労働総研ニュース No.219 2008年6月



目   次

・『貧困と格差の拡大の中で―権利擁護と組織拡大をめざして―』の概観




『貧困と格差の拡大の中で―権利擁護と組織拡大をめざして―』の概観
「世界の労働者のたたかい2008 世界の労働組合運動の現状調査報告集第14集」

斎藤隆夫


はじめに

 全労連編集・発行の年報『世界の労働者のたたかい2008』―世界の労働組合運動の現状調査報告―第14集が、学習の友社から発刊された。本報告には、第13集から取り上げた世界の労働者のたたかいに共通する特徴を主タイトルに、「世界の労働者のたたかい」はサブタイトル扱いにしている。本『年報』の主タイトルは「貧困と格差の拡大の中で―権利擁護と組織拡大をめざして―」とした。

 本『年報』の執筆には、労働総研国際労働部会のメンバーが協力している。本『年報』の創刊に尽力され、永年主導的な役割を担ってこられた小森良夫会員が08年1月4日逝去された。謹んで哀悼の意を表する次第である。

 この『年報』は、日本の労働運動が直面している諸問題を研究するうえで、多くの示唆をあたえている。労働組合の幹部はもとより、労働組合運動の発展に関心をもつ研究者には必読の文献といえよう。

 調査の目的は、新自由主義的なグローバル化の進行のもとで米国の軍事的、政治的、経済的覇権主義の矛盾が露呈しはじめている中で、日本の労働者のたたかいと世界各国の労働運動の共通性を認識し、各国のたたかいの教訓を日本のたたかいに活かすことである。この要請にこたえるため、2007年中にたたかわれた世界各国の労働者と労働組合の主要な闘争・運動の事例をケース・スタディー(事例調査)のかたちで、(1)闘争課題(要求)、(2)たたかいの組織・規模・戦術、(3)それらのたたかいの到達点、についてそれぞれ調査・分析している。

 本『年報』が調査・分析している地域と国は、以下の1地域(欧州連合、EU)と44ヵ国である。本『報告』にアフリカ2ヵ国を取り上げ、5大陸の労働運動をカバーしたというのも本『年報』の特徴である。

 アジア10ヵ国(日本、韓国、中国、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、インド、パキスタン)

 オセアニア2ヵ国(オーストラリア、ニュージーランド)

 北米2ヵ国(米国、カナダ)

 中南米7ヵ国(メキシコ、コロンビア、ベネズエラ、ボリビア、ブラジル、アルゼンチン、チリ)

 アフリカ2ヵ国(エジプト、南アフリカ)

 欧州1地域・20ヵ国(英国、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、ベルギー、オランダ、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキア、スロベニア、ハンガリー、イタリア、ギリシャ、スペイン、ポルトガル)

 独立共同国家1ヵ国(ロシア)

■政治経済の動向

 2007年、新自由主義的経済・社会政策の進展と経済のグローバル化がもたらした貧困と格差の拡大は、欧米をはじめ多くの国で深刻な社会問題となっている。中国、インドは国内での貧富の格差の問題を抱えながら、世界経済での影響力を一層強めている。政治の面では、フランスで与党・国民運動連合のサルコジが大統領選で勝利する一方、オーストラリアでは総選挙で労働党が圧勝、ドイツでは左翼党が地方議会で議席を獲得するなど新自由主義路線を対立軸とした攻防が続いている。相次いで中道・左派政権が成立している中南米では、政府が失業や貧困の克服を目指す中、政府と組合の関係のあり方をめぐって模索が続いている。

 こうした中で、いくつかの国では政権交代や政府の路線修正とも結びついて貧困と格差の拡大に抗する運動が一定の前進をみているが、それ以外の国では依然、新自由主義路線のもと困難なたたかいが続いている。以下、主な課題について特徴的なたたかいを紹介しつつ、世界の労働者のたたかいを概観する。

■賃上げ・最低賃金など労働条件改善

《賃上げのたたかい》

 いくつかの国で物価上昇分を上回る賃上げが粘り強くたたかわれ、賃金購買力の改善をかちとっている。

 ドイツでは大企業が記録的な利益をあげる一方、物価上昇や税負担の増加によって実質賃金が低下している中で、金属産業労組をはじめ鉄道部門など多くの部門で賃上げのたたかいが盛り上がりをみせた。鉄道運転士労組の11%をはじめ金属産業で4.1%など、経営側の「国内の工場維持が難しくなり、雇用維持ができなくなる」などの理由で低い賃上げしか認めない構えを突き崩して、大幅な賃上げを実現した。

 イタリアでは、金属機械部門三大組合が企業の業績回復のもと賃金購買力回復を求めて、8年ぶりの統一要求にもとづく賃上げ闘争に取り組んだほか、第三次部門でも1年以上前に期限の切れていた協約更新のたたかいが行われた。スウェーデンでは、3年有効の労働協約を決める賃金交渉がストなしで妥結し、女性が大多数を占める小売、ホテル等の低賃金産業で製造業を上回る賃上げが保証された。英国では、ロイヤルメールの労働者が賃上げ等を求めて11年ぶりの全国ストライキを決行し、2年間で6.9%の賃上げを獲得した。

 韓国では、民主労総の全国金属労働組合が初の産別交渉に臨み、6月後半に加盟各労組が時限ストを相次いで実施、8.0%の賃上げを獲得した(要求額は9.3%)。全産業では2.5%の物価上昇率に対して5.6%の賃上げ率で、実質賃上げが記録されている。

 米国でも、統一電気・機械・無線労働組合(UE)がインフレ上昇率3.2%、製造業での平均賃上げ率2.3%の中、3.6%の賃上げを実現し、実質賃金上昇をかちとった。一方、自動車産業では労働者がGMで30数年ぶりに2日間のスト、クライスラーでも6時間のストを行ったにもかかわらず、UAWは経営側の実質的な賃下げ提案(新規採用者には低賃金を容認する2本立て賃金体系の導入)を受け入れた。88年以来のストライキとなった脚本家組合のたたかいも注目される。

 ポーランドでも自主管理労働組合と全ポーランド労働組合が賃上げ運動を始め、郵便、鉄道、自動車など多くの部門、企業でストライキや抗議行動が起こった。南アフリカでも金属産業労働者や公務員が賃上げを要求して全国規模のストライキを行った。特に公務員のそれは94年の民主化運動以来最大の規模になった。ロシアでは世界的なビールメーカー、ハイネケンのサンクトペテルブルグ工場で賃上げ要求のストが起こった。ロシアの食品産業でストが行われるのはソ連邦崩壊以降初めてである。この他、オランダ、ニュージーランド、フィンランド、スロバキアなどで賃上げ闘争が起こっている。

 賃上げを求めるたたかいはアルゼンチン、ブラジル、チリなどでも活発化しているが、これらの国では賃上げ闘争が警察の弾圧による死者を生むなど、激しい様相を呈している。好景気とインフレのもと停滞する賃金に不満を強めた労働者の賃上げのたたかいが前進しているエジプトでも、スト指導者が不法集会、公有財産破壊を先導したとして逮捕されている。ここでも一時警官隊が工場を包囲する事態が発生した。

《最低賃金制をめぐるたたかい》

 06年、DGB大会で法定最低賃金要求が決定されたドイツでは、最低労働条件法の改定等によって電気技師、郵便配達員などいくつかの職種でも最低賃金制が確立された。社民党はさらに造園、警備など10業種にもこれを拡張すると宣言し、全産業での法定最低賃金制確立も呼びかけている。この背景には移民や低賃金労働者の増大がある。

 ポルトガルでは、中道左派政権の下で、06年に決定された法定最低賃金の引き上げが実施された。07〜11年の間年平均約5.3%引き上げるという内容で、最近数年の平均賃金上昇率や予測物価上昇率よりも高い画期的なものであった。米国でも、所得格差の広がりと深刻化の中で、10年ぶりに最低賃金引き上げ法案が成立し、労働力人口の1割にあたる1,300万人が恩恵を受けるとみられている。

 オーストラリアでは、連邦法定最低賃金が引き上げられるとともにクイーンズランド州では、連邦最賃が適用されない農業労働者などが恩恵を受ける州最賃の引き上げが行われた。ニュージーランドでも労働党連立内閣は最低賃金を引き上げているが、組合は男女賃金格差、白人とマオリの賃金格差などの是正のため、さらなる引上げを要求している。スロバキアでは経営者の望んだ額を上回り、組合の要求を満たす最賃の引上げが行われた。カナダでは1996年に自由党政権によって廃止されていた連邦最賃を復活させる法案が提案され、組合員の間で支持署名が広まっている。

 わが国でも、単産・地方組織の取り組み強化や中央での9次に及ぶ行動などの結果、全国加重平均で14円引き上げというかつてない大きな前進を見ている。

《労働災害に抗するたたかい》

 フランス、イタリア、スペインなどで労働災害の増加が社会問題化している。ルノーのテクノセンターでは06〜07年にかけて3人の社員が自殺した。CGTや管理職総同盟はゴーン社長のもと打ち出された新車開発計画が社員に深刻なストレスを強いていると主張し、大幅な人員増を要求している。プジョー・シトロエンでも07年に入って6人の社員が自殺している。

 イタリアでも労働災害が頻発しており、労働者は州レベルや産別組合のストライキで抗議活動に立ち上がっている。ジェノバ港での死亡事故の際には事故発生後ただちに起こった抗議活動で港は機能停止状態に陥った。スペインでは04年以来労働災害が多発していた建設産業について労働安全面の改善等を目的とした「下請規制法」が施行された。これによって業務上の危険にさらされている労働者の厳格な訓練基準などが定められた。

■人員削減反対・不安定雇用規制のたたかい

《人員削減反対》

 この問題ではEUレベルで注目すべき動きがみられた。まず、ベルギーでは、GMのアントワープ工場労働者が会社側による同工場の生産規模縮小計画(生産能力年25万台に対して8万台へ)に反対して、5月3日、ストライキを行った。欧州金属労連とGMの欧州従業員フォーラムは、その日を全欧州のGM工場での統一行動日に設定し、8ヵ国の15工場で数時間の連帯ストを行った。また、欧州委員会、欧州自動車製造業者連盟、欧州金属労連等がリストラ問題に企業の社会的責任を踏まえて労使で協力して対処するために、「自動車産業における変化の先取りに関する欧州パートナーシップ」を結成した。一方、欧州委員会はプジョー・シトロエン、ルノー両社のリストラに関して、労働者の雇用保護を目的とする「欧州グローバル化調整基金」の初適用を決定した。

 スペインでは、自動車産業の米欧系列企業で人員削減攻勢が相次いだ。自動車部品企業世界第2位のデルフィは同社のプエルト・レアル工場を閉鎖することを発表した。会社側は同工場の競争力の弱さ等を理由としてあげたが、東欧に生産拠点を移すためと推測されている。労働者と家族の抗議集会が行われた。SEATも傘下企業の閉鎖を決定し、現地の組合は繰り返しストライキを含む反対行動を展開した。だが、これらの問題でナショナルセンター(CC.OO、UGT)間の意見対立のため統一闘争が組めず、退職条件の引き上げによる妥協を余儀なくされた。

 南アフリカの日産現地法人の工場が従業員410人(従業員総数1,500人)の解雇計画を発表した問題で、南ア金属労組は3月23日、日本大使館前などで抗議行動を繰り広げた。計画は解雇の一方で低賃金の契約労働者を導入することを予定しており、国際金属労連の地域役員は「従業員を入れ替えるということは、工場に仕事があることを意味する。貪欲なやり方だ」と批判した。

 わが国では、全労連を先頭にした幅広い労働組合のたたかいが、「ホワイトカラー・エグゼンプション」(残業代ゼロ)法案とともに不当な解雇についても金銭で処理しようとする法の導入を見送らせる画期的な成果をあげた。

《不安定雇用規制》

 派遣労働問題で英国の組合と労働党政権の対立が強まっている。07年12月のEU雇用社会相理事会では派遣労働者に常勤労働者と同等な権利を与える指令案が合意に至らなかったが、それは英国の反対が一因であった。資格要件として勤続条件を設けずに一律に派遣労働の規制強化を行えば雇用に悪影響を及ぼす、として反対したのである。ユナイトなどの組合側は3年前の総選挙時の労働党との合意として、EU指令が成立しない場合は国内法で派遣労働規制を行うとした約束の履行を強く政府に迫っている。

 イタリアでは、プロディ政府の下でコールセンター従業員の最低24ヵ月以上の契約期間をもつ雇用契約への転換や公務部門有期労働者の期限の無い契約への転換が実現された。日本では、キヤノン、松下、トヨタなど日本を代表する大企業とその系列企業での派遣法違反=偽装請負を告発したたたかいが取り組まれ一定の成果をあげるとともに、法抜本改正の動きをつくりだしつつある。

 チリの国営銅山企業コデルコでは下請け労働者の賃上げ等を求めるストが起こった。この結果、政府は「下請け労働者」の使用と待遇のありかたについて検討することになり、これらの労働者が偽装請負という形で働かせられていたとして、直接雇用を命じた。

■社会保障・福祉国家擁護のたたかい

《年金》

 フランスでは、国鉄職員や電力・ガス公社職員等を「重労働」従事者とみなす年金「特別制度」がある。年金負担金の支払い期間が軽減されるほか55歳で年金を受給することもできる制度である。この制度について政府は、完全年金の受給に必要な拠出期間を現行の37.5年から40年に引き上げる改革案を発表した。組合は政府の社会保障制度改革案(失業保険改革も含む)に激しく反対し、1995年以来といわれる大規模なストライキを実施した。

 イタリアでは、ベルルスコーニ前政権時に決定されていた年金改悪の見直しをめぐる政・労・使の数ヵ月にわたる交渉の結果、一定の改善が実現した。改悪案は、退職年金受給資格を58歳から62歳に引き上げること、現役時賃金に対する年金の比率をひき下げることなどを定めていたが、年齢引き上げは大幅に遅らせ、比率引き下げはしない方向で今後検討することとなった。その他、低年金層について、物価上昇率を100%年金額にスライドさせる改善などが実現した。

 英国の郵便部門では、企業年金問題が労使交渉の最大の対立点になった。会社側が従来の確定給付年金を確定拠出年金に変更しようとしたためである。交渉は管理職組合もスト権を確立するなどいっそうの混乱が予想される中、新規従業員についてのみ確定拠出年金を新設するなどで妥結した。

 この他、インド、ハンガリー、スロベニアなどでも年金改悪がすすんでいる。インドでは制度改悪に反対して公務員、教員など1,000万人の参加する全国ストが行われた。スロベニアでは、組合の「現在の制度はうまくいっている」という反対にもかかわらず、国際通貨基金が後押しして「改革」が進められようといる。

《医療保険》

 米国では勤務先での医療保険加入者の割合は2000年から06年のあいだに64.2%から59.7%に減少した。UEの調査によれば、経営者の63%が増大する健康保険料負担を抑えるために労働側に譲歩を迫るつもりだと答えていた。UEではほとんどのローカルがこうした圧力をかけられたが、多くの場合攻撃をはね返した。逆に改善させた例も5割あった。こうした中で「国民皆保険」に関するさまざまな提案が出され議論を呼んでいるが、組合のなかでも一致した方針はできていない。

《失業保険》

 ドイツでは格差拡大・生活条件悪化への不満が高まる中で、政権内に構造改革見直しの動きが生まれた。特に、失業保険問題では高齢者に対する失業保険受給期間の延長および保険料の引き下げが決定された。スウェーデンでは、中道右派政府のもとで、失業保険に関する政府負担額が減額され、労働者負担金の2〜3倍増により「ゲント」システムが壊滅させられてきている。これは1年間で10%の組合員の消失につながった。

■労働基本権擁護・労使関係改善のたたかい

 07年、オーストラリアでは総選挙がたたかわれたが、その最大の争点は労使関係法であった。「ワークチョイス」と呼ばれるこの法は、従業員100人未満の中小企業を不当解雇防止の対象から除外する、団体交渉で協議される内容を制限するなどの改悪をもたらし、労働組合の大きな反発を受けていた。組合は大規模な反対運動にもかかわらず法律が成立した後、選挙での労働党勝利に期待を託していたのである。労働党勝利の後、組合は「ワークチョイス」の廃止に向けて議会への働きかけを強めている。

 米国では、組合加入権確立問題が争われている。06年10月、全国労働関係委員会は看護師などにたいし、「経営者のために他の従業員に仕事を指図し、責任をもって指示することができる、あるいは自主的判断をすることができる場合、一般の従業員と異なり、労働組合に参加できない」と裁定した。二つのナショナルセンターは、これをブッシュ政権の労働組合敵視政策の集中的あらわれとして、労働者に組合加入を選択する権利を認め、雇い主はそれを妨げてはならないことを定める「被雇用者自由選択法」を要求した。カナダでは、企業がスト破りを雇うことを禁止する法案が提案されたが、自由党の一部の議員が反対票を投じたため廃案となった。

 フランスでは、サルコジ大統領が公約に掲げていた公共交通機関のストライキ規制法がつくられた。ストライキ前の労使交渉の義務づけやストライキ時の最低限運行義務などが盛り込まれ、野党は「スト権の制限につながる重大な危険性をはらむ」として反対したが法案は成立し、08年から実施される予定である。韓国でも、鉄道、航空運輸、水道・電気・ガスなど国民生活に大きな影響を与える業種での争議中も正常な業務を義務づける「必須維持業務制度」が導入された。この他、ベルギーでも公共交通機関でのストライキ権規制の動きが出ている。

 新たな国政民主化への局面へと入りつつあるパキスタンやネパールでは、労働組合の活動が改めて合法化された。他方、マレーシアでは組合の結成は認められているものの、労働組合監督官が拒否すれば労組は認められない状況がある。フィリピン、インドネシアなどでは組合活動への弾圧が行われている。フィリピン輸出加工区では、労組の結成に対する規制と妨害がとくに激しく、日系企業のサンヨー・インドネシアでは賃上げ要求でストライキをおこなった組合の指導者が解雇された。

■国際労働組合総連合アジア太平洋地域組織(ITUC-AP)の結成

 07年9月、国際労働組合総連合アジア太平洋地域組織(ITUC-AP)が結成された。これまでの国際自由労連アジア太平洋地域組織と国際労連系のアジア地域組織が統合し、どちらにも参加していなかったいくつかの組織も参加して結成されたものである。参加したのは29ヵ国・地域、48組織である。

 アジア地域ではASEAN共同体や東アジア共同体構想が前進し、自由貿易協定あるいは包括的経済連携協定のネットワークづくりもさまざまに進行している。他方、域内の発展途上国から日本、韓国、オーストラリアなど発達した工業国への移動、インドネシアからマレーシア、シンガポールへなどの域内近隣諸国への労働者の移動が増えており、各国の労働者の雇用・労働条件の劣悪化を促進している。

 こうした中で、新組織が新自由主義路線とたたかい、労働者の権利と生活向上のための具体的な取り組みをおこなっていくのかどうか、働くものの立場から共同体構築のためにたたかっていくのかどうかが問われている。

■社会主義をめざす国での労働者のたたかい

 中国では、07年、いくつかの労働条件改善措置が講じられた。その一つ「労働契約法」はすでに法で定められていた労働契約制度を市場経済制度に即応して補強したものである。これによって労働契約を書面で締結する事を義務づけ、雇用関係があるのに書面による契約がない場合、すでに無期限の契約が結ばれているとみなされる。試用期間は6ヵ月以内に制限され、回数は1回だけ。解雇や就業規則の制定・変更の際は、労組または従業員代表との事前協議を義務づけ、労組の役割を重視している。その他、「労働争議調停仲裁法」、「就業促進法」などが制定された。

 炭鉱、建築など各種産業で重要な担い手になっている農民工について、過酷な労働、賃金不払いなどの権利侵害が多発している中で、総工会は労組加入者を07年中に1,000万人以上新たに増やす(現在約4,100万人)目標を掲げた。9月末現在で6,197万人に達したと報道されている。

 ベトナムでも農村から都市への労働者の移動は急拡大しており、労働総同盟はこれらの新しい労働者を中心に100万人の新規獲得を目標にしている。近年、賃金引上げ、女性労働者保護などを要求してストライキがかなり頻繁におこなわれているが、そのほとんどが私企業とくに外資系企業であり、米欧の商工会議所、日本経団連などはストライキ規制を要求している。

 『世界の労働者のたたかい―2008』の執筆者は、以下の通りである(あいうえお順)。

 岩田幸雄(全労連副議長)

 岡田則男(会員・ジャーナリスト)

 面川 誠(会員・ジャーナリスト)

 片岡正明(ジャーナリスト)

 加藤益雄(会員、国際労働問題研究者・元全労連国際部長)

 木暮雅夫(理事、日本大学教授)

 斉藤隆夫(常任理事、群馬大学名誉教授)

 坂本満枝(会員、国際労働問題研究者)

 猿田正機(会員、中京大学教授)

 平井潤一(会員、国際問題研究者)

 藤吉信博(労働総研事務局次長)

 布施恵輔(会員、全労連国際局長)

 三浦一夫(会員、ジャーナリスト)

 宮前忠夫(会員、国際労働問題研究者)

 Birger Viklund(元スウェーデン労働生活研究所)

(学習の友社03-5842-5641、定価1,000円)

(さいとう たかお・国際労働研究部会責任者)