労働総研ニュースNo.203号 2007年2月



目   次

・「偽装請負」から直接雇用をかちとった経験
 ─光洋シーリングテクノと日亜化学のたたかい─
・多変量解析による「労働組合の活動実態と課題と展望」調査報告書(その1)
・第3回常任理事会報告他




  「偽装請負」から直接雇用をかちとった経験
─光洋シーリングテクノと日亜化学のたたかい─

生熊 茂実


はじめに

 いま労働者状態の悪化が、日本社会の中心問題になっており、「労働者状態の改善なくして日本社会の未来はない」と私は考えている。そういう労働者状態の悪化のシンボルともいうべきものが、「偽装請負」である。「偽装請負」については、昨年ずいぶんマスコミでとりあげられ、流行語大賞にもノミネートされた。しかし、JMIUがとりくんで、「偽装請負」から直接雇用を実現する大きな一歩を踏み出した光洋シーリングテクノと日亜化学のたたかいが、いくつか誤解されていたり、不正確にとらえられている点があるので、その到達点と課題について報告したい。

 私が、この報告をおこなううえで最初に強調したいのは、JMIUや徳島の仲間たちは「違法」だからたたかったのではないということ、「労働行政」が指導したから「直接雇用」が実現したのではないということである。この二つに、いま私達が「偽装請負」問題をとりくむうえで、重視すべき問題がふくまれていると考えるからである。

1、「偽装請負」とは

 「偽装請負」とは、実態は派遣労働でありながら、「請負」という形式をとることによって、派遣先企業が派遣労働者をうけいれる場合にある「派遣期間制限」を超えて働かせるときに生じる「直接雇用申し入れ義務」や派遣労働者に対する「安全管理義務」などを逃れるためにおこなわれる「違法派遣」である。

 「偽装請負」と派遣労働の違いは、当該労働者への業務指示を誰が行うかが大きなポイントである。昭和61年の労働省告示第37号にその区分が明らかにされており、「請負業務に自己の雇用する労働者を従事させる場合でも、当該事業主(注・請負業者)が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする」としており、業務指示は自ら行うこと、資金や機械・設備、材料などを自己の責任と負担で準備することなどを決めている。これらについて「請負業者」が行っていなければ、労働者派遣事業主となることを明らかにしているのである。

 「請負」といいながら、実際には派遣先企業が当該労働者に対する業務指示をおこない、派遣先企業の労働者と混在して仕事をする状態が蔓延している。また、使用する機械や材料も自ら責任をもって調達することなどはないが、「リース契約でやっている」、「材料は支給する」などの口実ですりぬける行為をしているのが実態である。それでは機械を動かす電気代は、誰が払っているのか、ひとりあたり時間単位で決められている契約が「請負」といえるのか、など問題だらけである。こういうなかで、ごまかしにくい問題として、業務指示を誰がおこなっているかがポイントになっているのである。

2、「違法」だから始まったたたかいではない

 徳島の仲間たちがたたかいに立ち上がったきっかけは、何よりも、「将来の見えない働き方」に対して、「なんとかしなければ」という思いである。何年働いても、時給は1,100円、3ヶ月更新の雇用契約、ボーナスなし、退職金なし、そして低賃金を補う長時間残業である。5年も6年もこのような働き方をしながら、仕事についても熟練していき、正社員に対して仕事を教えるようになっていた。にもかかわらず、賃金は年収で正社員の半分から3分の1であり、入社のときには光洋シーリングテクノが面接をし、「がんばれば正社員になれる」というような話もされた仲間もいた。これでは、労働者が頭に来るのも当たり前である。こういうなかで、「ぐち」や「怒り」をまとめた仲間がいたのである。いくら怒りや要求があっても、それをまとめる人がいなければたたかいや組織はできない。そして、インターネットでたどりついたJMIU徳島地本によって、組織化とたたかいが準備されたのである。

 このときの労働者の要求は、「労働条件向上」と「雇用の安定」である。もちろん、光洋シーリングテクノへの「直接雇用」を要求し団体交渉申し入れもおこなったが、光洋シーリングテクノは拒否してきた。JMIUは、当面の要求実現に努力した。その結果、派遣元企業との間で、勤続年数により時給を10円〜30円アップさせることができた。そのなかでわかったことは、「請負=派遣会社」との関係では、将来が見える要求については基本的に解決しないということであった。「請負会社」と光洋シーリングテクノの契約は、ひとりあたり1時間1,700円であり、経費等を考えると、ボーナスや退職金は実現できないというものだった。

 こういうなかで、「光洋シーリングテクノとの直接雇用、正社員化」しか、解決の道はないという要求に高まっていったのである。これは、従来の派遣労働者の直接雇用実現のとりくみとは、大きく質的な違いがあった。それは、ラインの労働者の多数を組織化したしたなかで、労働者の団結力の発揮ができる、そして一定の熟練労働者が多いことから、直接生産に大きな影響をもつたたかいという、新たなたたかいを前進させる条件が生まれた。しかしいっぽうでは、個別労働者の問題解決にとどまらない「多くの労働者の直接雇用、正社員化」という大きな課題に直面することになったのである。

 「違法だからたたかう」のではなく、あくまでもたたかう土台は要求であり、要求実現めざしてたたかううえで「違法」を告発するということが、大きなたたかいの武器になるということではないかと私は考えている。

3、どうたたかったか

 すでに述べたように、「偽装請負」は実際には派遣である。そうであれば、労働者派遣法が適用されないのはおかしいので、期限を超えれば「直接雇用申し入れ義務」があるはずとして、厚生労働省と徳島労働局に申告をおこなった。しかし厚生労働行政は、自らの告示を無視してまで「派遣事業主ではないから」とか「派遣期間が切れる前に申し入れを行わなければならない」、「申し入れ義務は、さかのぼることはできない」など、あらゆる口実で「直接雇用」の指導をしようとしない。そして「請負の適正化」と称して、「偽装請負」に手を貸しているのである。ここに重大な問題がある。

 JMIUは、ひき続き厚生労働省交渉や日本共産党国会議員団の協力をえて国会で追及したが、厚生労働行政が直接雇用の行政指導をすることは、最後までなかった。その結果、職場で「請負の適正化」のための配転などがおこなわれ、生産体制にも混乱が起こることになった。こういうなかで、NHK「ホットモーニング」や関西テレビが、「偽装請負」問題の報道を始めた。

 JMIUは、全労連、徳島労連とともに2006年7月30日に現地で「偽装請負を問うシンポジウム」(300人規模)を準備しながら、JMIU定期全国大会で「法律がだめなら、運動と世論で突破するしかない」ことを確認し、全国の支援を呼びかけた。当日は、なんと東京から25人以上がかけつけたのをはじめ、徳島県外から100人以上が参加し、300人を超える大シンポジウムが成功したのである。

 劇的だったのは、このシンポジウムの翌日の7月31日から、「朝日新聞」が連日「偽装請負」キャンペーンを始めたことである。もちろん朝日新聞等の取材に協力はしてきたが、こんな絶好のタイミングで報道されるとは想像できなかった。そして、いくつかの大企業がコンプライアンス(法令遵守)により「直接雇用」を表明するなどが起こり、また、あまりにひどい働かせ方はおかしい、違法な働かせ方はやめるべきだという世論の大きな変化が生まれたのである。

4、要求実現に向けて

 しかし、だからといってかんたんにことが進んだわけではない。このたたかいには、いくつもの困難な課題がある。

 まず第1には、派遣先との交渉が、どうしたら実現できるかという問題がある。派遣状態であれば、少なくとも労働環境や安全問題などは団体交渉事項になることは明らかである。派遣先が拒否しても、争えばこれは可能である。しかし、「直接雇用せよ」という要求が、法律上「義務的団体交渉事項」にあたるかは、そうかんたんな問題ではない。何よりも、派遣先との「直接雇用」を議題にした協議ができるかがポイントになる。

 徳島の場合は、世論の変化と労働者・労働組合のたたかい、「偽装請負」の仲間の生産に対する影響力等が発揮されるなかで、徳島県商工労働部が、経済振興、雇用確保の立場から、問題解決に向けての協議の場を提供したということがきっかけになった。地方自治体は、この件に関して直接の権限をもたないが、自らの雇用政策をもって解決への努力をしたことが大きな役割をもったといえる。

 しかし、それでもスムーズにすすんだわけではない。ひとつの問題は、申告した組合員だけの問題解決でなく、制度的改善として解決しなければならないということである。そうすると200人近い「偽装請負」労働者全体の問題であり、これをどう解決するかという大きな課題に直面した。もうひとつは、光洋シーリングテクノの対応のきびしさである。細かい経過は省くが、光洋シーリングテクノには、正社員のJMIU支部があるが、これは全金時代に分裂攻撃をうけた少数派労働組合である。また親会社ジェイテクト(旧光洋精工など)も「組合分裂」政策をとって成功しているという労務政策が基本にある。だから、JMIU組合員を直接雇用することへの嫌悪があり、雇用するとしても、ごく少数に抑え込もうという姿勢が明白であった。ここに第2のポイントがある。私は「これは不当労働行為であり、どこまでもたたかう」としてたたかったが、この不当労働行為が成立するかどうかも、そうかんたんなことではない。厚生労働行政として「直接雇用」の指導をすれば、それはむずかしくないが、雇用される前の不当労働行為成立については研究の余地がある。

 そして3回目の協議で「決裂寸前」の危機になったが、「解決の可能性があるなら、細い糸でもつないでおく」ことを表明し、徳島県が真剣にこの糸をつなぐ努力をした。JMIUからは、「選別は認められない」という立場でたたかいを継続し、徳島県の努力を実らせるようにした。そういうなかで、光洋シーリングテクノが折れ、「劇的」に展開して「解決への第一歩」へ前進したのである。(合意事項は資料1見解)

 そして第3のポイントとして、「合意事項の担保をどうつくるか」ということがある。つまり、正式な団体交渉でないので、「合意」しても協定書をつくることがむずかしいということがある。そういうなかで、私たちが工夫したのは、(1)県という公的な機関の面前で、合意事項を確認する、(2)それを「声明」という形で社会的に発表し、公にする、(3)それを会社側が否定しなければ、合意があったことが社会的に認知される、こういう形で、協定書に限りなく近づける努力をしたのである。これが、その後の事態の進展に重要な役割を果たしているといえる。

5、日亜化学のたたかいについて

 日亜化学の「偽装請負」撤廃のたたかいは、ひとりの仲間が光洋シーリングテクノのたたかいを見て、「俺にもできる」という思いで、JMIU徳島地本に連絡をしてきたことから始まる。地本の指導のもと、組合員を増やし、十分な準備はできなかったが、ことし2月までの派遣期間制限が1年の間に解決をはかるという思いで徳島労働局に「偽装請負是正」の申告をした。

 ここで光洋シーリングテクノのたたかいが、まさに生きた。徳島県も日亜化学も、大きなたたかいになるよりは早急な解決が得策という考えに立ったようである。そして申告から1ヵ月後に、再び徳島県がJMIUと日亜化学の協議の場を設けた。日亜化学側は、それ以前から「偽装請負解消」策を一方的に発表しようとしていた。そういうなかで私たちが重視したのは、労使協議の場をつくって、労使合意で解決をはかるということである。そうしないと、あとの保障がないという危険が生まれる。他のいくつかの企業で「直接雇用」はしたが、数ヶ月で解雇や雇い止めとか、「直接雇用」をするが有期雇用契約の「契約社員」として2年11ヶ月以内で雇用は打ち止め(現行労働基準法での有期雇用上限は3年)などの卑劣な攻撃が起こっているが、それを防止するのが先に述べた「担保」である。もとより、これは完全な担保とはいえないが、この合意事項が不当な攻撃を許さず、正社員への道につながる一本の太い綱になっていることは疑いない。ここに、労働組合としての真価を発揮したたたかいの結果が示されていると思う。

 協議の結果は、資料2に示すとおりである。十分ではないが、光洋シーリングテクノのたたかいを引き継ぎ、前進させたものといってよいであろう。次に続くたたかいに期待したい。

6、「偽装請負」の組織化とたたかいのポイント

1)当事者ぬきで、「要求すること」だけを先行させるな

 職場に労働組合があり「偽装請負」があると、よく「偽装請負」で働いている労働者をぬきにして、「偽装請負」解消、直接雇用の要求を経営者に出す場合がある。これは、非正規労働者のことを真剣に考えているまじめな労働組合であることは疑いないのだが、何よりも派遣や「偽装請負」労働者と話し合い、グチや要求をつかむことから始める必要がある。そうしないと請負型の活動になり、要求実現も組織強化もできない。

 また、労働相談で「偽装請負」の労働者が来たときにも、当事者の要求は何かをしっかり把握することが大事である。「偽装請負」なら「直接雇用」の要求に単純化してはいけない。もちろん、直接雇用をかちとらなければ実現しない、あるいは直接雇用自体が要求だということもあるが、とにかくよく話を聞いて、職場で労働者を団結させる要求をしっかりつかむ必要がある。

2)労働組合にはいらないと要求前進は困難

 どんな労働相談でもそうだが、一人だけの「事件」にせず、職場に労働組合をつくることを徹底して追求しなければならないと思う。とくに、「偽装請負」で直接雇用をかちとるには、法的な対応だけではむずかしい問題がたくさんあり、運動と世論の喚起が必要になるからである。

 要求が職場で多くの労働者が一致するということは、職場に団結をつくる条件があるということになる。だから、その要求をつかんで、仲間がつくれれば労働組合をつくることができる。「仲間の共通の要求」と「仲間を増やせる人」の存在が、職場に労働組合を組織化するキーワードである。そして、仲間を増やす工夫を当事者といっしょになってすすめることが大切である。

3)そのうえで、法的な問題もふくめて、職場における実態の把握と分析をおこない、とりくむ方針を考えるようにする。

4)「偽装請負」や派遣の場合には、労働組合として公然化して要求する前に、法違反があれば労働局に違法状態を説明し、「直接雇用を求める指導の申告」をしておくことが大事である。

 しかし、すでに述べたように、派遣労働者の期間制限を超えている場合は、「直接雇用」の行政指導がありえるが、残念ながら「偽装請負」の場合には、直接雇用は指導しないという頑なな態度をとっている。そういうなかでも労働局に「申告」するのは、労働局は雇用確保には努力するので、経営者から契約解除=解雇させない、雇い止めをさせないなど、雇用をまもる歯止めにするためである。

5)同時平行で、労働組合としての団体交渉申し入れ

 そして労働組合としての団体交渉申し入れを、要求を明確にして直接の雇用主である請負元=派遣元におこなう。同時に、直接雇用を要求するなら請負先=派遣先企業にも、その責任を明確にして団体交渉申し入れをおこなう必要がある。

 しかし請負先=派遣先企業は、団体交渉を拒否してくる可能性がきわめて高い。こういうなかで、実質的協議の場をどうつくるかが大きな問題になる。基本は、運動と世論の力である。問題点を明らかにして社会的にも訴える行動、地方マスコミなどに訴えて世論を喚起するなどの運動が大切になる。また、地方自治体は「青年の安定した雇用、正社員化」を求めている。そういう政策をもっている自治体も少なくない。そういうなかで、地方自治体も活用して、協議の場をつくらせる努力をさせる。労働局にも、協議の場をつくらせることを求める。

6)協議の場での工夫

 請負先=派遣先企業との協議ができた場合は、さまざまな局面が考えられるが、労働条件の向上は当然だが、より「直接雇用」を重視することが重要である。そして「契約社員」=有期雇用で終わらせず、正社員(期間の定めのない雇用)への道をつくらせることが大切である。そうしないと、「有期雇用」で雇い止めをされる危険が生まれる。「正社員」の条件は、「中途採用」基準を土台に協議することになろう。

 さらに大事なのは、労働組合活動を理由に不利益取扱いをしないという確認をさせ、恣意的な選別をさせない条件をかちとるようにすることが必要である。

7、財界のまきかえしを許さない

 「偽装請負」の仲間たちのたたかいが次々に起こり、日本経団連の会長企業であるキヤノンでも「偽装請負」が発覚した。その事態のなかで、キヤノン会長でもある日本経団連の御手洗会長は、昨年10月13日の「経済財政諮問会議」で「請負法制に無理があり過ぎる。派遣社員を3年たったら正社員にしろと硬直的にすると、たちまち日本のコストは硬直的になってしまう。派遣法を見直してもらいたい。」と発言し、労働者派遣法の改悪を要求した。

 私たちのたたかいが前進すると、必ず逆流があらわれる。「最低賃金の方が、生活保護より低い」と告発すれば、生活保護費が高過ぎると攻撃を強め、母子加算などが廃止された。「残業代不払い」「ただ働き」をやめさす運動が高揚したら、「残業代ゼロ法」(今国会提出は見送ったが、財界と厚生労働省は激しいまきかえしを始めた)をつくろうとする。そして「偽装請負」=「違法派遣」が社会問題になり、後退を余儀なくされると、「直接雇用申し入れ義務」をなくせ、派遣期間の制限緩和などを要求してくるのである。

 しかし派遣労働に関しては、いま渦中の柳沢厚生労働大臣は、ことし2月16日の衆議院予算委員会で、御手洗発言を「労働者派遣法で制限を設けたのは(派遣労働の)固定化がいいことではないからで、法の趣旨に反する発言だ」と批判した。また「偽装請負」に関して「請負の発注者が(派遣労働者を)実質的に指揮、命令するのは明らかに労働者派遣法違反だ」と述べている。たたかいと世論が、この行方を決めることになることは明らかである。

まとめ

 たたかいは人を鍛える。直接雇用が実現しそうになったとき、光洋シーリングテクノの「偽装請負」の仲間たちは、こんなことを討論した。ひとつは、「全員が現時点で直接雇用になるわけではない。それでいいのか」などの点である。討論の結果、「ここで直接雇用の第一歩を実現して、自信をもって最後の一人まで直接雇用にするようがんばろう」ということになった。私は涙が出た。たたかうと、こんなにすばらしい団結が生まれるんだ、と。また、ある仲間はこう言った。「俺たち(偽装請負労働者)と会社(光洋シーリングテクノ)には橋がなかった。このたたかいは、橋をかける礎(いしずえ)をつくったんだね」と。私は、本当にいいことを言うと思った。そして「このたたかいは『橋のない川』に橋をかけるたたかいだなんだね」と応じた。たたかいは、労働者を育てるものだということを、これほど実感したことはない。

 ここで述べた以外にも、まだまだ言わなければならないことがある。正社員組合との共同のたたかいをどうすすめるかなどである。これらは、ここでは割愛する。関心のある方には、別に機会をもうけたい。

 「格差社会」と「少子化」の根源は、非正規労働者の激増、とりわけ派遣・請負労働者の増大が重要な要因となっている。「まじめに働いても生活苦から逃れることができない」=「ワーキングプア」といわれる現状をこのままにしておいていいのか、日本社会が問われている。

 これ以上の労働法制改悪を許さないたたかいと結んで、「偽装請負」をふくむ「派遣・請負」労働者の生活と労働の実態を告発して、「コンプライアンス(法令遵守)」や「企業の社会的責任」という、資本にとっても否定できない企業行動基準を求めることが大切である。いま、社会的に支持を広げる要求をかかげてたたかえば、要求実現をかちとる大きなチャンスが生まれているのではないか。労働法制改悪阻止と「派遣・請負労働者」の要求実現、組織化の前進に向けて、ともに奮闘したいと思う。

(小論は、2006年12月20日、労働総研中小企業問題研究部会公開研究会での報告に加筆したものである)

(いくま しげみ・会員・JMIU中央執行委員長)

多変量解析による
「労働組合の活動実態と課題と展望」調査報告書(その1)
〜「理想的な仕事」の巻〜

村上 英吾

 2006年7月、労働総研・全労連が共同で実施した「労働組合の活動実態と課題と展望」調査の最終報告(以下、「報告書」という)を公表しました。報告書では、労働組合の活動実態や組合員・未組織労働者の意識に関して、詳しい分析がなされています。このなかには、労働組合と労働者の現状を把握し、今後の労働組合運動を活性化させるための手がかりが数多く含まれていると思います。とはいえ、厚さ1.5cm もの報告書を読みこなすのには、相当の時間と気力が必要です。そこで、報告書のいくつかの論点について、必要に応じて再集計をおこないながら論点を絞って読み込んでいこうというのがこのレポートの目的です。

 ここでは、コレスポンデンス分析という多変量解析手法を用いて分析をおこないます。これは、回答者(集団)ごとの回答パターンの類似性を数量化し、距離(ベクトル値)に変換する手法です。

 分析結果をグラフ化することで、回答パターンの似ている者(集団)を近くに、似ていない者を遠くに描くことができます。さらに、回答者(集団)がどのような回答をより多く選択したかという対応関係(correspondence)もあわせて分析します。

 これによって、どの回答者(集団)が相対的にどのような回答特性を持っているかが分かります。

 今回は、コレスポンデンス分析とはどのような分析手法なのかを理解するために、問13 の「理想的な仕事とはどのようなものか」という設問に対する回答について、性別・年代別のパターンを分析してみたいと思います。

 図1は、「理想的な仕事」に関する回答を、組合員および未組織労働者をあわせた調査対象者全体とそのうち男性20 歳代について集計した結果を図示したものです。質問では理想的な仕事の第1位と第2位を聞いていますが、順位は問わず2つまで回答したものとして集計しています。

グラフ

 全体の回答パターンをみると、最も多かったのが「仲間と楽しく働ける」、次に「健康を損なう心配のない」、「失業の心配のない」、「専門知識や特技が生かせる」などと続きます。他方、男性20 歳代の場合は、全体的な傾向はほぼ同じですが、「高い収入が得られる」や「責任者として、さい配をふるえる」が比較的多く、「健康を損なう心配のない」や「専門知識や特技が生かせる」が比較的少なくなっています。

 このような回答パターンの分析は、コレスポンデンス分析を使うことで、複数の集団について同時におこなうことができます。分析結果を図2に示しました。

グラフ

 図の○印は、回答集団の相対的な位置関係を示しています。この図から、点線で囲ったように、回答パターンの類似した4 つのグループに分かれることがわかります。

 各グループの近くにプロットされている×印は、そのグループが比較的多く回答している選択肢です。たとえば、男性20 歳代の近くに「高い収入」がありますが、これは図1で確認したとおりです。これに対して女性20歳代は「仲間と楽しく」が近いので、他の年代以上に職場での人間関係を重視していることがわかります。男性30〜50歳代は「世のためになる」や「働く時間が短い」が多く、女性30〜50歳代は「健康を損なう心配のない」や「失業の心配のない」、「知識・技能が生かせる」を重視していることが分かります。

 こうしてみてみると、それぞれのグループは、現在の仕事では手に入れていない特性を「理想的な仕事」の条件としてより多く回答していることがうかがえます。

(むらかみ えいご・理事・日本大学)

第3回常任理事会報告

 労働運動総合研究所2006年度第3回常任理事会は、2007年1月27日(土)午後1時30分から5時まで、労働総研事務局で、大木一訓代表理事を議長に開催された。

 冒頭研究会で、平井浩一会員から、「労働国会」といわれる今国会と国政をめぐる政治情勢の特徴について、報告があり、討論された。討議の結果、労働総研の出番の情勢であることが確認された。

I 報告事項

 藤吉信博事務局次長より、(1)3代表理事と事務局長名による年頭挨拶を『労働総研ニュース』07年1月号に掲載したこと、(2)牧野富夫代表理事と萬井隆令常任理事名による「労政審労働条件分科会報告批判」の発表(『労働総研ニュース』06年12月号掲載)について、(3)ナショナル・ミニマムプロジェクトの報告書(『労働総研クォータリー』06年春・夏季合併号掲載)について、(4)研究員へ具体的に研究を依頼していることについて、(5)労働組合トップフォーラムの開催について、(6)法人化の検討を東京法律事務所と協議していることについて、(7)新事務所への移転について、などが報告され、討議の結果、承認された。

II 討議事項

 (1)入会申請について、藤吉事務局次長より提案され、討論の結果、承認された。(2)新事務所のお披露目について、大須眞冶事務局長より提案され、討議の結果、5月に開催することで調整することが確認された。(3)事務局長より、プロジェクト・研究部会代表者会議について提案があり、討議の結果、3月31日午前10時〜午後1時、全労連会館3階会議室で開催することが確認された。(4)事務局長より、研究交流集会について提案があり、討議の結果、プロジェクト・研究部会代表者会議の終了後、「ナショナル・ミニマム大綱」をめぐってのシンポジウムを、午後2時〜5時、開催することが確認された。(5)事務局次長より、研究所の法人化問題について、提案があり、討議の結果、2007年度定例総会までに結論を得る方向で具体化することが確認された。(6)事務局次長より、故神尾京子会員の財産遺贈問題と著作集発行などについて提案があり、討議の結果、編集委員会を設け、編集を委嘱することが確認された。(7)事務局長より、アニュアルリポートについて提案があり、討議の結果、プロジェクト・研究部会代表者会議に提出することが確認された。(8)事務局次長より、『世界の労働者のたたかい』は13集から学習の友社より発刊したいとの提案があり、討論の結果、了承された。(9)事務局次長より、財団法人全労連会館との連携の強化についての提案があり、討論の結果、連携強化の方向が確認された。(10)事務局長より、ホワイトカラー・エグゼンプション米国調査団についての提案があり、討論の結果、実施することが確認された。(11)事務局次長より、2007年度定例総会までの日程が提案され、討論の結果、以下の日程を確認した。

(1) 3月31日 代表者会議
(2) 3月31日 研究交流集会(ナショナル・ミニマム大綱をめぐって)
(3) 4月14日 第4回常任理事会
(4) 5月18日 企画委員会
(5) 6月2日 第5回常任理事会、第1回理事会
(6) 6月16日 企画委員会
(7) 6月23日 第6回常任理事会
(8) 7月3日 総会方針入稿
(9) 7月10日 総会方針発送
(10) 7月28日 第6回常任理事会、第2回理事会、定例総会

12−1月の事務局日誌

12月1日 事務局会議
2日 第2回常任理事会
14日 堀口士郎さんへの感謝と激励の夕べ(熊谷)
20日 第3回企画委員会
1月12日 全労連旗開き(大須・藤吉)
13日 通信労組旗開き(熊谷)
埼労連旗開き(大須)
14日 東京靴工組合旗開き(大須・藤吉)
19日 第4回企画委員会
25日 事務所移転
27日 第3回常任理事会
30日 自交総連第29回中央委員会へメッセージ

                

12−1月の研究活動

12月11日 賃金最賃問題研究部会―「職場ルポ成果主義を追って」の内容について
18日 労働運動史研究部会―ヒアリング
20日 中小企業問題研究部会(公開)―「派遣・請負労働者の雇用と権利の前進を―偽装請負とのたたかい」報告
女性労働研究部会―90年代後半以降の労組婦人部、組織と活動の新たな動向について
21日 国際労働研究部会―世界の労働者のたたかい2007について
1月15日 賃金最賃問題研究部会(公開)―私立大学における成果主義導入とその撤回の事例
23日 女性労働研究部会―部会の今後の活動について他
31日 労働組合トップフォーラム―内外の政治経済情勢の特徴と労働者・国民生活
社会保障研究部会―失業とは何か〜大牟田市・失業者の面接調査〜

労働総研研究交流集会ご案内

日時: 3月31日(土)午後2時〜5時
場所: 全労連会館3階306会議室
テーマ: 「ナショナル・ミニマム問題の理論・政策に関わる整理・検討プロジェクト」報告書について
司会: 大須眞治(事務局長・中央大学教授)
報告: 浜岡政好(プロジェクト責任者・常任理事・佛教大学教授)
コメンテーター: 小越洋之助(常任理事・國學院大学教授)
川口和子(理事・女性労働問題研究者)
唐鎌直義(常任理事・専修大学教授)
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