労働総研ニュースNo.285 2013年12月号



目   次

 労働図書資料室
 地方・地域の社会保障運動と労働組合 原冨 悟
 常任理事会報告他




労働図書資料室――3つの角度で労働運動関係の書籍・資料を収集、ご協力を!

 (公財)全労連会館と労働総研が共同で管理・運営する「産別会議記念・労働図書資料室」(労働図書資料室)は、全労連会館開館5周年を記念し、2006年に開設されました。(1)労働運動を中心にした書籍・資料の収集、(2)労働・社会問題のセミナーなどの開催を事業活動にしてきましたが、現在は(1)が中心になっています。産別会議が所有していた書籍・資料の一部分、そして学者・研究者、組合幹部・活動家、またそのご遺族の方々の協力を得ながら書籍・資料の収集をすすめてきました。
 産別会議が所蔵していた書籍・資料の一定部分は、大原社研に寄贈されましたが、その他は産別記念会が保存しており、全労連会館建設時に寄贈を受け、労働図書資料室の蔵書となっています。
 開設以後の主な活動としては、
 (1)日本福祉大学図書館との提携で、故堀江正規先生の貴重な蔵書を「堀江文庫」として、労働図書資料室に移管し、約5000冊が公開されています。また多くの研究者・活動家からの寄贈本は、その方の鋭い問題意識によって集められた書籍だけに、他にはない特徴となっています。
 (2)戦後のレッド・パージ関連の資料収集を行い、この活動と合わせてレッド・パージの講演会を労働総研と共同で開催しました。また、戦前の治安維持法下の活動家(小林多喜二、山本宣治など)に重点を置いて資料を収集してきました(この活動は主に藤田廣登氏の努力による)。
 現在、棚を大幅に再編し、(1)労働組合史、(2)日本労働運動史、(3)要求・闘争課題、(4)労働運動一般、(5)女性運動など課題ごとに整理し、随時HPにもアップしていきます。
 そして、3つの角度で労働運動、とりわけ労働組合関係の書籍・資料の収集に力を入れています。1つは、労働組合自身が発行した「組合史」、2つは、争議や民間大経営でのたたかい、統一労組懇運動などいわゆる階級的潮流のたたかいの記録です。3つは、たたかいや事実を理論化した書籍です。この3つが重なることによって、労働組合運動の前進に寄与できると考えているからです。現在、HPで整理された図書や整理の分類項目の一覧が閲覧できます。
 まだまだ緒についたばかりですが、この3つの点について、労働総研の会員の皆様からのご協力を切にお願いする次第です。(労働図書資料室・T)
(火、金の10:30〜16:30まで閲覧可能、事前に連絡ください。現在、貸出はおこなっていません。労働図書資料室 TEL03-5944-5806 東京都北区滝野川3-3-1ユニオンコーポ4階 HP http://www.zenrouren-kaikan.jp/tosho/

地方・地域の社会保障運動と労働組合

原冨 悟

 2013年4月、労働総研による「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」と称するプロジェクトは『提言・ディーセントワークの実現へ−暴走する新自由主義との対抗戦略』と題する提言を発表した。これに先行して、プロジェクトの社会保障作業部会は、2013年1月に『社会保障再生への改革提言−すべての人の生きる権利を守りぬく』(新日本出版社)を発刊した。
 社会保障作業部会においては、労働組合の雇用・賃金闘争の前進が社会保障再生の力になること、最低賃金・生活保護・社会保険等々の労働組合による社会保障闘争の前進が求められること、さらに、今日の労働組合運動は社会保障運動の主体たりうるか、などの論点について議論が交わされ、政策問題とともに運動の進め方についての経験や教訓を普及し伝えていくことが今日的な課題でもあるとの認識も共有された。
 こうした経過のなかで、2013年7月3日に社会保障研究部会が開催した公開研究会において、筆者は標記の報告を行った。本稿は、その概要を整理したものである。

1.運動づくりの知恵や教訓の継承

 プロジェクトの社会保障作業部会において、運動のつくり方や進め方の知恵や経験、教訓の継承と創造という課題があることが議論されてきた。
 一方で、2013年5月に開催された中央社保協第57回総会報告では、全国の地域社保協の組織状況と活動、中でも「自治体キャラバン」の取り組み状況について詳しく触れたうえで「地域からの運動の強化」が提起された。
 社会保障作業部会による『社会保障再生への改革提言』(以下『提言』)では、第5章「運動づくりの視点」の中で次のように述べている。
 「社会保障をめぐる運動のエネルギーの源泉は、労働者や住民のおかれている現実から必然的に生み出され、生活と労働の場からわき出してくる要求である。要求を基礎とした労働組合や各分野の運動団体によって、個々の困難や不満が顕在化され、その解決に向かって運動が起こり、社会運動に発展していくことによって、国や自治体に影響を与えていく。また、運動の過程で、困難や不満の社会的な原因が明らかにされ、憲法に規定された諸権利が自覚されていく。人類史的に蓄積された人権思想と社会保障の理念、その法律的な表現である日本国憲法はたたかいの武器となり、また、理念自体が運動の中で発展していく。こうして社会保障制度の民主的な改革が運動として発展する。/日本国憲法は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」(憲法11条)と言い、個人の尊重と幸福追求権(13条)をうたっている。それゆえに、25条の生存権に続く26条で教育を受ける権利を、さらに27条で勤労権を保障する。これらの社会権の実現のために、28条では勤労者の団結権・団体交渉権を保障している。こうした憲法の民主的な規定を、労働者・国民の共有財産として活用する努力が求められており、労働組合は、運動の推進役として憲法的な特別の位置を占めている」(第5章第2節1、p157〜158)。
 「地域における住民共同の運動を前進させるうえでも、労働組合はその役割を発揮してきた。労働組合の単組や職場組織が地域的な連合体や協議体を構成し、住民要求を結集して共同闘争を組織し、自治体に対する要求運動の推進役になっている。また、国の制度や政策課題についての世論形成においても、署名や宣伝行動などの推進役になっている。地域社保協の運動もまた、地域の労働組合に支えられている」(第5章第3節1、p165)。
 また、「賃金の低下や労働条件の悪化、不安定な就労形態は貧困層を生み出し、それ自体が社会保障闘争を不可避にする」として、賃金闘争と社会保障闘争の密接な関係についても言及し、さらに「公務員組合や社会保障・福祉に直接かかわる医療や福祉関係の労組には、国民・住民と共同して制度改善を進めていく上で特別な役割がある」とも指摘している(第5章第3節1、p165)。
 こうした論述に対して、「本書で論じられている『運動の推進役としての労働組合運動』は示唆に富んでいる。本書を、労働運動を担う方々に是非とも読んでいただきたい。そして、本書の『提言』を社会保障の分野の人々と大いに議論していただきたい」(『月刊全労連』2013年6月号)との書評も寄せられている。
 実際に運動を進めていく上で、どこが「示唆」に富み、何を「議論」すればいいのか、という具体的な問題については、これからの課題である。
 本報告では、埼玉社保協の実践を素材に、そこに貫かれているいくつかの運動上の視点を検証することとしたい。あらかじめ注目したい視点を提示しておくと、一つは、活動家が増えていくような運動の組み立て、したがって、多くの人が参加しやすい運動形態と運動の中での学習効果を意識すること、そして、社会保障に関わる各分野の運動がつながり膨らんでいき、地域での影響力が広がっていくように運動を組み立てるということである。埼玉社保協の実践を「モデル」ではなく、一つの素材として検討材料にしたい。

2.埼玉社保協の「4つの運動」の定式化

(1)埼玉社保協は、中央社保協が1989年の総評の解体とともに組織的な困難に陥り、また地方社保協を維持していたのは東京、京都、兵庫の3都府県のみという状況のもとで、中央や全国で全労連や民医連などを中心に組織と運動の再建、再構築がはかられる中で、1993年6月に結成された。
 結成に向けては、共同行動を先行させて大衆的な運動を盛り上げながら、社保協結成への世論を「下から」広げていく努力が重ねられた。
 医療・年金などの社会保障制度改悪が新たな段階に進みつつあった情勢のもとで、1992年の春闘時に、埼玉県労連(以下「埼労連」)の呼びかけにより、医療・福祉・年金等の社会保障に関係する各分野の運動団体による「世直し共同署名」が取り組まれ、連動して社会保障討論集会が開催された。「共同署名」は、国と県に対する要求項目を、関係団体が時間をかけ、繰り返しの議論を重ねて準備した。92年5月には埼玉県知事選挙が行われることもあって、当時の畑革新県政の継続発展を求める運動も意識されていた。
 この取り組みを契機に、関係団体の中で社保協結成の機運が盛り上がる。同年9月の埼労連大会で社保協結成の方針が決定され、12月には結成に向けた準備会が発足した。
 結成準備会は、93年の春闘時に埼労連とともに社会保障集会を開催し、93年5月には、県内60自治体を訪問し要請・懇談を行った。当時、埼玉県内には92の市町村があったが、組織力量の問題もあって、市段階と自治労連の組織がある町を訪問の対象とした。この行動が、結成後の「自治体キャラバン」に発展していく。この自治体訪問は「地域連鎖行動」とも呼称し、地域での共同の運動づくりと地域社保協の結成を展望して組み立てられていた。

(2)結成後の埼玉社保協は、4つの運動を年間の運動サイクルとして確立し、定式化していった。「4つの運動」というのは、春闘時の共同行動(学習決起集会と埼労連の地域総行動への合流)、6月の自治体キャラバン、8月の社会保障学校、11月の県政要求行動である。これらの年間のサイクルの経過と到達は、12月の埼玉社保協総会で整理される。
 4つの運動の「定式化」は、社保協の運動を、参加しやすくわかりやすい運動形態を模索する中から生まれた。定式化されていることにより、地域社保協や労組・団体も運動を組み立てやすい、各団体や地域で役員・活動家の交代があっても引き継がれていく、県や市町村の行政の対応としても引き継がれていく。
 留意されていたのは、4つの運動のそれぞれを固定的なイメージで考えるのではなく、4つの柱で運動を発展させていくという見地である。定式化の過程で、運動の効果を発見、検証し、共同組織の全体に返し共有していく努力が払われた。年ごとに県レベルでの共同の運動が深められていき、また地域社保協が結成されていく、「良い意味でのスケジュール闘争」として展開されたのである。
 春闘時の共同行動は、埼労連・県春闘共闘の春闘方針づくりと連動するから、社保協と埼労連の間で春闘方針づくりに向けた調整が行われる。1月の学習決起集会、2月の地域総行動は、労働者部隊の統一行動が主軸になる時期であり、埼労連の社会保障闘争に対する姿勢や方針、労働組合としての役割発揮が大きく影響する。
 自治体キャラバンの組み立てについては後述する。
 夏の社会保障学校は、その時々の情勢を共通認識にするとともに、政策や理論問題を学び、情勢に対応した運動の課題と自治体キャラバンの経験を整理する場でもある。2012年の社会保障学校には、19団体・17地域社保協から186人が参加した。
 秋の県政要求行動は、県民要求実現埼玉大運動実行委員会と共同して行われる。様々な県民要求のうち、社保協は医療・福祉分野を担当し、大運動実行委員会はそれ以外の分野の要求を包括して担当する。共同行動の当日、午前中は合同の決起集会を開催し、午後は「医療・福祉問題」と「県政全般」に分かれて県当局との懇談を行う。社保協の加盟団体と大運動実行委員会の加盟団体は、多くが重なるけれども、いくつかの団体はそのどちらか一方の共同組織に属するから、ここでも、両方の共同組織の中心的な位置にある埼労連の役割は大きい。
 社保協は、6月の自治体キャラバンの回答を分析し、各分野の要求を整理して要請書を作成し、いくつかの項目に絞って県との懇談を行う。要請事項に対しては、後日、県当局から文書で回答が行われる。文書回答は、年ごとの政策の蓄積として重要な政策資料になる。

(3)定式化された4つの運動とともに、情勢に対応した諸行動、集会、学習会の開催、中央社保協がよびかける諸行動、埼労連・大運動実行委員会との共同による国会行動埼玉デーなどが適時取り組まれる。
 機関紙「埼玉の暮らしと社会保障」は、月刊でA4版・4ページ、社会保障諸分野の行動や地域運動のレポートも掲載され、13年7月までに207号を数える。この機関紙は、ホームページでも閲覧できる。
 埼玉社保協には55団体(オブザーバーを含めて労組・団体27、地域社保協28)が参加している。埼労連および労働組合の県組織、医療関係、保育関係、障がい者団体、生健会、生協、政党などが参加しており、社会保障に関係する各分野をほぼ網羅している。また、高齢者集会実行委員会、反貧困ネット、県障害者協議会などとも友好関係を持ち、連携してイベントなどに取り組む。
 全加盟団体の参加による運営委員会は年4回開催され、日常の運動を推進する常任委員会は、分野ごとの要求や運動を反映できるように、医療、保育、障がい者、年金、生活保護などの各分野の代表で構成されている。

3.埼玉における自治体キャラバン行動

(1)6月の自治体キャラバン行動では、県下63の市町村すべてを訪問し懇談する。事前に、各自治体に施策に関するアンケートを行い、それをデータ化して自治体に提供しつつ、要請書と合わせて懇談の参考資料にする。参加者は、のべで1500人に達するが、県要請団を含めて33コースに分かれ、分担して行動するので、複数の自治体を訪問する人は多くはなく、参加者は実数で約1400人と推察される(12年実績)。
 準備作業は次のように進められる。
 2月には、自治体アンケートの項目と要請事項を検討し、団体・地域に提示し、常任委員会・運営委員会などで調整する。4月上旬には、訪問日程と合わせて、アンケート、要請書、訪問時の懇談事項等を自治体に送付し、必要な自治体とは調整を行う。アンケートは4月末までに回収し、5月にはアンケートの集約、県要請団会議、県段階の団体によるそれぞれの地域・基礎組織への周知、県内6カ所の地域で準備集会などを開催し、行動の体制がつくられ、要請・懇談事項についての議論や学習が広がる。5月から6月にかけて、自治体に対応する各地域で、関係する団体間の打ち合わせと事前学習会が行われる。地域社保協が存在し、力のあるところは、自治体と事前の調整や独自の作戦会議も行われる。地域社保協のないところは、埼労連の地域組織=地域労連がまとめ役になる。ここでも労働組合は重要な役割を負っている。
 7月には、全自治体から文書回答が行われる。今日ではメールで回答が送られてくる。これを集約し、各団体・地域に回答を送付する。

(2)こうした自治体キャラバンの組み立てには、いくつかの特徴がある。
 キャラバンの要請団は、県要請団(県社保協の代表)と地域からの参加者で構成される。県要請団は、基本的に3名(責任者、副責任者、記録係)で構成することとし、県段階の労組・団体で分担配置する。事務局長を含めて県社保協の役員(事務局、常任委員)で訪問行動に参加するのは、それぞれ33コースのうち1〜2コースで、労組・団体が必要な人員を分担して配置する。33コースのそれぞれに3人だから、約100人の「要請行動に責任を持ち、県社保協を代表する人」が必要になる。ここでは、労組がその組織性を発揮する。各団体が要請にもとづいて必要な人員を派遣するためには、社会保障問題で自治体と意見交換をするだけの力量を持つ人がそれだけ団体内に存在することが必要になる。各労組は、毎年の行動の蓄積により形成された活動家の層とともに、未経験の人を含めて役員を配置する。「一夜漬け」的な学習での対応も含まれるので、県レベルの要請団会議での学習と議論、意思統一は欠かせない。こうして新たな活動家も生み出される。
 訪問行動への地域からの参加は、多いところは90人を超え、少ないところは5人程度と、地域の力量に応じて幅がある。事前の連絡、参加者の把握、当日の受付・資料配布など、地域のまとめ役は地域社保協が担当するが、地域社保協のない所は地域労連が対応する。こうして、運動の発展過程の中で、労組の組織性が発揮され、地域労連の存在が運動を支える。
 社会保障・福祉諸分野の運動団体の中には、保育問題協議会、障埼連(障害者の生活と権利を守る埼玉連絡協議会)、生活と健康を守る会など、全県域に組織を持たない団体もある。そうした団体も、社保協の自治体キャラバンに参加することにより、要求づくりに参加し、自治体の施策のデータを把握し、すべての市町村との話し合いに参加でき、また、ある自治体で運動により獲得した成果を、他の自治体に普及し、或いは全県の実態に即した県への要請を通じて、全県的な施策の水準を高めていくことにもつながる。
 全県統一の要請項目・懇談事項を設定することには重要な意味がある。全国的・全県的な課題をはっきりさせ、事前の議論や訪問当日の懇談を通じて参加者が学習することになる。また、その問題に関連した地域の状況を、当事者も参加して懇談に反映させることができる。こうして、個別の問題の解決を越えて、県社保協・地域社保協の政策力量を高めることになる。

(3)キャラバン行動への地域からの参加は、地域で運動をする人たちと自治体とのパイプをつくることになる。地域の事情に対応する独自課題については、地域社保協として独自に要請行動を持つようになって行く。毎年のキャラバン行動のたびに、地域社保協未結成の地域では「地域社保協をつくりたい」との声があがる。実際、自治体キャラバンを契機に、地域社保協の結成が促進されてきたのである。
 今日、全国の都道府県に356の地域社保協が存在する。埼玉県内には28の地域社保協があり、その多くは地域労連のエリアと連動している。さいたま市社保協は10区ある区ごとの社保協を抱え、年4回話し合いを定例化し、加えて、必要に応じた自治体交渉を実施している。多くの地域社保協が独自の自治体交渉を、キャラバン当日または、別途日程を設定して行っている。
 富士見市に対応する富士見社保協は、地域の関係諸団体とともに150人の個人会員を組織している。その中には、15人の医師や市の管理職も含まれる。国保協議会にも委員を派遣している。

(4)県社保協の位置と労働組合
 都道府県社保協は、中央社保協と地域運動のつなぎ役として、地方・地域での署名、集会、宣伝、学習などを通じ、全国的な運動を成功させるうえでの地域的な土台をつくる役割を果たし、情勢や中央社保協の動きを見ながら、生活圏から、いわば「下から」の運動をつくっている。地域社保協を育て、各分野の運動体を相互に支え合い強化し、県・市町村への要求運動と全国的な課題をつなぎ、政治意識の変化をつくり出す。その諸行動は、すべて実践的な学習と活動家づくりの場なのである。
 その中で、労働組合は、運動の推進軸であり、政策と運動の系統性を保障する位置にある。また、産業内、企業内にとどまりがちな労働組合が、自治体キャラバンへの参加を契機に、地域に目を向けるようになって行く。
 地方・地域の社会保障運動の前進にとって、社保協という共同の運動体が大きな役割を果たしてきた。共同の運動体をつくるにはその軸になる事務局の存在が決定的であるが、どこでも「事務局長」の人材づくりに苦労する。しかし、地域社保協の運動は、必ずしも専門家が必要なわけではない。事務局長は社会保障の素人でも、各分野の運動体の協力と地域の労働組合の組織性が発揮されれば、運動は組み立てられる。全国で地域社保協づくりが進めば、その数ほど運動の「仕掛け人」が生まれ、行動を蓄積する中で「活動家」がつくり出されていく。いま、地域には、現役を退いて地域運動に加わる経験豊かなたくさんの活動家もいる。

 埼玉では、2002年から毎年秋に、埼労連が、地域経済や公契約問題をテーマとする自治体キャラバンを行っている。93年の社保協結成とともに始まった自治体キャラバンの蓄積が、秋のキャラバンへの自治体の対応をスムースにした。社保協、埼労連の2つのキャラバンは、自治体と地域社会に対する影響力を着実に高め、地域運動としての市民権を獲得してきている。

(はらとみ さとる・常任理事)

2013年度第1回常任理事会報告

 労働総研2013年度第1回常任理事会は、全労連会館で、2013年10月26日午後1時30分〜5時まで、大須眞治代表理事の司会で行われた。
 冒頭の学習会は、JMIU日本IBM支部より「日本IBMのロックアウト解雇」について報告をいただき、質疑応答をした。

1.報告事項
 藤田宏事務局次長より、定例総会について、労働総研ブックレットNo.9・坂本修著『アベノ改憲の真実─平和と人権、暮らしを襲う濁流』の刊行について、経済分析研究会の発足について、インド・マルチスズキ調査団報告会の開催について、労働組合研究部会ディスカッションペーパーの発行について、「生活保護法の改悪に反対する研究者の共同声明」よびかけへの協力についてなど、定例総会以降の研究活動や企画委員会・事務局活動などについて報告され、承認された。

2.協議事項
(1)藤田実事務局長より、入退会の申請が報告され、承認された。
(2)2013年度定例総会方針の具体化・年間活動計画について、(1)ブラック企業調査についての研究所プロジェクトを立ちあげること、そのために研究所プロジェクト・準備チームを発足させること、(2)研究部会活動を重視した運営にしていくために、本年度より研究部会代表者会議を1月に開催すること、(3)『提言・ディーセントワークの実現へ―暴走する新自由主義との対抗戦略』の学習会について、全労連のブロックごとに1か所位の割合でおこなうこととし、8月に山梨で開催したのをはじめ、すでに各地で開催が決まるなど具体化が進んでいること、(4)地方の研究機関との交流について具体化をすすめること、について事務局長より報告され、それぞれ討論の上、承認された。
(3)労働総研の主な研究活動である(1)研究所プロジェクト(本年度はブラック企業調査)、(2)研究部会、(3)大企業・若者・経済分析などの重点研究課題、の3つの研究活動を有機的に結合し、その研究サイクルにあった労働総研の運営にするため、(1)定例総会を2年に1回とする規約改正案を次期定例総会に提案すること、そのための規約改正検討チームを発足させ、その是非も含めて検討していくこと、(2)定例総会未開催年には7月に、研究所プロジェクトや各研究部会の1年間の活動を報告・交流するとともに、幅広く会員、研究部会メンバーの交流をはかる会議を開催すること、が事務局長より提案され、それぞれ討論の上、規約改正検討チームを発足させることが承認された。

研究部会報告

・経済分析研究会(10月19日)
 初めての研究会。まず研究会の目的について議論。新自由主義の破綻後、日本資本主義・日本経済はどうなるのか。明治維新、戦後改革につぐ第3の変革として「民主連合政府」を展望できるのか。グローバル経済の今後の展開とのかかわり、とりわけアメリカ経済の今後とのかかわりで、どう考えればよいのか。マルクス経済学の「先見性」を活かし、10年後(21世紀の第1四半世紀末)の日本資本主義・日本経済の様相(ポスト新自由主義の様相)を大局的に解明することが、研究会の主たる課題であることを確認した。
 研究会の課題と関連して、フリーディスカッションを行い、「日本資本主義の構造認識が必要」「先進国革命の共通性と日本の独自性の両面で捉えることが重要」「安倍政権の成長戦略は、日米企業の多国籍化に照応している」「金融は長期的に見て成長産業とは言えない。金融は、製造業で生産された剰余価値の一部について分配にあずかるだけで、金融が価値を生み出すわけではない」など、今日の経済状況、アベノミクスをどうとらえるかについての活発な多面的な意見が出された。

・労働組合研究部会(10月19日)
 1960年総評全国オルグとなり、安保、三池闘争に携わり、61年から専従事務局次長として金属共闘を担当、69年書記局に移り常任幹事として組織部長、企画部長等を歴任した谷正水氏から報告を受け、質疑・討論を行った。(1)「日本的労働組合主義」の評価、(2)三池闘争における灰原書記長との論争、(3)金属機械労働戦線における2つの流れ、中央金属共闘(総評左派―全国金属)とIMF・JC(鉄鋼労連・電機労連右派)とのせめぎ合い、金属共闘・地方金属共闘―業種別共闘の役割、(4)太田・岩井指導体制、特に太田議長のリーダーシップの特徴など、これはその一部だが、興味深い話が聞けた。

・女性労働研究部会(10月23日・11月20日)
 「わが国の労働者の労働実態とジェンダー格差」について中嶋晴代さん、「ジェンダー格差を生みだす背景と要因、政府・財界の労働力政策」について橋本佳子さんが報告し、引き続き論議した。労働者全体の状態悪化が進んでいる中でとりわけ男女間の格差が大きいこと、その背景には性別役割分担や長時間労働の下で安上がりな労働者として女性を重石にして、資本蓄積のために全労働者の搾取を強める財界・政府の労働力政策があることが確認された。

・社会保障研究部会(11月2日)
 プロジェクト研究の一環として公刊した『社会保障再生への改革提言』発表後の社会保障をめぐる政府・財界、労働運動の動きの把握を当面の課題とすることとした。そのための視点として、総論的な部分として(1)イデオロギー的な問題の把握、(2)社会保障をめぐる労働運動の動向把握を大きな柱に据え、その下に各論毎に検討を進めることとした。
 具体的には次回研究会からイデオロギー的な面の検討を始めることとし、日野先生にその報告をお願いすることとした。労働運動の動向については、労働組合の社会保障担当者に実情を聴取することも含めて今後作業を進めていくこととした。

・中小企業問題研究部会(11月20日)
 安倍政権の中小企業政策をテーマに、中小企業分野にかかわる政府予算・概算要求の特徴について、相田利雄氏から報告を受け、議論をおこなった。中小企業に実際に役立つ施策は盛り込まれているのか、活用できる施策はあるのかなどについて、概算要求にもとづき具体的に検討した。しかし、その内容はアベノミクスの成長戦略にもとづくものであり、中小企業の「新陳代謝」を進めるための施策が中心となっていることが明らかにされた。

11月の研究活動

11月2日 社会保障研究部会
      若者の仕事とくらし研究会
   6日 労働組合運動史研究部会
   8日 労働時間・健康問題研究部会
   12日 賃金・最賃問題研究部会
   20日 中小企業問題研究部会(公開)
       女性労働研究部会
   21日 国際労働研究部会
   30日 研究所プロジェクト「提言」学習会
       (福岡)
       若者の仕事とくらし研究会

11月の事務局日誌

11月7日 NPOかながわ総研を訪問
   19日 企画委員会
27〜28日 全労連・春闘討論集会