労働総研ニュースNo.198号 2006年9月



目   次

・労働総研研究例会
 ドイツ労働運動の現状と危機克服の展望




労働総研研究例会

2006年9月13日・平和と労働センター・全労連会館

主催者挨拶

大木一訓代表理事

 これから労働運動総合研究所の研究例会を開催します。日大の平澤さんが留学されていたマールブルグ大学のフランク・デッペ教授を日本に招かれ、デッペさんは、すでにいくつかの学会や研究会で報告されておられます。きょうは、そうした機会を利用させていただいて、当研究所の国際労働研究部会と中小企業問題研究部会の合同研究会を研究例会とさせていただきました。

 あとで平澤さんからご紹介があると思いますが、デッペさんは、労使関係の実態とか労働運動、労働運動史の研究の第一人者です。国際労働部会の島崎晴哉先生が、デッペ教授の編著になる著名な大作である『ドイツ労働組合運動史』(“GESCHICHTE DER DEUTSCHEN GEWERKSCHAFTSBEWEGUNG”)を持参くださいました。会場の入り口のところにおいてありますので、興味のある方はごらんください。

 そういう方が講師になって現下のドイツ労働運動の問題点、克服すべき課題、展望についてお話いただけるのは、私たちにとって願ってもない機会だと思います。お話をお聞きしますとドイツ労働運動は非常に大変な事態におちいっており、それを克服すべき課題は大きいけれども、展望もあるということです。日本の労働運動にも共通の問題をかかえているようで、デッペさんのお話を大いに期待をしています。

 デッペさんのところに労働総研の英文ジャーナルを送っていますが、これまで非常によい内容で役に立っているとおっしゃっていただいています。きょうは非常に短い時間ですが、よろしくお願いいたします。

デッペ氏の略歴紹介

平澤克彦(中小企業問題研究部会メンバー)

 デッペ先生の簡単な紹介をさせていただきます。先生は1941年生まれです。あと4週間で定年を迎えられます。現在、マールブルグ大学の政治学部教授で、もともと産業社会学を研究されていました。私がデッペ先生の著作を知ったのは『共同決定批判』です。この本は、1969年の学生運動の時代に書かれました。

 先生は、最初は産業社会学を専攻され、その後社会学が分化したために、政治学に移られたそうです。72年からマールブルグ大学の政治学部教授をされています。主な業績は『労働運動の将来』、『労働者意識』で、現在『政治思想』という本を書かれております。編著書としてはドイツ労働運動史ではスタンダードといわれている『ドイツ労働組合運動の歴史』『共同決定批判』、『1992年プロジェクト・ヨーロッパ』『転換期の労働組合』、後ほど説明があると思いますが、『転換期の労働組合』『統一組合』、それから資料集として『ファシズム下の労働組合』などをだされています。またマルクス主義研究所の研究員として、『闘争課題としての共同決定』や『新しい労働者階級』にも参加されております。

 以上で簡単な紹介とさせていただきます。

 ではデッペ先生から講演をいただきます。

ドイツ労働運動の現状と危機克服の展望

フランク・デッペ(Frank Deppe)

自己紹介

 労働総研のみなさん。

 みなさんとお会いできたことを非常に光栄に思います。

 とりあえず自己紹介をいたします。特に私と労働組合とのかかわりについて話します。私は40年労働組合に携わってきました。

 私の先生はアーベントロート先生です。1950年代、60年代に西ドイツではマルキストとして知られる先生で、ドイツ労働運動史研究に従事されていました。そのため私も労働組合の歴史、労働運動にかかわるようになりました。本年、アーベントロート先生の生誕100年ということでシンポジウムが開かれています。

 私は『社会主義』という雑誌の編集に携わっています。そこで「フォーラム労働組合」という雑誌の特集を、研究者や労働組合の関係の方といっしょに企画しております。私は共産党のメンバーではありませんが、密接な関係をもっていて、マルクス主義研究所の研究員もしています。

ドイツ労働組合の現状

 これからドイツの労働組合の現状と問題点について話します。最初に労働組合の基本的な状況について話します。ドイツの労働組合も日本と同じように長い歴史をもっています。現在の労働組合の構造は、第2次世界大戦後のドイツ労働組合結成の結果です。労働組合の原理としては、二つの点を指摘できます。一つは統一組合という原理です。もう一つは産業別組合という原理です。

 あまり日本ではなじみがないと思いますが、統一組合(政党からの独立のこと―編集部注)の基本的な考え方は、共産党、社会民主党、キリスト教民主同盟などが合同でつくるというのが基本的です。産業別組合の原理とは、職業別組合の原理を克服して、1経営、1企業の原則にもとづく組合です。統一組合は、労働組合からキリスト教民主同盟があまりいなくなったために、現在は社会民主党が中心となっています。

 ドイツの組合も大きな変化がありました。設立当初は16の産別組合で加盟していました。DGBはもともとの原則からいうと上部組織の組合で、組合員はいません。組合員は産業別の組合に加盟し、産別がDGBに入る形態です。近年、労働組合の合併がすすみ、当初16あった組合が8つの労働組合になりました。

 なかでも2つが特に大きな労働組合です。1つが金属産業労働組合、IGメタルです。そこに最近、木材加工と繊維の組合が加わりました。もう一つの組合がVerdiです。これは、イタリアの作曲家にちなんだものではなく、サービス産業労働組合の短縮形です。この組合は、統一サービス産業労組で、サービス・公務などの5つの組合から誕生しました。この2つの組合にそれぞれ約240万人の組合員がいます。そこにつづくのが化学産業の労働組合で80万人の組合員がいます。そのほかに鉄道や航空、警官の労働組合があります。全体として860万人の労働組合員がいます。

 1985年から1990年くらいまでは800万人の労働組合員がいました。その後2年間で400万人の増加がみられました。もちろん90年から91年は東西ドイツの統一があり、その影響で組合員が増大しましたが、その後400万人が減ってしまいました。その主要な理由は産業空洞化ということにあります。組織率は、1997年の34.4%から2003年には24.7%まで落ちました。労働組合員の減少はドイツ労働組合の危機の原因になっています。

労働協約・経営評議会・共同決定

 ドイツの労使関係についてお話します。デュアル・システムは、経営レベルでの労働法の規定、すなわち、経営体制法と共同決定法から構成されています。経営体制法というのは、従業員代表による経営評議会を規定します。他方では、共同決定法が大企業の監査役への労働者参加を規定しています。

 法律によると、経営評議会というのは労働組合の組織ではありません。経営評議会は従業員によって組織され、組合員のメンバーとしてではなくて、従業員全体として選出されます。産業によって違いますが、金属産業では、経営評議会の約80%以上が金属産業労働組合のメンバーです。

 ドイツでは経営評議会を労働組合の組織にするか、しないかということで大変な議論がありました。1918年の11月革命のときにレーテ運動というのが勃興したときに、労働組合が自分のコントロール下に経営評議会をおくことを目指していました。大規模な工場やサービス産業では経営評議会は非常に力をもっています。労働組合も経営評議会の運営に非常に関心をもっています。いま、ドイツの労働組合では経営評議会は非常に重要な問題になっています。

 いま、労働協約交渉の経営内化、経営の方向に向かうということがいわれています。別の言葉で言うと労資協調主義的になるということです。組合の機能の一つとしては団体交渉、労働協約があります。ドイツではそれは産業別レベル、地域レベルでおこなわれます。その労働協約が経営内化されれば、賃金や労働条件の社会的な規制が十分機能しなくなります。

労働組合の危機

 つぎに、労働組合の危機についてお話します。

 ここ20年から25年でだいたいいずれの先進国でも労働組合は危機におちいっています。組合員が減ってきたということは、当然組合の財政が減少し、ストライキする能力も減少していきました。この危機というのはドイツの組合だけでなく、ヨーロッパでは、イギリスやフランスなどの組合でもつよくあらわれています。

 危機の3つの面についてお話します。ここ20年から25年の間の特徴としては、権力的な構造転換がつくりだされてきました。第一に、世界政治の変化があります。つまりソ連崩壊や社会主義国の変化ということです。経済的な変化をとりあげてみますと、工業社会からサービス社会への変化があります。労働組合の影響力の強い工業部門では、従業員数が減っていったのですが、従業員数の増えているIT分野やサービス産業では労働組合は非常に弱いのです。

 労働者に対する資本家のもっとも強固な武器というのは大量失業を生み出すことです。大量失業が発生することは、労働者の団結を破壊して、労働者の職場での団結という意識を欠落させるのです。失業の圧力のもとで、強い労働貴族的な地位が崩壊していくということです。

 もうひとつの資本側の武器は、資本の国際移動です。ここ20年の間、顕著になってきたグローバル化は、資本主義発展の新しい段階であって、実際、資本の国際的な展開が行われているということです。そこででてくる問題は、日本でも同じだと思いますが、資本は国際的に移動しますが、それに対して労働組合がどうたたかうかということです。EUレベルでも、資本のグローバル化に対して、労働者の対抗がかなりすすんでいるのですが、まだやはり弱いということです。

 もう一つの変化は、労働者階級の社会的な変化という問題です。マルクス主義では、労働者階級とは現在何なのかという問題です。生産的な労働者だけでなく、知識生産をする労働者も労働者階級としてみなせるかという問題です。

 簡単に要約しますとつぎのようになります。工業労働者は政治的に、労働者階級の中心になるかという問題です。労働者階級の新しい構成変化で、中心的な工業労働者は縮小してきており、労働組合の先進的・指導的な地位が損なわれてきています。産業構造の新しい展開のもとで、労働者階級の新しい階層、下位階層というのがでてきました。下位階層というのはプレカリテート(Prekarität・不安定性)といって、辞書にはでていないのですが、非典型雇用といった意味です。

 もう一つの下位の階層が、古い民族主義の勃興とむすびつくものです。下位階層を安い賃金で使うことが、主要な階層をつぶしていくことになります。たとえば、ベルリンです。ベルリンはドイツの新しい首都ですが、新しい建築物がどんどんできています。しかし、ベルリンの建築労働者の失業率は平均してかなり高いのです。そこで働いているのが、東ヨーロッパからやってきたやみ就労の労働者です。そうしたやみ就労の移民労働者から、自分たちの雇用を守るため、建築業の労働組合がベルリンでデモをおこないます。しかし、デモをしている人たちがやみ就労の労働者を現場から追いだすことはできません。労働者の団結は非常に困難をともないます。

ネオ・リベラリズムのヘゲモニー

 労働組合の2番目の危機は、ネオ・リベラルなヘゲモニーということです。それは市場指向、利益指向ということです。経済だけでなく人間もそういう指向性をもっているということです。新聞などでは規制緩和とか民営化ということがさかんにいわれていますが、労働組合に対しても激しい攻撃が加えられるのです。

 日本でもいわれていると思いますが、とくに若い世代には消費資本主義への指向性があります。若い世代は、組合運動への関心はうすいといわれています。そのさい、メディアの役割などが基本的にあるわけですが、労働者と資本との力関係というものが、そういうところに反映しているのです。

 労働組合そのものの危機という問題があります。そこで問題となるのは、組合の官僚制ということです。この問題について、過去20年の間に、労働組合と研究者との間で議論がおこなわれてきました。

 これから、労働組合の危機というものの責任が、どこにあるのかということをお話します。労働組合の組織そのものがお互いに閉鎖的だということです。

 さきほど、サービス産業は5つの労働組合がいっしょになってVerdiになったということをお話しました。ひとつは、公務・公共サービス部門の労働組合で、そのなかにはストライキなどをやる戦闘的な清掃労働者が組織されていました。2番目に大きかったのが商業・銀行・保険の組合です。想像してほしいのですが、一方には、清掃労働者、ブルーカラーがいて、もう一方に銀行のいわゆるホワイトカラーがいて、ストライキを統一して実施するわけです。

 3つ目には郵便労働者の組合を統合しました。郵政の民営化で3分割されて、一つは本来の郵便事業、それからドイツテレコムという通信会社、そしてポストバンクの組合です。さらに、小さい労働組合として、新聞印刷労働者の組合員があります。組合員は15万人です。70年代には、ストライキもしていまして、多くの共産党員も存在します。ドイツでは一番良い労働組合は小さいのです。日本ではそうではないようですが、労働組合は大きいだけでは生きてはいけないのです。

 現在、メディア関連部門は9つの労働協約締結を要求して、それがとおらなければストライキをするといったら、経営者の方は、やるならやってみろといっています。ドイツでストライキをする場合、労働組合は組合員に対して、ストライキの期間の賃金を負担します。資本家は、労働組合はどんどんストライキをやれば破産するだろうといっています。

 それから、ホワイトカラー労働組合、DAG(ドイツ職員組合)が40〜50万の組合員ですが、DGBとは別に、1949年、第2次世界大戦後に西ドイツにできた労働組合として、ホワイトカラーという職能で組織されており、DGB(労働総同盟)とは敵対的な関係を続けてきました。ところが、このホワイトカラー労働組合も自分たちだけでは生き残れないということで、Verdi合同に加わりました。

 やや結論的に申しますと、労働組合が統合されているということは、労働組合の強さというよりは、むしろ弱さの現われといえます。

 いま、ドイツの労働組合で大きな議論になっているのが、戦略上の方法論についてです。非常に図式的に単純化して申しますと、ドイツの労働組合には2つの潮流があります。ひとつは労働組合と経営者は、ソーシャル・パートナーとして、社会的に労使が協調していくという潮流です。もうひとつは、階級としての労働者の利益を代表していくという潮流です。

 ソーシャル・パートナーの立場の方は、社会民主党と密接な関係にあります。ところが、社会民主党員である労働組合の役員たちのなかにも、労使協調に対して批判的な人たちがいまして、それは社会民主党そのものに対する批判にもなります。

新しいコーポラティズム

 ここで話題を変えまして、日本語にもなっていますが、コーポラティズムの競争的な側面についてお話します。古いコーポラティズムは労・資・政の3者の協力ととらえられています。たとえば、国家独占資本主義です。

 新しい競争的コーポラティズムは、国家レベルではなくて、企業レベルでのコーポラティズムであります。新しい競争的コーポラティズムは、企業のレベルにおいて、日本のみなさんはご存知だと思いますが、ドイツにおいては、労働組合と従業員の代表組織の別の次元で組織されているにもかかわらず、労働組合自体が、事業の経営レベルにコミットすることで、日本でいえば企業単位なり事業所単位の協力関係をつよめているのです。

 ドイツでは、「競争上の地位(競争能力ある立場)」という考え方が、国際競争に生き残るというイデオロギーとして、職場や企業のレベルでも浸透してきています。ですから労働組合が従業員代表に対して影響を与えても、実際には企業の競争力を高めるために、企業の要請に譲歩したり、受け入れたりすることになります。

 たとえば、リーン・プロダクション・マネージメントというような「合理化」を、労働組合は受け入れざるをえないということです。この競争的コーポラティズムの目指すところは、共同決定制度や従業員代表制度を維持するためには、企業レベルでのコーポラティブが必要だということになるのです。

 現在のドイツの政権は、社会民主党とキリスト教民主同盟/社会同盟の大連立内閣です。共同決定制度については、企業側からはそんなものはいらないという圧力があるわけですが、現在大連立内閣ですから政府自身には共同決定制度を崩していくという準備はできていません。

 ところが、労働組合の批判的・左派的な勢力によれば、こうした新しいコーポラティズム的に共同決定制度をもっていくのは間違いであり、正しい方向ではないということです。左派的な労働組合が主張しているのは、労働組合は抵抗勢力として、新自由主義的な政策に反対しなくてはならないということです。

 この8月にVerdiが、バーデンビュルテンベルク州で、6週間のストライキをおこないました。そういう意味で、この夏は非常に厳しい状況がうまれました。バーデンビュルテンベルク州にはたくさんの公務労働者がいますが、使用者側(州政府)は週の労働時間を38.5時間から41時間に延長しようとしました。それに対して労働組合はストライキにたちあがったのです。

 Verdiのような公共サービスの労働組合がストライキをすると、ゴミの回収がとまったり、子どもの教育や福祉サービスとかいろいろな影響があるわけです。Verdiは、6週間もストをやったのですが、結果としては、39時間への若干の延長になりましたが、これだけの長期ストという大きな犠牲をともないながら、この程度の成果しかあがらず、結局労働時間の延長に応じざるをえなかったのです。

 ドイツの労働運動は、ヨーロッパ連合(EU)の運動とも共通していますが、ここ数年の間、労働組合の抵抗運動の力を強めてきています。たとえば、解雇だとか、賃金カットだとか、社会保障・福祉サービスの切捨てに対する抵抗の力が強まっています。ヨーロッパ全体でみれば、過去10年間でストライキ件数は増加してきています。

 70年代以降、いくつかの国で、労働組合の規模は縮小しましたが、今再び労働組合員数は増加しています。たとえばイギリスです。トニー・ブレア首相に対する批判、抵抗という形で労働組合が力をつけてきています。民営化に抗して、また妥協なき賃上げ要求という形で、労働組合が力をつけてきています。イタリアの労働組合の場合は、ベルルスコーニ首相を退陣に追い込むほどの力をつけています。そのなかで、新しい労働組合を確立しています。スカンジナビア3国の労働組合が非常に強くなっています。ドイツにおいても、たとえば、IGメタル、金属産業労組は今年3%の賃上げに成功し、その過程で労働組合員の拡大を実現しています。

危機克服の展望

 ドイツにとって非常に重要な一つの問題について、最後にのべたいと思います。最初に、統一労働組合のことをのべましたが、DGB(ドイツ労働総同盟)つまりナショナル・センターは過去数十年にわたって、実際上、役員の80〜90%は社会民主党員によって占められてきました。

 ところが最近、社会民主党と労働組合の間の関係はもっとも深刻な危機的状況におちいっています。昨年9月の政権交代までは、赤緑連合の社会民主党・緑の党による連立内閣のシュレーダー政権でした。まさに、この社会民主党政府によっておこなわれた社会政策・社会保障の見直し(改悪―編集部注)に対して、労働組合が批判、抵抗の運動をしたのです。過去7年の間に、社会民主党を離れた人は20万人におよんでいます。その20万人のなかには、非常に積極的な労働組合役員、活動家が相当数含まれています。

 昨年9月に総選挙がありましたが、そこで左翼党(Links-partei・リンクスパルタイ)とWASG(労働と社会的公正のための選挙対案)の統一候補によって8%の得票を全国で獲得しました。私も、リンクスパルタイに関連しています。連邦議会(日本では衆議院にあたる)では56人の議員が生まれました。

 左翼党は、旧東ドイツの政権政党であったSED(社会主義統一党)の後継政党であったPDS(民主社会主義党)で、すでに以前から東では20%以上の得票率がありました。もうひとつが、旧西ドイツ地域の金属産業労働組合の活動家などを中心とした「労働と社会的公正のための選挙対案」グループのWASGです。

 IGメタル議長のペータースさんは、あきらかに社会民主党員ですが、マスコミ・ジャーナリストによれば左翼党のシンパではないかといわれています。PDSの元議長のギージーさんが左翼党の代表、そして元社会民主党党首だったオスカー・ラフォンテーヌさん(西ドイツ地区のWASGの代表)との協力、つまり有名な西と東の代表が協力したことが効果があったのではないかと思います。たしかに、PDSは東ではもともと20%以上の得票をえていましたが、西では1%くらいですから、それで選挙をやりますと、全国選挙では5%条項に届かず議席をとれなかったかもしれません。そういう意味で、PDSとWASGがいっしょに選挙をたたかったことが、8%の得票率につながったのだと思います。

 まとめていいますと、スペインやフランスでは歴史的に人民戦線のような左翼の統一がありましたが、ドイツにおいては昨年左翼党が結成されたことは積極的なあらわれであると認識しています。ただまだ左翼党の発展過程は終わったわけではなく、非常に複雑な問題をかかえています。まさにいまそのプロセス、過程にあると思います。

 ご清聴ありがとうございました。(拍手)


質疑・討論

 司会 せっかくの機会ですので、質疑、討論をお願いします。

 デッペ 大いに歓迎します。

 島崎晴哉(理事、国際労働研究部会メンバー) IGメタルが今年3%の賃上げに成功したという話がありました。このパーセントであらわされた成果は、従業員、組合員にどのように配分されるのでしょうか。

 デッペ 所得の3%が引き上げられるということです。この3%は組合員にのみ適用されます。地区レベルの協約でしたら、その地区全体に3%はいきわたります。労働組合員に適用される3%の賃上げは、法的効力をもちますので、そういう意味では産業、地域の当該労働者のすべてに適用されることになります。

 島崎 私の質問の仕方が悪かったようですが、3%が全部の労働者に一律に適用されるのかどうかを知りたいのですが。

 デッペ もちろん議論としては、3%を賃金の低い人には厚くしたらどうか、という議論はありますが、いろいろな賃金等級の組合員を均一に上げるということです。

 島崎 1,000ユーロの3%と、2,000ユーロの3%では、格差がだんだんひろがってくのでは、ということが気になります。

 デッペ 3%は協約上は一律引き上げですが、今の例ですと、プラス固定の定額部分の引き上げがあって、これは従業員代表制によって配分を保障するという2階建てになっています。

 斎藤隆夫(常任理事、国際労働研究部会責任者) 昨年、労働総研の調査研究チームが、ドイツで、ダイムラークライスラー社の従業員代表の方からお話をうかがいました。そのときの話と今日の話を比較しますと、労働組合と経営評議会の姿勢のずれがかなり大きいという印象をうけています。昨年の話では、双方の差があまりない、うまくいっている、という印象がつよかったのですが、今日の話ではかなり姿勢のずれが大きいように思います。お話では、経営評議会メンバーの約80%は労働組合員でもあるという説明がありましたから、それでなおかつずれが大きくなっているというのは、どう理解したらよいのでしょうか。

 デッペ 昨年の何月に訪問されたかは知りませんが、現在の社会民主党は与党ではありますが、いってみればイギリスのトニー・ブレアの第3の道的な位置にあることが、ひとつの原因になっているのではないかと思います。社会民主党は資本の方向を指向した政策を追求しています。その中心問題は、ドイツの福祉国家をどう再構築をしていくかというところにあるのです。

 ダイムラークライスラーの従業員代表制度はIGメタルの中では最強の組織です。ダイムラークライスラーの従業員代表議長は、ダイムラークライスラーのあるバーデンビュンテンベルク州の州都シュトゥットガルト出身です。IGメタルの副議長(第二委員長とも呼ばれる)もダイムラークライスラーのあるシュトゥットガルト出身です。しかし今度のIGメタルの議長は北ドイツのハノーバー出身です。彼はフォルクスワーゲン出身です。すでに引退したツヴィッケルというシュトゥットガルト出身の議長は、ハノーバー出身のユルゲン・ペータースさんの議長就任に反対しました。IGメタル副議長のフーバーさんもシュトゥットガルト出身です。このようにかけひきをあやつっているのは、ダイムラークライスラーの人たちです。ベンツ以来、ダイムラークライスラーの従業員代表組織は、IGメタルのなかで重きをおいてきたのです。

 斎藤 私が聞きたかったのは、組合と経営評議会の立場のずれの原因であって、路線の問題ではないのですが。

 デッペ 現時点では従業員代表のトップの間でも意見が分かれています。ペータースさんはハノーバー出身ですが、従業員代表のほうはペータースさんを推薦し、フーバーさんに反対しました。このようにトップのあいだで意見の違いがでています。この違いは、従業員代表のトップは労働組合が政策的、政治的にはっきりとした態度をとってほしいと思っているのです。経営評議会員、従業員代表は経営内の組織ですから、そうした意見をはっきりと表明できないということのあらわれなのではないか。そこに違いがあるということを申しあげたいのです。

 過去20年来、ダイムラークライスラーの従業員代表、経営評議会員には左翼の反対派がいます。この少数の反対派の人たちは、IGメタルから排除されて、役員になれないのです。普通は労働組合が推薦する人が候補者リストに入るのですが、ダイムラークライスラーからは2つの被推薦者のリストがでています。

 生熊茂実(JMIU委員長) 日本とドイツで雇用形態の違い、労働条件もはるかに違うということはわかっているのですが、組織化の問題についておうかがいします。日本のように正社員、非正社員という違いはないのかもしれませんが、先ほどいわれた非典型労働者の組織化はどのようにとりくまれているのか、そのことについてどういうお考えかについお聞きしたいと思います。

 デッペ 日本の“IGメタル”からの質問ですね。この問題は、ドイツとしても未解決の大問題です。IGメタルは自動車とか鉄鋼とか大きい企業を中心とした組合だと思われていますが、中小企業などにおける労働協約問題にもとりくんでいます。たとえば、手工業者との労働協約におきましては、派遣労働者やパートタイム労働者の最低労働条件についての協約などの締結をしています。

 しかし、いま話しましたことは、個々の協約の話でして、重要なのはドイツにおける最低賃金制度の法的な規制です。補足的にいえば、ドイツには法的な最低賃金制度はないのです。この最低賃金制度の必要性は、特に東ヨーロッパからの労働者の流入や、労働市場の東ヨーロッパへの拡張のもとで、強まっています。EUでいま問題になっているのは、建設労働者が出稼ぎにきますが、出身国の労働条件を出稼ぎ先で適用する、出身国の労働条件で働かせても良いという指向があるということです(「サービス自由化指令」─編集部注)。

 そういう東ヨーロッパの労働者を組織化することは大変難しい問題です。たとえば一例として、組合員20万人の飲食、ホテル、サービスの労働組合(NGG)がありますが、マクドナルドで働く労働者の組織化は非常に難しいのです。また、フランクフルト中央駅では、移民労働者など多くの人が働いていますが、そのなかには一人で店を持っているかのような経営をしている者もいますが、実際は従属労働をさせられているのです。そのことを伝えるのは大変です。そういう形で非典型なり非正規労働者の組織化の努力はしていますけれど、大きなウエイトを占めるまでにはまだいたっていません。

 この問題に関して、イタリアの情報については議論がわきおこっています。イタリアの労働組合の例では、非典型、非正規の労働者のための労働組合というものを設立しました。3、4年前から、名目的な自営、見せかけの自営、その他の非正規の労働者たちを組織しています。ドイツではこのようなイタリアの組織化の様子が話題になっていますが、イタリアの、IGメタルにあたる金属産業労働組合の責任者は、そのことを知りませんでした。実際は、イタリアでも難しいところがあるのです。

 2、3年前に台湾で行われた環太平洋の労働組合の国際会議に出たときのことです。韓国の病院関係の労働組合の代表の話です。韓国の労働組合は2つの問題をもっています。第1の問題は事業所単位の労働組合の問題です。労働組合全体の問題として、全体的な、労働者の統一的な政策にする問題解決の難しさです。2番めの大きな問題は、事業所単位労働組合が正規労働者と非正規労働者の橋渡しをどうするかという問題です。まさに、韓国でいわれたこの問題は、ドイツでも同じです。

閉会のあいさつ

斎藤隆夫常任理事

 簡単にまとめのご挨拶をいたします。

 デッペさんには、最新の情報を非常に豊富な事例を紹介されながら体系的にお話くださり、本当にありがとうございました。お話をうかがって、ドイツの労働者・労働組合が、たとえば、産業構造の変化の問題やグローバル化、産業の空洞化の問題、不安定雇用の増大といった、わが国とも非常に共通する課題に直面し、われわれが想像していた以上に厳しいたたかいをしていることを知ることができました。もちろんわが国よりは前進した陣地でたたかっているとは思うのですが、そういう意味では多くの共通した課題に取り組んでいることを知ることができ、非常に有意義であったと思います。

 デッペさんは、左翼党の潮流にご協力されて、ドイツの新しい政治路線、新しい展望を開く、非常に実践的な研究活動をされているということで、今後もいろいろと教えていただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)

 また、きょうの研究例会で、通訳の労を引き受けていただきました、平澤克彦会員、松丸和夫理事(中小企業問題研究部会責任者)に、心から感謝申し上げます。(拍手)

 デッペ 私もみなさんとお話ができて、非常に満足しています。ありがとうございました。(拍手)

労働総研中小企業問題研究部会公開研究会のお知らせ

テーマ: 「第6回中小企業のまち民間サミット」の報告
報告者: 金子 紀興氏(大田区労協事務局員)
日 時: 11月6日(月)午後6時00分〜8時30分
会 場: 全労連会館3階全労連会議室

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