労働総研ニュースNo.308 2015年11月



目   次

 非正規雇用の実態の解明と組織化   植木 洋 
 米国労働運動の新しい挑戦      仲野(菊地)組子 
 常任理事会報告ほか




非正規雇用の実態の解明と組織化

植木 洋

 今年の4月に労働総研に入会した鳥取短期大学の植木洋です。新入会員ということで自己紹介をさせていただきます。本校は人口約5万人の鳥取県倉吉市に立地し、鳥取県中部地域の唯一の短期大学であるとともに、鳥取県に三つしかない大学のうちの一つであるという貴重な存在である。
 その一方で、政治的には無風地帯であり、今回の安全保障法案をめぐる激しい闘いについても、そういった雰囲気はほとんど感じられない状況にあった。私はこれまで京都に暮らし研究をしてきたが、その違いを肌身で感じている。こうした点から、およそ二ヶ月に一度のペースで京都にて開かれる労働総研・関西圏産業労働研究部会に参加できることは、さまざまな意味で刺激となっている。
 ところで、私はこれまで社会政策学会などに加入し労働問題を研究してきたが、その基調には産業構造の変化によって従来の労働者の階層構造がいかに再編されるのか、その過程で労働者の労働や生活にいかなる影響が生じているのかといった問題意識がある。そこから、以下のような研究をおこなってきた。
 はじめに、日本の外国人労働者問題に関わる研究がある。日本における外国人受け入れの大きな転換点は1990年の入国管理法改正にあるが、同時にこれ以降日本の雇用構造も大きく転換する。こうした、日本の移民・労働政策および雇用構造の変化が外国人労働者にいかなる影響を与えているのかという視点から、浜松や豊橋に在住する日系ブラジル人や彼らを雇用する下請部品メーカーへのインタビューを重ねた。その結果、従来、彼らの労働は「単純労働」で代替可能なものとされてきたが、リーマンショック直前の工場では彼らなしでは立ちいかず、量的にも質的にも「基幹労働力化」していた。この外国人労働者の「基幹労働力化」は、今後増加する技能実習生でも生じることが予想されるが、それが処遇の改善に結びつくとは限らない点に問題がある。
 次に、日本の外国人労働者問題は、非正規雇用問題の一領域であるという認識に基づき、宇治市の公立保育園で働く非正規保育者に対する調査もおこなった。そこでは非正規労働者としての問題を抱えながらも、正規雇用者とも連携した労働運動をつうじてその処遇格差を一定克服していることが明らかになった。このようなさまざまな非正規雇用の実態を解明すること、およびそこでの問題を克服するための組織化は現在の私の研究テーマとなっている。

(うえき ひろし・会員・鳥取短期大学助教)

米国労働運動の新しい挑戦――地域経済活性化と労働組合

仲野(菊地)組子

T 新しい労働運動が抱える状況

 1980年代以降、特に従来型の労働運動が行っている工場や仕事場のいわば塀の中での労使交渉で賃金や労働条件を決めるというやり方では、労働者の切実な雇用の安定や保健医療や住宅問題などが改善しなく、賃金の引き上げも、職務階梯が崩れて難しくなって行った。そこで心ある労働組合のリーダーたちは、何とかしなくてはと考え実験的な試みを重ねてきた。それは塀の外に出て、地域住民の信頼を得て共に要求を勝ち取ろうという運動の仕方である。だが同時に労働運動自体が弱体化しているので、組織率(1985年で18.0%、2010年で11.9%、そのうち民間では6.9%)も上げねば話にならない。短く言うとビジネスユニオニズムから社会運動ユニオニズムへの転換である。だが、ここには、日本と比べて固有の困難が横たわっていた。1つ目は、職場に労働組合を作って交渉しようとすると、全国労働関係法で細かく規定されていて、まず対象となる職場の30%の労働者がその労働組合を支持すると書いた受権カードを集めて労働関係局に申し出ねばならず、そこで職場が交渉単位としてふさわしいかどうか調べられ、選挙の日を決定され、結局1〜2ヵ月後にやっと選挙ができる。その間の選挙活動の中で企業側がさまざまに妨害をするので成功はなかなかむずかしい。労働組合は、被用者選択法案(受権カードで職場の過半数を獲得すれば、そのままその組合を職場の交渉代表として認めることや組合の組織化に対して企業は中立を守ることなどを述べた法案)をオバマ大統領に託したが、いまだ実現されていない。2つ目は、地域住民と連携して闘うと行っても地域住民自体が、地理的にも(都市と郊外の貧富の差)人種的にも(白人と有色人種との格差)分断されている。労働者や住民の下からの闘いや組織化を考える場合は、このような困難をクリアしなければならない。

U サンノゼの「地域で力を築く」戦略(Regional Power Building)(注1)

 (1)「地域で力を築く戦略」とはどのようなものか

 ここで紹介するのは、地方労働評議会(ナショナルユニオンの地方支部を中心とした地域連合組織)を中心に、地域の社会運動組織と連携して地域住民とともに地域課題を実現し、同時に労働組合も地域に信頼を得て再建していこうとする戦略である。この戦略は1990年代後半にサンノゼやロサンゼルスで成功しカリフォルニアモデルと言われ、今日、AFL-CIOもこの戦略に沿って地域労働運動に力をいれて来つつあるものである。ここでは発生の地のひとつサンノゼ地域を見てみよう。
 サンノゼを中心とするサウスベイ労働評議会の議長エイミー・ディーンは一般組合員と非組合員の調査から、要求課題が、住宅・仕事の保障・保健医療・公共の安全・子どもへの良い教育など同じであることから、この要求を出発点に運動を進めれば同時に労働者の組織化もできると確信した。しかしこれを実際に獲得するためには3つの下ざさえする構造(3つの立脚点)が必要と考えた。
 1つ目は調査と政策能力を持つこと。1995年非営利組織としてワーキングパートナーシップUSA(これには大学研究者も協力する)を立ち上げ、調査を行い、レポートを発表し、政策を作り出し、さらに実現のために地域の運動組織とのコアリッション(連携・連合)を築き始めた。このNPOは財団からの補助金でまかなわれ、2003年には専従スタッフを20名抱えるまでになった。この政策能力によって、当該組合や労働評議会は地方政府の政策決定前に対案を出すことができるようになり、強力な実践が可能になった。レポート自体当時の繁栄するシリコンバレーの陰で派遣などの不安定雇用が増大していることを暴き、全国から注目を浴びた。
 立脚点の2つ目は永続性のある深いコアリッションを構築することである。当時リビングウェイジ条例を通すため多くのコアリッションが作られたが、個人名や団体名を集めるだけでその条例が通過すると消えてしまうものが多かった。そのようなコアリッションではなく、中心となる評議会傘下の労働組合や地域の組織が価値観やビジョンを共有することによって、次々と新しい運動を作り出し継続させて行った。またサウスベイ労働評議会とワーキングパートナーシップUSA は、「労働組合・コミュニティーリーダー研修所」を設立し、市民リーダー・組合活動家・コミュニティー活動家・牧師・選挙で選出された議員・選挙候補者等をあつめ教育し、そして社会ビジョンを地域分析に生かし、共有しながら、地域組織化戦略を作り出した。同時にその中で階級・人種・職業を超えた関係を作りだした。これらの関係は、コアリッションのパートナーや選挙の候補者を作りだすことにつながって行った。
 立脚点の3番目は、統一した攻勢的な政治行動を作り出すことである。革新的なコアリッションが公的政策において具体的な変革に至るには、究極的には地域の政治勢力を変えねばならない。1980年代半ばからサウスベイ労働評議会はサンノゼの市議会議員選挙に取り組み、10年後には労働組合の推薦する候補者がサンノゼ市議会で多数を占めるようになった。民主党の中には企業よりの候補者が多いので、労働評議会内で統一して労働組合の推薦する候補者を通すことが必要であった。このプロセスによって従来からの組合の選挙戦術の傾向であった自己の組合の利益を通すために有力な政治家に接近するというやり方を変えることになった。すなわち、多くの組合員や住民の要求の高いものを政策化し、それを支持する候補者を議会に送り、市政を変えていくことによって要求を実現していこうとするやり方である。また選挙闘争では、選挙登録、個別訪問、投票動員、見回り活動など具体的な細かな現場の戦術も地域の組織と労働組合は統一して実行した。2000年3月の州議会議員選挙の予備選ではリビングウェイジを支持した労働運動派の候補者マニー・ディアスは、企業よりのトニー・ウェストと対置したが、ディアスを当選させるまでに至った。このような政治の変革は、市の各種委員会に委員を配置させることができ、サンタクララ郡では、進歩的課題がいつも議論できる状態になったという。

 (2)具体的なキャンペーンで、どのような要求課題が勝ち取られて行ったのか

 1990年代終わりごろから2007年ごろにかけてサウスベイ労働評議会とワーキングパートナーシップUSAが中心となってコアリッションを作り勝ちとったものをあげよう。市に対し企業誘致のための、企業に対する税の優遇措置を改めさせた。
 リビングウェイジ条例では、当時全国で一番高い金額を獲得しただけでなく、良い労使関係を保証すること、市のサービスを行う請負業者が変わる場合には、労働者を継続雇用することを約束させた。開発業者と社会福利協定を結んだ。これは公的同意や公的支出が必要とされる大型開発プロジェクトに関係する開発業者は、地域社会に一定の福利を行うように定められるべきであり、公的な利得を引き渡されることに対して説明責任を持つべきであるという論理である。
 この協定には、手頃な住宅地区の確保、発生する雇用の地元の住民への優先、リビングウェイジの確保、子どもの保育のようなスペースの確保、すでに存在している小企業のためのスペースの確保、建設職へのプリベイリングウェイジ(その地域の標準的な賃金)の確保、労働組合の組織化はカード方式にする、等盛り込まれている。このような協定を作るには、労働組合の他に、住宅問題の運動組織、信仰の組織、ACORN(コミュニティーの改善を目指す全国組織)、さらに大規模開発からたびたび否定的影響を受ける小さい企業、少数民族の商工会議所などとともに広範なコアリッションを結んでいる。加えてこの協定は公的なものとして市に登録させている。社会福利協定は、コヨーテバレーの2万5000戸の住宅建設や、サンノゼ中心街の3つの地域開発で結ばれた。さらに公共交通に対しても改善させた。公共交通が赤字によって廃止されようとした時、それを利用する貧困地域の住民の要望に沿って介入し、公開討論を組織し、中止させた。
 このような闘いの中で労働組合は組織化を進めた。組織化に当たっては企業と労働平和協定を結んで組織化運動中の企業の中立性を確保したり、リーダー研修所で組織化に関する課題について討論させたり、またリビングウェイジ条例に沿って組織化を進め、2000人の労働者を組織した。ホテル・レストラン労働組合は2000年までにサンノゼで建設された新しいホテルの内1つを除くすべてのホテルを組織した。
 このような地域の労働評議会を中心とした「地域で力を築く戦略」を採用した運動は全国に広がりつつある(注2)

V 企業産業戦略

 さて雇用を創出するのは企業であり、これを変えない限り労働者にとっての質の良い雇用は生まれない。ローロード企業からハイロード企業への戦略である。もちろん「地域で力を築く戦略」の産業戦略として追求されてはいるが、このハイロード戦略のみが唯一のものとは考えていない。ハイロード戦略は労働組合の組織率が高い地域で取り組まれており、むしろ一般的には、企業を良く見極めて、協同できるところは協同する、ないしは闘いを理解してもらって賃上げや雇用確保や労働者の組織化をすすめるというものである。そして全国的大企業と真正面から闘うというよりは、中小企業(地元に密着した観光・サービス産業や介護サービスなどを含め雇用の6割から7割は中小企業から作られている)やマイノリティー企業と同盟してからめ手から攻めるというやり方である。
 その点で成功した注目すべき闘いとしてSEIU(全米サービス従業員労働組合)の「Justice for Janitors」(清掃労働者に正義を)の闘いと、ウィスコンシン州のTRWTとニューヨーク州バッファローの戦略を見てみよう。

 (1)「Justice for Janitors」(清掃労働者に正義を)の闘い(注3)

 この対象労働者であるジャニターは民間のビルの清掃労働者で、清掃業者に雇用されている。清掃業者はビル所有者から仕事を請け負っている。このような関係では清掃労働者の低賃金をすこしでも上げれば、清掃業者を変えられ労働者は解雇の憂き目にあう。また、全国労働関係法通りに組合を作って職場ごとの交渉をやって賃上げが勝ち取れても、1つの職場での成功では自らの首を切るようなものである。そこで考えたのが、ビル清掃労働者が集積している都市ですべてのビル清掃労働者を組織して、清掃業者に対する集団的交渉を確立し、一斉に賃上げすることである。コロラド州のデンバーで始まったが、サンノゼでも、ロサンゼルスでも行われた。もちろんこの労働者の組織化はその地域挙げて取り組まれたが、問題はビル所有者に対し、賃上げ額を含む相応の契約を清掃業者と結ばせることである。サンノゼではワーキングパートナーシップUSAのコミュニティー・ディレクターであるスティーブ・プレミンジャーは、企業スリーコムの会長でありCEOのエリック・ベンハイマーと、アメリカンリーダーシップ・フォーラムのセミナーでの知り合っていたという関係を生かし、労働組合の代表との会合を設定した。そこでベンハイマーに対し労働組合のリーダーたちは清掃労働者の要求を受け入れるようにビル所有者を説得してほしいと頼んだ。ベンハイマーは手紙をビル所有者当てに書き、それを『サンノゼマーキュリーニュース』紙に発表した。その手紙はシリコンバレーの技術会社は清掃労働者の賃金要求を支持する社会的責任や企業的責任を持っていると主張したものであり、また自らの無知を恥じ、「どんなシリコンバレーにしたいと思っているのかを我々の考えを示すチャンスとしよう」と、呼びかけたものであった。SEIUの闘い方はロサンゼルスの在宅介護労働者の組織化(7万5000人の組織化)においても、交渉の相手を政府機関として新たに作り出すという、一段と掘り下げた闘い方を作りだした。

 (2)ウィスコンシン州のWRTP(ウィスコンシン地域訓練パートナーシップ)

 これは、労使対等の立場で労働組合の集団と製造業企業の集団が第三者の応援を受けながら労働者訓練制度を作り、現職の労働者の技能を高め、さらに新たな雇用を地元で増やしながら企業の技術革新を進め高実績を獲得していくという戦略である。ハイロード企業を生み出す戦略と言われている。その先駆的例が1992年創設のWRTPである(注4)
 そのころ、ウィスコンシン州は不況の真っただ中であった。労働組合とコミュニティーのパートナーは主にミルウォーキー市に残った中小企業である金属加工、機械装置、プラスチック、機器などの100以上の企業(6万5000人の労働者、この地域の製造業労働力の3分の1に当たる)を結び付けてWRTPを創設した。その目的は企業の技術開発、広範な労働者の技能訓練、企業への労働者の参加、集団的問題解決、高い生活水準を保証する高い実績職場のビジョンを維持し援助することであった。労働者への技能訓練は、個々の企業ではせっかく金をかけて訓練を与えてもその労働者が他の企業に移ることを懸念して、なかなか実施できないもののひとつである。労働者訓練プログラムの作成ではミルウォーキーの技術専門学校の応援を頼んだ。この訓練は、労働者の技能を高めると同時に地元の有色人種の失業者に職を与えた。この運営にあっては、シンク・アンド・アクト・タンクとも言うべきウィスコンシン州立大学マディソン校の教員が参画したCOWS(Center on Wisconsin Strategy)の援助が大きい。WRTPによって1990年代には雇用が安定しただけでなく、6000の新しい職を創出することができた。このような労使協同のパートナーシップによる雇用創出は建設・データネットワーキング・ヘルスケア・接客・輸送産業などにおいて追求されていった。

 (3)ニューヨーク州バッファローの場合(注5)

 このWRTPの先駆的例はニューヨーク州バッファローにも受け継がれていく。バッファローは労働組合組織率が高く労働者の4分の1が組織されている。ここではすでに1企業内でパートナーシップが確立されている企業も多かったが、90年代後半には、低コスト競争による工場閉鎖や部門縮小が続き、地域はアフリカ系アメリカ人と白人との極端な不平等、地方政府の財政危機、多国籍企業からの敬遠、など企業内パートナーシップではどうにもならない限界が広まって行ったという。
 EDG(経済開発グループ)は、投資を引き寄せるためにビジネス人や政治家によって新しく作られたプロジェクトである企業中心の「バッファロー・ナイヤガラ・エンタープライズ」への対応を考えるために労働組合役員が集まった1999年に始まる。そこでコーネル大学ILRの教員たちの進言もあり、地域の将来に対するビジョンやそれを実現していく経済戦略について一致し、EDGは、労働組合から幅広い支持を持った非営利組織として出発した。
 EDGはまず、電力供給の再認可を、労働組合はじめ、環境グループ、郡や市の政府、インディアン民族、企業の連合で勝ち取り、それを基にさまざまな暖房事業計画、特に市議会からプロジェクト・デベロッパーとして任命されて新しい市街地への集団的な暖房事業計画を行った。新しい暖房事業は市街地の企業・病院・政府機関・学校・住宅プロジェクトにコストを減少させ、また新しい設備に伴う多くの雇用を発生させた。そこでは質の高い仕事を作り出すとともに暖房コストを晴らすことや汚染を減らすことも研究されている。EDGは労働者訓練も行っている。10億ドルの州資金によるバッファローの公立学校の再建プロジェクトに際し、建設職労働組合は労働契約プロジェクトの下で良い賃金を保障し、人種的性的格差をなくし、訓練を与える項目を入れている。訓練では、マイノリティー(主にアフリカ系やラテン系)の若者を対象に建設職の見習いプログラムへと通じる「前見習いプログラム」も作りだしている。
 EDGは以上のような直接的な開発プロジェクトを行う一方で、コーネル大学ILRの協力のもとに進歩的な雇い主と活動家の継続的な協同を追求するChampion Networkという調査・議論の場を作り出した。労使代表の運営委員によって運営され、労使による経済発展に対するハイロードを進める場となっている。現行の地域開発を検討し、それはハイロードではなく、労働力の質が地域の最も重要な財産であること、地方政府は仕事を維持する上で最大の障害となっていると判断し、克服するために労使を超えてコミュニティー組織との関係を深めていくことになった。そこで、経済開発政策のインセンティブの改善、投票登録・市民参加、地域のイメージづくりの3つの委員会を作って進められた。Champion Networkは企業のハイロード追求を奨励するものであったが、地域の将来についての議論の場に発展して行った。2007年には経済開発産業展示会を行い、企業と労働組合は、持続可能なエネルギー、ハイテク製造業、健康とバイオ化学、輸送と商業、アートと文化、教育産業を目指すとし注目をあびた。これらの行動は「バッファロー―ナイヤガラ・エンタープライズ」に影響を与えているという。
 以上、新しい労働運動の戦略を簡単に見てきたが、最初に述べた絶望的とも思えるアメリカの固有の困難さが、運動を下から積み上げながら、協定に項目として組合承認選挙に対してカード方式を入れ込むことができるところへは入れ込み、最賃引き上げに通じるリビングウェイジ条例を通し、地域の格差の下にある移民やマイノリティーに職業訓練を施しながら雇用を与えるなどして改善していることがわかる。理想的で素晴らしい運動というよりは、困難な条件のもとでも知恵を出し合いながら闘う運動とはそもそもどういうものであったのかを呼び起こさせてくれるように思う。

(なかの (きくち) くみこ・元同志社大学非常勤講師)

注1)この新しい戦略やその全国的広がりについては詳しくはAmy B. Dean and David B. Reynolds, A New New Deal, Cornell University Press, 2009. を参照されたい。訳本は来春かもがわ出版から出版予定。
注2)この戦略をとって運動が進んでいるところは、前掲書A New New Deal によれば、カリフォルニア州では数多くの都市や郡。カリフォルニア州以外では、ニューヨーク州、アトランタ、ボストン、ニューヘブン、ピッツバーグ、シアトル、ミルウォーキー、クリーヴランドなどである。
注3)Justice for Janitorsの闘いについては、スティーブン・ライナー「流れを変え、反転攻勢ヘ」グレゴリー・マンティオス編戸塚秀夫監訳『新世紀の労働運動』緑風出版2001年、および前掲書 A New New Deal, 3Developing a Regional Policy Agendaによる。
注4)WRTPについては詳しくは、拙稿「社会が企業を変えるアメリカ合衆国の経験」夏目啓二編著『21世紀の企業経営』日本評論社、2006年を参照されたい。
注5)バッファローについては、前掲書 A New New Deal,および以下の論文による。Ian Greer and Lou Lean Fleron, “Labor and Urban Crisis in Buffalo,New York: Building a High Road Infrastructure.”(http://www.laborstudies.wayne.edu/power /full.html)  (2006年4月閲覧)

2014〜15年度第5回常任理事会報告

 2014〜15年度第5回常任理事会は、全労連会館で、2015年10月3日、熊谷金道代表理事の司会で行われた。
I 報告事項
 顧問・研究員との意見交換会の報告など、前回常任理事会以降の研究活動、企画委員会・事務局活動について藤田宏事務局次長より報告され、承認された。
II 協議事項
 小越洋之助代表理事より、研究所プロジェクト「現代日本の労働と貧困―その現状・原因・対抗策」の研究課題として章別構成案が提案され、討論がおこなわれた。また、事務局次長より、プロジェクトのタイムスケジュール案が提案され、承認された。

研究部会報告

・女性労働研究部会(7月22日・8月25日)
 7月は、6月に行った「日本共産党との女性政策に関する懇談」について報告し、感想・質問とおもな課題について討論した。また、研究所プロジェクト「現代の労働と貧困」案と「総務省・就労構造基本調査に見る雇用構造・働く貧困」について藤田事務局次長からの説明を受けて、「女性の働き方と貧困」に関する分析・研究課題を検討した。就労構造基本調査の女性の統計を作成中ということであり、今後、分析することとした。
 8月は、「ジェンダー視点から配偶者控除・第3号被保険者制度を考える」として中嶋晴代さんが報告し、論議した。これらの制度は主として妻が被扶養配偶者であることで優遇されるものであり、女性の自立を妨げ、既婚女性を低賃金に誘導する側面がある。共働きやひとり親、単身者等が増大する下でさまざまな矛盾が生じており、男女労働者の働き方や税制・社会保障制度の抜本的改正と合わせて見直す必要性などが話しあわれた。また、女性活躍推進法案の審議状況について、傍聴した上田裕子さんの報告や全労連女性部ニュースで確認した。

・労働組合研究部会(9月5日・10月14日)
 9月は、地方・地域労連研究の具体化について討議した。全組織を対象にしたアンケート内容、全労連の6地方ブロック最低1組織を含む十数組織を対象にした聞き取り調査の概要、聴き取り対象組織の選定が主な内容。研究事務局の整理を経て、全労連に具体化についても要請を行い、調査に入る予定。
 10月は、労働組合地域組織研究の視点から、『日本の労働組合運動5・労働組合組織論』(1985年、大月書店)の中林賢二郎、大野喜実、加藤佑治の3論文を対象に、赤堀正成氏から報告を受けた。討議は、3者における(1)西欧と対照させた企業別組合の評価、(2)資本攻勢とたたかううえでの地域的結集の意義と職場、産業別結集との関係、(3)未組織労働者の組織化と組織形態論のとらえ方などをめぐって行われた。

9・10月の研究活動

9月4日 国際労働研究部会
  5日 労働組合研究部会
  11日 労働時間・健康問題研究部会
  18日 労働運動史研究部会
  19日 経済分析研究会
     関西圏産業労働研究部会
  26日 社会保障研究部会
  29日 女性労働研究部会
     賃金最賃問題研究部会
10月9日 国際労働研究部会
  13日 中小企業問題研究部会
  14日 労働組合研究部会
  17日 大企業問題研究会
  27日 女性労働研究部会

9・10月の事務局日誌

9月1日 企画委員会
  7日 国交労組大会へメッセージ
  10日 全法務大会へメッセージ
  12日 埼労連大会へメッセージ
  16日 全損保大会へメッセージ
  17日 生協労連大会へメッセージ
     全労働大会へメッセージ
  19日 福祉保育労大会へメッセージ
  26日 電機・情報ユニオン大会であいさつ
  27日 東京地評大会へメッセージ
  30日 労働法制中央連絡会事務局団体会議
10月3日 顧問・研究員との意見交換会
     第5回常任理事会
  7日 労働法制中央連絡会総会であいさつ
  9日 東京法律事務所60周年レセプション
  14日 自交総連大会へメッセージ
  18日 労働総研クォータリー編集委員会
  23日 宮垣忠さん感謝と激励の夕べ
  30日 国民春闘共闘委員会年次総会