴から雇用・労働条件を護るために―働く者の貧困克服へ―」と題してそれぞれ報告されました。
 討論では、同じく研究所プロジェクト報告を執筆した伍賀一道常任理事、中嶋晴代理事の発言をはじめ、参加者の活発な議論がおこなわれました。

研究部会報告

賃金最賃問題研究部会(公開)(11月11日)
 「『一億総活躍社会』における同一労働同一賃
金問題」をテーマに、小越洋之助代表理事が「『同一労働・同一賃金』問題を考える―一億総活躍社会での提起は非正規・女性の待遇改善になるか?」、滝沢香弁護士が「同一労働同一賃金原則の法理論と裁判例」、北口明代生協労連委員長が「同一価値労働同一賃金原則を今こそ実現させよう―生協パート労働者の実態から」と題してそれぞれが報告し、討論をした。動きとして育児介護休業法改正と省令・指針」について報告し、質疑・論議した。

11月の研究活動

11月11日 賃金最賃問題研究部会
      労働運動史研究部会
  14日 労働組合研究部会
  16日 女性労働研究部会
  25日 国際労働研究部会

11月の事務局日誌

11月20日 労働総研クォータリー編集委員会
 23・24日 全労連国民春闘討論集会