労働総研ニュース301 2015年4月



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 15春闘と成果主義賃金制度 柴田 外志明 
 「高度プロフェッショナル制度」の問題点 昆 弘見
 研究部会報告ほか




15春闘と成果主義賃金制度

柴田 外志明

 3月18日、自動車や電機など大手企業が、15春闘のベースアップ(ベア)要求に対する回答を出した。トヨタ自動車は、労組の6000円要求に対し、4000円の回答。あまりにも低い労組の要求にガッカリしたが、史上最高の利益を上げるトヨタの低額回答には怒りすら覚えた。さらに、「『4000円とれるとは』と、トヨタ労組関係者は驚きを隠さない」(日経3/16)との報道に、最初から満額など取る気がなかったトヨタ労組の労働者に対する欺瞞要求に怒りを感じた。
 回答を受けて、マスコミは18日夕刊で「春闘最高ベアの波」(読売)、「ベア昨年越え相次ぐ」(毎日)などと持ち上げた。しかし、低額要求すら下回る回答では、労働者の生活改善には届かず「デフレ脱却」「経済の好循環」は実現できない。
 低額妥結額をさらに「評価」で下げるのが成果主義賃金制度である。大企業の人事・賃金制度は、成果や能力で評価する制度になっている。私が働いていたダイハツでは、13年度から「新人事制度」がスタートした。制度の概要は、4つの職務系統を1つの職務にまとめ、職能ランクを9から5ランクにし、職能ランクごとの最高賃金を引き下げ、成績(能力)評価で決まる「能力給」の割合を拡大した。「能力給」の割合は、下からA1〜A3のランクがこれまでの47%から60%に(40%は年齢で決まる「基礎給」。但し、40代後半で打ち切り)、その上のC1C2ランクでは54%から100%になった。ベアと定期昇給は、それぞれのランク別「能力給」で決まる仕組みになっている。
 ダイハツの今年のベアは、34歳・A3ランク(賃金30.8万円/月)で2000円(公表1600円に労働者の「頑張り分」として400円をプラスしたもの)。賃上げ率は、0.65%。ダイハツは「定率配分」方式をとっているから、この賃上げ率を各自の現在の賃金に掛けた額がベアになる。従って、ベアは、賃金が低額の人が低く、高額の人が高くなる。定期昇給は、平均約6000円だが、これもランクごとの「基礎給」と「能力給」で定められている。
 結果として、34歳・A3ランクで100点の評価を受けている人は、今年のベアと定昇で8000円上がり、31.6万円になる。しかし、「能力評価」で大きく変動する賃金制度のもとで、労働者は、わずかなベアより上司の「評価」を気にしながら会社から言われるがままに、過密労働をこなしているのが現状である。

(しばた としあき・会員・大企業問題研究会)

「高度プロフェッショナル制度」の問題点

昆 弘見

 安倍晋三政権が労働時間規制の適用除外制度を導入する労働基準法の大改悪案を閣議決定し、今国会で成立させようとしている。第1次政権の2007年に安倍首相と当時の塩崎恭久官房長官が国民の批判を恐れて、法案の国会提出寸前に断念した「残業代ゼロ・過労死促進」法案(ホワイトカラー・エグゼンプション法案)を、こんどは安倍首相・塩崎厚生労働大臣というコンビで再び持ち出したものである。
 安倍首相は2月の衆院審議で、日本共産党の志位和夫委員長との問答で「かつてのホワイトカラー・エグゼンプションとはまったく今度は別物でございまして」と言い訳した。たしかに2007年の「自己管理型労働制」から、今回は「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」に名称は変わったが、中身は同じである。「管理職でもない高度なプロフェッショナル」について、「労働基準法第四章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しないものとする」と明確にされているように、まさしくエグゼンプション(適用除外)そのものである。
 現在、日本で労働基準法第4章の労働時間規制が完全に適用除外になっている労働者はいない。管理監督者でも裁量労働制の適用者でも、残業代はゼロになったとしても休日、深夜の割増賃金規定は適用される。それでも日本は、世界中から異常な目で見られている長時間労働の国である。残業が異常に長い。一般労働者の残業は、2014年が全産業平均で年間約173時間(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)だが、5年連続で増えている。これに年300時間以上といわれる表に出ない違法なサービス残業が加わって「過労死」が後を絶たない過酷な働き方になっている。
 こういう日本の労働現場に労働時間に関する規制の適用除外制度を導入したらどうなるか。長時間残業、長時間労働の火に油をそそぐことになるのは、それこそ火を見るより明らかだ。労働時間の適用除外制度は、日本では絶対に導入してはならないものである。しかし政府は、無理、無知、でたらめな論建てで何が何でも今国会で成立させ、来年4月から施行しようとしている。国民的なたたかいを盛り上げることが急がれている。ここで主要な論点にそって問題点を明らかにしたい。

年収1075万円なら大丈夫か

 今回の「高度プロフェッショナル制度」は、労働者の平均給与の「3倍の額を相当程度上回る水準」と年収要件を法律に書き込むとしていることが特徴である。省令で1075万円以上と定めることになっている。
 安倍首相は、国会答弁で「管理職でないにもかかわらず、1075万円とか、いわば能力がないとそういう収入を得ることは難しいと思います。そこでかなり限られてくる」といい、特別のまさにごく一部の「高度プロフェッショナル」に限って導入するハードルの高いもので、能力の低い安月給の一般労働者には関係ない話だととれるような言い方をした。しかしなぜ3倍か、1075万円なのかという明確な根拠は示すことができなかった。
 法律に書くから大丈夫とか、省令で定めるからという主張ほど当てにならないものはない。それを担保する根拠は何もない。明確な根拠がないということは、その後、いつでもそのときの都合で自由に変えられるということである。実際、導入された後、簡単に変えられて国民に大被害をもたらしている例はいっぱいある。
 消費税は、最初は3%だったが、5%になり8%になり、2年後に10%にすると安倍首相はいっている。労働者派遣も法律が制定された1985年には派遣可能業務が11業務に制限されていたが、1999年に原則自由化され、2004年には製造業務にまで広げられた。今回の「高度プロフェッショナル制度」についても、制度の立案にかかわった産業競争力会議の竹中平蔵氏(慶応大学教授)は「小さく産んで大きく育てる」と語っている。最初は多くの労働者に「自分とは関係ない」と思わせて悪法を通し、だんだん要件を下げていくやり方は、常套手段になっている。
 見過ごせないのは、塩崎厚労相が「労働条件についての高い交渉力がある」ことを根拠らしいものとして主張したことである。年収が高ければ使用者と対等に交渉する力があるかのような発言が労働法制の担当大臣の口から出るとは思いもしないことである。「高度プロフェッショナル」制度の対象者は、管理職ではなく、その一歩手前の専門職である。管理職の指揮命令に従って働く立場にある労働者なのであり、「高い交渉力」があるという議論が通用する余地はまったくない。それどころか年収が高かったら、逆に「給料が高いんだから文句言わずに働け」という弱い立場になる可能性のほうが高いといえる。
 塩崎氏がどういうつもりでこんな発言をしたかは分からないが、これは憲法と労働基準法を制定して以来の労働行政の基本から大きく逸脱している。労働基準法は何のために制定されたのか、塩崎氏は分かっていないようだ。厚生労働省労働基準局編『労働基準法』(上下)では、序論の冒頭で労働基準法の意義、制定の根拠をのべている。
 労働者と使用者との関係を「契約自由の原則」にゆだねたら「労働者の生存そのものを脅かすほどに不公正な結果をもたらす」ことが産業革命以降の歴史によって明らかになっているとし、次のように書いている。「労働者はその経済的な力の弱さゆえに、自己の好まざる使用者に、自己の意に満たない条件で雇われざるを得ず、結果として、著しく低劣な労働条件で働くことを合法的に強制されることになったのである」
 労働者は、雇い主から理不尽な労働を求められても大抵は断れない。雇い主に対して強い支配と従属の関係にあるのは疑いようのない現実である。このため「著しく低劣な労働条件」で働くことがないように最低基準を法で定めたのが労働基準法である。ここには賃金の高い労働者は経営者と交渉力があるというような議論が出てくる余地はどこにもない。
 ここで指摘しておきたいのは、かつて厚労省は、この『労働基準法』の立場で財界による労働分野の規制緩和要求に歯向かっていた事実である。2007年12月に財界人を中心にした規制改革会議(議長・草刈隆郎日本郵船会長)が、日本の労働法制は労働者保護が強すぎる、もっと当事者の意思を尊重せよといい、解雇自由化、派遣労働の規制緩和、労働時間の規制緩和などを求める答申を出した。これに対して厚労省は答申の3日後に次のような「反論」をだしている。
 「使用従属関係にある労働者と使用者の交渉力は不均衡であり、また労働者は使用者から支払われる賃金によって生計を立てていることから、労働関係の問題を契約自由の原則にゆだねれば、劣悪な労働条件や頻繁な失業が発生し、労働者の健康や生活の安定を確保することが困難になることは歴史的事実である」
 こう言い切って、一定の規制を行うことは「必要不可欠である」とのべている。労働者と使用者の交渉力は「対等」ではなく「不均衡」、つまり従属関係にあるというのが厚労省の見解である。塩崎氏の発言は、この立場とまったく違う。労働行政を変質させるものだといわれて当然ではないか。分からずに口走ったのなら撤回すべきである。賃金が上がる度合いに応じて「交渉力」が高まるなどというのはまったく非科学的であり、年収が1075万円になったらいきなり対等の交渉力がもてるなどという議論は論外である。
 このように高い年収による歯止め論は、完全に破たんしている。

健康は確保できるのか

 政府が「高度プロフェッショナル制度」の導入にあたって、声高に強調しているのが健康管理問題である。「健康管理に十分留意する」「健康確保が大前提である」「必ず休日を与える」などと、万全な健康管理措置をとるかのように主張している。
 この主張も、訳が分からないひどいものである。
 労働時間規制を適用しないということは、長時間労働をおさえて労働者の健康を守る歯止めを外すことである。労働者は、長時間労働から自分の身を守る保障を失う。経営者は、労働時間を管理する責任がなくなるから、労働者が働きすぎて「過労死」しても、労働者の自己責任にされてしまう。「過労死促進法案」といわれるのはこのためである。
 この批判から逃れるために、政府はあれこれ構想をめぐらしている。まず「健康管理時間」という新しい言葉をつくった。労働時間といえば把握義務が発生し残業代の支払い義務が出てくる。だから労働時間とはいわない。では何を把握して健康を確保するのかという問いにたいする答えが「健康管理時間」である。
 この言葉は、労働関係の法律、公文書のどこにも出てこない。厚労省に問い合わせると「新しい概念だ」という答えであった。定義は、労働者が「会社にいた時間」と「社外で働いていた時間」を合計した時間だという。これをタイムカードなどで把握するわけである。これだと従来の勤務時間が「会社にいた時間」になるだけで、内容からいえば労働時間といっても大した違いはない。ほとんど労働時間と変わらないが、「健康管理時間」として把握し、健康診断の実施などの措置をとるという。健康対策をちゃんとやりますよということを新造語で見せようという意図だろう。
 さらに重大な問題は、政府が、十分留意するとしている健康管理措置の中身である。3つの選択肢を示して、そのうちのどれか1つを選ぶことになっている。
 (1)始業から24時間経過するまでに休息時間を確保し、深夜業の回数を定める。
 (2)健康管理時間を厚労省令で定める時間の範囲内にする。
 (3)4週に4日以上かつ1年間を通じ104日以上の休日を確保する。
 これが安倍首相らの自慢の健康確保措置である。このなかで(3)を選ぶとしたら、どうなるか。単純計算すると休めるのは週に2日。あとはお盆、正月、国民の祝日(15日)も休まず年間261日も働くということになる。調べてみたら、待遇が劣悪なブラック企業という評判の「ワタミ」は社員募集要項で休日は「107日」、「ユニクロ」は「120日以上」となっている。「高度プロフェッショナル」はブラック企業も笑う悲惨な労働になりかねない。
 付け加えると「4週に4日以上」の休日というのも悪用されかねない。このままだと4週×7日で28日のうち、4日まとめて休ませて24日連続勤務という事態が起こらないともかぎらない。こんな少ない休日で毎日、制限なしで働くことが健康確保措置だというのはあきれるばかりだ。
 さすがにこの3つの選択制には異論も出ている。たとえば「みずほ総合研究所」が2月に研究員リポートを出しているが、このなかで(3)の措置を選んだ場合「恒常的に過重労働をさせることが可能である」として、選択肢から削除すべきだと提案している。
 くりかえして強調するが、労働基準法の第4章で定めている労働時間規定は労働者の健康を守るための規定である。この規定の適用外にするということは健康を奪うことに他ならない。健康確保の唯一の保障措置の適用を外して、健康確保に万全を期すなどというのはありえない話である。政府の今回の「高度プロフェッショナル制度」は、健康に万全を尽くしているかのような小細工にかなりのエネルギーを注いでいるが、あきらかに破たんしている。

本音は残業代をゼロにする

 政府は「高度プロフェッショナル制度」を導入する理由として「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズ」をあげている。これも理由としてはまったく成り立っていない。
 まず、いま日本で成果で評価するいわゆる成果主義を導入している企業は、全体で5割を超えている。大企業(労働者1000人以上)の場合は8割を超えて広がり、成果で評価するシステムがない企業を探すのが困難なほどである。
 「時間ではなく成果で評価する」制度をつくりたいと考える企業にたいして、規制する法律は何もない。まったく自由にできる。政府が法律を構えて促進するまでもなく、すでに大勢になっている。
 したがっていま制度をつくろうとする理由は別のところにある。それは企業が成果主義の賃金制度をつくっても、労働基準法の労働時間規制が適用され、1日8時間を超えて残業したら割増賃金を払わなければならないことである。成果を出すために長時間労働をすればそれだけ残業代が増えてコスト高になるという悩みがある。
 このため大企業は、実労働時間は9時間、10時間でも労使協定で8時間と定めれば、8時間だけ働いたとみなす裁量労働制とセットにして成果主義を広げ、残業代を抑えてきた。しかし裁量労働制はあくまでも「みなす」制度であって、適用除外ではない。したがって午後10時以降の深夜割増や休日出勤割増は支払わなければならない。
 この壁を突破するのが財界の強い願望になっている。財界はいまグローバル化に対応する人事・賃金制度づくりに力を入れている。時間を気にせず成果主義で長時間働く企業戦士をつくるのが中心である。
 経団連の榊原定征会長は、会長になる前の2014年4月22日の経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で、財界を代表するかたちで「熾烈な国際競争の中で、日本企業の国際競争力を確保・向上させるためには、労働時間の適用除外は必要不可欠である」とのべている。そして企業側のニーズとして「国際業務における時差への対応、技術開発、顧客対応、あるいは新設の設備の立ち上げ、受注獲得時などで、1年間ぐらいの長期にわたって、集中的・波状的な対応が必要なケースが数多くある」という。これは現行の裁量労働制やフレックス制では対応できないともいっている。ここに財界のねらいがある。
 安倍首相は国会で「海外とのやり取りを含めて、夜遅くなることが続く、あるいは研究職において、研究開発がまさに佳境に至ったところにおいて、成果をあげていくために、ある程度のフレックスな時間していく」といい、まさに企業のニーズそのものの主張を展開した。塩崎厚労相も「世界を相手にしていますと時差というものがあります。そうすると向こうが昼間だけどこちらは夜中だというときにも働かないとこれは仕事にならない」と記者会見で語っている。
 これが「高度プロフェッショナル制度」を導入しようという財界や安倍政権の思惑だが、よく考えてみればこれだって別に現行法制が大きな障害になるとは思えない。日本では「36協定」を結んで残業代を払えば青天井で労働させることができる。実際、多くの企業が月に100時間を超える残業体制をとっている。
 いまのねらいは、ここからさらに超えたところにあるようだ。「残業代を払って青天井」ではなく「残業代を払わずに青天井」なのである。しかし、世界の各国でグローバル化に対応するといって労働時間の適用除外制度をつくろうとしている動きは聞かない。制度があるアメリカでは逆に低すぎる年収導入要件に批判が高まり、要件を引き上げるなどの見直しに動いている。やはり日本は異常というしかない。
 結局、本質は残業代を出さずに長時間働かせる制度をつくることである。財界や安倍首相がいう「時間ではなく成果で評価する制度」というのは実はみせかけで、本音は「残業代なしで長時間労働」ということにある。

消える残業代1000万円

 そこで年収が1075万円の労働者が労働時間制度の適用除外になったときの消える残業代を計算してみた。榊原氏や安倍首相がいう「時差に対応して夜遅くなる」まで働くということで、会社にいる時間を朝9時から昼の休憩1時間をはさんで夜11時までとする。休日は年104日だから、労働は年間261日になる。
 これで計算すると、時間賃金は5148円になる。残業代は午後5時から6時までは法内残業で割増がないとして5148円、午後6時から午後10時までが25%割増で6435円×4時間で2万5740円、午後10時から11時までが残業割増プラス深夜割増で50%増の7722円。合計すると1日の残業代は3万8610円という金額になった。この金額で週休2日で1年間働くと1007万7210円というたいへんな巨額になる。
 企業がこんな巨額の残業代を払うわけがない。労働時間の適用除外制度がいかに企業の利益になるかあきらかではないか。それにしても、これだといま900万円や800万円台の年収で制度の要件に満たない労働者の年収を1075万円に引き上げて「高度プロフェッショナル」にしたほうが企業とって得にならないだろうか。
 そう思って年収700万円のケースで同一の条件で計算したら、残業代は652万円で合わせて1352万円。年収600万円では残業代が506万円になり、合わせて1106万円である。いずれも合計で1075万円を上回る。計算の上では、年収がこの層の労働者でも「高度プロフェッショナル」にして長時間働かせたほうが得という判断になりかねない。ちなみに国税庁の調査では、年収600万円以上の労働者は全体の19.1%である。いま年収1000万円以上の労働者は3.9%となっているが、財界の要求は10%以上への導入であり、年収要件が下げられる危険性とあわせて、労働者全体にかかわる問題である。
 さらに「高度プロフェッショナル」の労働者とその上司との関係で矛盾がある。たとえば上司の課長は管理監督者で残業代は出ないとしても、午後10時以降の深夜割増は支払い対象になる。一方、その部下であるプロフェッショナルは深夜割増の対象にはならない。これは重要な矛盾である。結局、上司の割増を適用除外にする動きが浮上してくることになる。
 まさに「高度プロフェッショナル制度」は、日本の労働者全体にかかわる「残業代ゼロ」制度づくりにほかならない。

国民的なたたかいとして

 これまで「高度プロフェッショナル制度」にはまともな論拠がないことをみてきた。最後に言及しておきたいのは、今回の労働基準法改悪は、「高度プロフェッショナル制度」の創設だけではなく、企画業務型裁量労働制、フレックスタイム制度の改悪という問題がセットになっていることである。
 とくに企画業務型裁量労働制は、財界が適用業務の範囲が狭いなど導入しにくいとして規制緩和を強く要求していた。ホワイトカラー・エグゼンプション制度の導入が第1次安倍政権で失敗したあとは、むしろ企画業務型裁量労働制の規制緩和に要求の重点を置いてきた。それが今回、2つともに財界の要求が通りそうなけはいになっていることを重視する必要がある。
 企画業務型裁量労働制の改悪の問題点は、「企画、立案、調査及び分析」に制限されていた業務に、新たに営業と管理の業務を加えることである。営業はこれまで裁量労働になじまないとして、該当しない業務に指定されていたものである。これを裁量労働制の対象業務にするということは、派遣労働を業務制限から原則自由化した1999年の大改悪に匹敵するような影響をもたらすことになりかねない。
 営業は、各分野で非常に多岐にわたり労働人口も多い。この業務に裁量労働制を適用するということは、8時間働いたとみなす労使協定で、ノルマ達成のために残業代が払われない9時間、10時間の長時間労働に労働者が追い込まれることになるということである。
 おそらく現在裁量労働制が適用されている「専門職」のかなりの労働者は「高度プロフェッショナル」にされ、その少し下位の広範な労働者に裁量労働制が適用されて、何時間働いてもあらかじめ協定で決められた時間だけ働いたとみなされ、残業代が払われないことになる。このような労働基準法の改悪はなんとしても成立を阻止しなければならない。
 労働組合が組織の垣根を越えて共同し財界と安倍政権のたくらみを阻止するたたかいを強めることはもちろんだが、人間らしく働き、生活する社会に向かって現状を変えていく国民的なたたかいとして発展させることが求められている。

(こん ひろみ・会員・労働ジャーナリスト)

研究部会報告

・女性労働研究部会(2月24日)
 「労基法・労働者派遣法等の改悪と女性労働者」として、大西玲子さんが経過と情勢、法案の問題点を報告した。労働法制の根本を崩し、男女労働者が人間らしく働くことをさらに悪化させるこれらの法案を阻止するために、労働者・労働組合の大きな共同をつくり、運動を広げる必要が論議された。次期総会までの研究テーマは「女性差別撤廃条約批准および男女雇用機会均等法制定30年を検証する」とし、労働総研プロジェクトから提起された「女性の働き方と貧困」ともかかわらせて、すすめることとした。

・労働時間・健康問題研究部会(3月13日)
 全労働が年末に発表した政策と提言について、及び安全文化の伝承についての行政研究会の報告を受け、高度プロフェッショナル制度をどのようにして食い止めるか、という点での論議が続いた。「新労働時間制度」に対して、雇用共同アクションのたたかい強化に期待する一方、全労連春闘での行動強化に協力していく。8時間労働日をまもっていく運動は世界の労働組合運動の基盤であること、その擁護のための理論的活動を積極的に繰り返していくこととした。その際、60年代以降の技術開発や、その後のME化、IT化に伴う労働の変化に対する職場のたたかいなども歴史的に振り返りながら説得力を高める必要が強調された。

・労働組合研究部会(3月28日)
 (1)全労連地方労連の概要:報告者・國分武氏、(2)フランス労働委運動についての補足:報告者・赤堀正成氏の2つを中心に行われた。(1)では、ローカルセンター研究の目的とテーマを絞り込む必要があること、6月の研究会をその討議にあてることを確認した。(2)では、1968年5月ゼネストによる企業内の労資交渉、組合活動の自由・権利獲得を契機として、今日では事業所別の労働組合が支配的な形態となっていること、ローカルセンターが企業別の組合組織が協調主義に陥るのを防ぐうえで大きな役割を果たしていることなどの報告があり、これをめぐり活発な討議が行われた。

・労働組合運動史研究部会(4月8日)
 今後の研究会の持ち方と、その内容についてのフリートーキングを行なった。研究会の内容は当面、論点を選び「戸木田理論の再検証」を行なうことになった。他の研究者の批判論文も含め議論をしていく。以下の順で進めていく。(1)企業別組合論、(2)貧困化と主体形成、(3)総評労働運動について、(4)その他。

3月の研究活動

3月13日 労働時間・健康問題研究部会
  14日 大企業問題研究会
  20日 国際労働研究部会
      労働者状態統計分析研究部会
  24日 女性労働研究部会
  26日 経済分析研究会
  28日 労働組合研究部会

3月の事務局日誌

3月11日 (公財)全労連会館理事会
  19日 企画委員会
  22日 辻岡靖仁さんとお別れする会
  25日 労働法制中央連絡会・厚労省レク