労働総研ニュースNo.304 2015年7月



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 JAL不当解雇と「戦争法案」  西堀 恭子
 『世界の労働者のたたかい2015』の概観  斉藤 隆夫




JAL不当解雇と「戦争法案」

西堀 恭子

 JALのベテラン乗員と客室乗務員165名が解雇され4年半が経過した。この間さまざまな事実が明らかになった。解雇当時、更生計画上の人員削減目標を、乗員は110人、客室乗務員は78名超過達成されていたこと。解雇前のJALの収支は、更生計画上の利益目標641億円を約450億円も上回る営業利益を計上したこと。稲盛会長が「解雇は必要なかった」と裁判で証言。また、破たんの引き金となった放漫経営(ドル先物買いで2300億円、燃油先物取引で1900億の損失)の責任者の一人は現在、専務執行委員に昇格。また、解雇直前、スト件投票を実施した組合に対し「争議権を確立した場合、3500億円の出資はできない」との嘘と恫喝で妨害(この不当労働行為が問われた裁判では、地裁、高裁とも組合が勝訴した)、その管財人の一人片山氏は、公的資金を受けていたJALから毎月580〜460万円の報酬と退職金3330万円で約1億円を得ていた、等々の驚くべき事実である。
 解雇後、JALは2300名を超える客室乗務員を新規採用した。パイロットも解雇後に約170名が他社へ流出し人員不足が深刻化している。にもかかわらず、なぜ解雇した84名の客室乗務員と81名の乗員を職場に戻さないのか? 答えは、まさにこの解雇は「組合活動家の排除」であることが、これまでの歴史から推認される。
 乗員組合は1965年の三役解雇に対するたたかいで、職場復帰をかち取った。1986年には機長管理職制度(全員非組合員に)に抗し「機長組合」を設立、職場要求だけではなく新ガイドラインや有事法案、イラク特措法等に反対し、一貫して平和と空の安全を守る先頭に立って来た。客乗組合(現CCU)は分裂攻撃とたたかいながら、妊娠退職制度の撤廃、30歳定年を60歳に延長、また、1994年の契約制客室乗務員導入時は全国的な運動を展開し「契約3年後に正社員化」を実現させてきた。そして、やはり航空連の中心部隊の一つとして「空の安全」を守る為にたたかってきた歴史がある。解雇された165名の中には、航空連、乗員組合、機長組合、CCUの主力メンバーが多数含まれている。ILOがこの解雇を条約に抵触する不当労働行為として自主解決を求める勧告を出しているのは当然である。
 現在、「戦争法案」のたたかいが正念場となっている。これが通れば民間航空機はテロの標的になり、航空労働者は徴用され、空の安全が大きく脅かされることになる。
 私たち航空労働者は、「平和と空の安全を守るたたかい」と「JAL不当解雇撤回」のたたかいを一体のものとして取り組んでいく必要がある。同時にそれは、職場と国民世論が大きく前向きに変化している中、大義と展望あるたたかいとなっていると言える。

(にしぼり きょうこ・会員)

賃上げと良質な雇用で格差是正を
―『世界の労働者のたたかい2015』の概観―

斉藤 隆夫

■ 反緊縮政策のたたかい

 トロイカ(IMF、EU委員会、欧州中央銀行)が求める緊縮政策は、EU加盟の多くの国において、失業率の上昇、福祉サービスの後退、公務部門の人員削減などをもたらしてきた。例えば、ギリシャでは、2010年の債務危機表面化から約4年の間に、公務員は20万人削減され、医療保険や教育予算は約30%減らされた。国民は可処分所得の3分の1を失い08年に78万社あった中小企業のうち約24万社が倒産し、失業率は急上昇した。ギリシャはトロイカを通じて総額2400億ユーロの融資を受けているが、その77%は金融機関救済に向けられ、雇用、生活のためにはわずかな部分しか使われていない。
 こうしたなか、5月には欧州議会選挙が行われた。結果は、中道左派、同右派を中心とした「EU支持派」が安定過半数を占めた。反面、いわゆる「EU懐疑派」、「反EU勢力」が全体として議席数で前回の2倍を超える躍進を遂げた。この結果を受けて、欧州労連は「選挙結果は過去5年間に各国政府によって強行された緊縮諸政策が失敗したことの明白な証明である。投票した有権者のメッセージは明瞭である。大問題は失業、不安定雇用、低賃金である。良質な雇用の創出を支援し、人々と欧州的社会モデルを保護する諸政策こそが実行されねばならない」との見解を表明した。
 だが、主要国をみると、反緊縮運動は依然継続されているものの、足並みは必ずしも整っているとは言えないし、明確な戦略は登場していない。フランスでは、オランド政権は発足直後公約に掲げた富裕税や付加価値税増税の中止など国民の声にこたえた政策を一定程度進めてきたが、その後2014年に入って今後の財政再建は国や地方自治体、社会保障会計の歳出削減を軸にすると宣言し、さらに「企業の活性化による景気回復」を課題とする経済政策の基本方針を打ち出した。その柱は政府が労働コストの削減を一層進める代わりに企業に雇用増を求める「責任協定」の締結であった。協定締結のため開催された政労使会議では主要5労組のうち、民主労働連盟(CFDT),キリスト教労働者同盟(CFTC),幹部総同盟(CFE−CGC)は経営者団体との協定に署名したが、労働総同盟(CGT)と労働者の力(FO)は反対した。CGTは政府が緊縮政策に代わる可能な政策論議を拒否していると批判した。イタリアでも、当初、労働者減税などを実施し、EUの債務/GDP比3%の拘束に批判的姿勢示していた中道右派・レンツィ政権が企業の社会保険負担軽減による競争力強化と労働市場改革=新たな形態の不安定雇用創出を打ち出すことによって失業問題の緩和を図る政策に転じた。10月25日と12月12日、反緊縮・労働市場改革反対の集会はもたれているが、三大労組の足並みは必ずしも一致していない。
 スペインでは、3月22日、首都マドリードで200万人が参加したといわれる近年最大級の反緊縮のデモ・集会が労組、社会的運動団体、「ポデモス」などの呼びかけで行われたが、このなかで大きな動員力を発揮したのは「EU懐疑主義」の政党とされるポデモスだった。この政党は2011年の「5月15日運動」[不平等や腐敗、二大既成政党(社会労働党、国民党)に反発する「インディグナドス」(怒れる者たち)の運動]に源流をもつ新しい政党で、「左翼大衆主義」、「反体制主義」、「反欧州主義」を特徴とするといわれている。ポルトガルでも、2013年に決定された緊縮政策・財政赤字削減中期計画に沿って、公務員削減、年金受給開始年齢の引き上げなどの具体策が強行されたが、労組センターレベルでは、反緊縮を貫くポルトガル労働者総同盟(CGTP)と政権との協調路線を強める労働者総連合(UGT)との距離が広がり、全国規模での共闘が弱まっている。
 ベルギーでも、年々の財政赤字のEU基準達成に苦労し、政府債務は同基準のGDP比60%を大きく上回る105%超に達している。このためEU各国と同様に緊縮政策を続けている。これに対し三つの全国労組(キリスト教労働組合総連合、ベルギー労働総連盟、ベルギー自由労働組合総連合)は「政府は労働者と社会的諸手当受給者の懸念に耳を傾けず、雇用主と投資家のいいなりだ。政府の政策は根本的に不正であるだけでなく、成長と雇用にとって有害でさえある」と厳しく批判している。3労組が共同でまとめた「優先課題」は、(1)購買力の維持・強化(2)連邦社会保障の維持(3)持続的成長と雇用への投資(4)よりいっそうの税の公正であった。三労組は11月6日、全国デモを行うと共に、12月15日には、公共サービス部門はほぼ100%が業務を停止し、鉄道や航空、バス、地下鉄も全面的にストップ、学校、保育所、病院、刑務所、行政機関なども多くがゼネストに合流した。ストへの参加率は各労組で20年来最大といわれた。

■ 賃上げ・最賃制のたたかい

 米国で2014年にもっとも注目された運動は超低賃金で働くことを余儀なくされているサービス産業労働者のたたかいだった。
 米国では、法的に交渉権を保障された労組をつくる場合、当該事業所従業員の30%超の賛同署名を集めて従業員選挙を申し立て、全国労働関係委員会の監督のもとで選挙を実施し、過半数の賛成を得る必要がある。こうした法制度のもとでは細切れ雇用の非正規労働者が職場で組合を結成し、団体交渉を通じて要求を勝ち取るのはほとんど不可能に近い。そこで彼らは、既存の労働組合や、貧困問題などに取り組む地域・市民団体などと連携し、広く社会的に要求を訴える運動を展開し始めた。
 2012年秋、世界最大の小売チェーン・ウォルマートの従業員らが、「生活できる賃金をよこせ」「労働組合を認めろ」という要求を掲げて、12の州の約150店舗で始まったこのスト運動は、2014年秋には49州の1600店舗で取り組まれ、参加者数数万人という規模に発展した。会社側は、2013年、ストに参加した労働者70人に対し、20人の解雇を含む懲罰でのぞんだが、従業員らは運動をやめなかった。
 ウォルマート労働者のたたかいは、全国のファストフードチェーン店で働く低賃金労働者にも影響を与えた。2012年11月、ニューヨークで初めて時給引き上げを求めてストに立ち上がってから、同様の運動が全国に広がった。2014年には、8月、マクドナルド、バーガーキング、ケンタッキーフライドチキンなどのチェーン店で働く従業員が、全米60都市、12月には200都市で行動に立ち上がった。さらにファストフードでの適正賃金と労働組合を求めるたたかいは、全世界へひろがった。
 サービス産業労働者を中心とする低賃金打破をめざすたたかいに押されて、2013年には、13州が州最低賃金を引き上げた。大都市では、シアトル市議会が現行の最賃時給9.32ドルを数年かけて15ドルまでひきあげる条例案を全会一致で決定した。自治体レベルで時給15ドルを決定したのはシアトルが全米初である。そのほかアラスカ、アーカンソーなど4州とカリフォルニア州サンフランシスコ市など2市で最賃引き上げが住民投票で多数の賛成を得て成立している。
 2014年7月、ドイツ連邦議会は最低賃金法を採択した。他の先進国のような法定最低賃金制を持っていなかったドイツで、2015年から全国一律の法定最低賃金を導入することが決まった。
 協約自治が尊重されるドイツでは、産別労組が強い力を持ち、労使の合意による労働協約が労働組合員のみならず、未組織労働者にも拡張適用されていた。協約最低賃金制である。ところが、ベルリンの壁崩壊、東西ドイツ統一、東欧各国のEU加盟による東欧企業参入と労働者の流入などで、労働協約の規制は弱体化した。協約自治を保障する一般的拘束力宣言には、使用者団体がその産業・地域で少なくとも50%以上の従業員を雇用していることが条件となるが、この条件を満たす協約が少なくなっていることが大きな要因である。ある研究所の調査では、一般的拘束力を宣言された労働協約で拘束される労働者の割合は、1998年に旧西独地域で78%だったものが、2013年には60%に急減しているという。こうしたなか、2013年9月の連邦議会選挙の結果社会民主党と連立交渉を余儀なくされた与党・キリスト教民主・社会同盟は、国民的要求となっていた全国一律法定最低賃金制を受け入れざるを得なくなったのである。ドイツでは、労働協約による賃上げ闘争も活発に取り組まれた。最も激しく動いたのは連邦・地方公務員であった。3月17、18、19日と各地で短時間の職場放棄を行なう警告ストが展開され、2年間で5.4%の賃上げを勝ち取った。
 イギリスでも、賃上げ闘争は活発にたたかわれている。TUCが「英国の労働者はビクトリア時代(1837年から1901年までのビクトリア女王の治世期間)に記録が始まって以降で最も深刻な実質賃金の下落に苦しんでいる」と警鐘を鳴らすなか、全国最低賃金が引き上げられた。低賃金に対する批判の広がりを背景に、2008年以降初めて、引き上げ率がインフレ率を上回る大幅な引き上げだった。NHS職員は32年ぶりにストを行なった。
 ロシアでは、21世紀に入り上昇してきた実質賃金が急激にさがり、ソ連時代の労働条件や社会保障の水準と比較すれば、今日のロシアでは賃金上昇のテンポを最低3倍にする必要があるといわれている。こうしたなか、ヤロスラブリ州では、全ロシア教育労働者労組が抗議行動に立ち上がった。同州では2年以上にわたって大半の教育労働者の賃金が物価上昇分も引き上げられていなかった。州議会前広場には、教師、保育士、司書など組合員とともに、支援の州議会議員も集まり、州議会に対して賃上げを要求した。
 世界でもっともインフレ率の高い国の一つといわれるアルゼンチンでは、インフレ率に見合う、あるいはそれを上回る賃上げを求めて、多くの部門でストライキが行われた。公務部門では、教員、様々な部門の事務労働者、公立病院の医師・看護士がストライキを行い、公立学校ではストライキが新学期開始後までずれこんだ。このほか、建設部門、金属部門、銀行部門、港湾部門などで約30〜45%の賃上げを求めるストライキが続いた。

■ 失業・不安定雇用規制のたたかい

 イタリアでは、失業率13%、24歳以下の青年のそれは43.5%に達する深刻な雇用状況のなかで、中道右派レンツィ政府による「Jobs Act」と呼ばれる労働法制改革が実施された。それは期限付き雇用契約について、従来その契約に期限をつける技術的・組織的・生産的必要性を示すことが雇用主に義務付けられていたのを廃止するという根本的な転換をもたらすものだった。さらに、秋には「Jobs Act 2」という法案が提出されたが、これは、イタリアの労働市場が解雇から守られている部分と不安定な部分の二つに分断されているとの主張に基づいて、新しい雇用形態として「新しい保護された契約形態」の導入を提案するものだった。「新しい保護された契約形態」とは期限のない雇用契約ではあるが、初めの3年は「労働者憲章法」18条に定める「正当な理由の無い解雇の原職復帰原則」が適用されない雇用契約のことである。組合は18条不適用の雇用形態を作り出すのではなく、すべての労働者に「労働者憲章法」の定める同一労働同一賃金等の他の権利適用を拡張すべきとして、12月12日、大規模な示威行動を行った。
 不安定雇用の拡大はイギリスでも進んでいる。金融・経済危機前の2008年以来、不安定雇用者は、男性では65万5000人から106万人へと61.8%増加し、女性では79万5000人から108万人へと35.6%増加した。不安定雇用の中でも、とりわけ不安定で低賃金の労働を強いられているのは「待機労働契約」である。「待機労働契約」とは労働者に対して、雇用主の求めに応じて不定期に働くことを強いる一方で、雇用主側には仕事の提供を義務付けない雇用形態である。こうした雇用形態は、宿泊・食品サービス業界や医療・福祉業界で多く利用されているが、近年では公共部門でも拡大しているといわれている。TUCのオグレイディ書記長は「待機労働者や他の不安定雇用の増加は、近年における労働者の生活水準悪化の主因となっている」として、警鐘を鳴らした。
 ニュージーランドでも、2期6年続いた保守・国民党政権の下、雇用情勢は悪化している。求職活動が長期化あるいはあきらめている労働者数が増加しており、特に無職で学業や求職活動していない無業状態の青年が増えている。待機労働契約も増えている。

■ 労使関係改善のたたかい

 米国南部テネシー州のフォルクスワーゲン・チャタヌーガ工場では、2013年、会社側から工場評議会を創設したいという提案があり、2014年2月、従業員代表選挙が行なわれた。結果は組織化への支持票626(47%)に対し、反対票は712(53%)となり、全米自動車労組(UAW)は敗北を喫した。こうしたなか会社側は複数組合を認め、それぞれの組合が組織する人数に応じて異なるレベルの権利を保障するという新方針を打ち出した。UAWの組織化の努力はその後も続き、2014年12月時点で過半数を組織したと主張しているが、公式にはまだ確認されていない。
 インドでは、2014年5月発足した人民党モディ政権は「モディノミクス」と呼ばれる一連の経済活性化政策を進めているが、労働問題の分野では、労働争議法、工場法、契約労働法などの見直しを提案している。それを先取りする形で、インド西北部のラジャスタン州で2013年12月の議会選挙での圧勝を受けて、各種労働関連法の改革が実施された。インドでは、経済的理由による解雇には規制があり、年間平均100人以上雇用する事業所については、労働当局等による認可が必要であり、事業所閉鎖の場合には90日前に認可を得ることが必要である。今回のラジャスタン州の改正では労働争議法に記された従業員100人という規定が、従業員300人以上とされた。また、労働組合登録に必要な最低労働者数は、従来、企業内従業員数の15%とされていたが、30%に引き上げられた。
 インド労働組合センター(CITU)は、「300人までの労働者を雇用するすべての事業所で、政府の許可なしに自由に労働者を削減できる権限を雇用者に与えたということであり、どの事業所の労働組合も当該事業所の労働者の少なくとも30%の組合員を持っていない限り、労働組合が労働者の不満や要求を代表することを雇用者は拒否できるということになる」と批判した。2014年12月5日、労働法改悪に反対する大規模な抗議行動が行なわれ、全土で数百万人の労働者が参加した。
 2014年3月革新政権が誕生したチリでは、バチェレ大統領は公約にそって労働組合の権利拡大、国内の所得格差縮小の政策に着手した。12月29日議会に提案された新しい労働法は、団体交渉権の強化、ストライキの際の代替要員採用の禁止などが含まれている。成立すればピノチェト軍事独裁政権以降初めての大幅改定となる。チリ最大の労働組合ナショナルセンター「チリ労働組合統一組織」(CUT)は、新政権の一連の改革を支持するが、同時に公約を実現させることができるよう圧力をかける姿勢を表明し、9月5日、デモをおこなった。バチェレ政権下ではじめての労働組合の対政府デモとなった。
 国民行動党(PAN)前政権の労働組合弾圧のもと組織を弱体化させてきたメキシコの労働組合は、2014年に入って、たたかう労働組合の結集をめざした「新労働組合中央組織」を結成した。結成活動の中心になったのは、組合つぶしとたたかってきた電力労働組合(SME)と教員組合運動の自主的・民主的活動家でつくる教員組合全国調整委員会(CNTE)だった。
 コロンビアでは、2000年ごろを境に労働組合員に対する暴力は減る傾向にあるが、依然続いており、労働組合幹部やNGOを対象とした調査によれば、暴力的攻撃が労働組合の自由な組織の障害になっていると言われている。

■ 社会主義をめざす国々でのたたかい

 中国では、1990年以来最も低い増大率であつたとはいえ、GDPは7.4%増大した。国民一人当たりの年間可処分所得は前年比実質8%増であった。だが、社会の貧富の格差を示すジニ係数は0.469で、13年よりやや改善されたとはいえ、国際的に警戒ラインとされている0.4を依然上回っている。実際、政府発表によれば、国有もしくは政府過半出資の独占企業(銀行、保険、鉄道、エネルギーなど)の理事長、社長、支配人クラスの平均年俸は60〜70万元で、同種企業従業員平均賃金の約12倍で、社会的に批判の声が高まっていた。賃金以外の労働条件でも、総工会によれば、「労働者が求める書面による労働契約締結を企業が拒否」、「最低賃金基準の違反」、「農民工を殴打」、「社会保険費の上納不足」など労働法規に違反し、労働者の権益を侵害している事例が依然として大量に存在し、労働関係および社会の安定に大きなマイナスの影響を与えている。
 ベトナムでは、GDPが5.98%と過去3年で最高に近い伸びを示した。消費者物価も4.09%に抑えることができた。しかし、労働組合関係のメディアによれば、労働者の生活はきびしさを増している。とりわけベトナムの経済成長の牽引力となっているホーチミン市では諸物価の高騰に労働者の賃金引き上げが追い付かず、賃金や手当ての引き上げ、労働条件の改善を求めるストライキが頻発している。ベトナム総連盟によると2009年から2014年までに全国の省・都市で3120件のストライキが決行された。労使の対立が顕著となるのは、旧正月の連休入り前である。農村部から来ている労働者たちはテト休みでの帰郷を前に、大幅な賃上げ、手当、ボーナスの増額と労働条件の改善等を求めてストライキを決行するのである。ストライキは現行諸法規に従えば事実上不可能なため、いわゆる「山猫スト」となる。一般の民間企業に対して適用される「区域別最低賃金」は、ほぼ毎年改定されているが、労働者の最低限の生活費を充足するものにはなっていない。ただ、ベトナムの場合注目されるのは、最低賃金額を審議する国家賃金評議会の場で政労使の意見が分かれ、実質的な交渉が行われていることである。
(さいとう たかお・常任理事・国際労働研究部会責任者)

 *全労連編集・発行の年報『世界の労働者のたたかい2015〜世界の労働組合運動の現状調査報告第21集』が刊行されます(発売・学習の友社03-5842-5641)。執筆には、労働総研国際労働研究部会のメンバーが協力しています。

研究部会報告

・女性労働研究部会(4月28日・5月26日)
 4月は、「国際女性年(1975年)から女性差別撤廃条約採択(1979年)、その後の雇用分野における世界のとりくみ(国連・ILO・CEDAWなど)と到達点」について上田裕子さんが報告し、女性差別撤廃条約批准と均等法制定から30年の今日なお、ジェンダー平等が遅れているわが国の実態、ジェンダー平等実現にむけた労働組合や女性NGO等の役割の重要性、労働組合とNGOの連携・共同の必要性、労働組合の力量の強化などについて論議した。
 5月は、労働総研プロジェクトにおける「女性の働き方と貧困」ともかかわらせて、正規・非正規女性労働者の働き方の事例研究のとりくみ方について論議した。急増している非正規女性労働者や看護師・介護士・保育士等「女性職」とされてきた仕事の賃金や労働実態・要求を明らかにするために、どんな業種・企業・事業所などを対象とするか、調査・研究にあたって明らかにすべき調査事項などを検討した。

・労働組合研究部会(5月9日・6月6日)
 5月は、『労働総研クォータリー』夏季号特集に掲載予定の論文につき小林氏から報告を受け、質疑討論を行った。「経済整合性」論のとらえ方、産業別の連合会から単一組合への移行・日本型産業別組合の移行論、日本の産業別組織の財政的基盤の薄さなどに関して討論がなされた。
 6月は、今期のテーマである、ローカルセンター研究の進め方について、國分氏から報告を受け、討議した。「地方組織の今日的役割と発展強化の課題を明らかにする」ことを主目的とし、労働運動における地域的団結の意義(再認識)、全国中央組織における位置づけ、産別組織と地方組織の役割と相互関係などについて、実態把握:特徴的事例の研究(ヒアリング等)とアンケート、海外労働運動との比較研究、必要な範囲での歴史研究の継続などを具体化することで、おおよその合意がえられた。

・労働時間・健康問題研究部会(5月22日)
 過労死防止学会設立記念シンポジウム・設立大会(5月23日)に、労働時間・健康問題研究部会運営委員では鷲谷、西村が会員として参加。労務理論学会全国大会(6月5〜7日)に、藤田、佐々木が報告者として参加。8月1日開催の労働総研全国研究交流会に「労働時間と健康」について佐々木が報告予定で、この内容について運営委員会メンバーの意見交流をおこなう。また、労働時間短縮闘争について、あらゆる可能性を追求すべきであるとの認識に基づいて、職場から働きやすい職場づくりへ労安法に基づく健康管理の運動を進めていくべきであるとし、次回議論することとした。

6月の研究活動

6月2日 賃金最賃問題研究部会
   6日 労働組合研究部会
      大企業問題研究会
   7日 社会保障研究部会
   23日 女性労働研究部会
   25日 中小企業問題研究部会
      労働組合運動史研究部会
   26日 労働時間・健康問題研究部会

6月の事務局日誌

6月3日 (公財)全労連会館理事会
   4日 労働法制中央連絡会事務局団体会議
  26日 (公財)全労連会館評議員会
  29日 労働法制中央連絡会事務局団体会議