労働総研ニュース292・293 2014年7・8月



目   次

 2014年度定例総会方針(案)
 [I]2013年度における経過報告
 [II]研究所活動をめぐる情勢の特徴
 [III]2014年度の事業計画
 [IV]2014年度研究所活動の充実と改善
 常任理事会報告他




労働運動総合研究所2014年度定例総会方針(案)

2014年7月30日(水)14〜17時・全労連会館

I.2013年度における経過報告

 労働総研はこの1年間、研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」の成果の普及に取り組むとともに、研究部会などの研究活動をすすめ、労働運動の直面する課題に積極的に応える政策提言活動なども重視し、「労働運動の必要に応え、その前進に理論的実践的に役立つ調査研究所」として積極的な役割を果たしてきた。

1.研究所プロジェクト

 (1)「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」
 2013年4月に発表・刊行したプロジェクト報告『提言・ディーセントワークの実現へ−暴走する新自由主義との対抗戦略』の宣伝・普及のため、全国で学習会をおこなった(2013年8月29日山梨県労・11月30日福岡県労連・12月1日秋田県労連・12月14日高知県労連・2014年1月25日岡山県労会議・1月30日札幌地区労連・2月16日全労連東北ブロック・3月8日山形県労連)。

 (2)「ブラック企業調査」
 社会問題化し、安倍「雇用改革」との切り結びの焦点の一つとなっているブラック企業の実態を把握・分析し、ディーセントワークの実現をめざす運動に資するための運動の課題と政策について検討していくこととした。
 調査チーム(責任者・小越洋之助代表理事)を発足させ、(1)労働相談員・相談担当役員等への聞き取りによる労働相談や個別係争の事例の集約・整理、(2)典型的な事例についての聞き取り調査、(3)「ブラック」と目される事例の集約と「ブラック企業」の分析検討、といった調査を開始した。この調査は、地方会員の協力も得て、全国的調査として取り組まれた。

2.各地方の研究機関などとの交流

 各地方の研究機関などとの交流を強化するために、NPOかながわ総研(2013年11月7日)、静岡労働研究所(2014年1月23日)を訪問し、交流を深めた。

3.都道府県別最賃波及効果の全国的な普及

 都道府県別最賃波及効果の試算ができるマニュアルを作成し、これにもとづき神奈川・静岡・岐阜などで活用された。

4.研究所の政策発表

 労働運動の直面する課題に積極的に応える政策提言活動として、(1)「【試算】安倍「雇用改革」で労働者の賃金42兆円減」(2014年2月13日)、(2)「14春闘提言・内部留保の積み上げをやめ、大幅賃上げを」(2月13日)を発表した。これらは、労働組合などで活用されるとともに、マスコミにも数多く取り上げられ、大きな世論をまきおこした。

5.研究部会

 「労働総研アニュアル・リポート2012」(「労働総研ニュース」No.282・2013年9月号掲載)を発表。
(1)賃金最賃問題研究部会(7回開催)
(2)女性労働研究部会(9回)
(3)中小企業問題研究部会(5回)
(4)国際労働研究部会(8回)、全労連編『世界の労働者のたたかい2014』に協力
(5)労働時間・健康問題研究部会(7回)、全教・教組共闘「長時間過密労働解消をめざすシンポジウム」に参加(2014年1月18日)。
(6)労働者状態統計分析研究部会(2回・国民春闘白書編集委員会を含む)、全労連・労働総研編『2014年国民春闘白書』発表
(7)労働組合研究部会(9回)、ディスカッションペーパー『産業別組合組織(単産)研究I』、『「単産機能の現状と課題」調査報告書』発表、および報告会開催(2014年7月5日)
(8)関西圏産業労働研究部会(6回)
(9)社会保障研究部会(5回)
(10)労働組合運動史研究部会(6回)

6.研究活動の関連施策

 (1)公開研究会
 インド・マルチスズキ調査団報告会「多国籍企業の民主的規制を今日的に考える」(2013年10月24日)を全労連との共催で開き、内容を『労働総研クォータリー』No.93・2014年冬季号に掲載した。「【試算】安倍「雇用改革」で労働者の賃金42兆円減」にもとづき、公開研究会「労働者の賃金42兆円減の“衝撃”」(2014年3月27日)を開催、また、緊急公開研究会「安倍『雇用改革』は労働ビッグバン」(2014年6月10日)を開催した。

 (2)研究交流会
 プロジェクトと研究部会間の研究交流をすすめるため、プロジェクト・研究部会代表者会議を開催した(2014年1月18日)。また、「労働総研ニュース」にて各研究部会の報告を掲載した。

 (3)E.W.S(English Writing School)
 わが国の労働運動を中心とした情報を海外に発信するための書き手養成講座であるE.W.Sは、今年度も毎月2回定期的に開催した。地方会員もメールを利用して参加するようになった。

 (4)若者の仕事とくらし研究会
 若手組合員の聞き取り調査(新潟・徳島)をおこなった。また、「若手組合員は労働組合をどうみているのか――聞き取り調査から見出されたこと」(『労働総研クォータリー』No.92・2013年秋季号)に続いて、「学生の労働組合に対する認識―知識・イメージ・加入意向」(同No.95・2014年夏季号)を発表した。

 (5)大企業問題研究会
 大企業職場からの報告と、連合労組の動向、財界・大企業の戦略の変化についての分析・検討などを中心に4回開催された。

 (6)経済分析研究会
 「世界資本主義の現局面をどうみるか」「21世紀型世界経済危機と金融政策」「日本の構造『改革』とTPP」などをテーマに、6回開催された。その成果をまとめ、『労働総研クォータリー』No.95・2014年夏季号「特集・徹底批判 日本再興戦略」を発表した。

 (7)産別会議記念労働図書資料室
 堀江文庫をはじめ労働図書の整理、公開をおこなった。整理された図書の分類項目の一覧を図書資料室ホームページに掲載している。

7.出版・広報事業

 『労働総研クォータリー』、「労働総研ニュース」の定期発行、およびホームページの更新につとめた。『労働総研ブックレット』は、No.9『アベノ改憲の真実──平和と人権、暮らしを襲う濁流』坂本修著を刊行した。

8.その他

 労働法制中央連絡会に事務局団体として活動に参加、(公財)全労連会館理事会、「日本航空の不当解雇撤回をめざす国民支援共闘会議」に参加している。また、「生活保護法の改悪に反対する研究者の共同声明」、「公務員賃下げ違憲訴訟」への賛同よびかけに協力した。

II.研究所活動をめぐる情勢の特徴

1.安倍政権の暴走と日本の進路をめぐる対決

 改憲とむき出しの新自由主義の同時遂行、体系的な推進を図る安倍政権の「なんでもあり」的な暴走が止まらない。暴走が本格化したのは2013年7月の参議院選挙で自公連立与党が過半数以上の議席を獲得し、衆参の「ねじれ」が解消してからである。安倍政権暴走のキーワードは、戦前回帰・復古的な「強い日本」であり、2014年の年頭所感では「強い日本を取り戻す」、「決断と行動」の内閣として、政治と経済の両面で「戦後以来の大改革」(戦後レジームの解体)を進める決意を明らかにするなど、軍国主義復活の道を歩み始めている。

 (1)改憲と教育の国家統制、海外で「戦争のできる国」
 参議院選挙後の所信表明では、積極的平和主義を外交・安全保障の基本に据え、「憲法改正」を前に進めることをうちだした。そして、直後に「国家安全保障会議設置法」や「特定秘密保護法」を相次いで成立させたばかりでなく、総理大臣としては7年ぶりの靖国神社参拝を強行した。また、「武器輸出三原則」を大転換して、武器輸出や他国との武器共同開発を可能とする「防衛装備移転三原則」を閣議決定した。さらに、憲法解釈の変更による「集団的自衛権行使」容認の閣議決定を狙い、内閣法制局長官に容認派を据え、第一次安倍政権時に発足させた私的諮問機関「安保法制懇」を再開して「集団的自衛権容認」の報告書を出させ、国会では「改憲手続法改定法案」を民主、維新、みんな、結い、等々の改憲容認野党の協力を得て衆議院で強行可決している。
 第一次政権時に教育基本法の改悪を強行した安倍政権は、教育への介入をさらにすすめ、教育委員会を首長任命の教育長の支配下に置き、歴史逆行の教科書採択など教育行政への首長の介入に道を開く「教育委員会改悪法案」、教授会から審議権を取り上げ、学長選挙を形骸化させ大学の自治権や学問の多様性を破壊する「学校教育法・国立大学法人法改悪案」などを成立させようとしている。これらの狙いは学校教育への安倍流「愛国心」の押し付けや競争主義体制を強化することにあり、「戦争のできる国」「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくりと一体のものである。
 また、こうした危険な動きと軌を一にして、一連の派遣切り裁判、JAL不当判決など労働裁判をめぐる反動化が顕著になっている。

 (2)労働者・国民犠牲の「世界で一番企業が活躍しやすい国」
 安倍首相は2014年1月の施政方針演説で、「三本の矢」により景気回復の裾野は着実に広がっているとして、規制改革をはじめ「成長戦略」のさらなる進化をうちだした。その狙いが、労働者派遣法改悪、労働条件の切り下げと解雇規制の緩和を図りつつ労働者の分断を意図する限定正社員制度、解雇の金銭解決制度、成果主義賃金と結びついた労働時間規制緩和などの従来の労働法制の原則をことごとく掘り崩す労働法制大改悪、法人税の実効税率引き下げと企業優遇税制の拡大、国内の農業・畜産業などを犠牲に自動車など輸出製造業の利益拡大をめざすTPP推進、農協解体と企業の農業参入を拡大する規制緩和など、労働者や国民を犠牲に大企業が国内外で利益拡大をいっそう追求できる財界主導の新自由主義的な構造改革路線にあることは、経済財政諮問会議等々の論議内容からも明白である。
 安倍政権の異常さはそればかりではない。それは就任から1年半余の間に約20回・数十カ国という海外訪問回数の多さと同時に、その都度、財界人・企業経営者を同行して日本製品のトップセールスを行い、しかも福島原発事故収束の見通しが当該企業や政府から全く示されていず、「脱原発」と「原発再稼働反対」が国民世論の多数派を占めているもとで原発プラント輸出をすすめ、さらには軍事産業の育成と一体で他国との武器の共同開発を推進していることである。パリで予定されている世界最大規模の防衛産業の見本市に陸上自衛隊の装備を出展させ、約10社の日本企業が初めて本格的に出店する予定との報道は、安倍政権の「成長戦略」の重要な柱に軍事産業の育成強化が「戦争のできる国」と一体で位置づけられていることを明らかにしている。

 (3)暴走する安倍政権の危険と深まり広がる国民諸階層との矛盾
 安倍政権は内閣支持率の高さとこれを好機とする財界の力、さらには「お友達」人事や野党内の改憲勢力などに支えられ、戦後保守政治の中でもファッショ的で極右的な暴走を続けている。
 しかし、集団的自衛権行使容認などは、どのように取り繕っても憲法第9条に反するばかりか、話し合いによる国際紛争の解決を追求する国際的流れにも逆行し、周辺諸国との緊張をより深め、日中・日韓の首脳会談が政権発足からいまなお実現していない極めて異常な状態をつくりだしている。
 そして何より重要なのは、秘密保護法や原発再稼働、TPPへの参加、集団的自衛権行使や改憲、教育の反動化など安倍政権の個別政策を巡っては、これに反対する国民世論が多数を占め、その比率が日増しに高まっていることである。また、課題別の国民的共同も全国各地で大きく発展している。
 震災復興や福島原発問題を置き去りに成果を強調している「3本の矢」(アベノミクス)のほころび、矛盾拡大も表面化している。労働者の所定内給与は依然として引き下げられたままで、消費税増税前の駆け込み需要の反動で住宅販売戸数や百貨店の売り上げが4月以降は大きく落ち込み、2013年末には1万6000円台まで上昇した株価も現在では1万4000円台で低迷している。「異次元の金融緩和」も、実体経済とかけ離れた投機とバブルをあおり、金融市場をゆがめ日本経済の将来不安を拡大している。
 安倍内閣の集団的自衛権行使容認への国民的な批判はかつてない広がりを見せている。これらの状況は、現在広がっている課題別の「一点共闘」を安倍政権そのものへの批判へと国民的共同を発展させるなら、政治革新の展望が大きく開ける可能性があることを示している。

2.グローバル化する日本企業と日本経済の岐路

 (1)対米従属・輸出主導型経済の行きづまり
 日本経済は、アメリカに従属した形で新自由主義的構造改革、グローバル企業の対外進出、大企業依存・輸出主導型で経済の「再構築」をめざしてきた。
 この「再構築」は、格差と貧困の拡大による内需の停滞に加え、リーマンショックで輸出主導型経済が行きづまり、破綻した。
 他方で円安にもかかわらず、輸出は増大せず、貿易赤字が続いている。2014年4月までで22カ月連続で貿易赤字となっている。これは、大企業が海外展開を進めた結果、日本からの輸出増大に限界が出てきたこと、海外から日本への逆輸入が増大したことによっている。貿易赤字が続いていることで、経常収支の黒字幅も急速に減少している。この経常収支の黒字の減少は、国内消費が輸入品に依存するようになった結果であり、この意味で構造的な問題でもある。このままでは、巨額の財政赤字に加えて、経常収支の恒常的赤字転落という双子の赤字に見舞われる可能性が高い。
 経済停滞が続くなか、大規模な金融緩和と公共事業、規制緩和などの成長政策を掲げて 登場した安倍内閣は、一時は株価も上昇するなど一定の「期待」も集めたが、現在では金融政策と公共事業依存の限界も明らかになりつつある。まず実体経済を柱の一つである国内の民間設備投資が低迷し、企業は国内で積極的に設備投資をしようとしなくなっている。またリストラ、生産コスト削減を追求し、非正規雇用の拡大、賃金抑制基調を続けている。
 その結果、内需の低迷が続き、消費増税前の駆け込み需要の影響を受けた2014年1-3月期を除けば、名目でも実質でも成長率は1%以下と低迷している。

 (2)多国籍企業型資本蓄積様式の新たな段階――進む産業空洞化
 国民は賃金が停滞するもとで、消費増税による物価高に苦しめられている一方で、グローバル化する日本企業は、外食や流通などの内需型産業でも海外進出するなど、国内生産を縮小・再編し、新興国での生産拡大に躍起になっている。その結果、海外での設備投資や雇用も増大する一方である。これは国内産業を空洞化させ、経済成長の起動因を海外に流出させていることを示している。
 こうした海外展開の結果、投資収益は増大を続け、2013年には16兆6549億円となり、リーマンショック前の水準を超えている。日本の場合、所得収支の多くが証券投資の収益であり、国民が稼いだ資金がアメリカ国債の購入や株式購入などにまわり、国民経済を成長させる設備投資には余り使用されていないのである。
 このように考えれば、グローバル企業主導の経済は国民経済と決定的に対立するようになったのである。

 (3)日本経済再生の課題
 日本経済を再生させるためには、アベノミクスのようなグローバル企業をよりいっそう成長させる途ではなく、ディーセントワーク(人間らしい働き方)の実現という持続可能な方法で日本経済を再生させる途こそ構想されるべきである。ディーセントワーク(人間らしい働き方)が実現すれば、格差と貧困が縮小した社会のなかで、安心・安定した消費行動が実現するから、それを軸とした産業構造の構築が展望できる。またディーセントワークで安心・安定した生活、子育てしやすい社会が実現すれば、人口減に一定の歯止めをかけることができ、国内市場の拡大にも結びつく可能性が出てくる。したがって、日本経済の再生のためには、国内市場を背景にした国民生活を重視した産業構造の構築が必要だということである。
 同時に高い技術力をもつ製造業の再生も重要である。日本の貿易赤字の拡大、経常収支黒字幅の縮小の背景には、製造業が海外生産を進める一方で、国内製造業を空洞化させ、製造業の力を弱めてきたことがあるからである。この間電機産業では、事業の売却や切り離し、工場閉鎖、大規模な希望退職の募集、退職強要などリストラで収益を増加させてきた。しかしリストラでの収益拡大は、人材の流出による技術開発力の低下をもたらし、本格的な産業再生には結びつかない。この間、企業はリストラ効果が消えると、赤字転落するということを繰り返してきたからである。したがって人減らしリストラではなく、人を生かし技術開発力を高めることで、製造業を再生させることが必要である。

3.「貧困」の増大と労働者・国民の状態悪化の質的進行

 (1)増大する内部留保、貧困と格差の拡大
 労働法制と社会保障の相次ぐ改悪の結果、雇用はますます不安定化し、賃金水準の低下と消費減退による内需縮小という悪循環が日本経済を蝕んできた。ひとり、大企業のみが資本蓄積を続けており、民間平均賃金が約60万円も下落して408万円となった一方で、大企業の内部留保は15年間で142兆円から272兆円へと2倍近い伸びをみせるなど、病巣は深刻である。
 「アベノミクス」のもとでも生産は回復しておらず、成長戦略の実質は労働法制の全面改悪による人件費コストのさらなるカットにほかならない。富裕層が増える一方で、人間らしい生活を享受できない働く貧困層が新たな広がりをみせるなど、格差が拡大していることも重大である。そして、社会保障の連続改悪が所得再分配機能を奪い、今日明日の生きる糧を得るために質の悪い仕事とわかっていても飛びつかざるを得ない人々を増やし続けている。年金改悪によって、60〜65歳までの年金空白期間が生まれるなかで、60歳定年後の高年労働者の生活は深刻であるが、その上、「マクロ経済スライド」などによる年金切り下げが用意されている。
 雇用破壊の最大の犠牲者は若者である。若者を使い捨て・使いつぶすことを厭わず、低賃金でこき使うことをビジネスモデルとして、ブラック企業が急成長してきた。「就活地獄」や過労死も大きな社会問題になっている。ダブルワーク、トリプルワークの細切れ雇用で食いつないでいる非正規雇用の若者や女性が増え続けている。自立も結婚もできない状態が広がり、少子化の進行で、日本は本格的な人口減少・労働力不足の時代に陥りつつある。少子化という貧困化現象は次世代の再生産問題とともに、地域社会や自治体の消滅のおそれさえ現実化しつつある。
 マスコミも最近、人手不足問題をさかんに報道するという状況が生まれている。政府の推計でも、2040年には3〜4割の自治体が消滅する可能性が高く、100年後には日本の人口は4300万人にまで落ち込むことが明らかにされた。その一方で、地域経済と地域の産業の衰退が加速する事態も進行している。このままでは日本社会の未来そのものがないほどの深刻な事態であり、雇用の安定と社会保障拡充を軸に、安心して子どもを産み育てられる社会への転換が急務となっている。

 (2)労働者・国民の「変化」への模索と、一点共闘の新たなひろがり
 改憲とむき出しの新自由主義の同時遂行、体系的な推進という“売国的”な安倍暴走政治のもとで、多くの国民が現状への不満を強め、変化を求める模索が各分野で広がっている。それが、“一点共闘”の新たな広がりを後押ししている。
 3・11を契機とした反原発と再稼働阻止の課題では、首相官邸前の毎週金曜日の抗議行動が100回を超え、全国各地に広がり、継続した取り組みとなっている。全労連など全国連絡会と反原連、1000万人アクションの三者共同行動が半ば定期化している。市民アクションなどTPP交渉反対の取り組み、秘密保護法や解釈改憲に反対する共同行動、生活保護改悪反対のアクション、さらには都知事選での宇都宮健児氏支援の広がりなど、この1年も一点共同がさらに発展した。全労連などたたかう労働運動が、縁の下の力持ち的に支える構図が一般化しているだけでなく、日本の現状を憂い、未来を真剣に模索する若者の自主的参加とつながりが拡大していることも特筆すべき特徴である。
 同時に、経済のグローバル化のもとで「少々のことは仕方ない」という諦めや、思考停止とでもいうべき状況も生まれており、自民党政治からの本格的な転換という共同の一致点まで至っていないだけでなく、貧困の拡大という閉塞感のもとで、ヘイトスピーチにみられるように若者の間などで右翼的潮流の跋扈という負の側面も強まっている。日本の針路をめぐる模索と綱引きが、いま激しく繰り広げられている。

 (3)国民諸階層の運動とたたかう労働組合運動の役割、課題
 こうしたもとで、より反動的、体系的に改憲と新自由主義を推進しようという安倍政権の本質がわかりやすくなり、各分野で国民諸階層との矛盾を広げ、共同した反撃へとつながっている。安倍「雇用改革」に反対する労働10団体による「雇用共同アクション」の継続的な行動や法曹団体等も含む中央・地方での雇用まもる市民集会、5000人超を集めた輝けいのち! 4・24ヒューマンチェーン行動など、従来の枠を超えた共同とともに、生活保護や年金改悪に反対する不服審査請求などである。なお、時給全国一律1000円以上の獲得はナショナル・ミニマムの課題となるとともに、最低賃金制の大幅引き上げは格差と貧困を打破するグローバルな課題にもなりつつある。
 こうした端緒的な共同の広がりをより深め、憲法の諸原則を否定し、戦争できる国づくりとグローバル大企業奉仕の国づくりを許さない全国民的な反撃の共同行動へと発展させることが重要となっている。その核となるのが労働者階級であり、結成25年を迎える全労連運動の真価が試されている。憲法を活かし、雇用と社会保障を中心に置く日本をめざして取り組まれている全労連大運動のいっそうの推進に期待が寄せられている。

4.激動する情勢と研究所の調査・研究課題

 (1)日本の貧困化の構造と現状分析
 日本の貧困化は、“雇用破壊”を引き金にして新たな様相を示している。第一に、新自由主義的構造改革のもとで、90年代後半の労働法制改革による“雇用破壊”の結果、正規雇用から非正規雇用の置き換えが急速にすすんだ。バブル崩壊直後、700万人だったワーキングプアは、いまや1100万人近くになっている。その3分の2は女性労働者である。失業も深刻化している。同じ時期に、失業者は142万人から265万人に増えている。第二に、労働者の健康と生命が脅かされる状況が広がっている。「お前の代わりはいくらでもいる」として労働者を使い捨てする“ブラック企業”が広がり、パワハラや長時間・過密労働の強要でうつ病や過労死に追い込まれる事例が広がっている。第三に、“雇用破壊”がもたらす貧困化は、日本の経済社会の土台を掘り崩すものとなっている。雇用悪化のもとで、相対的貧困率は16%となり、生活保護世帯はこの20年間で1993年度の58.6万世帯から2013年度の149.8万世帯へと急増している。 “雇用不安”が若者の結婚・出産にもブレーキをかけ、女性労働者の貧困化と相まって、少子化社会の到来が危惧されている。“雇用破壊”はまた、社会保障制度の重要な柱である社会保険制度を劣化させている。
 今日の貧困化の特徴と構造を浮き彫りにし、その根源を探り、状況打開のための方策を探求することは労働総研の重要な課題になっている。

 (2)安倍政権の暴走政治に立ち向かう労働組合運動の課題
 財界・大企業は、「輸出主導型」から、「海外投資主導型」経営への転換を図り、海外直接投資を大きく伸ばし、「海外生産拠点からの国際展開戦略」をとるようになっている。安倍政権は、日本再興戦略の柱として「国際展開戦略」をかかげ、財界・大企業のこの戦略を後押ししている。大企業は、国際的な常識となっている企業の社会的責任を投げ捨て、電機大リストラにみられるように、労働者に犠牲を押しつけ、生産拠点を国内から海外に移転し、産業空洞化を加速させている。大企業の身勝手な横暴を規制し、民主的に規制することは、労働者の生活と権利を守るとともに、日本経済の国民的再生にとっても重要な課題になっている。
 安倍政権は、「秘密保護法」の強行採決に続いて、「国家安全保障戦略」の決定、今後5年間に24.7兆円の軍拡を盛り込んだ「中期防衛力整備計画」の策定など軍事強化路線をつきすすんでいる。解釈改憲による集団的自衛権行使を実現することによって、なし崩し的に憲法9条をなきものにしようとする攻撃を強めている。その一方で、憲法の平和的生存権規定を踏みにじり、戦後社会保障の原点を全面的に蹂躙しようとしている。この攻撃に立ち向かうためにも、憲法に依拠した戦後民主運動の教訓を明らかにすることが求められている。
 労働総研として、こうした課題に積極的に取り組み、労働組合運動の前進に寄与する調査・研究活動を前進させることが重要になっている。

III 2014年度の事業計画

1.研究所プロジェクト「働く労働者の貧困化の現状分析と打開の展望」
 1990年代後半以降、市場原理主義による構造改革・規制緩和政策、大企業の「内部留保」の激増の中で、さらに近年の「アベノミクス」の展開において、労働者の貧困化が目立っている。働く労働者の貧困化は資本の蓄積政策によって労働苦、労働時間の延長、労働強度の増加、実質賃金の低下、労働力そのものの破壊に及び、その労働と生活の悪化や不安定化をもたらすが、とくに近年の特徴は働く現場での雇用・賃金・労働条件の悪化、労働基準法など現在の法律の脱法行為、不当解雇や「うつ病」「過労死」など労働者の使い捨ての横行、「セクハラ・パワハラ」という労働者の人格・人権の否定にまで及んでいる。
 今回の研究所プロジェクトは、新自由主義改革における「働く労働者の貧困化」の新しい現象に留意しつつ、その根本原因を分析し、局面打開の方向性を展望する。
 そのために、(1)第一段階として、今春以降、すでに全国の労働総研会員によって全労連・地方労連の協力を得て実施してきた「ブラック企業」調査の全国における事例調査を集約し、その定義、類型化、共通の特徴、新しい特徴などの確認、「働く労働者」の貧困化の現実を「報告書」としてまとめ、『労働総研クォータリー』(No.96・2014年秋季号)に掲載する。
 (2)この『報告書』は「中間総括」的なもので、これを契機に日本で進行している貧困化の現状と対策についてさまざまな角度からの分析、展開を行う。この作業においては現在機能している各部会の協力を要請する。(例えば、「働く労働者の貧困化」対策として労働面とともに社会保障の在り方をどうするか、など)

2.各地方の研究機関や単産調査部などとの交流の強化
 各地方の研究機関や単産調査部などとの交流の強化を、引き続きすすめていく。

3.研究所の政策発表
 安倍「雇用改革」をはじめとした乱暴な攻撃が、国民・労働者にかけられてきている情勢のもとで、これらの攻撃にたいして機敏に反撃し、労働組合運動の前進に寄与する政策提言をこれまで以上に重視する。同時に、これら政策提言にもとづく学習研究会などを全労連との協力・共同で推進する。

4.研究部会
 本年度は、新しい研究部会が発足することになる。これまでの研究部会や会員の研究の成果を生かし、研究部会の活動を発展させると同時に、研究所プロジェクト「働く労働者の貧困化の現状分析と打開の展望」との関連も視野に入れた研究テーマの設定も検討することとする。
 研究部会の活動の前進を図るとともに、労働総研全体の研究のあり方などを議論する全国研究交流会を開催することも展望し、労働組合運動の焦点になっている課題を整理し、それとの関係で研究部会活動の課題を明確にする努力を強める。また、各研究部会と常任理事会の連絡を密にして、研究例会や研究交流会の活発化を図るようにする。そうして、研究部会の研究成果を労働運動の現場に多様な形で発信するようにしていく。

5.研究交流会
 全国研究交流会や研究部会代表者会議などによって研究部会間の研究交流をすすめるとともに、直面する労働運動の課題についての民主団体や他の研究所との課題別研究交流の展開にも努めていく。

6.経済分析研究会
 「雇用改革」をはじめとした安倍政権の「新・成長戦略」についての徹底分析を引き続き強めると同時に、「グローバル化する経済と雇用・労働問題」をテーマに、財界戦略の分析を系統的に追求する。

7.大企業問題研究会
 大企業の労働者支配の実態を明らかにすることを通して、大企業労働組合の階級的民主的強化の条件を具体的に探究するとともに、安倍「雇用改革」の危険が職場の現実のなかにあらわれている状況をリアルに把握し、この攻撃とたたかう職場の労働条件がどのように形成されようとしているのかを解明する。

8.若者の仕事とくらし研究会
 引き続き、大学生や若手組合員を対象にした調査を実施していく。さらに、(1)介護分野の組織化に向けて組織化の実態を把握し、そこから組織拡大について示唆を得られるような調査や、(2)各地域で精力的に活動している中核的なオルグの行動特性(コンピテンシー)の分析なども行う予定である。

9.E.W.S(English Writing School)
 これまで続けてきた、英語の基礎を繰り返し確認しながら、実践的な英語の書き方を研究することにくわえ、労働総研・全労連の対外むけ文献・ニュースをクラスで実際に作成する。新たな参加者を募って、一人でも多くの若手の書き手を育てることを追求する。

10.研究成果の発表・出版・広報事業
 『労働総研ブックレット』は、編集委員会の確認にもとづき、「ジェンダー平等の実現」の執筆が始まり、つづいて「最賃引き上げと全国一律最賃制」「内部留保を考える」の具体化の取り組みが進んでいる。編集委員会のイニシアのもとに、企画や内容の充実を図るとともに、運動現場の意見も機敏に反映するようにし、研究所の研究成果の積極的な発信に努める。
 『労働総研クォータリー』は、発売を本の泉社に委託し、広く宣伝・広報を展開できるという有利な条件を生かして、会員以外への普及を強化して労働総研の存在感を高める。また、編集委員会の努力もあり、各号を特集でまとめるようにしているが、特集内容に応じた普及の努力をさらに強める。
 「労働総研ニュース」は定期的な発行に努めるとともに、紙面の改善により研究部会・会員相互の情報交換の活発化をひきつづき図る。
 ホームページの積極的な更新に努める。

11.産別会議記念労働図書資料室
 (公財)全労連会館との共同で、図書資料室として有効に活用できるよう協力する。

IV.2014年度研究所活動の充実と改善

1.会員拡大
 労働総研の研究活動の広報が強化されてきたことを活用し、研究所プロジェクトの取り組み、シンポジウム、各種研究会など労働総研の具体的な研究活動を通して、若手研究者・女性研究者の拡大をとくに重視する。また、実践的・理論的運動家にも会員拡大を呼びかける。

2.読者拡大
 『労働総研クォータリー』の定期的刊行、ホームページなどによる宣伝の強化などを通じてより広範な人に普及を行なう。

3.地方会員の活動参加
 「ブラック企業調査」に全国の地方会員が参加している。また、労働総研のシンポジウムや公開研究会への参加を呼びかけるとともに、「労働総研ニュース」『労働総研クォータリー』への寄稿により、会員相互の交流の活発化を図る。地方会員の活動参加を多様な形でどうすすめるかについてもひきつづき研究していく。

4.事務局体制の強化
 ボランティアの力も活かして、事務局活動を強化する。ひきつづき、『労働総研ブックレット』『労働総研クォータリー』編集委員会などの円滑な運営のために機動的に支援する体制を強める。

5.顧問・研究員制度の活用
 労働総研設立当初の経験・教訓を活かし、意識的に継承・発展していくためにも、顧問・研究員の制度の活用は欠かせない。顧問・研究員との意見交換会などを、適切な時期に開催する。

2013年度第5回常任理事会報告

 労働総研2013年度第5回常任理事会は、2014年6月7日全労連会館にて、大須眞治代表理事の司会で行われた。

I 報告事項
 藤田宏事務局次長より、「ブラック企業調査」プロジェクトについて、緊急公開研究会「安倍『雇用改革』は労働ビッグバン」について、および前回常任理事会以降の研究活動や企画委員会・事務局活動などについて報告され、承認された。

II 協議事項
 1)事務局次長より、入会の申請が報告され、承認された。
 2)藤田実事務局長および事務局次長より、第1回理事会での討論をふまえて文章化された2014年度定例総会方針案が提案された。討議をおこない、出された意見にもとづき必要な文章の補強をおこなうことを確認した。

研究部会報告

・労働組合研究部会(5月10日)
 ローカル・ユニオン(以下LU)の現状、評価、課題をめぐって国分さんから報告を受け、討議した。主な論点は、(1)LUの機能、組織化の対象、(2)ローカル・センター(地方・地域労連、以下LC)の役割、(3)産別との関係、LUの発展方向などであった。(1)では、個別紛争の解決が主で、職場に組合組織を確立する例が少ないことをめぐり、組織方針上の問題か、人的・財政的困難の問題かで議論になった。産別の個人加盟組織の経験を含め、十数年の実践を総括すべき時点にあると思われる。(3)では、LUの戦略的発展目標を、産業別規制(産別整理)に置くのか、ゼネラル・ユニオンによる規制に置くのかで異なるとの提起があった。後者における規制システムの探求は、(2)のLCの役割、機能とも関わる問題であり、今後の実践・研究課題として重要と思われる。大重さんからドイツの派遣労働規制について説明があり、貴重な知見を得られた。

6月の研究活動

6月10日 緊急公開研究会「安倍『雇用改革』は労働ビッグバン」
       女性労働研究部会
   13日 労働時間・健康問題研究部会
   14日 経済分析研究会
   21日 労働組合研究部会
   27日 国際労働研究部会
   28日 社会保障研究部会

6月の事務局日誌

6月5日 (公財)全労連会館理事会
   7日 第5回常任理事会
   8日 自治体問題研究所総会へメッセージ
  26日 郵政産業ユニオン大会へメッセージ