労働総研ニュースNo.188・189・190号 2005年11月・12月・2006年1月



目   次

・今日における「小さな政府」政策と労働運動の課題
・実態調査からみえる労働組合の現在と未来
 −全労連・労働総研「労働組合」調査を読む−




今日における「小さな政府」政策と労働運動の課題

大木 一訓

はじめに

 昨年9月の「小泉劇場」選挙で圧勝し、郵政民営化を強行した小泉政権は、次の主たる「構造改革」の目標を行政改革におき、大々的な公務員攻撃を展開してきている。国民に消費税の大幅引き上げをはじめとする大増税を受け入れさせるうえでも、それは緊急不可欠な政策として位置づけられているのであるが、今日の行革のねらいはそれだけではない。さらに重大なのは、そこでは憲法改正の策動とも連動して、労働者・国民の権利を空洞化させ、政府・自治体の公的責任を放棄し、公的資産を収奪する政策が追求されていることである。「小さな政府」論は、そうした小泉政権の政策を正当化し、受容させる、イデオロギー的推進力となっている。今回の報告では、労働運動の見地から、「小さな政府」とはなにか、その政策の実際のねらいはどこにあるか、その政策にはどんな弱点や矛盾があるか、「小さな政府」政策に立ち向かう労働運動の対抗軸はなにか、について、報告者なりに論点を整理し、みなさんからのご教示を得たいと思う。

1「小さな政府」論のとらえ方をめぐって

(1)曖昧・恣意的な「小さな政府」概念とその国民的視点の欠如
 わが国においては、「小さな政府」の実現は、だれも反対することのできない当然の政策だと見なされていることが多い。しかし、そもそも「小さな政府」とはなにを意味するのかを問い直してみると、その概念や用法が実に曖昧で恣意的なものであることがわかる。
 たとえば2005年版「経済財政白書」は、05年6月の閣議決定「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」にしたがい、その第2章「官から民へ―政府部門の再構築とその課題」の冒頭で「小さな政府とは」という1節をもうけて論じているが、そこではその用語が多義的に用いられていることを認めたうえで、次の三つの定義を示している。(1)は、政府支出の規模から見た「小さな政府」で、具体的には一般政府支出のGNP比で測られるという。(2)は、国民負担の大きさから見た「小さな政府」で、租税・社会保険料負担の国民所得比で測られるものだという。(3)は、公的規制の強さや公的企業が経済に占める大きさから見た「小さな政府」で、公的規制のもとにある産業の付加価値が国の付加価値総額に占める比率(規制ウェイト)で測られるという。ここには、政府や自治体が国民・住民の生活や権利の維持・向上にどれほど貢献しえているか、といった視点からの定義はない。あるのはコストから見た政府の問題であり、あるいは民間企業にとっての制約条件から見た政府規模の問題である。しかも、それぞれの定義が具体的に意味している内容をみると、(1)については、一般政府支出のみで政府規模を考え国際比較もするという無茶をしているし、(2)では、異常に高い公共料金負担や毎年の莫大な国債利払い・累積債務問題等は抜け落ちている。(3)で計算されている「規制ウェイト」などはきわめて曖昧模糊としたもので、大体多国籍企業の都合次第で「規制緩和」と言ってみたり公的資金の注入を強制して金融機関をつぶしてみたりしている政権にとって、「規制ウェイト」など存在しないのではないか。
 興味深いのは、「小さな政府」の実現をアピールするときに政府が使っているのは、もっぱら(1)の定義だということだ。これから増税をしようという時に「国民負担」から見た「小さな政府」では具合が悪いし、国際的に見てもすでに異常なまでの自由化・規制緩和を実現してしまった小泉政権にとっては、(3)の定義もあまり有効ではないからだろう。(この点では、イギリス、アメリカ、オーストラリアなど、「小さな政府」政策をすすめている諸外国の政府が、どんな定義と基準でその政策をすすめているのか、調べてみる必要がある。)

(2)日本はすでに「小さな政府」――見つからない政策根拠
 だが、政権にとっては困ったことに、(1)の定義・根拠で考えたとしても、日本はすでに国際的にはきわめて「小さな政府」になってしまっていることである。「経済財政白書」も、「先進国の中でも日本は比較的『小さな政府』である」とその事実を認めざるをえない。しかも、日本では一般政府支出に占める公共事業の比重が高いうえに、防衛・警察などが支出抑制圏外におかれ聖域化されてきたこともあって、国民生活関連の一般公共サービス、保健、社会保障・社会福祉などの政府支出から見ると、きわめて「小さな政府」である。その点についても、政府は間接的に認めざるをえない。とはいえ、そのことを端的に証明する「人口1,000人当たり公的部門職員数の国際比較」等の資料については掲載を避けているが(『2006年国民春闘白書』61pにはその資料が収録されている)。
 では、なぜ緊急に「小さな政府」なのか。挙げられている理由は、今後の「予想」と「可能性」である。「少子高齢化の進展等によって政府の支出規模および国民負担が今後増大していくことが見込まれており、このままの政策を継続した場合、支出・負担といった面では、今後『大きな』政府に向かうことが予想される。」「政府の規模が大きくなる場合には、経済全体として効率的な資源配分が達成されず、そうでない場合に比べて経済活動に抑制的な影響を及ぼす可能性がある」といった具合である。こんな「理由」が、5%もの公務員数純減を強要し、大規模な地方財政の削減を強行する正当な理由となりうるものであろうか。予想や可能性なら、われわれは人口減にともなう政府支出の減少をも予想しうるし、ヨーロッパに見るような「大きな政府」のもとでの所得の再配分や合理的な経済運営によって、持続的で豊かな経済発展を実現していく可能性を主張することもできるであろう。ともあれ、それらの「理由」は、現実にすすめられつつある緊急かつ過酷な「小さな政府」政策の根拠となりうるものではない。
 そのことは政府も感じているのであろう。結局かれらが持ち出すのは、「官から民へ」「国から地方へ」という「構造改革」のスローガンである。

(3)「小さな政府」の目標は「夜警国家」か
 スローガンはさておき、「小さな政府」政策が現実に目指している政府・自治体とはいったいどんなものなのか。この点については、研究者や活動家の間にも若干混乱があるように思われる。
 たとえば東大の神野直彦氏は、「『小さな政府』論は、政府の機能を暴力の行使つまり強制力の行使に限定する主張である。それは19世紀に目指した『夜警国家』を、つまり防衛と警察などに機能を限定した『いつか来た道』を歩むことだといってよい」と述べている(「日本の目指す『ほどよい政府』への道」)。これは神野氏にかぎらず、ジャーナリズムなどでも広く見られる理解であり、政府もしばしばそうした類の説明をしているが、それはあまりにもナイーブな時代錯誤の理解であり、欺瞞的な説明ではなかろうか。
 今日われわれが生活している21世紀は、グローバリゼーションと情報化の時代であり、国際的な国家独占資本主義の時代であり、世界的には国民本位の社会体制への大きな転換がすすみつつある時代である。21世紀の「公共」は、国内でその領域を拡大する必要に直面しているばかりでなく、グローバリゼーションのもとでの国境を超えた「公共」や、情報化のもとでのバーチャルな「公共」をも包含する形で、質量ともに飛躍的に拡大発展する必要に直面している。「公共」の領域拡大と重要性の高まりは動かしがたい事実であり、どのような国家も今日では「夜警国家」などになりえようがないのである。そのことは、総務庁におかれている「小さな政府」政策にかかわる研究会の議論などにおいても、それなりに自覚されている。したがって「小さな政府」を掲げる諸政府も、実際には経済政策を中心に、人権・人口・保健・エネルギー・IT・環境対策などをふくむ多面的な政策を担っているし、担わざるをえないのである。
 歴史的にみても、「小さな政府」政策は決して「小さな政府」や「夜警国家」をもたらしてはいない。減税による「小さな政府」政策の元祖といわれるレーガン政権は、実際には軍事費の増額によって政府予算を大幅に拡大し、空前の赤字財政を生み出して、社会保障税の増税を行うまでになった。イギリスのサッチャー政権も、公共サービス・社会保障の切り捨てや労働運動の抑圧によって失業と貧困を拡大し、結局は長期の経済不振をまねいて人頭税の実施へと駆り立てられ,失脚している。「小さな政府」政策が国民負担の増大をもたらす「大きな政府」に行き着くことは法則的だと言ってよい。そのことは小泉政権発足いらいの財政赤字急増一つをとってみても明らかであろう。
 今日問題となっているのは、19世紀への逆行ではない。「公共」の重要性が高まるなかでますます浮き彫りになってきた資本主義体制の限界を、逆に「公共」の切り捨てと収奪によっていかに取り繕うことができるか、という問題なのである。

(4)レーガン流「小さな政府」からラムズフェルド流「小さな政府」への「進化」
  上記のことに関連して留意しておかなければならないのは、レーガン時代の「小さな政府」政策と今日の「小さな政府」政策とでは、質的に異なっていることである。レーガン流の「小さな政府」は、主として減税と財政支出によって大企業や富裕層に有利な所得再分配を行う政策を推進したが、今日のそれは、それだけでなく、むしろ「官から民へ」というスローガンに示されるように、「公共」の税収や資産を大企業や富裕層が徹底して収奪する政策に力点を置くようになっている。それをラムズフェルド流と言うのは、今日のイラク戦争に見るように、軍隊や監獄でさえも民営化して利潤生産の場に変えてしまうような行政・軍隊のリストラを、先頭に立って徹底的にすすめたのが現国防長官のラムズフェルドだからである。
 わが国においても、橋本行革の頃の「小さな政府」政策と今日のそれとは内容や力点が異なっている。たとえば、規制改革・民間開放推進会議の提言「官製市場の民間開放による『民主導の経済社会の実現』」(04年8月)を見ても明らかなように、政府は民間開放しうる官業として、税・年金などの徴収・給付から公的施設の管理・運営、登録・登記・証明、統計調査や紙幣等の製造、検査・検定や医薬品等の審査、さらには職業紹介から航空管制にいたるまで、ほとんどすべての公務を挙げている。そして、建築確認の民間丸投げ、「指定管理者制度」の導入、ハローワークでの「市場化テスト」をてことする民営化推進、等々に見るように、すでに公務の利潤生産業務への転換が大々的におしすすめられてきていることは周知の通りである。また、「官民交流の促進」という名のもとに、官公庁の主要ポストに民間大企業の人材を天上がりさせ、かれらが自らの利益にそって行政機構を動かすことを可能にする措置もとられてきている。そのうえ、郵政民営化もそうであるが、国・地方の公有資産売却(大企業や富裕層への廉価な払い下げ)を今後さらに大胆に大規模に推進しようというのが小泉政権の方針である。その主たる受益者が、アメリカをはじめとする内外の多国籍企業であることは、いまや公然の秘密だといってよい。今日の「小さな政府」政策は、実質的な内容からいえば、国民の諸権利切り捨てと公的資産私物化の政策であり、国・自治体の切り売り政策に他ならない。
 このような「小さな政府」政策の質的変化の背後には、近年における資本主義経済の質的変化の問題がある。多くを述べる余裕はないが、アメリカでは80年代から、日本では90年代後半から(特に金融ビッグバンとアジア経済危機後に)すすんできた、「株主資本主義」の支配、あるいは過剰蓄積のもとでの投機的資本主義の広がりの問題である。そのうえ、わが国ではその過程が、(1)日本経済に対するアメリカの構造的な支配強化、(2)経済政策におけるサプライサイドの経済学やマネタリズムの席巻(日本語では同じように「新古典派理論」と訳されることが多いが、今日の「ニュー・クラシカル」とよばれる理論と、かっての「ネオ・クラシカル」理論とは区別する必要があるのではないか)、そして(3)次に見るNPMや「新しい公共」論の広がり、といった諸条件の下ですすんできたので、その「小さな政府」政策の反国民性と公共破壊の性格はひときわ顕著なものとなっている。

(5)NPMの導入やPPP論による「新しい公共」論の広がり
  今日の「小さな政府」政策を問題とするとき、われわれは、新自由主義の経済理論とともにその政策を推進しているもう一つのイデオロギー的支柱として、NPM(公共経営論)やPPP(官民協働論)による「新しい公共」という主張に注目しないわけにはいかない。
 NPM(New Public Management)というのは、公務員と市民との関係を公共サービスの生産・販売者とその顧客との関係(つまり一種の市場)としてとらえ、そこに民間企業の経営手法を導入して効率化をはかろうとする政策である。イギリス・ブレア政権の経験から学んだといわれるその政策は、すでに業績主義の導入、意志決定とサービス提供との分離、民間委託、市場化テスト、組織の「簡素化」、指定管理者制度などとして具体化され、公務の縮小・切り捨てに貢献してきている。これに対しては、官公労の労働組合などからすでに数多くの批判がなされてきた。
 これに対して、PPP(Public Private Partnership)による「新しい公共」論とは、一口で言えば、21世紀の「公共」はもはや政府・自治体によってのみ担われるのではなく、(1)政府・自治体の公と、(2)NGOなどの民の公共と、(3)企業などの私、の三者によって担われなければならない、「公共性」の概念は公私二元論から三元論へと転換しなければならない、という議論である。報告者は、こうした三元論によって、公務・公共サービスを三分割するような主張は、政府・自治体の担う公的責任と国民の権利を曖昧にし、客観的には公務の民営化に道を開く、基本的に誤った議論だと考える。しかし、「新しい公共」論は、革新的な労働組合や住民団体のなかにも一定の支持を見いだしており、そこにはいくらか複雑な事情がある。同じく「新しい公共」論と言っても、そこには三つの異なる流れがあるからである。
 すなわち、(a)は、国民の状態悪化と公共サービス・社会保障の後退が急速に進むようになった90年代後半から、福祉の現場や住民運動のなかから、住民相互の、あるいは住民と行政との協力・共同によって、なんとか住民の暮らしを守っていこうとする運動が高まり、その運動経験のなかから生まれてきた「新しい公共」という考え方である。(b)は、新世紀に入ってから「公共哲学」や公共政策の分野で積極的に主張されるようになった「新しい公共性」論である。「公共哲学」はもともと1980年代以降のアメリカで、1930年代のニューディール政策いらい確立されてきた市民の権利を見直し、それによって「モラルの絆」を建て直そうとする新保守主義的な主張として登場した。日本における「公共哲学」の登場はごく最近のことで、1997年頃に、将来世代国際財団と将来世代総合研究所が協同主催で公共哲学共同研究会(将来世代国際財団からの財政的支援をうけている)を組織し、これに東大、京大などの研究者が参加したのが出発点である。研究会における報告・討議の内容は、01年から02年にかけて10巻の「シリーズ・公共哲学」として刊行されたが、共同研究を中心的に取りまとめたのは、将来世代総研理事長の金泰昌氏であった。そこでは市場原理主義や画一的なグローバリゼーションに対する批判も見られるが、全体を通じて強調されているのは、「お上の公から民の公へ」の政策であり、「活私開公」(「私」の領域を活性化させることが「公」や「公共」の領域を開くことになる)という政策理念である。その内容は、憲法9条とともに「公共の福祉」の概念も変えようという自民党の改憲案に連動するものだといわねばならない。個々の研究者の主張は別として、今日までの「公共哲学」は全体として、「小さな政府」論を裏づける理論的支柱となっているといえる。(c)は、小泉政権が総務省のもとに組織した研究会(「分権型社会に対応した地方行政組織運営の刷新に関する研究会」)の提言「分権型社会における自治体経営の刷新戦略」(2005年4月)などに見るように、(a)の「新しい公共」の考え方をもつまみ食い的に活用しながら、行政の負担を徹底して軽減していこうとする政策である。それは、自治体行政を地域の「戦略本部」と位置づけ、実際の公共サービスは、住民、NPO、民間企業など多様な主体の「協働」を組織して提供していけばよい、とする。その政策手法の多くはNPMとオーバーラップしており、公務の民営化を大きく促進する政策となっている。
 以上の(a)(b)(c)のうち(a)については、住民の権利拡充や民主主義の強化につながりうる積極的要素が内包されていることに留意する必要があろう。しかし、その場合にも、公権力の担う「公共性」の拡充を要求し、「公共性」を確保するうえでの労働運動の役割(CSRを想起せよ)を重視するような「新しい公共」論でなければ、あるいは、「構造改革」や憲法改悪に反対し、「もう一つの日本」を要求する運動の一環として位置づけられるような「新しい公共」論でなれれば、それは事実上「小さな政府」政策の補完物となってしまう危険があろう。
 残念ながら現状では、「新しい公共」論は(b)(c)を中心に広められ、全体として「小さな政府」を推進するイデオロギーとして活用されていると言わねばならない。すでにイギリスではPPPの破綻が問題となっている時に、これはわが国特有の現象である。

(6)わが国における「小さな政府」政策の特異性
 だが、わが国に特有なのは、この点だけではない。改めてわが国における「小さな政府」政策を俯瞰してみると、そこには次のような特異な特徴を見ることができる。
 (1)「小さな政府」政策は、国民負担の重い福祉国家から相対的に国民負担の軽い「安上がりな国家」への「修正」として、減税政策と共に提起されるのが普通である。しかし、わが国で成立していたのは似非「福祉国家」であり、社会保障・社会福祉の貧弱な土建国家であった。そして今日の「小さな政府」政策が求めているのは、貧弱な福祉のさらなる切り下げであり、しかも、それと同時進行するより苛酷な増税=国民負担増である。この「やらず、ぶったくり」の「小さな政府」は、国民の立場からすれば実質的に「より大きな政府」を意味する。
 (2)「小さな政府」推進の最大の理由とされているのは「財政危機」であるが、小泉内閣は「危機」のもとでも、大企業減税、軍備増強、ゼロ金利維持、為替対策、不良債権処理、等々、「必要」と考える分野については、「大きな政府」であり続けている。いいかえれば、それは国民生活関連分野に攻撃の的をしぼった、差別的な「小さな政府」政策である。
 (3)地方分権をうたっていながら、自公政権は、「三位一体」政策や道州制導入をにらんだ市町村合併の押しつけを通じて、あるいは国の地方に対する責任放棄によって、地方自治体に「小さな政府」政策を強要している。すでにその結果は、恐るべき地域社会崩壊の多発として表面化している。
 (4)当面する「小さな政府」政策の最大の目標を公務員職員数の純減と総人件費削減におき、数値目標を設定して中央・地方でその政策を推進しつつあるが、小泉内閣はそうした政策を、公務員労働者の労働基本権を否定したままの状況下で強行するという、国際労働基準にも反する暴挙に出ている。
 (5)「小さな政府」政策の内容や方向についてイニシアティブをとっているのは財界である。財界はいまや政府や政権党に対する外からの働きかけ(要望・提言・政治献金など)によるばかりでなく、政権内部における直接的な影響力行使(経済財政諮問会議、規制改革・民間開放推進会議、行革推進本部などへの中心メンバーとしての参画、民間企業と各省庁との「人事交流」、官業の民間委託、など)によって、予算編成から法律制定、行政指導にいたるまでの強力な発言権をもつようになっている。その場合、注意しなければならないのは、今日の財界がアメリカをはじめとする外国企業をも会員に迎えて、わが国大企業の利益を代表するというよりも多国籍企業の利益を代表するものに変化していることである。
 (6)しかし、財界以上に大きな影響力を行使している者がいる。アメリカ政府である。実際アメリカは、わが国の「小さな政府」政策についても、日本に対するその「年次改革要望書」や制度化されたアメリカ政府との「協議」をつうじて、細部にわたるまで政策内容の「調整」と「合意」をもとめ、「合意」にしたがった政策の履行過程を監視・点検することまで行っている。国際的にも前代未聞のことである。

(7)「小さな政府」政策の現局面
 昨年総選挙後の郵政民営化の実現といわゆる「2005年体制」の「成立」を転機として、国際金融資本はいっせいに「日本買い」に転じている。その動きが、今後の「小さな政府」政策の急進展を予測し、それにともなう民営化や公的資産売却などによって莫大な高収益を確保する機会が到来するであろうことを期待してのものであることは、明らかである。いまやアメリカ・日本の多国籍企業は、国・自治体の解体・収奪に公然と乗り出すようになっており、小泉内閣も行革推進の担当大臣に竹中平蔵氏を配してその期待に応えようとしている。
 そうした収奪政策の一環として、政府は、大々的な財政支出の削減と増税を同時に強行する政策をとりはじめた。財政再建が差し迫った課題だというのであるが、赤字財政克服の政策も計画も提起しえないままに、ともかく国民の犠牲で余剰財源をつくりだすことが目指されている。その超緊縮政策の前提=口実となっているのは、景気が本格的に回復したとする「現状認識」である。しかし、多くのエコノミストが指摘しているように、その判断は楽観的に過ぎる。雇用・失業実態の厳しさや勤労者世帯の所得低迷を見ても、あるいは中小企業経営や地方経済が直面している困難(素材・燃料の高騰、需要の偏り、「人手不足」、赤字収益、廃業多発、市街地空洞化、など)を見ても、景気は本格的な回復にはほど遠い。そこに強行される大規模な需要削減策は、景気をふたたび悪化させ、税収の減少をまねいて、財政赤字をいっそう深刻化させる可能性が高い。
 国際経済環境の変化も、政府の緊縮政策の前提を突き崩している。靖国問題などによる日本のアジアおよび世界での孤立化が急速に進むなかで、これまで日本経済の景気回復を支えてきたアジア経済の発展が、最近は日本を素通りしてすすむようになってきた。同時に、日本経済が近年ますます一体化をつよめてきたアメリカ経済では、際限のない軍事費膨張と「双子の赤字」拡大のもとで、石油の高騰、中国・インドなどへのアウトソーシング、自動車メーカーのリストラなどが大規模にすすんでおり、消費景気の後退を高金利政策の行きづまりがますます明らかとなってきている。こうして日本の貿易収支の黒字は急速に縮小に向かっており、これまでのように、輸出拡大によって国内景気が支えるという状況ではなくなってきている。
 日本経済の直面するこうした困難にもかかわらす、小泉内閣の「小さな政府」政策は、公務員の削減、公共サービスの切り捨て、地方の切り捨て等を推進し、公共の破壊と格差の拡大に拍車をかけようとしている。また、国民生活関連予算を削り、地方自治体の財源を縮小させ、「下流社会」を肥大化させるなかで、国民の間の競争と対立を煽り強めようとしている。
 しかし、総選挙から半年、「小さな政府」政策をめぐる情勢は大きな様変わりを見せつつある。(1)耐震偽装、ライブドア、アメリカ牛肉不正輸入、医療費値上げ、タクシー行政破綻、等々で、小泉「構造改革」の行き詰まり・破綻が明らかとなり、「構造改革」の見直しを求める声が国民の過半を占めるようになってきたこと、(2)「三位一体」改革や軍事基地の地方押しつけ、医療制度改悪による住民の医療費負担増大、中小企業関連金融機関の整理、等々の小泉政権の政策に反発して、中央に対する地方の反乱が随所ではじまったこと、(3)長年賃下げを押しつけられてきた労働者たちが、大企業の空前の高収益を前に不満を高め、春闘への結集が強めていること、(4)そうした状況に日本経団連も、「労資協調」体制の維持を図るべく一定の賃上げを容認せざるをえなくなっていること、等をみても、今日の「小さな政府」政策はすでに大きな障害に直面していることがわかる。
 支配層にとって、恐らく唯一の局面打開策となりうるのは、公務員攻撃であろう。公務員・公務員労働組合と民間労働者・国民との対立をつくりだし、煽って、大規模な公共の荒廃・空洞化・解体を引き起こし、ビジネスチャンスにつなげていくことである。したがって「小さな政府」政策の行方は、また自公政権の将来は、中央・地方で公務員労働者を主力組合に組織している全労連の手に握られている、と言ってよいのではないか。

2 今日における「小さな政府」政策のねらいとその矛盾

 全労連はすでに昨年12月7日に「小さな政府」政策とたたかう闘争本部を立ち上げている。「小さな政府=大きな国民負担に反対し、もう一つの日本、安心できる公務・公共サービスをめざす全労連闘争本部」(略称・もうひとつの日本闘争本部)という恐ろしく長い名称の闘争センターであるが、そこには全単産・地方協議会の代表が結集し、2007年7月の参議院選挙を目途に運動を盛り上げていこうとしている。そこでの討議などを参考に、あらためて「小さな政府」政策のもたらすものは何か、そのねらいと矛盾について整理してみると、こうなる。

(1)大増税など、より大きな国民負担の押しつけ
 「小さな政府」と言いながら、実際には「大きな政府」への転換。政府は、今後の景気回復によって国民所得が増大するので、国民負担率は低下すると強弁しているが、それほど景気回復に自信があるのなら、増税などせず、税収の自然増に期待すればすむことである。

(2)公務・公共サービスの切り捨てと全面的な民営化
  今でも職場の人手不足は深刻なのに、職員数の純減となれば、もはやカバーできない行政分野が多発することになる。しかし、公務・公共サービスの必要性はなくなるわけではないので、引き起こされた公務・公共サービスの劣悪さ・欠落を逆手にとって、規制緩和=民営化を推進するというのが支配層の常套手段となっている。しかし、すでにわれわれは、規制緩和=民営化が国民の最低限の安全さえ破壊してしまうという証拠を山ほどもっている。また、公務・公共サービスの拡充こそが生活の安心・安全と住民負担の軽減をもたらすという事例をいくつも経験してきている。今われわれは、具体的な事実にもとづく説得が大きな力を発揮する情勢を迎えている。

(3)公務員攻撃をテコとする民間のリストラ・賃金抑制の推進
 国家公務員62万人、地方公務員312万人をはじめ、公務部門で働く労働者は全体で441万人(2004年度)に上る。公務員労働者に準じて雇用・賃金・労働条件をきめられている民間労働者は、中小企業や福祉分野を中心にそれ以上の規模になると推計される。いま、この大量の公務員労働者について、成果主義を導入し、総人件費や職員数を削減して、賃金切り下げや人減らしを実現しようとしているが、その政策は民間のリストラや賃金抑制に連動することとならざるをえない。公務員攻撃とのたたかいを抜きにしては、民間労働者の賃上げや雇用安定の確保も困難である。しかし、逆に、民間労働者の賃上げ意欲が高まっている今日、官民労働者の統一闘争が発展すれば、相乗効果で大きな成果を獲得できる条件も生まれている。この点ではとくに、公務員制度改革の進展にともない、ILOなどから繰り返し指摘されてきた公務員の労働基本権問題が浮上していることが注目される。

(4)国民の間の格差拡大と貧困層の増大
 小泉「構造改革」のもとで格差社会が進行したという批判に対し、最近内閣府は、わざわざ格差は拡大していないという資料を作成して発表したが、ジャーナリズムでも一笑に付されて終わった。しかし、そのことは、市場至上主義の立場に立って「自己責任」を強調し、格差の発生は当然のこととする新自由主義の政府であっても、格差拡大に対する国民の批判には神経質にならざるをえないことを示している。同じように、「下流社会」の形成・膨張として話題になっている貧困層の増大問題については、新自由主義の見地に立つ論者たちも、それを「構造改革」の陰の問題として取り上げざるをえなくなっている。しかし、「小さな政府」政策の推進は、今後これらの問題を格段に深刻化させていくことになろう。労働組合は、その発言権を大いに高めうる機会に際会しているのである。

(5)景気の悪化と地域社会の崩壊
 すでに見たように、「小さな政府」の国民負担増政策は景気の悪化をまねくであろうが、その悪化は勤労者や地方に対して差別的に増幅されて作用していくだろう。
  最近政府は有効求人倍率が1.00になった、雇用情勢は改善されたと宣伝しているが、それはパートなど非正規労働者に対する求人増によるものであり、正規労働者の求人不足はいぜんとして厳しい。しかもそれは著しい地域格差の拡大をともなっており、北海道、東北、四国、九州、沖縄には地域社会の崩壊をもたらすような厳しい失業情勢が見られる。実際、厚生労働省は最近、全国7つの失業多発地域について、特別の失業対策を講じざるをえなくなっているのである。
 労働総研は2002年12月に、建交労からの委託をうけて『公的雇用創出のための政策提言』をまとめたが、その主要な提言内容は「小さな政府」政策とのたたかいのなかでも活用しうるのではないかと思う。

(6)「小さな政府」論と国民の要求・意識との乖離
 「小さな政府」論者たちは、国民は誰しも「小さな政府」に賛同するものと頭から決めてかかっているところがある。しかし、国民の要求や意識は必ずしもそうではない。先に朝日新聞が行った世論調査では、たとえ負担増になっても社会保障の水準は維持してもらいたい、とする意見が多数派であった。「負担増になっても」という点は設問の仕方に問題があると思うが、ともかく国民の多数が「安心できる公務・公共サービス」の確保を望んでいることは明らかである。政府の政策の実態がもっと知られるようになり、財政赤字などについても別の解決の道のあることが明らかになれば、この要求はさらに強まるであろう。この点に確信をもつことが重要である。

(7)「泥棒国家の完成」?!
 さいきん国民の目は、「構造改革」や「小さな政府」政策を熱心にすすめているのはどういう連中なのか、それらの政策は結局だれの利益になるものなのか、という点に向けられるようになってきている。毎日のように談合、天下り、裏金づくり、インサイダー取引、脱税、等々が報じられ、それらの構造が浮き彫りになってきているのであるから、当然であろう。総合雑誌などでも、この点に厳しいメスを入れる論考が増えてきている。
 この点で象徴的なのは、在日外国人ジャーナリストのB.フルフォードが書いた『泥棒国家の完成』という本が話題になっていることだ。彼はiron kleptcracy(鉄の結束を誇る泥棒集団、とでも訳したらよいだろうか)という英語の造語を使っているが、日本はいまや政官業にヤクザを加えた「泥棒集団」に国家を乗っ取られてしまった国だ、と論じている。「泥棒集団」のなかにアメリカを加えていないのは片手落ちだし、公務員や共産党を頭から敵視するようなところはいただけないが、今日の小泉政権の本質をなかなか鋭く突いている。こうした書籍が大手の出版社から刊行され読者を得ているという状況は、注目すべきであろう。国民は「小さな政府」政策や「構造改革」の全体像を知りたがっている。労働運動はその欲求に応えなければならない。
 要するに、以上で報告者が言いたかったのは、「小さな政府」とのたたかいはその厳しい影響の側面に目を向けるとともに、もっとその矛盾や弱点にも目をむけて進める必要があるのではないか、ということであった。しかし、それでもまだ十分ではない。

3 「小さな政府」政策と「もう一つの日本」の運動

(1)「もう一つの日本」が意味すること
 すでに見たように、全労連の闘争本部には「もうひとつの日本」という肩書きがついている。何のことか、大衆的にはまだあまり知られていないと思うが、それはもともと「世界社会フォーラム」を組織するなどして反グローバリゼーションの運動を発展させてきた理論的指導者スーザン・ジョージの著書からきている。フランス在住のアメリカ人である彼女は、2004年に“Another world is possible if …”という本を書いて、「われわれが適切な努力すれば、今日のアメリカを中心とする市場万能の世界とは異なる、より人間的な別の世界をつくりだすことが可能だ」と主張した。Another world is possible は、今では新自由主義に反対する運動の世界共通のスローガンとなったが、それが最近は日本の社会運動のなかでも「もう一つの日本」という表現で使われるようになっているのである。「もう一つの日本」という表現を最初に使ったのは内橋さんだったと思うが。
 ともあれ、全労連闘争本部のその肩書きは、こう主張していると理解してよいであろう。「小さな政府」政策とのたたかいに勝利するためには、われわれがそれに対抗して構築しようとしている社会像を、あるいは、その実現のために必要な住民本位の公務員制度改革、地域興し、財政赤字克服策、等々の具体策を、労働運動の側から積極的に提起してたたかいをすすめる必要がある、と。そして、いま春闘のなかでは、「安心・安全の社会」「働く仲間が元気の出る社会」というのが、「もう一つの日本」を示すスローガンとなっているのである。

(2)「小さな政府」と「大きな政府」「ほどよい政府」
 「小さな政府」に対抗する運動のなかでは、国民の要求として「大きな政府」や「ほどよい政府」が対置されることがあるが、それらについてはどう考えたらよいであろうか。
 「大きな政府」という表現は、(1)社会保障の充実した政府、という意味や、(2)ケインズ的な財政政策を展開する政府、という意味で使われることが多いが、「構造改革」論者たちがそれを使うときは、(3)ムダが多く非効率で、国民負担の大きい政府、という意味で使っている。労働運動の立場からすれば、(3)が論外なのはもちろん、(2)にも問題があるわけで、そういう多義的で誤解されやすい用語で国民の要求を表すことはできない。
 「ほどよい政府」というのも、何を基準にして「ほどよい」のか曖昧だという点を別としても、冒頭で見た「小さな政府」論者の欺瞞的な論議の土俵にひきこまれてしまう危険があるという点で、労働運動による使用は避けたい表現である。
 労働運動は自ら考えぬいた概念を、国民的な希望をこめたわかりやすい表現で対置すればよいのである。「安心できる公務・公共サービスの拡充」というのは、まさにそうした表現の一つではないだろうか。

(3)公務員労働者・労働組合への信頼回復
 ところで、労働運動がそうした政策提起を行う以前の問題として、忘れてはならないことがある。それは、労働運動の提案を真摯に聞いてもらえるように、公務員や労働組合への信頼を回復する問題である。
 公務員制度をめぐっては、天下り、キャリア制度、いわゆる「職員厚遇」問題など、もともと是正さるべき問題が多いうえに、公共サービスの悪化が続き、談合、収賄、使い込み、情報漏洩などの不祥事が多発しているので、公務員に対する国民の不信は非常に根深いものとなっている。しかも、そうした不祥事に労使協調の御用労働組合が巻き込まれるケースも珍しくない。国民にとっては、まともな公務員・労働組合とそうでないものとを区別することはほとんど不可能であるし、公務・公共サービス全体の改善をめざし、労働運動全体を視野に入れてたたかいをすすめている全労連運動の立場からすれば、不公正な行政や不祥事等の問題も他人事だとしてすませるわけにはいかないであろう。
 「小さな政府」政策とのたたかいは、公務のあり方を根本から問い直し、不正を大胆に告発し是正していく運動と一体のものでなければならないのである。

(4)専門セクトからの脱皮と国民に開かれた討論
 上記の点とも関わって、公務・公共サービスの問題はそれぞれ専門性が高く、国民の理解を得ることがなかなか難しいという問題がある。そのため問題の研究や討議も事情のわかる仲間内だけのものになりがちであり、広く国民に開かれた討議が不足している状況が見られる。また、労働組合のなかでの研究・討議では、専門的な業務内容にかかわる話に終始し、労働運動との関わりで討議の深められることが少ない、という状況も見られる。「小さな政府」政策とのたたかいでは、官民労働者の統一闘争や国民との共同闘争がカギをにぎるだけに、こうした状況の改善は非常に重要だといえる。

(5)「もう一つの日本」と「2005年体制」打破の課題
 さて、「もう一つの日本」を理念的なスローガンに終わらせずに、現実政治を国民本位に改革する政策として具体化していくためには、昨年総選挙後に生まれた政治状況、いわゆる「2005年体制」を打破するたたかいを発展させねばならない。「2005年体制」と言われているのは、要するに、(1)内閣総理による強力な大統領的権限の掌握、(2)マスコミ支配のもとでの劇場型政治の展開、(3)政権基盤の農村から都市若年層への拡大、(4)与党による議会の専制支配、(5)日本政治へのアメリカ機関投資家の参画、(6)憲法改正への着手、などを特徴とする独裁的政治体制のことである。しかし、その体制はまだ完成してもいなければ確立してもいない。『2005年体制の誕生』を書いた、小泉政権のシンクタンク「21世紀政策研究所」の理事長・田中直毅氏も、「2005年体制」は中央政府レベルでは成立しかかっているが、自治体レベルではまだこれからであり、自治体改革なしには「2005年体制」を定着させることはできない、と認めている。脆弱さを残すこの危険な政治体制を大衆運動によって制約し打破していくなかから、「もう一つの日本」の内実を実現していく可能性も大きく開けてくるにちがいない。最近の小泉政権による大型店出店規制への動きは、その可能性を端的に証明している。「もうひとつの日本闘争本部」が、その運動目標を2007年の参議院選挙においている意味も、「2005年体制」打破に関わってのことであろう。

おわりに

 政府は昨年年末の臨時閣議で、「行政改革の重要方針」を決定し、5年間で国家公務員の5%以上純減、政府資産・債務の圧縮、市場化テスト法および行革推進法の早期提出、「行政減量・効率化有識者会議」の設置、などの政策を打ち出している。「有識者会議」には、かっての土光臨調のような大きな権限をあたえ、奥田現日本経団連会長に小泉退陣後も辣腕をふるってもらう構想だと伝えられる。「小さな政府」政策の弊害があらゆる側面から明らかになりつつある今日、労働運動はまず、こうした方針・構想を広範な労働者・国民各層とともに打破していく、という課題に直面しているのである。
(本稿は、さる1月21日に開かれた労働総研・政治経済動向部会研究会での報告に、当日の討議をふまえて加筆したものである。)

(おおき かずのり 代表理事・労働総研政治経済動向研究部会 部会員・日本福祉大学)


「小さな政府」関係文献目録
  • 佐々木毅・金泰昌編『シリーズ・公共哲学』1〜10巻、東大出版会、01〜02年
  • 林康義「『新しい公共』概念の提起する諸課題」『都市問題』01年9月号
  • 辻山幸宣「新しい公共サービスの考え方」八王子自治研究センター02/11/27
  • Susan Geoge, Another world is possible if…, Verso, London,2004
  • B.フルフォード『泥棒国家の完成』光文社、2004年3月
  • 規制改革・民間開放推進会議「官製市場の民間開放による『民主導の経済社会の実現』」04年8月3日
  • 山脇直司『公共哲学とはなにか』ちくま新書、04年5月
  • NPO法人コミュニティシンクタンクふじ
    「市民が求める公共サービスに関する調査研究」、04年8月
  • 国公労連「構造改革に関する私たちの主張」04年10月
  • 全労働省労働組合「いま、なぜ公的職業紹介か」04年10月
  • 『NIRA政策研究』04年11月号 特集:「新しい公共」のプラットフォーム
     山口 定 「新しい公共性―状況と課題」
     山脇直司 「公共性のパラダイム転換」
     粉川一郎 「新しい公共における官民の役割と協働関係の評価」
     犬飼重仁 「公共圏のプレイヤーとしての企業の今日的課題」
  • 晴山一穂「いま"公務の公共性破壊"を考える」国公調査時報、04年11月号
  • 総務省・分権型社会に対応した地方行政組織運営の刷新に関する研究会「分権型社会における自治体経営の刷新戦略―新しい公共空間の形成をめざして―」05年4月
  • 閣議決定「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005」05年6月
  • 内閣府『経済財政白書』2005年版、05年7月
  • 森裕之・平岡和久「『三位一体改革』の成否をにぎる一般財源」『世界』05年8月号
  • 朝日新聞社説「選挙で公務員の削減を競え」05年8月22日
  • 三浦展『下流社会』光文社新書、05年9月
  • 小原隆治「平成大合併の現在」『世界』05年10月
  • 『週刊東洋経済』特集「伏魔殿の大リストラ──公務員史上最大の受難」05年11月5日
  • 「主張・『小さな政府』』論−人間性にかけられた攻撃」新聞赤旗05年11月8日
  • 特殊法人労連「市場化テスト」問題プロジェクトチーム:「『市場化テスト』がつくる 『小さな政府』−福祉は小さく税金は重く−」05年11月
  • 田中直毅『2005年体制の誕生』日本経済新聞社、05年11月
  • 「社説 『小泉劇場』は『05年体制』を開いたか」、日本経済新聞05年12月30日
  • 「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府要望書」05年12月7日
  • 日本経団連『経営労働政策委員会報告2006年版』05年12月
  • 関岡英之「奪われる日本──米国に蹂躙される医療と保険制度」『文藝春秋』05年12月
  • 生活経済政策研究所『生活経済政策』2006年1月号
    特集:「小さな政府」論批判
     神野直彦「日本の目指す『ほどよい政府』への道」
     田中信孝「日本の『小さな政府』を考える」
     宮崎伸光「公務員“特権階級”たるべからず」
  • 田中章史「『小さな政府・自治体』に対する私たちの運動を考える」『月刊自治労連』
  • 『連合白書─2006春季生活闘争の方針と課題─』
  • 連合中央執行委員会「公共サービス・公務員制度のあり方に関する連合の考え方」06年1月
  • 「シンポジュウム・『小さな政府』『官から民へ』攻撃の本質と社会的反撃」『前衛』06年3月

実態調査からみえる労働組合の現在と未来
−全労連・労働総研「労働組合」調査を読む−

浜岡 政好

はじめに

 全労連と労働総研は2005年5月〜9月に大規模な労働組合調査を実施した。この時期に何故、労働組合調査が行われたのだろうか。それは労働組合の現状に対する次のような危機意識からである。すなわち、労働組合の組織率が長期低下傾向にあり、その結果、労働組合の社会的影響力も低下していることである。日本に限った話ではないが70年代後半から労働組合の組織率は低下し続けており、ついに20%を割る水準になっている。そして今後、「団塊の世代」が大量に引退した後には、労働組合という社会組織や社会運動がこれまでのような役割を発揮し続けることができるのかという不安もある。これに対してはすでにさまざまな取り組みが行われ一定の成果も出ているが、状況を反転させるまでには至っていない。組織拡大への取り組みの実態を明らかにすること、これが今回の調査の第一のねらいであった。
 そして第二は、労働組合の組織と運動が現在の社会変化に的確に対応できているかどうか、組織と運動の現状を把握することである。ここでは量の減退だけではなく、質の変化が問われる。労働組合は工業化時代の産物で、今日の情報社会には対応できず、「恐竜の道を辿る労働組合」という見方もある。しかし、グローバル化する資本主義は世界的規模でも国内でも「二極化社会」をつくりつつある。社会装置化された貧困によって一握りの大企業と階層がわが世の春を謳歌し、多数の人々は失業と貧困と過度労働に追いやられる状況が生み出されている。労働組合がこうした状況を打開することに成功していないことは確かであるが、失業と貧困を再生産させる労働世界において、資本の横暴とたたかう労働組合という社会的組織なしに、こうした現代の資本主義が生み出す諸問題に立ち向かうことができないこともまた明らかである。
 とすれば、今日の状況に対応できる、新しい労働組合や労働運動のあり方をどうつくりだすことができるかが問われている。全労連は2004年の第21回大会で、「21世紀の新しい労働組合づくりをめざして」(組織拡大強化中期計画<第1次案>)を発表し、今日、労働運動が重要な岐路にあること、そのなかで運動が「克服すべき課題として、(1)根強い企業内意識の残存、(2)男性中心の役員構成、(3)正規雇用労働者を中心にした活動、(4)活動が幹部請負になっていること、(5)機械的な抵抗・反対型の闘争になっていること」などを明らかにした。こうした課題を解決し新しい組織や運動を創出していくためには、労働組合および労働運動の現状への厳しい自己点検・評価が必要である。
 労働総研もまた労働組合の組織と運動に対する上記のような課題意識を全労連と共有しており、2004年度の定例総会方針で、設立15周年記念事業として労働組合運動の活性化を実現するため、労働組合の実態調査を行うことを決定した。その意味では今回の調査は全労連と労働総研の共同で実施された自己点検・評価活動である。連合も2003年9月に「連合評価委員会」最終報告をだしており、その内容は共有すべきことを多く含んではいるが、それはあくまで自己点検・評価なしの第三者評価である。自らの組織と運動に対する自主的・自覚的な点検・評価なしに、組織や運動を改革することはできない。今回の調査が、全労連の自主的な点検・評価活動として行われていることが重要なのである。
 調査は(1)組織調査、(2)組合員個人調査、(3)「未組織」個人調査、(4)事例調査の4つで構成されている。調査期間は5月中旬から9月下旬までであったが、途中に総選挙が入って当初の調査スケジュールが大幅に狂った。このことが調査の回収率等へも影響したが、多くの組合員、組合員の近くにいる非組合員、組合員の現場幹部の方々の協力を得て、とにかく調査を実施し、中間報告をまとめることができた。まずはご協力いただいた多くの方々に感謝の意を表したい。またこの報告は4つの調査の中間まとめを筆者の個人的関心にそって速報的に整理したものである。

1.組合の現場役員の眼に映った労働組合活動の現状

1)労働組合の現状
 ここでは「組織実態調査」の結果を用いるが、この調査の対象者は、単組または支部(単位組合)の委員長、書記長など組合三役である。したがって、このデータは現場の第一線幹部が自分たちの組織や運動をどのように把握し評価しているかを示している。
 まず、調査対象組合のプロフィールであるが、労組法適用46%、地方公務員法19%、国家公務員法32%などとなっている。組合員規模では100人未満55%、100〜300人未満24%、300人以上18%と小規模組合の比率が高くなっている。組合員の性別に着目すると、男性型(女性比率3分の1以下)55%、女性型(女性比率3分の2以上)24%、混合型(女性比率が3分の1と3分の2の間)18%となっている。組合員の年齢によって分けると、青壮年型(50歳未満2分の1以上)65%、中高年型(50歳以上2分の1以上)20%、均衡型(50歳未満と50歳以上が半々)3.4%となっている。
 調査対象のプロフィールでみるかぎり、民間労組と公務員労組はほぼ半々、規模別では100人未満の小規模組合が多数を占め、性別では男性型、年齢別では青壮年型が多くなっている。このプロフィールが全労連の組織実態を正確に反映するかについては、ズレがあるものと思われる。それは単産による調査の回収率にかなり差があるからである。したがって、一定の偏りをもったデータとして読む必要がある。
 この5年間の組合員数の変化については、「減少」67%、「横ばい」22%、「増加」9%と7割近くが減少している。その理由は、「定年退職者に比べて採用がない・少ない」57%、「賃金・労働条件向上が難しく魅力が薄れている」30%、「組織の束縛をわずらわしく思う人が増えている」28%、「未加入のまま組合メリットを得ようとする人が増えている」28%、「新卒・中途採用の正規労働者が加入しない」26%などとなっている。定年不補充などで職場の労働者数が減っていることが大きな要因となっている。またさまざまな理由で組合に魅力を感じない人も増えている。しかし、全体として減少傾向にあっても、民間労組では「増加」が16%と健闘している。
 組合員の減少は組合財政にも影響しており、この2〜3年の組合財政の変化で「楽になった」2%、「変化なし」38%、「苦しくなった」50%となっており、半数が苦しくなっている。特に地方公務では「苦しくなった」が70%にも達している。組合の組織体制では、専従執行委員が「いる」16%、専従書記が「いる」25%となっており、専従書記比率が高いのは地方公務関係労組(62%)である。また上部団体との関係では、産別組織への加盟状況では「加盟・積極参加」56%、「加盟・つきあい程度」20%、「今後加盟したい」2%、「加盟の意思なし」13%となっており、大半は加盟し、積極的に参加している。特に地方公務関係労組の「加盟・積極参加」比率が74%と高くなっている。
 地域労連との関係では、「加盟・積極参加」48%、「加盟・つきあい程度」37%、「今後加盟したい」3%、「加盟の意思なし」8%となっており、産別への参加に比べると「つきあい程度」の関わりが多くなっている。他方、ナショナルセンターである全労連との関係は、全労連の方針等を「強く意識している」が28%、「ある程度意識している」50%、「意識していない」19%となっている。約8割の組合が全労連の方針等を意識して活動している。

2)労働組合活動の現状
 次にこのような組織状況にある組合が実際にどのような活動を行っているかであるが、通常の機関活動は概ね実行されている。第1に、機関会議等の開催状況をみてみよう。大会は年1回実施が90%、執行委員会も定期開催が57%となっている。執行委員会開催数は、10回以下が26%、20回以下が25%、21回以上が32%となっており、多くの組合は月1回以上開催している。1年間の団交回数は、5回以下42%と最も多く、次いで10回以下20%、11回以上15%、0回14%の順になっている。また04年のスト権批准投票は、9割以上20%、7〜8割10%、5〜6割3%、確立できず1%、実施せず55%となっている。ここではスト権批准投票をしていない組合が過半数を超えていることに注目する必要がある。このようにスト権批准投票自体のハードルが高くなっていることから、ストの決行比率はさらに低くなり、実行率は8%、決行せず19%となっている。
 第2に、組合としての集会・学習会・行事など開催状況や地域の活動等への参加については、最も高いのが地域での集会や行動への参加で86%、以下、メーデーへの参加83%、春闘学習会の開催71%、各種課題別学習会開催56%、レクレーション活動開催54%、新入組合員歓迎会45%、幹部・中堅活動家教育43%、地域で行っている学習講座への参加43%、新人教育への取り組み35%などとなっている。これらの取り組みは、民間組合、地方公務員組合、国家公務員組合など組合の種別によって異なっており、地方公務では地域の集会・活動への参加比率が高くなっていたり、国家公務では組合独自の新人組合員教育や幹部教育への取り組み比率が高くなっていたりしている。
 こうした活動の組合としての実施率や参加率の高低を、組合活動の活性化の指標として問題にすることとあわせて、これらの定番になった取り組みが、組合員の意識や行動をどの変容させたかについての活動の質的な評価が求められる。すなわち、これらの定期的、定例的な諸活動がルーティンワークとして継続されることももちろん大事ではあるが、一つ一つの活動が組合員の意識と行動にどのような影響をもたらすかをもっと意識的に追求する必要があると思われる。
 第3に、組合の要求づくりのために、執行部は組合員の生活実態をどの程度把握しているかについてみてみよう(表1)。「よく知っている」の比率が高いのは、「個々人の賃金実態」(33%)、「残業(超過勤務)の実態」(26%)、「年休取得状況」(19%)、「生理休暇取得状況」(13%)、「組合員の暮らし向き(経済状態)」(8%)、「組合員の家族についての悩み(介護、健康、子どもの就職等)」(2%)、「組合員の地域活動(ボランティア、生協活動、子育て・教育活動)」(2%)の順で、職場のことは比較的よく知っているが、組合員の家庭や地域での生活実態や活動はあまり知っていない。このように組合役員には職場以外での組合員の姿はあまり見えていないことがわかる。

表1 組合執行部の組合員生活認知度

よく知っている ある程度知っている あまり知らない 知らない NA 合計
賃金実態 33.0 51.1 11.8 2.8 1.3 100.0
残業実態 26.3 61.0 8.9 1.9 1.9 100.0
年休取得 19.3 50.1 23.5 4.4 2.7 100.0
生休取得 13.2 23.3 28.5 22.5 12.6 100.0
暮らし向き 8.1 48.3 35.2 6.7 1.7 100.0
家族の悩み 2.0 30.1 50.1 16.5 1.3 100.0
地域活動 1.8 19.8 50.8 26.0 1.5 100.0

 では、個々の組合員の生活実態を執行部はどこまで把握していくべきだと考えているのであろうか。「きちんと把握しているべき」18%、「ごく大まかに把握しているべき」61%、「あまり把握しなくてもよい」11%、「把握する必要はない」3%などとなっており、約8割は職場だけではなくて、個々の組合員の暮らし向きや家族の悩みなど生活領域についても把握すべきであると考えている。これは労働組合の要求づくりが仕事の場だけでなく、生活の場を含めて広く捉える必要性があると思われていることを示している。

図1 この一年で力を入れた職場の取り組み〈労働条件〉

図2 この一年で力を入れた職場の取り組み〈均等待遇など〉

図3 この一年で力を入れた職場の取り組み〈組織強化〉

図4 この一年間で力を入れた取り組み(地域・政策課題など)

 第4に、この1年間に特に力を入れた職場での取り組みをみると(図1〜4)、「賃金引き上げ・賃下げ阻止」79%、「機関紙・誌など宣伝活動」51%、「労働時間短縮・サービス残業根絶」48%、「職場におけるその他の不満や苦情解決」42%、「リストラ阻止・雇用の維持、要員増」40%、「ボーナスの維持・改善」39%、「組織拡大・強化」34%、「安全衛生、メンタルヘルス対策」32%、「有休取得促進、育児・介護含む休暇制度充実」30%、「正規と非正規の均等待遇」27%、「福利厚生の維持・改善」25%など多面的な活動が展開されている。
 やはり賃金や労働時間、雇用など基本となる労働条件に関わる取り組みが多くなされているが、あわせて均等待遇などの差別的取り扱いの解消や個々の労働者の不満や苦情への対応も力を入れていることがわかる。また組織強化との関連では機関誌活動が多くの組合で取り組まれ、さらに組織拡大・強化への対応も3分の1強の組合で取り組まれている。
 そして、これら職場や企業内での活動だけではなく、地域での共同の活動や制度要求などにも活動領域が広がっている。この領域での活動としては、昨今の政治情勢を反映して、憲法・教育基本法改悪阻止、平和運動が55%と最も高く、次いで年金・医療・福祉の改悪阻止・充実45%、地域の課題での他労組や団体・市民との共同37%、公務員制度(給与含む)改革36%、行革・規制緩和の阻止25%、労働法制改悪阻止・改善21%となっている。特になしも14%ある。
 他方、今後取り組むべき課題としてあげられているのは、「賃上げ・賃下げ阻止」(63%)、「憲法・教育基本法改悪阻止、平和運動」(40%)、「年金・医療・福祉の改悪阻止・充実」(31%)、「時短・サービス残業根絶」(30%)、「リストラ阻止・雇用の維持、要員増」(28%)、「公務員制度(給与含む)改革」(27%)、「組織拡大・強化」(26%)などであり、賃金や労働時間とならんで、政治・制度的課題への意識が高まっている。

3)労働組合をもっと楽しく、魅力あるものにするために
 労働組合をもっと楽しく魅力のあるものにするために必要だと考えられていることは、「組合員同士の交流を深める」77%、「要求を実現する」76%、「若い組合員を増やす」43%、「青年や女性が中心になった企画を増やす」30%、「地域の労働組合間の交流」25%などである。労働組合は人のネットワークによって活動がなされる組織であるから、交流が活動のエネルギーを生み、また活動の成果がいっそう活力を生み出す源泉であることは確かであろう。交流の方向の一つは内部での交流を深化させることであり、もう一つは外部へ向かっての交流の広がりである。加えて、新しいメンバーが増え、そうしたメンバーがいきいきと活動に参加できれば楽しさや魅力もさらに増すことになろう。
 その意味で、青年や女性への働きかけや労働組合員を増やすための取り組みが成果を生み出すかどうかは、労働組合が楽しさや魅力を創り出すことができるかどうかの試金石ともいえる。ここではまずは「青年組合員」を労働組合の有力な担い手として育ってもらうための取り組みがあげられている。労働組合として行っていることは、「新入時の学習」37%、「青年の組合役員への登用」31%、「青年部の強化・青年部の設置」28%、「青年主体のイベントの重視」27%、「青年と執行部との対話・交流」26%などがある。これらはあくまで組合員になった青年への働きかけである。とすれば、これらの実施率はあまり高いとはいえない。実施率の高い「新入時の学習」で最も高い国家公務員関係労組でも実施率は45%である。これでもまだ新入時に半数以上の「青年組合員」に学習する機会を提供できていないのである。
 この間、組織拡大・強化が活動の重要な柱として強調されてきたこともあって、組織の拡大・強化や非正規の組織化に力を入れて取り組む労働組合も、前述のように組織の拡大・強化で34%、非正規の組織化で12%となっている。そしてその組合員を増やすための取り組みとしては、「新入社員・職員への働きかけ(パンフレットなどの印刷物の配布含む)」が最も多くて64%、次いで「職場内の未組織労働者への働きかけ」49%、「新入社員・職員への組合説明会・学習活動の実施」42%、「執行委員会での継続的な組織拡大の議論」34%、「共済活動など組合加入メリットの研究・強化」25%などとなっている。
 組合員を増やすための活動の中心はまだ新入職員への働きかけに置かれているが、既にみたように組合員の減少の原因では新規採用減がトップにあげられており、新入職員中心の働きかけだけでは減少に歯止めがかかりにくくなっている。そのため「職場内の未組織労働者への働きかけ」が重要になっているが、正規、非正規を問わず職場内の未組織労働者は労働組合に魅力を感じていない。まずこの周辺の未組織労働者に対していかに労働組合の魅力をリアルに伝えることができるかが課題となると思われる。
 次に、青年層への対応とならんで、労働組合の楽しさや魅力を増すための、また組織拡大の戦略的課題として女性または「女性組合員」への対応がある。全労連もこの課題の重要性を自覚して5年後をめどに「執行部の女性比率を3割にすることを目標」としている。しかし、この目標に示される労働組合の組織および運動におけるジェンダーバイアスを克服する課題はまだ浸透していない。執行部の5年後の女性比率目標を3割以上にしている組合は、わずかに17%である。5年後の執行部女性比率3割未満が23%、目標なしが55%、あわせて約8割の組合はまだこの戦略的課題に正面から向き合おうとしていないと思われる。
 このジェンダーバイアスによる歪みに敏感に対応できない問題点は、他にも示されている。「女性組合員の要望は組合活動にどの程度反映されているか」に対する執行部の評価は反映(十分+どちらかといえば反映)70%となっている。しかし、女性が参加しやすくなるような取り組みをしているのは、「女性が集まりやすい場所・時間を工夫する」27%、「育児・介護休業の取得率向上など女性が働きやすい職場作りに取り組む」26%、「主に女性を対象とした学習会・懇親会等を実施する」20%、「男女間の均等待遇に向けて取り組む」18%などとなっており、その実施比率はあまり高くない。「特別な取り組みはしていない」が41%にものぼっている。
 組合員個人に対する意見や要望の組合活動への反映度は、男性組合員で反映58%、女性組合員48%となっている。(表4・P.21)このように執行部の女性組合員との現状に対する評価はかなり乖離している。このような「女性組合員」への対応は、非正規労働者の組織化への取り組みの遅れと同質の問題をはらんでいる。この非正規労働者に対する組織化については78%の執行部が必要性を感じている。しかし、組織化のための具体的計画をもっている組合は23%にすぎず、また力を入れて取り組んでいるのはさらに少なく前述のように12%である。必要性の認識と実行の間の巨大なギャップはこの課題への取り組みがまだ建前に過ぎないことを物語っている。
 非正規労働者の大半が女性や青年である現実からすれば、少なくとも同じ職場に働くそれら条件不利の労働者を放置して、労働組合活動の楽しさや魅力を追求しても、非正規労働者からだけではなく、組合員の青年や女性からも評価されにくいのではないかと思われる。条件が違いすぎるなかでどのように団結の可能性を創造的に追求するかが求められているが、その際に組合員である「正規」労働者のなかにある、「正規」が「非正規」を守るという発想を転換させる必要がある。「非正規」の利益の徹底的擁護こそが「正規」労働者を守ることになる、このことの自覚がリアリティをもって「正規」労働者のなかで共有化できなければ、非正規の組織化はスローガンのまま止まることになる。
 労働組合の魅力を増大させる活動が企業の外に向かったり、外との交流や協働として発展し、制度要求運動へと連動すれば、全労連が克服すべき課題としてあげていた根強い企業内意識の残存に歯止めをかけ、転換を図ることができるだろう。企業や事業場・職場などの組織の枠を超えて活動する取り組みとして行われているのは、「同じ産業での統一行動」48%、「他組合との協力・共同」48%、「地域との交流」27%、「パート・派遣の要求を取り入れる」17%、「要求実現を企業内だけで行わない」17%、「社会保障・社会福祉」16%、「最低賃金の要求」11%である。このように企業の枠を超えた活動がいろいろ行われてきており、企業内主義の克服への努力が始まっているが、制度要求はまだ少ない。

4)組合役員による活動全体と信頼度への自己評価
 組合役員による組合活動全体の活気度についての自己評価(組合役員の主観的判断)は、「大変活気がある」(5点)3%、4点18%、「普通」(3点)47%、2点26%、「全く活気がない」(1点)4%のように分布している。組合の置かれている厳しい環境を反映して、1点、2点の「活気がない」と自認する比率の方が少し高くなっている。ではこうしたなかでも「活気がある」(5点、4点)と答えた比率が高いのは、どのような活動をしている組合であろうか。
 集会・学習会などの開催や参加などの取り組みを積極的に行っている組合、産別組織や地域労連に加盟・参加し、全労連の方針や活動を意識し、その情報も活用している組合は活気度が高くなっている。また組合員拡大や組織の枠を超えて活動する取り組みを実施している組合も活気があるとする比率が高くなっている。さらにこうした活動の結果、組合員数が「増加」ないし「横ばい」の状態にある組合でも活気度が高くなっている。
 このように「活気がある」ことを組合役員が自認している組合では、さまざまな活動に取り組んでいるだけでなく、その活動が職場や企業を超えて、外に向かって広がっていることがわかる。組織拡大や企業内主義の克服に向かって果敢に行動している時に、組合役員も組合の活性化に手応えを感じることができるものと思われる。
 では、労働組合は組合員にとって頼りになる組織になっているのであろうか。これについても組合役員の自己評価をみてみよう。組合員にとって「頼りになっている」22%、「どちらかといえば頼りになっている」47%で、合計約7割の組合役員は組合員が組合を頼りにしていると思っている。頼りになっていないは、「どちらかといえば頼りになっていない」6%+「頼りになっていない」2%で、8%にすぎない。前述のように、活発な活動はできていないとは思っているが、しかし、組合員には頼りにされていると確信している組合役員が多いのである。
 以上のように、組合役員は労働組合の活動の現状について必ずしも活発であるとは思っていないが、組合員への信頼は高い。このギャップを埋めているのは、やはり組合役員の人たちの献身的な取り組みではないか思われる。しかし、それであればこそ組合役員としての悩みをいろいろ抱えている。
 組合役員として最近経験したことが表2に示されている。「よく経験する」の比率が高いのは、「執行委員のなり手がいない」59%、「組合役員になることの魅力が薄れている」50%、「組合の会議や集会への参加状況が悪い」39%、「職場委員のない手がいない」37%、「機関会議で欠席者が目立つ」24%などである。組合役員のなり手が少なくなるなど職場レベルでの活動家層が細っていることが示されている。ここには組合役員の孤立感さえうかがえる。活動の幹部請負からの脱却が課題になっているが、幹部が請け負わざるを得なくなっている現実が示されている。
 この組合役員の最近の経験で注視する必要があるのは、職場や社会で起こっていることに対する理解や評価で、組合員間や組合役員と組合員間、また役員相互の間で合意がとりにくくなっているという問題である。これは団結の構造的な危機ともいえるものであり、現場役員の気持ちを重くしている。こうした危機は労働者のおかれている多忙で孤立的でストレスが多く、その上低賃金で不安定な労働生活環境に起因するものであるが、加えて労働者間の信頼を傷つける個人主義的イデオロギーがさらに促進している。考え方の違いはあっても、共同して活動に取り組めるような仲間意識をどう形成するかが大きな課題になっている。

表2 組合役員が経験していること

よく経験 時々 あまり 経験なし
A.執行委員のなり手がいない 59.1 24.1 8.8 4.7
B.職場委員のなり手がいない 37.1 28.8 14.9 9.9
C.組合役員と組合員間で組合についての
 考え方の違いを感じる
15.5 48.8 25.8 5.7
D.組合役員間で組合についての考え方の違いが大きい 6.5 34.6 43.2 10.8
E.若い人には組合を通して職場問題や労働条件の
  改善をはかる気がない
16.9 40.4 25.2 10.8
F.組合役員になることの魅力が薄れている 49.6 33.2 7.8 4.2
G.組合の会議や集会への参加状況が悪い 38.6 39.5 12.7 5.3
H.機関会議で欠席者が目立つ 23.5 36.7 25.9 8.4
I.職場の同僚間での仲間意識が希薄になっている 13.7 40.0 28.8 7.2
J.役員がすぐかわり、経験が蓄積・継承されない 13.9 27.6 35.6 16.3
K.組合財政悪化で取り組みが縮小している 11.3 25.2 38.4 20.1
L.若手役員の意見が通りにくい 2.0 13.0 52.2 25.3
M.組合活動がリストラ対策に追われる 6.6 9.8 30.5 46.9
N.組合活動が使用者・当局に妨害される 3.8 14.2 33.4 42.8

2.組合員は職場や組合活動の現状をどう見ているか

 今回の調査の特徴は組合役員のみている労働組合と組合員個人がみているそれを重ねながら、労働組合の現状を把握しようするところにある。

1)個人組合員のプロフィール
 最初に、個人調査組合員のプロフィールからみることにしよう。まず、性別・年齢別であるが、男性60%、女性40%、20歳代14%、30歳代27%、40歳代28%、50歳代28%、60歳以上2%という構成になっている。雇用形態は、正規労働者85%、嘱託7%、パート3%、臨時2%、男性では96%が正規、女性は正規70%、嘱託17%、パート7%となっている。職種では、専門技術職(看護師、教師など資格職)が最も多くて34%、次いで企画・事務職(事務系のデスクワーク中心)29%、現業・技術職9%、交通・運輸職6%などとなっている。またこの個人組合員の特徴は役員経験比率が高いことである。すなわち、現在役員34%、過去に役員経験あり24%、経験なし37%と、組合役員経験者が6割近くを占めている。その意味で、この組合員は今の全労連の組合員をそのまま反映したものではない。個人組合員のかなり積極的組合関与層が多いと思われる。

2)仕事観と生活の現状への評価
 職業観のあり方は、現在自分がついている仕事への評価を左右する。一番理想的だと思う仕事としてあげられたのは、「仲間と楽しく働ける仕事」で23%、以下、「健康を損なう心配のない仕事」19%、「失業の心配のない仕事」17%、「専門知識や特技が活かせる仕事」12%、「世の中のためになる仕事」9%などとなっている。性別にみると、女性で仲間志向、健康志向、専門志向が高くなっている。NHK放送文化研究所『現代日本人の意識構造』(2003年調査)の同じ質問項目と比較すれば、専門職志向が8ポイント低くなっていることを除いてほとんど差がみられない。前述のように専門技術職の比率が高いにもかかわらず、理想とする仕事で専門職志向が低いのは意外な感じがするが、逆に理想と現実のギャップが大きいのであろう。
 組合員の仕事や生活の充実度・満足度は表3のようになっている。これを「職場」と「家庭・地域生活」、「自分のこと」の3つに分けてその特徴をみると、次のような結果になっている。充実、満足(4と5の比率の合計)と不足、不満(1と2の合計)の差を不満度又は満足度とすれば、「職場」に関する項目では、賃金の不満度-30ポイントと最も高く、次いで人事・評価・査定-23、仕事の内容、すすめ方-22となっている。職場の人間関係は+20、雇用の安定は+14と満足度が大きくなっている。このように「職場」生活では賃金や処遇等でマイナス、人間関係等でプラスとなっているがトータルでは不満が41ポイント上回っている。
 「家庭・地域生活」では、家計の不足、不満が大きく-29ポイント、次いで地域でのつきあい・活動が-2とわずかにマイナスとなっている。しかし、家族のつながりの満足度が+38と大きく、また子育て・教育環境+12、住居・住宅環境+9などもプラスになっており、全体では満足が+28と上回っている。家計の不足を除けば家庭生活では満足度が高くなっている。自分の「個人生活」では健康・ストレス・体力(-29)、個人的な自由時間(-24)、生きがい、人生の見通し(-20)、地域や社会での活動(-20)、仕事の能力(-10)といずれの項目でも不足、不満が上回っている。
 これらからうかがえることは、仲間志向の仕事観もあって、職場での人間関係の形成には成功しており、満足感も高くなっているが、賃金、処遇等では不満足な状態にあり、それが家庭生活における家計の不足へと連動していることである。しかし、「家庭生活」は全般に満足度が高く、「職場」生活での困難をカバーしている面もあるが、それが組合員個人の生活レベルでの生活の質の改善にまでは至っていない。「個人生活」の面では極めて大きな不満、不安を抱えていることが浮き彫りにされている。
 組合員個人が抱える家庭でも吸収できない悩みや困難は誰が受け止めているのであろうか。悩みや困りごとの相談相手としてあげられているのは、もちろん夫婦や親兄弟などの親族の比率が高くなっている。これはどの調査でも同様である。しかし、今回の調査の特徴は、家族・親族とともに職場の同僚(48%)や上司(16%)が高い比率で登場していることである。また組合役員も13%と高くなっている。仲間志向の職業観の面目躍如というところであろうか。
 職場でのつきあい方も、親睦・懇親行事等に「よく参加」40%、「たまに参加」53%で9割以上が参加している。職場の同僚とのつきあいは、平日のつきあいのみ49%、休日もつきあいがある23%、家族ぐるみのつきあい3%、「つきあいなし」18%となっており、大半の組合員は通常のつきあいはしている。前述の組合役員の「職場の同僚間での仲間意識が希薄になっている」と感じる経験とここでの個人調査における組合員の仲間志向をどのように結びつけるか検討をする必要がある。

表3 組合員の仕事と生活の充実度・満足度

全く不満 やや不満 どちらでもない やや満足 とても満足 合計
賃金 14.0 32.3 36.2 13.9 2.3 100.0
仕事内容 8.4 28.8 45.2 13.1 1.9 100.0
人事・評価 10.1 23.0 52.7 8.0 1.5 100.0
人間関係 4.0 12.3 45.5 28.8 7.4 100.0
雇用の安定 7.2 12.9 42.5 26.1 8.0 100.0
家計 11.1 30.9 43.6 11.1 1.9 100.0
住居環境 4.8 16.6 46.7 24.4 5.9 100.0
家族関係 1.3 6.0 36.7 29.6 15.3 100.0
子育て 1.7 9.1 36.9 18.8 4.4 100.0
近隣関係 4.7 15.7 59.6 14.9 2.8 100.0
健康 10.5 33.9 39.6 12.8 1.9 100.0
仕事の能力 3.4 19.2 62.2 12.0 1.3 100.0
自由時間 10.8 29.7 41.3 13.8 3.1 100.0
生き甲斐 7.2 27.3 49.3 12.9 1.9 100.0
地域活動 6.4 23.6 58.3 8.6 1.2 100.0

3)組合活動への参加の仕方
 組合員の組合加入の主なきっかけは、「ほとんどの人が加入していた」43%、「ユニオンショップ」18%、「勧誘された」16%、「自発的に加入した」15%、「闘う必要に迫られて加入」5%などとなっている。勧誘を含めて意識して組合加入をした者は3分の1強で、他はあまり強く自覚しないで加入している。しかし、現在の活動への参加は、「活動の中心を担う」15%、「行事や集会によく参加」35%、「組合に関心はあるがあまり参加できていない」27%、「関心がないのでほとんど参加しない」12%、「組合費を払うだけ」6%となっている。
 これをまとめると積極的参加層(活動の中心+行事等へよく参加)50%、形式的組合員層(関心がない+組合費払うだけ)2割弱、精神的参加層(関心はあるが各種の事情で現在は参加できていない)3割弱という構成になる。女性組合員や20歳代、30歳代の若い世代で、全般に形式的組合員層や精神的参加層の比率が高くなっているが、女性組合員の場合には、精神的参加層の比率が高く、この層をさまざまな参加条件の工夫等により積極的参加層へどう誘うかが課題となっている。
 次に組合員の側から自分たちの組合が重視してきた課題や今後重視してほしい課題をみることにしよう。組合員が組合として重視したと受け止めた課題は、「賃金引き上げ・改悪阻止」が最も高くて67%、次いで「ボーナスの維持・改善」33%、「労働時間短縮・サービス残業根絶」26%、「リストラ阻止・雇用の維持、要員増」21%、「有休取得促進、育児・介護含む休暇制度充実」21%、「職場におけるその他の不満や苦情解決」20%などとなっている。これについては既に述べたように組合役員サイドからも聞いている。組合員の受け止め方は、全体に組合役員より比率が低くなっている。またボーナスや雇用問題の順位が上位になっている。
 この傾向は地域や政策課題においても同様になっているが、年金・医療・福祉の改悪阻止・充実の社会保障闘争が、憲法・教育基本法改悪阻止、平和運動よりも上位にきているのが違いとなっている。また今後、もっと力をいれるべき課題として、「賃金引き上げ・改悪阻止」50%(63%)、「年金・医療・福祉の改悪阻止・充実」29%(31%)、「ボーナスの維持・改善」21%(17%)、「憲法・教育基本法改悪阻止、平和運動」20%(40%)、「労働時間短縮・サービス残業根絶」20%(30%)、「リストラ阻止・雇用の維持、要員増」18%(28%)などがあげられている。〔( )内は組織調査のデータ〕
 このように組合員が重視を求める要求・政策課題では、賃金や社会保障要求、ボーナスなどの収入増、又は負担減などの所得に関わる要求を重視していることがわかる。今日の政治的情勢からすれば、「憲法・教育基本法改悪阻止、平和運動」はいよいよ重要になっているが、組合役員と組合員の力点のおき方の大きなギャップを押さえた上で取り組まないと大衆的運動としてのエネルギーを引き出すことにはならないと思われる。
 さて組合員は自分の意見や要望が組合活動に反映されていると思っているのであろうか。これについては、54%が「反映されている」、33%が「反映されていない」としている。前述のように組合役員と組合員の要求や課題設定で随所にズレが現れてはいたが、この数値はかなり厳しい評価といえよう。組合役員が「組合役員と組合員間で組合についての考え方の違いを感じる」という経験がここにも示されている。特に、女性組合員の「反映されている」比率は50%を下回っており、組織調査における組合役員の「反映している」比率70%とかなり乖離している。(表4参照)

表4 組合員の意見・要望の反映度

十分反映 どちらかと
いえば反映
どちらかといえば
反映されない
全く反映
されない
無回答 合計
合計 7.9 45.6 24.5 8.0 14.0 100.0
男性 8.9 48.7 24.9 8.0 9.6 100.0
女性 6.4 41.2 24.0 8.1 20.3 100.0

4)組合員の労働組合の役割への評価
 組合員は自分の組合のことだけでなく、労働組合一般の役割をどうみているのであろうか。まず、労働組合活動が「社会全体」に与える影響については、「労働者の権利が守られる」53%、「労働条件がよくなる」48%、「社会保障制度が充実される」21%、「民主主義が保たれる」19%、「男女間の雇用平等が進む」13%が主なものとしてあげられる。また経営者や当局への影響ということでは、「福祉厚生や職場環境の改善」31%、「人員削減に歯止めがかかる」26%、「不公正な人事考課が少なくなる」22%、「正規職員の賃金があがる」21%、「経営に従業員の意見が反映される」18%などとなっている。
 組合役員や元役員の比率が高いだけに、労働組合の社会的機能をリアルに評価していると思われる。労働組合による労働者の権利擁護や労働条件の改善機能などが評価されているが、それも主として正規労働者に対するもので、非正規労働者の権利擁護や労働条件の改善等にまでは及ばないことが示されている。また男女間の雇用平等への役割も低くなっている。
 では、組合員は労働組合への加入のメリット、デメリットをどう考えているのだろうか。まずメリットとしてあげられているのは、「賃金・労働条件が維持改善される」49%、「労働者の権利が守られる」37%、「不満や苦情を経営者に伝えやすくなる」28%、「仲間ができる」27%、「雇用が安定する」22%、「休暇取得やサービス残業が改善される」21%、「不公平な人事や労働条件格差が縮小する」21%、「組合員の意見や要望が経営に反映される」19%などである。働く場での問題解決の担い手として、また仲間志向の受け皿として組合が信頼と期待をもたれていることがわかる。
 他方、デメリットとして意識されていることは、「時間がとられる」39%、「組合費の負担」32%、「特に問題はない」27%、「義務や責任を重く感じる」16%などである。仕事も生活も多忙化し、前述のように個人の自由時間がとれないことに多くの組合員が不満をもっているなかで時間問題が強く意識されるのであろう。特に若い世代では、組合活動における時間とお金をマイナスと受け止める傾向が強くなっている。この多忙構造の打開に向けての運動は労働組合の未来を切り開くためにも重要な課題になっている。
 自分の意見や要望が反映されていないと思っている組合員が3分の1に達していたり、形式的組合員層や精神的参加層が5割近くもいたり、また組合加入による時間やお金のマイナスを感じている組合員が3〜4割いるなかで、組合員は労働組合を役に立っていると思っているのであろうか。これについては、「大いに役に立っている」23%+「まあまあ役に立っている」48%で、役に立っているが7割になっている。いろいろ不満や批判はあるが、組合員は一応労働組合が役に立っていると評価しているのである。とはいえ、20歳代、30歳代の若い世代では「役に立っていない」+「わからない」の比率が高くなっていることもみておく必要がある。

おわりに
−調査からみる労働組合運動の未来−

 労働組合や労働組合運動に未来があるとすれば、それは労働者たちにとって有用な組織であり運動であることをリアリティをもって示すことである。とはいえ、労働者といっても一枚岩ではなくそのおかれている状況は多様であり、したがって多面的な要求をもっている。これらの多様、多面的な労働者の要求をまとめて統一的な運動に発展させることができなければ、もちろん労働組合に未来はない。そして統一に向かうためには、それが職場レベルにせよ、企業レベルにせよ、地域レベルにせよ、全国レベルにせよ、女性と男性、青年と壮年と高齢者、正規労働者と非正規労働者、就業労働者と失業者、「健常」労働者と「障害」労働者、組織労働者と未組織労働者、日本人労働者と外国人労働者などの間の、微細な利害の違いを調整しなければならない。
 また利害の違いを調整しながら、多様な労働者たちが共同して運動することで、労働者たちがおかれている失業と貧困と過度労働から少しでも脱却できることを実証し、運動の「有効感覚」を取り戻さなければならない。したがって、この過程は労働者たちの力の源泉である「多数」を回復する過程と重なりながら進行することになるのである。今日のグローバル化した、先進資本主義社会の下で、微細な差異のもとにある労働者たちを、「多数」者として結びつけることは至難の業であろう。しかし、この至難の業に挑戦しなければ、労働組合に未来はないのである。
 全労連が今必死で取り組んでいる組織拡大は、その意味で、労働組合と労働運動の未来をかけた運動の成否を決める試金石である。この組織拡大は未組織労働者との共同の活動を通して共同組織を広げていくことであるが、この過程は今日の労働組合の実体からすれば、未組織の女性、青年、高齢者、非正規労働者、失業者、「障害」労働者、外国人労働者などとの間での微細な差異の調整であり、共通の要求である失業と貧困と過度労働からの解放に向けた共同行動の創出である。
 そのためには、まずは、身近にいる未組織労働者の状態を知り、共同のための条件づくりを始めなければならない。今回の調査によると、組合員の身近にいる未組織労働者は非正規労働者が多数を占め、しかも女性が約6割と多く、また勤続年数が短い流動的な労働者が多くなっている。とはいえ約8割の人の職場には労働組合がある。それでも未組織労働者なのである。労働組合への加入意思は「すぐ加入したい」3%、「機会があれば加入したい」7%、「関心があり、加入を検討してもよい」10%と、加入の可能性がある労働者が2割にもなっている。「一人でも気軽に加入できる労働組合」への関心も、27%に上っている。
 未加入の理由も、「加入を勧められたことがない」20%、「正規職員でないと入れない」15%、「雇用不安でいつまで勤めるかわからない」12%など、未組織労働者自身が積極的に加入を否定しているわけではないものがかなり多い。つまり、組合の側からの働きかけが弱く未組織労働者のままで放置されてきたのである。そして労働組合の必要性も、77%の人が認めている。こうした労働組合の役割を認め、共同できる可能性が高い未組織労働者を放置したままにしておくことは、労働組合の側の問題である。全労連「21世紀の新しい労働組合づくりをめざして」が指摘しているような労働組合の自己改革の必要性を示している。
 最後に、全労連による労働組合の未来を切り開く活動をすすめるに当たっての強みについてふれて稿を閉じることにする。今回の組合員個人調査からもわかるように、活動の中心を担うなどの積極的参加層が分厚く形成されている。この献身的活動家集団の存在は全労連加盟組織の特徴であり、大きな財産である。もちろん中高年の男性が中心であり、仕事中心、職場中心の活動スタイルはモーレツ社員の組合版ともいえるものである。そして激しい攻撃のなかで職場の労働者の利益を守ってたたかい、成果もあげ組合も守ってきた。このような経験豊かな組合リーダーの存在は、組織拡大と組合の体質改善を進める上での強みである。
 今回の事例調査のなかでも、若年請負労働者を組織したJMIU光洋シーリングテクノ支部の役割や各地のローカルユニオンの活動、若いダンプ二代目を組織し始めた建交労関東ダンプ協議会南部支部、そして若手の臨時教員を支援する船橋市教組の活動、非正規社会との緩やかなネットワークづくりを成功させた繊研新聞労組の取り組みなど各地でさまざまな未組織労働者と多様な接点をつくりだす活動が報告されている。熟達した活動家集団が未組織労働者組織化の新たな可能性を切り開きつつあるのである。
 このような全労連組織の強みを今後も持続させていくためには、新しいリーダー像を創る必要があるし、また新しい組織文化を創る必要があると思われる。若い世代や女性からみると、経験豊かな活動家たちは尊敬はするがマネをしたい存在ではなくなっている。もちろん活動に時間やお金がかかるということもあるが、その活動が内向きで身内の利害にしか関わっていないとみられていることも大きい。そのこともあって活動が魅力的に映らないのではないか。貧困や環境問題などに関わるNPO活動には、多くの若者や女性が参加し積極的な役割を担ったりしている。活動にお金がなく、活動してもお金にならないことでは労働組合に引けをとらないが、それでも多くの若い世代を惹き付けている。
 これはNPOのもつミッション(使命)の公共性に惹かれる部分が大きいと思う。労働組合の協同性は単に身内の利害にだけ向けられるのではなく、外に開かれた協同性であり、公共性と接合したものである。しかし、日本の労働組合が運動によって獲得した成果を、制度によって社会的に一般化することに必ずしも成功していないために、既特権擁護の内向き団体というイメージをつくられているのである。その意味では、組織拡大を成功させるために、労働組合が公共性を強く打ち出して、青年や女性に的確なメッセージを発信する必要があると思う。
(本稿は05年11月11日に、全労連と共催したシンポジウムでの「報告」に、当時の質問などをふまえて加筆したものである。)

(はまおか まさよし・常任理事・佛教大学)


第2回常任理事会報告

 第2回常任理事会は、05年12月11日、日大経済学部7号館で、午前11時から午後1時半まで、牧野富夫代表理事の司会でおこなわれた。
 以下の「報告事項」について、藤吉信博事務局次長が報告した。1)『労働組合活動の実態と課題と展望』(第1次中間報告)を11月初旬に発行した。同月10〜12日、全労連が熱海で開催した「地域運動交流集会」の中で、11日、全労連と「新たな試練と飛躍の可能性―これからどうする日本の労働運動」のシンポジウムを共催した。冒頭、牧野代表理事が、全労連と共同で取り組んでいる「労働組合活性化調査」の意義に触れた挨拶をおこなった。シンポジウムに先立ち、浜岡政好常任理事が「報告書」の概要について報告した。シンポジウムは、シンポジストに大木一訓代表理事、坂内三夫全労連事務局長、堀内光子ILO駐日代表、山路憲夫白梅学園大教授、コーディネーター岩田幸雄全労連事務局次長でおこなわれ(月刊全労連3月号参照)、会場発言を含む活発な討論がおこなわれた。
 2) 『国民春闘白書2006』は、従来の春闘白書の伝統を引き継ぎながら、年間を通じて活用できる統計資料集的側面を強め、発行した。
 「協議事項」=「『研究部会・プロジェクト研究会』再構成の方向について」、大木代表理事から「研究所活動のあり方検討委員会の試案」が報告され、討議された。討議の結果を踏まえ、「検討委員会」でより具体化し、第3回常任理事会に提起することが確認された。
 労働総研設立15周年記念シンポジウム「労働政策の新自由主義的展開へのわれわれの対抗軸を考える」(『労働総研クォータリー』06年冬季号参照)および記念レセプションの進め方などについて藤吉事務局次長から報告され、確認された。


10〜12月の事務局日誌

10月 8日 山梨県労第17回定期大会へメッセージ
11日 第1回企画委員会
13日 労働法制中央連絡会事務局団体会議
15日 第1回常任理事会
19日 自交総連第28回定期大会へメッセージ
11月 10-12日 全労連「地域運動交流集会」
20日 研究所活動のあり方検討委員会
29日 事務局会議
12月 1-2日 全労連「06国民春闘討論集会」
11日 第2回常任理事会
設立15周年記念シンポジウム・レセプション(「労働総研クォータリー」No.61参照)

10〜12月の研究活動

10月 11日 女性労働研究部会―厚労省の来年度予算要求について
13日 労働運動史研究部会―ヒアリング
国際労働研究部会―「世界の労働者のたたかい」について
14日 賃金最賃問題研究部会―連合総研報告書について
22日 政治経済動向研究部会―総選挙後の情勢について
25日 労働時間問題研究部会―出版物の検討
11月 11日 労働総研・全労連共催シンポジウム
「新たな試練と飛躍の可能性−これからどうする日本の労働運動」
賃金最賃問題研究部会―アメリカの賃金制度の変容
14日 女性労働研究部会―戦後60年における女性労働問題に係わる理論と運動の発展について
19日 社会保障研究部会(公開)―アメリカの医療は今どうなっているのか
22日 労働時間問題研究部会―労働契約法制の内容検討
25日 国際労働研究部会―「世界の労働者のたたかい」について
26日 関西圏産業労働研究部会―「現代における国家と賃金」を考える
12月 9日 賃金最賃問題研究部会―最近の財界の賃金政策の展開について
11日 設立15周年記念シンポジウム
15日 女性労働研究部会―女性労働問題理論の発展について
20日 中小企業問題研究部会(公開)―「(日本)中小金融機関の現状と課題」「中国における中小企業と金融問題」
22日 労働運動史研究部会―ヒアリング
国際労働研究部会―「世界の労働者のたたかい」について