2006年９月９日、日本はフィリピンとのEPAを終結（2008年12月11日発効）した。2007年８月20日には、インドネシアとのEPAも終結（2008年７月１日発効）した。それに基づき、現在、インドネシア人とフィリピン人看護師および介護福祉士を候補者として受け入れている。
　自国で看護師としての実績がある外国人看護師が来日しても、日本ではすぐに看護師として働くことはできない。日本で看護師として働くためにはさまざまな困難を乗り越えなければならない。インドネシア人看護師は訪日前に６ヵ月、フィリピン人看護師は訪日前に３ヵ月の日本語研修を受けなければならない。来日後も半年間の日本語研修を受ける。その後、外国人看護師を受け入れている病院で看護師候補者として働きながら日本語で実施される看護師国家試験の合格を目指すことになる。
　2008年度の看護師国家試験ではインドネシア人看護師候補者82人が受験し、全員が不合格であった。2009年度の看護師国家試験からはインドネシア人看護師候補者に加えてフィリピン人看護師候補者も受験したが、2009年度の合格者は３人（合格率1.2%）、2010年度の合格者は16人（合格率4.0%）、2011年度の合格者は47人（合格率11.3%）であった。年々合格者数は増加しているが、2011年度の看護師国家試験の合格率が90.1%であったことからも、外国人看護師の合格率は依然として非常に低いといえる。
　EPAでは、３年以内に日本語で実施される看護師国家試験に合格できなければ原則帰国しなければならないことになっている。政府は一定の条件に該当した場合に、１年間に限り滞在期間を延長することを認めることを閣議決定したが、制度的に未成熟であった点は否めない。
　また、看護師国家試験の合格率の低さを改善するために2012年３月16日「看護師国家試験における母国語・英語での試験とコミュニケーション能力試験の併用の適否に関する検討会」が開催された。国家試験の試験時間の延長し、すべての漢字にひらがなを振る方針である。なお、母国語・英語での試験とコミュニケーション能力試験の併用は否定的な意見が多かった。
　十分な議論がなされず、制度的にも重大な欠陥があったにもかかわらず、外国人看護師の受け入れだけが先行してしまったといえるだろう。３年しか滞在できない点や合格率が低すぎる現状を考えると外国人看護師の受け入れ制度そのものが破たんしていると言わざるを得ない。2011年10月31日、野田首相は来日したベトナムのズン首相と会談し、ベトナム人看護師や介護福祉士の受け入れに合意し、「日ベトナム共同声明」に署名した。インドネシア人、フィリピン人に続いて、2013年度からはベトナム人看護師の受け入れが始まる予定である。外国人看護師の受け入れを拡大するよりも、日本人看護師がより働きやすくするために、待遇や職場環境を改善し、離職を防止することが優先されるべきであると考える。

　大阪維新の会は９月12日、新党「日本維新の会」結成を宣言しました。そして、石原慎太郎・前都知事を代表にすえ、ウルトラ右翼「第三極」に仕上げました。そのマニフェスト「維新八策」は憲法改正、日米同盟基軸、基本的人権の形骸、教育基本条例・職員基本条例の全国展開、公務員の政治活動禁止など自民党以上の右翼タカ派の見識であり、雇用政策では解雇規制の撤廃やいっそうの非正規雇用化などを宣言しました。代表は橋下市長、幹事長は松井知事が務め、党本部を大阪に置き、英語での党名Japan Restoration Partyの訳は「日本復古党」です。
　すでに東京、愛媛、滋賀、九州などで「維新の会」が結成され、次期衆院選に向けた候補選考委員会委員長に新自由主義者である竹中平蔵慶応大教授、委員には堺屋太一元経済企画庁長官、上山信一慶応大教授が就任しました。
　一方、自民党総裁選で「集団的自衛権の行使」「憲法改正・国防軍設置」を政策とする改憲タカ派の安倍元首相が再任されました。橋下大阪市長は「安倍総裁とは教育改革とか憲法問題、公務員改革で価値観ががっちり合うところがある」とさっそくエールを送りました。タカ派の野田首相も加わって、日本政治の右傾化は加速、競争し合う危険性が大きくなっています。
　橋下市長の支持率、全国への浸透が低下し始めたことから、日本維新の会を低く見る向きもありますが、自民党「極右翼」勢力とも結びついた政治の急速な右傾化、独特な「統治機構の改変」による自治破壊・民主主義の破壊、基本的人権の侵害など反動的危険性が増す政治状況にあると考えます。
　本稿では、日本維新の会の危険性を労働者、労働運動の課題とも関わりながら、またハシズムに対抗すべき民主主義力を問いたいと思います。

１．「統治」と労働組合を考える

　この問題を考える時、民主主義国家の統治でなく橋下市長の「企業国家」としての「統治機構」づくりに関わって、これまでの労働戦線の形成と本来の役割を考えておく必要があります。日本の貧困と打開の展望にも関わる現在の「統治」、「統治能力」の形成でもあります。
　連合が結成されて23年、悲願の「民主党政権」が誕生して満３年、しかし福祉国家の姿は見えてこない!?　この意味合いは1960年代からの労働戦線統一にあります。かつて総評は、北欧では労働戦線の統一の上に社民政権が誕生したことから、日本でも総評・同盟・新産別・中立労連の統一で革新政権誕生をめざす動きがありましたが、結局のところ共産党・左派勢力を排除することが前提となって進み、これを乗り越えることが出来なかった事から今日の社会を「統治」する、また貧困と長時間過密労働が強いられる社会の現実があります。
　しかも、左派排除は官公労産別組合の排除、連合結成にむけては激しい反共攻撃と同時に「民間主導（右派、労使協調、経済整合性論、リストラ協力、労働法制改悪推進）」のうえで労働戦線統一を「成し遂げ」ました。そして中曽根政権から小泉・安倍政権に至る行革・公務員バッシング、規制緩和、構造改革を後ろ盾にしながら、今日の連合の位置が確立され、労使協調の統治システムが張り付いたと考えます。
　大阪における70年代の革新統一戦線の形成と革新府政の樹立に、大きなちからと役割を果たしたのは公務員組合の戦闘性でした。しかし革新府政を転覆させるために、関西財界と反共・右派の労働組合、部落解放同盟は革新統一戦線に分断を持ち込み、公務員労組を激しく攻撃し、1979年に黒田革新府政は終焉しました。
　労働組合を敵視する橋下市長は知事時代からこの点を取り入れ、労働組合つぶしを本格化していきました。今日の貧困と格差の広がりをも巧みに取り入れ、不満を抱く府民に、「既得権益」の象徴として公務員と公務員組合をはじめ、既成政党と官僚、文化、インテリ、マスコミ記者（庶民から特権階層と見えるものなら何でも）徹底的に攻撃します。
　「クソ教育委員会」「バカ記者」など公職者と思えない、聞くに堪えない発言をいまだに続けています。これは敵をつくり打撃を与える手法で人気を得るヒットラー流ポピュリズムです。
　階級的公務産別、労働者を攻撃し、連合などこれまで「統治」に協力してきた労働戦線をも敵にしながら「人気」を得ている点に、どう本格的に「統治」の主体者である市民・労働者と労働組合が共同、同盟するのか、私たちの「統治」構想・能力を本格的に検討するのか大阪、全国で問われています。
　また、労働者と労働組合が、ハシズムの危険性をしっかり解明する能力をもつことは、労働者のイニシャチブで民主的政府をめざす動機とチャンスを掴むということでもあります。

２．ハシズム恐怖政治が公務労働者、教育労働者を襲う

　橋下市長は知事時代から自らを「民意だ」「改革者だ」といって府民、市民の行政サービスを切り捨てています。「市政改革プラン」だとして今後３年間で395億円の予算を大幅カットすることを実行し始めました。地下鉄の民営化、浄水場の売却、敬老パスの有料化、赤バス（福祉バス）の路線廃止、男女共同参画センター５館を１館に統合、市音楽団の廃止、大阪フィルハーモニー交響楽団、文楽協会への補助金削減、市民病院の廃止など大阪府民、市民のくらしと文化を破壊する恐怖政治です。
　ここでは、ハシズム恐怖政治がどれほどに、どのように公務労働者、教育労働者に襲い掛かっているのか、またその反撃を報告したいと思います。

　「君が代強制条例」が東日本大震災直後に成立し、「教育基本条例」「職員基本条例」につづき「政治活動規制条例」が次々に成立していくとき、その異様さと怖さにハシズムの本質をみる思いでしたが、これに対抗する「民主主義力」の強化と再生を誓うことにもなりました。
　橋下市長は「教育とは２万％命令です」、学力テストの公開に応じない市町村の教育委員会に対し、「教育委員会のクソ野郎」と発言、この他にも「君が代を歌うときは、手を横に気をつけの姿勢で」「体罰は必要」など教育への異常な偏見と政治介入に及んでいます。
　これらはもとより、橋下市長は「市職員は市民に命令する立場です」「職員が民意を語ることは許しません」「職員は市長の顔色をみて仕事するのが当然」「公務員にはプライバシーはない」など平然と職員、公務員の人権と自由を奪いながら労働組合の弱体化を本格化させました。労働組合への打撃として、労働組合事務所の庁舎内退去の命令があります。連合の組合は早々に退去しましたが、自治労連加盟の大阪市役所労組（市労組）は本庁地下の組合事務所を退去せず守り続けています。
　私が、「これがハシズムか！」と思わせた事例があります。ある中学校で、授業開始に準備を急いでいる教員を前に、教頭が「明日からは校長がおはよう！と声をかけたら、全教職員は起立して挨拶するように！」と指示されたそうです。教職員のみんなは「えっ！」と言っていたそうですが、翌朝全員が起立して挨拶したそうです。教育基本条例が成立して直後のことでした。命令がすべての教育に変質させようとする動き、教育者の自発的な教育活動を阻害する学校運営が強制されようとしています。
　密告奨励です。今年１月に「目安箱」が置かれ、大阪市職員思想調査などで「密告」「ちくり」が公務労働者を窒息させかねない状況が続いています。「密告奨励」によって、教職員・市職員は「職場がギスギスし始め」、「職員同士の連帯を損なう」と指摘しています。「壁に耳あり、障子に目あり」という感じが、中傷をおそれ職員を萎縮させています。
　10月３日、大阪市「思想調査」裁判（思想調査国家賠償請求事件）の口頭弁論が始まりました。55人の原告の裁判を決意させた思いと勇気が、市民のなかでも感動をよんでいます。以下、大阪革新懇機関紙「だより」に、市労組執行委員長の竹村博子さんが寄稿したものを紹介します。「２月に実施された思想調査アンケートは職員の内心の自由を侵害するばかりか、密告を奨励し、知人・友人の氏名報告までも求める憲法違反のものです。そして職員は業務命令と処分と言う言葉に恐怖を感じ悩みました。私たちは『民主主義を守るには勇気がいる』『しかしみんなの団結で励ましあって闘おう』と議論を重ねました。そして『処分覚悟で回答を拒否することを決意した』『子どもや孫に誇れる母親でありたいから拒否をする』『一度提出したが、思い悩み取り返した』『解雇になれば、収入が無くなると家族会議を開いた。子どもたちに背中を押されて決意した』とたくさんの市労組組合員が回答を拒否しました。私たち公務員は住民の基本的人権を守る事が仕事です。仕事を通してその声を市政に届ける事が求められています。橋下市長はそんな公務員の働き方を否定し、職員が市政に口を出す事、意見を述べる事を否定しています。大阪市職員の人権が侵害され、権利が奪われるということは市民の権利が侵害されることにつながります。私たちが黙ってしまうわけにはいきません。自治体の長である市長の憲法違反を許しておくことはできません。『市民に役に立つ仕事がしたい』と自治体職員として誇りをかけて、『思想調査国賠訴訟』に55人もの組合員が原告になることを決意しました」と、綴られています。
　この闘いと裁判は、決して狭い意味のものではありません。「法の支配」・「憲法の保障」を確認・獲得する憲法訴訟の位置づけであり、ハシズム大阪モデルを全国化にさせないものでもあります。

３．マスメディアの情報発信を考察する力を

　よく質問に出されるのは、「なぜこれほど橋下・維新の会がマスコミに登場するのか」というものです。日本のメディア（新聞・テレビ）は「社会の木鐸（ぼくたく）」の役割のはずですが、世のなかに真実を知らせ、世人を導いているか、橋下報道でも問われます。テレビが無ければ、橋下知事、市長は誕生しなかった！はずです。
　橋下徹は、市民を観客者にして自ら橋下劇場で演じました。これに、競争社会のなかでバラバラにされてしまった青年、非正規労働者、市民の多くが「これまでと違って何かやってくれそうだ！」「この際、独裁者でもいいから社会を変えて欲しい！」と共感の拍手と声援を送りました。
　小泉純一郎が「自民党をぶっ潰す！」「改革なくして成長なし！」とワンフレーズポリティックスの手法で新自由主義的、市場万能主義な社会に変質させましたが、これに学んでのことです。橋下徹、小泉純一郎のポピュリズムがターゲットにしたのは所得の低い労働者と市民です。これを考えると、労働組合の弱体化、公務員バッシングとも関連付けるといかに地域における労働運動の社会的課題が大きいかが浮かび上がります。
　さて、橋下劇場を呆れるほど中継しつづける翼賛報道、最近は報道傾向に変化が表れているのですが、メディアの姿勢に変化は見られません。
　最初に、原発問題での「放送打ち切り事件」を報告しておきます。3・11以降、原発事故報道で全国に名を馳せたラジオ番組「たね蒔きジャーナル」（大阪・MBS）が打ち切られました。当初メディアから排除されていた小出裕章・京大原子炉実験研究所助教の解説をほぼ毎日放送していた「たね蒔き〜」はYouTubeにアップされて、全国でファンを広げた良心的番組であったのです。番組関係者から聞く話では、番組が終了するケースで多いのは「聴取率が低い」「スポンサーがつかない、あるいは降りた」「出演者が番組を降りる」「番組そのものの寿命がつきてつまらなくなった」などの理由が考えられるとのことです。
　どうも、打ち切りの背景は多額のテレビCMを大飯原発再稼働のタイミングに合わせて再開した、関西電力の影響力があるようです。広告収入が落ちて経営に影響が出ているメディアはその使命より経営を優先させている例のひとつです。
　橋下維新の会の翼賛報道ですが、「マスメディア倫理懇談会」の関係者は「メディアの使命は在野の批判精神が全てだ。関西財界が橋下知事（当時）を操り、その知事が今度は熟知したメディアを手のひらに乗せ、躍らせることで財界の方針を実行している。メディアは『絵になる』『字になる』とパフォーマンスに踊らされ、おもしろいおかしいだけのポピュリズム報道に成り下がっている」と痛烈な批判と警告を発しました。
　視聴率至上主義がテレビ局の報道姿勢の根底にあることが明らかです。ヒトラー率いるナチスは当時のニューメディアであるラジオと映画の情報伝播力に注目しましたが、この点も会得した橋下市長とマスメディアが波長を合わせた結果が翼賛報道の実情です。
　報道機関として位置づけられるマスメディアには強い倫理牲が各報道機関・企業に要求されますが、同時に情報発信を考察するちからを高めることです。

４．日本維新の会「維新八策」を読む

　大阪革新懇はパンフ「『維新八策』を読み解く」（「維新八策」全文付き）300円を好評販売中です。これは、立命館大学政策科学部の森浩之教授の講演をもとにレジメと解説を一体化した話題のパンフです。
　ここでは、短く要約しながら「維新八策」を読み解きください。3・11以降、「新しい日本の政治」を探求する者にとって、日本維新の会の動きを決して小さく見ないことが大事だと思います。
＊　「維新八策」で強調されているのは「自立」です。言い換えれば「自己責任」、もっといえば「自業自得」です。こうした理念に貫かれた国をつくりましょうというのが「維新八策」を貫く原理です。自治体が支援する「公助」は既得権だという考え方が強く打ち出されています。
＊　一番大事だとしているのが「統治機構の作り直し」です。「自治体の自立・責任」というのは、自分ところの仕事（福祉や教育）は自分ところのカネでやれということです。「倒産のリスクを背負う自治体運営」とありますが、これはアメリカの自治体の姿を模倣したものです。アメリカでは自治体には破産法が適用され、実際に倒産することがあります。これらを貫く理念が「分離型行政」です。
＊　「地方財政計画制度・地方交付税制度の廃止」はこの国のかたちを根本的に変えてしまう大問題です。アメリカの自治体は財政が逼迫してくると、公務員や教員をどんどんリストラしたり、住民サービスを徹底的に削減したりしますが、それは「地方財政計画制度・地方交付税制度」がないからなのです。
＊　「消費税の地方税化」については、橋下さんは税率を各自治体で決めることを想定しています。しかし、それをやれば何が起こるのかというと、各自治体とも自分のところで消費してもらおうとして税率の引き下げ合戦を繰り広げることになります。たとえば税率の高い奈良県で買うよりも低い京都府で買った方がよいといったことが起こる。そうなると、各自治体はどんどん税率を引き下げていくことになり、結果的には税収全体がしぼんできます。すると、各自治体は住民サービスを次々と削っていかざるをえなくなってしまいます。こうして実現されるのが「小さな政府」の姿です。
＊　公務員制度改革では「大阪府・市職員基本条例をさらに発展・法制化」することが強調されています。大阪の条例では、過員整理や民営化・一部事務組合等による分限免職、相対的人事評価に基づく処分といった恐ろしい規定が盛り込まれていますが、それを全国に広げるというのです。「内閣による人事権の一元化」とは、言い換えれば政治家が人事権を持つということです。これとの関連で「管理職の内外公募制」「次官・局長級幹部の政治任用」をとらえれば、政治が行政を完全に支配してしまうことになり、国家そのものが崩壊するのではないかと背筋が寒くなります。やはり、組織でもまれてきた公務員によって運営される官僚制度は重要だと思います。
＊　教育改革でも、「自立する個人を育てる」「グローバル人材を育成」など、大阪府や大阪市でつくられてきた教育理念が柱にすえられています。基本方針としては、「教育委員会制度の廃止」が掲げられ、政治が教育を統制するという方向性が示されています。昨今のいじめ問題に対する教育委員会の対応のまずさがこうした流れを加速させていますが、教育の自律の大切さをもう一度冷静に検証することが必要です。
＊　社会保障制度改革は「真の弱者を徹底的に支援」「受益と負担の明確化」の理念のもとに、厳しい施策が進められようとしています。「自助・共助・公助の役割分担を明確化」を進め、「社会保障給付費の合理化・効率化」つまり社会保障の抑制が企図されているとみることができます。なかでも特徴は、生活保護に対する強い締め付けがみられることです。
＊　経済政策については小泉構造改革から橋下・維新の会にいたる、「競争力強化」「自由経済」に象徴される新自由主義の流れが明白に示されています。「規制緩和」「TPP参加・FTA拡大」なども同じ方向性です。これらはグローバル企業に貢献する国家改造を推し進めるものであり、日本経済の大部分を支える内需とそれを生み出す社会経済構造の重要性が軽視されています。
＊　雇用政策もそうした流れに奉仕するものとして位置づけられ、「解雇規制の緩和を含む労働市場の流動化」つまり労働者のリストラをやりやすくするという政策方針はその最たるものです。「徹底した就労支援」という言葉も付いていますが、ではこれまでの政府や自治体による就労支援は徹底していなかったのか、それならば具体的に何をどう徹底していくのかが示されなければ、解雇規制の緩和は単なるリストラ推進策になってしまいます。「正規雇用・非正規雇用の格差是正」も正規労働者の労働条件を引き下げることを意味しているととらえる方が自然でしょう。
＊　昨今の中国や韓国などとの領土問題をめぐる政治的摩擦をきっかけに、防衛力の強化と「憲法改正」も現実味を帯びた提案となっています。

５．民主主義、市民・労働者による統治を学ぶ

　私たちは橋下市長が繰り出す強権的政治と施策に反撃しながら労働者、市民の基本的人権を守る立場から活動、共同の運動を展開して来ました。同時に、私たちは橋下徹の思想の危険性とファッショ化する政治手法に注目することから、「民主主義」、「民主主義の力」、「国家とは」、「自治体とは」、「議会とは」何かを学んで来ました。
　大阪革新懇は５月に、韓国ソウル市長である朴元淳（パク・ウォンスン）や市民運動団体、政策シンクタンク「福祉国家ソサエティ」、韓国青年ユニオン、非正規センターなどと交流を行いました。人権弁護士でありシンクタンク「希望製作所」理事である市長は、革新ソウル市づくりに燃えていました。
　就任してわずかな間に、千人を超す非正規市職員の正規雇用化、懲戒解雇職員を13年ぶりに職場復帰させることや市民参加型予算編成、公務員を大事にした市制革新計画に着手されている奮闘ぶりに感動しながら、ソウルの労働者と市民がどう共同し政治と社会を動かしている姿に、心が動きました。帰国して、整理しながら「統治能力」をもつ意義を理解することが出来ました。
　その「統治能力」のちからを視野にした活動は、社会・労働運動のなかに、青年と非正規労働者運動の捉え方と位置づけがしっかりされ、多様な労働者の組織化と差別排除を社会全体の中に位置づけ、社会活動を進めていることでした。また、大企業の社会的責任追及と市民主人公の政治運動が地域で生き、街づくり計画と住民参加の本格的なコミュニティー活動（麻浦区ソンミサンの例、保育、教育、学生支援など議員も送り出す）が地域力となっていることでした。社会と政治を動かす多様な運動の存在を認め合い、選挙に臨む態度と統治能力への蓄積（行政機関に政策者を送り込む）が革新統一戦線を発展させていました。
　橋下市長は「決定できる民主主義」「当選したら私が民意」だと言い放ちますが、これが彼の致命傷でもあります。民主主義の根幹に、数に比例した代表、議会こそが無くてはなりません。一人しかいない市長は市民全員を代表すべきであり、自分に投票した者の代表であってはなりません。ましてや議員を削減し、全体の奉仕者である公務員を減らして民主主義は成り立ちません。
　また、民主主義が生かされない国家、本来の「国家らしさ」を無くしています。しかも、アメリカ従属の外交戦略と新自由主義経済路線、民自公など主要政党が「憲法改正」の動きを強めているなか、ハシズムをファシズム化させてはならない思いです。