１）明らかにしようとしている中心点
　この国の「労働と生活」が、1990年代後半以降、劣化・異常化する一方である。本プロジェクトは、これにストップをかけるだけでなく、2025年を目途に「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」、その実現のための条件を解明し、天下に提起することを目的としている。その“提言案”を本研究所の2012年度定例総会に開示し、基本線での了承を得たところである（提言案は『労働総研クォータリー』2012年夏季号に掲載）。

２）明らかになった論点
　「人間的な労働と生活の新たな構築」のためには、(1)「雇用の安定、質の改善」、(2)「社会保障の拡充」、(3)「人間性を認め合うコミュニティの確立」が不可欠で、これを日本国憲法とディーセント・ワークを理念に実現していく――これが基本である。

３）これから解明すべき論点
　上記の(1)、(2)、(3)の実現のための“具体的な提言”を、世論形成と労働運動に実際に貢献できるように、“提言案”をブラッシュアップすることである。

４）その他
　“提言案”のブラッシュアップのため、シンポジウムの開催などを通じて、研究所内外の多くの意見を聴くことにしている。来春（２月）には、「案」の取れた「読みやすい“報告書”」（ブックレット形式）に仕上げたい。

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
・最近の賃金水準の低下要因と連合系組合の賃金実態と政策
・同一価値労働同一賃金をめぐる問題点
・春闘再構築と再生の課題

(2)年度期間中に明らかになった論点
・財界がどのような賃金体系政策を強行しようとしても、また労働組合が労使協調体制にあっても、企業の現場では、年功的賃金カーブの対応する賃金部分を置かなければ、従業員の人事管理がうまく機能しなかった。
・職務基準による設定では労働者の生活と利益を保障する観点はないから、職務給化によって貧困の問題を解決することはできない。しかも、企業別分断で正規労働者の企業内組合による賃金決定のもとでは、企業を超えた多様な格差はなくせない。そこには労働者の生活と利益保障の観点はないから、職務給化によって問題が解決することはできない。
・春闘の再生では、大企業に置ける労働組合再生が課題であり、そのためにはリストラや賃金低下に苦しむ労働者の要求を把握し、それを闘いに結びつける力量の拡大が必要である。

(3)これから解明すべき論点
・生計費原則を満たす賃金体系を考えるうえで、企業別を超えた共通水準が現実に機能していた賃金の具体的構造を、もう一度検討し直していくことが必要。
・賃金の社会的基準形成の基準として生計費原則をどのように組み込むか。
・春闘における賃金相場形成機能をどのように再生していくのか。

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
・女性非正規労働者の現状と雇用形態による差別の是正
・パート労働法・労働者派遣法・有期労働契約改定の動きと法改正要求
・雇用における性差別、とりわけ男女賃金格差是正のあり方

(2)年度期間中に明らかになった論点
・今日のジェンダー格差の大きな要因は、とりわけ女性労働者の非正規化が推し進められたことである。非正規労働者の７割は女性であり、資本の側は利潤追求のために家族的責任が重い女性労働者を安上がりな非正規労働者として最大限「活用」している。パート労働法・労働者派遣法等は実効性がなく、均等待遇実現に寄与していない。
・労働者のたたかいもあり、政府の研究会や労政審等でも労働者派遣法・パート労働法・労働契約法「改正」等が検討された。女性労働研究部会ではその内容を検討するとともに、法改正へ向けての要求を論議してきた。しかし、改定の方向は労働者・労働組合の要求に背を向け、改悪部分さえある実態である。
・均等法制定・改正により「性に中立」としてコース別雇用管理や能力・成果主義雇用管理が強まっている。長時間過密労働や転勤等を前提とした競争主義では、女性の業績評価は低く査定され、性差別は再編されている。しかし、その是正は困難が伴っている。
・「同一価値労働同一賃金原則は性差別や雇用形態差別是正の一手段として活用できるか」「仕事の価値を客観的に保障する職務評価基準・査定問題」「税制・社会保険制度とジェンダー平等」等についても研究課題としてきたが、一致した結論は得られていない。
・研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」の作業部会にかかわったメンバーを通して、ジェンダー視点からの労働時間・賃金・雇用等について、労基法や育児・介護休業法改正要求案も含めて論議した。「人間的な労働と生活の新たな構築にはジェンダー平等がカギであることを明確にし、プロジェクト全体、各作業部会においてジェンダー平等の視点をしっかり貫いてほしい」という要望書を提出した。

(3)これから解明すべき論点
・性差別・雇用形態差別の是正に向けた政策とたたかい（同一価値労働同一賃金原則、職務評価のあり方などを含む）
・民間・公務の女性労働者、とりわけ女性非正規労働者の実態と均等待遇実現への要求
・ジェンダー平等と労働組合運動
・人間らしい労働と生活（ディーセント・ワーク）の中心としてのジェンダー平等
・国の労働政策と財界の労働力政策をジェンダー視点から改めて考える
・雇用におけるジェンダー平等への世界の水準・制度

(4)その他
　男女を問わず、比較的若い女性労働問題研究者をメンバーに加えたい（男性歓迎！）。
　女性労働問題は様々な分野にかかわるので、必要に応じて他の部会との交流を望む。

(1)研究経過
　当部会では、デフレとグローバル化の進展に伴う企業の海外進出、大企業による優越的地位の濫用などによる業績悪化・経営危機のもとで、中小企業と関係単産が直面している諸問題に対処するために、計８回の研究会（うち５回は公開）を開催し、部会メンバーを中心につぎのような課題を研究して成果を共有することに努めてきた。
　研究テーマは第１に、全労連が国民的共同の重点課題と位置付ける、(1)住民本位の震災復興、(2)TPP参加反対、(3)消費税増税阻止などの課題について、中小企業労働者の立場で政策・運動の両面を解明した。第２は、アメリカの中小企業視察報告を受けるとともに、日本の中小企業の特徴や「一人親方」問題を検討して、政策課題を交流・追求した（以上は公開で開催）。
　こうした研究活動とは別に、学習の友社より中小企業労働運動（実践手引書）についての発行要請を受けて、前年度より関係単産役員の協力も受けて執筆作業をすすめてきたが、最終原稿の共同点検作業などを先行して発行させた。

(2)研究発表
　（１）学習の友社より『中小企業の未来を拓く―労働組合の課題と解決法』を発行することができた（2011年11月25日）。発行後は書籍の普及に努めるとともに、出版記念のシンポジウムを開催して60名が参加した（全労連会館・2012年１月31日）。
　（２）部会として、労働総研ブックレットNo.５『地域循環型経済への挑戦』（本の泉社）の発行を引き受けることになり、松丸、吉田、中島が執筆分担して発行した（2012年７月18日）。

(3)今後の課題
　以上の研究活動を踏まえ、今後の部会運営は第１に、大企業の横暴を規制して中小企業にはたらく労働者の賃金・労働条件改善にむけての共同研究や、全労連がめざす「雇用と社会保障を中心におく日本」をめざす運動に寄与する研究をすすめる。第２は、この間に発行した『中小企業の未来を拓く―労働組合の課題と解決法』（学習の友社）、および労働総研ブックレット『地域循環型経済への挑戦』（本の泉社）の普及に努めつつ、書籍のなかでも紹介している「中小企業・地域経済の振興をめざす」取りくみや、「東日本大震災・福島原発事故からの復興」、とりわけ中小企業・業者の事業再開と労働者の生活再建にむけての取りくみなどについて、理論面で応援していくことに努めていきたい。

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点
　ケース・スタデイの形で各国別に主要なたたかいの事例を取り上げ、闘争課題(要求)、たたかいの組織・規模・戦術、たたかいの到達点について実状の把握を期した。

(2)年度期間中に明らかになった特徴的な点
■　ギリシャの財政危機表面化をきっかけとしてEU諸国では、年金制度改悪、公務員の人員削減・賃下げなど厳しい緊縮政策が展開された。これに対し、ギリシャでの1974年以来最大のゼネストをはじめ、イギリス、ポルトガル、イタリアなど各国で激しい抗議と対案の運動が起こった。税収増のため様々な形の富裕者税が提起され一部の国では実現された。
■　新自由主義的構造改革がもたらした格差と貧困の拡大の中で、既存の労働組合とは直接の組織的かかわりをもたない市民や青年がいわゆる「占拠運動」に立ち上がったのは2011年の特徴である。スペインの「５月15日運動」をはじめアメリカの「ウオール街占拠運動」、イギリスの「ロンドン占拠運動」などがそれであるが、同様の動きはイタリアでも起こっている。
■　経済のグローバル化と新自由主義的規制緩和政策展開の中で、EU諸国でこれまで築きあげられてきた労使関係の経営側によるルール修正の攻撃が強まっている。イタリアでは産業別労動協約適用除外を容認する経営者団体と一部ナショナルセンターの協定が結ばれたり、ドイツでは産業別協約の適用を逃れる企業が増大している。同様の動きはスペイン等でも起こっている。
■　経済のグローバル化は新興工業国では、低賃金で劣悪な労働力利用の故に、労働者の時には暴動の形さえとるような激しい抵抗を引き起こしている。その典型はインドのマルティ・スズキのたたかいである。このたたかいの背景には、月収が正規工の1/3にすぎない契約工 (日本の派遣にあたる) の不満や労働者の声を反映しない会社組合への反発、会社による自主的労働組合否認などの事情があると言われている。同様の状況は先進国の多国籍企業が進出している他のアジア諸国でもみられる。
■　中道左派政権等による貧困克服、反新自由主義的経済政策によって、貧困層の減少・最低賃金の引き上げ等の結果、内需主導の経済成長が実現しつつある。例えば、ベネズエラでは、チャベス政権のもと330万の新規雇用が創出され、失業率は1999年の15.6%から2011年には8.6%まで下がった。最低賃金は、2011年には26.5%引き上げられた。

(3)これから解明すべき論点
　ひきつづき2012年の世界の労働者のたたかいの動向を調査・研究する。とりわけ、フランスなどに見られる反緊縮政策の動向に注目したい。

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
　全労連が2011年11月19〜21日に政策検討集会をおこなう内容のうち、部会にかかわる課題の検討から入ろうとしたが、実態としては研究所プロジェクトの「心身の健康」作業部会、「時間的ゆとり」作業部会の進展とその原稿の検討が中心となった。中心課題は過労死・過労自殺絶滅、ただ働き残業絶滅、ILO労働時間関係条約の批准促進などである。

(2)年度期間中に明らかになった論点
　過労死・過労自殺問題で少しだが前進が記録された。厚生労働省が精神障害による過労死問題で新基準を決め（2011年12月26日）、学生や若者の自殺の急増に対して独立行政法人「国立精神・神経医療研究センター」のワーキンググループが見直しを提言、自殺対策をめぐる国と地方自治体の役割明確化や、個人の生活環境を踏まえたきめ細かな対策の必要性などを指摘、警察庁もこれにこたえての見直しを６月に決めている（結果は未確認）。

(3)これから解明すべき論点
　引き続き(1)の課題を追求するが、成績主義の行き着く先がパワハラによる解雇強要、これを合法とする、解雇自由化の裁判結果が続出していることへの労働時間問題、健康管理問題の両側面からの研究が求められている。

(4)その他
　部会メンバーの強化が必要になっている。一方でメンバーの高齢化が進み、もう一方で多忙のメンバーが増えており、補強が避けられない状況がある。来季の大きな課題となる。

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
　１) 新設の研究会ということもあって「労働組合運動の現状と再生・強化の展望―組織問題を中心に」という融通のきくテーマ設定で、現状認識と問題意識の交流から始めたが、おのずと「日本の産業別組合組織」をどう理解するかが主題となった。
　２) 前年度の単産研究を継続（全金―JMIU、港湾労働運動、医労連）するとともに、全労連、純中立労組懇談会、MIC加入の24単産の協力で単産機能調査を実施した。単純粗集計を終えた段階だが、これら単産の多くが、組織人員の減少、高齢化、統一闘争の後退、後継者問題などの困難に直面しながら、組織の拡大強化を最重点課題として位置づけながら、これら困難の打開へ向けさまざまな挑戦を試みていることが明らかになった。
　３) 年度の後半には、連合の産業別組織調査（発足時と10年後の２回）、日本の産業別組合研究における論点と課題、労働市場規制と労働組合（付・労働組合運動再構築への視点）などの報告と討論を通じて、（少なくとも私にとっては）労働組合運動再生・強化の展望に「組織問題を中心に」接近するという研究部会発足時の問題意識を再吟味する機会になった。以下は、その点に係っての私見を多く含む論点整理の試みである。

(2)年度期間中に明らかになった論点、これから解明すべき論点
　１) 日本の労働組合運動も、孤立した企業別組合によって担われているわけではない。企業別組合の多くは、産業別組合組織に加入し、ナショナルセンターやその地方・地域組織に結集している。日本の労働組合運動を担っているのは、ナショナルセンターを頂点とし、事業所・職場組織に基礎をおく、これら各層組合組織の複合体である。
　２) 労働組合組織のこうした重層構造において、どのレベルの組織が主導的であるか、各レベルの組合組織の相互関係がどのようであるかは、国や時代によって異なる。ある国の経験からより良く学ぶためには、この点をしっかりふまえた議論が必要であろう。
　３) ある労働組合が、職場の労使関係や社会的国民的課題において、労働者・組合員の利益の擁護者としてどのような力を発揮するかは、その組合の組織的力量だけでなく、その組合のリーダーシップ、組合観（組合思想）がどのようなものかによって左右される。労働組合運動における「潮流」の今日的視点での研究が必要ではないか。
　４) これまでの企業別組合組織の多くは、規約や慣習により、組織対象を正規雇用の従業員に限定してきた。こうした閉鎖性を克服することは喫緊の課題である。この課題をどのような組織改革で実現するかは多様であり、現にさまざまな挑戦が行われている。
　５) 産業別組合組織が連合体であるか単一組織であるかによる異同は、日本の産業別組合組織が果たしている、果たしてきた、果たしうる役割において検証されるべき問題である。
　６) 組織論的アプローチは、賃金や労働時間、社会保障などの要求・政策論と密接に関連しており、運動論はもとより、要求・政策論を視野に入れた組織問題の研究が必要である。
　７) 反原発・脱原発運動の爆発的な広がりを始めとする新たな質を持った「一点共同」の前進は、労働組合研究にとっても多くの刺激的な問題を提起しているように思われる。

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
　労働総研と全労連が共同編集している『国民春闘白書』の内容充実と春闘の前進を図るための政策提言が、本研究部会の第一義的課題である。
　本研究部会は、『国民春闘白書』を、春闘に役立つ統計データブックとして一層の充実をはかるために、部会メンバーは、年間を通して、日本経済、労働者家計と賃金、雇用、働くルール確立などにかかわる資料を収集・分析し、その成果を『国民春闘白書』に反映し、全体として関係者から歓迎されている。
　『白書』の編集にかかわって本研究部会が力を集中しているのは、(1)労働者状態にかかわる統計の全体的分析、(2)企業の内部留保・企業分析と日本経済のマクロ的な研究を進め、労働者の要求を実現することが、低迷する日本経済の活性化にも必要不可欠であることを明らかにすることをとおして、春闘に国民的大義があることを明らかにすることである。
　もう１つ、重視しているのは、産業連関分析を活用して種々の政策提言を行うことである。内部留保と各種統計データを活用しての産業連関をもちいてのさまざまな試算を行うことによる政策提言を重視していくことにしたい。

(2)年度期間中に明らかになった論点
　▽『国民春闘白書』2012年版では、大企業の「国際競争力」強化論の欺瞞を明らかにするなかで、内部留保についての歴史的分析をおこない、日本経済停滞の要因の一つが、大企業の異常な内部留保のため込みであることを解明し、内部留保を労働者の賃上げ、労働条件の改善のために活用することが内需重視・生活改善型の日本経済に転換するうえで、不可欠の課題になっていることを明らかにした。
　▽内部留保の活用をめぐって、産業連関分析を重視し、春闘提言、最低賃金時給1000円への引き上げ、消費税増税などの塁手の政策提言をまとめ、それぞれの運動の発展に寄与することができた。労働組合運動の焦点の課題とかみ合った政策提言を重視することが今後とも重要になっている。
　▽フランスやイギリスの働くルールや社会保障の現状について、単なる制度・ルールの比較にとどまらず、それをどのように労働者が活用しているかという点にまで踏み込んだ解明を行うと同時に、そうした制度・ルールがどのようなたたかいによって確立してきたかを歴史的に分析することによって、日本の労働運動が学ぶべき教訓を明らかにした。

(3)これから解明すべき論点
　引き続き統計データの収集・分析、労働組合のたたかいに役立つ、産業連関分析を活用した政策提言、内部留保分析などを重視することにしたい。

(4)その他
　『国民春闘白書』の執筆はもちろん、『労働総研クォータリー』、労働総研ブックレットなどに研究成果を発表することを意識的に追求する。

　関西圏産業労働研究部会ではここ数年、(1)現代資本主義や社会政策、労働問題の全体像にかかわる文献の評価、(2)若手研究者の研究報告にもとづいた不安定就業問題の様相と論点についての議論を中心に研究会運営を行っている。
　2011年度もこのあり方を踏襲し、計10回の研究会を開催し、以下の10本の報告について検討してきた。

(1)今年度の研究会で行われた報告テーマ
　(1)2011年７月２日a.「ドマジエール・都留民子の失業・雇用政策について」（丹下晴喜）、b.「大阪の若者非正規雇用問題について」（伊藤大一）。(2)９月24日a.「書評：浪江巌『労働管理の基本構造』１〜４章」（植木洋）、b.「愛媛における連合加盟の労働者像―愛媛県労働者福祉協議会アンケートから―」（丹下晴喜）。(3)11月19日a.「フランスの政治・社会状況について」（森脇丈子）、b. 書評：浪江巌『労働管理の基本構造』（全体総括）」（植木洋）、(4)2012年１月21日a.「日本の労働運動の現状をどう見るか」（戸木田嘉久）、b.「労働総研共同研究についての報告」（伊藤大一）。(5)３月３日a.「ユーロ圏における財政と金融の問題状況について」（丹下晴喜）、b.「外国人労働者への労務管理―自動車部品メーカーを例に―」（植木洋）。

(2)研究会で明らかになった論点
　今年度の研究会で取り組んだこととしては、まず、ヨーロッパ危機の現状 (5a)のなかで、ドイツとフランスの資本主義がどのような経済社会を構成しているのか（1a.3a.5a.）というテーマであった。フランスがその歴史的過程のなかで福祉国家的な雇用・失業政策、社会保障政策を形成してきている点、ドイツがEU統合のなかで南部を収奪する資本蓄積に成功し、分厚い中間層を維持している点などが明らかになった。
　また、若手研究者の研究支援としては、労務管理の理論を学ぶ（2a. 3b.）とともに、公表論文執筆に向けた素材の検討（5b.）を行った。このなかで90年代以降生産現場に流入した日系人労働者に対する労務管理の様相と特徴が明らかになった。
　その他、雇用の多様化に対応した労働者像にかかわる研究の報告（1b. 2b. 4b. ）、労働運動の戦後と現状を総括する報告（4a.）もあり、総じて盛況な研究会であったと思う。

(3)来年度における研究会の課題
　まず若手研究者に対する研究支援であるが、来年度は査読論文を執筆予定の院生、著書執筆の若手研究者に対する支援を通じて、その分野の研究の到達点について確認をしたい。
　第２に、ヨーロッパにおける労働問題、社会政策の現状・到達点を把握する研究をすすめるとともに、それとの関連で日本における労働問題、社会政策がどのような課題をもっているかを明らかにしていきたい。特に若者の現状とそれに対する社会政策について批判的に検討していきたいと思う。
　最後に、関西圏産業労働研究部会の会員拡大のために、これまで声が掛けられていなかった関西の研究者にも研究会への参加を依頼し、部会を盛り上げていきたいと思う。

　英語で海外に発信する能力を、全労連の運動として向上させるために2005年３月より毎月２回のペースで開いている。国際活動にかかわっている労働組合の専従活動家を中心に学んでいるが、全教などあらたな参加者も迎えた。現在登録14人で出席は常時６〜10人、毎回出される和文英訳の課題を「宿題」としてやり、教室での批評・研究をつうじて、英語文を書くうえでの基本を学ぶことを重視している。扱う内容は、労働運動にかぎらず、政治、経済、福祉、外交などあらゆる分野の、論評、インタビュー、エッセーなどを幅広い材料を対象とし、基礎力をつけることを重視しており、参加者は上達している。英文を書く力をつけるうえで欠かせない「英語を読む」ことにも重視し、よくわかる文章とは、どういうものかを学んでいる。今後は、英文「労働総研ジャーナル」掲載論文等の英訳を実践的にとりあげる。

（この１年で取り上げた和文英訳課題文）

2011年

９月−１　「『公務員バッシング』横行の社会構造と打開の課題」
９月−２　福島原発事故は、科学者の責任をあらためて問い質している
10月−１　原水爆禁止運動の中で被爆者の役割
10月−２　TPP＝環太平洋経済協定を慎重に考える国会議員の会合
11月−１〜２　野田路線は民意への真っ向からの挑戦。早晩行き詰まらざるをえない
12月−１　国連人口基金（UNFPA）が発表した2011年版「世界人口白書」
12月−２　野田政権が、12月10日で発足から100日

2012年

１月−１　英科学誌ネイチャー、注目を集めた10人の１人に児玉教授
１月−２　原発の寿命が、法律に明記されることになった
２月−２　通常国会が開会し、野田首相が初めての施政方針演説
３月−１　イスラエルがイランの核施設への攻撃も辞さないと警告
４月−１　AIJ投資顧問が企業から預かった2000億円規模の資金の大半を失っていた
４月−２　原爆の投下で大勢の人が人間とは思えないような状態でむごたらしく死んだ
５月−１〜２　NHK放送文化研究所シンポジウム「メディアは福島にどう向き合うのか」
６月−１　この春卒業した高校生の就職率
６月−２　沖縄では、オスプレイ配備中止を求める県民運動がいよいよ激しさを増している
７月−１　「2012年原水爆禁止国民平和大行進」が長崎市の平和公園を出発した
７月−２　ロンドン五輪の開幕、オリンピックの将来像

　2012年８月４日、東京都文京区・全労連会館において、労働運動総合研究所2012年度定例総会は開催された。
　午後２時、大須眞治事務局長が、規約第22条により本総会は有効に成立しているとして、開会を宣言した。
　事務局長が議長に金田豊理事を、議事録署名人に議長及び中嶋晴代常任理事、天野光則理事の２名を諮り、全員異議なく選出した。
　議案の審議に先立ち、この１年に逝去された会員への哀悼の意を表し、出席者全員で黙祷をささげた。続いて、小越洋之助代表理事が主催者挨拶をおこなった。次いで、藤好重泰全労連副議長から来賓挨拶をいただいた。
　議事に入り、「2011年度における経過報告」について藤田宏事務局次長より報告、次いで「2011年度会計報告」について事務局長より、また、「2011年度監査報告」について渡辺正道監事より報告された。
　これらの案件については、全員異議なく承認された。
　続いて、「2012年度方針案」の「研究所をめぐる情勢の特徴」が、事務局次長より理事会による一部補強を含めて提案された。次いで「2012年度事業計画」および「研究所活動の充実と改善」について、また「2012年度予算案」が、事務局長より提案された。
　討論の最初に、研究所プロジェクトについての報告を牧野富夫代表理事がおこない、今回「提言（案）」としてまとめた研究所プロジェクトについて、シンポジウムなどを開催し、全労連をはじめ広範な労働組合、研究者、関係諸団体から幅広く意見をつのり、来年初頭には、より充実した内容で最終的に「提言」としてまとめることが提起された。
　討論では８人が発言した。主な論点は以下の通り。
　「提言（案）」とかかわって、(1)現在の状況が家族と生命の再生産が危機に陥っているとの現状認識から出発することが重要、(2)民間大企業労組について「労使一体」路線を取っていると規定しているが、きめ細かい具体的事実にもとづく分析をする必要があるなどの意見が出された。「研究所をめぐる情勢の特徴」については、方針案をより正確な内容にする立場からの補強意見が活発に出された。その内容は、(1)大企業労組について、労使一体と「労使一体」という２つの規定があるが、「労使一体」に統一すべき、(2)安保問題はオスプレイや沖縄基地問題にとどまらず、原発問題をふくめさまざまな問題と関連していることが明らかになりつつある、(3)安保問題でいま重要なことは、安保を問い直すことを国民に訴えることにとどまらず、安保廃棄を正面に掲げることが大切になっているなど。
　労働総研の活動とかかわっての議論では、(1)財界・大企業の労務政策、(2)与党化した連合、純中立組合の動向、(3)最近のリストラ首切り攻撃の特徴などについての研究・分析をすすめることの重要性が強調された。
　討論をふまえ議案を一部補強することとし、「2012年度方針案」および「2012年度予算案」は全員一致で承認された。

　なお、補強部分は「労働総研ニュース」2012年７・８月号の以下の箇所。
　＊３頁右段下から10行　空前の抗議行動→空前の抗議行動が連続しておこなわれ、さようなら原発10万人集会が17万人の参加で成功する
　＊３頁右段下から７行　首相官邸前抗議行動→これらの取り組み
　＊４頁右段19行　非正規雇用→格差的低賃金と雇用が極度に不安定な非正規雇用
　＊８頁左段23行、９頁右段下から４行　労使一体→「労使一体」
　＊９頁右段４〜５行　この背景にある日米安保体制を問いなおす国民的な運動を目的意識的に強化することが重要→この背景にある日米安保条約を廃棄する国民的な運動を目的意識的に強化することが重要であり、そのために少なからぬ安保容認の国民に対し「安保を問う」といった働きかけが必要。
　＊12頁右段７〜８行　少なくない→広範な
　＊同14〜15行　「民主的規制」をおこなうことも重点課題→「民主的規制」をおこなうことはもっとも重要な課題の一つ
　＊同17-18行　法定標準労働時間の遵守→法定標準労働時間の短縮（週35時間制の実現）と遵守

　次に、事務局次長より、2012〜2013年度の新役員名簿（理事・監事）が提案され、全員異議なく承認された。
　総会は一時休憩し、理事会が開かれ、理事の互選により、代表理事および常任理事が選出された。また、常任理事会より顧問が推薦され、代表理事によって事務局長・事務局次長が任命されたのち、総会が再開され、熊谷金道代表理事より、代表理事および常任理事の選出、顧問の推薦、および事務局長、事務局次長の任命について報告された（新役員名簿は14ページ参照）。
　最後に、牧野富夫新顧問より、閉会の挨拶がおこなわれ、総会における決議事項がすべて終了したので、金田議長より議長解任の挨拶がおこなわれた。
　以上で、2012年度定例総会の全日程は終了した。閉会は午後５時であった。
　なお、閉会後、懇親会がなごやかにおこなわれた。

〈理事〉
　　相澤　與一（高崎健康福祉大教授）
　　相澤　幸敏（日本医労連）
　　天野　光則（千葉商科大名誉教授）
　　一ノ瀬秀文（大阪市大名誉教授）
　　伊藤　大一（大阪経済大准教授）
常 井上　　久（全労連事務局次長）
　　上野　邦雄（労働問題研究者）
　　内山　　昭（京都成美大教授）
　　宇和川　邁（労働問題研究者）
代　大須　眞治（中央大教授）
　　岡田　則男（ジャーナリスト)
　　尾形　佳宏（労働問題研究者）
　　岡部　勘市（国公労連）
　　小川　政亮（日本社会事業大名誉教授）
代　小越洋之助（國學院大名誉教授）
常　小澤　　薫（新潟県立大講師）
　　鬼丸　朋子（國學院大教授）
　　角瀬　保雄（法政大名誉教授）
　　勝村　　誠（立命館大教授）
　　上条　貞夫（弁護士）
　　金澤　誠一（佛教大教授）
　　金田　　豊（労働問題研究者）
常　唐鎌　直義（立命館大教授）
代　熊谷　金道（元全労連議長）
　　黒田　兼一（明治大教授）
常　小池　隆生（専修大准教授）
常　伍賀　一道（金沢大教授）
　　木暮　雅夫（日本大教授）
　　小林　宏康（労働者教育協会）
常　近藤ちとせ（弁護士）
常　斎藤　隆夫（群馬大名誉教授）
　　斎藤　 力（労働問題研究者）
常 斉藤　寛生（全労連常任幹事）
　　桜井　　徹（日本大教授）
常　佐々木昭三（労働者教育協会）
　　佐藤　嘉夫（岩手県立大名誉教授）
　　柴田　徹平（中央大大学院生）
　　下山　房雄（九州大名誉教授）
　　清山　　玲（茨城大教授）
　　芹沢　寿良（高知短大名誉教授）
　　高木　督夫（法政大名誉教授）
常　丹下　晴喜（愛媛大准教授）
　　辻岡　靖仁（労働者教育協会）
常　中澤　秀一（静岡県立大短期大学部講師）
常　中嶋　晴代（女性労働問題研究者）
　　中島　康浩（労働総研）
　　永山　利和（日本大教授）
　　西村　直樹（金属労研事務室長）
常　浜岡　政好（佛教大教授）
　　浜林　正夫（一橋大名誉教授）
常　原冨　　悟（元埼労連議長）
　　久野　国夫（九州大教授）
常　日野　秀逸（東北大名誉教授）
常　藤田　　宏（労働総研）
常　藤田　　実（桜美林大教授）
　　藤田　良子（自治労連）
　　松丸　和夫（中央大教授）
　　宮崎　牧子（大正大教授）
　　宮寺　良光（岩手県立大講師）
常　村上　英吾（日本大准教授）
　　八幡　一秀（中央大教授）
　　吉井　清文（関西勤労者教育協会会長)
　　吉田　敬一（駒沢大教授）
　　吉田　健一（弁護士）
常　萬井　隆令（龍谷大名誉教授）

〈監事〉
　　谷江　武士（名城大教授）
　　渡辺　正道（全労連事務局次長）

〈顧問〉
　　内山　　昂（元国公労連委員長）
　　大木　一訓（日本福祉大名誉教授）
　　黒川　俊雄（慶応大名誉教授）
　　戸木田嘉久（立命館大名誉教授）
　　牧野　富夫（日本大名誉教授）
〈事務局長〉
　　藤田　　実
〈事務局次長〉
　　藤田　　宏