（うちだ　かずひで・会員・札幌大学経営学部）

格差是正で人間らしい労働と生活を ――「世界の労働者のたたかい」2012年の概観 ―― 斉藤　隆夫

リーマンショック以降の世界経済は、2010年若干の回復傾向をみせたあと、2011年にはふたたび景気後退へと向かった。先進工業国が前年の3.1%から1.6%へとGDP成長率をほぼ半減させたばかりでなく、新興工業国も成長率を下げた。こうしたなか、EU諸国では、財政危機がギリシャの債務危機表面化をきっかけとして、ポルトガル、スペイン、イタリア等へと波及し、各国政府は年金制度改悪、公務員の人員削減・賃下げなど大規模な緊縮政策を打ち出した。欧州諸国の労働組合は活発な抗議と対案活動を展開した。また、既存の労働組合と直接には組織的関係を持たない市民・青年層が、新自由主義的政策がもたらした格差と貧困に抗議して、欧州の幾つかの国やアメリカで、「占拠運動」に立ち上がった。
　政治的には、６月のポルトガルを初めとして、ギリシャ、イタリア、スペインで相次いで政権交替が起こった。従来の政権が取ってきた新自由主義的政策は国民によってノーの審判を受けたのである。格差と貧困の拡大が金融・財政危機のもとで、短期の投機的金融取引への課税など新しい形の税を含めてさまざまな富裕者増税策の検討・登場を促したのも2011年の特徴であった。
　新自由主義的規制緩和政策は、労使関係の分野でも一定の頓挫を経験した。アメリカ・オハイオ州では公務員の団体交渉権の制限、イギリスでは鉄道労組のストライキに対する中止命令、イタリアでは産業別労働協約空洞化の攻撃などがなされたが、成功しなかった。だが、他方で、解雇規制緩和の動きが、IMF等国際機関の圧力のもと、政権交代の起こった国ぐにのほかイギリス等でも、強まっている。

■　緊縮政策反対・格差是正のたたかい

　金融・財政危機はEU各国で緊縮政策の一層の強化をもたらした。ギリシャでは、公務部門労働者削減のための「労働者予備制度」( 公務員3万人を「予備人員」として職場から排除し、次の仕事を見つけなければ解雇する ) や年金削減などを内容とする「緊縮政策」法案が、10月、強行可決された。イギリスでは、現在60歳の国民年金の支給開始年齢を、2020年4月までに66歳に引き上げる計画が策定された。フランスでも、年金支給開始年齢の60歳から67歳への段階的引き上げ法が成立した。ポルトガルでは、財政危機回避のため、欧州中央銀行からの融資と引き換えに前政権が調印した「了解覚書」には、財政政策、金融部門の規制と監督、労働市場と教育など多面にわたる改革要求が含まれていた。労働市場改革分野では、失業保険手当の最長受給期間の短縮なども挙げられている。
　こうした緊縮政策に対して、各国の労働組合は大規模なたたかいを展開した。1974年以来最大のゼネストを含む数次のストライキに立ち上がったギリシャを初めとして、３年ぶりに三大労組が統一して３時間のストライキに取り組んだイタリア、24時間のゼネストを実施したポルトガル、「過去30年で最大」と報じられたイギリス公務員の年金改悪反対のストライキなど、労働組合の抗議のたたかいが激しくたたかわれた。欧州労連も「欧州の将来は緊縮政策、不安定性、社会的退歩を土台として築くことはできない」として、参加各組合に行動の強化を呼びかけ、10〜12月には、約20ヵ国で各国ナショナルセンターによる全国的行動が実施された。
　労働組合とは直接の組織的かかわりを持たない多様な組織 (なかにはパブに集まった12人の市民によって結成されたイギリスの「アンカット」などもある) に拠る人々が、国によって要求内容も多様で既存組合組織との関係も様々であるが、ほぼ共通して、格差と貧困の拡大に抗議し、富裕層への増税を求める動きが広がったことは、2011年の特徴的動きであった。
　スペインの「５月15日」運動、アメリカの「ウォール街占拠運動」、「ロンドン占拠運動」などがそれである。アメリカのそれは、１%の超富裕層が米国の富の２割余を独占していることの不合理や、増大し続ける貧困と失業に苦しむ「99%」の人々の現状にたいして抗議の声をあげたものだった。従来いわゆるミドルクラスの労働組合員の労働条件改善の協約交渉にもっぱら集中してきたAFL-CIOはじめほとんどの労働組合組織がこの運動に賛同し、多くの労組メンバーが参加した。アメリカ労働組合運動の新しい発展可能性を示すものといえよう。
　あわせて、主として青年層の失業・不安定雇用、貧困、無権利に対する抗議の運動や暴動がイタリアやイギリスで起こっていることも注目される。イタリアのそれは、港湾、大学、ジャーナリズムなどの分野で不安定雇用形態で働く青年たちが「不安定労働者委員会」等を組織し、“われわれの時代は今だ” というスローガンのもとに、集会・宣伝活動等を行ったものである。安定した仕事や社会保障の権利をもたず、家族・住宅すら持つことを展望し得ない青年層が“もはや我慢したり、待っていたりする時ではない” として声を挙げたのである。集会の企画や組織にCgilの青年部門担当者も加わってはいたが、組織化の主な主体は先述のような微小な自主的組織であった。
　こうしたたたかいの高揚のなか、６月のポルトガルを初めとして、ギリシャ、イタリア、スペインで相次いで政権交替が起こった。従来の政策では欧州諸国を襲った金融・財政危機を打開する事は不可能となっていたのである。すでに述べた労働組合や多様な市民・青年の組織に依拠した運動は財政危機打開と格差是正のため、短期の投機的金融取引への課税や大資産課税を要求として掲げていたが、こうした税収構造の抜本的改革なしには欧州水準の福祉国家の維持は困難になっており、現実にフランス、イタリア、スペインなどでは富裕層への増税策が登場したのも2011年の特徴である。同様の施策はアメリカ、オーストラリアでも検討されている。オーストラリアのそれは、財政健全化策の一環として、石炭・鉄鉱石の売り上げ利益が年間7500万ドルを超える採鉱事業を対象に30%の税を課す「鉱物資源利用税」で、「ビリトン」、「リオ・ティント」、「エクストラータ」の三大企業から同税の大半を徴収するものと予想されている。

■　解雇規制・不安定雇用改善のたたかい

　景気後退による失業率の高まりのなか、解雇規制措置緩和の動きもいくつかの国で起こった。イタリアでは「労働者憲章法」18条の修正措置 ( 不当な解雇の原職復帰規定の適用企業規模を引き上げる ) を含む経済施策が提案され、スペインでは経営者と従業員代表組織が合意すれば、従来必要であった労働当局の承認なしに集団的解雇が可能となる新法が準備されており、イギリスでも、「雇用裁判所」の訴訟システムを企業に有利に改悪する動きがでている。不当解雇の申し立てができるのに必要な就労期間はこれまでは１年であったのを、2012年から２年に延長するというものだった。ポルトガルでは、財政危機打開のため欧州中央銀行から融資を受ける条件として前政権が承認した「覚書」に、「職場への新テクノロジー導入」等の際の個別解雇を可能とする事項が含まれていた。
　一方、フランスでは、若年者や長期失業者を主な対象として、新たな雇用政策が発表された。従業員250名以上の企業に対して、職業訓練を受けながら就業する従業員が総従業員に占める割合を４%以上とする政策である。４%未満しか雇用していない企業には制裁金を課すというものだった。ドイツ・IGメタルでも、鉄鋼産業で働き始めた職業訓練職の若者に、訓練職期間終了後も継続して雇用する保障がたたかいによって勝ちとられている。
　労働者の大量解雇が問題となっていたドイツ・オペルでは、2011年、ようやくボッフム工場事業所評議会と会社側とが合意に達した。合意の中身は、人員削減1800人の計画を中止し、代わりに600人の希望退職を募る。うち300人は他工場に転勤も可能というものだった。ドイツ・エアバスでも工場移転・派遣労働者解雇計画反対のたたかいが取り組まれた。計画は、ドイツの一部工場を閉鎖してフランスに移転する、景気変動に応じて派遣労働者を解雇するというものであったが、警告ストのあと合意に達した。2020年までドイツの４工場立地維持・雇用保障のほか派遣労働者の均等待遇・全労働者に占める割合を20%とするなどが合意内容であった。
　オーストラリアの主要航空会社、カンタス航空は新しい格安航空会社「ジェットスター・ジャパン」設立を中核とする経営見直し５ヵ年計画を発表したが、同計画は客室乗務員・パイロット等1000人の人員削減を含んでいた。職種別各労組はこの計画にいっせいに反発を強め、一部労組はストライキに突入した。これに対し会社側は、国内・国際線全便の運行即時無期限停止を発表し、労働者をロックアウトした。予約客約1万3000人に影響がでるなか、仲裁機関はストの終結と会社側への運行開始・ロックアウト撤回を命じた。今後、紛争が決着しない場合は、同機関による強制的仲裁が発効する。ニュージーランドでは、雇用開始から90日間の解雇に対する不服申立権を奪う解雇法制改悪が実施となった。これに対応して組合は「TOGETHER」という名の新組織を結成した。小売や建設など組織率の低い分野の非正規・青年等を重点的に組織化することを目的とする組織だった。
　韓国造船業・最大手の韓進重工業では、影島造船所の閉鎖・労働者400人の希望退職募集が通告されたが、一人の女性の「空中篭城」(造船所クレーンの高さ35メートルの操縦席での篭城) とそれを支援する「希望バス」運動によって、解雇者の一部を１年以内に再雇用する労使合意が形成された。チリ・コヤワシ銅山でも、解雇をめぐる争議で、会社側から当初予定数を減らす譲歩を得て、前年来の争議は終結した。
　アメリカでは、オバマ政府が「雇用促進法」を提案した。公立学校の教員増や道路・橋梁などの建設・改修事業で労働者を雇用した企業への減税措置などを含むプログラムであった。ベネズエラのチャベス革新政権は住宅建設事業による30万人を初めとして、今後８年で350万人を正規雇用に就業させるプログラムを発表した。同政権はこれまでも積極的な雇用創出政策を実施しており、失業率は1999年の15.6%から2011年３月には8.6%に低下している。
　イギリスでは、2011年10月１日から、派遣労働者規則が施行された。それによれば、派遣労働者は就業開始から12週後、賃金、休暇、休息などについて、派遣先労働者と同等の権利が保証される。派遣労働が拡大し問題化していたロシアでは、２つのナショナルセンターの共催・ITUCなどの後援で「労組は安定した雇用を目指す。派遣労働はロシアの安定への脅威だ」と題する国際シンポジュウムが開かれた。「不安定雇用の最悪形態である様々な派遣労働の完全禁止にむけて、新たな幅広いキャンペーンをスタートさせる第一歩」とされた。FNPR副議長・イサエフ下院議員は、同議員らが提出した「派遣労働禁止法」案が下院第一読会で採択されたことをうけ、「派遣労働だけでなくヤミ雇用、労働協約なしの雇用を根絶し、雇用者の労働者に対する責任を果たさせることが目的だ」と述べ、法案成立を呼びかけた。

■　賃上げ・最低賃金引き上げのたたかい

　欧州金融危機が進行するなかでも好調な景気動向を見せたドイツでは、積極的な賃上げ運動が展開された。2011年の労働協約交渉では、労組側は５〜７%の賃上げを要求し、平均３%の賃上げを実現した。賃上げが実現されたのは、鉱山・化学・エネルギー部門、建設部門などで、とりわけ公務部門では、２月末、教育科学労組、警察労組、大学病院などの教員・職員が警告ストを実施し、その後も州レベルでの警告ストが相次いで実施された。当初ゼロ回答だった州側は、この圧力のなか、譲歩し、２年間でほぼ５%の賃上げとなった。
　アルゼンチンでは、インフレ率20%のなかで、多くの部門で賃上げ要求のストライキや道路封鎖の実力行使が行なわれた。ブラジルでも重工業、サービスなど多くの部門で賃上げ要求のストライキがたたかわれ、石油・自動車・銀行部門で９〜10%の賃上げが実現した。南アフリカでも、金属労組と鉱山労組が4.3% ( 2010年 ) のインフレのなか、10% 前後の賃上げを勝ち取った。インドネシアでは、西パプア州の多国籍鉱山会社で労働者が３ヶ月に及ぶストライキを実施、２年間で37%の賃上げを獲得した。
　最低賃金制についても前進がみられた。EU拡大に伴い賃金の安い東欧諸国などの労働者が流入したり、労働協約が適用される労働者の比率が減少するなか、単純労働分野などでの賃金ダンピングが進み、問題となっていたドイツで、メルケル内閣は派遣労働者に最低賃金を導入することを決めた。最低賃金の引き上げはイギリス、オーストラリア、アメリカ・カリフォルニァ州サンフランシスコ市、ベネズエラ、ブラジルでも実行された。ネパールでも、主要三労働組合と雇用者側の間で調印された最低賃金等に関する取り決めが、政府によって承認され、アルゼンチンでも25%の最低賃金引き上げが審議会で合意された。タイでは、政府がバンコクなどで最低賃金を４割引き上げると発表したが、内外企業からの見直し、執行延期の圧力がかかっている。

■　労使関係改善のたたかい

　労使関係の分野では、アメリカで注目すべきたたかいがあった。オハイオ州知事が労働側となんの相談もなく公務労働者の団結権をうばい、組合費を集めることもストライキをおこなうことも制限する法律を成立させた。労働組合や地域運動、住民からの強い反対の声を背景に、住民投票がおこなわれ、労働者側が同法廃止という大きな勝利をおさめた。また、オバマ政府は、過半数支持の存否確認のための職場投票実施のルールを改正した。さきに同政府が提出していた労働組合を自由につくる法律を制定して、手続きを簡素化する法案が廃案になったためのそれに代わる措置であった。イタリアでは、2009年以来の産業別協約「適用除外」・企業協約による労働条件規定の動きに歯止めをかける協定が経営者団体と三大労組との間で結ばれた。協定は労働条件規定における産業別全国協約の優先性を確認し、企業レベルの交渉は全国労働協約がそれに託したテーマで行われるとしていた。
　イギリスでは、ロンドンの控訴院が２つの鉄道労組のストに対する高等法院の中止命令を破棄するとの判決を出した。中止命令は投票説明およびスト通知の不備を理由に出されたものであったが、この判決によってこの国で合法的なストが事実上不可能だった状況が打開された。オーストラリアでは、鉱物資源会社「リオ・ティント」のピルバラ鉄鉱石鉱山で、労働組合に参加していない労働者グループが会社側と結んだ労働協約は法的効力がないとする連邦法廷の判決が下された。他方、ポルトガルでは、団体協約の拡張適用基準の厳格化、労使協議会が労組代表抜きで企業協定を締結できるよう産業レベルの協約等に明記するという改悪が準備されている。
　ロシア・サンクトぺテルブルクにある「ニッサン・マニュファクチュアリング・ルス」では、組合が労組幹部の解雇など数年にわたる会社の攻撃を跳ね返し、組合活動の保障に関する労使協定を締結し、労組事務所の敷地内への設置も認めさせた。韓国では、同一事業所内での複数労組結成が解禁され、12月末までに640の労組が結成されたが、その大部分は組合員数300人未満の小規模事業所で、韓国労総、民主労総のいずれにも加入していない独立労組だという。韓国労総と民主労総は急増する新労組の多くが”御用労組”だと主張している。
　コロンビアでは、依然として労働組合活動家への誘拐や殺害が続いているが、フランス・カルフールの子会社では労働組合が結成された。これは、会社側がサービス産業部門国際労働組合UNIと結んだ国際産別協定にもとづいて、企業の社会的責任の一環として受け入れたものであった。ブラジルでは、化学・エネルギー・鉱山一般労働組合国際連合 ( ICEM )と国営多国籍石油企業ペトロプラスが新たな「グローバル枠組み協定」を結んだ。これによってペトロプラスは結社の自由を認め、すべての従業員を対象にした団体交渉をおこなうことなどを明確にした。ミャンマーでも労働者の要求の高まりのなかで、民間企業労働者の組合結成、団体交渉権、スト権を認める労組法改定が行なわれた。

■　社会主義をめざす国での労働者のたたかい

　2011年は中国の第12次５ヵ年計画の初年度だった。この「計画」のキーワードは「発展方式の転換」で、投資と輸出に過度に依拠していた従来の経済運営を改め、住民の生活改善にもとづく内需拡大によって、よりバランスのとれた経済成長をめざすことである。GDPの伸び率は前年のそれを若干下回ったとはいえ、実質9.2%で年度目標を上回った。経済成長は、労働者の就業状況を徐々に変えている。第２次産業や第３次産業の就業者が割合を高めている。
　農民工は各地の加工製造、建築などの業種で従業員の半数以上を占めているが、ほぼ半数は1980、90年代以降に生まれた若者であり、大多数が農村に戻ることを希望していない。一つの職場で働く継続年数も短期化しており、賃金や労働条件に対する要求が旧世代より高く、条件に応じて職場を移動する傾向の増大等の結果と見られている。
　派遣労働も拡大し、社会的にも注目される事態となった。一部マスコミ報道では、全国の派遣労働者数は労働者総数の20%にのぼり、企業によっては労働者の70〜80%を占めるまでになっているとされている。これは、年ごとに賃金水準が上昇し、とくに２、３年来最低賃金額が年平均20%以上の幅で引き上げられている状況の下で、多くの企業が労働コスト低減をねらって派遣労働に依存する経営方針をとったためと見られている。
　こうしたなか、政府の人的資源・社会保障省は「企業労働紛争協議調停規定」を公布した。企業内の労働双方の協議の原則などを定めたものだった。同省はその趣旨について、「企業内部の労使双方の意思疎通の仕組みが一様に欠けている、労働者の利益要求を出すルートが滞っている」等と述べた。一方、中華全国総工会主席は、１月に開催された第15期執行委員会第５回総会で、労働者が労組に満足しているかどうかを労組活動評価の尺度・基準とし、活動作風を改め、行政機構化の傾向を克服するべきだと呼びかけた。
　最低賃金は2011年度も31の一級行政区のうち24の区で22%と大幅な引き上げがなされた。総工会の提唱にもとづき、人的資源・社会保障省によって「悪意賃金未払い罪」を新たに書き加える刑法の修正も実現された。

（さいとうたかお・常任理事・国際労働研究部会責任者）

＊全労連編集・発行の年報『世界の労働者のたたかい2012〜世界の労働組合運動の現状調査報告18集』が刊行されます（発売・学習の友社03-5842-5641）。執筆には、労働総研国際労働研究部会のメンバーが協力しています。

研究部会報告

・女性労働研究部会（５月２日）

　労働総研プロジェクトのまとめに際して見えてきたジェンダー平等に関する課題の整理と検討を行った。坂本福子さんからの問題提起を受けて、賃金の性差別禁止を法規制するために、均等法と労基法３条・４条の関係や非正規労働者の賃金差別禁止、同一価値労働同一賃金問題などについて論議した。また、母性保護や育児介護休業等の休業中の所得保障のあり方について、労働者要求と中小企業の実態、中小企業への助成等についても論議した。

・労働時間・健康問題研究部会（５月12日）

　研究所プロジェクト・労働時間作業部会の報告「労働時間短縮で日本社会を変えよう」の報告と討議をおこなった。討論の要点は、〇労働総研・全労連の運動が今日の段階で、労働時間問題の実態認識、これを改める際の避けられない家庭生活上の問題点の指摘、職場からの運動の視点の緊急的な課題の指摘などを含む、ここまでのまとめを行ったことは一定の歴史的成果とみることができるのではないか。〇歴史記述に06〜07年のホワイトカラーエグゼンプションを撤回させた運動、08年のサマータイム議員立法をやめさせた運動などを加えるべきではないか、などの補強意見など。

・労働組合研究部会（５月14日）

　最初に、兵頭さんから「労働市場を規制する条件と労働組合との関係をめぐる予備的考察」について報告があった。討論は、日本の現実のもとでの、（１）労働市場規制の形態と内容をどう考えるか、（２）前項における、労働組合の、企業横断的な運動・組織と職場の運動・組織との関係を中心に行われ、春闘、公契約適正化条例、コミュニティ・ユニオン、産業別単一組織、地域の組織と運動などの評価が論点となった。そのあと、ワーキングペーパーの内容と執筆について報告・討議を行なった。

・中小企業問題研究部会（公開・５月21日）

　「春闘交渉で見えてきた中小企業の今日的特徴」をテーマに公開開催した。JMIU・生熊茂実委員長、建交労・藤好重泰委員長、全印総連・大原つくる副委員長代理が報告して討論した。報告の特徴は、大震災直後の昨年と比べて、（１）（震災特需を除き）経営環境が一段と厳しくなっていること、（２）賃上げ、一時金、職場要求などで前年並みの水準を引き出してきたこと、（３）一部に査定拡大、成果主義導入の提案がみられることなどが共通している。