労働総研ニュースNo.255 2011年6月



目 次

日本航空不当解雇撤回裁判の現在 内田妙子
「世界の労働者のたたかい」2011年の概観 斉藤隆夫




日本航空不当解雇撤回裁判の現在

内田 妙子

 日本航空の客室乗務員84名と運航乗務員81名が2010年大晦日に整理解雇されて5ヵ月が経過した。更生計画にある人員削減目標に達しなかったため解雇したと主張する日本航空を相手に、2011年1月19日、72名の客室乗務員と74名の運航乗務員が地位確認・賃金支払いを求めて、東京地裁に提訴した。

 両訴訟のいずれも3回の口頭弁論が終了し、原告及び原告代理人から意見陳述を行った。第4回目の口頭弁論は、6月27日と7月8日に予定されている。運航乗務員の裁判が先行し、被告側は、解雇予告通知当事者の管財人代表・片山英二他3名を、原告側は稲盛和夫会長、醍醐聰東大名誉教授他原告2名を証人申請した。6月9日の進行協議を踏まえ、7月以降、争点整理・証拠調べに入ることが決まっている。裁判は異例の早さで進んでおり、客室乗務員も6月15日に進行協議が入っていることから、両訴訟とも年内の結審、来年早々の判決も視界に入りつつある。

 この間、私たちは、整理解雇4要件のいずれも満たさない極めて不当な解雇であることを立証してきた。準備書面で、(1)人員削減目標1,500人は解雇通告時点の12月9日に達成(1,696人)し、更生計画の営業利益(641億円)も4月〜11月の実績(1,460億円)で大幅に上回っていた、(2)回避努力は一切なされていない、(3)不合理で恣意性のある年齢基準と病気基準であった、(4)労使交渉も形式的であった等、事実と経緯に基づき述べている。

 同時に、経営破綻の原因は、(1)米国からの圧力による大量の航空機購入(ジャンボ機113機)の負担、(2)航空行政による需要を無視した地方空港乱立と路線の維持及び公租公課の負担、(3)歴代経営陣による放漫経営(ドル先物買い損失2,200億円・ホテル事業投資の失敗等)、等にあったことと、被告が主張する人件費にないことを解明してきた。

 利潤第一主義の更生計画により、整理解雇が強行された。その結果、機長55歳以上、副操縦士48歳以上、客室乗務員53歳以上が職場から追われ、安全運航のために物を言うベテラン乗務員が排除された。航空法第1条が求めている公共の福祉の増進(安全運航と利用者の利便の増進)に逆行している更生計画を改め、「安全性と公共性」最優先の再建としなければならない。この不当解雇撤回裁判は、航空労働者の大義をかけた、たたかいである。

(うちだ たえこ・会員・日本航空キャビンクルーユニオン執行委員長)

「世界の労働者のたたかい」2011年の概観

斉藤 隆夫

 2010年、欧州では、ギリシャの財政危機表面化をきっかけに「緊縮財政政策」の嵐が吹き荒れた。ギリシャでの公務・公共部門の賃金凍結をはじめとして、イギリス、ドイツ、イタリアなどでも公務・公共部門の人員削減が打ち出され、多くの国で年金支給開始年齢の引き上げが強行されるなか、各国で大規模なたたかいが展開された。税制面では付加価値税が引き上げられる一方で、スペイン、ポルトガルのように富裕層に対する増税措置が採られた国もあった。米国では、オバマ大統領は積極的財政出動の姿勢を崩してはいないが、労働者の利益をめざす政策は期待されたような成果をあげていない。

 一方、中国、それと連携関係を強めているASEAN諸国、インド、ブラジルなど新興国は、いち早く景気後退局面を脱し、高い経済成長率を回復しているが、同時に所得格差の拡大も進行しており、中国のように低所得労働者の賃上げを求める自然発生的ストライキなども起こっている。そのなかで政府による労使関係の現代化に向けた動きもみられる。

 賃上げのたたかいは、ドイツでは雇用防衛を優先する姿勢からこの年前半には控えられていたが、後半になると活発に取り組まれ、一定の成果も上げた。イタリアでは、昨年来政府・経営者による労働協約制度改悪の攻撃が強まっているが、商業、建設部門等では組合間の路線の違いは克服され、賃金購買力の維持に成功している。

 雇用防衛のたたかいでは、グローバル化に伴う企業の海外移転=国内工場の閉鎖に反対するたたかいが、イタリアのフィアット、ベルギーのオペルなどで厳しい局面を迎えている一方、ドイツではIGメタルと自動車・家電企業などで企業都合の解雇を1年間は行なわないとの合意に至るなど、雇用防衛のための労使共同の努力も続いている。

 労使関係分野では、米国の「従業員自由選択法」案は下院を通過したものの、共和党と経営者の強い反対の前に成立が困難な状況にある。ドイツ、イタリア、スペインでは産業別協約の適用除外を求める経営者の動きが強まっている。

緊縮財政政策反対・経済成長促進と雇用増を求めるたたかい

 ギリシャの財政危機表面化をきっかけに欧州のほとんどの国でとられた緊縮財政政策は、イギリスで49万人、ドイツで1万人、アイルランドで2万4750人(そのほかイタリアでも5人に1人の退職者不補充)など公務・公共部門の人員削減策を含むとともに、この部門の賃下げ(スペイン、ポルトガル)・賃金凍結(ギリシャ、イタリア)のほか、年金支給年齢の引き上げや社会保障支出の削減を打ち出した。税制面では付加価値税の税率を19%から23% に引き上げる決定をしたギリシャをはじめ、ポルトガル、アイルランドでも付加価値税税率が引き上げられた。一方、高額所得者の所得税率を引き上げた国(フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル)もあった。こうした政策に反対し、経済成長を促し雇用の増加をもたらす政策を要求して、7回に及ぶゼネストを実施したギリシャをはじめ、8つのナショナルセンターの統一行動を中心とした年金支給開始年齢引き上げ反対で6回のデモ( 参加者は合計で3000万人規模 )を組織したフランス、抗議のストライキに公務・公共部門労働者260万人のうち75%が参加したスペイン、約30万人がデモに参加したポルトガルなど多くの国でたたかいが激化した。ルーマニア、チェコでも抗議行動が行われ、9月29日には、欧州労連の呼びかけによる「欧州統一行動日」がブリュッセルでの「中央行動」をはじめ各地で展開された。この日の統一行動にはスペイン、ポルトガル、イタリア、セルヴィア、フランス、ドイツ、ポーランド、フィンランド、ルーマニア、チェコなど30ヶ国の約50の労働組合が参加した。

 米国では、オバマ大統領は積極的財政出動の姿勢を維持しつつ、「労働者の利益」になるようにと雇用増、医療保険改革に取り組んだが、困難に直面している。雇用面では75万の新規雇用を生み出したが、二桁に近い失業率の改善には程遠い状況である。医療保険改革では、当初提案していた「パブリック・オプション」( 国の予算で低所得者の保健を助けるプラン)を共和党の強い反対の前にひっこめ、民間の保険を誰もが購入できるよう低所得者に対し助成措置をとる内容の「患者の保護と手ごろな医療」法案に修正せざるを得なかった。社会保険に対するアメリカの財界・保守層の反感の強さが改めて浮き彫りになった。

 世界経済危機からいち早く回復したブラジルでは、国内需要に支えられてGDPが前年比6.7%の増加を記録し、それに伴い雇用状況も改善した。1992年に統計を取り始めてからもっとも大きい252万の雇用が新たに創出された。ルラ革新政権の8年間で、最貧困層の所得は5倍化し、最低賃金も引き上げられ、雇用の中に占める正規雇用の割合は2004年の36.1%から2008年の40.9%と増えた。これは政府の一連の革新的政策とともに労働組合の団体交渉の成果でもあると指摘されているが、こうした積み重ねのなかでのいち早い経済回復・雇用増であることが注目される。

 11月4〜19日に開催されたILOの会合では、国際労働組合総連合(ITUC)書記長が、真の課題は賃金主導型回復戦略を通じた雇用創出とすべての人への社会的保護の拡大であるにもかかわらず、財政緊縮に焦点が当たっている危険性に言及した。

工場閉鎖・人員削減反対、不安定雇用規制のたたかい

 イタリアのフィアットでは、社長マルキオンネの会社再編構想に基づき、テルミネ・イメレーゼ工場の閉鎖を含む3500人の人員削減プランが発表され、組合は国内工場の閉鎖につながらない企業再編をもとめるたたかいを進めている。たたかいはポミリアーノダルコ工場での労働条件悪化、ストライキ権否認を盛り込んだ「ポミリアーノ」協定がCgil=Fiomの反対にもかかわらず、経営側と他のナショナルセンター系2金属機械組合によって署名されたことによって、困難な状況にある。

 ゼネラルモーターズの子会社ドイツ・オペルのベルギー工場閉鎖の決定に直面した労働者は、会社側の一方的決定を批判し抗議行動を強めた。オペルの最高経営責任者は「閉鎖はビジネス環境の厳しい現実の一部だ」として、生産ラインを韓国に移転する方針を示した。同社は経営の安定化を理由に約5万人いる従業員のうち欧州全体で8300人を解雇する計画で、昨年来各国で反対運動が取り組まれていたが、2010年5月に至って、親会社GMと従業員の間で従業員側の拠出も含めて、新小型車生産の投資を進めることで合意が形成された。

 イギリスのブリティッシュ・エアウェイズでも、1700人の人員削減や社員のパート化、長距離フライトの乗員削減などに反対するストライキが、3月から6月にかけて22日間にわたり展開された。会社側はストライキ参加労働者への懲罰的措置をとり、労使対立は収まる気配をみせていない。

 スペインでは、個別解雇および整理解雇の規制緩和などを含む「労働市場改革」緊急措置に関する法律の国会承認に対して、フランコ独裁政権崩壊=スペイン民主化以来7回目のゼネストが決行された。全国の空港が機能を停止したほか、主要都市内のバスもほとんど運休し、高速鉄道が80%運休するなどした。ニュージーランドでも、雇用開始から90日以内の解雇は労働者側からの不服申し立て権をなくす「解雇法制」改定案が政府によって提案され、組合の抗議行動・ストライキがたたかわれた。

 他方、ドイツ、イギリスなどでは、派遣労働者の均等待遇をめぐる前進も見られた。ドイツでは、2004年、派遣労働者にも同一労働同一賃金を保障する法律が施行されたが、この法律は労働者側と使用者側が労働協約を結んだ場合を例外としていた。このため、キリスト教系労組が使用者団体と安い賃金の協約を結び、派遣労働者の低賃金固定化の原因となっていた。統一サービス産業労組などの提訴を受けて、2010年12月14日、ベルリン労働裁判所が出した判決は、キリスト教系労組の結んだ労働協約を「同一労働同一賃金の原則からあまりにもかけ離れている」として無効を宣言した。判決は約28万人の労働者に影響すると言われている。このほか、鉄鋼部門の組合が労働協約改定闘争で派遣労働者の正規との同一労働同一賃金要求を掲げ、実現している。

 イギリスでは、派遣労働者規則が国会に提出された。派遣労働者は就業開始から12週後には、賃金、休暇、休憩などについて派遣先労働者と同等の権利が保証されるという内容で、2011年10月1日から施行される見通しである。

 派遣労働は、ロシアでも問題になり始めている。絶対数は労働者総数の0.2%程度と他の先進国と比べて大幅に少ないが、正社員より安い賃金で、社会保険にも加入できずに「コスト削減」要員として利用されている。労働協約の適用からも外されている。この状況を解決するため、ロシア独立労組連盟副議長で、与党=統一ロシアの下院議員イサエフ等は「派遣労働、アウトソーシング禁止」法案を提出した( 法案審議は11年2月末現在始まっていない )。

賃上げ・最低賃金引き上げのたたかい

 前年の経済成長率がマイナス値を記録するなか民間部門では賃上げのたたかいが抑制されたドイツでも、公務員労組は年初から大幅な賃上げを求めて活発なたたかいを展開し、2.3%の賃上げを獲得した (要求額は5%)。年の後半には、景気の回復をうけて金属機械部門の自動車・電機・鉄鋼、ルフトハンザ、鉄道などで賃上げのたたかいが取り組まれ、成果をあげた。イタリアでも、労組間で路線の違いが明らかになるなか、昨年金属機械部門では賃金購買力削減につながる協約が結ばれたが、その後建設・商業などの部門では組合間の足並みの乱れが見られたものの、最終的には統一協約を実現し一定の成果を挙げている。

 ブラジルでは、フォード、フォルクスワーゲンなどの外資系自動車企業や銀行業で賃上げが相次いでいる。とりわけ自動車部門ではこれまでで最高の10.28%の賃上げがかちとられた。世界最大の銅の産出国チリでも、銅の国際価格の高騰による顕著な景気回復がみられるなか、鉱山労働者の賃上げのたたかいが取り組まれた。公務部門でも30万人以上の労働者が3週間にわたる断続的なストライキをたたかい、4.2%の賃上げを獲得した。アルゼンチンでは、経済危機からの回復が見られたもののインフレ率も高率で、さまざまな産業で多くの組合が30% を上回る賃上げを要求してストライキや道路封鎖などの実力行使を展開した。南アフリカでも100万人以上の公務員が賃上げを要求してストライキに立ち上がった。学校が閉鎖され、裁判所の審理が延期されるなどの影響が出た。

 このほか個別企業レベルでは、ロシア・フォード、イギリスのロイヤル・メール、ドイツのフォルクスワーゲンなどで賃上げが実現している。南アフリカのトヨタ、日産を含む自動車メーカーでは賃上げ要求の無期限ストがたたかわれている。

これまで業種別最低賃金制を適用してきたマレーシアで包括的最低賃金制導入の議論が本格化している。マレーシア労働組合会議は、長年、最低賃金および貧困ライン以下で生活する人々のための生活手当を要求してきたが、2010年、政府は最低賃金に関する新法の次期国会への上程の方針を決めた。だが、マレーシア日本人商工会議所は賃金は市場にゆだねるべきとの基本姿勢を示している。最低賃金の引き上げは、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、チリなどで実現された。

労使関係改善・ストライキ規制反対のたたかい

 米国では、2009年3月にEFCA (従業員自由選択法案) が議会に提出されたが、審議は進んでいない。法案の中心的内容は「カードチェック方式」といって、労働者が組合に加入して組合員カードを受け取り、その数が半数を超えれば、全米労働関係委員会はそれを承認しなければならないというものであるが、経営側はこの方式を認めれば「民間部門で、労働者が秘密投票によって労働組合を結成するかどうかを決定する権利を奪ってしまう」などといって、反対している。2011年からの新議会でのこの法案の通過は困難な状況にある。

 ロシアでは、政府諸機関が組合との建設的な協力、真のパートナーシップ体制を回避し、労働者の正当な権利をそこない、労働組合を弱体化しようとしているなかで、また、労組活動家の解雇が相次いでいるなかで、組合が求めていたILO135号条約(企業における労働者代表はその地位や活動を理由とする解雇を含む一切の不利益取り扱いからの効果的な保護を享有すべき等を定める) が下院で批准された。

 緊縮財政政策への労働者のたたかいが激化の様相をみせているイギリスでは、企業家団体や保守政治家から、ストライキの規制を求める声がでている。英国産業連盟は9月に発表した報告書で、投票率が50%を超え、うち40%以上が賛成票を投じることをスト権確立の条件とすべきだなどと主張している。イタリアでは、大規模な企業再編に取り組もうとしているフィアットで、新製品生産による雇用維持の代償として労働強化とあわせてストライキを制限する「ポミリアーノ協定」が労使の間で結ばれた。Cgil=Fiomは「労働者憲章法」の侵犯だとして反対運動を強めている。

 産業別協約の規制を逃れようとの経営側の動きは、ドイツでは以前から、イタリアでは昨年来強まっていたが、2010年、スペインでも企業別協定容認の「規制緩和」が進められた。ギリシャでは、財政再建計画実現に向けた施策の一環として、「労働協約における有利原則」( 全国協約を上回る企業・会社レベル協約内容の適用 ) 廃止が強行された。

 スウェーデンでは、2006年についで2010年にも穏健党を中心とした右派連合が選挙で勝利するなか、政府が失業保険基金への助成金を減らし、労働者の一部負担金を引き上げたため、失業保険基金は多くの会員を失った。労働組合の組織率も80%から70%未満へと下がっている。

 メキシコでは、「保税輸出加工区」( マキラドーラ )で多くの労働者が低賃金かつ無権利状態で働かせられているため、「マキラドーラ正義連盟」その他の労働団体がILOに結社の自由と団体交渉権の侵害を提訴した。こうしたなか、与党国民行動党によって労働基本権を大幅に制限する労働法制改悪が企画され、中道左派政党・民主革命党が対案を出すなど労働法制問題が政治の中心的な争点になった。労働組合は体制側のナショナルセンターも独立系の労働組合運動も一致して改悪に反対している。ベネズエラでは、最大のナショナルセンターUNETEが労働者をすべて正規雇用とすること、法定労働時間を8時間から6時間に短縮することなどを盛り込んだ抜本的な労働法改定を主張する一方、チャベス政権が推進する「ボリーバル革命」に即して、企業の国有化と国営企業の経営への労働者参加を求める運動を強めている。

 2008年の王政崩壊後、連邦民主共和国となって新憲法制定作業が開始されたネパールで、ネパール労働組合総連合などの呼びかけで組織されたメーデー集会が開催され、労働者本位の憲法制定、社会保障システムの構築、結社の自由を定めたILO87号条約の批准、現行労働法の改正などの要求を掲げたデモ行進が行なわれた。

 コロンビアでは依然として軍隊および非正規軍隊( パラミリタレス ) による労働組合の活動家殺害事件が続発している。2010年9月までに36人の組合活動家が殺害され、前年同期の26人からさらに増えた。世界で殺害された労組活動家の6割はコロンビアであった。

社会主義をめざす国での労働者のたたかい

 2010年、前年比10.3%のGDP増を記録し、世界第二位の経済大国となった中国では、都市・農村の所得格差に加えて、労働者間の所得格差が社会問題となった。とりわけ農民工の賃金は同じ仕事をしている都市労働者の半分ないし3分の1とされている。こうしたなか、5月中旬から7月にかけて、中国各地の外資系企業でストライキが多発した。そのため約2ヵ月で少なくとも43社が操業や生産の一時停止に追い込まれた(うち7割が日系企業 )。これら争議の主役は農民工の若者で、中華全国総工会の組織が指導したものではなく、自然発生的ストだった。

 総工会は、このストライキの広がりに合わせて、「労働者陣営と社会の安定のための活動をいっそう立派に行なうための意見」を発表し、全国の各級労組に通達した。「意見」は組合がとくに現場労働者の権利擁護のために役割を発揮し、広範な労働者の尊厳ある生活を保障し、ディーセントワークを実現すべきことを強調していた。総工会の王主席は、「企業発展と労働者の権利擁護」を結びつけることを労組活動の原則としつつ、各企業で団体交渉を行って、賃金水準を科学的・合理的に設定し、労働者とくに低収入の労働者の賃金を引き上げる必要があると強調した。また、総工会は企業に労働契約を結ばせることや「賃金条例」の制定促進を課題として提起した。

 一方、中国政府は、「賃金条例」制定を急ぎ、2010年中に成案をほぼ固めたが、年内には公布に至らず、年送りとなった。その内容は『同一労働同一報酬』の原則を明記、政府が定期的に賃金ガイドラインを提示し、賃金水準をマクロコントロールするというものであった。地方政府が決定する最低賃金の引上げは、2010年には30の行政区で平均22.8%引き上げる大幅なものとなった。

 08年来の世界的金融・経済危機から他のアジア諸国とともに早期に回復過程に入ったベトナムでは、物価上昇が深刻な問題になっている。政府は最低賃金引き上げによって労働者、市民の生活を守ろうとしているが、実状に追いついていない。こうしたなか、2007年来減少傾向にあったストライキが、2010年に入って再び増加の傾向を示した。特に、台湾系、韓国系、日系などでの多国籍企業での山猫ストが多い。その背景には外資系企業で労働協約が守られず、組合も認められない場合が少なくないという事情があるが、政府・労働総同盟の取り組みにもかかわらず、労働協約の締結、団体交渉制度の確立などでの遅れも見逃す事はできない。

(さいとう たかお・常任理事・国際労働研究部会責任者)

*全労連編集・発行の年報『世界の労働者のたたかい2011〜世界の労働組合運動の現状調査報告17集』が刊行されます(発売・学習の友社03-5842-5641)。執筆には、労働総研国際労働研究部会のメンバーが協力しています。

2010年度第5回常任理事会報告

 労働総研2010年度第5回常任理事会は、全労連会館で、2011年5月22日(日)13時30分から16時まで、熊谷金道代表理事の司会で行われた。

1.報告事項

 大須眞治事務局長より地域政策プロジェクトについて報告された。

 藤田宏事務局次長より、緊急提言『雇用と就業の確保を基軸にした住民本位の復興―東日本大震災の被災者に勇気と展望を』、緊急提案『国民生活と経済活動を混乱させる「計画停電」をやめ、政府の責任で、電力の供給力確保と大口需要家の電力規制を』(4月22日発表)、『公務員人件費を「2割削減」した場合の経済へのマイナス影響と、その特徴について』(5月19日発表)について、および大企業問題研究会について報告された。

 その他、事務局より、前回常任理事会以降の研究活動や企画委員会・事務局活動などについて報告された。

 報告事項は、それぞれ報告どおり承認された。

2.協議事項

(1) 牧野富夫代表理事より研究所プロジェクトについて提案され、討議の上、承認された。

(2) 事務局長および事務局次長より2011年度定例総会議案骨子について提案され、討議の上、第1回理事会に提案する議案骨子が承認された。

(3) 事務局次長より「労働総研クォータリー」編集委員会の報告がされ、討議の上、承認された。

5月の研究活動

5月9日 労働組合研究部会
中小企業問題研究部会
19日 研究所プロジェクト労働時間作業部会
20日 研究所プロジェクト社会保障作業部会
24日

労働時間・健康問題研究部会
研究所プロジェクト心身の健康作業部会

27日 女性労働研究部会
31日

賃金最賃問題検討部会
研究所プロジェクト賃金政策作業部会

5月の事務局日誌

5月1日 メーデー
14日 「労働総研クォータリー」編集委員会
19日 『公務員人件費を「2割削減」した場合の経済へのマイナス影響と、その特徴について』記者発表
21日 自治体問題研究所総会へメッセージ
22日 第5回常任理事会