労働総研ニュース No.224・225 2008年11・12月


目   次

労働運動総合研究所
 アニュアル・リポート〜2007年度




労働運動総合研究所

アニュアル・リポート〜2007年度


「新自由主義的展開に対する対抗軸としての労働政策の研究」プロジェクト

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

「労働ビッグバン」

責 任 者 牧野 富夫

メンバー人数

13名、全労連、7単産

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
 90年代の半ば以降、労働政策の分野でも「新自由主義の展開」が顕著である。その中心が「労働ビッグバン」である。したがって、本プロジェクトでは、「労働ビッグバン」を徹底解明し、これに対する対抗軸としての労働政策を究明する。
 本プロジェクトのチームを3つに分け、〈労働経済面〉、〈労働法制面〉、〈労働運動面〉からトータルに作業をすすめる。

(2)年度期間中に明らかになったこと、新たな課題
 本プロジェクトの中間報告を、1)「『労働ビッグバン』と雇用・賃金・労働時間」(「季刊・労働総研」70号、08年5月)、2)「『労働ビッグバン』と労働法制」(「季刊・労働総研」71号、08年9月)として発表した。
 明らかになったことは、90年代後半以降、雇用・賃金・労働時間という労働者の状態を規定する中心的部分で劣化・悪化が急激に進んだこと、その直接・最大の原因が労働分野の規制の緩和・撤廃を中心とする「労働ビッグバン」にあること、さらに近年その矛盾があちこちで露呈し、労働政策の部面でも新自由主義の矛盾・破綻が鮮明になってきたこと、などである。

(3)これから解明すべき論点
 07年夏以降に顕著にサブプライム問題として表面化し、いまやアメリカ発の世界を揺るがす金融危機となり、これが実体経済も脅かしている。その結果、新自由主義の破綻がいわれる一方、アメリカの自動車産業他で、あいつぐリストラにより雇用問題が深刻になっている。09年に向けて日本でも、失業・雇用問題が一大社会問題になる情勢になってきた。
 これをいかに阻止するかが、労働運動の強化ともかかわって重大問題になっている。より積極的には、非正規労働者の正規化やサービス残業の根絶などにより、個人消費を増やし、日本経済の輸出依存体質を改め、内需中心型経済に転換させるという方向を、国民的世論にしていく必要があろう。そのための説得的な政策提言をすることが本プロジェクトに求められている。いかに「人間らしい労働と生活」を実現させるか、この喫緊の研究課題に本プロジェクトとして骨太の答えをだしていくべきだろう。

「21世紀労働組合の研究」プロジェクト

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

21世紀労働組合運動の課題と展望

責 任 者 大木 一訓

メンバー人数 17名

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
 本プロジェクトは、組合運動がかかえる主要課題と新たな発展の可能性を明らかにし、その改革と統一への政策を提示することを目的としている。これまで、(1)階級構造の変化と労働組合運動、(2)最近の労働組合論をめぐる論点、(3)全労連運動20年の歴史的総括、(4)自治労連の組織拡大運動、(5)埼玉に見る地域労働組合運動の到達点、(6)大企業労働組合の現状と問題点、(7)「個人加入労働組合」のとらえ方、(8)総評組織綱領の歴史的教訓。などについて報告・討論を積み重ねてきたが、本年は、全体の問題意識や各事項の位置づけをはっきりさせるために、「報告書」の最後に予定していた「提言」を先取り的に取りまとめる作業を、研究メンバーがそれぞれ分担執筆してすすめてきた。

(2)年度期間中に明らかになった論点
 本年1月から7月にかけての7回にわたる研究会・検討会を通じて、「労働組合運動の新たな発展のために(案)」と題する提言案の骨格がほぼ固まってきた。そのなかでは、(1)今日の労働組合はどのような発展をもとめられているか、(2)どのようにして生活の安定・向上に役立つ組合になるか、(3)時代の要請に応えられる組合組織とは、(4)ナショナルセンターの今日的重要性、(5)全労連20年の歴史は何を示すか、(6)広範な社会運動との共同・連帯の方向、(7)グローバル化のもとでの組合運動の課題と役割、(8)全体として労働組合運動が実現をめざしているのは、どのような社会か、といった諸論点が提起されている。

(3)これから解明すべき論点
 一部の執筆の遅れを克服するとともに、提言草案全体を第一線で活躍する運動家の人々にも十分検討してもらい、成案に向けての討議をふかめる必要がある。また、報告書全体の取りまとめも今後の課題として残されている。

(4)その他
 本プロジェクトは、残念ながら2年間の研究期間に完結することはできなかった。報告書の取りまとめまで、なお一定の時間をいただきたいと思う。

賃金・最低賃金問題検討部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

成果主義賃金の現状と問題点

責 任 者 小越洋之助

メンバー人数 9名

(1)研究経過
 07年度から当部会では、「成果主義賃金の現状と問題点―公共部門・民間部門の実態と対案の構築をめざして」というテーマで現場の実態報告のヒヤリング、資料分析等を行ってきた。08年6月をもって合計18回の研究例会を実施した。

(2)研究成果の公表について
 08年度は2年目に当たり、その成果の公表の時期となっている。現在、部会メンバーが分担執筆し、鋭意このテーマを「ディスカッションペーパー」として作成する作業に取り組んでいる。ただし、これは当初の予想以上に作業量と時間がかかるものとなり、7月上旬までには完成させる。

(3)今後の研究課題
 次期テーマとして1、日本における市場賃金の実態と課題―均等待遇の前提条件の解明 2、官公部門の民営化・民間委託化と公契約における「適正賃金」・生活賃金・最低賃金制問題、の2案が出され、部会で検討した結果、1案を選択した。ここには、1)同一価値労働同一賃金論として運動の側で整理されていない論点の整理(職種別賃金の妥当性について、職務給化の当否など)2)非正規労働者を含めた労働市場における労働力の価格決定の実態分析(中途採用者賃金、初任給の影響範囲、パート賃金の決定、賃金の地域格差等)を含んでいる。
 なお、テーマに沿った新たな共同討論者の参加を要請したい。


ディスカッションペーパー

「成果主義賃金の現状と問題点
―公共部門・民間部門の実態と対案の構築をめざして」

目次

ディスカッションペーパー成果主義賃金の現状と問題点の公表に当たって

 第1章 公務部門(国家公務員・地方公務員)における成果主義賃金の現状
 第2章 国立大学法人における教員評価をめぐる問題
 第3章 東京都における教育職員人事・賃金制度の見直しをめぐって
 第4章 医療部門における成果主義賃金化
 第5章 商社部門における成果主義賃金の特徴
 第6章 都市銀行・損害保険部門における成果主義賃金化
 第7章 製薬部門における成果主義賃金の展開
 むすび 成果主義賃金への対抗策について

(88ページ・頒価1000円・申し込みは労働総研事務局まで)

女性労働研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

戦後、女性労働の軌跡

責 任 者 川口 和子

メンバー人数 8名

(1)年度期間中に明らかになった論点
 当部会は、今期のテーマを「戦後、女性労働の軌跡」と設定した。これは当部会メンバー全員が、これまで労働組合運動にも直接、間接に係わってきており、また現在は1名を除き定年に達したことから、各自の経験も踏まえて一度振り返ってみたいという思いからであった。
 今期の部会は、1、敗戦後、アメリカ占領期、2、高度経済成長期、3、世界不況以降の低成長期、4、バブル崩壊後、グローバル経済期、と大まかな時期区分を設定し、(1)女性労働者の主体的条件変化と、(2)女性労働者の独自要求と運動の発展を基軸に、(3)影響を及ぼした主な理論的、運動論的な論点などを、(4)社会経済的背景をふまえて検討、討議してきた。
 取り上げた主な個別テーマは以下である。

  1. 統計から見た女性労働者の変容(数、男女・既婚者・雇用形態別の比率等)。
  2. 財界・政府の女性労働力「活用」戦略の推移。
  3. 労働者・婦人少年局を中心に、労働行政の女性労働者への対応策の推移。
  4. 労組女性部を中心に、独自要求と運動の変化、発展。
  5. 女性労働者の裁判闘争の推移。
  6. 家族社会学における「近代家族」とその変容。
  7. 敗戦後の労組女性部結成、共産党の「婦人行動綱領」など。
  8. 石垣綾子『主婦第2職業論』や「主婦論争」。
  9. 「働き続けるべき論」と『前衛』の批判論文。
  10. 育児休業をめぐる諸論文と、電通、教組、専売、医労連等、労組女性部の対応。
  11. 家事労働の有償化をめぐる論調。
  12. 均等法制定、改定をめぐる労使の攻防と諸論文。
  13. 「同一労働」か「同一価値労働」か、男女賃金格差是正をめぐる論争。
  14. 女性労働に係わる国連、ILOの動向と影響。
  15. WWN、女性ユニオン等、最近の新たな女性労働者の組織と運動の動向。
  16. 木下武男「労働運動フェミニズム」論。
  17. 少子化、「ワーク・ライフ・バランス」論。
  18. ・鯵坂真『ジェンダーと史的唯物論』、・二宮厚美『ジェンダー平等と経済学』、・『前衛、07年3月号』掲載の牧野、石川、岩佐各氏の論文、その他関連する諸論文。

 しかし、70年代以降の「ジェンダー・フェミニズム」の論調など手つかずの課題や、上記の個別テーマについても討議不十分で、全体として章建てをしてまとめるには到らなかった。従って今期は、中間的なまとめとして個別の小論(ディスカッション・ペーパー)に、おおざっぱな概要を付して提出した。

(2)これから解明すべき論点
 来期は新たなテーマで、残された課題や不十分な部分も引き続き研究討議をおこないたい。なおその場合は、部会運営や若手の男女研究者の参加なども検討したい。

社会保障研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

地域社会における貧困と格差の拡大

責 任 者 唐鎌 直義

メンバー人数 8名

 社会保障研究部会では、近年さまざまな角度から取り上げられるようになった「格差と貧困」の問題が、首都圏や東海地区等のストレートに景気回復の恩恵を被ってきた地域よりも、そうした地域から遠く離れた地方でより強く出現しているという認識のもとに、研究会と調査を推し進めてきた。言わば「貧困の地域格差」に着目することにより、バブル経済崩壊以降の日本資本主義が抱えてきた問題の深刻さを把握できると考えた。初年度は地域問題をテーマに数回の研究会を開催したが、次年度は都留民子氏(県立広島大学)と高林秀明氏(熊本学園大学)のグループが携わってこられた北九州の旧産炭地の失業者(求職者)調査に、小澤薫会員(新潟県立短大)と勝部雅史会員(専修大学大学院)、唐鎌の3名が参加し、昨年12月、今年3月上旬と下旬、同8月上旬と下旬の計5回、大牟田市と田川市でそれぞれ5日間程度の日程で住民生活実態調査に取り組んだ。建交労大牟田支部の平川委員長、建交労田川支部の坂倉委員長、赤瀬書記長の全面的な協力を得て、面接調査を実施した。
 この調査は、都留民子氏が文部科学省の科学研究費を得ることにより実施することが可能になったものであり、そのプロジェクトがまだ実行途中の段階にあることから、調査結果を許可なく明らかにすることはできない。ただ、ごく簡略に、唐鎌が調査に携わる中で個人的に実感した断片的な事実を書き記すならば、以下のとおりである。
 第一に、失業者の生活の継続に雇用保険制度(失業者給付の基本手当)はほとんど効力を発揮できていない。地域社会の全体的な衰退のなかで起こる失業は長期失業とならざるを得ず、短期の失業に対応するべく設けられた雇用保険は極めて微力な制度であるに過ぎない。多くの失業者にとって、雇用保険の受給権を費消してしまった後の生活保障は皆無である。それは雇用のグレードを可及的に引き下げる方向に作用している。いわゆる「ジャンク・ジョブ」(ひどい底辺の仕事)や「闇就労」に従事しながら、糊口を養っている状態である。ヨーロッパの先進工業国のように、失業保険制度から公的扶助制度へ、長期失業者の生活を繋げていく仕組みが切実に求められている。
 第二に、生活保護制度は、稼働年齢(65歳未満)の人に関しては、働くことができないほど重い病気や怪我を抱えていない限り、適用されていない。同じ福岡県内であっても、悪名高き北九州市のような劣悪極まる保護行政は敷かれていないが、それでも働ける長期失業者に適用されることは稀である。
 結果的に、雇用保険と生活保護の狭間で無保障の人々が地域に溢れることになる。これでは失業を契機として貧困に陥った人々に対して、健康を壊して保護を受けることに政策が誘導しているようなものである。現に、困窮状態の継続を直接・間接の原因として、健康を壊すに至った人も数多く存在している。北海道の事件のように、病気を理由とした不正受給が発生する基盤は、こうした政府による貧困の放置にあるのではないか。不正受給の摘発に向かう前に、不正受給を起こす誘因を制度・政策が作り出していることに気づくべきである。貧困者に「清く正しい生活」を求めることは、モラルで人を律することに他ならない。一種の精神主義である。
 調査では、失業者、半失業者に限られず、正規雇用で働いている人にも、制度事業で働いている人にも話を聞くことができた。調査を通じて感じられたことは、肉体消摩的な長時間労働や増えつづける将来への不安にも拘らず、全ての人が情報を整理して方針を定め、懸命に生きている姿である。なかには感動的なまでに詳細な対応策を考えて、必死に家族と自分の生活を支えている若い労働者もいた。その熾烈なまでの「自己責任」の強制が、本当に労働者の人間性を陶冶するものだろうか。多くの一生懸命な労働者の日々の努力と営為の上に、この国の産業と企業が成り立っていることに、格差社会の上辺に位置する人々は気づかなければならない。まさに「人的資源の浪費大国」。それが今の日本の姿である。それは「人的資源への投資の最大化」を図っているEU諸国とは正反対の方向を目指すものである。

中小企業問題研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

中小企業経営の現状と労働組合運動の発展

責 任 者 松丸 和夫

メンバー人数 11名

(1)研究経過
 当部会では、全労連の中小企業関係単産が直面している諸問題に対処するため、定例部会を公開し、部会メンバーを報告者につぎのような課題を明らかにしてきた。

  1. 内閣府の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」での最賃引上げ論議、中小企業支援策について検討し、積極活用すべき諸点を明らかにした。
  2. 中小企業を襲う燃料・原材料の急騰問題について、全労連、全商連が取り組んだ公正取引委員会、中小企業庁との懇談・要請結果を含めて解明し、買いたたきの改善指導、優越的地位の乱用による不公正取引への罰則強化、揮発油税の暫定税率廃止などの対応策を研究した。
  3. 全労連から委嘱された、新たな最低賃金政策の策定にむけて、賃金・最低賃金問題検討部会との共同研究を行い、時間額を1000円以上に引き上げることの必要性と、派生する中小企業経営、地域経済への影響について、多くのプラス効果を共通認識として確認した。

(2)研究成果の公表について
 全労連より、新たな中小企業政策の策定が委嘱されており、これへの対応をベースに作成する必要がある。当面必要なペーパーづくりは、前記研究経過と春闘期の全労連、全商連などの運動の到達点を反映させつつ、不足分を今後の研究で補う方向で準備したい。
 ディスカッションペーパー「中小企業の活性化、経営危機突破の共同について」を発表した。

(3)今後の研究課題について
 今日の中小企業の苦境の原因が、(1)燃料・原材料の高騰(これを価格に転嫁できない)、(2)親会社・取引先からの定期的な単価の切り下げ要請の2点が共通し、資金繰りなどの金融問題などが続いていることから、これを改善させる運動に資する研究を継続していく。
 また、「中小企業白書」08年版の分析や、各産業別中小企業単産の現状掌握(必要な訪問調査又は部会での特別報告)を通じて、研究計画を具体化していく。

労働者状態統計分析研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

労働者状態にかかわる統計資料の系統的分析と蓄積

責 任 者 藤田  宏

メンバー人数 12名

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点は何か
 第1は、労働総研と全労連で共同編集してきた『国民春闘白書』の内容充実である。同書は、06年度から春闘に役立つデータブックとして活用できる統計ハンドブック的性格の比重をさらに高めるという新しい編集方針にもとづいて作成されることになった。
 労働者状態統計分析研究部会は、この『国民春闘白書』を充実させるために、全労連とも協力して、(1)労働者状態にかかわる統計の全般的分析、(2)賃金、労働時間、雇用などの統計データにもとづく労働者状態の実相に迫る分析、(3)大企業の企業分析と日本経済についてのマクロ的な研究調査をすすめ、その成果を2008年『国民春闘白書』に反映させてきた。
 第2は、各種統計にもとづいて労働者状態を分析し、労働組合運動の時々の政策的課題について明らかにすることである。
 この間、部会として、「新時代の『日本的経営』」以降の10年余の雇用、賃金、労働時間の変化を明らかにするなかで、今日の深刻な貧困の拡大の土台に、何があるのかを調査研究してきたが、引き続き、この課題を系統的に分析していく。

(2)年度期間中に明らかになった論点
 今日の貧困の拡大の土台には、膨大な失業者群と構造的な非正規労働者群が、財界・大企業とその代弁者である自公政権によって政策的につくられてきたことがある。こうした状況のもとで、労働者の状態悪化が加速化し、「現代の貧困」が改めて問われる状況になっている。この実相に迫り、その打開の方向について、政策的な提起をすることが求められている。

(3)これから解明すべき論点
 労働者の状態悪化が進むなかで、連合の政策も全体として、労働者の要求を反映するようになってきている。労働者状態にかかわる統計分析を進めると同時に、それとのかかわりで連合の政策方針も分析し、一致できる要求・政策についての分析も行い、全労連のすすめる運動に寄与できるようにしたい。

(4)その他
 『国民春闘白書』の執筆はもちろん、『労働総研ニュース』、『労働総研クォータリー』などへの執筆、資料提供などの努力をさらに強めることにしたい。
 また、労働者状態にかかわる基礎資料の系統的分析と蓄積をはかるために、労働組合運動の時々の焦点になる課題についての統計資料の分析を行う研究例会を定期的に開催していくことにしたい。

国際労働研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

世界各国の労働者の主なたたかいの実態

責 任 者 斉藤 隆夫

メンバー人数 15名

(1)調査研究が明らかにしようとしている中心点
 ケース・スタディの形で各国別に主要なたたかいの事例を取り上げ、闘争課題(要求)、たたかいの組織・規模・戦術、たたかいの到達点について実状の把握を期した。

(2)年度期間中に明らかになった特徴的な点
 ドイツ、イタリア、韓国、スウェーデンなど多くの国で実質賃金引き上げのたたかいが粘り強く取り組まれ、成果をあげている。特に、韓国では2.5%の物価上昇率に対して5.6%の賃上げが達成され、スウェーデンでは女性が多数を占める小売、ホテル等の低賃金産業で製造業を上回る賃上げが実現されている。最低賃金制については、昨年、DGB大会で全産業にわたる法定最低賃金制確立要求が決定されたドイツで、電気技師などいくつかの職種で最低賃金制が確立され、ポルトガルでも最近数年の平均賃金上昇率や予測物価上昇率を上回る法定最低賃金の引き上げが実施された。
 人員削減反対・不安定雇用規制のたたかいでは、EUレベルで注目すべき動きがみられた。ベルギーのアントワープにあるGM工場の生産規模縮小計画に反対して同工場労働者が行ったストライキに連帯して、欧州金属労連とGM欧州従業員フォーラムがストライキを行った。ストは8カ国、15工場で数時間にわたって展開された。また、欧州委員会、欧州自動車製造業者連盟、欧州金属労連は自動車部門のリストラ問題に企業の社会的責任を踏まえて労使で協力して対処するため「自動車産業における変化の先取りかんする欧州パートナーシップ」を結成した。
 派遣労働問題ではイギリスで政府と労働組合の対立が明らかになった。07年12月のEU雇用社会相理事会では派遣労働者に常勤労働者と同等な権利を与える指令案が合意に至らなかったが、それはイギリス政府の反対が一因であった。組合は3年前の総選挙時の合意としてEU指令が成立しない場合は国内法で派遣労働規制を行うとした約束の履行を政府に強く迫っている。
 米国では勤務先での医療保険加入者の割合が2000年から06年の間に64.2%から59.7%に減少した。経営者の多くは増大する保険料負担を抑えるために労働者に譲歩を迫っているが、UEは多くの場合この攻撃をはね返している。しかし、「国民皆保険」めざす具体的な提案については組合の間でも一致した方針はできていない。
 オーストラリアでは「ワークチョイス」とよばれる労使関係法を最大の争点として総選挙がたたかわれた。団体交渉で協議される内容を制限する、労働条件にかんする個人契約を拡大するなどの改悪をもたらしたこの法に組合は強く反発していた。労働党勝利の後、組合は法の廃止を求めて、議会への働きかけを強めている。
 07年9月、国際労働組合総連合アジア太平洋地域組織(ITUC-AP)が結成された。

(3)これから解明すべき論点
 ひきつづき2008年の世界の労働者のたたかいの動向を調査・研究する。

関西圏産業労働研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

現代資本主義と賃金・雇用問題

責 任 者 丹下 晴喜

メンバー人数 8名

(1)調査・研究で明らかにしようとしている中心点はなにか
 ここ数年にわたり、関西圏産業労働研究部会では、「賃金論の現代的展開の検討」という課題のもと、会員の報告と討議を中心に研究会を運営してきた。
 その際の議論の一致点は、現代の賃金問題は、グローバリゼーションと関連した現代資本主義の問題として把握しなければならないということ、現代資本主義の把握は階級関係の再生産としての資本蓄積のもとで発現する「社会問題」として把握しなければならい、ということであった。
 今年度は、賃金問題の分析から現代資本主義の雇用問題、特に偽装請負問題の調査へと議論をすすめることとした。

(2)年度期間中に明らかになった論点はなにか
 今年度は、ます、グローバル化と関連して現代資本主義を分析した文献の検討を行った。取り上げた文献は、(1)八代尚宏『健全な市場社会への戦略』、(2)トーマス・フリードマン『フラット化する世界』、(3)田端博邦『グローバリゼーションと労働世界の変容』、(4)岩田正美『現代の貧困』などであった。(1)は新自由主義的改革の代表的論客のものであり、改革が日本をどのような方向に向けているのかを総括的に理解することに役立つものであった。(2)については現代資本主義のグローバル化をもっぱら情報技術革新を生産力主義的な観点から肯定的にとらえた議論であり、現代のグローバル化の矛盾、特に金融面からの問題状況にはまったくふれられていないことが問題であった。(3)については労働法規制や組合規制のヨーロッパ的状況が理解でき、日本の労使関係を相対化し、今度の方向を考える上で非常に重要なものであった。また(4)については現代資本主義の貧困把握の方法を検討するうえで素材となるものであった。
 以上、数冊の文献の検討を行ったが、これはこれのみでなにか成果があるというわけではない。引き続き検討をつづけ、論点を整理する作業が行えるようする必要がある。
 以上の現代資本主義にかかわる文献検討に加えて、今年度は若い研究者の調査研究活動のなかで、二つの大きな前進があった。第1は伊藤会員による光洋シーリングテクノ社の偽装請負問題についての調査研究である。JMIU徳島地本の地域支部による若者労働者の組織と偽装請負問題の告発は、現代日本における不安定就業問題が「社会問題化」する突破口となるような闘いであった。伊藤会員の調査は、関西圏産業労働研究会の調査として行われ、この運動がなぜそのような強力な組合規制力を維持することができなのか、と言う論点について様々な角度から明らかにしたものだった。社会政策学会における報告も高い評価を受け、運動の前進を理論化するのに貢献できたと考える。
 第2は、愛媛県の新居浜労連の活動家と協力して行った中国人研修生・実習生の実態調査である。この問題はグローバル化のなかで将来、労働組合が直面するであろう重要な問題であるが、資料にもとづいた労働実態の把握、論点の設定という基本的な点でもまだ明らかになっていない部分が多い。今年度において、会員の院生を中心に新居浜労連で対応した事例の資料整理を行い、さらにその他の地方の対応事例についてもフィールドワークを始めている。

(3)これから解明すべき論点
 現代資本主義に関連する文献検討は引き続き継続する課題であるが、伊藤会員が取り組む非定型労働者の問題と院生会員が取り組んでいる外国人研修生・実習生問題については、引き続きファクトファイインディングを重視しつつ、一定の段階で整理、理論化ができるようにすることが必要である。
 これら二つの調査研究については、部会に参加する教員で援助できるよう、適宜報告をさせていくようにしたい。

労働運動史研究部会

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

産別会議から全労連へ―戦後労働運動の階級的潮流の探求

責 任 者 山田 敬男

メンバー人数 9名

(1)明らかにしようとしている中心点
 当研究部会の調査研究テーマは、日本産業別労働組合会議(産別会議)から統一戦線促進労働組合懇談会(統一労組懇)、全国労働組合総連合(全労連)結成にいたる日本の労働組合運動の戦闘的伝統の根源を分析・検討することである。
 また、労働総研と(財)全労連会館と共同で設立運営する産別会議記念・労働図書資料室の充実・整理にも協力している。

(2)明らかになった論点
 ヒアリングを中心に作業をすすめ、並行してその問題と課題に関わる研究論文の検討をすすめた。
 ヒアリングをおこなった方々は、杉浦正男、宇田川次保、生井宇平、引間博愛、塚田義彦、内山昂、犬丸義一、金子圭之、堤信一氏である。
 ヒアリングと文献検討をすすめるなかで、戦後労働運動にかけられてきた日米反動勢力のレッド・パージを頂点とする反共攻撃の分析が必要であることがはっきりしてきた。
 今期は、ヒアリングとともに、戦後労働運動の階級的高揚を弾圧・解体するための日米反動勢力によるレッド・パージ攻撃の研究をすすめた。
 2007年8月20日、「レッド・パージ問題と戦後の労働運動」をテーマに吉岡吉典氏を講師とする公開研究会を開催した。50人の参加で公開研究会は成功した。研究会の検討で明らかになった論点は、レッド・パージ攻撃が、(1)アメリカ占領軍による反共世界戦略と結びついて、戦後も根強く存在した治安維持法的な反共主義にもとづく弾圧体制のもとで展開されたが、(2)憲法規定があり日本共産党の解体攻撃という形態をとれなかったため、労働戦線における共産党員、幹部、活動家の解雇、排除に力点が置かれたこと、(3)また、これらの攻撃は、現在の職場における反共支配に引き継がれていること、などであった。

(3)今後の課題
 これらのヒアリングについて、整理し適当な形態で発表する予定である。

英語ライティング教室

年度中に取り組んだ調査研究テーマ

英語ライティングの向上

責 任 者 岡田 則男

メンバー人数 7名

(1)英語ライティング教室の目的と内容
 国際的な連帯、共同の必要性が増大しているのにたいし、労働運動その他の民主的運動・組織は、国際的なコミュニケーションに不可欠な英語が書ける人は、にかぎらず、一般的に少ない。英語が書けるようになるためには、特別な努力で学習、訓練していかなければならない。このため、ジャパン・プレス・サービスの岡田則男氏を講師として、英語で海外に発信する能力を向上させることをめざし2005年3月より「英語ライティング教室」を毎月2回の割合で、全労連会館において開催している。毎回6人前後が参加している。
 参加者は毎回出される和文英訳の課題を「宿題」としてやり、教室では、講評、質疑応答をつうじて、英語ライティングの基本を学んでいる。材料は、労働運動にかぎらず、政治、経済、福祉、外交などあらゆる分野の、論評、インタビュー、エッセーなどを使っている。最近では、戦争と平和の問題を多く扱った。いかに平易な英語表現で海外に伝えるか、をテーマにしている。「書ける」ようになるための前提は「読める」ことなので、各回短いエッセーなどを読み、疑問を出し合い研究してきた。中学で教えられた程度のもっとも基本的な英語の読み方、使い方が弱いことがわかり、英語の読み、誤文訂正などのドリルをつうじて、英語の基本の学びなおしを重視している。

(最近とりあげた和文英訳課題文)

  • 「アメとムチ」で兵糧攻めにして民意のあるものを強引に崩していく、…(岩国基地強化反対のたたかいについて)(平和新聞 2008年1月25日号より)
  • 憲法9条は本当に大事です。…(赤旗2008年1月27日 創刊80周年ジャーナリズム対談 石川文洋氏の発言)
  • 早いもので、私が建交労の役員を55歳で退任し、大分県宇佐市にある自坊に帰って5年半… (婦人通信:「単身帰郷、住職に」林 正道氏から抜粋)
  • 日本政府は、学費を上げ続けてきました。…(しんぶん赤旗日曜版3月23日号 千葉大学名誉教授 三輪定宣さんのインタビュー)
  • だれもが生きる権利がある、つまり食べる権利があるということです。…(新婦人しんぶん4月10日付 小林豆腐店小林秀雄さん)
  • 民主的なガバナンス(統治)とはなにか、近頃考えさせられる。…(田中優子)
  • イラク戦争はブッシュ米大統領が「イラクは大量破壊兵器を隠している」などと言って始めましたが、…(井上ひさし 革新懇インタビュー No.300)
  • 今月、大阪府の橋下徹知事が「大阪維新プログラム案」を発表した…(「しんぶん赤旗」コラム「朝の風」2008年6月24日)
  • 毎夏、主要八カ国の首脳が顔を揃え、当面の重要課題が話し合われ…(高村薫 東京新聞 2008年7月15日夕刊)
  • いまから35年前になる1973年9月15日、40歳だった南米チリのシンガー・ソングライター、ビクトル・ハラが絶命しました。…(はまだ・じろう)
  • 小泉、安倍、福田各内閣と続く新自由主義の経済政策や、戦争を口実とする対テロ軍事行動などによる閉塞状況に、社会を変えなければとの危機感がようやく広がりつつある。…(新崎盛暉)

 アメリカ労働運動史(Labor's Untold Story)の日本語翻訳にとりくみを開始した。

(2)これからのとりくみ

  1. さらに、英語の表現を研究しながら、ライティングの向上をはかる。
  2. 学生を対象にした講座を開設の準備に取り組む。

8〜10月の事務局日誌

8月6日 事務局会議
  20日 非正規雇用労働者全国センター発足祝賀会
  21日 「教育のつどい2008」へメッセージ
  23日 全労連・全国一般定期大会へメッセージ
  25日 第24回労働法制闘争本部・中央連絡会合同会議
自治労連定期大会へメッセージ
  27日 第1回常任理事会
「国民春闘白書」編集委員会
  28日 国公労連定期大会へメッセージ
  30日 建交労定期大会へメッセージ
9月2日 労働法制中央連絡会総会
  5日 中央社保協50周年レセプション
  10日 全法務定期大会へメッセージ
  12日 生協労連定期大会へメッセージ
  13日 埼労連定期大会へメッセージ
  20日 電機労働者懇談会20周年レセプション
福祉保育労定期大会へメッセージ
  21日 東京靴工組合定期大会へメッセージ
全損保定期大会へメッセージ
  25日 全労連民間部会15周年を祝うつどい
  27日 第1回企画委員会
「国民春闘白書」編集委員会
10月15日 全労連代表との懇談
  19日 大江洸さんを偲ぶつどい
  20日 自交総連定期大会へメッセージ
  25日 第2回常任理事会
  29日 国民春闘共闘委員会年次総会

8〜10月の研究活動

8月2日 若手研究者研究会
9月11日 国際労働研究部会
 16日 女性労働研究部会
18日 地域政策検討プロジェクト
10月7日 国際労働研究部会
14日 研究交流会(賃金最賃問題検討部会・女性労働研究部会)



全労連・労働総研編

『2009年国民春闘白書−貧困、生活危機突破の
春闘へ』発刊

税込価格1,000円(952円+税)申込先・学習の友社 TEL03-5842-5641

首都圏最低生計費調査報告書発刊記念

「最低生計費」を考えるシンポジウムのご案内


日 時

12月13日(土)午後2時〜5時

場 所 エデュカス東京7階会議室(地下鉄麹町下車3分・JR市ヶ谷下車7分)
基調講演 金澤誠一佛教大学教授・労働総研理事
シンポジウム・コーディネーター 熊谷金道労働総研代表理事
パネラー
金澤誠一氏・伊藤圭一全労連調査局長・水谷正人神奈川労連議長・辻清二全生連事務局長
主 催 首都圏最低生計費調査作業チーム
(神奈川労連・埼労連・千葉労連・東京地評・全労連・労働総研)
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