昨年から、女性労働研究部会に参加しています。坂本福子先生に誘われ、久しぶりにご一緒できると楽しみにしておりましたが、あっという間にお別れすることになってしまい本当に寂しい限りです。同時に、あのかよわいお体で女性労働者の権利擁護の先頭で立ち続けてこられた先生の業績を、しっかりと後輩につなげなければという思いです。
　私は東京法律事務所に入所して32年になります。多くの労働事件に関わってきました。女性差別事件としては、世帯主条項による女性差別賃金についてはじめて間接差別の判決を勝ち取った三陽物産事件、損害賠償にとどまらず昇格した地位確認をはじめて認めさせることができた芝信用金庫事件、コース別雇用管理制度の下で一般職女性差別の損害賠償を勝ち取った野村證券事件等がありました。いずれも労働組合が共にたたかい、運動を広げる中で、長期裁判にもかかわらず、力強く、粘り強く裁判を進めることができました。
　この時期、全国でたくさんの女性差別事件がたたかわれ、職場の男女平等が大きく前進し、将来への展望が見えたかに思いました。ところが、財界の非正規雇用政策により、現在では女性の54％が非正規で、いまや正規が少数という実情です。こうした雇用形態の様変わりの中で、男性との賃金格差はむしろ拡大しています。
　男性にも非正規雇用が増大し、派遣労働をはじめとして劣悪な労働実態のワーキングプアが社会問題化しました。家計補助の賃金でよいと低賃金にされた主婦パートが、非正規雇用全体の低賃金の基礎となり、それが非正規だけでなく労働者全体の労働条件の引き下げにつながっています。さらに、きまってまやかしに使われる「多様な働き方」を前面に打ち出して「限定正社員」などさらなる低賃金・不安定雇用が狙われています。
　このような全体的な雇用破壊が進む中で、男女平等に向けたたたかいはきびしいものですが、改めて、男性も含めた人間らしい働き方を確立するためのたたかいと連動させていく必要があると思っています。

■　雇用防衛・非正規雇用規制のたたかい

　欧州では、産業衰退と緊縮政策による内需縮小によって雇用情勢の悪化が進行した。2007〜2012年の間に欧州全体で大企業の従業員は149万900人減ったが、製造業の人員削減が顕著であった。
　とりわけ自動車産業では、2006年のGM・ポルトガル工場、2007年のルノー・スペイン工場、2008年の日産・スペイン工場、2010年のオペル・ドイツ工場などの工場閉鎖・人員削減につづいて、2012年にはフランスのプジョー・シトロエン（以下PSA）、イタリアのFiat、ベルギーのフォードなどで工場閉鎖・大幅な人員削減問題が浮上した。
　PSAでは、７月、オルネー工場の閉鎖と同社史上最多となる8000人の人員削減計画が発表され、CGTは早期退職認許と従業員全員の無期雇用を要求してたたかっている。政府は「地域や産業に与える影響は大きい」として、国内生産維持により雇用が守られることを最優先に、労使協議を求めたが、PSAの財務審査を行なった政府諮問委員会は、経営上の問題点や労使対話の不足などを指摘しつつも、オルネー工場の閉鎖を「妥当」と判断した。政府は人員削減数の軽減等を求めたが、受け入れられていない。リストラ反対のたたかいは引き続き続けられている。
　Fiatでは、2011年末以降、ポミリアーノ新工場でのパンダニューモデルの生産が始まったが、当初の経営側の約束に反して、再雇用されたのは２千人に止まり、従業員は約1400人減った。Fiatの年間生産台数は2000年の約140万台から2011年には約48万台に減っており、ミラフィオーリ、メルフィなど他工場の将来も懸念される状況に至っている。組合は、対政府交渉で会社に対し新しいモデルの開発を急ぐよう求める事、場合によっては他国企業でイタリア国内工場を引き受ける用意のある企業を探す事を要求した。
　フランス、イタリアでの産業衰退傾向は鉄鋼・化学などでも顕著になっている。例えば、フランスのアルセロール・ミタルではフロランジュ製鉄所の高炉２基の閉鎖が発表され、組合は高炉と雇用の維持のため製鉄所の国有化を要求してたたかっている。スペインの建設業では、多くの企業が倒産し、建設労働者は他国で出稼ぎ労働者として働いている。EUの多くの国で、経済発展と雇用創出の課題が深刻な課題になっているのである。
　こうしたなか、フランス政府は、企業競争力強化と雇用対策に関する政策提言作成をガロワ投資総合局長に委託した。11月発表された「ガロワ報告」は、フランス企業の「競争力の重大な欠如」を指摘し、他国よりも高い社会保険料の企業負担の軽減とその財源確保のための付加価値税増税を提言した。
　一方、イタリアでは、産業の衰退＝雇用問題の深刻化を前にCGILが「新しい労働プラン」を発表した。このブランは1949年、D.ヴィットリオが提唱した「労働プラン」にならって、失業問題解決のための代案として作成されたもので、他の総同盟組合ばかりでなく企業、政治諸勢力、社会の諸機関に呼びかけ共同で練り上げるべき草案として提出された。それは、イタリアの危機が欧州的規模のもので一国だけの努力で解決しうるものでないとしつつも、イタリアのそれは政府の産業政策の不在による“企業の発育不全”、「グローバル化への対応としてコスト競争のみを追及した結果としての産業における革新の停滞と低付加価値部門への生産の特化」などの特徴をもつとして、単なるケインズ主義ではない、革新的で質の高いプロジェクトを対象に行なわれる公共投資などの実施を求めるものだった。エネルギー節約と環境の持続可能性のためのエネルギー源再編などの「グリーン経済」への転換も提起されていた。
　スペインでは、３月、政府の解雇規制緩和などの「労働改革」と緊縮財政に抗議するゼネストが全土で実行された。同日は、自動車産業関連工場、港湾、郵便局などの労働者の77％（労組側発表）がストに参加した。
　不安定雇用の拡張も各国で進んでいる。ニュージーランドでは、2011年、90日以内の解雇には理由を問わないという「90日法」が作られたが、2012年にはこの法が本格実施された。若者の雇用機会拡大を口実に、試用期間中の解雇を合法化したのである。イタリアでは「労働市場改革法」が成立し、非正規雇用労働者の待遇の一定の改善が盛り込まれたものの、初めて就職する青年については期限付き契約であっても期限をつける正当な理由は必要とされないなど非正規雇用規制のルールが一部、改悪された。与党議員により「派遣労働禁止法」案が議会に提出されていたロシアでは、法案が変更され、労組側は「事実上の派遣労働解禁法」だとして、当初の支持を撤回した。
　だが、非正規労働者のたたかいも広がっている。IGメタルは１年以上同一の職場に働く派遣労働者は正規労働者にするよう要求、自動車・電機産業部門の協約では２年以上働く派遣労働者の正規社員化が盛り込まれだ。11万７千人の社員のうち3500人の人員削減を計画しているルフトハンザでは、2014年末まで正規社員の雇用を保障し、16年末まで正規の客室乗務員の代わりとして派遣労働者を雇用しないことが合意された。
　韓国・現代自動車ウルサン工場では、２人の社内下請け非正規労働者が15万ボルトの電流が流れる高圧送電塔のうえで篭城を始めるという事件が起こった。現代自動車が、韓国大法院から２度にわたって不法派遣労働者の正規職化を命じられたにもかかわらず、拒否していることへの抗議行動であった。組合は裁判所が不法派遣と断定した８千人全員の正規職化を求め、10張近くのテントを張って２人を支えた。

■　労使関係改悪に抗するたたかい

　米国では、全米約20州において公務労働者の団体交渉権剥奪ないしは制限などの攻撃が強まっている。ウィスコンシン州では、2010年就任したS.ウォーカー知事が、2011年、公務員の団体交渉権剥奪を提案し、民主党や労働者の抵抗にもかかわらず強行採決して法案を成立させた。組合は2011年11月からリコール要求署名を開始し、2012年、選挙が行なわれたが、結果はスコット知事の当選・信任であった。同州デーン郡巡回裁判所が同州法は労働組合員の言論の自由、結社の自由を侵害するものとの判断を下したが、州司法長官は巡回裁判所の判断を覆した。また、米国では、現在、50州のうち23州が「働く権利法」（労働組合がある工場・事業所に就職した場合、労組に加入しなくてもよい＝ユニオンショップ否認法）を実施している。2012年には、インディアナ州でもこの法が実施され、ミシガン州でも2013年から実施されることが決まった。自動車労組はこの州法を無効にする運動を立ち上げることを決定した。
　フランスでは、「雇用の安定」に関する全国労使協議が、主要５労組のうちCGTとFOの反対を無視した形で2013年１月に妥結し、CFDT等の３労組が署名に応じた。その最終合意（「雇用・競争力協定」）では、任意加入の付加健保への全従業員の加入などが認められる一方、配置転換の自由化・賃下げや労働日削減の拒否を理由に解雇できない制度の修正などが持ち込まれた。CGTは「雇用の安定ではなく、解雇の安定になる」として、この協定への署名を拒否した。
　イタリアでは、2011年秋首相に就任したモンティは、「労働者憲章法」18条を修正し、不当な解雇の場合の原職復帰原則を廃止しようとしたが、民主党の批判やCGILを中心とした広範な労働者の反対を受けて、修正案を撤回した。
　韓国・現代自動車ウルサン工場では、１月、１人の労働者が自殺した。組合は「生産第一主義」に基づいた現場統制等がその原因であると抗議し、その中止を要求した。民主労総委員長は葬儀の場で、「殺人的な競争の中で命が抹殺されている」と訴えた。
　ロシアでは、労組とその指導者への圧力、不当解雇や逮捕が続いている。サンクト・ぺテルブルク郊外のニッサン自動車工場では、「事業の最適化」をスローガンに職場・勤務評定をすすめ、その結果に基づき稼動ペースの加速、人員削減をすすめる会社側に対し、「評定委員会」に労働者の代表を入れよ」と要求している。こうした組合の動きに対し、会社は労組の中心人物に解雇を通告した。
　2011年、労働組合の結成を認めない会社に抗して自主的な組合MSWUが結成されたインドのマルティ・スズキでは、その後も組合つぶしの画策が続けられていたが、2012年７月、労働者の解雇と契約労働者の雇い止めをめぐって労働者・労働組合関係者による「暴動」が発生した。事件後、147人が逮捕・投獄され、546人の正規労働者が解雇され、1800人を超える契約労働者が契約を打ち切られた。現地の組合は事件をきっかけに組合活動に参加した活動家と労働者が根こそぎ職場から追い立てられていると述べた。2013年にはいって、「暴動事件」の真相究明、逮捕者の即時解放、職場を追われた労働者の復帰などを要求する行動が、多数の労働組合、人権団体等によってはじめられている。
　メキシコでは、フォルクスワーゲンの部品メーカー、フレックスNゲートで新たに労働組合が結成された。フォルクスワーゲン社がメキシコ自動車産業の労働者と2002年に結んだ「ブラティスラバ宣言」(同社が取引先やサプライヤーに労働権の尊重を義務付ける協定)に基づいて、様々な弾圧や嫌がらせとのたたかいのなかで生まれたものだった。コロンビアでは、米国との自由貿易協定が発効したが、コロンビアの労働組合とともにAFL･CIOが反対した。両国の間ではすでに2006年に自由貿易協定が調印されているが、協定発効にさいして労働者保護の約束が担保できているかという問題が課題となって、発効されていなかった。オバマ大統領は労働者保護についての懸念に答えるため、「労働者の権利に関する行動計画」をつくる措置をとったが、AFL･CIOは大統領に対し「労働組合幹部等への殺人を含む暴力が横行している状況を改善する十分な措置をとっていない」とする文書をおくり、発効の無期限延期を要求した。

■　賃上げ・最低賃金引き上げのたたかい

　インドネシアでは、急激な経済成長のなかで、労働側の賃金引き上げ姿勢が強まり、2012年の最賃額をめぐる労使の激しい攻防は年を越えてたたかわれた。ジャカルタに近い西ジャワ州ブカシ市では、2012年の最賃を大幅に引き上げる決定がすでになされていたが、経営者団体がこれに反発して裁判所に訴訟を起こし、受理された。こうした経営側の姿勢に反発を強めた労働者はブカシ工業団地で数万人が参加するデモを連続して組織した。デモ隊が主要幹線道路を占拠するにおよんで、パナソニックやデンソー、ホンダなど日系企業を含む一部工場は操業を停止した。また、今回のデモによって賃上げ要求が通ったことで、デモは全国各地に広がった。
　マレーシアでは、2012年、最低賃金法が制定された。国民所得を2020年までに１万5000ドル相当まで引き上げて中・先進国並みにすることをめざすナジブ首相による経済改革の柱の一つで、首相は「約320万人の低賃金労働者が賃上げになる」と述べた。マレーシア労働組合会議は「10年以上に渡って最低賃金を要求し続けてきた。今回導入される最賃額は、当面、妥当な額だと思われる」としている。
　アルゼンチンでは、CTAの呼びかけで11月20日、賃金引き上げを要求して首都ブエノスアイレスはじめ全国各地で50万人が24時間ストに参加した。空港労働者、トラック輸送労働者、列車運転士なども加わり、全国で空の便がキャンセルになり、バス、列車も多くのところで止まった。経済発展の著しいブラジルでも、労働者の所得の伸びがインフレ率に追いつかず、警察官や消防士をふくめ公務員労働者がストライキ立ち上がり、賃上げの成果をあげた。ストライキ参加者は40万人に及んだ。2011年、21.2％の経常利益増収をみたチリ・コデルコ社のチュキカマタ銅山でも、3.7％の賃上げ、ボーナス増などを要求するたたかいが起こっている。
　ドイツでは、組合は年明けから、自動車・電機部門で6.5％，化学産業部門で６％，公務員が6.5％と次々と大幅賃上げ要求を掲げ、度重なる警告ストを実施し、それぞれ4.3％，4.5％，6.3％（２年で）の賃上げを獲得した。与党労働相は「勤勉に働く者に成功を分け与えるのが社会的市場経済の根本的な約束だ」と述べた。また、IGメタルは「同一労働同一賃金」の原則を派遣労働者にも適用せよと要求し、実現した。協約によれば派遣労働者は就労して６週間後には15％、３ヵ月後には20％、５ヵ月後には30％、７ヵ月後には45％、９ヵ月後には50％給与が加算されることとなった。
　スウェーデンでも、LOは2.8％の賃上げと工業労働者の平均月収である２万5000クローネ以下の労働者に対して特別の低賃金保障規定をもうけることを要求している。交渉は2013年１月現在で終結していない。

■　緊縮政策反対のたたかい

　EUは、１月に開いた理事会で、債務・ユーロ危機からの脱出策について討議し、財政規律強化のための新条約（以下「EU新財政条約」と略）を締結することを、イギリスとチェコを除く25ヵ国で合意し、各国で批准作業を進めた。その核心は、各加盟国に憲法・基本法を改正して、財政赤字を原則ゼロにする「均衡財政」の法制化を義務付けるとともに、対応が不十分な場合は欧州司法裁判所が制裁金の支払いを命ずることにあった。
　４〜５月の大統領選で勝利し、政権に就いた社会党のオランドは、EUの緊縮一辺倒の姿勢を批判し、成長・雇用の重要性を主張していたが、「EU新財政条約」についてはドイツなどの反発を避けるため、再交渉の選挙公約に反して修正協議をしないまま批准を決めた。国民の不満は強く、８月には政権の不支持率が支持率を上回った。政府は2013年度予算案の提出にあたっては、１年以内の失業低減、２年で財政再建という目標を設定し、「300ユーロの財政再建措置」（100ユーロの支出削減と200ユーロの増税施策）を発表した。増税額は企業と家計が折半して負担する案だったが、所得税の最高税率の引き上げ、年間所得100万ユーロ以上の超富裕層への75％課税措置もふくまれていた。
　緊縮政策に抗するたたかいは南欧諸国で一層激しいものとなった。スペインでは３月29日のゼネストに続いて、失業手当を基準賃金の60％から50％に削減・付加価値税引き上げなどを内容とする新しい緊縮計画に抗して、７月には200万人以上が参加した抗議行動が繰り広げられ、さらに欧州統一行動日の11月14日には、この年２度目の24時間ゼネストが決行され、約900万人の労働者が参加した。ポルトガルでは、２月の大規模なデモ、３月の24時間ゼネスト、９月のゼネストと抗議行動が相次ぎ、政府は13年度予算案に盛り込まれていた社会保険料個人負担率の引き上げを撤回せざるをえなかった。代案として、この国でも資本取引税、資産税などの引き上げが検討されている。ギリシャでは、６月に行なわれた選挙で緊縮政策撤回を前面に掲げ、欧州各国の左翼勢力・運動の共同による緊縮政策打破をめざした「急進左翼連合」が躍進した。イタリアでは、年金額再評価の停止に抗議し、富裕者増税を求める年金者の三大年金者組合の統一デモや自治体への移転費削減・医療費削減などに抗議する公務部門の統一ゼネストが行われた。
　ベルギーでは、１月30日、およそ20年ぶりにゼネストが実施された。政府の緊縮財政案に対する抗議活動として、同日に開催されたEU首脳会議にぶつける形で航空・鉄道・バス・路面電車・商店など広範な範囲で実施され、首脳会議に参加予定の各国首脳の専用機は、ゼネストの影響で首都郊外の空軍基地に受け入れる緊急措置がとられた。
　イギリスでも、歳出抑制政策による公務員の賃金凍結と人員削減に対するストやデモが続発した。もっとも注目されたのは年金改悪に対する医師のストライキだった。政府は医師の年金保険料負担を大幅に引き上げる一方で年金支給額を抑制し、満額の年金を受給できる年齢を65歳から2015年までに68歳に引き上げるとした。これに対して英国医師会（BMA）は６月21日、国内各地で24時間ストライキに踏み切った。医師による大規模なストは1975年以来だった。そのほか、５月10日には、年金改悪と緊縮政策に反対して、公務員が各地で24時間ストを実施した。参加者には、病院の職員、大学の教職員なども含まれていた。
　医療や福祉、教育などの改善を要求する行動は各国で広がっている。米国最大の正看護師の労働組合（NNU）は、長時間勤務規制をかちとるとともに質の高い医療、だれもが安心して医療を受けられる健康保険制度などを要求し、そのための財源として「ロビン・フッド税」（国際金融取引にたいする0.5％の課税）を主張して集会を開いた。
　ロシアでは法案「ロシア連邦における教育について」(以下新教育法案)をめぐって、教育関係の労働組合だけでなく、広範な学術関係者をまきこんだ一大議論と反対運動が展開された。新教育法案のめざす教育改革はロシアの産業革新の実現をもたらす人材育成のため、初等・中等教育での英才教育・追加的教育の実施の拡大、大学など高等教育機関の整理統合と民間からのものを含む資金の重点配分など、ロシアの国際競争力をつけるための施策に道を開く狙いをもっていた。この法案に対し、労働組合や学術関係者らは、公的教育機関の民営化をするな、高等教育機関での有料化の拡大をとめ、無償教育を保障せよなどと要求してストを実視した。特筆されるのは、このたたかいのなかで政権寄りの労働組合とは別に、新しく「教育労働者地域間組織――“教師”」が誕生したことである。
　イギリスでも「教師の士気は危険なほどに低い。過剰な報告義務によってくたびれ果てている」とNUT書記長が述べ、ガーディアン紙がストレスによる休職中の教師の数は過去４年間で10％も増えたと伝えるような労働条件悪化が進む中で、組合は実力行使を行なった。オーストラリアでも、政府は白書「アジアの世紀におけるオーストラリア」をまとめアジアの経済力を自国の経済成長に取り込む狙いで、人材育成のための教育改革を打ち出した。一教師によれば、「賃金と学級員定数、短期雇用の教員数の減少」が主な争点となっており、現知事は「一部の成績の良い教員に対する報奨金」を提示している。
　スウェーデンでは、2010年の選挙で勝利し、２期目に入った穏健党を中心とする政権は、新自由主義的政策を追求し、病院や学校を含むすべての福祉サービスを民営化する機会を狙っている。
　欧州労連執行委員会は緊縮主義に反対し、欧州が巻き込まれている危険な下降循環から欧州を脱出させるため、「欧州政労使協定」(労使関係上の民主主義、持続可能な成長と良質な雇用に資する経済統治、所得再分配的税政策と社会的保護による経済的・社会的公平を３本の柱とするEUレベルの政労使合意)実現のたたかいを提起した。11月14日の「欧州統一行動・連帯デー」はこの協定実現を軸にした危機脱出を共にたたかうためのイニシアであった。この日、全欧州約30ヵ国でストやデモが行なわれた。「欧州同時スト」が初めて実現した。
　５月13日投票されたドイツ最大州ノルトラインウェストファーレンの州議選では、首相候補として立候補したレトゲン環境相が、テレビ・インタビューで「借金をして安定と将来を危うくするのか、借金を重ねて身動きがとれなくなるかが、欧州とともに州レベルでも問われている」と述べ、緊縮問題が選挙の争点となったが、結果は与党の敗北だった。欧州で緊縮政策を主導してきたドイツでも国民が緊縮ノーの声を上げていることを示した。

■　社会主義をめざす国での労働者のたたかい

　中国では、依然、高い経済成長が続いている。2012年のGDPは実質7.8％で、政府の年度目標をやや上回った。一方、労使紛争仲介機関が受理した労使紛争は前年同期を11.9％上回った。紛争は、労働集約型企業と小企業・零細企業で多発しているが、一部大企業、とくに外資企業でも頻発し、ストやデモなどの集団事件が発生している。総工会の統計では、12年１〜８月に全国で賃金問題の紛争で起きた参加者100人以上のストは120件余りで、賃金不払いがとくに多かったのは建設部門、輸出関連部門の企業で、労働集約型の中小企業の経営困難によるものが目立った。
　また、労働コストの引き下げをねらって派遣労働に依存する企業が急速に拡大している。全国の派遣労働者総数は6000万人余りで、労働者総数の20％にのぼり、企業によっては従業員の70〜80％を占めるに至っている。これまで、中国の「労働契約法」では、派遣労働は「臨時的、補助的、代替え的」労働に限って認められてきたが、定義に厳密性が無く、問題を残していた。2012年12月、全国人民代表大会は、「労働契約法」改正案を採択し、「臨時性」については６ヵ月を超えて派遣労働者を雇うことを禁止、「代替え性」では産休などで労働者が休暇をとった場合に限るとした。派遣労働者の総数に制限を設け、企業などが派遣労働者を規定数以上雇うことも禁止した。
　ベトナムでは、経済成長率が低下している。2001年から2010年の10年間には７％台の高成長を続けたが、2011年のGDPは5.9％、2012年には5.0％とアジア通貨危機下の1999年以来の低い成長率である。だが、この数年物価は上昇を続けており、2011年には18％にはねあがった。そうしたなか、民間企業労働者は「生活できる賃金」を求めてストライキに立ち上がっている（公務員はストライキを禁止されている）。だが、労働法にもとづいた合法的なストライキ権の確立と行使はほとんどなく、違法とみなされる山猫ストが一般である。2010年422件、2011年978件と増加しており、2012年には上半期だけで228件のストが発生している。ストライキは、台湾、韓国、日本の外資系企業に集中しており、６月にはハノイ・タンロン工業区のキヤノン工場でも賃上げと労働時間短縮を求めるストライキが発生した。
　一方、2012年、政府は労働法の改正を行った。労働法改正は、賃金を「国家管理下の市場経済に従った労働力の価格」とし、労働者と雇用主の合意に基づいて算定することとしながらも、国家が最低賃金発表を通じて管理することを定めた。

（さいとう　たかお・常任理事・国際労働研究部会責任者）

＊全労連編集・発行の年報『世界の労働者のたたかい2013〜世界の労働組合運動の現状調査報告第19集』が刊行されます（発売・学習の友社03-5842-5641）。執筆には、労働総研国際労働研究部会のメンバーが協力しています。