労働総研ニュース No.246 2010年9月



目   次

労働運動総合研究所
 アニュアル・リポート〜2009年度
2010年度定例総会報告他




労働運動総合研究所

アニュアル・リポート〜2009年度


「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」

責 任 者 牧野 富夫

メンバー人数

5名(推進メンバー)

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
 90年代後半以降、著しく悪化した「労働と生活」の現状を分析し、その直接・最大の原因である新自由主義的構造改革の「悪魔の2つの手」(「小さな政府」と「規制緩和」)をしばり、人間的な労働と生活を実現するための政策と運動課題を明確にすること。

(2)年度期間中に明らかになった論点
 「人間的な労働と生活の新たな構築」を図るためには、「3つの要件」が必要になる。それは、(1)経済的ゆとり(雇用・賃金・社会保障などに関係)、(2)時間的ゆとり(生活時間・労働時間・働き方などに関係)、(3)心身の健康(労働時間・労働密度・労務管理などに関係)であり、それぞれ一定水準をクリアしていなくてはならない。

(3)これから解明すべき論点
 「3つの要件」を縦糸に、プロジェクト研究の柱を明確にして、「人間的な労働と生活の新たな構築をめざす」政策提言をまとめる。その基本視点は、「悪魔の2つの手」をしばるという基本的見地に立って、「小さな政府」ではなく、国の再分配機能の適正化による国民サービスの充実とともに、強欲な資本蓄積要求の下で生まれる労働者の切実な要求から出発し、横暴な資本蓄積の規制を図るという2つの面から接近するということである。

(4)その他
 プロジェクトチームの下に、プロジェクトの柱にもとづく作業部会を設置し、10年中に作業部会の第一次報告を受け、2011年1月には提言中間報告を発表し、2011年度総会をめざし、提言最終報告をまとめる。

*課題解明の手法
 「人間的な労働と生活」が新たに構築された状態のイメージを明確にし、その実現のためには順次なにをすべきか、プログラムを示すという「バックキャスト手法」をとる。

賃金・最低賃金問題検討部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

日本における市場賃金の実態と課題―均等待遇の前提条件の解明

責 任 者 小越洋之助

メンバー人数

9名

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
 テーマは男女の均等待遇問題とそのあり方である。これには従来から存在している正規女性の賃金差別問題があるが、今日では正規・非正規の均等待遇の在り方にまで広がり、著しく現代的、トピカルなテーマとなっている。だがアプローチの仕方では正規と非正規が対立するテーマでもあり、この課題に接近することは容易ではない。
 そこでは職務給導入を推奨する議論、パートの内部労働市場化をすすめる議論、成果主義賃金化の評価、正規と非正規は雇用形態の区分の差異から同一処遇にできるかなど、議論は錯綜し、混迷している。他方でILOでは男女賃金格差が縮小しない日本の状況で同一価値労働同一賃金を勧奨している。ここでの課題をEUの現状を認識しつつ、日本の賃金体系の実態などに即して明らかにしつつ、混迷する議論を整理し、あるべき政策展望を検討することである。

(2)年度期間中に明らかになった論点
1)正規女性の正規男性との均等待遇の在り方について
2)正規・非正規の均等待遇の在り方
*とくに2)は容易ではないこと。理想は語れても現実の対応はどうか、という論点。
*これには職務給導入により均等待遇が可能との議論があり、運動に影響を与えているが、
*職務給化だけで両者の利害調整はできるかという疑念、
*職務給化が成果主義化の構成要素となっている民間賃金の現状との関係、
*日本企業の多くで職能資格制度という「人基準の人事体系」が残存している状況、
*正規の働き方の現状と非正規の働き方の状況を職務基準で集約できるかなどの論点もある。さらに非正規労働者は派遣や請負とパート、契約社員として分断されている問題。
暫定的な意見・結論として
*正規・非正規の均等待遇として、労働者の生活費を重視すること
*外部労働市場の賃率規制の意義(産業別横断賃率、最低賃金制・公契約など)が問題意識に加えられるべきとの主張があった。

(3)これから解明すべき論点

 このテーマでの研究成果について、部会としてではなく、個人ごとに、その執筆者の責任で主たる論点をディスカッションペーパーとして公表し、同時に不十分で検討を要する論点や残された論点を整理する。
 なお、このテーマは賃金論だけでなく、生活面では社会保障などの労働力再生産費の社会化問題とも関連するので、より視野を広げて研究する必要がある。

(4)その他
 2010〜11年度の新規研究部会での研究計画書では上記の未解決な課題を含めて、労働運動の実践部隊が直面している課題を部会員が共有し、より包括的に研究テーマを設定することがありうる。

女性労働研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

ジェンダー平等への理論と運動

責 任 者 川口 和子

メンバー人数

8名

 今年度も上記テーマにより、ほぼ毎月部会討議をおこなった。
 とくに今年度は、2009年8月に国連の女性差別撤廃委員会で日本政府の報告が審議され、日本政府の取り組みのおくれを厳しく指摘する総括所見が出されたこともあって、ジェンダー平等についての国際機関の新たな動向に注目し、以下の研究討議を行なった。このテーマが女性労働問題にとどまらない課題として、国際的にもいっそう重視されていることを確認した。

  • 上記国連委員会を日本NPOの一員として傍聴した部会メンバー(上田氏)による報告と総括所見について(9月)。
  • ILO「ディーセントワークの核心としてのジェンダー平等」について(報告―筒井氏 10月)。
  • ILO総会でのジェンダー平等問題について(「世界の労働」掲載論文等を中心に 11月)。
  • 賃金部会と合同で「国際機関の均等待遇政策の具体化について」(報告―堀内氏 2月)

 また関連して、国連、ILOから日本政府に求められている「ILO 100号条約」の「同一価値労働同一賃金」原則による労基法等の法改正問題について、前年度に引き続き討議した。日本政府は労基法4条で充分とする見解を維持しているが、欧米とは異なる日本の現状もふまえ、法制度のどのような改定が必要か、可能か、次年度でも引き続き検討を深めたい。

  • 生協労連における「同一価値労働同一賃金原則」による正規・非正規間の格差是正への賃金改定について(報告―根本氏 8月)。
  • 「同一労働同一賃金」もふくめ格差是正の両原則について、国際機関や日本をはじめ各国の解釈と認識の歴史的経緯を論じた林弘子氏の論文について(報告―林氏 3月・4月部会討議)。

 なお、女性が過半数を占める非正規雇用問題は部会の課題の一つであるが、今年度は、「有期雇用」そのものの「規制立法の動向について」労働弁護団の小川氏の報告を受け、討議したにとどまった(12月)。

 以上の討議をさらに深めるとともに、これから解明すべき論点としては、当部会の中心的テーマであるジェンダー平等を、ディーセントワークとの関連からもとくに労働組合運動のあり方を問う視点からの検討の必要が、部会討議でも提起されており、次年度の課題としたい。

中小企業問題研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

中小企業経営の現状と労働組合運動の発展

責 任 者 松丸 和夫

メンバー人数

11名

(1)研究経過
 当部会では、経済危機の進行がかつてない深刻さで中小企業経営を直撃しているもとで、中小企業と関係単産が直面している諸問題に対処するため、計8回の研究会(うち6回は公開)を開催し、部会メンバーを中心につぎのような課題を研究して成果を共有することに努めてきた。
 研究テーマは第1に、8月の総選挙で民主党政権が発足したことを受けて、「民主党のマニフェストと現状」「中小企業団体の緊急要求と民主党の『中小企業憲章』」、「公契約条例の前進のために」などである。第2は、経済危機が進行するもとでの労働組合の対応策として、「中小企業の労働問題」「下請代金支払遅延等防止法の一部改正とその運用」「中小企業の内部留保と経営分析のポイント」などについて、各々公開して研究した。

(2)研究発表
 これらの研究成果は、職場・地域の代表的な取り組みの紹介を含め、労働総研『クォータリー』No.79・2010年夏季号に「特集・経済危機下の中小企業問題」として集約することができた。なお、中小企業労働運動への波及効果を期待して、本誌は通常号より200部増刷し、会員・読者以外に組合役員、活動家、学生(中小企業論受講生)などへの普及に努めた。
 また、特集号作成中に経済産業省が「中小企業憲章(案)」に対するパブリックコメントの募集を行ったことから、部会として、憲章の取り扱いや内容への改善要求を盛り込んだ意見をまとめて提出した。

(3)今後の課題
 以上の研究活動を踏まえてもなお、経済情勢は流動的であり、中小企業経営の困難さはいっそう深刻である。同時に労働組合が直面する緊急要求・課題も山積している。ひきつづき研究と解明、成果の普及に努めたい。

労働者状態統計分析研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

労働者状態にかかわる統計資料の系統的分析とそれにもとづく政策提言

責 任 者 藤田  宏

メンバー人数

12名

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
 労働総研と全労連が共同編集している『国民春闘白書』の内容充実を図ることが、本研究部会の第一義的課題である。本研究部会は、『国民春闘白書』を、春闘に役立つ統計データブックとして編集する力になり、全体として関係者から歓迎されている。
 『白書』の編集にかかわって本研究部会が力を集中しているのは、(1)労働者状態にかかわる統計の全体的分析、(2)大企業の企業分析と日本経済のマクロ的な研究を進め、その成果を春闘に向けた政策提言としてまとめることである。
 そのためには、系統的に各種データの充実にいっそうの努力を払うと同時に、統計データを活用しての産業連関をもちいてのさまざまな試算結果を含め、春闘の論戦をリードする政策提言を重視していくことにしたい。

(2)年度期間中に明らかになった論点
 『国民春闘白書』2010年版では、大企業の内部留保についての歴史的分析をおこなうなかで、日本経済停滞の要因の一つが、大企業の異常な内部留保のため込みであることを解明し、内部留保を社会的に還元することが内需重視・生活改善型の日本経済に転換するうえで、不可欠の課題になっていることを明らかにした。その成果は、「日本経済の危機打開のための緊急提言 内部留保を労働者と社会に還元し、内需の拡大を!」としてまとめ、春闘の論戦をリードする力になった。

(3)これから解明すべき論点
 労働時間や賃金など、日本の労働条件の国際比較について、単なる制度・ルールの比較にとどまらず、それをどのように労働者が活用しているかという点にまで踏み込んだ解明をすることによって、日本の労働者が実感を持って、自らの要求に大義があることを自覚し、働くルール確立の運動に取り組むことができるような調査・研究を進めるようにしたい。

(4)その他
 『国民春闘白書』の執筆はもちろん、『労働総研クォータリー』、『月刊全労連』などへの執筆なども意識的に努力することにする。

国際労働研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

世界各国の労働者の主なたたかいの実態

責 任 者 斉藤 隆夫

メンバー人数

15名

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点
 ケース・スタディの形で各国別に主要なたたかいの事例を取り上げ、闘争課題(要求)、たたかいの組織・規模・戦術、たたかいの到達点について実状の把握を期した。

(2)年度期間中に明らかになった特徴的な点
 2008年秋以降の世界的な金融・経済危機は雇用や国民生活に深刻な影響を与えた。そうしたなか、多くの国でこれまでにないたたかいの高揚がみられた。
 フランスでは、09年1月と3月の2度にわたって雇用の維持・賃金引き上げとそれによる経済の建て直しを要求するデモが行なわれた。デモの規模はサルコジ政権発足以来最大といわれた。同様のたたかいはイタリア、インド、ブラジルなどでも取り組まれた。
 工場閉鎖・解雇反対のたたかいでは、韓国の双龍自動車のたたかいが注目を浴びた。深刻な経営不振のため会社更生手続きの開始が決定されたこの会社で、「経営正常化案」(従業員の約4割の整理解雇)発表に対して、77日間にわたる工場占拠闘争が取り組まれた。また、GMの子会社オペルでは、GMがこの会社の売却計画を中止し、欧州各国に持つ工場の閉鎖や解雇を含む再編に乗り出したのを受けて、工場のある各地で集会が開かれた。多国籍企業のリストラに対する労働者の共同闘争として注目された。
 賃上げ・最低賃金引き上げのたたかいも活発に行なわれた。ドイツでは、地方公務員を中心に8%前後の要求で粘り強くたたかわれ、5%の賃上げを実現した。ギリシャでは、ギリシャ労働総同盟等が財政赤字を理由とする政府の公務員賃金と年金の引き上げ凍結案に対し、24時間ゼネストを決行した。米国、ドイツ、フランス、ベネズエラ、アルゼンチン、スロバキアなどで最低賃金の引き上げが行なわれた。なかでも、ベネズエラとアルゼンチンの引き上げ幅は約20%と大幅であった。
 米国では、労働組合の結成を容易にする法案が議会に提出された。法案は「カードチェック方式」と呼ばれ、組合加入労働者が受け取る組合員カード数が従業員の過半数を超えれば、労働関係委員会は組合として承認せねばならないとする条項を含んでいたが経営側の執拗な反対にあって、この条項は削除された。韓国では、「労働組合及び労働関係法」の改定がこの年最大の争点となった。組合専従者に対する賃金支給を制限する「タイムオフ制」と同一事業所内での複数労組解禁を一年半延期することを内容とする改定案が可決された。民主労総は国会前での無期限座り込みなどで対抗したが、局面を転換するにはいたらなかった。

(3)これから解明すべき論点
 ひきつづき2010年の世界の労働者のたたかいの動向を調査・研究する。

関西圏産業労働研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

現代資本主義と不安定就労問題

責 任 者 丹下 晴喜

メンバー人数

9名

本研究会では、現代資本主義論あるいは労働問題・社会政策分析の全体像に関わる文献の検討をおこないつつ、参加する若手研究者の報告を中心に現代における不安定就労問題の様相とそこにおける論点を検討している。具体的には以下のような内容の研究会を行った。

(1)09年4月18日 「浜松市の日系ブラジル人調査報告」(植木洋)
「修論報告 その2」(久保友美恵)
(2)09年6月20日 「電機産業における臨時工からパートへの転換」(中山嘉)
「修論報告 その3」(久保友美恵)
(3)09年9月5日 「女性の仕事ストレスと雇用管理」(山岡順太郎)
「修士論文の構成について その4」(久保友美恵)
(4)09年11月7日 書評「濱口桂一郎『新しい労働社会』(岩波新書)」(伊藤大一)
「修論報告 その5」(久保友美恵)
(5)10年2月6日 「労働力導入としての外国人研修・技能実習制度」(久保友美恵)
書評「渡辺治他『新自由主義か新福祉国家か』」(丹下晴喜)
(6)10年5月29日 「日系ブラジル人調査」(植木洋)
書評「宮本太郎『生活保障』(岩波新書)」 (伊藤大一)
(7)10年7月10日 書評「D.ハーヴェイ『新自由主義』(前半)を読む」(丹下晴喜)
「大経大における非正規雇用の調査に向けて」(伊藤大一)

 以上の研究会、特に若手の報告の検討を通じて、深められた論点は以下のとおりである。
 第1は非正規労働者が組織する労働組合運動の可能性についてある。光洋シーリングテクノの闘いのなかで、「不安定な就業を余儀なくされている彼/彼女らがなぜ組合としての規制力を持ちえたのか」という問題意識が汲み取られ、職場における不安定労働者の技術取得や地域の労働市場の特徴、従来からの存在した労働組合と若者労働組合の関係などが分析された。
 第2は、日本労働市場における外国人労働者、特に中国人研修生・実習生問題の構造的把握である。明らかになったことは、?1990年代の不況期における外国人労働者の急増は、日本の労働市場の規制緩和=非正規労働者層の拡大と多様化を共通の基盤としているが、特に研修生・実習生の増大は固有の特徴をもっていること、?その固有の特徴とは、研修生・実習生制度が、労働市場の規制緩和のみならず、中小零細企業衰退、地域地場産業の崩壊という日本経済の二重構造から生じる諸問題の集中的表現であるということ、?したがって研修生・実習生制度は、この二重構造の崩壊過程における労働力需給システム=労働力政策として機能するとともに、それが国際協力制度であることを建前とした点で労働者保護を行う労働制度を欠いたものであったこと、などであった。

 これから明らかにすべき論点としては、以上2つの領域について、さらなる運動の前進のためにどのような条件が必要であるかということが深められると思う。特に「派遣村」に代表される「新しい労働運動」の可能性の検討、時代的制約のなかでそれを担う主体がどのように形成されたのか、などが論点となる。また新しい若手研究者の参加によって、日系人労働者の分析も始められており、この分野の論点の明確化がなされると思う。
 さらに以上の問題と同時平行して、現代資本主義に関わる著作の検討についても引き続き継続したいと思う。

労働時間・健康問題研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

労働時間短縮・労働者の健康を守るたたかいの研究

責 任 者 西村 直樹

メンバー人数

8名

(1)期間中に明らかにしようとした課題
 全労連、いのちと健康を守る全国センター、東京社会医学研究センターが共同して進めてきた「いのち・健康・安全を蝕む深夜勤務を告発する連続シンポジウム」(2009年4月、9月)から、3者での討議を経て2010年4月にいたって当面の労働時間・健康保持についての要求項目を整理することができた。
 その項目を列記すれば、(1)1日8時間労働制を確保する課題、(2)勤務間隔(最低11時間)、有給休暇の確保、変形・変則労働への規制、(3)不払い残業の根絶、不払い残業を「合法化」するエグゼンプション制などの導入阻止、(4)深夜労働、夜勤、夜勤交代制の規制、(5)労働行政の充実と違法・違反事業者の罰則強化など。安全衛生と労働者の健康保持については、(1)すべての労働者(正規・非正規・研修生・実習生、高齢者などを問わない)の安全と健康の確保をめざす、(2)すべての事業所に労働安全衛生体制を確立する課題、(3)ILO第155号条約(職業上の安全及び健康並びに作業環境に関する条約=1981年6月)の批准と労働安全衛生体制の強化、(4)元請事業者の親企業責任をすべての産業・事業に適用させる、(5)特に派遣労働者の安全衛生確保を、(6)すべての労働者の健診・保健予防体制の拡充。
 なお、論議の過程で、1991年の全労連「労働時間・休日休暇に関する全労連の政策」、1992年の日本共産党「労働基準法抜本改正のための提案」をそれぞれが資料として保存する措置をとった。また厚生労働省が承知している日本経団連役員企業の残業時間の協定時間数などを明らかにすることもできたが、個別の企業別労働組合の残業協定のあり方、そこへの指導などにはいたらなかった。残した課題は沢山ある。
 10年7月に、はじめて公開研究会を開催。

(2)次年度への課題

前述の通り、残された課題は少なくないが、以下の点は新たに追加的に大きな課題として取り上げていくべきではないか。

1) フランスでは日本やドイツに比して今回恐慌のダメージははるかに軽微である。そのなかで3月の地方選挙ではアルザス地方とレ・ユニオン島を除く全地方で左翼が勝利。これはミッテラン時代のオブリ法のオブリが指導する社会党などが次の国政選挙で政権を変える可能性を示す。80年代初頭からの週40時間制を割るフランス、ドイツの大運動の時期と同様の労働時間短縮の運動が広がる可能性が生じる条件である。そこから引き出せる労働時間短縮の運動への教訓を明らかにすること。
2) 長時間・過密労働の理由・要因は多様であるが、日本の場合、明治維新後の囚人労働、日本資本主義を確立させていく過程の主要産業だった製糸業・紡績業のいずれもが、家庭を営まない(営むことを許されない)労働者によって担われてきたこと、それが朝鮮人労働者、中国人捕虜(これらも家庭を営むことが許されていなかった)の酷使につながり、今日でも外国人研修生・実習生の過酷な長時間過密労働への系譜を形成していることを判りやすく解明し、WLB論を含む家庭の重要さを再確認すること。
3) 過労死を考える家族の会は過労死・過労自殺を出した企業名の公表を求めており、寺西笑子さん(過労死家族の会会長)は京都地裁に訴えていたが、地裁はこれを退けた。ふつうの労災事故は企業名が公表されている。これを含めて過労死、過労自殺をなくす法律の制定を含む過労死対策を研究課題にすえていくこと。

英語ライティング教室

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

読んでわかる英文を書くための基礎研究

責 任 者 岡田 則男

メンバー人数

7名

 英語で海外に発信する能力を、全労連の運動としてもつために2005年3月より毎月2回のペースで開いている。参加者は毎回出される和文英訳の課題を「宿題」としてやり、教室での批評・研究をつうじて、英語文を書くうえでの基本を学んでいる。材料は、労働運動にかぎらず、政治、経済、福祉、外交などあらゆる分野の、論評、インタビュー、エッセーなど幅広い。全労連の専従など忙しい毎日を送っている人たち5−7人が参加しており、すでに5年続いた。この間、それぞれ上達している。
 また、英文を書く力をつけるうえで欠かせない「英語を読む」ことにも力を入れている。これをつうじて、「よくわかる文章とは、どういうものかを考え、」それを和文英訳に活かすことを狙いとしている。

(この1年で取り上げた和文英訳課題文)

(1)2009年から2010年2月までは「新 自治体民営化と公共サービスの質」(尾林芳匡著)

(2)2010年3月からは

◎労働総研英文「ジャーナル」掲載論文(日本の労働者の実態)
◎不破哲三「マルクスはいきている」公開連続セミナー講演(2009年10月30日&11月6日)より
◎非核の日本、非核の世界神戸方式35周年のつどいでの不破哲三氏の講演(3月)より
◎しんぶん赤旗「潮流」(足利事件、2010年3月27日付)より
◎加藤周一「私にとっての20世紀」から
◎宇都宮健児・日弁連会長とのインタビュー(「しんぶん赤旗」2010年4月29日)より
◎東京新聞「こちら特報部」(鳩山の普天間問題決着先送り)(2010年5月14日)より
◎東京新聞の古堅実吉さんの沖縄戦体験についての記事(2010年6月17日)より
◎張本勲「もう一つの人生」より(広島原爆体験部分)

 基本的に英語の学習研究の場であるが、真のコミュニケーションのために避けてとおることのできない、「わかる文章とはどういうものか」という、英語でも日本語でも重要な問題を考え、日本語をも考える機会にもなっている。
 一般のテーマ研究とちがって、ライティング教室では、なによりも言語的基礎能力を身につけていくことを強調しなければならないことを痛切に感じる。
 課題にかかげながらまだ着手できていない、学生を含む若手の養成にとりくみたい。

2009年度第7回常任理事会報告

 2009年度第7回常任理事会は、全労連会館で、2010年7月24日午前11時から午後0時30分まで、熊谷金道代表理事の司会で行われた。

I 報告事項

 藤田宏常任理事より、「地域政策検討」プロジェクト中間報告の発表や、全労連・労働総研合同学習会の開催など、前回常任理事会以降の企画委員会・事務局活動、また研究活動についてなどが報告され、了承された。

II 協議事項

1)大須眞治事務局長より、入会の申請が報告され、承認された。
2)事務局長より、2010年度定例総会方針案、「2009年度会計報告」「2010年度予算案」について報告・提案され、理事会・総会に提案することが確認された。
3)事務局長より、2010〜2011年度の新役員が提案され、総会への提案が承認された。
4)事務局長より第2回理事会および2010年度定例総会(「労働総研奨励賞」表彰式を含む)の進行と役割分担について提案され、承認された。
5)牧野富夫代表理事より、研究所プロジェクトについて提案がされ、協議のうえ承認をされた。

2009年度第2回理事会報告

 2009年度第2回理事会は、2010年7月24日午後1時から2時まで、全労連会館にて開催された。冒頭、大須眞治事務局長が第2回理事会は規約第30条の規定を満たしており、会議は有効に成立していることを宣言した後、熊谷金道代表理事の議長で議事は進められた。
 事務局長より、2010年度定例総会に提案する議題が提案された。討議の結果、各議題を2010年度定例総会に提案することが確認された。

2010年度定例総会報告

 2010年7月24日、東京都文京区・全労連会館において、労働運動総合研究所2010年度定例総会は開催された。
 午後2時、大須眞治事務局長が、規約第22条により本総会は有効に成立しているとして、開会を宣言した。
 事務局長が議長に辻岡靖仁理事を、議事録署名人に議長及び藤田実常任理事、金田豊理事の2名を諮り、全員異議なく選出した。
 議案の審議に先立ち、この1年に逝去された会員への哀悼の意を表し、出席者全員で黙祷をささげた。続いて、熊谷金道代表理事が主催者挨拶をおこなった。次いで、小松民子全労連副議長が来賓挨拶をおこなった。
 「2009年度における経過報告」について藤田宏常任理事より提案され、次いで「2009年度会計報告」について事務局長より、また、「2009年度監査報告」について、渡辺正道監事より報告され、全員異議なく承認された。
 続いて、「2010年度方針案」の「研究所をめぐる情勢の特徴」が、藤田宏常任理事より提案された。次いで「2010年度事業計画」について事務局長より提案され、関連して研究所プロジェクトについての補足報告を牧野富夫代表理事がおこなった。引き続き「研究所活動の充実と改善」について事務局長より提案された。
 続いて、「2010年度予算案」について、事務局長より提案された。
 討議では、方針案を深め、補強する立場から、のべ12人が発言、以下の論点が討論された。

(1) 非正規の組織化をめぐって組織論先行ではなく、現在進められている非正規の組織化の豊かな実践のなかから、組織論を探求していくという視点の重要性が指摘された。
(2) 研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」をめぐってILOの提起している「ディーセントワーク」の内容を盛り込むことの重要性、その点とかかわって雇用のあり方と労働者の健康・過労死がメダルの裏表であり、日本の労働条件の重しになっている非正規労働者の労働条件改善の緊急性、「ディーセントワーク」から「ディーセントライフ」への発展など、研究所プロジェクトで強調すべき論点が提示された。
(3) 春闘の再構築についてリストラ「合理化」が広がる中で、春闘が低迷している。この現状を打開することが必要であり、そのためにも、国民春闘という視点を再度強調していく必要があり、労働総研としての春闘提言も期待されている。
(4) 公務員バッシングをめぐって参院選挙のなかでも公務員バッシングが横行した。構造改革路線と対決していく上でも、この攻撃とたたかう必要があるし、公務労働はどのような役割をはたしているのか、公務労働はどうあるべきかなどの国民的議論を起こすために、労働総研の積極的イニシアチブが必要になっている。
(5) 社会保障の財源問題について社会保障の財源問題を政策的に提起する必要がある。その際、消費税による増税か、非消費税による増税かという対決軸を明確にして打ち出すことが重要である。

 討論の後、「2010年度方針案」「2010年度予算案」は全員一致で承認された。
 次に、事務局長より、2010〜2011年度の新役員名簿が提案され、全員異議なく承認された。
 総会は一時休憩し、新理事会が開かれ、理事の互選により、新代表理事および新常任理事が選出された。また、代表理事によって事務局長・事務局次長が任命されたのち、総会が再開され、熊谷金道代表理事より、新理事会の互選の結果、および事務局長、事務局次長任命について報告された。
 引き続き、「20周年記念労働総研奨励賞」表彰式が大須事務局長の進行でおこなわれ、日野秀逸常任理事による選考委員長の講評、牧野代表理事による表彰状の授与の後、受賞者を代表して、個人部門1席の伊藤大一氏と団体部門1席の全労連東北ブロック議長・鈴木露通氏があいさつをした。
 次に、総会における決議事項がすべて終了したので、辻岡議長より議長解任の挨拶がおこなわれた。
 最後に、大木一訓新顧問および小越洋之助新代表理事より、閉会の挨拶がおこなわれた。
 以上で、2010年度定例総会の全日程は終了した。閉会は午後5時10分であった。
 なお、閉会後、懇親会が、井上久常任理事・全労連事務局次長の乾杯で始まり、なごやかにおこなわれた。

2010〜11年度役員名簿

代=代表理事/常=常任理事

〈理事〉
相澤 與一 (高崎健康福祉大教授)
天野 光則 (千葉商科大名誉教授)
一ノ瀬秀文 (大阪市大名誉教授)
井上  久 (全労連事務局次長)
上野 邦雄 (労働問題研究者)
内山  昭 (立命館大教授)
宇和川 邁 (労働問題研究者)
大須 眞治 (中央大教授)
岡田 則男 (ジャーナリスト)
尾形 佳宏 (労働問題研究者)
岡野 孝信 (日本医労連)
岡部 勘市 (国公労連)
小川 政亮 (日本社会事業大名誉教授)
小越洋之助 (國學院大教授)
小澤  薫 (新潟県立大講師)
鬼丸 朋子 (桜美林大准教授)
角瀬 保雄 (法政大名誉教授)
勝村  誠 (立命館大教授)
上条 貞夫 (弁護士)
金澤 誠一 (佛教大教授)
金田  豊 (労働問題研究者)
唐鎌 直義 (社会保障研究者)
川口 和子 (女性労働問題研究者)
木元進一郎 (明治大名誉教授)
熊谷 金道 (元全労連議長)
黒田 兼一 (明治大教授)
小池 隆生 (専修大講師)
伍賀 一道 (金沢大教授)
木暮 雅夫 (日本大教授)
小林 宏康 (労働者教育協会)
近藤ちとせ (弁護士)
斎藤 隆夫 (群馬大名誉教授)
斎藤  力 (労働問題研究者)
斉藤 寛生 (全労連常任幹事)
桜井  徹 (日本大教授)
佐々木昭三 (労働者教育協会)
佐藤 嘉夫 (岩手県立大教授)
下山 房雄 (九州大名誉教授)
清山  玲 (茨城大教授)
芹沢 寿良 (高知短大名誉教授)
高木 督夫 (法政大名誉教授)
丹下 晴喜 (愛媛大准教授)
辻岡 靖仁 (労働者教育協会)
中澤 秀一 (静岡県立大短期大学部講師)
中嶋 晴代 (女性労働問題研究者)
中島 康浩 (労働総研)
永山 利和 (日本大教授)
西村 直樹 (金属労研事務室長)
浜岡 政好 (佛教大教授)
浜林 正夫 (一橋大名誉教授)
久野 国夫 (九州大教授)
日野 秀逸 (東北大名誉教授)
藤田  宏 (労働総研)
藤田  実 (桜美林大教授)
藤田 良子 (自治労連)
牧野 富夫 (日本大名誉教授)
松丸 和夫 (中央大教授)
村上 英吾 (日本大准教授)
八幡 一秀 (中央大教授)
吉井 清文 (関西勤労者教育協会会長)
吉田 敬一 (駒沢大教授)
吉田 健一 (弁護士)
萬井 隆令 (龍谷大教授)
〈監事〉
谷江 武士 (名城大教授)
渡辺 正道 (全労連事務局次長)
〈顧問〉
内山  昂 (元国公労連委員長)
大木 一訓 (日本福祉大名誉教授)
黒川 俊雄 (慶応大名誉教授)
戸木田嘉久 (立命館大名誉教授)
〈事務局長〉
大須 眞治
〈事務局次長〉
藤田  宏

7・8月の研究活動

7月3日 「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト推進チーム
12日 研究所プロジェクト社会保障作業部会
13日 賃金・最賃問題検討部会
16日 労働時間・健康問題研究部会(公開)
21日 地域政策プロジェクト『「住みやすさ」と住みつづけたい地域づくり運動・政策にかんする調査研究−中間報告―』発表
29日 労働者状態統計分析研究部会
国際労働研究部会
女性労働研究部会
8月5日 中小企業問題研究部会(公開)
30日 研究所プロジェクト社会保障作業部会

7・8月の事務局日誌

7月3日 第7回企画委員会
9日 2009年度会計監査
10日 全印総連大会へメッセージ
19日 JMIU大会へメッセージ
21日 JR採用差別事件の「政治解決」報告と感謝の夕べ
21〜23日 全労連大会(牧野代表理事あいさつ)
23日 全日赤大会へメッセージ
24日 第7回常任理事会
第2回理事会
2010年度定例総会
27日 日本医労連大会へメッセージ
8月2日 「平成22年度地域別最低賃金額改定の目安審議にむけた意見書」提出・目安小委員会激励行動
20日 「教育のつどい2010」へメッセージ
21日 大場秀雄さんをしのぶ会
22日 石川武男さんをしのぶ会
22日 自治労連大会へメッセージ
26日 国公労連大会へメッセージ
28日 建交労大会へメッセージ
全労連・全国一般大会へメッセージ
31日 第1回企画委員会