労働総研ニュース:No.242 2010年5月



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関西圏産業労働研究部会での議論 丹下晴喜
政権交代初の2010春闘をふり返る 鹿田勝一




関西圏産業労働研究部会での議論

丹下 晴喜

 私は、労働総研の研究部会のなかでは少し“異色”の部会、「関西圏産業労働研究部会」に属している。“異色”というのはいろいろな意味でだが、ひとつ挙げるとすると具体的なテーマを冠していない研究会という点だろう。研究会では、(1)現代資本主義論あるいは労働問題・社会政策分析の全体像に関わる文献の検討、(2)研究会に参加する若手研究者のテーマに沿った議論を行ってきている。

 “論点を鮮明にして成果を確実に!”というお叱りもあろうかと思う。しかし、研究所設立時に代表理事をされた戸木田嘉久先生をはじめ、三好正巳、藤原壮介、浪江巌の先生方の参加をいただき、また先生方から見ればすでに孫といっていい若い世代が報告を担当し、議論するなかで、たとえば自らがどのような立場・視点で現代がかかえる課題に取り組むべきかなど、多くのことを深く考えることができた。

 さて、研究会の若手世代が深めている2つのテーマについて紹介したい。第1は非正規労働者が組織する労働組合運動の可能性という問題である。私が参加した労働総研と全労連の共同調査、「労働組合の活動実態と課題と展望」において、光洋シーリングテクノの非正規労働者の闘いを検討するなかで立てられた論点であった。「不安定な就業を余儀なくされている彼/彼女らがなぜ組合としての規制力を持ちえたのか」という問題意識は、研究会に参加していた若手研究者に引き継がれ、「派遣村」に代表される「新しい労働運動」の可能性の検討、特に時代的制約のなかでそれを担う主体がどのように形成されたのか、その条件を多様な角度から分析するという方向に、彼の研究は向かっているようである。

 第2は、日本労働市場における外国人労働者問題の構造的把握という問題である。これは、愛媛でJMIU組合活動家が行っていた中国人研修生・実習生の残業代未払い告発活動から問題意識を得たものだったが、研究会に参加していた大学院生が引き継ぎ、研究テーマとした。明らかになったことは、(1)1990年代の不況期における外国人労働者の急増は、日本の労働市場の規制緩和=非正規労働者層の拡大と多様化を共通の基盤としているが、特に研修生・実習生の増大は固有の特徴をもっていること、(2)その固有の特徴とは、研修生・実習生制度が、労働市場の規制緩和のみならず、中小零細企業衰退、地域地場産業の崩壊という日本経済の二重構造から生じる諸問題の集中的表現であるということ、(3)したがって研修生・実習生制度は、この二重構造の崩壊過程における労働力需給システム=労働力政策として機能するとともに、それが国際協力制度であることを建前とした点で労働者保護を行う労働制度を欠いたものであったこと、などであった。

 以上、短い範囲では十分伝えることができないが、これらの成果は若手のメンバーによってすでに公表されているし、これから公表されていくと信じている。労働総研や全労連運動の発展に貢献できる芽が出始めているという点で、お許しを願いたい。

(たんげ はるき・会員・愛媛大学法文学部准教授)

政権交代初の2010春闘をふり返る

〜「政労使」三すくみ打破へ政策力強め、国民共同拡大を〜

鹿田 勝一

 2010春闘が総括シーズンを迎えた。政権交代下の歴史的な初春闘であり、デフレ経済の打開へ賃金、雇用、福祉充実による内需型良循環経済への転換が最大の課題だった。ところが、いずれも目立った成果に乏しく、とりわけベア放棄・定昇維持の連合など政労使の対応については「春闘攻防『窮乏化』が始まるのか」(「朝日」3月21日)、「労使合作の『定昇維持』、満足する労組に違和感あり」(「日経」)など厳しい論評もみられる。

 他方、今春闘では大企業の膨大な内部留保の社会的還元を求める提言や運動が労働総研や全労連、全労協をはじめ、政治の場面でもみられた。全労連は「変化をチャンスに」を合言葉に、ベアを掲げて見える春闘を展開し、スト産別の増加や全労協系産別との共同ストなど新たな前進もみせた。

 今後の春闘構築へ、変化する政治情勢をふまえつつ、国民生活の擁護へむけた経済社会の枠組み改革へ、突っ込んだ春闘総括と新たな運動の展望が問われている。

経営側に有利な連合の定昇春闘

 春闘55年の歴史の中でベアゼロ・定昇維持を今年の連合や日本経団連のように、労使とも評価する春闘は異常である。

 定昇は、賃金表を書き変えない(ベアゼロ)で昇給する制度であり、労務構成が変わらなければ、人件費の負担増にはならない。むしろ、最近は定昇維持だけでは、企業の総額人件費削減に寄与し、経営を利してないかの検証が必要となっている。

 春闘に影響力をもつ自動車トップ企業の定昇は昨年7100円(今春も同額)だったが、平均賃金は月額4740円も低下している。2583円も低下している企業もあった。回答は定昇のみだったが、会社は総額人件費の枠内でも数千円のベアは可能だった。

 電機も「団塊世代の大量退職で総額人件費は下がる企業が多い」と主張し、定昇を維持した。ところが主要5労組の開発・設計職の賃金は3年前の水準。会社の営業利益は前年比10倍増でありながら、組合が3年間も賃金水準を凍結するとはどういうことなのか。組合から明確な見解は聞かれない。

 連合は、春闘結果について、最低要求の統一ベア放棄・定昇維持の連合方針に沿った妥結と評価している。一方、日本経団連も組合のベア見送り、企業の定昇維持を評価した。

 経営側が春闘のベア否定と、経営主導の賃金管理のもとで範囲給内の内転原資として査定評価できる定昇を評価するのは当然だろう。

 定昇制度とは、「デフレ下でのベア否定」「内転原資の範囲で労働者の賃金の査定替えを行う制度」「ベアは労働側の主張が強いが、定昇は経営権の枠内で行う」として経営側が導入し、経営側有利の人事賃金制度であることを見落としてはならない。

 組合によっては「定昇は要求するものではなく、当然実施されるもの」として、NTTや自動車の本田、鉄鋼大手など385組合が定昇実施を要求していない。定昇春闘では、賃上げ交渉の仕方を知らない役員も増え、職場の賃金実態もわからなくなっているという。しかも経営側は交渉で賃金抑制へ連合のベア見送りを悪用し、ベアを要求した組合非難まで行っている。労使関係からも連合、大手産別、単組の定昇春闘の打破は今後の大きな課題だ。

 一方、一時金は連合集計で昨年より0.19カ月多い4.42カ月となった。業績回復は一時金として、賃金の固定費化を回避する企業側の傾向もみられ、今後に課題を残している。

連合中小春闘の明暗と有志共闘に影

 金属大手回答に影響されない春闘をめざしている連合の中小共闘は格差是正としてベア500円を含む賃金改善5000円を設定した。しかし妥結水準(5月10日現在)は22産別1566組合の単純平均で3664円(1.48%)で、昨年を129円上回ったが定昇以下だ。産別で明暗があり、自動車では大手のベア放棄のなかで、中小529組合が賃金改善を求め、成果は10組合。電力も中小84組合が賃金改善要求をしたが、成果は5組合と、大手組合のベアゼロ回答が影を落としている。

 一方、産別統一闘争を展開するUIゼンセンは187組合が賃金改善を要求し、44組合が成果をあげ、99人以下では昨年比563円アップなど善戦とし、産別力の強さを発揮した。

 春闘全体の回答妥結4301組合のうち、賃金改善は302(7.0%)組合。交渉では経営側が「連合がベア要求しないのに、なぜ賃上げ要求するのか。うちの組合は何を考えているのか」「先行ベア回答を労使とも公表したがらない。親企業からたたかれるから」など懸念の声も聞かれた。

 結成3年を迎えた「有志共闘」にも、連合のベア放棄と定昇維持路線は影を落とした。

 昨春闘では金属大手のベア総崩れに抗して、連合春闘19年で初めて先行ベア回答を発表し、影響力を発揮した。今年も「有志共闘」には8産別167組合がエントリーした。うち集中回答日の3月17日時点では、フード連合、UIゼンセンなど、賃金改善は16組合の単純平均で694円にとどまった。

 有志共闘の幹部は「今年は連合が定昇維持でベアを要求していないから、先行ベア回答は重視されてない」と、役割後退の懸念も聞かれた。今後、金属、交運など連合の新5共闘との調整も課題とされている。

 苦闘する中小春闘と有志共闘。今春、連合は高木前会長時代の06春闘から4年間続けた賃金改善をはずしたために、闘う組合の孤立もめだつ。連合と大手産別には、社会的役割として賃金改善を展望した要求のあり方が問われている。

すそ野ひろげた非正規春闘

 非正規春闘は、参加組合の増加と、派遣・契約など間接雇用の処遇改善で新たな取り組みもみられる。

 連合のパート共闘は5年目を迎え、非正規を含む全労働者の処遇改善を重視した。参加組合は昨年より2産別多い18組織、単組数でも383組合多い2535組合とすそ野を広げた。取り組み課題でも均等・均衡処遇をめざして正社員への転換ルール、有給休暇の改善、退職金制度の導入など多彩である。一方、時給引き上げは30円増の要求に対し、11.73円増で、昨年同期より1.83円マイナスとなった。組織拡大は7産別63組合で約2万9634人となっている。

 派遣・請負労働者など間接雇用の処遇改善も初めて掲げた。32産別で取り組み、要求件数は3040件。昨年の1985件と比べ大幅に増加している。内訳は、直接雇用のパート、契約などの処遇改善が2738件。間接雇用の派遣などの実態把握や正社員化、派遣受入の労使協議などが332件である。協議項目は派遣法に基づくチェックにとどまっているのが特徴だ。

 ナショナルセンターとして連合は初めて製造業派遣・請負大手の日本生産技能労務協会や日本人材派遣協会との協議を実施した。賃金・労働条件、社会保険など「派遣労働者と派遣先労働者との均等・均衡処遇推進で政策課題について検討」との共同宣言をまとめ、今後の展開が注目される。

 企業内最賃もパートを含む全従業員対象の協定は336組合が要求し、221組合が成果をあげた。電機連合では13単組が産業別最賃を2年連続で500円引き上げ、法定の特定(産業別)最賃の引き上げにも結びつくものとなる。

賃金デフレすすみ、ゆがむ分配

 春闘結果は分配のゆがみ是正にはほど遠い。連合の回答妥結平均(5月11日現在)は4973円(1.71%)で、昨年の深刻な経済危機下よりマイナス139円と厳しい結果だ。

 要求と妥結との関係をみると、ベア要求した昨年より、今春の要求は2833円減(マイナス1.03ポイント)と低かったが、妥結はマイナス139円にとどまり、ほぼ昨年並みを確保した。古賀会長は「賃金カーブを維持して賃金低下をくいとめ、賃金デフレにも歯止めをかけ、所期の目的は達成できた」とコメントした。JCの西原議長も「組合員の生活とモチベーションの維持を図るための責任を果たしつつあるのではないか」とコメントした。

 しかし、ベアゼロ・定昇維持の評価とは裏腹に、分配はゆがむ。昨年はリーマンションクで最悪の経済危機だったが、今年は景気は上向き、全産業の3月期経常利益は30%近い増加となっている。しかも、大企業の配当総額は前年3月期より5%増と底入れを示し、増・復配企業は50%も増加している。

 一方、賃金は昨年430万円で、前年比7万円も落ち込み、平均月額給与も09年は前年より3.9%減となり、過去最大の減少幅となった。実質賃金も過去最大の2.5%減少し、物価下落以上に賃金デフレが進んでいる。消費支出も7カ月ぶりにマイナスに転落した。

 深刻な賃金低下と消費支出減少のもとで、ベアゼロ・定昇1.7%程度では賃金低下を阻止し、賃金デフレに歯止めをかけたとはいえず、消費不振の長期化も懸念される。連合総研調査では世帯の38.7%が赤字であり、生活擁護へ賃上げこそ切実な要求だった。

 一方、大企業の内部留保は09年で9兆円も増大しており、トヨタの剰余金は今年3月で11.6兆円、キャノン2.8兆円など膨大だ。配分の歪み是正という点でも、連合運動のベースとなる「生産性三原則」からみても公平配分に課題を残し、組合の存在の問われる春闘結果となっている。

「変化をチャンス」に全労連春闘

 全労連は「変化をチャンスに、貧困と格差解消・内需の拡大を」と、1万円以上の賃上げを掲げ、ストを含む50万人統一行動や内部留保の社会的還元へトップ10企業に申し入れなどを展開した。国民春闘共闘の回答妥結水準(5月11日現在)は単純平均で5361円(1.74%)となり、前年同期より37円増、率で微増となった。加重平均では5791円(1.87%)で、昨年比53円減となっている。

 回答の特徴は、仕事の減少や価格ダンピングなど厳しい情勢のもとでも、各産別はベアを要求。JMIUは3万円以上の要求を掲げ、ストを背景にした産別交渉や金属共同春闘を展開し、昨年を255円上回る5299円を引き出している。日本医労連は診療報酬の引き上げなどを背景に2万円以上を要求し、各地でストや職場集会に取り組み、6221円(2.26%)と昨年を上回り、ベア獲得組合も増えている。

 その他、建設関連労連、全労連全国一般、建交労(鉄道)など11産別が前年比プラスとなり、全体の51%が前年実績以上を獲得している。自交総連も全国15地方でタクシーストを実施し、東京では1500台が国交省への車両請願を行った。郵政では郵産労と全労協の郵政ユニオンが共同ストを行い、全労連の大黒議長と全労協の藤崎議長が初めてエールを交換し、組織を越えた春闘ストもみられた。

 非正規労働者のパート・アルバイトの処遇改善では、10単産1地方241組合の単純平均で15.0円の時間給引き上げとなり、昨年を2.8円下回ったが、日本医労連が全体平均を押し上げている。企業内最賃・年齢別最低保障では、前年同期の78組合を上回る122組合が回答を前進させ、トラックや清掃で最低保障賃金を獲得している。育児・介護休業では、出版労連、全印総連、建交労などで協定化が進んだ。

 闘争体制では、記者会見で小田川事務局長が「スト組合が430組合で昨年の最終335組合より増加し、目にみえ、音に聞こえる春闘で一定の前進」と語る。50万人行動も34万人で昨年以上の取り組みとなっている。一方、地域活性化ポスターは宮城、東京、大阪など一部にとどまり、活用に工夫が求められている。

 各産別も医療、交通、中小企業・最賃政策などを掲げて、省庁交渉を行い、経済闘争と政治闘争を結合させて運動を展開。公契約運動などを含めた地域総行動も具体性をもって広がっているのも特徴である。

政策闘争で派遣法の欠陥修正を

 政権交代で労働・福祉政策の前進に期待がもたれたが、わずか8カ月で鳩山政権に対する失望と怒りの声さえ聞かれる。とりわけ、格差・貧困打開にかかわる派遣法改正では、内容に欠陥が多く、修正を求める取り組みも強まっている。

 大きな問題は、製造業、登録型派遣で禁止の例外となる「常用雇用」の内容である。常用雇用の定義を「期間の定めのない雇用」に改めないと、日々雇用を含め、1年超え契約を口実に短期・反復更新の不安定な雇用となり、「派遣切り」も懸念されている。

 創設された違法派遣の派遣先「みなし雇用」も正社員化に是正しないと、低賃金の直接雇用とされ、契約期間満了で解雇されることになる。その他、登録型派遣も専門26業務は禁止されず、日雇派遣の禁止も政令で解禁される。派遣先の「団交応諾義務」も見送られ、均等待遇も後退し、施行期日の3〜5年先送りなど派遣使い捨ての温存も懸念される。

 「どこまで使える 派遣法改正案」を掲げた院内集会では、規制強化の方向を評価しつつも、法案の欠点を修正しないと、「派遣使い捨て」と雇用格差・貧困は改善されないことが浮き彫りにされた。

 ところが、連合は「不十分な点も多々あるが、早く成立させたうえで、今後の検討を」と発言。しかも政府が派遣先による事前面接の解禁を削除したことに対して、南雲事務局長が政労使審議会の答申と異なる「修正は本位ではない」と発表し、さらに審議会は厚労相に「答申と異なる修正は遺憾」とする意見書を提出した。これに対して日本労働弁護団の水口幹事長は「審議会の越権行為だ、国会で答申修正はこれまでにも例がある」と表明し、全労連も反論の意見書を発表した。

 日弁連は「法改正を望む派遣労働者の声が十分に反映されていたか疑問が残る」と問題を指摘している。雇用は正規雇用が当然であり、派遣は臨時的・一時的業務に限定し、常用代替を禁止するという法案の抜本的な修正が求められる。

 政府との関係でも、連合は会長と首相とのトップ会談、事務局長と官房長官との定期協議、各省庁との随時協議など政権参加体制を強めた。しかし、失業給付など雇用政策で部分的な改善がみられたものの、財源問題を理由に大きな制度変更はみられない。政府も子ども手当、高校授業料無料化など可処分所得の改善を進めているが、生活不安から鳩山内閣の支持率は20%台の危険水域に入っている。

 もともと鳩山政権は、自民政治の破綻からの政権交代であり、「政治とカネ」「普天間基地」での逆走に加え、派遣法改正の成立見送りや、医療後退と消費税増税論では、何のための政権交代かが問われよう。民意に背を向けず、「生活第一の政治」を遂行すべきである。

「政労使」三すくみ春闘構造の打破を

 春闘体制では政権交代後の春闘にもかかわらず、政労使の三すくみ状態がみられた。その打開は、今後の国民春闘構築にとっても大きな課題となっている。

 労働サイドでは、連合は09年10月、業績回復にもかかわらず早々とベア放棄・定昇維持を決めた。記者会見で「連合のベア放棄は内需を冷し、政策のブレーキにならないか。定昇を軸に賃金改善の方向は?」といっても、「ベア要求すべきでない」と断言。分配のゆがみで質問しても「景気はまだ回復してない」という始末。「政権交代は労使関係に無関係」と語り、政権交代を踏まえたパラダイム(枠組み)変革はみえない。

 財界サイドでは、日本経団連の経労委報告は、35年の同報告のなかでも、とりわけ暴論にみちている。政権交代で内需型経済が重視されているにもかかわらず、旧態依然に総額人件費抑制から「ベアは困難」「賃金カーブ(定昇)維持かどうか話し合い」と賃下げも示唆。企業エゴの結果、内需は縮小し、企業の業績停滞、雇用劣化、品質劣化などデフレ経済悪循環の亡国に突っ走る。「賃金より雇用重視」といいながら、「非正規切り」など雇用破壊を進め、「企業労使の一致協力」など、組合否定の暴論さえ展開した。

 政府サイドでは、「言葉の軽さ」「ぶれ」が目立つ新政権の鳩山首相は、春闘本番を前に「経営者にとって簡単に昇給できる状況ではない」と、経営サイドの定昇困難の暴論を容認し、春闘に水をさす始末。政権交代前の自民党の福田、麻生首相でさえ、春闘時には内需拡大へ経営側に賃金改善を求めたのと比べても、鳩山首相の後退ぶりを印象づけた。「労働なき富」の是正をいいながら、大企業の内部留保や配当は不問にしたままだ。

 全労連の大黒議長が、鳩山首相の「経営者の昇給困難」発言に対して「信じがたい発言であり、労働者の賃金などの改善にむけた姿勢を求める」とする要請書は当然である。日本共産党の志位委員長との会談で鳩山首相が「内部留保に課税も検討」との発言も労働界で話題となった。「生活第一の政治」へ攻めの材料は多い。

過渡期の時代に攻めの労働運動を

 春闘56年でも変化の時代。政権交代と新政権の迷走、自民政治復活型の複数新党などの情勢を見極めつつ、新たな政治選択と国民生活擁護の国民春闘の展望が求められている。

 運動の座標軸は、政治経済社会の新自由主義からの脱却であり、内需拡大への良循環経済の転換と生活擁護、貧困・格差是正など国際基準や憲法を踏まえたディーセントワークへの働くルールの確立である。これまで以上に政策立案能力の向上と国民共同による要求実現力が、労働運動の重要課題となろう。

 三すくみ状況を打破するうえでも、まず大企業の社会的責任を追及し、国際基準をふまえた働くルールの確立や、税制を含めた所得再配分の構造変革へ膨大な内部留保の社会的還元を果たさせることである。

 その実現へ、労働総研が提言した内部留保の社会的還元を世論化させ、実践させることはより重要となっている。提言は内部留保428兆円のうち、リストラ、下請単価の切り下げなどこの10年で急増した218兆円の社会還元の経済効果を試算。内訳は最賃1000円、非正規の正規化、法人税率40%への復元、設備投資と、賃上げでは98年水準に戻すだけで1人月額3万5000円などである。全体では、内需拡大が264兆円となり、それによって国内生産が424兆円、付加価値(触DP)が231兆円誘発される。税収も国、地方合わせて41兆円も増加し、財源不足も一定解消できることになる。

 メディアも大企業の内部留保の社会的還元を求める提言に注目しはじめた。厚労省の09年労働経済白書も経済社会の内需成長型転換へ向け、賃上げなど所得向上と長期雇用へ内部留保の総需要活用を提言している。労働界でも全労連、全労協とも一致して運動展開できる共同課題であり、私鉄総連では複数単組の労使交渉で内部留保の還元を求め、今後より強化した取り組みも期待されている。

全労連の政策力・実現力高め、国民共同拡大

 労働運動の前進へむけ「変化をチャンス」とする国民春闘の構築が課題となる。賃上げ、雇用確保、福祉、平和など、「国民生活第一の政治」遂行への攻めの運動といえる。日弁連の宇都宮会長は「政権交代は規制緩和路線の転換の契機になりうるが、政権まかせでなく、市民団体、労働団体など国民の運動が重要だ」と提言している。その構造を生かせば、労働運動前進のチャンスとなる。

 連合の高木前会長も労働運動のパラダイム変革として、政権交代をふまえ経営側への拮抗力強化として、「ものわかりのよい春闘から筋を通す労働運動」「争議権の再認識も」などを提起。春闘への求心力を高めるためにも産別自決でなく、ナショナルセンターの調整・指導の強化など闘争改革論を強調し、社会的影響力のある運動と労働中心の福祉型社会構築を訴えている。

 新たな取り組みでは、今年初めて連合は金属、化学、流通、公益、交通など5共闘の職種別賃金として水準の高い62代表銘柄を設定した。非正規などを含め外部・内部労働市場の横断的な賃金水準の形成をはかる構想である。中小では格差解消へ5万円前後の賃上げも必要となるため、労使交渉だけでなく、中小企業支援政策との両面の運動をめざしている。今後、大くくりの職種別賃金政策の確立が課題となろう。

 今後の春闘へ向け、奮闘している連合の産別からは、生活改善へ賃上げ、雇用、福祉充実による内需型良循環経済の転換へ、連合はもっと旗を振るべきだとの見解も聞かれる。

 他方、要求論にかかわって、連合は賃金改善では物価、業績、格差、賃金体系是正、付加価値生産性などを理由に、産業・業種の格差から統一ベアには不透明さをみせている。今後、春闘を産別自決として、政策に傾斜し、大手産別は統一ベアを要求しない定昇中心春闘となり、定昇のない中小や非正規中心の春闘になることも想定されよう。

 国民、政府にとって重要な内需型良循環経済の転換ともかかわり、ナショナルセンターでは全労連のみが統一ベア・賃上げを掲げ、政策要求とあわせて国民春闘を展開することも想定されよう。これまで以上に全労連の政策力を高め、実現の期待に応える闘争力の構築がより重要となっている。今春、全労連のスト組合増加や中小企業臨時支援策として「最低賃金底上げ支援特例補助金」案や公契約、雇用セーフティネットなどの政策立案が注目されるゆえんだ。

 海外では、ドイツは経済危機打開へ賃上げで内需拡大をめざし成果をあげている。アメリカのオバマ大統領は景気浮揚策へ新規雇用や賃上げを行う中小企業には減税を行うと表明。高所得者への減税廃止や金融機関に「金融危機責任料」も課す方針である。

 日本も「変化をチャンス」に、過渡期の時代の労働運動の構築へ、国民本位の政治と国民生活を第一とする経済社会の枠組み変革へ、新たな展望を切り拓く壮大な国民共同の春闘構築が求められている。

(しかた かついち・会員・ジャーナリスト)

4月の研究活動

4月8日 中小企業問題研究部会(公開)
  13日 賃金・最賃問題検討部会
  15日 女性労働研究部会
  23日 労働時間・健康問題研究部会

 

4月の事務局日誌

4月3日 第5回企画委員会
  9日 石川武男元JMIU委員長葬儀
  16日 全損保・日動外勤のたたかい解決報告集会
  23日 事務局会議