労働総研ニュース No.230 2009年5月



目   次

・『新自由主義の破綻の中で−雇用と生活を守るために−
 世界の労働者のたたかい2009 世界の労働組合運動の現状調査報告 15集−』概観
・2008年度プロジェクト・研究部会代表者会議報告




 全労連編集・発行の年報『新自由主義の破綻の中で−雇用と生活を守るために−世界の労働者のたたかい2009―世界の労働組合運動の現状調査報告15集』が刊行されました(発売・学習の友社03-5842-5641、定価1,000円)。本『年報』の執筆には、労働総研国際労働研究部会のメンバーが協力しています。以下にその「概観」を掲載します。


『新自由主義の破綻の中で−雇用と生活を守るために−世界の労働者のたたかい2009
 世界の労働組合運動の現状調査報告 15集−』概観

斉藤隆夫

 2008年は新自由主義的経済・社会政策の破綻が一挙に表面化した年であった。

 前半には、07年8月に米国のサブプライムローン危機をきっかけに始まった世界的金融混乱の中で、有価証券市場暴落によってそこから逃げ出した投機マネーが原油、穀物、食料などの商品市場に流入し、世界的な物価高騰を生み出した。過剰な貨幣資本に対する無規制が農業・漁業などの小・零細業者の営業ばかりでなく労働者・年金者の生活に大きな困難をもたらした。多くの国で賃上げ、減税、物価上昇規制など所得購買力防衛のたたかいが取り組まれた。

 後半には、米国における住宅バブル崩壊とともに一挙に進行した消費低迷が、米国への輸出後退などを通して世界経済に大きな影響を与えた。世界経済は、これまで20年以上にわたってグローバルに遂行されてきた新自由主義的経済・社会政策の帰結としての格差と貧困の広がりを背景としながら、同時不況の色合いを強めてきた。EU、日本ではマイナス成長に転じたばかりでなく、中国、インド、ロシアなどでも成長鈍化が進んだ。こうした中、雇用防衛、失業者の生活防衛のたたかいがさまざまな形で取り組まれた。

 政治面では、中南米諸国の新自由主義反対の経済路線の歩みが米州ボリバール代替構想(ALBA)への加盟国増加などいっそう確たるものになる一方、11年半にわたって新自由主義政策を推進してきたオーストラリア保守連立政権の昨年10月の敗北(ケビン・ラッド労働党政権の誕生)に続いて、米国では大統領選で民主党のオバマが勝利した。この勝利の背景にも中間層の没落、失業と貧困の拡大などをもたらした市場万能主義的経済政策への国民の批判がある。世界経済への影響力のゆえにも今後の政策動向が注目される。

■賃上げ・購買力防衛のたたかい

 07年11月から賃上げ、インフレと生活コストの高騰に照らして賃金調整を求めて大衆集会を開いていたスロベニアの代表的6組合が、4月、この国の歴史上3度目と言われるストライキを実施した。ベルギーでは07年12月から3月まで高騰するエネルギーや食品価格を償う賃上げを求めて相次いで非公式ストが起こった。経営者が激しくストを非難する中で政府は税金の償還措置をとった。イタリアでも07年来三大ナショナルセンターが賃金・年金の購買力防衛のたたかいを準備していたが、08年に入って減税・物価規制を求めて政府との交渉を開始し、国内各地で署名活動を行った。

 ユーロ圏諸国中最も物価上昇率の高かったギリシャでは、ギリシャ労働総同盟などの労組と消費者組織が政府に対し、賃金引上げ、物価引下げ、市場の効果的規制、低年金者支援を要求して、6月19日、大規模なデモと集会を行った。フランスでも年金生活者が購買力の維持、年金引上げをめざしてデモを行ったほか、石油価格高騰に抗議して漁業者などの抗議行動が展開された。

 南アでは、燃料、電気、食料の価格高騰に反対する24時間の全国ストがたたかわれた。交通機関は全面ストップし、鉱山、精錬所のほか自動車、衣料工場など主要産業で生産がストップした。エジプトでは低賃金と物価高に抗議する労働者が治安当局と衝突、暴動に発展した。燃料や食料価格の上昇に抗議し、それに対する対策を政府に求めるたたかいはインドネシア、フィリピン、タイ、香港などでも起こっている。ロシアでもロシア独立労組が議会に対し、経営トップの給与・ボーナスなどの制限、失業手当の最低生活費水準への引き上げ、低所得者への支援などに関する新法を求めた。

 ドイツでは実質賃金の低下を理由として、鉄道、公務、鉄鋼、小売などの各部門で労働協約改定による賃上げのたたかいが活発に取り組まれた。特に、自動車・電機部門の労働者は16年ぶりの大幅な賃上げを要求して、10月末からストライキを実施し、4.2%の賃上げを獲得した。だが、年明けた09年1月、IGメタルは景気後退の中で賃上げ延期の受け入れを表明した。英国でも、政府が4%に達する物価上昇にもかかわらず2%の賃上げガイドラインを示したことに反対し、教員や自治体職員のたたかいが起こった。とりわけ教員組合はこの21年で最も大きなストライキといわれる24時間ストを決行した。

 ネパールでは、11月、最低賃金制度が新たに確立された。労働組合共同行動コーディネートセンター(JTUCC)は制度の15日以内での実施を求めるとともに、農業労働者への適用に抵抗している使用者に合意を守るよう求めている。ルーマニアでは政府と労使が08〜14年の期間に現在の全国平均賃金の31%から2014年には50%に引き上げる協定を結んだ。このほか、オーストラリア、ポルトガル、ニュージーランド、アルゼンチンなどで最低賃金の引き上げが行われた。マレーシアでは最低賃金制導入の動きが進んでいる。最低賃金の引き上げや制度導入を求めるたたかいはフィリピン、タイ、香港でも起こっている。

■解雇制限・雇用確保のたたかい

 ドイツでは、2月、BMW、シーメンス、ヘンケルなどの大企業が相次いで人員削減案を発表した。原材料価格の高騰や予測される米国の景気後退を理由とした案であった。シーメンスでは労働者の抗議の中で、解雇一時金と再雇用のための職業訓練のための「社会計画」の作成を約束した。年後半、米国発の景気後退が明らかになると、自動車産業の新車売上げは前年同期比18%減となり、12月、ダイムラーでは操業短縮が決定された。政府は操業短縮手当(連邦雇用庁による賃金減少分の一部を補償する仕組み)の支給期間の延長を決めた。

 スペイン日産は、10月、世界的な経済危機による販売急減を理由にバルセロナ工場での人員削減を発表した。労組側は撤回を求めて抗議行動をくり返し、12月、解雇計画の一時中止をかちとった。イタリアでは家電企業Electroluxの工場閉鎖計画に対し、30時間のストライキを含む数ヶ月の激しいたたかいの後、企業と地方自治体が共同して新会社をつくり、雇用を確保する約束を引き出した。ドイツの携帯電話会社ノキアでも工場閉鎖・ルーマニアへの工場移転計画に反対して抗議行動を展開した結果、政府・州の「やむを得ない理由での移転ではない」との言明を引き出しつつ、移転そのものは阻止できなかったものの新企業誘致のための「成長基金計画」への会社と州の出資を約束させた。

 米国のビッグ3を中心とするメーカーは、日本やヨーロッパなどのメーカーとの競争で生き残るためとして賃金などのコスト削減での労働側の譲歩を求め、全米自動車労組(UAW)もそれに応じてきた。07年には「雇用を守るため」として賃金新規採用者から半分近くにカットすることにも同意した(第14集参照)。こうした中でUAWの組合員は1979年には150万人いたのが、07年末には46万人になった。他方、シカゴにある建築関連企業リパブリック・ウィンドウズ・アンド・ドアズでは、会社側の突然の工場閉鎖・労働者解雇に対して工場占拠・座り込みのたたかいが起こった。工場は閉鎖されたものの8週間分の給与と医療費負担などをかちとるなど激しいたたかいも起こっている。

 ルーマニアでは08年国家予算の準備が進む中で、中央・地方当局が雇用削減を計画していると発表した。組合は一部の部門では人員が不足しているとし、抗議ストを行うと警告した。しかし、予算案では雇用数が増えたためストは実施されなかった。ハンガリーではゼネラル・エレクトリックが生産コストがかさむためヴァツおよびキスヴァルダ工場の作業の一部を中国に移す計画を公表した。組合はこの移転計画に抗議して、会社本部前でデモを行い、ヴァツ工場では30分の警告ストを行った。

 ニュージーランドではクラーク労働党政権によって世界経済の急減速を受けた失業増に対抗するための失業給付基金の創設が決定された。失業してから給付までの期間を短縮し、生産減少などに伴うレイオフの被害を受けた労働者であれば就業期間などにかかわらず支給されることとなった。

 欧州委員会は11月、経済・金融危機のもとで雇用危機にさらされる労働者が増加傾向にある現状に対処するため、「グローバル化調整基金」(グローバル化の影響でリストラの対象となった労働者への賃金補助や再訓練を行う)適用の迅速化と適用範囲の拡大を行うことを発表した。

■不安定雇用規制のたたかい

 ポルトガルでは、ソクラテス中道左派政府の労働法典改定案に対して、同国最大のナショナルセンター=ポルトガル労働総同盟がこの案は使用者の恣意的解雇に道を開く、低賃金・不安定雇用を促進するなどの理由で反対し、デモと集会を組織した。約20万の労働者が参加した。

 欧州議会では、10月22日、派遣労働者について派遣先企業の正規労働者との同一待遇を義務づける「EU派遣労働指令」を可決した。臨時労働者や派遣労働者の均等待遇問題で労使間の激しい論争が続いてきた英国では、勤続12週間で臨時労働者や派遣労働者が正社員と同等の待遇を受ける権利を有するという妥協案が政労使の間でまとまった。ハンガリー、スロバキア、フィンランドなどでも労働法が改正され、派遣労働者の正規労働者との待遇均等化が規定された。ドイツでは、政府がこれまで派遣労働者には適用されなかった操業短縮手当を彼らにも適用することを決めた。

 チリの国営銅山企業コデルコでは、直接雇用の正社員15,000人に対して、民間の下請け会社に雇われた労働者28,000人が保守、保安、輸送などの仕事を担って働いているが、銅の国際価格が高騰する中、昨年、賃上げ・下請け労働者の直接雇用などを要求して大規模なたたかいを行い、改善の約束を得ていた。この約束が守られていないとして、組合は20日間にわたるストライキを行った。一部ではあるが労働者の直接雇用が実現した。

 マレーシアでは、政府が経済成長に伴い必要となる労働力について、外国人労働者をアウトソーシング形態で雇用する姿勢を示した。アウトソーシング企業が使用者であれば組合結成は困難であろうから、海外直接投資を呼び込むために適切であるというのがその主な理由とされている。インドでは、4月24〜25日、デリー周辺の工業地帯で、賃金不払いの長時間労働など企業の労働法違反を告発し、未組織の不正規労働者の権利擁護を要求するストライキが行われた。

 韓国では、11月、労働省が現行の非正規労働者保護法で、非正規雇用が2年を超えた場合に正社員にすると定めている条項を、3年または4年に延長する方針を発表した。理由は「正社員化を嫌がる会社側が、雇用期間が2年になる前に解雇する例が続出しており、経済危機でさらに解雇が広がる恐れがある」というものだった。こうした中、韓国証券先物取引所の子会社で金融関連IT企業「コスコム」の非正規労働者が、12月29日、直接雇用への転換で経営側と合意した。この合意は間接雇用の労働者がたたかいを通じて直接雇用をかちとった初めての事例として注目された。

 ロシアでは、ロシア独立労組連盟が、10月、ディーセント・ワークを求める世界的なキャンペーンの一環として全国行動を呼びかけ、50万人が集会に参加した。

■福祉国家擁護のたたかい

 フランスではCGTが、10月7日、進行する金融・経済危機の中で政府のとっている銀行救済などの措置を批判しつつ、購買力、雇用、連帯による社会的保護の発展、公共サービスの強化、郵政民営化阻止などを要求して大規模なデモや集会を組織した。

 ギリシャでは、10月21日、年金制度改悪、国営航空会社の民営化など政府の経済政策に反対して、二大労組(ギリシャ労働総同盟とギリシャ公務員連合)が呼びかけた24時間ゼネストが決行され、病院の緊急部門などを除き、公共部門、民間部門とも全国的に活動が停止した。イタリアではCgilが、12月12日、ベルルスコーニ中道右派政府の政策が深まりつつある経済危機への対応策としては不適切だとして、ゼネストを組織した。全国108の広場で、150万人余りが参加する集会が開かれた。

 スウェーデンでは、企業や富裕層の税金を軽減し病気や失業中の人々の手当を減らすことによって不況を乗り切ろうとする政策が、06年以来与党連合によって行われてきたが、このことは病院、高齢者ケアなどのサービスを担う地方自治体の財政をひっ迫させている。こうした状況にあって2010年の総選挙で、スウェーデン史上初めて、左翼党(旧共産党)員も参加する社会民主党政権樹立をめざして野党連合が結成された。

 アルゼンチンでは07年12月に成立したフェルナンデス政権が、国内の10の民間年金基金運営会社を国有化する法案を提案し、議会の承認を得た。世界的な金融危機の影響から年金基金を守ることを目的とした措置である。

■労使関係改善・組織化のたたかい

 08年の米国の労働組合組織率が0.3%上昇して12.4%になった。25年ぶりの増加であった。教員を含む公務部門の増加が大きかったが、民間部門もわずかながら増加した。カナダでは、ケベック州ハルのウォルマートで働く150人以上の労働者が組合に加入し、労働委員会の決定により正式に協約交渉の対象になった。最初の申立てから3年半かかっての組合認証であった。オンタリオ州ケベックのトヨタの工場でも組織化が進んでおり、トヨタの工場が一つも組織化されていない北米(米国も含めて)で最初の組織化が成功するか注目される。ロシアでも、ソ連時代の公式労組を母体とするロシア独立労組連盟と一線を画す全ロシア労働総連盟が組織を大きく拡大している。

 オーストラリアではラッド新政権のもと、新しい労使関係法成立に向けた暫定法案、個人契約禁止法案が国会を通過し、労働条件などを会社と労働者による個人契約で決めるやり方「ワークチョイス」が禁止された。ニュージーランドでは、スターバックス、KFCなどのファストフードチェーンでの組織化が進み、多くのファストチェーンで50〜100%の組織率になっている。

 メキシコの最高裁判所は労働組合の役員選挙に組合員が無記名・秘密投票で参加することを是とする判断を下した。これまでメキシコでは、大きな声でどの候補に入れるか経営者の前で叫ぶという形で投票するのがしきたりになっており、職場における民主主義の一つの前進とされている。一方、コロンビアでは、依然労働組合活動家などの誘拐、暗殺などが続き、08年に命を奪われた人は30人を上回ったが、3月6日、こうした犠牲者と連帯する行動が100以上の都市で組織され、国外でもさまざまな連帯活動が行われた。

 8月20日、インドではインド労働組合センター[インド共産党(マルクス主義)系]、全インド労組会議[インド共産党系]などのナショナルセンターの労組、さらに中央・地方政府職員、鉄道、銀行・金融・保険など主要産業ほとんどを網羅したゼネストが行われた。左翼戦線拠点州だけでなく東北各州、北・中部諸州でも50%をはるかに超える労働者が参加した歴史的なたたかいとなった。この取り組みで掲げられた要求は、新自由主義経済路線反対、解雇を容易にし、企業の福祉負担を軽減する企業よりの労働法改革反対であった。このたたかいに与党国民会議派系のインド全国労働組合会議(INTUC)は参加していなかったが、格差拡大、失業急増、国民生活の悪化の中でINTUC内部からも新自由主義路線への懸念と批判の声があがるようになってきた。

 06年、団体交渉権の制限などを盛り込んだ労働法改定案を主要都市でのデモなどによって撤回させていたインドネシアの労働者は、今年のメーデーでも「労働者は団結しよう」、「結社の自由を守れ」などと訴え、デモ行進を行った。香港でも団体交渉権と労働協約締結権の回復を求めるデモが行われている。韓国では、07年末の労働省発表で、18年ぶりに労組組織率が上昇した。特に公務員労組の結成が本格化し、組織率は27.7%から67.1%へと跳ね上がった。

■社会主義をめざす国での労働者のたたかい

 中国では、秋以降各地で企業倒産、労働者とりわけ農民工の失職(2,000万人に及ぶ)が相次ぎ、労働争議も多発した。そのため政府は、11月、農村インフラ整備、低所得者向け住宅建設、都市・農村住民の所得引上げなどの事業を進め、それをテコにした内需拡大による経済の新たな成長をめざす政策を発表した。09年1月の統計によると08年の一時帰休・失業者の再就業は500万人で、政府目標は達成されたが、08年末の都市登録失業率は前年比で0.2%の上昇であった。政府の内需拡大策の今後の成果が注目される。総工会側では、農民工の利益を守るため労組加入を促進する目標を掲げ、取り組みを始めている。

 ベトナムでも不況を理由にした賃金不払いが多発している。その中で全国的にストライキが急増しており、07年の541件から08年には775件と3割増になっている。8割が外資系企業であり、目立つのは韓国系と台湾系の企業である。11月に開かれたベトナム労働総連合の第10回大会では、労働者の基本的権利の確立が重要課題とされ、官僚的姿勢の克服、組合への信頼の確保などが強調された。地方代表の発言では、外資系や民間の企業だけでなく、国営企業も利益第一主義に走っているとの批判も出されている。

■ILOの動き

 5月26日からジュネーブで開催された第97回ILO総会では、総会基準委員会で日本案件として87号条約での個別審査が行われた。日本政府代表が「国会で『公務員制度改革では、自律的労使関係制度を措置する』と修正された」などと述べたのに対し、デンマークの使用者側代表から「消防職員の87号の適用除外に対する日本政府の主張には同意できない。公務員制度改革については、日本には多くの労働組合があるが、すべての労働組合との対話がなされるべき」との発言があった。最終的には、議長から公務員制度改革の進展に留意しつつも、政府に誠実な社会対話を求めるとともに消防職員の団体を事実上の対話の相手として認定するよう促す内容の結論が示され、採択された。

 11月に開催された303理事会は、経済混乱が労働者、使用者、政府に与える影響に対する懸念が高まる中、社会対話を通じて世界的な経済危機に取り組む経済・社会政策の形成に向けて第一歩を踏み出した。ファン・ソマビア事務局長は危機対応に適した政策枠組みは「ディーセント・ワークをすべての人へ」を目標とする「ディーセント・ワーク課題」であるとの認識を示した。

(さいとう たかお・国際労働研究部会責任者)

2008年度

プロジェクト・研究部会代表者会議報告

 労働運動総合研究所2008年度プロジェクト・研究部会代表者会議は、2009年3月28日13時30分から17時まで、全労連会館において、藤田実常任理事の司会で開催された。

 会議の冒頭、大木一訓代表理事から主催者挨拶がおこなわれ、引き続き熊谷金道代表理事より基調報告「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」がおこなわれた。基調報告の要旨は、以下の通り。

 いま「人間的な労働と生活」が著しく蹂躙されている。第1に、その実態・性格の解明が必要である。第2に、なぜそれが「著しく蹂躙される」ことになったのか、原因が究明されなければならない。第3に、いかに現状を改め「人間的な労働と生活の新たな構築」をめざすか、そのターゲットの輪郭・内容と、実現の道筋・方法をあきらかにしなくてはならない。

 雇用の破壊が、労働者の(1)経済的ゆとり、(2)時間的ゆとり、(3)心身の健康を奪っている。

 「人間的な労働と生活の新たな構築」をめざすキーポイントは“雇用の安定化”にある。

 雇用問題を“切り口”に“広い視野”からテーマの解明をめざす。

 報告をうけて討議された主要な論点は以下のようなものであった。

  • 雇用の維持が大事ではあるが、現実的にはセーフティネットは生活保護しかない。
     生活保護世帯は相当増加し、「仕事がないので、今は短期期間でも良いから生活保護を受けたい」という人が増えている。最後のセーフティネットをキッチリさせることを考えなければならない。
  • 地域経済の問題が大きい地域の自立化を考えることが大事。
  • ワークシェアリングは賃金を削った上で、賃金をシェアしようということではないか。
  • 「首を切られる」のが異常であることを明らかにすべきである。
  • 100年に1度というのはおかしい、経営陣はわかっていた。100年に1度を口実にして、大量解雇を強行している。
  • いろいろ取り残してきた問題がある。例えば、低家賃住宅の問題、後期中等教育の義務化運動、公的職業訓練などである。言い換えれば労働力再生産の公的な枠組みが非常に弱まっていることが問題。70年代に労働力再生産の社会化ということが議論になったが、本気の実践にはならなかった。
  • 一定の職業訓練をして資格をとればそれにふさわしい仕事に就く権利があるという運動が弱かったのではないか。雇用保障と職業訓練の仕組みを変えることが必要。
  • 労働時間の問題、労働日という概念が確立しているかどうかも怪しい。労働時間短縮についてはきちんとした立法で枠をはめなければならない。
  • 年金にしても立法闘争を本気で組織していかないとだめ。
  • 構造改革と日本全体の企業社会という問題が根源にある。
  • このテーマをルールある経済社会の構築とか、これを福祉社会というのか議論しないとリアリティがない。
  • 人間的な労働の前に人間として扱われるためのミニマムみたいなものが先にないといけないと言う思いがある。
  • 労働組合として個人加盟という組織、非正規の組織化などで全労連の評価はかなり高い。マスコミでも連合批判を公然とするようになった。いろいろな論点で連合はたたかっていないことをマスコミは指摘するようになっている。企業別組合は組合2つに二重加盟ということで、持たなくなってしまうのでは。

 討論を受け、大須眞治事務局長より、今後研究所プロジェクト「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」として具体化していく上で、ルールある経済社会の国際的な教訓の整理や日本の労働者・国民の労働と生活の実情についての検討、日本の基本方向(日本のめざす道)として人間としてあつかわれる社会を実現する労働運動のあり方などを検討していくことが必要であろうというまとめがあり、会議は終了した。

第4回常任理事会報告

 労働総研2008年度第4回常任理事会は、全労連会館で、2009年3月28日11時から13時まで、牧野富夫代表理事の司会で行われた。

I 報告事項

 大須眞治事務局長より、「解雇規制と失業保障、雇用創出のための緊急提言」を3月5日に記者発表したこと、若手研究者研究会の活動状況について、また前常任理事会以降の企画委員会・事務局活動、また研究活動についてなどが報告され、了承された。

II 協議事項

1)事務局長より、当日午後開催されるプロジェクト・研究部会代表者会議の進行、役割分担などついて提案され、承認された。

2)牧野代表理事より、プロジェクト・研究部会代表者会議の基調提案「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」が提案され、討議をおこない、承認をされた。

3)熊谷金道代表理事より、共同プロジェクト(「こんな地域に住みたい」プロジェクト)の現状と今後について報告され、討議をおこなった。

4)定例研究会の時期やテーマについて討議をおこない、6月に経済危機下における中小企業問題をテーマに開催することし、具体化を中小企業問題研究部会に依頼することとし、了承された。

5)事務局長より20周年記念事業の一つである、「労働総研奨励賞(仮称)」検討委員会のメンバーを確定し発足させること、また記念のシンポジウムを12月19日に開催することが提案され、承認された。

6)編集委員会報告について、藤田実常任理事から提案され、承認された。

7)事務局長より今後の日程について、6月6日に第1回理事会を、8月3日に第2回理事会および2009年度定例総会を開催することなどが提案され、承認された。

第5回常任理事会報告

 労働総研2008年度第5回常任理事会は、全労連会館で、2009年5月9日13時30分から17時まで、牧野富夫代表理事の司会で行われた。

I 報告事項

 大須眞治事務局長より、前常任理事会以降の企画委員会・事務局活動、また研究活動についてなどが報告され、了承された。

II 協議事項

1)事務局長より、入会の申し込みついて報告され、承認された。

2)事務局長より、「人間的な労働と生活の新たな構築をめざして」プロジェクトの推進メンバーが提案され、承認をされた。

3)事務局長より、共同プロジェクト(「こんな地域に住みたい」プロジェクト)の現状と今後について報告され、承認された。

4)井上久常任理事より、全労連「社会保障に関する政策立案」について説明があり、討議をし、労働総研として今後積極的に協力していくこととし、担い手メンバーを推薦していくこととした。

5)事務局長より定例研究会について中小企業問題研究部会からの要綱案の報告があり、討議をおこない、6月5日に「経済危機下で、どう雇用を守るか?−中小企業の現状と労働運動」をテーマとして開催することとし、定例研究会の進め方について議論した。

6)事務局長より20周年記念事業について、「労働総研奨励賞(仮称)」検討委員会の第1回会合での討論結果の報告がされ、討議をおこなった。また12月19日に開催する記念シンポジウムのテーマについて討議をした。

7)藤田実常任理事から編集委員会報告と編集委員の補充について提案され、承認された

8)事務局長より2009年度定例総会議案の骨子が提案され、情勢把握の視点などについて討議をおこなった。また役員・事務局体制についての提案がされ、承認された。

3・4月の研究活動

3月4日 女性労働研究部会
7日 若手研究者研究会
9日 「こんな地域に住みたい」プロジェクト
10日 賃金最賃問題検討部会
25日 労働時間・健康問題研究部会
29日 「こんな地域に住みたい」プロジェクト
4月4日 国際労働研究部会
5日 若手研究者研究会
7日 女性労働研究部会
14日 賃金最賃問題検討部会
20日 中小企業問題研究部会
29日 「こんな地域に住みたい」プロジェクト

 

3・4月の事務局日誌

3月5日 「解雇規制と失業保障、雇用創出のための緊急提言」記者発表
13日

第3回企画委員会
日高教定期大会へメッセージ

16・17日 藤吉信博事務局次長通夜、葬儀
18日 全損保中央委員会へメッセージ
28日

第4回常任理事会
プロジェクト・研究部会代表者会議

4月18日

編集委員会
拡大事務局会議

25日 「労働総研奨励賞(仮称)」検討委員会