労働総研ニュース№264・265 2012年3・4月
労働総研ニュース№264・265 2012年3・4月
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看護労働・介護労働の研究 今井 拓 |
私の研究上の主要な関心は、サービス労働の一般的理論的な分析から、より具体的な看護労働・介護労働の特質の究明へ、さらに、医療・福祉の営利・商品化が展開する中で、看護労働・介護労働がどのように変質、劣化を余儀なくされてきたのか、という歴史的・実態論的な分析へと広がっています。 サービス労働の価値形成性を検討するために、私は、サービス労働の機能的側面を取り出しました。その上で、サービス商品の価値論的特徴は、価値対象性の喪失にあるが、サービス労働は、労働対象へ機能的に作用するのであるから、労働対象に対象化される、とし、サービス労働の価値形成性を論証しました（今井2007、2008）。その後、米国のナーシングホームにおいて、介護労働の機能的な側面（Bed & Body Work）の遂行の挫折が、入所者の虐待等悲劇発生の契機となったというKeyser-Jones(1981)等の研究を重視しながら、看護労働・介護労働の変質の検討へと向かいました（今井2009）。 一方、マルクス経済学の内部において、サービス労働の感情労働としての側面を重視する研究動向が現れ（鈴木2006、阿部2010など）、ケア労働の場面で展開する研究も発表されました（阿部2011）。そこで、看護労働や介護労働を対象として、サービス労働の感情労働としての側面の検討もはじめました。この分野の代表的な研究としては、パム・スミス（2000）があります。これを読むと、看護師は、医療の実践者であるとともに、患者の状態とその変化を把握し、解釈する媒介者であることが強調されています。感情労働の概念は、決して医療という機能的行為から切り離されて規定されているのではないのです。 米国の看護労働・介護労働に関わる実証的研究の蓄積は膨大ですが、医療・福祉の営利・市場化の典型として、貴重な研究素材を提供しています。例えば、Brannon(1994)は、米国医療産業の専門化と看護労働過程の再組織化の歴史を跡づけ、看護における労働強化を分析しています。その後も、米国の看護士・研究者は、ダナ・ベス・ワインバーグ（2004）をはじめ、営利化による看護の変質に大きな関心を抱き、研究を蓄積しています。対照的に、英国のNHSの下における医師・看護師の役割と分業関係の実態、およびそこから抽出された理論は、本来の看護労働・介護労働の特質を究明しています。これらの諸研究を検討することで、日本の介護労働・看護労働の特徴と変化、問題点や課題を論じる確かな足場を構築することを展望しているところです。 （いまい たく・会員・明治大学経営学部・日本大学経済学部等講師）
はじめに 労働総研「若者の仕事とくらし研究会」では、大学生が労働組合に対してどのような認識を持っているのを明らかにするために、2009年よりアンケート調査を実施してきている。今回は、2011年の１月から２月にかけて実施された第５回調査の結果について報告したい。なお、過去の調査結果については、『労働総研クォータリー』No.75およびNo.82に掲載論文を参照のこと。 １．回答者の概要 今回の調査の有効回答数は656件で、うち男性が289（44.1％）、女性が356（54.3％）、不明が11であった。学年別には、１年が205（31.3％）、２年が268（40.9％）、３年が95（14.5％）、４年が73（11.1％）、その他が３、無回答が12であった。学部別には「経済・経営」159（24.2％）、「法学・政治学」164（25.0％）などの社会科学系が約半数（49.2％）、「医療・福祉」が269（41.0％）、「理工・数学」が１、「その他」が５、無回答が58であった。前回と比べて「法学・政治学」系が多く（前回はゼロ）、「理工・数学」系と「その他」（前回は保育系、人文系が多数含まれていた）が少なかった（前回は9.8％、30.1％）。 ２．労働組合の認知度 労働組合について「知っている」と回答したのが236（36.0％）、「聞いたことがある」373（56.9％）、「知らない」が42（6.4％）、無回答が５であった。前回調査よりも「知っている」（前年は185、23.9%）が若干多かった。 労働組合をどこで知ったかについては、最も多いのが「テレビ・ラジオのニュース等」で367（60.9％）、次に「中学・高校の授業」259（43.0％）、「大学の授業」212（35.2％）、「新聞・雑誌」180（29.9％）、「家族・親戚から聞いた」78（12.9％）と続く。前回調査と比べて「中学・高校の授業」が少なく（前回は66.6％）、「大学の授業」が多い（前回は1.4％）。これは、今回の回答者に「法学・政治学」系が多く含まれ、「その他」が少なかったためである。 ３．労働組合に対するイメージ 今回のアンケートでは、マイナスのイメージについては「ダサい」「迷惑だ」「面倒くさそう」の３点、プラスのイメージについては「頼もしい」「必要だ」「役に立つ」の3点、さらに「自分には関係ない」というキーワードを加えた計７項目で、それぞれ「分からない」ないしは「そう思う」から「そう思わない」までの４段階で評価を聞いている。 これまでの4回の調査結果と同様に、多くの学生は「ダサい」とも「迷惑だ」とも思っておらず、組合は「必要」で「役に立つ」存在であり、自分に「関係ない」とは思っていないという評価であった。「ダサい」の否定派（「そう思わない」と「あまりそう思わない」の合計）は85.6％、「迷惑だ」の否定派は82.2％、「必要だ」の肯定派（「そう思う」と「ややそう思う」の合計）は72.9％、「役に立つ」の肯定派は56.4％、「自分には関係ない」の否定派は63.3％などの結果であった。 また、「面倒くさそう」や「頼もしい」などの項目では、肯定派と否定派が拮抗していた。「面倒くさそう」については、肯定派＝40.1％、否定派＝48.7％であり、「頼もしい」については、肯定派＝44.1％、否定派＝40.8％であった。この点も過去の調査結果と同様であった。 このように、これまでの調査結果と比較して、それほど大きな差がなかったことから、現在の大学生が労働組合に対して抱いているイメージがおおよそ明らかになってきたのではなかろうか。 性別にみてみると、男女間でイメージにそれほどの差はなかったが、女性の方が「分からない」の割合がやや高かった。学部別では、「理数系」の学部で「分からない」の割合が高い傾向がみられた。これらについても、ほぼ従前の調査結果と同じであった。
４．労働組合への加入意向 今回のアンケートでは、「労働組合への加入意向」について、選択肢を変えて聞いた。これまでの調査は、加入意向について「分からない」という回答が約半数を占めていた。その理由としては、「組合のことを知らないから、（加入するかどうか）わからない」などよく調べてから加入したいという回答や、「就職先の労働組合の状況を判断してから決めたい」など具体的な就職先を意識してから考えたいという回答が複数みられた。これらの記述を踏まえて、今回新たに「就職した職場の状況によって考えたい」、「組合を詳しく知らないので決められない」という選択肢を加えた。全体では、「加入したい」7.9％、「必要に迫られたら加入したい」19.8％、「加入したくない」4.6％、「就職した職場の状況によって考えたい」27.4％、「組合を詳しく知らないので決められない」37.5％、「その他」1.1％であった（図２）。第3回調査と比べると、「加入したい」「必要に迫られたら加入したい」はほとんど変わっていなかった。第３回調査の「勧められたら加入したい」と「分からない」の合計が、新たに加えた「就職した職場の状況によって考えたい」と「組合を詳しく知らないので決められない」の合計とほぼ同じ比率になっていた。ここから、前々回調査の「勧められたら加入したい」と「分からない」が「就職した職場の状況によって考えたい」と「組合を詳しく知らないので決められない」に分かれたと考えられる。 次に、その加入意向を学年別にみると（図４）、「加入したい」「必要に迫られたら加入したい」「就職した職場の状況によって考えたい」は、学年があがるにつれて高い。その一方で「組合を詳しく知らないので決められない」は、１～２年生で４割程度と高いが、３～４年生は低くなっている。 この加入意向について、「労働組合」とはどのような組織か知っているかどうか別にみてみると、「就職した職場の状況によって考えたい」は、「知っている」47.8％、「聞いたことがある」47.8％、「知らない」3.9％、「組合を詳しく知らないので決められない」では、「知っている」17.5％、「聞いたことがある」72.4％、「知らない」10.2％であり、「就職した職場の状況によって考えたい」において、「知っている」という回答が高くなっていた。 組合のイメージについて、「就職した職場の状況によって考えたい」と「組合を詳しく知らないので決められない」を比較すると、「頼もしい」「必要だ」など肯定的なイメージについては「就職した職場の状況によって考えたい」で「そう思う」が高く、「組合を詳しく知らないので決められない」で「分からない」が高くなっていた。 これらのことから、「就職した職場の状況によって考えたい」と「組合を詳しく知らないので決められない」はどちらも加入については決められていないが、知識やイメージに違いがみられた。「就職した職場の状況によって考えたい」という回答にたいして、より具体的に「職場の状況」を示していくことが、求められている。 おわりに 「若者の仕事とくらし研究会」では、今後も継続して学生アンケート調査を実施するとともに、若手組合員に対する調査も実施しており、こちらの調査結果の分析も進めている。
1月31日夜、中小企業問題研究部会が昨年11月に発行した「中小企業の未来を拓く」の出版を記念して、標題のシンポジウムを全労連会館で開催し、60名が参加した。 大須眞治事務局長の開会あいさつ、中島康浩理事による執筆者（16名）の紹介につづいて、各シンポジストが執筆内容を深める報告を行った。 松丸和夫部会長は、「中小企業をめぐる情勢と諸課題」について、グローバル化による競争激化がすすむなか、円高・デフレによる収益減や大企業による下請単価の切り下げ、海外移転などによって厳しい状況が続いているとし、この流れに押しつぶされない地域循環型経済の構築を強調した。そのために、ナノテク技術の活用や、地域金融機関の資産活用、大企業が貯め込んでいる内部留保を有効活用する経済政策への転換を訴えた。 JMIUの生熊茂実委員長は、「金属産業の労働者と経営をまもるたたかい」を報告。長野県での希望退職撤回のたたかいや日産リストラ反対闘争を紹介しながら、下請いじめを防止するたたかいを組織することと、独禁法・下請二法の実効ある改正、「最低工賃法」の制定を訴え、「労働組合が制度改善にむけて主導権を握らないといけない」と強調した。 建交労の藤好重泰委員長は、「12年春闘と建交労のたたかい」について、トラック運輸業者の運賃交渉で「荷主・元請会社と対等に話し合って決まる」が約3割しかない現実を示し、企業内の労使関係で賃金や労働条件を決着できない企業が増えている実態を紹介した。公契約を例に法律・条例で一律に守る必要性を強調し、産業別の労働条件水準を確保するたたかいを訴えた。 全労連全国一般の大木寿副委員長は、「『たたかう提案型』運動の課題と展望」について、工場閉鎖の撤回や経営改善を実現させた実例を紹介しながら、「労働組合が経営実態を掌握して『たたかう提案型』の運動をすすめることが大切」と強調した。また、人間らしい社会にするために、「生活できる最低賃金と、中小企業・地域経済振興」の大運動にとりくむ決意を表明した。 特別発言した全労連の伊藤圭一調査局長は、最賃闘争や公契約条例制定の前進面を紹介し、（１）「中小企業振興と雇用対策」の団体署名、（２）「最低賃金の大幅引上げと中小支援策」の政策実現の取り組みを強調した。
労働総研2011年度第２回常任理事会は、全労連会館で、2012年１月14日午後１時30分～４時まで、小越洋之助代表理事の司会で行われた。 冒頭の学習会は、近藤ちとせ常任理事が「派遣法改正・有期労働契約規制関係の動向」をテーマに報告し、質疑応答をした。 １．報告事項 大須眞治事務局長より地域政策プロジェクトについて、藤田宏事務局次長より労働総研ブックレットの2012年の企画について、および前回常任理事会以降の研究活動や企画委員会・事務局活動などについて報告され、承認された。 ２．協議事項
・労働組合研究部会(１月23日・２月16日) 1月23日は、（１）今後の単産研究の進め方、（２）ディスカッション・ペーパーについて自由に討議した。（１）については「研究のテーマ、方向があいまい」との指摘があり、各人の問題意識を踏まえつつ、部会として何を問題にするか、単産調査の位置づけなどが討議された。（２）については、これまでの研究会報告を記録に残す方向で具体化することで、大方の合意をみた。 ２月16日は、兵頭さんから、戦後日本の産業別組合組織の研究史について報告があり、当部会の研究課題の設定とかかわって、産業別統一闘争（産業別組合組織）と職場闘争（職場の組合組織）との関係をめぐる論点が提示された。討論では、報告に関連する文献・論点の紹介、連合発足後の産別機能の後退と職場組織と運動の弱化・企業連の肥大化、戦後労働運動における産別組織強化の追求、春闘の評価、技術革新とグローバル化のもとでの「職場」概念の再構築、「共産党系」労働組合論における組織論の位置づけ、特徴などが論点となった。 ・女性労働研究部会(１月25日) 研究所プロジェクト・時間的ゆとり作業部会における「労働時間短縮とジェンダー平等の課題」（日野徹子さん担当）および「育児・介護休業法改正要求案」について討論した。具体的な検討とともに「人間的な労働と生活の新たな構築にはジェンダー平等がカギであることを明確にし、プロジェクト全体、各作業部会においてジェンダー平等の視点をしっかり貫いてほしい」という要望が強く出された。
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