労働総研ニュースNo.316・317 2016年7・8月



目   次

 2016〜17年度定例総会方針(案)
 [I]2014-15年度における活動報告
 [II]研究所をめぐる情勢の特徴
 [III]2016-17年度の事業計画
 [IV]2016-17年度研究所活動の充実と改善
 常任理事会報告




労働運動総合研究所2016〜17年度定例総会方針(案)

2016年7月31日(日)14〜17時・全労連会館

I.2014〜15年度における活動報告

 労働総研はこの2年間、研究所プロジェクトや研究部会などの研究活動をすすめるとともに、労働運動の直面する課題に積極的に応える政策提言活動なども重視し、「労働運動の必要に応え、その前進に理論的実践的に役立つ調査研究所」として積極的な役割を果たしてきた。

1.研究所プロジェクト

 (1)「ブラック企業調査」プロジェクト
 前期とりくんだ「ブラック企業調査」プロジェクトについて、「ブラック企業」調査報告を発表(『労働総研クォータリー』No.96、2014年秋季号)し、シンポジウム「ブラック企業調査から何が見えたか−現状打開の展望と労働組合−」(2015年1月23日)を開催した。
 (2)「現代日本の労働と貧困―その現状・原因・対抗策」プロジェクト
 今期は、「現代日本の労働と貧困―その現状・原因・対抗策」プロジェクトを、常任理事を中心に、プロジェクトチームを発足させ、報告案について、常任理事会、理事会、全国研究交流会、研究部会代表者会議、各研究部会などで議論してきた。2016-17年度定例総会にて最終報告案を議論し、『労働総研クォータリー』2016年秋・冬合併号にて報告書を発表する予定。

2.研究所の政策発表

 労働運動の直面する課題に積極的に応える政策提言活動として、(1)「2015春闘提言・目先の利益ばかり追求する経営を改めさせ大幅賃上げを!−内部留保をこれ以上増やさないだけで月11万円以上の賃上げが可能−」(2015年1月7日)、(2)「2016春闘提言・『アベノミクス』を止め、政治・経済の転換を―内部留保のこれ以上のため込みを止めれば、月5.9万円の賃上げが可能」(2016年1月20日)を発表した。

3.研究部会

 「労働総研アニュアル・リポート2013」(「労働総研ニュース」No.294、2014年9月号掲載)、「労働総研アニュアル・リポート2014」(「労働総研ニュース」No.305・6、2015年8・9月号掲載)を発表。
(1)賃金最賃問題研究部会(13回開催)
(2)女性労働研究部会(21回)、労働総研ブックレットNo.10『人間らしい働き方とジェンダー平等の実現へ―労働組合の役割ととりくみ―』
(3)中小企業問題研究部会(13回)、毎回、公開研究会として開催。
(4)国際労働研究部会(16回)、全労連編『世界の労働者のたたかい2015』『同2016』に協力、『労働総研クォータリー』No.97・2015年冬季号「特集・『働く貧困』に立ち向かう世界の労働組合」、全労連・国際シンポジウム(2015年11月)への協力
(5)労働時間・健康問題研究部会(11回)
(6)労働者状態統計分析研究部会(4回・国民春闘白書編集委員会を含む)、全労連・労働総研編『2015年国民春闘白書』『2016年国民春闘白書』発表
(7)労働組合研究部会(19回)、『労働総研クォータリー』No.99・2015年夏季号「特集・労働運動の再生と産業別組織の課題」
(8)関西圏産業労働研究部会(8回)
(9)社会保障研究部会(9回)、『労働総研クォータリー』No.100・2015年秋季号「特集・歴史的岐路に立つ生存権と社会保障」
(10)労働組合運動史研究部会(10回)

4.研究交流会

 プロジェクトと研究部会間の研究交流をすすめるため、研究部会代表者会議(2015年1月23日・2016年1月30日)を開催した。また、定例総会未開催年に労働総研の研究活動の課題と論点を交流するとりくみとして、全国研究交流会(2015年8月1日)を初めて開催した。その他、「労働総研ニュース」にて各研究部会報告を掲載した。

5.経済分析研究会

 10回開催し、「『日本再興戦略 改訂2014』批判」(「労働総研ニュース」No.295、2014年10月)、「『日本再興戦略 改訂2015』批判」(「労働総研ニュース」No.307、2015年10月)、「『一億総活躍社会』批判」(「労働総研ニュース」No.312、2016年3月)、『アベノミクス崩壊―その原因を問う』牧野富夫編著(2016年6月・新日本出版社)を成果として発表した。

6.大企業問題研究会

 6回開催し、「東芝粉飾決算と労働運動」大木一訓(「労働総研ニュース」No.309、2015年12月)を成果として発表した。

7.若者の仕事とくらし研究会

 「続・若手組合員は労働組合をどうみているのか―聞き取り調査から見出されたこと」(『労働総研クォータリー』No.98・2015年春季号)、「現代の若者の意識と行動―組織化に向けての課題」中澤秀一(『月刊全労連』・2015年8月号)を成果として発表した。また、全労連・最低生計費調査に協力し、「最低生計費調査から見えてきたもの」中澤秀一(『月刊全労連』2016年6月号)を発表した。

8.E.W.S(English Writing School)

 わが国の労働運動を中心とした情報を海外に発信するための書き手養成講座であるE.W.Sは、毎月2回定期的に開催した。

9.出版・広報事業

 『労働総研クォータリー』、「労働総研ニュース」の定期発行、およびホームページの更新につとめた。『労働総研ブックレット』は、No.10『人間らしい働き方とジェンダー平等の実現へ―労働組合の役割ととりくみ―』労働総研女性労働研究部会編、No.11『財界戦略とアベノミクス─内部留保はどう使われる』藤田宏著を刊行した。

10.産別会議記念労働図書資料室

 堀江文庫をはじめ労働図書など、資料の収集、整理、公開をおこなっている。整理された図書の分類項目の一覧を図書資料室ホームページに掲載している。

11.その他

 顧問・研究員との意見交換会をおこなった(2015年10月3日)。
 労働法制中央連絡会に事務局団体として活動に参加、(公財)全労連会館理事会、「日本航空の不当解雇撤回をめざす国民支援共闘会議」、「日本IBM解雇撤回闘争支援全国連絡会」に参加している。また、「安全保障関連法案に反対する学者の会」のよびかけに協力した。

II.研究所をめぐる情勢の特徴

1.安倍政権暴走の下で噴出する矛盾と政治変革への新局面

 「海外で戦争をできる国」と「世界で企業が一番活動しやすい国」づくりをめざす安倍政権の「暴走政治」のもとで、安倍政権打倒の国民的な反撃が広がり、日本の政治はかつてない新しい局面を迎えている。

(1)安保法制(戦争法)の強行と憲法改悪策動の新たな段階
 安倍政権は、憲法9条を蹂躙して、日本をアメリカとともに海外で戦争する国にするための安保法制(戦争法)を強行した。安保法制の強行は、憲法の平和主義や民主主義、立憲主義そのものを破壊する暴挙である。今年3月22日の閣議では戦争法を29日に施行する政令とともに、併せて戦争法強行に必要な26本の政令改定も決定した。安保法制は、安倍政権が歴代政府の憲法解釈を乱暴に踏みにじって、集団的自衛権の行使を認めたもので、日本が攻められてもいないのに集団的自衛権を行使してアメリカの戦争を手助けすれば、自衛隊は、文字通り「殺し殺される軍隊」になる。それだけでなく、安倍首相は、憲法9条の明文改憲さえ公言し、憲法破壊をさらに進め、戦後日本の平和を根底から覆し、かつての「軍事国家」に引き戻す策動も進めている。

(2)アベノミクスと労働者・国民の生活悪化
 「世界で一番企業が活動しやすい国」づくりを目指す安倍首相は、アベノミクスを表看板に、企業がもうかれば雇用や賃金が改善するというトリクルダウン論をふりまき、大企業の利益に奉仕する政治をすすめてきた。しかし、アベノミクスは、大企業・特権的富裕層への富の集中と、その一方での労働者・国民の暮らしと雇用の悪化をもたらすものでしかないことが明らかになった。アベノミクスの破たんと矛盾はこれまで以上に深刻なものになっている。にもかかわらず、安倍首相は、「一億総活躍プラン」を旗印に、「同一労働同一賃金」を持ち出し、「多様な働き方」の名のもとに、限定正社員など新たな大量の低賃金労働者をつくる「働き方改革」を進めようとしている。

(3)新たな歴史をつくる市民運動の豊かな発展と労働運動
 安倍政権の3年半は、政治的にも経済的にも、深く広い矛盾をもたらすことになった。いま、その矛盾は頂点に達している。安倍政権の危険な暴走にたいして、国民的な反撃が始まっている。戦争法ノーの共同、原発ノーの共同、それがさらにブラック企業根絶など働くルールの確立、保育所問題など、様々な問題で労働者・国民の怒りが沸点に達し、安倍政権の打倒を求める市民運動となって広がっている。全労連などたたかう労働組合は、その運動を支え、激励し、連帯して、運動のすそ野を広げている。それは新しい歴史をつくる国民的な運動として発展している。

(4)前進する市民と野党の共闘
 憲法違反の安保法制廃止と安倍政権打倒を正面に掲げて、4野党(日本共産党、民進党、生活の党、社民党)が全国的規模で選挙協力をおこない、市民や労働者・労働組合と共同して国政選挙をたたかう――日本の戦後政治史上、かつてない局面が生まれている。
 全国で32に上る参院選1人区のすべてで、広範な市民と野党の「統一候補」が実現した。そのなかで、県レベルではあるが、「統一候補」勝利めざす県労連と連合との連携も進み始めた。この「共同」は、安保法制廃止以外の政策でも、原発稼働ゼロ、消費税増税に反対、雇用・労働条件改善など、政策の一致点が広がっている。
 それだけではない。市民と野党の共闘が前進する中で、安倍政権の暴走から国民の暮らしを守る4野党の国会内共闘も前進している。残業時間の上限規制を盛り込んだ労働基準法改正案、介護職員や保育士の処遇改善をもとめる法案など4野党共同法案が国会に15本も共同提出されている。それは、国政選挙での「統一候補」の実現とも相まって、労働者・労働組合と国民諸階層との雇用と暮らしを守る共同が前進すれば、国会内での力関係を変え、労働者の切実な要求を実現する新たな可能性が生まれていることを示している。

2.アベノミクス・財界戦略と日本経済再生の課題

(1)グローバル化する日本企業と産業空洞化
 日本企業は収益が増大しても国内で設備投資をするわけでもなく、海外での設備投資を増強している。また賃金を抑制して貯め込んだ内部留保を利用して、日本企業は海外でM&Aを行っている。今や、日本企業による海外企業のM&Aは数千億円に上るのもまれではない。
 さらに企業はグローバル活動を強化することで、企業収益を拡大させために、国内ではリストラを強めている。最近のリストラのなかには、経営不振ではなく、海外展開を進めるために国内体制をスリム化するというものある。大株主となった外国のファンドが株価を高めるために、リストラを求める場合もある。
 こうして日本企業は、海外展開や海外M&Aを拡大させる一方で、国内工場のリストラを進めたり、国内設備投資を遅滞させたりすることで、国内産業の空洞化を促進している。

(2)経済の金融化と金融事業を持つ大企業の金融収益の拡大
 経済の金融化を背景に、多くの大企業で金融事業を展開しており、金融事業を持つ大企業の営業利益に占める金融の比率は07年度は7%にとどまっていたが、15年度では約30%に達している。例えば、トヨタ自動車の金融事業の営業利益は2002年3月期は686億円にすぎなかったが、2016年3月期には3392億円と約4.9倍にまで拡大した。一方の自動車事業は、1兆0845億円から2兆4489億円と約2.2倍に広がったが、金融事業ほどの伸びではない。
 また経済の金融化を背景に海外への証券投資も増えている。その結果、海外子会社からの配当利益など企業収益に占める金融収益の割合も増加している。

(3)増大する内部留保と日本経済
 日本企業は最高益を上げながらそれを生み出した労働者に還元せず、国内での設備投資もせず、この間,内部留保を増大させてきた。「法人企業統計」によれば、日本企業の利益剰余金は2016年1〜3月期で366兆円(全規模)まで積み上がり、安倍内閣が発足した直後の2012年12月期と比較すると約92兆円も増加している。これに対して従業員給与と賞与の総額は減少している。ここからも労働者には賃上げをせず、ひたすら貯め込むだけの日本企業の姿が浮かび上がる。

(4)日本経済再生への道は何か
 日本企業は国内市場を自ら縮小させる一方で、企業が国内にとどまるためと称して、法人税の減税などより一層企業が活動しやすいように求めている。これでは、アベノミクスで「世界一企業が活動しやすい国」づくりをしても、国内で需要を創り出すことはないのだから、経済も成長せず、国民生活は向上しないのである。
 日本経済を国民本位の経済にするためには、賃上げや労働時間の短縮、安心できる社会保障の実現で、国民生活を安定的なものにする必要がある。国民生活が安定すれば、国内消費を軸とした内需型の経済循環を実現できる。日本経済の再生のためには、企業成長ではなく、国民生活を重視した経済・財政政策への転換と企業行動への規制が必要である。

3.「貧困大国」日本の現実と「貧困」打開の課題

(1)日本の未来を揺るがす「貧困」の進行
 日本経団連「新時代の『日本的経営』」(1995年)以降、財界は新自由主義=構造改革政策により、労働者に対して雇用破壊(リストラ)、成果主義、雇用の非正規化、要員削減下での長時間労働など、総額人件費の削減をねらい、労働組合攻撃を行ってきた。歴代政府も財界の意を受け、労働法制の改悪(派遣労働の生涯派遣化、裁量労働制の適用範囲の大幅な拡大など)を行った。「ホワイトカラーエグゼンプション」「解雇の金銭解決」も俎上にある。
 現在、多くの労働者は、グローバル化による多国籍企業の海外進出、規制緩和や価格破壊のインパクトを受け、政府による分配を無視した多国籍企業・大企業本位の成長政策によって、「雇用の劣化、長時間・過密労働、低賃金化」という深刻な被害を被っている。
 「雇用・労働時間・賃金」(雇用条件)・「働き方」の急速な悪化、劣化が「労働と貧困」の直接的原因である。その影響は労働者だけでなく、子ども、学生、障碍者、失業者、独居高齢者などにも広がり、衆目に「見える化」してきている。

(2)激化する社会保障解体攻撃と消費税増税
 「労働と貧困」のもう一つの原因は社会保障改悪である。社会保障は、本来は国民の生存権・社会権を具体化し、公的責任において貧困を社会的に防止する施策である。
 日本では社会保障の制度や給付レベル自体が元来遅れている中で、新自由主義の跋扈による「自己責任」「市場原理」、それによる公的責任の廃止、財政削減、民営化=産業化により「解体」の危機にある。保育や介護では、生命の安全性を軽視した企業の参入=「儲け主義経営」と受益者負担が強化され、同時に、現場労働者を劣悪な雇用条件・「働き方」に陥れている。
 安倍内閣の下で消費税率は5%から8%に引き上げられた。予定した10%への増税は世論の圧力、選挙対策などを意識して2019年10月まで2年半延期した。消費税の本質は「逆進性」で、富裕層の税負担を回避させ、消費不況を深化させる最悪の税制である。
 財政問題の改革は、庶民増税ではなく、「応能負担」による課税の公正性、低所得層への所得の再分配を重視し、富裕層への増税によるべきである。高額所得者・富裕層への所得税増税とともに、大企業・多国籍企業への課税(法人税減税の中止、その増税化、証券投資など金融取引への課税、内部留保への課税、「タックスヘイブン」への租税逃れの実態公開と課税強化など)に踏み切るべきである。
 消費税8%増税が日本経済の景気を冷やし、GDPの約6割を占める国民の消費を抑制させ、節約の広がりになった状況は「街角景気」をみれば明白である。「経済の好循環」を謳いつつも、国民生活を無視してきた安倍内閣の悪政のツケがはっきりし、その経済政策は隘路に直面している。

(3)「貧困」打開に向けての共同の前進
 2010年代以降、多くの労働者、市民、弁護士、学者、国会議員の共同で、労働者の雇用条件・「働き方」に関連する法が制定された。
 有期雇用契約の無期雇用転換のルールなどを定めた「労働契約法の改正」(2013年4月1日全面施行)は、5年以内や10年を上限での雇い止めを公然化する企業がある一方で、それを阻止し無期契約の転換を申し込む権利を確認させた事例も登場している。また、「有期雇用契約の不合理な労働条件の禁止」(20条)では定年後の不当な低賃金での再雇用を正す係争事件も登場している。
 さらに、この間「過労死防止法」(2014年5月17日)、「ブラック企業防止法」(2015年4月16日)などが相次いで制定された。財界・政府が公然と労働法制の改悪をすすめているとき、これら成立した法の不備をさらに改革しつつ、積極面を活用して、「雇用・労働時間・賃金」の際限のない悪化を改革する運動の本格的な歩みが期待される。
 さらに、最低賃金時給当面1000円、1500円を目指す全労連、幅広い若者の組織の運動、日弁連貧困対策本部の支援、4野党のこのテーマでの共同の可能性の広がりもある。同時に保育園に入所拒否された働く一女性のネット上での怒りの告発、その運動が国会を動かし待機児童問題や保育士の低賃金問題の解決に向かうなど、新しい市民運動が続々登場している。全労連などの労働組合、4野党、市民連合など「全国総がかり総行動」は「ホワイトカラーエグゼンプション」や「解雇の金銭解決」を許さす、貧困と格差の変革のために、国民的共同の前進をすすめている。

4.労働組合の進路をめぐる2つの道

(1)政労使一体となった新たな「生産性向上運動」の登場
 安倍首相の「一億総活躍社会」は、「構造的課題である少子高齢化の問題に挑戦する」というように、少子高齢化対策としての社会保障抑制・解体攻撃であり、急速に顕在化・深刻化している労働力不足への反動的な対応である。若者や女性、高齢者、外国人労働者などを労働力として最大限に“活用”しようというものだが、それは決して労働条件や就労環境の改善、良質な雇用の創出ではない。「多様な働き方」の名のもとに、非正規雇用、低賃金の細切れ雇用にいざない、安上がりの労働力として動員(酷使)しようという企みである。2014年12月の政労使合意にもとづき、「GDP600兆円」をめざして最低賃金の引き上げとともに、政労使一体となった「生産性向上運動」を呼びかけている。労働者派遣法の大改悪に続いて、残業代ゼロ制度の創設など8時間労働制の根幹を壊す労基法大改悪や解雇規制の緩和などがねらわれている。労働者保護法制が全面的な解体攻撃に晒されているもとで、労働運動の総力を結集して反撃を強化していく必要がある。

(2)労働者の要求を実現するという労働組合の存立の原点にたったたたかいの重要性
 全労連の16国民春闘は、「戦争法廃止・安倍内閣打倒」、「貧困と格差の解消」、「賃上げの獲得で生活の改善」などをかかげてたたかった。賃金闘争では、生計費原則にもとづく原則的なたたかいを進めたが、アベノミクスの破たんによる景気の減速が鮮明になり、大企業の労使一体での低額回答の中で厳しいたたかいとなった。しかし、産業別統一闘争と地域春闘の前進による大幅賃上げの実現、非正規労働者の分野で多くの改善が生まれている。この変化を全体のものにすると同時に、若者に選択され、働き続けられる職場・産業づくりなどの制度政策闘争の強化についても検討を深めることが求められている。このように、16国民春闘は、これまで以上に労働組合の基礎的な力量が試された春闘だったといえる。職場を基礎にした主体的な力量を高めて、「最低賃金の引き上げ」「同一労働同一賃金」など「社会的な賃金闘争」を前進させる土台をつくりだすことが重要である。

(3)労働組合運動前進の新たな条件
 賃上げを求める世論がかつてなく強まり、大企業の膨大な内部留保の活用も強く叫ばれている。アメリカでは、時給15ドルを求める運動が労働組合と市民と一体となって展開され、ヨーロッパ、東アジアでも最低賃金の引き上げを求める運動が広がっている。仕事と生活の両面で苦しんでいる非正規労働者、女性、青年の要求を前面にした取り組みを強め、労働組合運動への結集を強く働きかけていくことが求められている。「社会的な賃金闘争」をさらに広く強力に推進していく必要がある。
 労働組合運動を前進させるためには、組合員参加型の日常的な活動を組織の隅々にひろげる努力を尽くすことによって、切実な要求を基礎にした要求実現と日常活動の活性化、組織拡大強化の相乗効果をつくりだしていく必要がある。いっそう切実化する要求とアベノミクスのもとで加速度的に拡大している格差と貧困、各分野で深まる矛盾と亀裂に依拠して、世論と共同を前進させるなかで、全労連運動への信頼と結びつき、社会的な影響力を拡大し、組織拡大強化につなげていくことが強く求められている。同時に、市民的な運動の広がりに呼応しながら、労働組合間の共同の前進、地域的な共同の前進に向けて力を尽くす必要がある。

III 2016〜17年度の事業計画

はじめに――研究所の調査・研究課題

(1)「貧困化」の新たな様相と打開の課題を探る
 労働総研あげての研究所プロジェクトとしてとりくんできた「現代日本の労働と貧困――その現状・原因・対抗策」は、労働者のなかに広がる貧困化の様相を多面的に明らかにすると同時にその打開をめざす基本的課題を明らかにしている。これを基本に、貧富の差と貧困を拡大する新自由主義と自公政権の悪政に対し、これを押し返す労働者と労働組合の職場や地域からの運動を前進させる具体的課題などをさらに問題提起をしていくことが求められている。

(2)労働者・労働組合の課題、運動前進への貢献
 労働者の貧困拡大を阻止するためには労働組合運動の社会的影響力の拡大が不可欠であり、労働組合の組織強化・拡大は日本社会の重要な課題となっている。その一助として、労働総研・労働組合部会は「単産調査」結果などを踏まえ「労働運動の再生と産業別組織の課題」を2015年に提起(「労働総研クォータリー」No.99・2015夏季号)している。また、同部会は現在「地方組織調査」の結果にもとづき地方・地域組織の運動・組織を前進させるための課題を取り纏めるべく研究会等を積み重ねている。
 労働総研の原点であるわが国労働運動の強化・発展に寄与する問題提起等を引き続き重視する。

1.研究所プロジェクト

 研究所プロジェクト「現代の労働と貧困――その現状・原因・対抗策」の成果を踏まえ、労働組合運動や国政の焦点となっている課題や広範な労働者が関心を寄せる課題に焦点をあわせた緊急政策提言を随時行っていくことにする。
 「現代の労働と貧困」は引き続き、日本の労働運動が重視しなければならない課題になっている。安倍内閣が進める「一億総活躍プラン」は、「多様な正社員」の名のもとに、大量の低賃金労働者をつくりだそうという狙いを持っている。それだけ「労働と貧困」の矛盾が具体的に噴出することになる。
 そうした状況とかみ合った緊急政策提言を、労働総研として各研究部会の協力も得ながら、系統的に追求することにする。
 同時に、研究所プロジェクトについては、一つのテーマについて2年の年度期間で完結するものとするか、どうかも含めて検討し、次年度の研究所プロジェクトのテーマを検討することとする。

2.他の研究機関や単産調査部などとの交流、調査の情報収集・紹介の強化

 各地方の研究機関や単産調査部などとの交流の強化を、引き続きすすめていく。
 財界系のシンクタンクを含め労働分野にかかわる調査について、資料の収集・調査内容の紹介などを、会員の協力も得て、系統的に追求する。

3.研究所の政策発表

 安倍「雇用改革」をはじめとした乱暴な攻撃が、国民・労働者にかけられてきている情勢のもとで、これらの攻撃にたいして機敏に反撃し、労働組合運動の前進に寄与する政策提言をこれまで以上に重視する。同時に、これら政策提言にもとづく学習研究会などを全労連との協力・共同で推進する。

4.研究部会

 研究部会の活動の前進を図るとともに、労働組合運動の焦点になっている課題を整理し、それとの関係で研究部会活動の課題を明確にする努力を強める。安倍内閣の「一億総活躍プラン」についての検討を進め、当面、「一億総活躍プラン」でうたわれた「同一労働同一賃金」についてのシンポジウムを賃金・最賃問題研究部会で行う。各研究部会・研究会も、労働運動の当面する焦点になっている課題について、積極的にシンポジウム、公開研究会などを具体化し、研究部会の研究成果を労働運動の現場に多様な形で発信するようにしていく。また、各研究部会と常任理事会の連絡を密にして、研究例会や研究交流会の活発化を図るようにする。

5.研究交流会

 全国研究交流会や研究部会代表者会議などによって研究部会間の研究交流をすすめるとともに、直面する労働運動の課題についての民主団体や他の研究所との課題別研究交流の展開にも努めていく。

6.経済分析研究会

 「一億総活躍プラン」をはじめとしたアベノミクス「第2ステージ」を迎えての安倍政権の「成長戦略」や「働き方改革」についての徹底分析を引き続き系統的に追求する。同時にアベノミクスが労働者・労働組合に何をもたらすかを明らかにするなど、安倍政権の経済政策を中心に系統的に批判していくことにする。

7.大企業問題研究会

 アベノミクスの背景にある財界の蓄積戦略の系統的分析を追求するとともに、それが大企業の労働者支配にどのような形で具体化されているのかについて解明する。また、そのことともかかわって、安倍「雇用改革」の危険が職場の現実のなかにあらわれている状況をリアルに把握し、この攻撃と対置する形で必要な政策提起をおこなう。

8.若者の仕事とくらし研究会

 若者の労働と貧困の実態を明らかにする予定である。具体的には、「全国大学生活協同組合連合会」(大学生協連)が実施している「学生生活実態調査」のデータ等を用いて、大学生の生活の変動を分析する。この数年、研究会のメンバー拡大に努めてきたが、あまり進まなかった。さらなる呼びかけをおこなって、より活発な活動に繋げていきたい。

9.E.W.S(English Writing School)

 これまで続けてきたように、英語の基本を繰り返し確認しながら、実践的な英語の書き方、とりわけ労働総研や労働組合の対外むけの広報に役立つ文書作成についても重視する。新たな参加者を募って、一人でも多くの若手の書き手を育てることを追求する。

10.研究成果の発表・出版・広報事業

 『労働総研ブックレット』は、編集委員会のイニシアのもとに、企画や内容の充実を図るとともに、運動現場の意見も機敏に反映するようにし、研究所の研究成果の積極的な発信に努める。
 『労働総研クォータリー』は、発売を本の泉社に委託し、広く宣伝・広報を展開できるという有利な条件を生かして、会員以外への普及を強化して労働総研の存在感を高める。また、編集委員会の努力もあり、各号を特集でまとめるようにしているが、特集内容に応じた普及の努力をさらに強める。
 「労働総研ニュース」は定期的な発行に努めるとともに、紙面の改善により研究部会・会員相互の情報交換の活発化をひきつづき図る。
 ホームページの積極的な更新に努める。

11.産別会議記念労働図書資料室

 (公財)全労連会館との共同で、図書資料室として有効に活用できるよう協力する。

IV.2016〜17年度研究所活動の充実と改善

1.会員拡大

 労働総研の研究活動の広報が強化されてきたことを活用し、研究所プロジェクトの取り組み、シンポジウム、各種研究会など労働総研の具体的な研究活動を通して、若手研究者・女性研究者の拡大をとくに重視する。また、実践的・理論的運動家にも会員拡大を呼びかける。

2.読者拡大

 『労働総研クォータリー』の定期的刊行、ホームページなどによる宣伝の強化などを通じてより広範な人に普及を行なう。

3.地方会員の活動参加

 労働総研のシンポジウムや公開研究会への参加を呼びかけるとともに、「労働総研ニュース」『労働総研クォータリー』への寄稿により、会員相互の交流の活発化を図る。地方会員の活動参加を多様な形でどうすすめるかについてもひきつづき研究していく。

4.事務局体制の強化

 ボランティアの力も活かして、事務局活動を強化する。ひきつづき、『労働総研ブックレット』『労働総研クォータリー』編集委員会などの円滑な運営のために機動的に支援する体制を強める。

5.財政問題検討チームの設置

 労働総研の財政は、団体会費収入の減少などで、年々厳しさを増している。この間、節約に努めてきたが、その限界も見え始めた。財政問題をどう打開するか、本格的に検討するための財政問題検討チームを設置する。

6.顧問・研究員制度の活用

 労働総研設立当初の経験・教訓を活かし、意識的に継承・発展していくためにも、顧問・研究員の制度の活用は欠かせない。顧問・研究員との意見交換会などを、適切な時期に開催する。

2014〜15年度第8回常任理事会報告

 2014〜15年度第8回常任理事会は、2016年6月11日、熊谷金道代表理事の司会で行われた。

I 報告事項
 前回常任理事会以降の研究活動、企画委員会・事務局活動について藤田宏事務局次長より報告され、承認された。

II 協議事項
 1)藤田実事務局長より、入会の申請が報告され、承認された。
 2)事務局長より、第2回理事会での討論をふまえて文章化された2016-17年度定例総会方針案が提案された。討議をおこない、出された意見にもとづき必要な文章の補強をおこなうことを確認した。
 3)小越洋之助代表理事・プロジェクト責任者より、研究所プロジェクト「現代日本の労働と貧困―その現状・原因・対抗策」の各章別案について、報告され、論議した。今後、定例総会にて最終報告案を論議し、『労働総研クォータリー』2016年秋・冬合併号にて報告書を発表することとした。