労働総研ニュース300 2015年3月



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 「Yahoo!ニュース」を発信中 井上 伸 
 『所得格差の傾向とその経済成長への影響』
 研究部会報告ほか




「Yahoo!ニュース」を発信中

井上 伸

 昨年6月から「Yahoo!ニュース個人」を執筆している。昨年末の総選挙時には安倍政権批判にいそしみ、月間100万超アクセスを得た。執筆と言っても私の場合は担当する国公労連の月刊誌『国公労調査時報』に掲載した研究者のインタビュー等の転載が大きな比重を占める。「Yahoo!ニュース個人」の原則は個人見解の発信だが、私が企画・編集したインタビューや座談会等の転載についてYahoo!ニュース編集部から許諾を得ており、これまでに労働総研・藤田宏事務局次長の若者雇用問題インタビューもアップし十数万人に読まれている。
 ご本人に了承いただいた場合には、インタビューや座談会時にビデオ撮影も行い、「Yahoo!ニュース」のテキストと一緒にYouTubeで動画も配信している。一般に広く視聴されるネット動画は「かわいいペット動画」などと相場は決まっていると思われるかも知れないが、「Yahoo!ニュース」の拡散力と連動させ、浜矩子同志社大学教授の動画は4万人が視聴し、次いでアベノミクス批判をテーマにした二宮厚美神戸大学名誉教授インタビューの動画もすでに2万3千人が視聴している。「伝統的メディア=紙ベースの雑誌」においても「紙」と「Yahoo!ニュース」と「YouTube」のクロスメディア展開が可能となる。読者を量的に比較すると「紙」は千人単位だが、「Yahoo!ニュース」は数十万人単位(うまくすれば数百万人単位)で、「YouTube動画」も数万人単位になる。
 首都圏青年ユニオン委員長の神部紅さんに座談会等で話してもらったブラックバイト問題を「Yahoo!ニュース」にアップしたところ、数十万人に読まれ、これを読んだマスメディア関係者が神部さんにブラックバイト問題をテーマとする番組への出演オファーをし、番組が実現したということも起きている。
 現在、「Yahoo!ニュース個人」で、労働者の立場から労働関連の情報を発信している筆者(Yahoo!は「オーサー」と呼んでいる)は、佐々木亮弁護士(ブラック企業被害対策弁護団代表)、嶋崎量弁護士(ブラック企業対策プロジェクト事務局長)、渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)ら弁護士グループと、上西充子法政大学キャリアデザイン学部教授、今野晴貴NPO法人POSSE代表と川村遼平同事務局長に過ぎず、労働組合の人間は私一人である。佐々木亮弁護士はすでに一日だけで400万人超に読まれる労働法制改悪反対の記事を連発している。労働問題について深く批判・分析することはもちろん重要だが、安倍政権による労働法制全面改悪の危険性を多くの労働者に知らせる発信が大事になっている。
 「Yahoo!ニュース個人」アドレス http://bylines.news.yahoo.co.jp/inoueshin/

(いのうえ しん・会員・国公労連本部書記/国公一般執行委員)

OECD雇用労働社会政策局・「社会・雇用・移住ワーキングペーパー」No.163
フェデリコ・チンガノ『所得格差の傾向とその経済成長への影響』
(抄訳)

 ほとんどのOECD諸国において富裕層と貧困層の格差(gap)はこの30年で最も大きくなっている。今日OECD域内諸国では人口の富裕層の上位10%が、最貧層の下位10%の所得の9.5倍を得ている。1980年代には7対1の割合であったが、以来ずっと大きくなってきた。しかしながら所得の不平等の拡大は最高所得の割合だけの問題ではない。しばしば所得は最低所得層での伸びが好況の時期にもずっと遅くなり、景気後退の時期には減少し、相対的(一部の国ぐにでは絶対的)所得貧困が政策上の問題になっている。この論文はそのような事態が経済の成果に影響を及ぼすのかどうかを探求するものである。
 OECD諸国の過去30年にわたる同様のデータを利用した計量経済学的分析は、所得格差がその後の成長に否定的かつ統計的に重要な影響を与えることを示している。とくにいちばん問題なのは、低所得世帯とその他の所得層の世帯の間の格差である。それにたいして高所得を得てそれ以外の所得層を引き離している人びとが成長を阻害しているという証拠はない。報告書はまた「人的資本蓄積理論」の評価で、人的資本をつうじて格差が成長に影響を及ぼしうるという証拠を見つけている。成人の技能調査(Adult Skills Survey =PIAAC)からとったマイクロデータにもとづく分析では、所得格差(income disparities)が増大すればそれだけ、受けた教育の量(就学期間)と質(技能の熟練度)の両面で親が低学歴(poor parental education background)の人々の間の技能開発を低下させることを示している。しかし裕福な家庭の出の人が受けた教育の成果は不平等による影響を受けていない。
 当然、所得の不平等を小さくする諸政策は社会的成果を向上させるためだけでなく、長期的な成長を維持するためにも追求されるべきであるということになる。税金と、富の移転による再分配は、成長の政策と成長から得られる利益がより広範に分配され、その結果が成長を損なうという見通しをもつことは無用であることを示すような、もっとも主要な手段である。しかし教育を受ける機会の平等と教育の質を促進することもまた重要である。これは子ども、青年を持つ家庭にしぼったものであることを意味し――人的資本蓄積は子ども、青年の時期が決定的だからである――積極的な労働市場政策、子育て支援、低所得勤労世帯支援手当(in-work benefits)を通じて弱者の階層の雇用を促進しようとするものである。

所得格差の傾向と、その経済成長への影響

 世帯所得の分配の格差は広範なOECDの国々でこの30年にわたって増大してきており、そのような長期にわたる傾向が中断したのは大不況(Great Recession)の最初の数年だけだった。この傾向の問題への取り組みは、多くの国々で政策課題のトップにあがってきた。これはひとつには、成長の配当の共有がいつまでも不均衡になっていることが社会的な憤りとなり、ポピュリスト的(大衆迎合的)、保護主義的感情に拍車をかけ、さらには政治的不安定をもたらすという懸念があるためである。最近の格差の増大が、とくに米国においては2008年の金融危機のひとつの原因になった可能性があることについての議論は、政策づくりの妥当性に寄与した。
 しかし不平等の問題にたいして政策づくりの人々が強い関心をもつ別の大きな理由は、累積して大きくなる、また急速に増大する格差が経済成長と現下の景気後退(recession)から抜け出すペースに影響をおよぼすのかどうかと懸念しているからである。不平等は成長の前提なのか? あるいは、個々人全体をとおしての所得の分散はむしろ成長を弱めるのか? 再分配政策が短期的、長期的に成長にもたらす結果はどちらなのか?
 この論文は始めにOECD諸国における所得分配の長期的傾向の簡単な大要を述べる(第1部)。第2部は格差が理論上いかに成長に影響するかについての理論的、実証的文献を簡単に振り返る。第3部は所得の格差と経済成長の間の関連についての新しい実証的証拠の中心点を示す。第4部は不平等と成長の間の主要な伝導メカニズムのひとつを探り、所得の不平等が大きければそれだけ低所得の世帯は教育に投資できる可能性は低くなることの証拠を見出している。第5部は若干の結論を述べている。

OECD域内における所得の格差の長期にわたる増大
大不況前と後の格差拡大への傾向

 地球規模の経済危機に至る20〜25年にわたって、平均的な実質可処分世帯所得はすべてのOECD諸国で増大し、平均で年1.6%増であった。しかしながら、OECD諸国の4分の3では上位10%の世帯所得が、最貧10%の世帯所得よりも伸びが早く、その結果、所得不平等が広がった。危機以前の時期におけるすべての層の世帯を通じて、所得が伸びる速度の差は多くの英語国で顕著だったが、イスラエル、ドイツ、スウェーデンにおいても出ていた。危機後の時期(すなわち2007年から2011年12月にかけて)を見ると、多くの国で平均的実質世帯所得は伸び悩むか減少――とくにスペイン、アイルランド、アイスランド、ギリシャで年に3.5%以上減少――するなど、状況は一変する。所得が下がったほとんどすべての国において、下位10%の所得がいっそう急速に下落した。同様に、所得が引き続き伸びた国の約半数で、上位10%の所得が下位10%の所得よりも伸びがよかった。
 総合すれば、こうした展開は、格差が大きくなる方向が長期的な傾向にあることを裏付けている。立ち入ってその危機を見ると、多くのOECD諸国が所得の過去最高の格差を記録した。今日、OECD諸国では、人口の最富裕層10%の平均所得は最貧困層10%の平均所得のおよそ9.5倍である。1980年にはこの割合が7:1だった。しかしながらこの割合はOECD諸国では非常にさまざまである。割合がOECDの平均よりもずっと低いのは北欧と多くの欧州大陸の国々であるが、イタリア、日本、韓国、ポルトガル、英国はおよそ10:1の割合、ギリシャ、イスラエル、トルコ、米国は13〜16:1、メキシコ、チリでは27〜30:1である。
 しかしながら、これらの割合の数字は所得分配の2つの評価だけに依拠しているので、格差問題のほんの一部を表しているだけである。より総合的な指標で、全体的な分配を考慮するものはジニ係数である。この広く使われている、格差のものさしはゼロ(=誰もが同一の所得を得ていることを示す)から1(全所得が1人だけに行く)である。1980年代半ばにはOECDすべての国を通してジニ係数は平均0.29だったが、2011年12月までに3ポイント上がって0.32に増えた。ジニ係数はOECD22か国中17カ国で増えている。フィンランド、イスラエル、ニュージーランド、スウェーデン、米国では5ポイント以上あがっており、やや下がったのはギリシャとトルコだけであった。
 所得格差の経路とパターンはOECD諸国、地域をつうじて時を経て異なっていく。所得の格差はまず1970年代終わりごろと1980年代初めに英語圏のいくつかの国、とりわけ英国と米国において、またイスラエルでも大きくなり始めた。1980年代終わりごろ以降、所得の格差の増大はより広がった。1990年代と2000年代初め、米国やイスラエルなど当時すでに格差が大きくなっていた国々のいくつかで貧富の差が開いていったが、同時に初めて、ドイツや北欧諸国などの格差性が低い国々においても貧富の差が開いた。大不況の始まりとともに純所得の格差が増大する傾向が多くの国で止まったか、あるいは危機の最初の年には若干反転したことを示している。しかしながら、2010年以来(また、一部の国ではそれより以前に)格差は再び大きくなっていった。

格差はいかに経済成長に影響しうるか

 これまで数十年にわたって、多くの理論的、実証的研究で、格差が成長にとってよいのかわるいのかを見極めようとした。理論的研究は両方の可能性を認めるメカニズムを解明したが、これらのメカニズムの違いを明らかにしようと試みる多くの実証的研究の文献は大部分が結論に達していない。この部では理論的、実証的研究の両方を簡単に俯瞰し中心的な方法論的、計量問題を主に取り上げ、OECD諸国についてのあたらしい研究のお膳立てをしようとするものである。

理論的文献から

 別の理論では、不平等は成長にたいして積極的、否定的方向のいずれかに影響をおよぼしうると予測する。不平等が増大して成長を縮小させるのは次のような場合である。
 a. 格差が大きくなれば有権者には受け入れがたいものとなり、増税と規制強化を要求するかもしくは、もはや企業や企業優先の政策を信頼しなくなる場合。これらはすべて投資への刺激を減少させるものとなる(これは「内因性の財政政策 」とよばれるものをさしている)。
 b. 金融市場の欠陥を前に、個人の投資能力はそれぞれの所得あるいは富の水準次第であるという場合。もしこの通りであるならば、貧しい個人は価値のある投資をする余裕はないであろう。たとえば、見返り(個人および社会への)は大きいとしても、低所得世帯は、学費を払う余裕がなければ正規の就学をやめることを選択するかもしれない。その代わりに、貧困層の人々の過少投資によって、生産全体が、市場が完全な場合よりも低下することを意味している。
 c. 先端技術の利用が国内の最小限のきわめて重要な需要に依拠する場合。1989年のマーフィー(Kevin Murphy)などによる産業の発進の第一段階のモデル化から発しており、したがって当初は先進国の場合とはほとんど関係がないというふうに見られていたが、国内の需要の流れ、たとえば米国の経済実績についての不均等の増大がもたらす結果についての最近の討論で再び持ち上がってきた。
 他方、次のようなばあいには不平等は増大するかもしれない。
 d. 大きな格差は、高い見返りに乗じて一所懸命に投資してリスクも引き受けようとする方向にインセンティブを与える。たとえば、もし高等教育を受けた人たちがより生産性が高いならば見返りの差が大きいことで、より多くの人が教育を受けようとする。
 e. 不平等が大きいと総貯金額を増進させ、したがって資本蓄積をすすめる。富裕層は消費性向が低いからである。

再分配

 もし不平等が長期的な成長に否定的影響をもつなら、それに結びつく政策問題は、格差を縮小させて成長をすすめるためにいかにしてウィンウィンの道をすすめるかということになる。市場所得(註)の不平等を縮めるための主な直接的政策手段は、税金であり給付金であるが、それはそれで成長に否定的な直接的影響を与える可能性がある。こういうことは、たとえば、高い課税水準や財政移動が財源の浪費を意味し、全体的な非効率性を生み出す(アーサー・オーカンの有名な「漏れるバケツ」のたとえにあるように)。もしこの通りなら、その具体的内容は、可処分所得の不平等が一定のところに達すると各国で成長の足を強く引っ張ることになり、市場の不平等を特徴とすることを説明するものであるべきである。(訳註:市場所得は稼働所得+資本所得+貯蓄)。
 これらの結果は再分配の部分的かつ相対的に大雑把な措置にもとづいたものであり、したがってすべての再分配措置が一様に成長にとって良いということを示しているのではない。ひとつには、それらは、市場の結果に影響を与え課税、財政移転前の所得の不均衡を変える「分配前」政策など他の再分配手段の増大につながる可能性を別途検討していないのである。これらにはたとえば、国民のより多くの部分が(熟練の)高賃金の恩恵を受けられるようにする教育政策や、恩恵を受けにくい階層グループの参加、雇用を有利にする労働市場活性化政策を含む。さらに重要なことはさまざまな再分配措置が効率性や成長に与えるインパクトはじっさいには兆候の点でも規模の点でも異なる傾向にあるということである。

上位と下位の不平等

 実証的分析をもう一歩進めて、所得分配のさまざまな部分における不平等がもたらす成長の結果に目を向ける。この結果は、格差のジニ係数にかえていくつかの「最高」「最低」の格差の方法を用いることによって得られる。たとえば、上位の所得格差は平均可処分所得の、十分位の一番上と国内の平均所得の割合ではかられ、下位の所得不平等は平均可処分所得の、その十分位の一番下の可処分所得の国内平均所得にたいする割合ではかられる。
 その結果は、所得分配の最下位のところの所得不平等を縮小することによって格差を少なくすることが、最上位のところの格差を縮めることに目をむけたばあいよりもより大きな積極的インパクトを経済に与えることを示している。この推定される係数は、下位の格差を標準的な偏差の半分に減らす(これは英国における下位の不平等をフランスのようにする、あるいは米国のそれを日本やオーストラリアのようにするのと同じ)ことがその後の25年にわたって平均的な1年の成長を0.3%ポイント近く増大させ、累積でその期間の終りにはGDPが7%多くなることを示唆している。
 下位の格差が成長にもたらす否定的な影響が強力であることが分かる。基本的なアプローチは、人口の最貧世帯に焦点をあてることである(すなわち十分位の最貧層の所得と平均所得の間のギャップである)。しかし、それはまた、十分位の第2、第3、第4の所得層に焦点を当てた時にあてはまることであり、規模においてきわめて似ている。それはむしろ、所得の低い層の相対的所得状況をつかんでいる。さらに、分配の最上部の格差が具体的内容で同時に説明されているときにそれがあてはまる。これらの調査結果は成長にたいする格差の否定的影響は(たんに)貧困やもっとも生活に恵まれない人々への取り組みにかかわる問題ではなく、低所得問題に対してもっと全般的に取り組む必要があることを示唆している。

結論的叙述

 この論文は不平等が成長に及ぼす影響を推定しようとする多くの実証的文献に寄与するものである。この経済分析は、過去30年にわたるOECD諸国を対象とする調和のとれたデータを利用して所得の不平等が成長にたいして大きな、また統計的に重要な否定的影響を成長に与えていること、また可処分所得でより高い平等性を達成する再分配政策は、成長に逆行する結果をもたらさないことを示唆している。同分析はさらに、成長を阻んでいるのは分配の最下位のところでの不平等であることを示唆している。OECDの国際成人力調査(PIAAC)データにもとづく補足的分析は、不平等が経済的成果に否定的な影響をおよぼすひとつの重要な経路は人口のより貧困な部分のための投資機会(とくに教育)が少なくなっていることである。
 これらの調査結果は低成長と不平等の増大を懸念する為政者にかかわる影響をもっている。それは一方で、成長優先の政策が不平等にもたらす可能性のある結果について慎重に評価を加えることの重要性を指摘している。すなわち成長のみを重視し、その利益が自動的に人口のさまざまな層にトリクルダウンしてくるということを想定することは、不平等を実際に増大させるように、長期的には成長を台無しにする、ということである。他方、不平等が長期的に増大するのを抑える、あるいは理想的にいえば逆転させるのに役立つ政策は、社会の不公平さを小さくするだけでなく豊かにするということを示している。とくに、現在の分析は増大する不平等に取り組み、機会均等を促進するための政策戦略のふたつの柱の重要性を強調している。
 不平等を小さくする政策手段は、税金と給付政策の改革を必要とする。最近のOECDの研究は、最高所得に焦点をあててきた。最上位の所得者はこれまでになく大きな納税能力をもっているので、各国政府は、富裕層の個人が公正な税負担に貢献するようにするために自国の税制を再検討することを考えてしかるべきである。この目的は、富裕層に対する税率をわずかに引き上げるだけでなく、税法順守を改善し、高額所得者ほど偏って利益をもたらすような税控除を廃止するかもしくは縮小し、資産の移動を含むあらゆる形の財産と富にたいする税金の役割を見直すなど、いくつかの方法で達成しうるものである。現行の税法における抜け穴をふさぐことによって課税ベースを広げることは、効率と公正さをともに引き上げる可能性をもつ。これは資本的収入の場合にとくに当てはまる。資本的収入は富裕層の世帯にとくに集中しており、その全体の所得のかなりの部分をしめるからである。さまざまな資産レベルの所得にたいする不均衡な税制上の待遇は、いくつかの場合には不平等を増大させ、資本配分を歪めている。
 しかしながら、本論文は、所得分配の一番低い部分の不平等に焦点をあてることが一層重要であることを示唆している。政府の移転収支は、低所得世帯が所得分配でいっそう後景に追いやられることがないことを保証するうえで重要な役割をはたす。これは現金の移転に限られるものではない。この柱のほかの重要な要素は、公共サービスを利用できる機会を促進し増やす政策である。これは高い質の教育や医療へのアクセスなどのサービスにかかわる。そうした措置は現金所得からくる不平等をただちになくすものであるが、さらに、長い目で見れば移動性を向上させるのを促進し機会の平等の増大を生み出す長期的な社会投資となるものである。
 多くの社会政策は貧困の緩和を目指している。しかしながら、この論文における分析が示唆しているように、貧困(すなわち人口の所得の最下位10%)だけが成長を抑えているわけではない。そうではなく、政策立案者はもっと全般的に下位40%−景気回復や今後の成長の恩恵を受けられないというリスクに直面している脆弱なミドルクラスの下の方の層を含む―について心配する必要があるということを示唆している。貧困対策事業では十分ではないということである。
 この論文に示されているもう一つの一連の政策的洞察は、不平等と人的資本の間の関連である。その証拠が強く示唆しているのは、不平等が大きいと低い経済を背景にしている個々人の、教育の水準という点からも、またもっと重要なこととして教育の質という点でも、みずからの人的資本に投資する能力を妨げているということである。このことは、教育政策が低所得層の機会を改善させることを重視すべきであることを暗に示している。それはこれらの層の人々の教育面での結果が中間層や上位の所得層よりも平均して悪いだけでなく、不平等の増大にたいしてより敏感になっているからである。しかしながら、恵まれない人々の出来は、とくに高等教育の直接的自己負担分(すなわち授業料、あるいは奨学金)を減らすことをめざす政策に応えるものではないかもしれない。不平等の悪影響は、じっさいに、所得分配のさまざまな層での就学決定にたいする過去の収入の就学決定への差動効果をつうじて、または子どもたちの人的資本生産への親の資金投入の配分への影響を通じて、あるいは、最適な就学環境を選ぶ親の能力にもとづいて、生きてゆくかもしれない。したがって、政策として求められていることは、不平等社会における低い社会経済階層は正式な教育で必要な投資がおこなわれないことが多いということを念頭におくことである。それにおうじて技能発達を育成する戦略に低い技能の人々にたいする職業訓練や教育(技能実習)の改善やこれらの人びとの仕事と生活のための正式な教育を受ける機会をよくすることを含めることが必要である。

(抄訳 岡田則男・理事)

研究部会報告

・女性労働研究部会(1月28日)
 「女性の活躍推進法案と私たちの要求」について中嶋晴代さんが報告し、政府提出法案への具体的な修正要求や基本的に踏まえるべき事項、労基法をはじめ関連する法律の改正要求等について検討し、まとめた。また、「日本共産党の女性政策」について渡邉礼子さんが報告し、論議した。税や社会保障のあり方、同一価値労働同一賃金、長時間労働の上限規制や育児・介護に関する権利、性産業と女性、ポジティブアクションなどに関する質問・要望が出された。

・労働組合研究部会(2月7日)
 まず『労働総研クォータリー』夏季号特集の論文「個人加盟産別ユニオンの到達と課題」について東洋志さんから報告を受け討議し、次いで今期のテーマである「ローカルセンター(LC)」研究の進め方について討議した。前者では主に「個人加盟産別ユニオン」の定義、類型、研究対象(典型)の設定について議論になった。後者では、まず研究の主対象である全労連地方労連の概要をつかむための指標について討議し、次いでローカルセンターの性格と機能を考えるさいの視点について議論した。

2月の研究活動

2月7日 労働組合研究部会
  10日 賃金最賃問題研究部会
  20日 国際労働研究部会
  24日 女性労働研究部会
  25日 中小企業問題研究部会
  26日 労働組合運動史研究部会

2月の事務局日誌

2月14日 全教大会へメッセージ