労働総研ニュース No.231・232 2009年6・7月



目   次

2009年度定例総会方針(案)
[I]2008年度における経過報告
[II]研究所活動をめぐる情勢の特徴
[III]2009年度の事業計画
[IV]2009年度研究所活動の充実と改善
定例研究会報告他




労働運動総合研究所2009年度定例総会方針(案)

2009年8月3日(月)14〜17時、全労連会館会議室

I.2008年度における経過報告

 「労働運動の必要に応え、その前進に理論的実践的に役立つ調査研究所」として、「全国労働組合総連合(全労連)との緊密な協力・共同のもとに、運動の発展に積極的に寄与する調査研究・政策活動をすすめる」という当研究所の設立趣旨を、現段階の情勢の要請にふさわしく前進させる調査研究・政策活動を展開した。

1.研究所プロジェクト

(1)「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト

 08年度定例総会にて設定された本プロジェクト(責任者・牧野富夫代表理事)は、雇用の破壊が労働者の(1)経済的ゆとり、(2)時間的ゆとり、(3)心身の健康を奪っている、「人間的な労働と生活の新たな構築」をめざすキーポイントは“雇用の安定化”にある、という観点から、雇用問題を“切り口”に“広い視野”からテーマの解明をめざすこととした。
 08年12月12日には論点整理のため、シンポジウムを開催した。牧野富夫代表理事が報告とコーディネーターをおこない、天野寛子昭和女子大学教授、日野秀逸東北大教授・常任理事、小田川義和全労連事務局長が報告をした。
 09年5月9日の第5回常任理事会においてプロジェクト推進体制の確立し、6月6日には「労働時間をめぐるたたかいの現段階での課題」をテーマに公開研究会をおこなった。

(2)「21世紀労働組合の研究」プロジェクト

 前期に引き続きまとめの作業がおこなわれ、その研究成果は「労働総研クォータリー」No.75(09年9月刊行予定)に発表される予定である。

2.共同プロジェクト

(1)「地域政策検討」プロジェクト

 09年1月の全労連の第43回評議員会で決定された方針に沿って調査活動が進められ、今年度は事前調査とアンケート調査が実施された。

(2)「首都圏最低生計費調査」プロジェクト

 全労連、東京地評、埼労連、千葉労連、神奈川労連との共同で、監修責任者金澤誠一佛教大学教授により、08年7月の中間発表を経て、08年12月8日に「首都圏最低生計費試算調査報告」として記者発表した。また本報告にもとづき、12月13日には「最低生計費」を考えるシンポジウムを開催した。本調査報告は「労働総研クォータリー」No.73・74に掲載した。
 この調査研究は最低生計費と最低賃金制との関連を具体的に論証する上で重要な調査研究となった。また、マスコミなどの反響も大きく、世論にアピールをした。

(3)「社会保障のあり方検討会」

 09年3月、全労連より、「社会保障に関する政策立案」の協力要請がおこなわれた。
 5月2日全労連社会闘争本部より提案された政策の骨子は(1)私たちがめざす社会保障改善の基本方向、(2)社会保障の後退と深刻な労働者・国民の実態、(3)当面する改善要求、(4)社会保障を支える財源は十分にある、である。
 労働総研として協力できるスタッフを推薦した。

(4)「労働組合トップフォーラム

 今期はおこなっていない。

3.研究所の政策発表

(1)「〈試算〉非正規雇用の正規化と働くルールの厳守による雇用増で日本経済の体質改善を」

 この試算は労働総研「労働者状態統計分析研究部会」を中心におこない、08年10月31日に記者発表した(「労働総研ニュース」No.223・2008年10月号掲載)。
 (1)非正規の正規化の経済政策として正当性の論証、(2)日本経済の体質改善の必要性を係数的に論証するものとして、世論にアピールをした。

(2)「解雇規制と失業保障、雇用創出のための緊急提言」

 昨年来の雇用情勢の急激な悪化と景気後退を受け、08年12月12日第3回 企画委員会で問題提起をし、09年1月10日に「解雇規制と雇用・失業保障のための緊急政策提言懇談会」を開催した。そこでの議論をもとにしながら、3月5日「解雇規制と失業保障、雇用創出のための緊急提言」として記者発表した(「労働総研ニュース」No.228・229・2009年3・4月号掲載)。
 この提言は、(1)情勢に即した対応、(2)雇用破壊の元凶の明確化・労使協調宣言の限界、(3)緊急的な対応を「派遣村」などの具体的な事実に基づいて要求、(4)緊急課題と中長期的な施策への関連性を提起し、長期的な変革の必要を示唆、(5)内部留保について財界の見解に対する有効な反証を提起、(6)「ワークシェアリング」についての「財界提案」の事実隠蔽を暴露、などの特徴をもつものとして評価される。今後もフォローアップで雇用失業に対する政府の対応を追求する必要がある。

4.研究部会

 研究所会員が常任理事会に研究計画を提出し、常任理事会の承認を得た研究計画にしたがって実施する「研究部会」は、今期は7部会が活動している。各研究部会の研究成果については「労働総研アニュアル・リポート2007」(「労働総研ニュース」No.224・225 2008年11・12月号掲載)、および「ディスカッション・ペーパー」などの刊行物として発表した。

(1)賃金最賃問題検討部会(11回開催)
 ディスカッション・ペーパー「成果主義賃金の現状と問題点―公共部門・民間部門の実態と対案の構築をめざして」発表。

(2)女性労働研究部会(8回)
 ディスカッション・ペーパー「戦後の女性労働運動」発表。

(3)中小企業問題研究部会(5回・うち公開1回)
 ディスカッション・ペーパー「中小企業の活性化、経営危機突破の共同について」発表

(4)国際労働研究部会(7回)
 全労連編集・発行『新自由主義の破綻の中で−雇用と生活を守るために−世界の労働者のたたかい2009 世界の労働組合運動の現状調査報告 15集−』に協力。

(5)労働時間・健康問題研究部会(5回)

(6)労働者状態統計分析研究部会(4回・「国民春闘白書」編集委員会を含む)

 全労連・労働総研編「2009年国民春闘白書」を発表。

(7)関西圏産業労働研究部会(6回)

5.研究活動の関連施策

(1)研究例会

 09年6月5日にシンポジウム「経済危機下で、どう雇用を守るか?−中小企業の現状と労働運動−」をおこなった。労働総研「中小企業問題研究部会」の協力のもと、コーディネーターとして相田利雄法政大学教授、またシンポジストとして、松丸和夫中央大学教授はじめ愛労連港地区労から中小企業訪問活動、JMIUから経営危機下での雇用確保闘争について、「合意協力型の労使関係」の意義が強調された。中小企業家同友会から経済危機下での経営戦略として、中小企業経営者が雇用の確保にいかに努力しているかの報告がおこなわれた。

(2)研究交流会

 08年9月14日に研究交流会として賃金最賃問題検討部会と女性労働研究部会が共同で公開研究会をおこなった。なお、両部会はその後も研究の交流を続けている。

(3)E. W. S(English Writing School)

 わが国の労働運動を中心にした情報を海外に発信するための書き手養成講座として始まったE. W. Sは、今年度も毎月2回、おこなわれた。

(4)若手研究者研究会

 学生の労働組合についての意識に関するアンケート調査を実施した。調査結果は「労働総研ニュース」に発表する予定である。

(5)20周年記念事業としての労働総研奨励賞(仮称)の設立

 若手研究者・団体の優れた調査研究を対象に「労働総研奨励賞(仮称)」を設立することについての検討を、常任理事会の委託を受けて検討委員会(責任者・日野秀逸常任理事)でおこなった。

(6)産別会議記念労働図書資料室

 堀江文庫などを含め、日常的な開館に向けた準備をおこなった。

6.その他

 労働法制闘争本部・中央連絡会、世界平和労組会議、非正規雇用労働者全国センター発足祝賀会などに参加した。

II.研究所活動をめぐる情勢の特徴

1.激動と転機を迎える世界の新たな動き

 昨年の総会以降世界情勢は劇的な変化を見せている。これまで大手を振って世界中を闊歩してきた新自由主義的な経済政策の破綻があらわになり、それからの転換を図ろうとする動きが大きくなる一方、転換を避け、巻き戻しを図る動きもあなどれない力となっている。

 (1)アメリカの金融危機に端を発した金融・経済恐慌は、アメリカ、欧州、日本、途上国を次々とまきこんで、いぜん猛威をふるっている。一部に「景気悪化に歯止めがかかった」との情報が流されているが、それは垂直落下的な悪化のスピードが鈍ったというにすぎない。事実、最近時点で見ても、生産の落ち込みはアメリカで−5.7%、欧州で−9.7%、日本では−30.7%となっている。とりわけ雇用状況は深刻で最悪事態の真只中にあり、雇用の減少や失業の増加が続き、アメリカやユーロ圏の失業率は9%をこえて増大し続けている。
 世界的な未曾有の財政出動にもかかわらず、1929年恐慌を上回るとも言われる資本主義経済の破綻にはなお打開の目途がたっていない。根底には、長年にわたって累積されてきた過剰生産、貧富の格差、過剰金融などの構造的問題があり、現状は世界の労働者・諸国民の苦難解消にはほど遠い状況だと言わねばならない。

 (2)世界が現在抱えている問題は、金融・経済恐慌の問題ばかりではない、地球存亡にかかわる問題も抱えてきている。地球温暖化の問題は、一刻の猶予もならない切迫した重大課題になっている。きわめて危険な状態にある核兵器の廃絶もすぐにでも実現されなければならない課題である。世界的な食糧価格の高騰にあらわされる食糧危機の問題も、早急な対策を講じていかなければ大量の飢餓を招来することは目に見えている。
 これらの課題は人類に共通する課題として、人類の叡智を振り絞って対処すべき課題であるにもかかわらず、依然としてこれら事態を一部の人間の利益にしようと立ち回っている部分が存在している。今日の労働運動は、これらの人類的課題をも念頭におき、人類的課題の解決を阻む勢力の策謀を明らかにし、活動をすすめる必要に迫られている。

 (3)今日の世界情勢のなかには、新たな希望にむけての積極的要素もまた生み出されている。

 (1)「唯一の超大国」が世界を支配する時代、あるいは支配しようと暴走する時代は、過去のものとなりつつある。数十年にわたって世界中で猛威をふるってきた「新自由主義」と「覇権主義」の破綻は、いまやだれの目にもあきらかとなった。強欲と収奪の資本主義は社会正義がおこなわれる市場経済に取って代わられねばならない、という認識がひろく国際社会のなかで共有されるようになり、社会対話を通じて経済危機に取り組もうという経済・社会政策が世界的に形成されるようになった。それはG20などの新しい国際経済秩序構築への努力にもつながっている。

 (2)覇権主義から解放された発展途上国や中小の国々が、その自主的な活動を発展させ、国際政治の中で大きな役割を果たすようになった。中東でもアフリカでもアジアや南アメリカでも、それらの国々がイニシアティブをとって、外部からの干渉を排して地域内の問題を自主的に解決していく動きが強まっている。アジアでは、ASEANを中心に、世界人口の57%を包含する東南アジア友好協力条約が締結される成果が生み出されており、南アメリカでは国境をこえた社会主義的経済圏づくりを模索する動きも発展している。

 (3)イラクやアフガニスタンに見るように、今日なお覇権主義的な軍事干渉が残されてはいるが、全体として最近は、あらゆる紛争を平和的に解決するという国連憲章の原則が、現実の国際政治のなかでも遵守されるようになってきている。

 (4)EUやILOの動きに見るように、今日の「不況対策」のなかで最低賃金の引き上げや非正規労働者の均等待遇が実現されているように、あるいは、「不況」のなかでこそ「ディーセント・ワークをすべての人へ」の目標が重要だと国際的に強調されているように、労働者・諸国民の貧困打破と人権の保障を重視する政策が国際的に共通の政策となりつつある。

 (5)理性的な国際政治の基調が回復されるなかで、オバマ大統領のプラハ演説等にみるように、核兵器廃絶や地球温暖化問題などの人類共通の課題が世界の指導者たちによって真正面から取り上げられる可能性が生まれてきている。

 (4)しかし、日本および東北アジアの地域は、こうした世界史的な転換の流れから取り残されている。核兵器や軍事ミサイルを外交手段として弄ぶ北朝鮮の政治姿勢の問題に加えて、日本および韓国右翼政権の北朝鮮敵視政策、日本右翼支配層の「北朝鮮問題」を利用した改憲と核兵器保有への策動などである。
 これらアジアにおける問題の根底には、アメリカ政府がこれまで続けてきた敵視政策があるが、根本的な問題は、東北アジア諸国民の間の相互理解と信頼関係を日本の支配層が先頭に立ってたえず破壊してきたことである。それは、東北アジアにおける経済協力関係を発展させるうえでも大きな障害となっている。今日の金融・経済恐慌のなかでも、中国は国内需要喚起策によって比較的高い経済成長を維持しており、日本経済再興のためには、そうした中国との経済協力を軸に東北アジア経済圏を発展させることが不可欠なのであるが、日本の支配層にはそうした視点が欠落し、依然としてアメリカの核の傘の下で生き延びることを画策しているのである。

 (5)世界は平和と民主主義の発展にむけて、歴史的に大きな変革の時代を迎えている。そのなかで、国際的にも一つの焦点となっているのが、日米関係の改革問題である。アメリカの覇権主義に終止符を打たせるうえでも、日本とアジアの友好関係を発展させるうえでも、日米軍事同盟の廃棄と自主的平和的な日米関係の構築するためにも、憲法9条を持つ日本が世界平和のために果たすべき役割は極めて大きなものとなっている。

2.日本の政治・経済の歴史的転機を新しい日本をつくる大きな契機に

(1)国民生活をないがしろにした海外依存の政治・経済体制の歪みが経済危機を深刻に

 アメリカ発で世界に拡散された金融危機は、カジノ資本主義と新自由主義の破綻を明確にすると同時に、先進国だけでなく世界の多くの国々の実体経済をも深刻な危機に陥れた。
 世界的な経済危機は、日本経済にとりわけ大きなダメージを与えた。わが国の経済はアメリカや欧州ユーロ圏各国に比しても落ち込み幅が大きく、09年1〜3月期の国内総生産(GDP)は年率換算で14.2%減の戦後最悪の景気後退局面に追い込まれている。その背景にあるのは、アメリカに追随し、金融自由化と多国籍企業化を積極的にすすめ、市場と生産拠点の海外依存度を高め、国内需要を軽視する極めて歪んだ大企業本位のわが国経済の仕組みや産業構造である。
 また、正規労働者の派遣など非正規労働者への置き換え等徹底したコスト削減・雇用破壊、他方で長時間・過密労働の押しつけで労働者を犠牲に、史上最高益を連続的に更新しながら、労働分配率を引き上げて利潤を内部還元することもせず、法外な役員報酬や金融資本への株主配当、内部留保を最優先する利益至上主義の企業経営を優先させてきた結果、個人消費の縮小・国内需要停滞などわが国経済の矛盾をより深刻なものとしている。その結果、国内の需要不足は最悪の45兆円(09年1〜3月期)と推計されている(内閣府)。
 ところが、麻生自公政権や財界・大企業は、こうした歪んだわが国経済社会をつくりあげた政治的責任への反省も、抜本的な政策転換することもなく、その矛盾を「派遣切り」などの大規模な首切り「合理化」、賃下げなど、労働者への全面的な犠牲転嫁で乗り切ろうとしている。他方、将来の消費税増税につながる企業の資本増強のための公的資金の投入や大企業・富裕層むけの減税などの無責任なバラマキ的景気対策で問題の先延ばしを図り、政権への支持をとりつけようとしている。これらは国民の生活安定を実現する「個人消費拡大」や「貧困対策」とは無縁のものである。また、自公政権は「海賊対策」を口実とした自衛隊の海外派兵拡大、在日米軍基地の再編強化への負担肩代わりや憲法審査会の始動など国民の意に反した改憲策動を執拗に強めている。

(2)明らかになった社会政策の「貧困」と運動前進への可能性の拡大

 昨年末以来の「派遣切り」は、みずからに莫大な利益をもたらした派遣・非正規労働者を不況局面で真っ先に犠牲にする大企業の横暴振りをあきらかにした。また、これを真正面から批判せず容認する大企業労組の限界も明白にした。さらに、「職」を失うことが即「食」と「住」の喪失となるような労働者を大量に路頭に放り出す大企業中心社会における社会政策の「貧困」ぶりをも労働者・国民の前にさらけだした。
 一方で、東京・日比谷の「年越し派遣村」から始まり全国各地に広がった失業した派遣労働者への「救援運動」「相談活動」は、マスコミなどを通じて「派遣切り」を社会問題化させ、政治・行政を具体的に動かし、雇用・失業対策・生活保護などの制度・運用に一定の改善をかちとるなど、広範な労働者や労働組合、市民団体等の社会連帯の力の大きさを明らかにした。このとりくみの教訓などを活かし、「憲法が活きる」雇用・失業補償、公的職業訓練、公共住宅、生活保護制度等々の改善・充実にむけての運動をさらに継続的に発展させていくことが今後の課題となっている。
 また、「偽装派遣」問題などを先駆的にとりあげ、非正規労働者の組織化を積極的にとりくんできたJMIUや建交労などの単産や個人加盟が可能な地域労組など「まともな労働組合」のたたかいに激励されて、08年末のいすゞ栃木工場を皮切りに、全国各地の自動車・電機などの大企業で働いてきた派遣など非正規労働者が労働組合を結成し、大企業の横暴・雇用破壊とのたたかいに自ら立ち上がり始めたことは、全国各地の派遣・非正規労働者に勇気と確信を与え、労働運動前進への新たな可能性を拡大するものである。同時に、これらの組織と運動をさらに前進させるためには、非正規労働者と一体となった正規労働者のたたかい、全労連と傘下組織の労働者がそれを自らの課題として財政支援を含めどれだけ連体・共同の運動が本格的に追求できるかが決定的に重要になっている。
 労働総研としても、運動の前進に貢献するため、この間の提言をさらに発展させるなどのとりくみが求められている。

(3)歴史の重大な転機と新しい日本社会をつくる必要性

 新自由主義と大企業中心の政治・経済の行き詰まりは、いまや誰の目にも明らかであり、カジノ資本主義への規制・ルール確立の必要性が国際的にも指摘されている。
 いまこそ、くらしと雇用の危機突破、「人間らしい労働と生活」の新たな構築に向け、わが国の経済や政治の根本的な転換をめざし、労働者と国民のもてる力の最大限発揮が求められている。
 きたるべき総選挙では自公政権への国民のきびしい審判により、「政権交代」の可能性がマスコミなどにより指摘されている。したがって、政治的には自公政権の悪政に終止符をうつ歴史的なチャンスを迎えており、多くの国民もそれを期待していることは世論調査などでも明らかにされている。
 重要なことは、その「政権交代」が「政治の革新」「政治の内容」の転換につながるものであるのか、いうなら、アメリカ追随と労働者・国民犠牲の大企業本位の政策や自衛隊の海外派兵拡大など憲法改悪の流れ等々を転換するものであるのか、どうかである。この点では、構造改革を自民党と競い、日米軍事同盟を支持し憲法改悪の意思や消費税増税を鎧の下の衣にまとい、企業から政治献金を受け取り大企業の横暴に真正面からものが言えず、民意と民主主義切捨てにつながる「比例定数の削減」など選挙制度の改悪を主張するなど、国政の基本において自公政権と多くの共通点を持つ民主党では国民の切実な願いに真に応えられないことも明らかである。
 今日の情勢を歴史的転機として、アメリカ追随で大企業本位のわが国の政治・経済のあり方を転換し、大企業の横暴を規制し、輸出・海外依存から労働者・国民生活と地球温暖化などに対処する地球環境保護を何よりも優先する新しい日本社会、せめてEU並みの「ルールある経済・社会」を実現するため、広範な労働者・国民の切実な要求・願いをもとに国政革新への世論形成に向け各分野で奮闘することが求められている。

3.情勢にふさわしい調査研究などの課題

 本研究所は本年で創立20年を迎える。設立以来,本研究所はその時々の労働者階級および労働運動が抱える課題について調査研究を進め、多くの成果をあげてきた。
 しかし、この20年間に、労働者をはじめとする国民の仕事や生活をめぐる状況は多くの点で悪化したといわざるをえない。とくに90年代には長期不況、リストラの名の下に多数の労働者が解雇され、構造改革の名の下に労働法制の規制緩和が進んだ結果、正規労働者は派遣労働者や契約労働者などの非正規労働者に置き換えられ雇用の非正規化が急速に進んだ。他方で、リストラで正規労働者は過大な仕事量に対応させられ長時間・過重労働に追い立てられ、過労死・過労自殺が相次いでいるほか、メンタルヘルス面で問題を抱える労働者も著増してきている。
 こうした中で、多くの地域で非正規の労働者を軸にこれまでにはない新しい運動が活発に展開され、雇い止め裁判での勝利判決、直接雇用の実現などめざましい成果を上げている。このような労働者状態や運動の進展を踏まえて、今期重視する研究課題として4点を提起したい。

(1)大企業による高蓄積と雇用破壊、生活不安定化の実態分析

 90年代後半以後の「労働ビッグバン」により、各種の労働者保護がゆるめられ、労働者を中心とする国民各層の仕事と生活の基盤は大きく不安定化されてきた。このような国民生活の実態を大企業の高蓄積との関連で明らかにしていくことが重要な課題である。
 大企業の労働者支配、成果主義にもとづく個別賃金管理、非正規労働者を中心に進む雇用の不安定、賃金抑制による労働者家計でのゆとりの喪失の実態の分析を中心に、労働と生活をトータルに捉えた労働者と国民諸階層の状態の分析が求められている。この分析にあたって最底辺にある人々の生活や仕事の実態の究明は特別細心の注意が払われなければならない。

(2)さし迫った雇用破壊・生活破壊に対処する施策の点検

 昨年来の経済不況により労働者をはじめとする国民各層は仕事と生活の不安定にさらされることになった。国民の生活状態の極端な悪化について、自公政権も一定の対処をおこなってきた。しかし、それは大企業の横暴を放置し、自公政権の延命をはかるバラマキ的なもので、そのツケを消費税増税で取り返すものである。これが国民に真の安心をもたらすものでないことは明白である。自公政権が現在おこなっている施策を真に安心できる生活を実現するという視点から厳密に点検することが必要となっている。
 その基本的な視点としては、およそ次のようなものが考えられる。(1)大企業の横暴の規制、(2)雇用安定の実現、(3)最低賃金の引き上げによる賃金の底上げ、(4)残業の上限規制、サービス残業の全廃など労働時間の規制、(5)雇用保険の受給条件の改善、雇用保険から生活保護へのスムースな移行による生活の保障、(6)公的職業訓練とリンクした失業者の生活保障制度の実現、(7)失業が即ホームレスとならないような低家賃の公営住宅の充実、(8)高等教育費の無償化の実現、(9)国民生活に欠かせない雇用の創出、などである。
 このように現在の施策を精査することにより、真に国民の生活を安定させるのに必要な施策が何であるべきかが明らかになるであろう。特に最底辺に置かれている人々の状態がどのように改善されているかどうかが重要な試金石となる。

(3)市場競争至上主義的社会から内需主導型成長構造への転換の必要性

 ゆとりある生活、安心できる労働者生活を実現することは、日本経済の秩序ある発展のためにも必要なことである。昨年の世界同時不況で、日本経済が急速に落ち込んだが、日本の経済・産業構造のなかに内需中心の産業が位置づけられ、内需主導で成長できる構造が形成されていれば、アメリカの需要縮小がかくも急速に、かくも深刻に波及することはなかったと思われるからである。その意味で内需主導型経済への転換は待ったなしの課題となっている。
 逆に、内需主導型経済を創り出す条件の一つにゆとりある生活と安心できる生活の実現が位置づけられる。労働者生活にゆとりと安心が生まれれば、余暇を活用したさまざまなサービスへの需要が拡大することになるからである。社会保障従事者の労働条件の向上を含む社会保障の拡充は福祉サービスへの需要を直接的に拡大させるほか、関連部門の需要を拡大させるなど、経済への波及効果も大きいからである。また職業訓練や高等教育の拡充は、それだけ労働者の能力を高めることになり、経済の発展にも寄与することになる。
 このように日本経済の健全な発展のためにも労働者生活にゆとりと安心感をもたらすことが必要になっている。したがって、労働者生活の安定化という視角から内需主導型経済構造への転換への道筋を明らかにすることも、研究課題となろう。
 また安心・安定な生活を実現するためには、労働条件の向上はもとより社会保障の拡充など労働者の生活に対する公的な関与が欠かせない。その場合、「財源をどうするのか」という問題が提起されるので、財源問題にも踏み込んだ研究が必要である。その場合、税の負担においても低所得者の生活の安定を優先し、大企業や高額所得者への課税強化によるものでなければならない。所得再分配政策の強化による社会保障の充実が必要となる。
 したがって、本年度の研究課題は「人間的な労働と生活」を実現するための条件を、総合的・全体的に明らかにすることである。その際、ヨーロッパ諸国での「人間的な労働と生活」をめざす労働組合などのたたかいも分析し、教訓とすべきであろう。

(4)ゆとりある生活と安心できる生活の実現への転換の道筋の明確化

 政策課題を実現するためには、労働運動の飛躍的な発展が欠かせない。
 労働運動は、これまで春闘などで賃上げの成果をかちとってきた。それは「食える賃金を」という労働者の切実な要求に根ざしたものであった。
 これまで労働者や労働運動は生活向上を賃上げで実現するという意識が強く、ゆとりある生活と安心できる生活を実現するために、労働時間規制や労働者生活のゆとりを求める運動を目的意識的に追求するという点は比較的弱かったように思われる。労働組合が賃上げ運動を基本とするのは当然であるが、労働者生活の安定のためには上記で例示したようなさまざまな領域にわたる総合的な生活安定政策が必要となっている。
 内需主導型経済への転換のために決定的に重要なことは、労働者・国民生活の改善による個人消費の拡大で全国一律最低賃金制の確立や労働者の賃金引上げ、医療・年金制度など社会保障の改善が不可欠の課題となっている。また、その前進のためにも、広範な労働者・国民所階層の切実な要求とたたかう力の総結集で、春闘を文字通り財界・大企業や政府・与党を国民的に包囲する社会的なたたかい、国民春闘として再構築することが求められている。

 以上の基本的な視点にそって本年度の研究活動を研究所として有機的な関連をもって進めていく。

III.2009年度の事業計画

1.研究所プロジェクト

(1)「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト

 プロジェクト推進メンバーを中心に研究の方向を検討し、研究所内外の研究成果を結集して、研究を推進し、有効な提言を提示する。
 研究の中間的なところで、広範な討論を企画し、研究の促進をはかる。
 また、創立20周年記念事業の一環に研究所プロジェクトを位置づける。

2.共同プロジェクト

(1)「最低生計費調査」プロジェクト

 東北、九州などの地域に調査対象を広げ最低生計費についての科学的な精度の高度化をはかり、要求の科学的な根拠を強固なものとする。
 調査結果を全国的に広報するとともに、調査の成果を運動で具体的に活用し、要求実現の運動に役立つようにする。

(2)「地域政策検討」プロジェクト

 アンケート調査(「あなたの町の住みやすさに関する調査」)を実施し、自治体調査を09年8〜9月に実施する。〈北海道、東北、新潟、埼玉、東京・板橋、神奈川・相模原、静岡、奈良、京都、島根、高知、愛媛、福岡〉

(3)「社会保障のあり方検討会」

 全労連の呼びかけに積極的に応え早期の活動開始を図り、社会保障上の諸課題−後期高齢者保険制度、予算の自然増削減、生活保護の母子加算、老齢加算の廃止など−について労働運動として機動的に対応できる体制の確立に寄与するものとする。
 また、社会保障要求実現の財政的な裏付けの検討をおこない、社会保障制度の充実で、安心して生活できる社会の方向を示す。

(4)「労働組合トップフォーラム」

 開催方法を工夫していく。

3.研究部会

 各部会内部での研究活動を活発化するとともに、部会間の研究交流、研究会の公開など進め、部会相互の理解を深めることで研究の深化・総合化を図る。ディスカッション・ペーパーの有効活用ができるような体制を作る。
 研究部会活動とプロジェクト研究活動との関連性を強め、研究所として有機的・一体的な研究を深める。

4.研究例会

 情勢に即応した課題について、研究所の力を結集して対応する。

5.研究交流会

 各プロジェクト・研究部会の研究活動の到達状況に合わせて、随時開催する。

6.E. W. S(English Writing School)

 毎月2回行う。さらに、英語の表現を研究しながら、ライティングの向上をはかる。学生を対象にした講座を開設の準備に取り組む。

7.若手研究者研究会

 労働総研と労働組合の若手研究者が調査・研究で交流しつつ、お互いの調査・研究や活動の視点を磨くとともに具体的に調査や研究などを行う機会を提供するものとする。
 現在おこなっている労働組合意識についての調査については調査結果を公表し、より長期的な調査として継続していく。調査以外の活動もメンバーの創意に基いて進めていく。

8.研究成果の発表・出版・広報事業

 「労働総研クォータリー」、「労働総研ニュース」、“Rodo-Soken Journal”の定期的な刊行につとめる。特に、「労働総研ニュース」、“Rodo-Soken Journal”については定期的な発行体制を確立するための編集体制を充実する。ホームページは引き続き充実させていく。
 新しい広報媒体(ブックレットなど)の開発、企画の検討をする。

9.産別会議記念労働図書資料室

 労働総研と?全労連会館とが協力して産別会議記念労働図書資料室の整備を引き続きすすめる。当図書資料室は、当面週2日開館することにしている。今後、労働運動関係資料収集のセンターとしての役割を果たしていく方向で同資料室の充実をはかっていく。

10.創立20周年記念事業

 労働総研は2009年12月11日に創立20周年を迎える。これは全労連をはじめ、団体会員、個人会員をはじめとする労働総研への日頃からの支援と協力の賜物である。今後の労働総研の発展を見すえて、以下の記念事業を行う。

(1)創立20周年労働総研奨励賞の実施

 創立20周年記念事業として20周年記念労働総研奨励賞の授賞事業を実施する。労働総研奨励賞は、労働総研の設立趣旨・規約を踏まえたものとする。運営資金は、募金活動によって得られた資金によるものとする。

(2)記念シンポジウムの開催

 研究所プロジェクトの研究成果を踏まえ、その研究活動をより立体的なものとして促進することに有効なものにしていくものと位置づけ、09年12月19日に開催する。内容は、研究所の研究に研究所内外の関心を得られるものとする。なお、当日は懇親会も開催する。

IV.2009年度研究所活動の充実と改善

1.研究所活動の充実

 研究所活動を充実させるために、運動の要請に積極的にこたえた研究所活動をすすめる。研究所の調査研究・政策活動の全労連との緊密な協力・共同を強化する。

2.会員拡大

 会員の高齢化が進む中で、若手会員の参加の努力をつづけている。これまでも若手会員の拡大に努力してきたが、研鑚の場としても魅力ある研究所活動に努めるなどして、会員拡大に積極的にとりくむことが強く求められる。
 会員から会員になってもらえる研究者を推薦してもらうなど、会員拡大に取り組む。

3.読者拡大

 『労働総研クォータリー』は、特集によって大きな反響を呼んでいる。編集委員会のもと、新たにはじめた読者アンケートなども参考にしながら、編集企画を魅力ある内容に充実し、定期読者や会員の増加につながるよう努力する。

4.地方会員の活動参加

 ひきつづき、地方会員が研究所活動に参加しやすくするための検討をしていく。今後、中央・地方における各種公的委員会・審議会、労働者側委員などの公益委員として参加が予想される。それへの対応も準備しなければならない。

5.事務局体制の強化

 労働総研の調査研究活動を機能的・効率的に推進する上で、総会・理事会の決定を具体化し、代表理事・常任理事会の適切な指導と援助のもとで活動する事務局の役割は重要である。事務局機能の効率的な運営をおこなうため、状況に応じた企画委員会、代表理事をふくむ拡大事務局会議の開催と事務局会議の定例化を定着させるとともに、機動的な対応も含めた事務局体制の強化をすすめる。


労働総研定例研究会

シンポジウム「経済危機下で、どう雇用を守るか?

−中小企業の現状と労働運動−」開催

 労働総研は定例研究会としてシンポジウム「経済危機下で、どう雇用を守るか?−中小企業の現状と労働運動−」を2009年6月5日午後6時30分から、全労連会館2Fホールで開催しました。参加者は80人でした。

 最初に大須眞治事務局長が開会あいさつ、続いてシンポジウムのコーディネーターをつとめる中小企業問題研究部会の相田利雄法政大学教授があいさつをおこないました。

 シンポジストの発言では、最初に中小企業問題研究部会責任者の松丸和夫中央大学教授が中小企業の現状と労働運動と題して、大企業の社会的責任と中小企業の役割を「中小企業白書2009年度版」や労働総研が3月に発表した「解雇規制と失業保障、雇用創出のための緊急提言」などを示しながら報告しました。

 次に愛労連港地区労の脇坂宗勝事務局長から中小企業訪問の取り組みについて、またJMIUの生熊茂実委員長からは経営困難のもとで雇用をまもるJMIUのとりくみが報告され、「合意協力型の労使関係」の意義が強調されました。中小企業家同友会の国吉昌晴専務幹事からは大型不況を乗り越える経営戦略と題して、中小企業経営者が雇用の確保にいかに努力しているかの報告がおこなわれました。

 フロアからは、全印総連東京・是村高市副委員長から印刷製本企業の訪問聞き取り調査について、全労連全国一般・大木寿委員長から倒産も解雇もさせないたたかう提案型の運動について、大田労連・中山六男議長から中小零細企業の現状と地域共同について、全商連・中山眞常任理事から雇用維持の役割をになう中小業者の要求と運動について、それぞれ発言がありました。

第1回理事会報告

 第1回理事会は、6月6日午後1時30分から5時まで、東京・文京区のお茶の水セントヒルズホテルにて開催された。冒頭、大須眞治事務局長が第1回理事会は規約第30条の規定を満たしており、会議は有効に成立していることを宣言した後、牧野富夫代表理事の議長で議事は進められた。

 事務局長より、2009年度定例総会方針案の、2008年度の経過報告、研究所活動をめぐる情勢の特徴、2009年度の事業計画などが、常任理事会での討議のポイントの紹介を含め提案された。

 討論がおこなわれ、理事会での討議を踏まえて、常任理事会において整理して完成させることが確認された。

第6回常任理事会報告

 労働総研2008年度第6回常任理事会は、全労連会館で、2009年6月27日14時から17時まで、牧野富夫代表理事の司会で行われた。

I 報告事項

 大須眞治事務局長より、国際労働研究部会の協力による全労連編『新自由主義の破綻の中で−雇用と生活を守るために−世界の労働者のたたかい2009―世界の労働組合運動の現状調査報告15集』の発行、6月5日の定例研究会・シンポジウム「経済危機下で、どう雇用を守るか?−中小企業の現状と労働運動−」など、前常任理事会以降の企画委員会・事務局活動、また研究活動についてなどが報告され、了承された。

II 協議事項

1)事務局長より、入会の申し込みついて報告され、承認された。

2)牧野代表理事より、「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクトの進行状況、ならびに討論の状況が報告され、協議をおこなった。

3)事務局長より、共同プロジェクトの現状と今後について報告され、承認された。

4)事務局長より20周年記念事業について、「労働総研奨励賞(仮称)」第2回検討委員会での討論結果の報告がされ、協議のうえ承認をした。

5)事務局長より第1回理事会での討論をふまえて文章化された2009年度定例総会方針案が提案され、討議をおこない、最終案を確定した。なお、討論の中で研究部会設立の申請を随時受け付けることを確認した。また役員・事務局体制についての提案がされ、承認された。

5・6月の研究活動

5月12日 賃金最賃問題検討部会
21日 「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト
22日 労働時間・健康問題研究部会
26日 女性労働研究部会
27日 中小企業問題研究部会
31日 首都圏最低生計費試算総括会議
6月5日 定例研究会・シンポジウム「経済危機下で、どう雇用を守るか?−中小企業の現状と労働運動−」
6日 「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト(公開)
9日 賃金最賃問題検討部会
13日 若手研究者研究会
27日 「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクト
29日 女性労働研究部会

 

5・6月の事務局日誌

5月1日 メーデー
2日 第4回企画委員会
9日 第5回常任理事会
16日 労働者教育協会総会へメッセージ
23日 自治体問題研究所総会へメッセージ
25日 塩田庄兵衛先生とお別れする会
29日 第5回企画委員会
6月6日 第1回理事会
9日 「労働総研奨励賞(仮称)」第2回検討委員会
11日 国民大運動実行委員会・記念講演(木地研究員)
16日 (財)全労連会館理事会
27日 第6回常任理事会