労働総研ニュース:No.256・257 2011年7月・8月



目   次

2011年度定例総会方針(案)
[I]2010年度における経過報告
[II]研究所活動をめぐる情勢の特徴
[III]2011年度の事業計画
[IV]2011年度研究所活動の充実と改善
理事会報告他




労働運動総合研究所2011年度定例総会方針(案)

2011年7月23日(土)14〜17時・全労連会館会議室

I.2010年度における経過報告

 労働総研はこの1年間、研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」に広範な会員の力を結集して最終報告にむけての作業をすすめると同時に、春闘や震災復興など労働運動の直面する課題に積極的に応える政策提言活動などを重視し、「労働運動の必要に応え、その前進に理論的実践的に役立つ調査研究所」として積極的な役割を果たしてきた。

1.研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」

 08年度から始まった本プロジェクトは、多くの会員の英知を結集して取り組むために、プロジェクト推進チームの下に8つの作業部会(雇用政策・賃金政策・社会保障・労働時間・心身の健康・財源保障・提言実現の運動課題・仏英調査)を設置することを決め、活発な研究作業を進めている。作業部会の発足にあたって、プロジェクト学習会「日本経済の現状と危機打開の展望」(2010年10月22日)を開催、プロジェクトの持つ今日的意義を明らかにして作業部会の活動を本格化するための意思統一をはかった。
 2010年9月26日〜10月8日には「フランス・イギリス労働者生活まるごと調査」を行った。その成果を本プロジェクトに反映させる。
 これらの活動の進展を踏まえて、3月26日に開れたプロジェクト・研究部会代表者会議では、牧野代表理事が「研究所プロジェクトの最終局面にあたって」を報告、東日本大震災をふまえたうえで、「人間的な労働と生活」の理念・フレームを明確にするなど、報告を最終的にまとめる方向を明らかにした。(「労働総研ニュース」No.254、2011年5月号)

2.共同プロジェクト

(1)「地域政策検討」プロジェクト

 「地域政策検討」プロジェクトは、「『住みやすさ』と住みつづけたい地域づくり運動・政策にかんする調査研究−中間報告―」を発表(2010年7月21日)したのに続いて、地域労連へのアンケート調査などを行い、最終報告にむけてのまとめに入っている。

(2)「組合員モニター調査」

 全労連と労働総研が連携して行う「組合員モニター調査」について、全労連加盟単産の組合員を対象としたモニターの組織化、調査方法、調査項目などの設定についての論議を、全労連と協力して行った。

(3)「労働組合トップフォーラム」

 今期は、開催されなかった。

3.研究所の政策発表

 (1)2011年春闘を前に、提言「働くものの待遇改善こそデフレ打開の鍵――企業の社会的責任を問う」(2010年12月14日)を発表した(「労働総研ニュース」No.249・250、2011年新年号)。このなかでは、過剰にため込まれた内部留保を放出させ、国内需要の拡大を通じてデフレを克服することの重要性を明らかにし、労働者の待遇改善・賃上げによって、日本経済にどのような効果をもたらすかについて試算した。労働総研の内部留保の活用についての試算・研究は社会的にも注目されるようになっている。
 (2)3月11日に勃発した東日本大震災について、緊急提言「東日本大震災の被災者に勇気と展望を―雇用と就業の確保を基軸にした復興へ」、緊急提案「国民生活・経済活動を混乱させる『計画停電』をやめ、政府の責任で、電力の供給力確保と大口需要家の電力規制を」を2011年4月22日に記者会見を行い、発表した。(「労働総研ニュース」No.254、2011年5月号)
 (3)全労連・国公労連・自治労連と協力して、「公務員人件費を『2割削減』した場合の経済へのマイナス影響と、その特徴について」(2011年5月19日)を発表した(『労働総研クォータリー』No.83、2011年夏季号)。この「調査・試算」は、公務員人件費削減に反対するたたかいに大いに活用されている。

4.研究部会

 「労働総研アニュアル・リポート2009」(「労働総研ニュース」No.246・2010年9月号掲載)を発表。2010年度から、7つの研究部会が、8つの研究部会体制になった。
(1)賃金最賃問題検討部会(8回開催)、ディスカッションペーパー「賃金の均等待遇をめぐる論点整理・事例分析・運動の課題」を発表。
(2)女性労働研究部会(11回)

(3)中小企業問題研究部会(8回・うち公開2回)、「労働総研クォータリー」No.79・2010年夏季号・特集「経済危機下の中小企業問題」を発表。
(4)国際労働研究部会(6回)、「世界の労働者のたたかい2011」に協力。
(5)労働時間・健康問題研究部会(8回)
(6)労働者状態統計分析研究部会(3回・「国民春闘白書」編集委員会を含む)、全労連・労働総研編「2011年国民春闘白書」を発表。
(7)労働組合研究部会(8回・うち公開1回)
(8)関西圏産業労働研究部会(6回)

5.研究活動の関連施策

(1) 研究例会

 2010年12月17日には、フランス・イギリス調査報告会を開き、60人が参加した。ここでの報告を基本に「労働総研クォータリー」No.82・2011年春季号に特集「まるごと見てきたフランスとイギリスの働くルールと生活保障」をまとめ、調査報告とした。

(2) 研究交流会

 研究交流会としては、今期は開催されなかった。しかし、プロジェクトと研究部会間の研究交流をすすめるという研究交流会の本来の目的にそった活動として、プロジェクト作業部会の活動が活発にとりくまれた。

(3) E.W.S(English Writing School)

 わが国の労働運動を中心とした情報を海外に発信するための書き手養成講座として始まったE.W.Sは、今年度も毎月2回定期的に開催した。その成果を生かして、「Rodo‐Soken Journal」の英訳をおこなっている。

(4) 若者の仕事とくらし研究会(若手研究者研究会)

 学生の労働組合についての意識に関するアンケート調査をおこない、その分析結果を09年に引き続き今年度は、「学部別にみた大学生の労働組合観」(「労働総研クォータリー」No.82・2011年春季号)として発表した。また、若手労働組合員の聞き取り調査を開始した。なお、今年度より、研究会の名称を「若者の仕事とくらし研究会」とした。

(5) 大企業問題研究会

 今年度よりはじまった大企業問題研究会は3回開催された。大企業職場からの報告を受け、財界・大企業の戦略の変化について分析・検討をおこなっている。

(6) 産別会議記念労働図書資料室

 堀江文庫をはじめ労働図書の整理、公開をおこなった。

6.顧問・研究員との意見交換会の開催

 2011年2月8日に開催し、有意義な意見交換の場となった。

7.その他

 「日本航空の不当解雇撤回をめざす国民支援共闘会議」に参加、署名・カンパに協力した。労働法制中央連絡会の事務局団体として活動に参加した。全労連による「東日本大震災救援カンパ」を呼びかけた。

II 研究所活動をめぐる情勢の特徴

1.東日本大震災と日本社会

(1) “3.11”対応をめぐる二つの道

 2011年3月11日に勃発した「東日本大震災」と「福島原発事故」(両者を一括して“3.11”と呼ぶ)は、まず「天災の人災化」と特徴づけられる。巨大な地震・津波という「天災」が、対応等の問題点や、とくに原発事故によって、未曾有の「人災」となったからである。
 その“3.11”を機にいま、「たんなる復旧・復興ではなく、新しい日本を創造しよう」という主張が様々な立場からなされている。問題は、その内容・方向づけである。とくに警戒すべきは、政府・財界筋が以前から虎視眈々とねらっていた消費税等の増税論・TPP参加論・道州制論などを“3.11”を利用して(逆手にとって)一気に実現させようとしている動きである。
 一方、旧来の「日本社会の“困ったノーマル”」を見直し、「日本社会の“新しいノーマル”」を模索する国民的な機運が急速に高まりつつある。それがとくに“原発”観において顕著で、“3.11”以前には原発賛成が52%で反対は18%であったが、5月下旬には賛成34%で反対42%と賛否が逆転している(「朝日」調査。2011年5月26日付)。「ノーモア・フクシマ」などと海外でも反原発のうねりが高まり、ドイツの速やかな脱原発決定やイタリアの国民投票における脱原発派の圧勝にみられるように、「脱原発⇒自然エネルギー活用」の方向が「世界の“新しいノーマル”」になる、新しい可能性を秘めた情勢となっている。
 以上のような新たな情勢のもとで、イデオロギー闘争の意義が一段と高まり、労働総研の役割がいっそう大きくなっている。当研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」は時宜に適ったかなったテーマであり、「新たな構築」条件の醸成・拡大のため、全労連などの運動体とも連携して研究活動を一段と強めなくてはならない。

(2) 判明したこと、取り組むべき課題

 地震・津波の大震災と原発事故を一括して“3.11”と表現するとき、その含意は決して「大震災の必然的な結果が原発事故である」というものではない。アメリカのスリーマイル島原発事故(79年)や旧ソ連チェルノブイリ原発事故(86年)のいずれも地震・津波が引き金ではなかったことからも、そういえる。「安全神話」をマスコミや御用学者を動員してふりまき、事故対策を等閑視してきた政府・財界など原発推進勢力の責任こそ重大である。人知はまだ核エネルギーを制御できないのである。
 一方、地震・津波の被害をこれほどまで大きくした背景には、農業や漁業を切り捨ててきた歴代政府の、「日本列島改造」などの「アメリカいいなり・大企業本位」の政策があり、「地方の自立」という美名のもとに地方・農漁業等を疲弊させてきた政治の責任が大きい。
また、一連の「構造改革」で公務員を減らしてきたことなどが、自治体の危機管理機能を弱め、これが被害を大きくしたことも明らかになった。“3.11”がもたらした犠牲・被害が甚大であると同時に、行政等のあり方も含めて判明した問題点・課題も多い。
 “3.11”後3カ月が経過したいまでも、岩手・宮城・福島3県の被災42市町村長に対する朝日新聞のアンケート(2011年6月11日付)によると、「6割余りが被災者の生活再建の見通しが立っていないと答えた。基幹産業の農業・漁業の再開のめどが6割前後の自治体で立っておらず、原発事故も収束していないためだ。最優先課題には約7割が『雇用の確保・創出』をあげた」という。やはり、「雇用の確保・創出」が喫緊の課題なのだ。
 多くの企業が流出・全壊し雇用の条件が根底から破壊されるなど、被災地では雇用問題が深刻を極めている。生活のため東電の下請労働者のように放射能被爆を覚悟での雇用を余儀なくされるなど、被災地の雇用・労働は「人間らしく」の対極にある。「人間的な労働と生活をめざす」労働総研としても、被災地の雇用・労働の異常事態の一刻も早い改善・打開に向けた取り組み・研究をさらに強めなくてはならない。

(3) 「パラダイム転換」と労働総研の課題

 これまでの日本の“ノーマル”は、「経済成長第一」、「国際競争力強化」、「エンドレスの搾取強化・雇用破壊」などであった。その結果、90年代後半から「格差と貧困の増大」などさまざまな矛盾を拡大させた。日本経済そのものが暗礁に乗り上げかけていた。そのような腐敗し土壌(旧来の“ノーマル”)のもとで発生した巨大な地震・津波であったがために「天災」が「人災化」し、被害を拡大させた。原発事故がその“象徴”である。
 こうした“旧来のノーマル”と決別し、“新しいノーマル”を模索する国民的胎動がいま、矛盾の“象徴”である原発・エネルギー問題から始まっている。ソフトバンクの孫正義社長は雑誌『世界』(2011年6月号)で、「世界のトレンドは原発だ。CO2を減らすために世界中どこでも原発を増やしているのだ、と私はつい1ヶ月前まで思っていました」と反省の弁を述べ、「太陽光、太陽熱、風力、地熱、バイオマス、海洋など自然の恵みは、地球を汚すことなく、何万年でも使うことができる……そうすれば21世紀の日本は、ただ沈み行くのではなく、もう一度日は昇る、そして安心安全を手に入れて、何万年でもこの地に生きていける」と「希望溢れるビジョン」を謳い上げている。また、詩人・作家の辻井喬氏(元セゾングループ代表)は「東京新聞」(2011年4月24日付)で、「今世紀に入ったころから、消費者の価値観や様式が変わり始めていた」として、「国主導で産業を発展させる時代は、もう終わっています……大量消費文明は、原発問題とともに終わりつつある。“消費は美徳”は、今や危険思想にすらなりましたね」と原発にかかわらせて“新しいノーマル”の到来に言及している。
 こうした歴史的な潮目の変化を「日本資本主義は、いま、明治維新、戦後改革に続く第3の歴史的変革の時代に入りつつあるようです」と友寄英隆氏が著書『変革の時代―その経済的基礎』で指摘している。
 われわれ労働総研の調査・研究も、こうした歴史の胎動・うねりを意識したものでなくてはなるまい。これまでのわれわれの研究成果を、このような大局的視点から検証・総括する作業も必要なのではないか。

2.新自由主義的構造改革と労働者・国民との矛盾の激化

(1) 構造改革路線の矛盾の激化と東日本大震災によるその重層化

 (1)日本経済は内需不振、「デフレ不況」にある。賃金の低下、「賃金デフレ」の状況が内需不振を招来した。アメリカ政府の新自由主義政策による日本市場の開放要求、これに従属する政府の規制緩和・民営化政策、アメリカ型経営への傾斜、労働組合の資本との一体化によって、冨の分配の不公正が発生した。企業の内部留保が膨張し、役員報酬、株主への配当の増大の一方、賃金の下落が顕著である。
 (2)東日本大震災、原発事故・その解決の長期化は日本経済と日本国民に甚大な被害を与え、構造改革の矛盾と相まって、日本の政治・経済の矛盾を重層的に激化させることになった。そのなかで、財界が主導する新自由主義政策による復興と住民主体の民主的復興との対立点が明瞭になっている。
 第1は、未曾有の原発災害事故でも政府・財界はアメリカに従属したその原発推進政策を転換していない。これに対してこの間原発の廃止、太陽光発電など新エネルギ―への転換の世論が急速に高まっている。第2は、財界は大企業優先の復興を狙い、「特区」方式によって道州制の導入を企図している。だが、その方式は被災地域での農業、漁業の営業権の確保、自然産業を生かした産業の育成と雇用確保など、住民合意での地域復興の取り組みの道との厳しい対立点になっている。第3は、財界・政府はアメリカ主導のTPP(環太平洋経済連携協定)を強引に推進し、大震災を口実に「開かれた市場」へと拍車をかけている。これに対して日本農業の保全、食糧主権を破壊するTPPに断固反対の潮流が広がり、労働運動でも「労働市場の開放」への強い警戒感がある。第4は、復興財源について、財界は負担の国民への転嫁を意図し、それをめぐる対立点が明らかになっている。
 震災復興の在り方をめぐって、戦後日本の政治・経済は歴史的転換点に立っている。
 (3)民主党政権は、「強い財政」「強い経済」「強い社会保障」を合言葉に、財界本位の「新経済成長」戦略をかかげ、消費税増税路線を走っている。「税と社会保障の一体的改革」と称して、「消費税の基幹性」を強調し、消費税率を10%に引き上げる案を打ち出した。「復興税」、社会保障財源を理由とする消費税増税など、大増税が労働者・国民に襲いかかる可能性が大きい。消費税の「逆進性」は常識で、この増税がデフレ不況下においていま最も必要な家計消費需要を一層抑制させ、内需を縮小させるのは明白であり、増税は阻止しなければならない。

(2) 悪化する労働者状態

 (1)雇用・失業情勢は悪化の一途をたどっている。完全失業率は5%近くにはりつき、とくに大震災後東北3県では合計11万4608人を超える休業・失業者が生まれている。登録型派遣の雇い止めも増えている。大企業でもパナソニックやリコーが人員削減計画を発表するなど、円高や震災に乗じてリストラ、雇い止めの動きが広がっている。「計画停電」の影響での大都市での雇用削減もある。労働市場の悪化は新規学卒者の内定にも影響を及ぼし、非正規雇用の増勢もとまらない。非正規労働者は1739万人、役員を除く雇用者に占める割合は35.5%と最高の水準となった。非正規化・フリーター化は日本社会を「閉塞感」に陥れている。
 (2)1998年以降、日本の賃金が一貫して低下してきた。日本だけが賃金が下がっている異常な国である。財界による「国際競争力強化」による総額賃金抑制政策、それに呼応する民間大企業の労使一体組合のベア放棄、成果主義賃金化容認が背景にあり、公務員給与もマイナス勧告が続いた。民主党はそのマニフェストで公務員人件費2割カットを主張し、人事院を無視して公務員の賃金カットを強行しようとしている。連合は民主党政権による1割カットを受け入れたが、全労連は厳しい批判を行っている。
 非正規雇用が増えるなかで最賃制の意義がクローズアップし、時給1000円以上は労働組合のスローガンとして定着した。被災地では復旧作業に従事する臨時雇用の賃金が異常に低く、生活難が起こっている。現行地域別最賃における水準の低さなどの問題が浮き彫りにされ、全国一律最賃制確立の重要性と緊急性が浮き彫りになっている。
 (3)労働環境の劣化がすすんでいる。電力会社協力企業、派遣会社から送られた原発作業員の労働実態は、詳細な資料が公表されていないが、その現場は大量被曝の恐怖とたたかいつつ、きわめて過酷で、まともな就寝もできないなど驚くべき状況が披歴されつつある。しかも「原発系人材派遣会社」などの中間搾取で日当4000〜6000円にしかならない者もいるといわれる。現在の派遣労働、偽装請負にみられる中間搾取・労働者の使い捨て化に歯止めがかかっていない。ホワイトカラー労働者でも、恒常的残業、不払残業、有給休暇の未消化、要員削減による長時間労働が蔓延している。1日の労働時間の短縮ができない労働環境において、労働者の精神的・肉体的疲労の常態化、デフレ不況によるその増幅化がみられ、過労によるうつ病などの傷病、退職、非正規雇用化の労働者もいる。その中で、全労連のたたかいで「偽装雇用」(実態は雇用関係なのに業務委託契約にする形態)について最高裁が労働組合法上の労働者性を認めたこと、いう前進面もある。

(3) 国民のための社会保障の再生は急務

 (1)「無縁社会」の広がりと「無縁死」予備軍の増加が際立っている。血縁(家族)、社縁(企業)、地縁(地域社会)から排除された単身世帯が増大し、「3万2000人の無縁死」が報道されている。高齢単身世帯の増加、孤立化による「無縁死」予備軍も増加している。この一因は歴代自民・公明内閣が根本的な高齢化対策を怠ってきたことにある。また、少子化は既婚層の出生数の減少、未婚率・非婚率の増加として、その背後には若者の貧困化、雇用破壊と低賃金、社会保障、公共サービスの不備がある。
 (2)社会保険の空洞化がすすみ、生活保護受給世帯が増加している。政府の「税・社会保障改革原案」では社会保障は「自立・自助」を前提に、これを「国民相互の共助・連帯」で支えることを基本としている。国民健康保険における国庫負担の削減による保険料の高騰、滞納者の増加、短期保険証、資格証明書にされる層の増加、国民年金保険料の高騰によるその納付率の低下、そのことによる無年金・低年金層とその予備軍の増加など、社会保険=防貧機能の「底抜け」「空洞化」がある。「働きによる収入の減少・喪失」が飛躍的に増えたため、生活保護の受給人員は増加の一途で、59年ぶりに200万人を突破、202万人余となった。社会から排除された人々への対処は自助努力では解決できない。国民のための社会保障の再生が急務である。

(4) 打開の道を模索する労働運動

 雇用保障、雇用の不安定化防止、仕事起こし・仕事づくりは現在最も切実な課題である。また、生活できる賃金の確立も待ったなしの課題である。同時に、社会保障の抜本的改革がある。労働運動は国民的最低限(ナショナル・ミニマム)保障を労働と生活の両側面において総合的に具体化する課題の取り組みなどをつうじて局面打開の道を模索している。雇用不安の打開・デフレ脱却をめざす賃金闘争の発展、全労連のとりくむ国民春闘再構築のたたかいのもつ意義はいよいよ高まっている。

3.歴史的転機に立つ国際情勢

(1) 日本と共通する世界の労働者・国民のたたかいの前進

 新自由主義的政策の矛盾は日本と世界各地で激化しており、共通する課題で世界の労働者・国民のたたかいが前進している。
 (1) EU諸国では、各国政府が財政危機を口実にすすめている社会保障切り捨て、公務員削減にたいする労働者の反撃が強まっている。フランスやイギリス、イタリアなどでは中道右派政権にたいする大規模なデモ、統一行動、ストライキがおこなわれ、そのなかで、政治の転換を求める声が広がっているが、他方でポルトガルのように中道左派政権から中道右派政権への転換も生じている。
 (2) 貧困と格差拡大に反対し自主的経済発展と民主主義を求めるたたかい、2000年ごろからラテンアメリカ諸国に広がったが、そうした政治革新の波は、中東・北アフリカにも広がり、チェニジアとエジプトで独裁政権が民衆の決起の前に倒れた。その背景に、経済の自由化によって、貧困と格差の拡大が進行してきたことがある。貧困と格差拡大に反対するたたかいは、国際的なうねりとなって広がっている。
 (3) 中国など新興工業国では、最低賃金引き上げなど労働者の待遇改善の動きが高まり、労働者のストライキも相次いでいる。それは、労働コストの上昇につながっている。多国籍企業は、低賃金の労働力を酷使して、高収益を確保してきたが、そうした多国籍企業のやり方との矛盾がいよいよ強まりつつある。
 (4) 福島原発事故を契機にして、原発ゼロのたたかいがドイツやスイス、イタリアなどで広がっている。それでも、脱原発の動きは、国際的にはまだ部分的な流れにとどまっている。脱原発・再生可能エネルギーへの転換を迫るたたかいのいっそうの発展が求められている。
 新自由主義的政策の矛盾を打開する取り組みが世界の労働者・労働組合の共通する課題になっており、日本の労働運動は、そのことに確信を持って、日本の労働運動も直面する課題に積極的に取り組んでいくことが期待される。

(2) 新自由主義的経済の破たんと新興国の役割の増大

 世界の労働者・労働組合のたたかいの背景には、世界的な経済危機と新自由主義的なグローバル経済の行き詰まりがある。08年以来の世界経済危機は、緩やかな回復局面にはいったといわれている。しかし、新自由主義的政策の矛盾は覆い隠しようもなく、経済危機の今後の帰趨はきわめて混沌としている。
 各国政府は、一定の財政出動によって経済危機拡大の抑え込みをはかったが、景気拡大の最大のテコとなる労働者の賃金水準が落ち込み、雇用・失業情勢も一段と悪化した。にもかかわらず、各国政府は緊縮政策を打ち出し、内需の冷え込みを加速させており、「2番底」の危険も取りざたされている。アメリカ主導の新自由主義的政策の“ツケ”は大きく、その根本矛盾は一向に解決されていない。
 そうしたなかで、世界経済の構造が変化し、国際経済決定のあり方が大きく変わろうとしている。アメリカ中心の世界経済に転機が訪れ、実体経済の面で、中国、インド、ロシア、ブラジルなど新興工業諸国が力を持ち始めている。国際経済政策決定の場は、先進国中心のG8からG20に移り、新興国の発言力が高まっている。IMFの歴代専務理事はEUからという不文律の人事への異論が唱えられ、ここでも新興工業国発言が力を持つようになっている。
 これまでの新自由主義的政策を掲げるアメリカ中心の経済秩序は世界の構造変化に合致しなくなってきており、新興工業国を含めた新たな国際経済秩序を確立する方向に大きく転換しようとしている。世界もまた、日本と同様に重大な歴史的転機を迎えている。

4.労働運動の課題―大震災を通して改めて問われているもの

(1) ハローワークに人々が殺到

 今回の大震災では、直後から被災地のハローワークに人々が殺到する事態が発生した。自宅や職場、生活基盤のすべてを失った人々が、悲しみを癒す間もなく、新たな仕事や失業給付を求めなければならなかったのである。
 そのなかで、セーフティネットの欠如、雇用保障の貧弱さが改めて鮮明になった。質の悪い仕事をはびこらせないためにも、雇用保険制度の抜本的拡充をはじめ、対象外となっている非正規労働者や農林漁業民や中小零細業者などに対する失業扶助制度の創設など、失業・失職時の総合的な生活保障制度の確立が求められている。
 今回の大震災では、応急仮設住宅の建設の遅れなど住まいの確保もまた、重大な問題になっている。“住まいと仕事を”の運動は、被災地域に止まらず、労働組合と社会全体に課せられた緊急課題である。被災地での深刻な雇用実態が放置されるならば、日本全体の雇用が一段と劣化し、生活破壊がいっそう進行することは明らかだ。被災された人々の切実な思いを第一にした連帯、国民的共同が求められている。

(2) 問われる雇用の質

 国(厚労省)は、震災直後から寮付き、住み込みの仕事を全国的にかき集め、被災地のハローワークで紹介している。さらに、避難所に派遣会社等が窓口をおき、営業するための規制緩和等も行った。派遣会社が全国規模の派遣先紹介のチラシを持って避難所を回ったりしているが、「弱みに付け込んで、まるで人買い」などの批判の声があがっている。
 一方、被災地域以外では、震災の影響はとくに非正規労働者を直撃している。登録型派遣やアルバイトなどの場合には、呼ばれなければ賃金ゼロという仕組みが前提となっているため、ホテルや旅行業、飲食店などでは客の減少がそのまま、収入減に直結し、生活保護申請も増えている。
 雇用の「質」が強く問われている。被災者が派遣などの質の悪い仕事に飛びつき全国に散り散りになる事態を阻止することは、「住み慣れた地、ふるさとで元の生活を再建したい」という大多数の被災者の切実で当然の願いを実現する活動であり、復興・地域生成の土台を守ることでもある。それは同時に、質の悪い仕事のさらなる跋扈(ばっこ)を防ぎ、日本の雇用を守る課題である。そのためにも、派遣法の抜本改正など、不安定雇用に対する規制強化が求められている。

(3) まともな賃金を保障する雇用を

 いま、被災地では復旧・復興事業が本格化しつつある。しかし、多重下請けで実際の手取りは積算単価の2分の1、3分の1。また、自治体の臨時雇用も、数か月の短期雇用で、しかも低賃金というのが実態である。公的就労のいっそうの拡大など、仕事づくりを大きくすすめるとともに、公契約条例の制定や最低賃金の引き上げなど、まともな賃金、暮らせる収入を保障する取り組みの強化が求められている。
 同時に今、夏の節電対策が急ピッチで打ち出されているが、節電を錦の御旗に、土日操業・出勤や、朝6時、7時からの早朝操業などがなし崩し的に押しつけられている。中小企業の場合には、親会社や取引先への対応という側面もあり、とくに子どもや老親を抱える労働者からは「これでは働きつづけられない」という声も上がっている。震災という非常時だからこそ、雇用を守り、内需を拡大することが必要である。そのためにも日本の異常な長時間労働への規制強化など、働くルールを守り、まともな仕事を創出していく取り組みがいっそう求められている。

(4) 震災で明らかになった公務労働の役割

 東日本大震災は、自公政権、そして民主党政権と引き続いて推進されている地域主権改革の危険を改めて示すものとなった。同時に、震災とその復興の過程で、被災者の生活と復興なために懸命に奮闘する公務員の姿を通して、「全体の奉仕者」としての公務労働者の役割が明らかになり、公務労働の重要性が改めて浮き彫りにされた。「小さな政府」ではなく、公務労働の拡充こそ急務である。

(5) 原発労働が示す日本の労働の変革を

 福島原発事故の収束に大量の労働者が動員されているが、その実態の多くはベールに包まれている。しかし、徐々に深刻な問題点が社会に明らかになってきている。
 配管工などの新たな労働者は単身者が集められ、アパートにタコ部屋のように3人、4人と押し込められ、原発に働きに出ている。しかし、1日10数時間労働など劣悪な労働実態であり、安全管理も不十分で、健康不安の声が上がっている。使い捨て労働を許さず、人間らしい労働を実現していく焦点の課題として、取り組みの強化が求められている。

(6) 脱原発・自然エネルギーへの転換

 政府・財界はアメリカ追随の原発推進政策を改めようとしていない。福島原発事故をきっかけとして、脱原発の国民的世論が高まっている。原発から再生可能な自然エネルギーへの転換は急務である。日本の電力需要を抑制するためにも、国際的にみても異常な長時間労働をやめさせることが必要である。はびこるサービス残業、異常な長時間労働、夜間労働を規制することは省エネルギー社会へとつながるものであり、労働時間の短縮は、日本のエネルギー問題の解決にとっても重要な課題になっている。

5.イデオロギー闘争の強化

 財界・大企業とその利益を何よりも優先する悪政は、様々なイデオロギー攻撃をつうじて労働者や国民へ消費税増税などの負担増と賃金・雇用破壊などの受忍を強要しようとしている。また、東日本大震災を契機に「がんばろう日本」「日本はひとつ」などナショナリズムを煽るかのような宣伝と「震災復興」を口実に増税など「なんでもあり」の攻撃が強められ、新自由主義的構造改革路線か、住民参加で住民本位の復興かの争点を社会的に覆いかくす役割を果たしている。それらの多くは、大企業による広告料が大きな比重を占める商業新聞や民間放送などにより、労働者・国民をマインド・コントロールするごとく繰り返されており、これらにうちかつ学習・宣伝などのイデオロギー闘争が重要かつ不可欠になっている。

(1) 社会保障切り捨てと国民負担増をめぐって

 政府は「税と社会保障の一体改革」を政権の目玉政策としている。そこで示された「改革の方向性と具体策」によれば、社会保障は「自ら生活を支え、健康は自ら維持する『自助』を基本」に、「国民全員が助け合う『共助』が本来めざすべき姿である」。そして、「『自助』や『共助』では対応できないほど困窮に直面した国民に『一定の受給要件』の下で『公助』として最低限の生活を保障する」のが政府の役割としている。社会保障の基本理念をねじ曲げ、憲法25条にもとづく国民の権利も国が果たすべき責任も否定し、社会保障を戦前の「救貧対策」に後退させる暴論といわなければならない。
 また、「改革の基本方向」では「世代間公平」を冒頭にとり上げ、高齢者と現役世代を対立させて高齢者に負担増や給付削減を押し付け、医療・介護制度では患者の窓口負担の引き上げや介護保険料徴収年齢の引き下げ、年金制度では支給開始年齢引上げと高齢者の給付抑制の検討、生活保護制度の見直し等々など、自公政権時を上回る社会保障制度の改悪を拡大・加速しようとしている。
 同時に、「集中検討会議」や「政府税調」では、消費税増税先にありきで2015年度までに段階的に10%に引き上げることが検討され、内閣府などは政府自身がかつて認めていた「97年不況の原因は消費税引き上げなど9兆円負担増」を否定し、「消費税の逆進性はそれほど大きくない」「景気に悪影響はない」などの珍論まで展開して消費税増税の重要性と増税不可避論を強調している。
 重要なことは、社会保障制度の改悪や国民への負担増が、国家財政の赤字と東日本大震災の復興を口実に、不可避かつ当然選択すべきことというマスコミのキャンペーンに後押しされながら展開されていることである。したがって、これらの攻撃が日本の経済・社会と国民に何をもたらすのかを明らかにした反撃を強めると同時に、社会保障制度とは何か、憲法が規定する国の責任や国民の権利、欧州における企業の社会保険料負担の実態等々、私たちの見解を明確にした反撃が重要になっている。

(2) 国際競争力強化論と海外展開、コスト削減をめぐって

 労働者の切実な賃上げ要求などを否定する経営側の論理とされているのが、業績・支払能力論と同時に国内外の他企業との競争力強化論であり「コスト高回避」のための生産拠点の海外移転論である。また、財界・大企業は国際競争力を口実に法人税の実効税率の更なる引き下げや企業負担を軽減し国民に負担増を押し付ける消費税増税を主張し、政府も基本的にはこれを容認している。
 他方で、「成果・業績給」が導入・拡大で労働者・労働組合のなかでも「賃金とは何か」が曖昧にされ、わが国労働組合のほとんどが企業別労働組合であることも、経営側の国内外の企業間競争論などを前面に押し出した攻撃を敢然と反撃しきれない背景にある。
 したがって、財界・大企業の身勝手なイデオロギー攻撃や主張を職場や地域から反撃していくためにも、これらの攻撃が労働者の生活を脅かすだけでなく、企業や日本経済の未来を閉ざすものであることを明らかにし、そのなかで、賃金とは何か、搾取のしくみなどの基礎理論を労働者・労働組合のなかで再確認することや企業内労働組合の弱点克服の追求、企業の枠を超えた産業別や全産業的なナショナルセンターレベルでの統一した運動が重要になっている。グローバリゼーションを強調する日本の財界・大企業が意識的に無視している国際的に到達している働くルールや労働者の権利、EU諸国の日本よりはるかに短い労働時間やリストラ規制の社会的ルール、さらには税に社会保険料を加えた企業負担の実態、労働者の雇用や人権・労働条件改善に対する企業の社会的責任等をより大衆的にわかりやすく理解を広げていく学習・宣伝等の取り組みが極めて重要になっている。同時に、輸出偏重で成長至上主義、エネルギー大量消費の日本経済から内需や国民生活重視、大企業の身勝手を許さないルールある持続可能な経済・社会への転換を追求する国民世論の形成が重要になっている。

6.時代の要請に応える研究所プロジェクト

(1) 研究所プロジェクトが果たす役割

 今日、新自由主義的な経済政策の矛盾・問題点は多くの労働者・国民の仕事や生活を種々の局面で覆い隠すことのできないのになっている。もはや国民の多くは仕事や生活上の困難に耐え難い状態に陥り、このような状態に陥れた問題の根源に新自由主義的な政策であることが明らになりつつある。
 そのような状況にあることを十分承知しながらも、財界・民主党政府は、アメリカ政府の強大な影響の下に、あらゆる機会を狙って、新自由主義的な政策をさらに深化させようとしている。東日本大震災に際してさえも被災住民が切実に望む復興政策を新自由主義的にねじ曲げ、財界本位の復興計画を大増税の国民負担で強行しようとしている。
 このような時に必要とされているのは、労働者・国民の仕事や生活を長期に安定したものできる社会を形成する道筋を明白にすることである。研究所プロジェクトはそのような要請に有効に応えることを目的にしている。

(2) 新しい社会構築の今日的な意味

 研究所プロジェクトに求められるものは、今日の社会とは根本的に異なる新しい社会像を明らかにすることと同時にその新しい社会を構築する過程を具体的に明らかにし、新しい社会が実現可能であることを多くの国民に説得的に明示すことである。そのため、実現の工程を、具体的に時期を区切って、段階的に明示する。第1段階として2025年を設定し、それまでに実現すべき課題を明らかにする。
 2025年という時期区分は新しい社会を作っていく大切な一里塚であるが、同時にもし、新しい社会へすすむ努力がされなければ、日本社会が陥る危機を示す指標となるものである。

(3) 求められる社会像の基本的な骨格

 求められる社会像についてはすでに、牧野報告(「労働総研ニュース」No.254、2011年5月号)でそのフレームが明らかにされている。報告は「人間的な労働と生活」の基本に欠かせない要素として(1)「経済的ゆとり」、(2)「時間的ゆとり」、(3)「心身の健康」を指摘している。それを担保するものとして(1)雇用の安定、(2)頼りになる社会保障が不可欠としている。
 この大枠をさらに詳細なものに仕上げ、新しい社会では仕事や生活はどのようなものになるかを具体的に描き、それを可能とする経済的・政策的な仕組みを目に見えるようなものとして、新しい社会像を説得的なものとして国民に示し、実現する運動の必要性を明らかにしなければならない。

(4) プロジェクトを完成させる条件

 このような内容のプロジェクトを完成させる条件を労働総研は十分に保持している。研究所がこれまで重要な時点のそれぞれで行ってきた研究活動、政策活動の成果の積み上げがあり、これらを有効に活用し、研究所の総力を結集して行うことができるなら、この課題をやり遂げることができる。本プロジェクトの完成は社会的な要請となっている。

III.2011年度の事業計画

1.研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」

(1)最終報告の作成

 08年定例総会で設定された研究所プロジェクトは牧野富夫代表理事を責任者として、プロジェクト推進チームの下に8作業部会を設置して活動してきた。これまでの研究成果の大枠について「労働総研ニュース」(No.254、2011年5月)の牧野報告でまとめられた。
 今期は、最終報告をまとめる。今総会で大枠についての合意を得た上で、最終報告の作成作業に着手する。完成時期は本年末を目標とする。
 まとめの作業にあたっては、まだ発足していない財源保障、提言実現の運動課題の作業部会を発足させ、秋を目途にすべての作業部会が研究成果をまとめ、それを最終報告に生かし、プロジェクト推進チームを中心に報告書を作成する。

(2)研究成果の活用

 最終報告書は、広く活用可能なものとする。そのため最終報告書を簡潔にまとめた「ブックレット」も発行する。
 各作業部会の研究成果はその性格に相応しい形態で広報し、最終報告の有効活用に役立つようにする。
 最終報告についてはシンポジウム等による報告会を開催し広く活用されるようにする。
 最終報告をはじめとする研究成果を基盤として新しい調査・研究を発足させて、最終報告の一層の具体化をはかる。労働運動等で、情勢の各局面で活用できるものにする。

2.共同プロジェクト

(1)全労連、地域労連、単産などとの調査活動の積極的推進

 「地域政策プロジェクト」の最終報告の完成を促進し、その成果の有効活用に努める。
 労働運動の直面する課題に関連して、新しい情勢に適合した課題に即応できる調査・研究活動を積極的におしすすめる。

(2)「組合員モニター調査」

 全労連と労働総研が連携して、組合員の意識調査を機動的に実施できる体制の整備をおこない、恒常的に意識調査が行える体制を早急に確立する。
 支配階級による強力なイデオロギー攻撃が行われている中で、一層科学的な運動方針・政策づくりが必要とされている。科学的な運動方針、政策を作成するには正確な彼らのイデオロギー状況の把握は欠かすことができない。そのための貴重な資料の作成にかかわり「組合員モニター調査」はなくてはならないものである。

3.研究所の政策発表

 政治・経済情勢、労働運動の直面する課題などに適切する、適切な内容の政策発表を行っていく。
 さしあたっては、東日本大震災に際して発表した提言について、いっそうの充実を図る。このなかでは、政府・財界サイドの復興提言は、我々の発表した政策とは異なった方向をめざしており日本の将来にとって看過できない重大な問題を含んでいることから、その批判をおこなうと同時に、被災現場や関係諸団体との必要な共同を行い、被災現場とかみ合った提言の具体化をすすめる。

4. 研究部会

 各部会内部の研究活動を活発化するとともに、研究所プロジェクトの報告書完成を前に、プロジェクトと研究部会の関係を一層綿密なものにし、研究部会の研究成果がプロジェクト研究に即座に反映されるようにする。
 同時に研究部会間の共同、研究交流会などの活発化をすすめる。公開研究会を開催して、研究部会外部の人の問題意識なども積極的に取り入れて研究活動を推進する経験も生まれているが、そうした活動を前進させる。

5.研究例会

 労働運動の直面する課題などについて全労連を中心とする労働組合と共同して行う研究会として、常任理事会が中心にその推進に努める。

6.研究交流会

 プロジェクト・研究部会、研究部会間の研究交流をすすめる。

7.E.W.S(English Writing School)

 経済のグローバル化が進むなかで、日本の労働運動の成果を国際的に発信する役割が重要になっている。英語ライティング教室(EWS)は全労連および加盟労働組合の国際的な情報発信のための英語の書き手の育成をめざして一定の成果をあげているが、引き続き若い活動家の参加を重視して取り組む。

8.若者の仕事とくらし研究会

 若手研究者研究会の名称を変更して活動を続けている、労働総研の中では比較的に若年のメンバーを中心とした研究グループになっている。比較的若手であることをいかして、学生の労働組合観の実態調査を進めてきている。さらに若手労働組合員の調査も進め、労働組合の将来の担い手層の実態調査を進めてきている。労働組合の世代交代が進む中では貴重な研究になっている。学生の労働組合観の調査は定番的な調査として継続し、調査結果を体系化する。

9.大企業問題研究会

 東日本大震災を契機にして、大企業職場ではさまざまな変化が生まれている。その背景には、円高や大震災を口実にして新たな強蓄積を図ろうとする財界戦略がある。大企業の労働者支配の実態を明らかにすることをとおして、財界戦略の問題点を明らかにし、大企業労働組合の階級的民主的強化の条件を探り、日本の労働組合運動の発展方向を探求する。

10.研究成果の発表・出版・広報事業

 「労働総研ブックレット」の刊行を開始する。刊行は厳しい出版事情の下での出版なので、刊行委員会を中心に内容の準備を周到に行い、刊行が労働運動の発展に有効であるとともに、財政的にも貢献できるようにする。そのために、会員全員に普及のお願いをするなど、労働総研全体の力を結集して「ブックレット」を安定的に刊行できるようにする。
 「労働総研クォータリー」の発行も、定期的な発行と、より強力な宣伝・広報の下で、会員以外への普及を強化して労働総研の存在感を高める。
 「労働総研ニュース」は、調査・研究活動の前進に寄与できるように内容を改善・充実させる。そのために、研究部会の研究動向など、労働総研の研究・調査活動がどのように進んでいるかが交流できる紙面にする。また、引き続き、会員相互の情報交換も重視する。
 「労働総研ジャーナル」は年2〜3回発行することを基本とし、日本の労働運動の情報を国際的に発信していく。

11.産別会議記念労働図書資料室

 (財)全労連会館の努力で労働図書資料室として活用できる条件は大きく発展している。資料を有効活用するために労働総研として関わっていく必要がある。

IV.2011年度研究所活動の充実と改善

1.会員拡大

 労働総研の研究活動の広報が強化されているのを活用し、シンポジウム、各種研究会など労働総研の具体的な研究活動を通して会員の拡大を図る。

2.読者拡大

 「労働総研クォータリー」「労働総研ニュース」の定期的刊行、宣伝の強化など通じてより広範な人に普及を行なう。

3.地方会員の活動参加

 労働総研のシンポジウムや公開研究会への参加を呼びかけるとともに、「労働総研ニュース」などへの寄稿により、会員相互の交流の活発化を図る。

4.事務局体制の強化

 ボランティアの力も活かして、事務局活動を強化してきたが、事務局としてさらに、「組合員モニター調査」や「労働総研ブックレット」刊行委員会、「労働総研ジャーナル」編集スタッフ会議などの円滑な運営のために機動的に支援する体制を強める。

5.顧問・研究員との意見交換会の開催

 20年余の歴史を持つ労働総研が、設立当初の経験・教訓を活かし、意識的に継承・発展させていくためにも、顧問・研究員の制度の活用は欠かせない。顧問・研究員との意見交換会も昨年初めて開催し、意義あるものとなった。引き続き適切な時期に開催する。


2010年度第1回理事会報告

 2010年度第1回理事会は、2011年6月4日13時30分〜17時、全労連会館会議室にて開催された。冒頭、大須眞治事務局長が第1回理事会は規約第30条の規定を満たしており、会議は有効に成立していることを宣言した後、熊谷金道代表理事の議長で議事は進められた。
 事務局長および藤田宏事務局次長より、2011年度定例総会方針案について提案された。
 討論がおこなわれ、理事会での討議を踏まえて、常任理事会において整理して完成させることが確認された。

2010年度第6回常任理事会報告

 2010年度第6回常任理事会は、2011年6月18日13時30分〜16時、全労連会館会議室にて、熊谷金道代表理事の司会で行われた。

I 報告事項

 藤田宏事務局次長より大企業問題研究会について、また中澤秀一常任理事より若者の仕事とくらし研究会について報告された。その他、事務局より、前回常任理事会以降の研究活動や企画委員会・事務局活動などについて報告された。
 報告事項は、それぞれ報告どおり承認された。

II 協議事項

1)大須眞治事務局長より、入会の申請が報告され、承認された。
2)牧野富夫代表理事より研究所プロジェクトについて提案され、討議の上、承認された。
3)事務局長および事務局次長より第1回理事会での討論をふまえて文章化された2011年度定例総会方針案が提案された。討議をおこない、討議に基づいた文書修正をおこなうことを確認した。

6月の研究活動

6月4日 若者の仕事とくらし研究会
12日 大企業問題研究会
13日 労働組合研究部
22日 国際労働研究部会
研究所プロジェクト労働時間作業部会
24日 女性労働研究部会
28日 賃金最賃問題検討部会

 

6月の事務局日誌

6月1日 全労連会館開館10周年レセプション
4日 2010年度第1回理事会
労働者教育協会総会へメッセージ
15日 (財)全労連会館理事会
18日 2010年度第6回常任理事会