労働総研ニュース:No.243 2010年6月



目   次

不定住的貧困を研究するということ………小池隆生
『世界の労働者のたたかい2010』概観……斉藤隆夫
「中小企業憲章(案)」に関する意見……中小企業問題研究部会




不定住的貧困を研究するということ

小池 隆生

 私はこれまで、貧困問題に広く関心を持ち研究をしてきましたが、テーマの一つとして「不定住的貧困」と呼ばれる、いわゆるホームレス問題に特に関心を持ってきました。この問題は、近年「行き場のない人々」として、例えば施設をたらいまわしにされる高齢者など、その生活困難の背景が連なっていることがおぼろげながら透かし見えてきている状況にあると個人的には感じています。

 ともあれ、これまで活動の拠点を置いてきた岩手県で取り組んだ研究課題の中には、都市部と異なる農村部における貧困問題があることもさることながら、都市部への労働力移動の「その後」とも言えるような、都市部から「地元へ回帰する人々」の生活問題をどのように捉えるのかということが、さらに深められるべきテーマとして私の前に横たわっています。

 例えば、これまでは「出稼ぎ」として捉えられてきた労働力移動が、今日の全体に占める不安定就業の拡がりの中で、日本の高度成長を支えたそれとどのように違うのか。地元に回帰することを前提に稼ぎに出かけてみたものの、地方経済社会の疲弊に直撃を受け、かつては生活困難を緩衝しえた家族役割が非常に弱くなっていることを背景として、いざ地元へ戻ると自らの「居場所」たる家族等が喪失してしまっていることを経験する人々が一定数います。そして彼らが、文字通り「行き場のない人」として、地方都市において野宿や路上生活をおくる不定住的貧困(=ホームレス)を構成している事例が決して少なくないのです。このことは、私も携わった複数の調査から見えてきたことですが、さらに研究を継続して実態を明らかにしたいと考えています。

 派遣労働や「名ばかり請負」の違法派遣問題など、不安定就業の担い手の多くが、最低賃金の最も低い地域であり続けてきた地方(北東北地方は間違いなく該当します)から供給されてきたことを見ても、「派遣切り」などに象徴される今日の大都市部における先鋭化した失業問題と、日本の地方都市部における「不定住的貧困」は繋がっているように思います。

 4月から縁あって関東に研究と生活の拠点を移すことになったのですが、人は不定住のままでは将来の見通しを立てることも困難で、人間らしい要求をすることも難しいのではなかろうか、これまでも抱いてきたそんな疑問に対して、研究と生活の環境を「定めた」今だからこそ答えを見出していきたいと思っています。

(こいけ たかお・会員・専修大学経済学部)


 全労連編集・発行の年報『世界の労働者のたたかい2010〜危機に立ち向かう〜世界の労働組合運動の現状調査報告16集』が刊行されます(発売・学習の友社03-5842-5641、定価1,000円)。本『年報』の執筆には、労働総研国際労働研究部会のメンバーが協力しています。以下にその「概観」を掲載します。

『世界の労働者のたたかい2010
〜危機に立ち向かう〜
世界の労働組合運動の現状調査報告16集』概観

斉藤 隆夫

 08年秋、アメリカで発生した金融・経済危機は、09年には各国に波及して深刻な影響を与えた。多くの国がマイナス成長に陥るか中国・インドのように成長率の鈍化に見舞われた。そのため、工場閉鎖、人員整理、派遣切りなど雇用危機が広がったばかりでなく、中小企業の経営危機や国民諸階層の貧困化もすすんだ。こうしたなか、各国にほぼ共通して見られたのは、労働組合が雇用防衛・賃上げ・中小企業の経営支援・低所得層向け減税などを要求するとともに、これらの実現による内需拡大によってこそ経済危機から脱することができるとしてたたかいを強めたことである。

 政治面では、「チェンジ」を旗印に大統領選に勝利したオバマの施政は対外政策の見直しなど従来の政策からの転換の姿勢が伺われるが、公的医療保険制度の導入など社会制度改革の問題では反対派の抵抗もあって、前途は容易ではない。ギリシャでも、10月、「全ギリシャ社会主義運動」のパパンドレウ政権が成立したが、経済・財政危機のなか打ち出した「痛みを伴う改革」路線は労働者・国民の大きな反発に直面している。ドイツでは、9月末、連邦議会(下院)選挙が行なわれ、社民党の惨敗、左翼党の躍進のもとSPD/CDU・CSU連立政権に終止符が打たれた。

 以上のような情勢の下、各国で多彩なたたかいが繰り広げられたが、以下、特徴的な動きを概観する。

■経済危機から国民の雇用と暮らしを守るたたかい

 フランスでは、1月29日、主要8労組が共同要求に基づいて、大規模なデモを行った。参加者は250万人に達し、サルコジ政権発足以来最大規模であった。共同要求は、雇用の維持優先、賃金購買力の引き上げとそれによる経済の建て直しなどを求めるものであった。危機に対処する共同要求を8組織でまとめたのは初めてのことである。こうしたなか、サルコジ大統領は、2月、失業者向け特別手当(後述)、低所得世帯向け所得減税などからなる不況対策を打ち出したが、組合は「規模が小さく、経済的回復と社会的効果の拡大にはほとんど役に立たない」とし、同様の要求で3月19日にも300万人規模のデモを行った。イタリアでも雇用防衛、賃上げ・減税・年金制度改革による所得購買力向上とそれによる景気回復を求めるたたかいは、4月と11月の二度にわたって、Cgilによって組織されたが、ベルルスコーニ政府の対応は、「危機の存在すら否定するような」消極的なものだった。

 インドでは、企業への正当な課税と福祉削減阻止、契約労働の正規労働への転換、労組弾圧停止などを要求して労組各センターの共闘強化が合意され、10月には全国抗議デーが取り組まれ、12月には国会前での座り込みも行なわれた。インドネシアでは、首都ジャカルタなど十数都市で展開されたメーデーで、労働者が「政府は解雇を規制し、労働者の雇用を守れ」、「社会保障拡充など国民と労働者のくらしを守る景気刺激策を」などと訴えて目抜き通りをデモ行進した。フィリピンのメーデーでもほぼ同様の要求が掲げられた。

 米国では、5月、オバマ政権が雇用、賃金のよい仕事をあらたに作り出すことを優先課題とする施策を発表した。雇用確保と所得増大を最大の要求とする組合は、AFL=CIO、CtW、全米教育協会の三者で「全米労働調整委員会」をつくり、7月、オバマ大統領と非公式に会談し、政府の景気対策を評価するとともに、「アウトソースせずに雇用を何百万と創出するための」追加パッケージを求めたが、積極的な回答はなかった。

 ブラジルの5つの主要労働組合全国組織は、1月、雇用創出と労働者を不況の影響からまもる課題に統一して取り組むことで合意した。「統一行動協定」には、政府から融資を受けたり税制上の優遇措置を受けている企業に雇用を守らせることなどが盛り込まれた。アルゼンチンでは、雇用創出を貧困とのたたかいと位置づけた計画が発表され、学校の補修や住宅建設の事業が取り組まれることとなった。

 ロシアでも、ロシア独立労組連盟(FNPR)は政府に国内需要を拡大するための刺激策、戦略的・社会的に重要な企業への支援などを求めた。これに対し政府は、6月、「危機対策プログラム」を発表した。そこで挙げられた優先課題は、福祉や医療など住民への国家の社会的責任遂行、産業の多様化・近代化、イノベーション促進などであった。FNPRはこのプログラムへの支持を表明した。

 経済危機打開のための政・労・使協議はポーランド、スロバキアなど東欧諸国でも行われたが、特にブルガリアでは34の産業別組合等が参加して雇用の維持・所得の保護・教育等への政府補助金の凍結撤回などを要求する抗議行動が取り組まれた。

■解雇反対・非正規雇用規制のたたかい

 ドイツでは、小売流通会社アルカンドルが破産手続きを申請し、各地のデパート120店舗のうち13店舗が閉店となった。ミュンヘンでは約1000人の従業員が「百貨店は生きている」と横断幕を掲げデモ行進した。ダイムラーでは、会社側から外国への工場移転に伴う3000人の人員削減計画が発表されたが、金属産業労組と同社事業所評議会は「雇用を維持せよ」と抗議の職場集会やデモを行い、2019年末までは会社都合の解雇を行なわないとの保証を引き出した。

 イギリスのロイヤル・メールでは、会社側の近代化提案(最新の郵便仕分け装置導入と仕事内容の見直し)が組合との相談もなしに実施されようとしているとしてストライキが行なわれ、2000万通もの郵便物が滞った。組合は郵便事業改革の必要には合意しているものの、その犠牲を人員減や賃下げなどの形で労働者だけが被ることへの抵抗が続いている。

 スペイン・日産では、1680人の解雇をめぐって08年来交渉が続いていたが、2月、主要労組および州当局との間で実現可能性を優先した計画で合意が成立した。計画は3783人の一時解雇とNV2000型車生産のモロッコへの移転計画撤回と新工場建設を盛り込んでいた。イタリア・テレコムは、08年も5000人の人員削減を行ったが、09年に入ってさらに4000人の削減と22営業所の廃止を提案した。3500人が働く外注企業への発注削減も予告された。この部門の3組合は統一して8時間の全国ストを行った。グループ外注企業の従業員がストライキに立ち上がったのは初めてであった。

 深刻な経営不振のため会社更生手続きの開始が決定された韓国の双龍自動車では、法廷管理人による「経営正常化案」(従業員の約4割の整理解雇)発表に対して、77日間にわたる工場占拠闘争が取り組まれた。民主労総傘下の全国金属労働組合・支部が「非正規職を含む総雇用の保障は、どんな場合にでも妥協できない」として、5月から正門をコンテナで封鎖し、工場を占拠したもので、途中、解雇対象外労働者と労組との衝突などを経ながら、最終的には当初計画の2646人の整理解雇に対し2200人の退職・解雇という形で決着した。

 ロシア・ピカリョボにある新興財閥企業では、09年初め、1500人に解雇、2500人に無給休暇や勤務日数削減が言い渡された。労働者は集会や抗議行動を繰り返し、組合も政府に介入を求める要請書を送ったが、事態が好転しないなか、約300人の労働者と家族はサンクトペテルブルグに通じる幹線道路に繰り出し、数時間にわたり交通をマヒさせた。

 GMの子会社オペルでは、GMがこの会社の売却計画を中止し、欧州各国に持つ工場の閉鎖や解雇を含む再編に乗り出したのを受けて、欧州金属労連は工場閉鎖と強制解雇をしないことを前提に、「欧州従業員フォーラム」(オペルの欧州レベル従業員代表組織)の場での協議をGM側に要求し、各地で集会を開いた。ブリュッセルの集会にはドイツ、ベルギーの労働者1万人が参加し、多国籍企業のリストラに対するたたかいが労働者の多国籍的共同闘争として展開された。

 雇用危機の深刻化と労働者のたたかいの高まりのなか、各国政府による雇用危機対策の部分的手直しも現れた。ドイツでは、08年、雇用維持対策として操業短縮手当て支給期間の12ヶ月から18ヶ月への延長という特別措置が実施されたが、09年にはさらに24ヶ月に引き伸ばす措置が採られた。9月の連邦議会選挙後に成立した新政府もこの措置の1年間の延長を発表した(ただし、支給期間は18ヶ月に短縮)。

 スペインでは、9月、下院で、09年1月以降に失業補助給付金の受給期間が終了してなお失業中の人を対象とした新しい失業給付金制度法案が可決された。フランスでもサルコジが発表した生活支援策で、被保険者としての期間が短いために失業手当を受給できない失業者に対して500ユーロの特別手当の支給が盛り込まれた。イタリアでは、組合が所得保障金給付期間の倍増(現行の52週から104週へ)など社会的緩衝装置の改善を要求していたが、わずかに協力型契約者への失業手当支給が実現した。スロベニアでも休業中の賃金補償制度の創設や失業手当・社会援助手当の引き上げが実現した。

 08年に適用の迅速化と範囲の拡大が決定された欧州グローバル化基金(EGF)による失職労働者の支援措置は、09年にはベルギーの繊維部門とドイツの携帯電話会社ノキア・ボッフム工場に適用された。

■賃上げ・最低賃金のたたかい

 ドイツでは、多くの部門で活発な賃上げ闘争が展開された。地方公務員(州)は8%の賃上げを求めて年初から交渉を始め、2月3日の警告スト(2万5000人参加)を経て5.8%で合意した。そのほか、テレコム、教員・保育士、鉄道、繊維、医療、鉄鋼などで2〜5%前後の賃上げを実現した。イギリス鉄道組合は鉄道運行会社の詳細な財務情報を使って、安定的に収益を上げている会社はデフレを理由に賃上げを拒否することはできないとして、2波にわたるストライキを実施し3.5%の賃上げを獲得している。イタリアでは、経済・雇用危機のなか、経営者団体とCISL・UILがCGILを排除して賃上げ交渉ルールの修正を行い、電気通信、食品加工など一部の部門を除いて、賃上げ闘争に困難が生まれている。

 ブラジルでは建設、自動車部品、銀行など妥結した交渉の7割で、物価上昇率を上回る賃上げを実現した。自動車大手のGM、ホンダ、トヨタの交渉は継続中であるが、組合幹部は「ストライキでたたかえばいける」との見通しを示している。

 ギリシャでは、政府が財政赤字縮小を理由として、公務員賃金と年金の引き上げ凍結を発表したのに対し、ギリシャ労働総同盟、ギリシャ公務員連合は、4月2日、24時間ゼネストを決行した。公務員の賃上げストはベネズエラ、チリ、南アフリカでも起こっている。ベネズエラでは、石油価格下落によって経済成長が落ち込み、政府が財政支出のカットを余儀なくされるなか、教員、医療関係労働者などが賃上げを要求した。ある組合リーダーは「労働者が経済危機の犠牲を負わされるのはごめんだ。チャベスは支持しているが政府の政策には反対する」と述べた。チリでも11月、公務員労働組合全国組織が8%の賃上げを求めて、ストライキを決行した。南アフリカでも、地方公務員組合は5日間にわたるストライキを行い、13%の賃上げを獲得した。サッカー=ワールドカップ南ア大会のスタジアム建設現場でも賃上げを求めるストが続き、12%の賃上げを獲得した。

 最低賃金制では、ドイツで前進が見られた。ドイツの最低賃金制は「労働者送り出し法」に基づく職種別の制度であるが、従来これにより最低賃金が法制化されていた4業種に加えて、鉱山特殊業、大型顧客向けクリーニング、塗装業の3業種で最賃制が作られた。最低賃金額の引き上げは、フランス、米国、ベネズエラ、アルゼンチン、スロバキアなどで行なわれた。なかでもベネズエラとアルゼンチンの引き上げ幅は約20%と大幅であった。

■時短・増員、健康破壊に抗するたたかい

 イギリスでは、EU労働時間指令の適用除外条項であるオプトアウトを廃止して、週48時間の上限を守ろうとした改正案が廃案となった。組合は、欧州で最も労働時間の長いイギリスでこれが労働災害の増大と生産性の後退に結びつくことを懸念している。ギリシャでは、保健・社会的連帯省と病院医師組合との間で、公営医療部門初の労働協約が結ばれた。協約では、賃上げのほかEUと国内法の労働時間上限が適用され、夜勤は現行の8時間から7時間に短縮、通常週の勤務は5日(月〜金)となった。2000人の増員も実現した。

 フランスでは、上院で小売業の日曜労働規制を緩和する法案が可決された。現行法で年5回のみと定められていた日曜労働の例外規定が拡大され、パリ、マルセーユ等の観光客の多い地域については通年営業が合法化された。フランス・テレコムではストレスによる労働者の自殺が相次ぎ、1年半の間に23人にのぼった。CGTなど10組織は、「いまや国家的問題だ」として、全国ストを行った。マレーシアでは、組合は家政婦に対する最低1日の週休保証を法制化するよう政府に要求した。現行法制では当局に訴えることができるのは賃金未払いの場合に限られ、1日16時間、年中休みなしに働かされても違法とはみなされないという。

 フォルクスワーゲン社のポルトガル工場アウトエウローパでは、経営者が経済危機に伴う生産減に対応するためとして、生産休止日の増大、週労働日数減とそこで生じた不就労日の受注増期土曜労働への振り替えなどを提案したが、職場代表組織は年8回の土曜労働を時間外労働として支払うという受け入れ条件を示し、交渉は難航した。最終的な合意案は年6回の土曜労働を賃金25%割増、労働時間口座への6時間分加算であったが、労働者は批准投票でこれを否決した。

 アルゼンチンのクラフト・フード社では、新型インフルエンザ流行の際、アルコール消毒液などを要求した労働者160人を会社側が解雇する事件が起こった。組合は解雇された労働者の職場復帰を求めて工場を占拠したが、警察が催涙ガスやゴム弾を使って実力で彼らを排除した。コロンビアでは、米炭鉱会社ドラモンズが経営する炭鉱で事故のため一人の労働者が死亡するという事件に対し、組合は4日間のストライキを行った。

■労使関係改善のたたかい

 米国では、労働組合の結成を容易にする法案が議会に提案された。法案は、「カードチェック方式」と呼ばれ、組合加入労働者が受け取る組合員カードの数が従業員の過半数を超えれば、労働関係委員会が組合として認めねばならないという条項を含んでいたが、経営側の執拗な反対キャンペーンにあって、この条項は削除された。ロシアでは、憲法裁判所が、労働組合の幹部を会社が解雇する場合、労組との事前合意が必要とする現行労働法が経営者の「正当な権利を守る可能性を実質的に奪」っているとの判断を出した。たたかう少数派組合への差別も相次いでいる。組合はILO135号条約の批准を政府に求めている。インドでは、失業が深刻化する中で、政府による事実上の後押しのもと企業による労働法蹂躙行為が公然と行なわれるようになっている。最近の労働争議の70%以上が労働法がらみだと言われている。

 オーストラリアでは、3月、「公正労働法」が成立した。労働者が自らの交渉代表を指名する権利および労働組合が組合員を自動的に代表する権利が保障されるとともに、雇用主が労働者の交渉代表と交渉する義務が定められた。「全国雇用基準」と「現代的裁定」の二つの部分からなる新たなセーフティネットも作られる。

 韓国では「労働組合及び労働関係法」の改定がこの年最大の争点となった。組合専従者に対する賃金支給を制限する「タイムオフ制」と同一事業所内での複数労組解禁を1年半延期することを内容とする同法改定案が可決された。当初、韓国労総と民主労総は政府が労組法改定を強行すれば、ゼネストを行なうことで合意していたが、11月、韓国労総指導部は「ゼネストは国民の支持をえることは難しい」として方針を転換、経総、労働省との三者実務協議で、複数労組解禁の2年半猶予、「タイムオフ制」導入で合意案をまとめていた。民主労総はこの方針転換について「既得権に執着した背信行為」だとして非難し、国会前での無期限座り込みなどで対抗したが、局面を転換するには至らなかった

 スウェーデンでは、1996年の選挙で成立した保守四党連合政府は「セニョリテイ原則」(仕事不足で一時的に解雇された者は経済的状況が変われば、仕事に復帰できる)から小企業を除外するなど雇用保障立法の改悪を進めてきたが、組合の密度が低いEU諸国の組合政策の影響をうけ、立法を用いて組合の力を弱める事に乗り気になっている。

 コロンビアでは依然労働組合員の殺害が続いている。コロンビア労働総同盟はこの1年で40人が殺害されたと発表した。国際労働組合総同盟(ITUC)によれば、世界中で殺害された労働組合活動家のうち60%がコロンビア人であった。フィリピンでも「超法規的殺人」と呼ばれる労働組合活動家の国軍などによる殺人が行なわれている。

■社会主義をめざす国での労働者のたたかい

 09年の中国のGDPは前年比で8.7%増加し、伸び率は前年より0.9ポイント下がったが、年間目標をクリアし、内需拡大による経済成長政策が一定の効果をあげた。4兆元投資は約2100万人の雇用を生み出したとされている。とりわけ農民工については再就職者がかなりの規模に及び、労働力不足による賃金上昇も起こっている。

 中国でも世界経済危機の影響で、08年後半につづき09年も倒産や人員削減など雇用に厳しい試練は続いた。鉄鋼業など一部の分野では不況下のリストラなどで労使紛争が激化した。09年1〜9月の間に労働争議仲裁機関が立件もしくは受理した労働争議件数は51.9万件にのぼった。例えば、大手国有鉄鋼企業「通化鉄鋼」では、経営悪化に伴うリストラに抗議するストが発生、1万人以上のデモが社長を襲い、死亡させるという事件が発生した。

 政府は就業促進とリストラ規制のため、職業斡旋の強化、技能訓練の拡大などのほか、従業員20人以上あるいは従業員総数の10%以上を削減する場合は、30日前までに労働組合か全従業員に事情を説明して、意見を聞くよう義務付けた。総工会は政府の政策を支持し、それに呼応しつつ雇用の削減、生活困難などに積極的に対応するとしているが、一方、「通化鉄鋼」の場合にみられるように、「国有企業の労組は基本的に企業側の従属者になっており、リストラの際労働者の意見や要求が反映されにくい」との論評も見られた。

 ベトナムでは、韓国、日本などの外資の進出が進んでいるが、これら企業の多くで労組は承認されておらず、最低賃金制度も守られていない。そうしたなか、政府は近く改定する労働法で外国系企業に対して労働組合の結成を認めるよう定めることにした。ストライキは以前にくらべ減っているが、その多くは山猫ストで、企業側の労働法無視ないしは軽視、労働協約不履行が原因である。

(さいとう たかお・常任理事・国際労働研究部会責任者)


 労働総研・中小企業問題研究部会(部会長・松丸和夫)は、5月22日、「中小企業憲章(案)」に関する意見(パブリックコメント)を、経済産業省中小企業庁に提出しました。以下に全文を掲載します。

「中小企業憲章(案)」に関する意見

2010年5月22日
労働運動総合研究所
中小企業問題研究部会
部会長   松丸和夫

意見:「中小企業憲章」をより良いものにするため、拙速な成文を急がず、広く関係者の意見を聴取してまとめること。

 理由:「中小企業憲章」(以下、「憲章」)を制定することは、永く苦境にあえいでいる中小企業の労使や中小業者にとって画期的なことである。とくに、2009年8月の総選挙で、民主党が「マニフェスト」で掲げた内容=「次世代の人材育成」「公正な市場環境整備」「中小企業金融の円滑化」など=に限らず、「中小企業を総合的に支援する」として、同時に公約した内容についても、その具体化への期待が大きい。例えば「最低賃金引き上げを円滑に実施するため、中小企業への支援を行う」、「『中小企業いじめ防止法』を制定し、大企業による不当な値引きや押しつけ販売、サービスの強要など不公正な取引を禁止する」、「貸し渋り・貸し剥がし対策を講じるとともに、使い勝手の良い『特別信用保証』を復活させる」(以下、略)などである。これらの課題を具体的に施行するにあたって、「憲章」が推進役を果たすことが必要である。

 また、これら掲げた課題について、総選挙で国民的な支持が寄せられたことは言うまでもないが、「公正な市場環境整備」や「最低賃金引き上げ」などをめぐっては、その内容や具体化の方策、財源確保について、労使の意見に違いが見られ、労働組合の系統によっても相違があるのも事実である。これらの意見を披歴しあい、討論し、より良い内容で「憲章」に活かしていくことは貴重な作業である。

〔意見内容1〕中小企業が直面している経営上の困難、障害等の問題点を早急に除去する施策を緊急に講じること。

〔理由〕中小企業団体などの調査によれば、経営上の問題点として、(1)価格競争の激化、(2)民間需要の停滞、(3)販売先等からの値下げ要請、(4)官公需の停滞、(5)取引先の減少などがあげられている。これらの困難、障害を除去する施策については、「憲章」の内容に拘わらず早急に対策を講じることが重要である。その具体化に当たっては、中小企業経営に大きな影響を及ぼしている下請代金法、下請振興法、大規模小売店舗法、中小企業分野法、官公需法などの改正強化や、公契約法の制定、全国一律最低賃金制の確立も視野に入れてすすめていただきたい。

〔意見内容2〕「憲章」の2.基本原則の二として、「中小企業の従業員・労働者の勤労条件・福祉の向上を通じてディーセントワークを実現する。」を追加すること。

〔理由〕「憲章」(案)前文にあるとおり「中小企業が光り輝き、もって、安定的で活力ある経済と豊かな国民生活が実現される」ことが大切である。そのためには、中小企業にはたらく人々の勤労条件や福祉の水準が大企業より劣っているのは仕方がないというとらえ方自体を解消していかなければならない。日本の労働基準法は、企業の規模に関わらず、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」(同法第一条)と謳っている。日本の労働者の70%近くが中小企業ではたらいている事実からして、ILO(国際労働機関)が目標に掲げているディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現が、中小企業が「光り輝く」ために不可欠の条件であることを宣言する必要がある。

〔意見内容3〕「憲章」は国会で議決し、中小企業基本法の改定をめざすこと。

〔理由〕現行の中小企業基本法は、自民党政権時代の市場競争原理に基づいて改定されたものである。その中心施策は「経営革新・創業の促進」「経営基盤強化」であり、ベンチャー・ビジネス支援などである。これにより、それまでの基本法が掲げていた「二重構造の底辺」「弱者」との位置付け、それに基づく「大企業との格差の是正」が後方に追いやられてしまった。その結果が今日の「格差と貧困社会」を生み出す一因にもなったと考える。それは、賃金の規模別格差の拡大(500人以上の大企業100に対して、5-29人規模では53=「毎月勤労統計調査」2008年報)や、中小企業職場からのワーキング・プア排出、小零細事業者の倒産・廃業、低収入・貧困化に表れている。

 今日の「格差と貧困社会」の原因は、新自由主義経済の構造改革路線にあることは重々承知しているが、その延長線上にある現行中小企業基本法は、旧法の理念を再検討することやグローバル化への対応も含めて改正すべきである。そのためには、「憲章」を制定するだけでなく、国会で議決し、国民の総意として基本法を改正することが望まれる。

〔意見内容4〕「憲章」を具体化するシステムを構築すること。

〔理由〕「憲章」の内容とともに、これを具体化していくシステムについても検討する必要がある。今の中小企業庁の任務とするには、体制も予算も脆弱であり、あまりにも不十分である。したがって、首相直属の「中小企業支援会議」を設置し、省庁横断的な機能を発揮して、中小企業を主軸とする経済政策を立案することが必要である。また、中小企業庁の組織を格上げし、「憲章」を具体化した政策・施策の実行体制を確立することも併せて必要である。それには、中小企業担当大臣を置くとともに、企画立案の部署を拡充することや下請検査官などを大幅に増員して実効確保に努めることである。

〔付記〕私たち労働総研・中小企業問題研究部会としても、貴研究会において、さらに詳細な意見を陳述することを要望します。

2009年度第5回常任理事会報告

 労働総研2009年度第5回常任理事会は、2010年5月15日(土)13時30分〜16時、お茶の水セントヒルズホテルにて、熊谷金道代表理事の司会で行われた。

I 報告事項

 大須眞治事務局長より、「地域政策検討」プロジェクトの進行状況、組合員モニター調査(仮称)、ディスカッションペーパー、人事委員会について報告され、了承された。

 また、藤田宏常任理事より、「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクトの進行状況、労働総研ブックレットなどの出版・広報事業について、全労連・労働総研合同学習会について、などが報告され、了承された。

II 協議事項

1)事務局長より、入会の申請が報告され、承認された。

2)事務局長より、20周年記念労働総研奨励賞の応募・募金状況、選考委員の確定と選考委員会の日程などについて報告され、承認された。

3)藤田宏常任理事より2010年度定例総会議案骨子について提案され、討議の上、第1回理事会に提案する議案骨子が承認された。

4)「労働総研クォータリー」について、藤田宏常任理事から第4回編集委員会の報告がされ、承認された。

5月の研究活動

5月10日 労働時間・健康問題研究部会
11日

労働組合研究プロジェクト
賃金・最賃問題検討部会

15日 「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト推進チーム
21日 中小企業問題研究部会
22日 中小企業問題研究部会「『中小企業憲章(案)』に関する意見(パブリックコメント)」
22・23日 第18回パート・派遣など非正規ではたらくなかまの全国交流集会
24日 「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト・社会保障作業部会(仮称)
25日 女性労働研究部会
27日 国際労働研究部会
30日 地域政策研究プロジェクト拡大研究会

 

5月の事務局日誌

5月1日 メーデー
8日

第4回編集委員会
第6回企画委員会

12日 「労働総研ジャーナル」スタッフ会議
14日 事務局会議
15日 第5回常任理事会
19日 全労連「中小企業支援等の最低賃金引上げ対策検討チーム」中小企業庁との意見交換
20日 全労連「最低賃金の改善と中小企業支援の拡充に関する要請」に関わっての日本商工会議所との懇談
22日 労働者教育協会総会へメッセージ
23日 自治体問題研究所総会へメッセージ
 29日 第1回理事会