労働総研ニュースNo.184号 2005年7月



目   次

2005年度定例総会方針案
[I] 2004年度における経過報告
[II] 研究所活動をめぐる情勢の特徴
[III] 2005年度事業計画
[IV] 研究所活動の充実と改善




労働運動総合研究所
2005年度定例総会方針(案)

[I 2004年度における経過報告]

 労働総研は、04年度定例総会から05年度定例総会までの間を、「設立15周年記念事業年」と位置づけ、活動してきた。04年度の研究所活動の特徴は、労働総研設立の原点に立ち、今日の情勢にふさわしい活動の強化に努めてきたことである。とくに、設立15周年記念事業として全労連と共同でとりくんでいる「21世紀の初頭の変化に対応した労働組合運動強化のための実態調査・研究」など、全労連との協力・共同が具体的な事業を通じて強化されたことは重要である。

(1)3代表理事と事務局長の年頭の訴え:
   「憲法9条を擁護し、国民生活と権利擁護の転機の年に」

 小泉自民党・公明党連立内閣は、民主党をもまきこみながら、アメリカの要請に積極的・能動的に呼応する「改憲構想」を打ち出し、自衛隊がアメリカの指揮下に公然と海外での軍事行動を展開できるようにするため、憲法9条破壊を軸とした本格的な憲法改悪にのりだした。われわれは、戦後政治史の新たな重大な段階をむかえている。こうした情勢のもとで、大江洸・大木一訓・牧野富夫3代表理事と大須眞治事務局長は連名で、05年1月1日、「憲法9条を擁護し、国民生活と権利擁護の転機の年に」と題する年頭の訴えを発表した。この年頭の訴えは、「九条の会」や「憲法改悪阻止国民過半数署名」運動、労働総研も参加する「憲法改悪反対共同センター」など、かつて経験したことのない多彩で創造的な国民的規模の運動の広がりを励ますとともに、盛り上がりつつあるとはいえ、運動の現状は情勢の急速な進展にくらべ著しく立ち遅れている事実を直視するよう、率直に訴えている。同時に、訴えは、労働総研に結集する会員一人ひとりに、「労働運動の必要に応えるとともに国民生活の充実向上に資すること」を目的に設立された研究所の立場から、憲法改悪の意味することを具体的に分かりやすく一人でも多くの国民に知らせること、あらゆる可能性をつかみ知恵を結集して、憲法改悪に反対する行動に立ち上がること、そして、05年を憲法改悪の元年ではなく、憲法をより深く国民の中に根付かせ、国民生活と権利改善の方向に向かわせる転機の年にするうえで、会員としての誇りをもって大きな力を発揮することを、呼びかけている(『労働総研ニュース』05年新年号に掲載)。

(2)全労連との協力共同の強化

i)日常的なコミュニケーションと協力・共同の発展
 当研究所の代表理事・事務局長等の全労連との懇談・協議などの他、とくに、設立15周年記念行事の一環として、全労連と共同でとりくんでいる労働組合調査のための総合企画委員会・同事務局等での具体的な検討・作業を通じて、実践的なコミュニケーションと協力・共同が強化されるようになった(詳細は『労働総研ニュース』No.181参照)。
 その他、全労連との協力・共同の強化については、以下のようなものがある。

ii)全労連のプロジェクト等への協力・派遣
 全労連の要請に応えて、全労連のプロジェクト等に協力するため、以下のように常任理事等を派遣・協力した。
(1)派遣・請負プロジェクト(伍賀一道常任理事、萬井隆令常任理事)
(2)男女雇用機会均等プロジェクト(川口和子理事、坂本福子・中嶋晴代女性労働研究部会員)
(3)社会保障闘争委員会(唐鎌直義常任理事)

iii)ナショナルミニマム検討委員会
 この検討委員会は、全労連の呼びかけに応えて、全生連・全商連・農民連・労働総研の5団体で構成されている。検討委員会の目的は、過去におこなわれたナショナルミニマム検討の研究成果を確認し、所得保障を中心に現情勢に適合したナショナルミニマムを検討することにある。そのための事務局団体会議が05年2月21日に開かれ、大須眞治事務局長・藤吉信博事務局次長が参加し、今後の運営方向が確認された。

iv)労働法制中央連絡会
 この連絡会は、大企業・財界・政府による労働者保護規制に対する際限なき破壊攻撃を阻止し、働くルールを確立するため、過去の運動の成果を踏まえ、現情勢にふさわしい形態で再確立された。05年5月11日、事務局団体会議がおこなわれ、新しい事務局団体と運営方向が確認された。5月26日、再開総会が開催され、代表委員の一人として牧野富夫代表理事が、事務局委員の一人として大須眞治事務局長(代理:藤吉信博事務局次長)が選出された。

v)憲法改悪阻止中央共同センター
 04年度定例総会の方針にもとづき、「九条の会」の運動をあらゆる側面で支持し、9条破壊を軸とする憲法改悪を阻止する重要な運動の一環として、この共同センターに参加している。共同センターは、05年5月13〜14日、平和と労働センター・全労連会館で「憲法闘争の発展をめざす全都道府県・中央団体全国交流集会」を開き、たたかいの飛躍をはかるため、全国の憲法闘争の経験を交流した。この集会には、全国から47都道府県98団体・198人が参加した。

vi)地方組織との協力・共同
 埼労連の呼びかけに応えて、埼玉県労働経済調査会がおこなった「埼玉県における勤労者の仕事とくらしの実態調査」を、埼労連と協力・共同してすすめた。この調査は、ローカルセンターがとりくんだ本格的な調査として注目すべきものであり、全労連との共同調査をおこなう上でも貴重な示唆を与えるものである。

(3)労働総研設立15周年記念事業

 04年度定例総会で確認された「設立15周年記念事業年」の遂行状況は以下の通りである。

i)記念シンポジウム
 05年5月に「これでいいのか日本の社会、これからどうする日本の労働運動」(仮題)を、全労連と共同して開催する予定であったが、全労連が、05年11月10〜12日、静岡・熱海で開催する「05年度地域運動交流集会」で、全労連と共催して開催することとした(05年度事業計画参照)。

ii)「労働組合調査」
 「記念シンポジウム」を成功させるために、大量調査と、ケーススタディー・ヒアリングを通じて、21世紀初頭における労働組合の運動強化・発展の条件・要因を、リアルに浮き彫りにすることを計画した。労働総研と全労連は、ともに04年度の定例総会と定期大会で、この調査を協力・共同しておこなうことを決定した。それらの決定を受けて、04年8月からその方針の具体化をはかり、全労連と共同で合同プロジェクトチームをつくり、調査計画の立案、調査票の作成、調査実施体制を確立しとりくんでいる。調査票は、(1)「『労働組合の課題と展望』に関する組織実態調査」と(2)「労働組合への期待と参加についての組合員アンケート調査」の2本である。これらの調査は、WEB調査の手法も活用し、現在進行中である(これまでの経過の詳細は『労働総研ニュース』No.181参照のこと)。05年5月28日には、ケーススタディー・ヒアリングを含めた調査担当者会議を開催し、調査の完成のために意思統一をはかった。

iii)独仏伊3ヵ国海外調査
 斎藤隆夫常任理事を団長に、大木一訓代表理事など8名の調査研究チームを、05年2月16〜26日までの10日間、ドイツ、フランス、イタリアに派遣した。調査団は、3ヵ国・6ヵ所で「職場における交渉権とその機能」および「企業の社会的責任」の問題などを中心に聞取り調査をおこなった。聞取り調査をおこなった団体は、ドイツ=シュトゥットガルトでのダイムラークライスラー従業員代表委員会(同世界従業員代表委員会)、フランス=ヴァランシェンヌでのトヨタ工場CGT-トヨタおよび同地域労組、パリでのルノー本社工場従業員委員会代表およびCGT-ルノー、イタリア=トリノでのフィアット工場ミラフィヨーリFIOM-CIGIL・RUS(統一労働組合)および、ローまでのフィアットFIOM-CIGIL・RSUそしてイタリア=ローマでのフィルカムス(FILCAMS)である。
 調査団の調査内容については、松本稔「労働総研設立15周年記念独仏伊3ヵ国調査研究団に参加しての見聞録」(『労働総研ニュース』No.180)、斎藤隆夫「独仏伊3ヵ国研究調査活動で感じたこと」(『労働総研クォータリー』05年春季号)、6月18日の研究例会「独仏伊3ヵ国調査研究訪問を終えて」(『労働総研ニュース』No.185掲載予定)、柴田外志明「日本の労働者が見た欧州労働事情」(『しんぶん赤旗日曜版』05年3月6日号)、藤田宏「見た、感じたEU労働事情」(『しんぶん赤旗』05年3月27日〜4月6日に連載」)などを参照されたい。

(4)プロジェクト研究

i)労働組合調査およびシンポジウムは、すでに見たように全労連との共同事業として進行中であるが、それは設立15周年記念プロジェクトに位置づけられ、04年度は10回にわたる共同の調査研究会が開かれた。
ii)「不安定就業労働者の実態と人権プロジェクト」は、04年11月26日、「今日の不安定就業労働者の実態と人権」と題する報告書(『労働総研クォータリー』04年夏・秋季号、No.55・56合併号)を発表して終結した。
iii)「基礎理論・理論問題プロジェクト」=「ナショナルミニマム問題整理・検討プロジェクト」は、昨年総会いらい8回の研究会を積み重ねてきたが、05年8月に報告書論文検討のための合宿をおこない、05年度中に報告をまとめる方向で努力中である。

(5)研究部会活動

 各研究部会の活動状況は以下の通りである(05年度事業計画を参照)。
 (1)賃金・最低賃金問題研究部会(8回、内公開研究会1回、研究例会「春闘50年と05国民春闘の課題を考える」に協力)。(2)労働時間問題研究部会(10回)。(3)青年問題研究部会(2回)。(4)女性労働研究部会(12回)。(5)中小企業問題研究部会(7回)。(6)国際労働研究部会(4回、内公開研究会3回)。(7)政治経済動向研究部会(3回)。(8)関西圏産業労働研究部会(6回)。(9)労働運動史研究部会(4回)。(10)社会保障研究部会(2回、内公開研究会2回)。

(6)研究例会・公開研究会

 研究例会・公開研究会の開催状況は以下の通りである。

i)研究例会「春闘50年と05国民春闘の課題を考える」は、賃金・最賃問題研究部会の協力を得て、05年1月27日、平和と労働センター・全労連会館で、シンポジウム形式で開催し、70人の参加者で成功した(『労働総研クォータリー』05年冬季号掲載)。
ii)研究例会「独仏伊3ヵ国調査研究訪問を終えて」は、05年6月18日、全労連会館で開催され、30人の参加で成功した。
iii)次の研究部会が、以下のような公開研究会を開催した。

 (1) 賃金最賃問題研究部会─アメリカのリビングウェイジ運動に学ぶ(報告者=大木寿全労連副議長・全労連・全国一般委員長・会員、04年9月17日)
 (2) 国際労働研究部会─最近の中国の状況について(報告者=平井潤一会員、04年9月30日)
 (3) 国際労働研究部会─曲がり角に来たアメリカの労働運動(報告者=岡田則男会員、04年10月29日)
 (4) 国際労働研究部会─フランス─攻勢に抗して組織拡大をめざす(報告者=坂本満枝会員、04年11月26日)
 (5) 社会保障研究部会―生活保護制度改革の問題点と最低限保障への影響(報告者=辻清二全生連事務局長、05年5月7日)
 (6) 社会保障研究部会―社会保障闘争の国民的共同の課題(報告者=石川芳子全労連社会闘争本部事務局長、05年6月11日)
 (7) 中小企業問題研究部会─中小企業憲章制定運動について(報告者=大林弘道神奈川大学教授、05年7月20日)

(7)研究所活動のあり方についての検討

 設立15周年を契機に、当研究所の調査研究活動、政策提起の能力を情勢の要請に応えて発展させるため、03年度定例総会決定に基づき研究所活動のあり方について「検討委員会」を設置した。「検討委員会」は常任理事会に4回にわたって「中間報告」を提出し、検討をおこなってきた。それらの検討結果と各プロジェクト・研究部会責任者へのアンケートなども参考に、05年3月26日の「プロジェクト・研究部会代表者会議」に、今後の研究所の活動のあり方についての提案をおこなった(『労働総研ニュース』N181、および05年度事業計画参照)。

(8)政策提言・出版・広報事業

i)事務局長談話「プロ野球選手会・NPBの実りある団体交渉のために」(04年9月21日、全文は『労働総研ニュース』04年9・10月合併号に掲載)
ii)『グローバル化のなかの中小企業問題』(05年6月・新日本出版社)
iii)「企業通信簿」(『05年国民春闘白書』、04年12月・学習の友社)
iv)3代表理事・事務局長年頭の訴え「憲法9条を擁護し、国民生活と権利擁護の転機の年に」(05年1月1日、全文は『労働総研ニュース』05年新年号に掲載)
v)埼玉県労働経済調査会の『埼玉県における勤労者の仕事とくらしの実態調査』を埼労連と共同でおこなった(05年6月)
vi)全労連編『世界の労働者のたたかい2005−世界の労働組合の現状調査報告』(05年6月)の執筆
vii)厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の「中間取りまとめ」に対する意見(パブリック・コメント)(05年6月20日、全文は『労働総研ニュース』183に掲載)

(9)地方会員の活動参加

 地方会員の研究所の調査研究活動への参加は長年の検討課題であったが、この点で進行中の全労連との共同調査で、地方会員の協力・参加を具体化する貴重な一歩を踏み出すことができた。

(10)事務局の体制強化と財政執行状況

 財政事情にともなう常駐事務局員の減少をカバーするため、代表理事も参加して開催する拡大事務局会議を定着させ、15周年記念事業を推進するなど事務局体制の強化をはかってきた。15年間にわたって積上げられてきた申し合わせ事項を含む規定等の整備に努めてきた。代表理事・常任理事会のイニシアティブで節約と効率的な財政運営に努力し、設立15周年記念事業を支える財政基盤の整備に貢献することができた。

[II 研究所活動をめぐる情勢の特徴]

 「労働運動の必要に応えるとともに国民生活の充実向上に資することを目的として」設立された当研究所の研究活動は、全労連との密接な協力・共同のもとに、労働運動の前進に実践的に役立つ政策立案をめざして、さまざまな分野の研究者や運動家の協力を得て、労働問題にかかわる総合的な調査研究を推進してきた。このような総合的な共同事業を前進させるうえで、当面する情勢にかんする認識を共有することは非常に重要である。
 最近の情勢には、大きく三つの特徴が見られる。
 第一の特徴は、米日支配層が憲法9条破壊を軸とする憲法改悪攻撃を本格化させていることである。この攻撃は、支配層が軍事・政治・経済・文化政策などの深刻な行き詰まりを反動的に打開する、平和と民主主義破壊の政策に他ならいが、支配層はそれを、マスコミを動員し、中国・北朝鮮脅威論や「二大政党」論のイデオロギーをふりまきながら推進している。
 第二の特徴は、9条破壊・憲法改悪の攻撃が、労働者・国民諸階層の生活と権利を破壊する攻撃と結びついて強行されていることである。日米軍事同盟と大企業の利益を最優先する「小泉構造改革」路線は、大企業優遇税制のもとでの国民大増税、医療・年金・介護・社会福祉・社会保障の切捨て・解体、「労働契約法制」やホワイトカラーに対する労働時間規制撤廃などに見る労働者保護立法の骨抜き、等々、戦後憲法体制のもとで労働者・国民諸階層が獲得してきた諸権利を抜本的に奪い去る攻撃を展開している。それらは、労働者・国民一人ひとりの生存を直接脅かすものであり、絶対に容認できないものである。
 第三の特徴は、米日支配層の攻撃に対して、労働者・国民の広範な諸階層がたたかいに立ち上がり始めていることである。9条破壊・憲法改悪反対の一点での国民的共同がかつてない規模で急速にひろがりはじめている。この国民的共同は、米日支配層の反動的戦略を打破し、憲法の平和的・民主的諸原則を労働者・国民の生活安定と権利確立に活かし、新しい日本をめざす民主的改革を実現していく上で、大きな力を発揮する可能性を切り開きつつある運動といえる。消費税増税・国民大収奪税制、年金・医療・介護・社会福祉・社会保障切捨て、等に対する国民の怒りは爆発点を迎えつつある。労働運動のなかでは、急増する不安定労働者たちが、全労連の未組織労働者の組織化の本格的取り組みに励まされながら、自ら組織化をすすめ、たたかう労働組合運動に結集する力強い潮流が生まれている。
 情勢は、日本の労働運動が、21世紀初頭の歴史的転機を迎えつつあることを浮き彫りにしている。

(1)憲法改悪を中軸とした情勢論を中心に

 労働総研は、05年年頭に3代表理事・事務局長の訴えを出すなど憲法問題を重視する取り組みをすすめてきたが、改憲をめぐる動きはその後さらに重要な局面をむかえている。
 改憲勢力は、05年を「改憲への土台をつくる年」と位置づけており、国会の憲法調査会に改憲容認の報告書を出させ、自民党が結党50周年を迎える今秋に改定草案完成をめざし、公明党や民主党も改憲案の作成を競いあうなど、早期に国民投票法を制定して改憲への道筋をつけようとする動きを強めている。また、アメリカからの圧力が強まるなか、ほとんどの商業大新聞も改憲を容認・支持する立場から世論誘導をすすめつつある。
 最近とくに目立つのは、財界の動きである。日本経団連、経済同友会、日本商工会議所の財界三団体がそろって改憲支持の立場を打ち出したばかりではない。日本経団連はその「国の基本問題検討委員会」で自ら改憲への提言をおこない、公然と改憲推進のために政治献金の活用をすすめている。さらには、奥田ビジョンで打ち出した「民主導の社会」構築と改憲推進とをむすびつけ、自治体職員など公務員を対象に「民主導の社会」構築にむけて研修を組織する活動まで展開している。いまや財界は、改憲運動の主役に躍り出てきたといってよい。
 われわれは、こうした財界の改憲策動が、労働法制や社会保障・社会福祉の抜本的改悪・再編へ向けての戦略とむすびついていることに注目しなければならない。憲法9条に対する攻撃は、国民の民主的諸権利に対する攻撃と不可分にむすびついて展開されており、後者は、07年に向けての法制度大改悪準備とその先取り的な労働者・労働組合攻撃として展開されている。
 こうした改憲勢力の動きに対して、労働者・国民の側からの反撃も高まってきている。「九条の会」への賛同は急速に広がっており、すでに全国で2000以上の会が結成され、各地で開かれているその講演会には予想をこえる多数の聴衆がつめかけている。労働運動のなかでも、職場や地域レベルで「九条の会のアピール」賛同の取り組みが広がっている。その中で、「九条の会」を結成する活動が広がるなど、改憲反対の一点での共同がかつてない盛り上がりを見せている。また、このたたかいは、労働者・国民の要求実現・民主的諸権利を守るたたかいとむすびついて発展しつつある。世論調査でも9条改定反対は多数をしめており、改憲賛成の人のなかでも海外での武力行使には反対が圧倒的となっている。情勢は、「改憲に反対する風が吹き始めていると実感」させるような状況を生み出しつつあり、そのなかで最近は、改憲勢力のなかにも矛盾や亀裂が見られるようになっている。
 この問題では、国際情勢の最近の変化も大きな影響を及ぼしつつある。戦後60年の節目の年に、アジア各地で日本の侵略戦争に対する歴史的評価があらためて問題にされ、靖国参拝や「新しい歴史教科書」問題によって日本支配層のなかにある日本軍国主義の過去の侵略戦争を正当化する極右的体質が国際的にも浮き彫りになるなかで、アメリカの単独行動主義と結託した日本の軍国主義復活を許さない厳しい批判が、中国、韓国をはじめ、アジアやアメリカ、ヨーロッパに広がってきている。
 内外の情勢は、21世紀が、日本支配層の 時代錯誤の妄動を許容するような世界ではないことをますます明らかにしてきている、と言える。

(2)今日における大企業・財界・政府の労働政策の特徴

 90年代の半ばから、とりわけ21世紀になって、「グローバル化」を口実とした財界・政府の労働者・国民に対する攻撃が強まっている。かれらの戦略は、アメリカの世界支配戦略に追随しつつ、国の内外で搾取・収奪を格段に強めようというものである。その戦略目標実現の障害となる労働運動や社会運動に対しては、「管理の個別化」を強めて社会的諸権利の空洞化をはかるとともに、マスコミや教育を動員して、もっともらしいイデオロギーで労働者・国民を支配体制の網の目のなかに取り込んでいく攻撃を展開している。
 しかし、支配層の戦略と労働者・国民の生活・生命との鋭い対立は、いまや誰の目にも明らかである。支配層にとって深刻なのは、生活不安や過労自殺など、さまざまな社会的矛盾が際限もなく広がるなかで、もはや労働者・国民に将来への希望を示すことができなくなっていることである。政府・財界の労働政策は、かつてない深刻な行き詰まりに直面していると言える。

i)競争のグローバル化を口実とした人件費削減・社会保障カットの徹底
 今日における財界の労働政策の特徴は、「グローバル化」に対応する「国際競争力論」強化を口実に、雇用・賃金・労働時間、等の全面にわたって、大幅な「コスト・ダウン」を際限なく追求するものとなっているところにある(経団連「経営労働政策委員会報告」等)。それは企業レベルにとどまらず、社会保障・社会福祉の分野においても、「社会的高コスト構造の是正」とか「自助努力を基礎とした社会の実現」と称して、社会的な保障水準を徹底して切り下げる政策として展開されている(経団連提言「社会保障制度の一体的改革に向けて」)。
 これを受けて政府は、(1)企業の搾取強化のための条件整備(「労働契約法」制定や「ホワイトカラー・エグゼンプション」提言など)と、(2)「小さくて効率的な政府づくり」(「骨太の方針」2005年版ほか各年版)を、「東アジア自由経済圏」という新たな海外展開構想の推進とあわせて、トップダウン方式で押し進めている。奥田財界による「カネで政治を買う」手法が公然とまかり通るなかで、また、経済財政諮問会議や規制改革・民間開放推進会議をつうじて政権中枢の政策決定過程を財界が牛耳るようになるなかで、政党=議会や行政府に対する財界の支配は格段に強まっているのである。
 いまや多国籍企業の利益代表となった奥田財界は、「日本の技術や資本を海外に投入し、世界各国の富の創造に貢献し、あわせてそこで得られた利益を国内にも還元し、次なるイノベーションを生むための資金とするというサイクルを拡充する方向」を追求する、という「交易立国」を提唱するようになった。それは、自国の労働者・国民が、生産と資本の海外移転によって産業・地域経済の空洞化や就業機会の減少に苦しむことになろうと、海外での低賃金搾取拡大と経済権益の蓄積を最優先するという、「帝国主義」的政策の表明に他ならない(経団連04年版「経労委報告」)。憲法改悪の策動も、アメリカの世界支配戦略のもとで自らの「帝国主義」的膨張をはかっていこうとする、日本独占のねらいと符合するものだと言わねばならない。

ii)そのための労働運動の変質・解体作戦
 最近の財界は、春闘の「春討」化と官民労働者の分断に力を入れている。その政策を推進する武器となっているのが、「成果主義」に象徴される「個別管理」の強化である。
 春闘の「春討」化には、「たたかう春闘の解体」にとどまらない狙いがある。日本経団連の「経労委員報告」05年版は、「従来型の賃上げ交渉を中心とする『春闘』は終焉した。春季労使交渉は、さまざまな経営課題を労使で率直に話し合い、対応の方向性を検討し、ともに実行していくための方策を検討する『春討』の場として、新たな役割を担うべきだろう」と述べている。つまり、春闘を企業経営への翼賛運動へと変質させ積極活用することである。
 また、公務員の「総人件費改革のための基本指針を平成17年秋までに策定し、平成18年度の予算や地方財政計画から順次反映させる」という05年版「骨太の方針」のねらいが、官民労働者を分断し、公務員労働者を孤立化させることにあることは明らかである。
 本来の労働運動を分断・解体させつつ、労働組合を一段と翼賛的な組織に変質させていく政策は、今日の財界戦略を遂行するうえで、不可欠な構成要素と見なされているのである。

iii)拡大する矛盾と運動・研究の課題
 だが、こうした大企業・政府の政策は成功していないし、社会的諸矛盾をいっそう拡大し、自らを袋小路に追い込む悪循環を生み出している。
 「年をとることへの不安」が国民の80%を超え(国立長寿医療センター調査)、「長生きしたいと考える人は20代、30代でも50%台」(日経05年6月4日付)にとどまり、社会問題化しているフリーターやニートの激増に見るように若者の雇用情勢も深刻である。成果主義の拡大でメンタルヘルス障害が増大しているなかでの、7年連続の3万人を超える自殺・過労自殺は、これらの矛盾の集中的な現れであろう。
 JR西日本などで続発する大事故が象徴するように、矛盾の拡大は、大企業・財界の側からも、「現場力」や「人間力」の低下が重大問題だと言わざるをえないところまできている。日本企業の「成長の秘密」とされてきた労資協調も、それを支えてきた「パイの理論」の破綻が誰の目にも明らかになるなかで空洞化し、労働者の企業への帰属意識はますます希薄になっている。それを成果主義・個別管理強化でカバーしようとして、いっそう労働者の心を離反させる結果となっているのが今日の状況である。残念なことは、その「労働者の心」を、労働運動の側もなお十分つかみえていないことである。ここにも、われわれの解明すべき主要な調査・研究課題がある。

(3)全労連を中心とする労働運動の特徴

 全労連は、04年度定期大会で、(1)憲法改悪を阻止する国民的闘争の前進と、(2)新たな試練をのりこえて組織的前進をはかるという2本柱の運動を基調とする、05年度までの運動方針を決定した。この方針は、情勢を能動的に切りひらいていく運動の指針となっている。
 戦後日本の労働組合運動は、紆余曲折を経ながらも、労働者・国民の生活と権利を向上させ、日本の平和と民主主義を守るうえで重要な役割を果たしてきた。その土台に、(1)九条による戦争と戦力放棄を核とする恒久平和の原則、(2)国民主権と国家主権の確立、(3)健康で文化的な生活を営む権利、勤労権保障や労働者の団結権と労働組合運動など基本的人権の保障、(4)議会制民主主義、(5)地方自治など、平和的民主的な五原則で構成された日本国憲法が存在していたことは明白である。戦後憲法体制の破壊を許すなら、日本労働組合運動もかつて経験したことのない困難に直面することは避けられない。憲法改悪を阻止するたたかいは、労働組合運動にとっても日本の戦後史をかけた闘争課題となっている。
 憲法問題をめぐる労働運動の現状は、決して楽観できる状況にはない。笹森清連合会長は、6月1日、第45回中央委員会で、「9条があるから、憲法は一切手を加えられない、触ってはいけないところから踏み越しを。そうでないと、本当に今の時代にあう日本のありようについての規定を決められないということになりかねない」とあいさつし、改悪容認を改めて表明した。連合幹部が改憲論の立場に立っている現状をわれわれは直視しなければならない。それだけに、民間大企業の中にも「九条の会のアピール」賛同の取り組みを強めるとともに、職場・地域で「九条の会」などさまざまな改憲反対の取り組みを発展させ、職場の労働者をも含む国民過半数の世論を憲法を守る方向で結束させていく運動は、労働運動の流れを変え、改憲勢力に大きな打撃を与える、たたかいの結節点となっている。
 連合の中核をなすトヨタ労組など大企業の労働組合のなかには、企業が高収益をあげているにもかかわらず、「新しい働き方」の探求などとして、賃上げを要求せず、「成果配分」さえ放棄し、企業の経営・生産戦略に積極的に協力して事実上団体交渉を放棄する状況に陥っている。「利潤第一主義」の経営戦略を支援する労働組合のもとでは、労資の緊張関係が失われ、経営者のモラルハザードと職場の奴隷的支配が蔓延するなかで、職場の指揮命令系統さえ破壊されてきており、それは鉄鋼・自動車・航空・鉄道などに見るような大規模災害が噴出する要因ともなっている。
 とはいえ、連合運動のもとでも経済要求の分野では、全労連などが職場労働者の切実な要求を実現するために奮闘していることもあって、サービス残業根絶、労働災害の撲滅、非正規雇用・契約社員の待遇改善、実効ある「男女雇用機会均等法」の抜本改正、正当な理由のない解雇の禁止、最低賃金引き上げ、労働契約法制反対などの問題で、共通の要求が拡大してきていることを重視する必要があろう。
 組合組織率の低下(04年の推定組織率は過去最低の19.2%)に、運動と組織の中心的役割を担ってきた「団塊の世代」が退職するという「07年問題」も加わり、労働組合運動は運動を維持・発展させるうえで大きな困難に直面している。全労連をはじめとする労働組合は、事態の打開をめざしてこれまでの経験則をのりこえる組織拡大に取り組んでいるが、最近はそのとりくみのなかから新たな運動の前進が見られるようになっている。
 急増している青年を含む非正規・未組織労働者は、いまや職場で多数派となり、生産とサービス労働の中心的担い手になっているが、劣悪な生活・権利状態に苦しむこれら労働者たちの間で労働組合への関心とたたかいへの期待が高まり、最近は自らすすんで組織化の運動に取り組む非正規労働者が増大している。たとえば、徳島光洋シーリングテクノや森下仁丹、INAXメンテナンスなどでは、派遣や業務請負の労働者たちが、自分たちの生活と権利を守るために労働組合に結集し、自ら非正規の仲間の組織化にとりくんでいる。未組織労働者の組織化の運動は新たな発展段階を迎えているといってよい。全労連が組織拡大基金を全国から募り、組織化オルグをも配置し、本格的に未組織労働者の組織化に取り組み始めたことが、未組織労働者たちの自主的な労働組合への結集と主体的な運動の発展をうみだしつつあるのである。
 こうした情勢のもとで、年金・医療・介護など社会福祉の改悪反対、消費税増税反対など、切実な労働者の要求実現のための共同が広がってきていること、企業の社会的責任(CSR)を明確にし、職場に働くルールを確立する運動が新たな勢いで展開されるようになったこと、憲法破壊攻撃と労働者・国民の生活と権利破壊攻撃が同一の根源からうみだされていることに多くの労働者が気づきはじめたこと、など、最近の労働運動にはいくつかの積極的な動向が見られるようになっている。改憲反対を軸とする労働者・労働組合のたたかいは、日本の新しい未来を切り開く攻勢的で能動的な運動として発展しつつあるのである。
 全労連・国民春闘共闘委員会は、05国民春闘で、「許すな憲法改悪!」「小泉『構造改革』路線に対決し、企業の社会的責任の追及」「くらし・雇用・平和を守る国民的闘いを組織しよう!」をスローガンに、積極的にたたかい、要求提出の面でも、要求実現の面でも前年より前進した。労働総研は、全労連と共同で未組織の組織化への展望をリアルに把握する調査をすすめているが、05春闘での前進を踏まえ、企業の社会的責任を追求する立場から全労連とともに『05国民春闘白書』ではじめて提起した「企業通信簿」の問題へのとりくみを今後いっそう強化するとともに、労働者保護法と憲法との関連の問題など日本社会の民主的改革をすすめるうえで必要なさまざまな課題について、理論的解明と積極的な政策提起を求められることになろう。

(4)大学・研究機関をめぐる動向の特徴

 少子化による大学経営の危機が現実的な問題となっている今日、政府・文科省は、大学経営の安定をはかるのではなく、「競争的環境の中で輝く大学」(98年大学審議会報告)を実現する好機と捉えている。大学間の生き残り競争を激化させ、それを利用して、高等教育に「市場原理」「競争原理」を持ち込もうとしている。「トップ30」構想に基づくCOEプログラムのような、課題を特定したプログラムに大規模な予算を配分し、政府・文科省の意図を高等教育の場で実現しようとしている。研究資金の競争的配分(第2期科学技術基本計画)で、産業界の世界戦略・産業戦略に大学を直接的に動員していくのが政府・財界の意図である。科研費についてはこれまで関連学会から推薦された委員によって審査がなされ、曲りなりにも研究者の意向が反映されてきたが、06年度からは内閣府に任命制の選考委員会が設けられ、そこで選考・配分のすべてが決定されることとなった。学術会議の改組とともに、学問・研究の自主性は大きく脅かされてきている。
 04年は、国公立大学法人化、専門職大学院の開設、特区における株式会社の大学開設など、政府のめざす大学の「改革」が進められた。国立大学では、大学の自治を無視したトップダウン方式の大学運営が強行され、教員には「専門業務型裁量労働制」「任期制」の導入など、研究の継続性・専門性を無視した人事が強行されている。
 専門職大学院については、すでにその拙劣な「改革」の問題点が露呈する一方、専門職大学院を突破口とした教員の雇用形態の多様化が既成事実となっている。私立大学もこうした状況の下で、私大連盟の姿勢は、「市場原理」を前提とした私大の生き残りに終始するものとなっている。
 都立大学(首都大学東京)の問題は、こうした一連の問題の先がけをなすものである。その内容は都立大学、科学技術大学、保健科学大学、短期大学の4大学を一括整理し、都立大学の5学部を都市教養学部とする。「単位バンク」制を導入し、河合塾にカリキュラムをつくらせる。教員については全員を任期制、年俸制とする。理事長は知事が選任し、その理事長が理事を選任し、任命する。理事長が絶対的な権限を持ち、事務方のトップである事務局長=副理事長に実質的な権限を集中させるというものである。
 こうした首都大学東京をめぐる動きは、「東京から日本を変える」とする石原都知事による教育基本法改悪、憲法改悪の先取り強行として認識する必要がある。しかし、こうした反動的文教政策に反対する運動は、十分な市民的広がりを持った運動になっているとは言えない状況にある。
 こうした研究教育の状況の中で、労働者・国民の利益のための研究・教育活動の場はさらに狭められ、研究成果を発表する機会も狭まってきている。労働総研は、こうした状況を告発するとともに、労働組合運動の発展に役立つ研究を進める役割が増大していることを認識しなければならなくなっている。とくに、研究活動を通じて若手研究者の研究を鼓舞する積極的な役割を果たしていくことが必要となっている。
 注目すべきことは、最近の大学・研究機関のなかでは、研究者たちの労働者としての自覚が高まり、その労働組合への結集が急速にすすんでいることである。既存の教育関係労働組合の運動も活性化され積極的な展開を見せるようになっている。われわれはそこに、反動的文教政策への反撃を発展させるうえでも、民主的な諸研究を発展させるうえでも、確実な土壌が形成されつつあるのを見るのである。

(5)マスコミをめぐる動向の特徴

 国際的にはアメリカのイラク侵略や、朝鮮問題など、国内では憲法「改正」をめぐる動きなどがめまぐるしく流動し、政治的に大きな転換点にさしかかるなか、改めてマス・メディアのあり方が大きく問題にされてきている。状況がキナ臭さを増すなかで、ジャーナリズムは、市民・国民の立場に立って真実の報道を続けることができるか、それとも真実を歪曲し、政治権力の意向を代弁する立場に堕するか、大きな岐路に立たされている。報道の自由をどこまで守りきることができるかが試される時代になってきている。
 イラクの大量破壊兵器の存在にかかわる問題や、ニューズウイーク誌のコーラン冒涜事件の報道など、真実が報道されるか隠蔽されるかによって、数千、数万の命が奪われる事態に至るかどうか、決定的な役割を報道は担わされている。マスコミの動向に厳しい目が向けられるのも当然のことであろう。
 こうした状況を象徴するような事件が国内でもいくつか起こっている。NHK番組への政治介入についての朝日新聞の報道やライブドアのニッポン放送買収の問題である。いずれの事件も、視聴者、市民の存在がほとんど無視され、放送が特定の権力のものだということをだれにでも見えるものにした。
 NHKの問題については、政治家への事前説明が日常業務とされ政治の介入が常態化していることが明らかとなった。一方、民放テレビは視聴率競争を争う娯楽番組に放送の重点が置かれている。いずれも真実を報道するよりも経営を優先する運営が行われ、国民は真実から遠ざけられている。このような国民に真実を伝えるマスコミの役割を忘れた状況に対して、大量の視聴料不払いが発生した。これはマスコミのこうしたあり方に対する市民の抗議の表現であった。
 ライブドアの問題は、資金力でメディアを買い取り、メディアを支配しようとする露骨な動きをあらわにしたものであった。今後このような動きが国際的な金融機関の動きと連携して、より本格的に展開される危険性は十分に予想されるものである。
 改憲問題について、大手商業新聞は「公正・中立」の立場をかなぐり捨てている。「読売」は94年に「読売試案」を出して、改憲を主導する位置に立ち、「産経」「日経」も改憲の立場を明らかにしている。「朝日」「毎日」はこれについてまともにふれないという姿勢をとっている。「九条の会」の活動についての報道も、大手商業新聞はほとんどこれを報道しないという状況の下で、新聞発行総部数の約半分を占める地方紙が憲法改悪の危険性を社説でも取り上げるなど、積極的に報道するという状況になっている。
 国民が客観的な情報と思っている大手新聞の情報も大きく偏ったものとなっており、国民は真実からさらに遠ざけられる存在になっている。
 多くのマス・メディアがこうした状況にあることは、1948年の新聞協会の編集権声明にある「新聞の自由は憲法により保障された権利」に反するものである。この状況を憂うる良心的なマスコミ人との共同は重要であり、地域のマスコミやミニコミなど今日開かれている種々のメディアを最大限に活用し、真実を国民に知らせるための努力を続けていくことが必要であろう。
 労働運動の状況を伝えるマスコミの貧困さはとりわけ深刻である。労働問題やとりわけ労働運動の実態を国民に報じる機会は極端に狭められてきている。こうした状況に対しても労働総研としても労働運動の現状やそれをめぐる評価について真実を知らせていく役割を一層強く自覚していくこと求められている。

[III 2005年度事業計画]

(1)設立15周年記念事業

 04年度定例総会で決定した設立15周年記念年事業を成功させるために、05年度も引き続き以下のような事業にとりくむ。

i)「21世紀の初頭の変化に対応した労働組合運動強化のための実態調査・研究」
 全労連と共同で取り組んでいる(1)「『労働組合の課題と展望』に関する組織実態調査」と(2)「労働組合への期待と参加についての組合員アンケート調査」の集計・分析研究を05年8月下旬までにめどをつけるよう努力する。(3)ケーススタディー・ヒアリングを夏休み期間に実施し、(4)8月下旬にはアンケートとヒアリングについての総合検討会をおこなう。(5)全労連が11月に開催する「05年度地域運動交流集会」までに、全労連と共同して「労働組合調査報告集(第1次)」を発刊する。

ii)シンポジウム「これでいいのか日本の社会、これからどうする日本の労働運動」
 05年11月に全労連が開催する「05年度地域運動交流集会」で、全労連と共同してシンポジウム「これでいいのか日本の社会、これからどうする日本の労働運動」(仮題)を開催する。このシンポジウムは、異常な日本社会の政治経済を告発するに止まらず、労働者・労働組合を先頭とする国民的共同の力でどう日本社会を革新していくか、そのためにも、労働組合運動の活性化をどう実現していくかを、全労連と共同でとりくんでいる「労働組合調査」をも活用して、事実と経験に則してリアルに提起し、労働者・国民による広範な討論の出発点にする。また、全労連の「21世紀初頭の目標と展望」を実現していくたたかいや、500万全労連(当面は200万)をめざす「未組織の組織化」運動とも深く結びつき、労働者・国民の未来への希望に灯をともすシンポジウムとなるように努力する。

iii)設立15周年研究会とレセプション
 12月11日に設立15周年記念研究会とレセプションをおこなう。会場は日本大学でおこなうことが確定している。第一部は、設立以来15年におよぶ労働総研の調査研究・政策提言活動をふまえ、全労連と共同でとりくんだ「労働組合調査」の成果発表を含む記念研究会とし、第二部を記念レセプションとする。常任理事会でその具体化をはかる。

(2)2005年度のプロジェクト研究

 労働総研のあり方検討委員会の答申を常任理事会で検討し、05年度定例総会で決定する研究所活動のあり方の新方針(詳細は[4]の(1)労働総研研究活動のあり方の基本方向参照)にもとづき、以下のようなプロジェクトを設置する。また、各研究部会については、05年度中に終結することとし、06年度から、新たに発足する各研究部会は、2年間の研究計画を常任理事会に提出し、了承を得て研究活動をおこなうものとする。各研究部会は1年度ごとにアニュアル・リポートを提出し、研究計画が終了する2年目にはディスカッション・ペーパーなどにより研究成果を公表するものとする。

i)「労働組合調査」研究プロジェクト
 アンケートとヒアリングに基づく「労働組合調査」の分析研究を通じて、労働組合の活性化と未組織の組織化についての組織政策の検討を全労連と共同でおこなう。その成果をも踏まえ、設立15周年出版物の一つとして発刊することを目指す。

ii)労働政策研究プロジェクト
 厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の「中間取りまとめ」に典型的に現れているように、小泉自民党・公明党連立政権が強行している、大企業・財界の労働基準法や労働組合法の骨抜き・解体攻撃に抗して、「働くルール」を確立する政策研究を全労連と共同でおこなう。

iii)ナショナルミニマムプロジェクト
 04年度で終了できなかったナショナルミニマムプロジェクトを、05年度も引き続き設置し、05年度の前半に、公開研究会を開き、そこでの意見および常任理事会での検討を経て『労働総研クォータリー』などで「プロジェクト報告」を発表して終了する。

(3)研究例会・研究交流会

 年度中2回程度開催する研究例会と併せて、各研究部会間で共通する研究テーマに基づく研究交流会を実施することを検討する。研究交流会での報告者には積極的に若手を起用することを重視し、研究活動の活性化をはかる。

(4)研究部会活動の課題と目標

 各研究部会の活動は、05年度1年間で終了する。各研究部会は1年間の検討を経て、06年度以降の研究計画と人事体制などについて、常任理事会に提案する。
 05年度の各研究部会の課題と目標は以下の通りである。

i)賃金・最賃問題研究部会
 04年度の研究部会活動の経過
(1) 例会での研究会実施
 ア)成果主義賃金の検討(2回)、イ)賃金論の検討(日本における横断賃率問題)(2回)、ウ)均等待遇問題(1回)、エ)最低賃金制問題(厚生労働省研究会報告書に関連して)(1回)、オ)退職金・企業内福利厚生問題(1回)、カ)「不安定就業労働者プロジェクト報告書」の読解と検討(1回)
(2) 公開研究会
 ア)「アメリカのリビングウェイジ運動に学ぶ」
 イ)「シンポジウム春闘50年と05国民春闘の課題を考える」(労働総研研究例会に協力)
(3) 05年度の研究計画の内容
 ア)民間部門の成果主義賃金問題の分析(継続)
 イ)公務部門における成果主義化についての検討
 ウ)均等待遇問題の検討(継続)
 エ)最賃制・公契約条例問題の検討(継続)
 オ)その他(ホワイトカラー・エグゼンプション問題など)
(4) 課題
 当部会が扱ってきたテーマは運動課題と密接に関係しているので、運動の側からの研究テーマ・要請や研究会への参加を強めたい。

ii)社会保障研究部会
 相澤與一会員が部会の代表であった02年に『社会保障構造改革』を大月書店から出版して以来、社会保障部会の活動は停滞気味であったが、5月に全生連の辻清二事務局長を招いて生活保護制度改革問題で、6月に全労連の石川芳子社会保障闘争委員会事務局長を招いて政府の社会保障改革問題で、公開研究会を持った。どちらも盛会であったことにも現われているように、社会保障問題に対する関心は強いのでこれらの要請に応えたい。社会保障の分野は守備範囲が広い上に、改革のスピードが増しており、対応に間に合わない状況も生まれている。
 当面、06年度の医療保障制度の改革を視野に入れて、部会の研究活動を進めていくつもりだが、極力、多くの会員諸氏のご参加を仰ぐことによって、適切に対応していきたいと考えている。

iii)労働時間問題研究部会
 ほぼ3ヵ月に2度の割合で研究部会を開いてきた。出版計画を立てて3年になるが出版に至っていない。ようやく8月に出版する目途が立った。執筆予定者は、序(西村直樹)、第1章(実態)、第2章=時短闘争の現状と政府・財界の労働時間政策(大場秀雄・辻岡靖仁)、第3章=国際的な時短闘争の歴史と到達点・その意義(宮前忠夫・藤田実)、第4章=今日におけるわが国での労働時間短縮闘争の意義とその方向(西村直樹)、第5章=むすびとして、国民的な反転攻勢へのエネルギーの鼓舞(宇和川邁)である。
 05年度は、アメリカ流のエグゼンプション導入と裁量労働制の個人同意を集団による協定で一括導入方式へ転換し、労働基準法の労働時間規制を一気に解体する方向が強められている局面を迎えているので、ILO労働時間条約批准の国民的運動をめざす運動の構想とむすびつけた研究をおこないたい。

iv)女性労働研究部会
(1) 04年度、以下のテーマで、毎月(12回)研究会をおこなった。
 ア)均等法改正(06年に予定)に向けて、厚生労働省の研究会報告、および連合の検討会報告等を討議、全労連の改正検討プロジェクトに当研究部会より3名が参加した。
 イ)財界・政府の女性労働力「活用」戦略の動向について、日本経団連「経営労働政策研究委員会報告」、厚生労働省「仕事と生活の調和に関する研究報告」、「次世代育成支援対策」、「働く女性の実情」等をとりあげて検討した。
 ウ)男女賃金格差問題に関わって、商社の成果主義賃金、兼松商事の裁判の経過、および社会政策学会(04年12月)での報告(木下・赤堀・下山)、石川康宏『現代に挑戦する経済学』等を検討した。
 エ)国際自由労連大会、労働契約法制等についても女性労働の視点から検討をおこなった。
(2) 05年度は、まとまったテーマに絞り、一年間の研究成果を小括する方向で検討したい。テーマについては次回研究会で総会方針と併せて検討する予定である。

v)中小企業問題研究部会
(1) 04年度の研究経過
 ア)前年度にひきつづき書籍発行に全力をあげ、6月18日に新日本出版社より『グローバル化のなかの中小企業問題』を発行することができた。この間の定例部会は、発行日を遅くとも全労連第37回評議員会(7/27-28)と労働総研05年次総会 (7/29)に間に合わせることとし、9/21、11/15、1/21、2/21、3/09、4/18、6/13の7回開催し、イ)執筆分担に基づく詳細レジュメの検討、ウ)各章ごとの原稿内容の検討、エ)変更・修正箇所の再検討など、紹介事例や理論面への検討を加えつつ完全原稿に仕上げてきた。並行して、出版を引き受けてくれた新日本出版社と協議し、出版・販売に関する基本事項(書籍名、ページ数、刷り部数、普及計画、定価など)を確認してきた。ほとんどの原稿が出揃ったのを受けて、2月5日の労働総研常任理事会で報告した。討議で出された常任理事会の要望・意見を論文に反映させることとし、出版・販売に関する基本事項を含め了承された。
(2) 全労連運動との関係
 当部会の研究が口火となった「CSR(企業の社会的責任)」問題が、大企業の社会的責任を追求する運動として05春闘で本格的に開始された。具体的には、ア)CSR問題の学習会が、前年の全労連事務局につづき、国民春闘共闘、全労連民間部会、全損保、全証労協、自交総連、全印総連などに広がったこと、イ)『2005年国民春闘白書』で発表した「主要企業の企業通信簿」とともに、大規模な「企業通信簿チェックリスト運動」(回収542通)が展開され、ウ)大企業の社会的責任を追及する運動として、2・11トヨタ総行動をはじめ、建交労春闘の大手ゼネコン交渉が20社で実現、4・15野村證券包囲行動、4・20第一交通包囲行動、5・20鋼材問題の経産省・国交省共同交渉、6・10公害デー・トヨタ東京行動などが展開され、かつてない成功、前進をかちとってきた。
(3) 05年度の研究テーマ
 定例総会方針を受け直面する中小企業問題については適宜研究していく。

vi)国際労働研究部会
(1) 04年度の部会活動の経過
 ア)定例の研究部会はほぼ2ヵ月に1回開催し、年度内に4回開催した。3回の公開研究会の報告テーマと報告者は次の通り。
  a)最近の中国の状況について(平井潤一会員、04年9月30日)、b)曲がり角に来たアメリカの労働運動(岡田則男会員、04年10月29日)、c)フランス─攻勢に抗して組織拡大をめざす(坂本満枝会員、04年11月26日)
 イ)全労連編『世界の労働者のたたかい―世界の労働組合の現状報告2005年版』の執筆。
 ウ)設立15周年記念行事の一環として、独仏伊3ヵ国調査研究に協力した。
 エ)同調査研究について、6月18日、研究例会「独仏伊3ヵ国調査研究訪問を終えて」で報告・討議した。
(2) 05年度の研究部会活動
 ア)全労連編『世界の労働者のたたかい―世界の労働組合の現状報告2006年版』の執筆。
 イ)アメリカ労働組合運動の現状についての公開研究会を検討中(8月)。
 ウ)9月以降、最近のドイツ、イギリス、スェーデンの組合動向について公開研究会を検討中。
 エ)12月までに3ヵ国調査報告の齊藤担当部分について部会を検討。

vii)政治経済動向研究部会
(1) 04年度の経過と05年度の計画
 具体的に多くの課題を提起しながら、その多くを残したまま05年度総会を迎えることとなったが、基本的にはそれら未完の課題遂行に努めていきたい。
(2) 体制の強化について
 04年度の方針として部会メンバーの若返りを掲げたが、新たにメンバーを迎え、部会の強化に努めた。しかし、作業部会の設置については進展しておらず、今年度に引き続き重点的に努めていきたい。
(3) 独自研究課題の推進
 04年度の総会に提起した部会としての研究課題「日本経済の再興と労働改革」を05年度も継続してやっていきたい。研究内容の具体的な詰めが甘かったこと反省し、具体的な研究内容と担当者、および他の部会との協力体制を具体化していきたい。具体的な研究内容としては、ア)政府・財界の経済・財政・産業政策の体系的な批判、イ)産業空洞化、地域経済の衰退、中小・零細業者の経営危機への対応と「日本経済の再興」に向けての政策提言、ウ)リストラ、非正規雇用の増大、青年層の就職問題といった雇用問題の分析と政策提言、エ)憲法や教育基本法の改悪策動とそれをめぐる政治動向の分析と広範な国民諸階層の協力・共同にむけての提言、等々の課題を取り上げていく。
(4) 情勢分析の系統的蓄積にむけて
 わが国の政治・経済をめぐる動向についての情報収集と分析を可能なかぎり体系的にすすめていく。他の部会とも協力しながら、その時どきの情勢に対応しながら、必要に応じて可能なかぎり公開研究会をもつようにつとめる。
(5) 労働組合や研究機関との連携について
 上記の課題を遂行してゆくため、必要に応じ、労働組合や研究機関との協力・共同につとめる。

viii)関西圏産業労働研究部会
 関西圏産業労働研究部会では、前年度に引き続き賃金問題の理論的検討を軸にして現代における資本と賃労働の変化について研究活動をおこなった。研究会はほぼ2ヵ月に1回、計8回開催した。研究会では、90年代不況を通じた資本の蓄積基盤の再編成と賃金戦略の再編成、資本の総額人件費管理と労働者階級の世代的再生産、成果主義賃金における賃金の労働力価値からの乖離と労働の実質的包摂の進展、若年失業の増大とケインズ的福祉国家の解体、労働者家計の現状と生計費原則の問題等、研究会参加者個々人が自分の専門領域に引きつけて設定した個別的テーマについての研究報告とそれをめぐっての討論を積み上げてきた。その一つの成果は、上瀧真生「総額人件費管理と労働者生活」(『経済』05年2月号)である。
 今後、個々人の研究報告と討論のうえでその成果を個別的に発表し、それらを基礎として研究会としてのまとめをおこない、賃金問題での研究の区切りをつけたい。

ix)労働運動史研究部会
 04年度は、労働運動史研究の現状の確認・検討をおこないつつ、具体的にヒアリング対象者の選定作業とヒアリング対象者に対するヒアリング項目の検討をおこなうとともに、ヒアリングを開始した。第1回目は、戦前の労働組合運動と産別会議の活動を中心に最後の産別会議事務局長=杉浦正男氏(2回)、統一労組懇代表委員・全労連顧問=引間博愛氏(1回)から、ヒアリングをおこなった。
 05年度は、引き続きヒアリング対象者の選定とヒアリング項目の検討をおこない、5名くらいのヒアリングを計画である。

(5)出版・広報事業

(1) アニュアル・リポート
(2) ディスカッション・ペーパー
(3) 『21世紀初頭の変化に対応した労働組合運動の強化のための実態調査・研究報告』
(4) 『独仏伊3ヵ国調査研究報告』
(5) 『ナショナルミニマム問題検討プロジェクト報告』
(6) 『世界の労働者のたたかい2006年版』
(7) 『2006年国民春闘白書』
(8) 『労働総研クォータリー』
(9) 『労働総研ニュース』
(10) “Rodo-Soken Journal”
(11) 『労働時間問題研究部会報告』

[IV 研究所活動の充実と改善]

(1)労働総研研究活動のあり方の基本方向

i)活動のあり方検討の基本的視点
 労働運動の期待に応え、労働総研の調査研究活動の力量を高めるため、次のような諸点に留意し、ブロジェクト・研究部会の改善・再構成にとりくむ必要があろう。
(1) 情勢の推移・変化に対して鋭敏に反応しつつ労働組合運動が直面している調査・政策上の課題にたいし留意した調査研究をすすめる必要がある。(たとえば、全労連が今日すすめている「求心力ある政策委員会」の活動や、各種審議会、労働審判制度、労働委員会、ILO代表などの課題に留意した活動をすすめる。
(2) 労働総研の主体的諸条件をリアルに認識し、限られた人的財政的資源を効果的に活用する方法を追究する。
(3) 労働総研の調査研究・政策提案活動は、研究者と運動家が共同ですすめる事業であることを明確にする。この点で、研究部会の設定・運営は、できるだけ運動課題と緊密にむすびついた形で、たとえば全労連の各種対策委員会・闘争本部などと連携する形ですすめる。
(4) 研究計画を重視し、研究計画にふさわしい人員構成にする。その際、青年・女性の参加を重視する。
(5) 可能な限り研究所の会員全体に(さらには広く労働運動の活動家等に)開かれた研究所活動を組織化していく。また、研究成果は必ず会員と社会に還元していく。
(6) 限られた財政は、調査研究・政策提案活動そのものの充実に重点的に充当していく。

ii)プロジェクト・研究部会再構成の方向
 上記の観点から、研究部会等を次のような方向で発展的に再構成していく。
(1) これまでのプロジェクト・研究部会等の活動を、以下の3つに分類し、再構成する。
 ア)常任理事会の決定する重点研究課題にしたがって設置されるプロジェクト研究
 イ)全労連等の実践的要請に対応しておこなうプロジェクト研究部会活動
 ウ)研究所会員が常任理事会に提出し承認を得た研究計画にしたがっておこなう、常設的な研究部会活動
(2) 常設的な研究部会は、できるだけ総合化する。
(3) ウ)グループの研究調査活動としては、a)当面の運動課題にかかわる研究テーマ、b)例えば、イデオロギー・理論問題など、直接運動課題とはかかわりないが、研究所活動として重要なテーマ、c)地域での運動にかかわる重要なテーマ、などが考えられる。
(4) いずれの研究グループも、2年単位の研究計画と、その研究スタッフを常任理事会に提出し、その承認を得なければならない。
(5) 今後は各研究部会等に対し、あらかじめ予算規模を明示して支給することを検討する。
(6) 2006年度の定例総会では、新たに構成されるア)、イ)、ウ)のプロジェクト・研究部会等について方針を決定する。現行の研究部会等は、05総会での方針決定後、1年間で終了する。

iii)新たに構成される研究部会等の試案
 アンケートなどによる各研究部会責任者の意見や常任理事会の意見を参考に、検討委員会で試論的に議論されている今後の研究部会等を提示し、意見を集約していく。
(1) 現行の賃金・最賃問題研究部会と労働時間問題研究部会の成果を土台に、賃金・労働条件研究部会を構成できないか。そこでは、安全衛生問題などもふくめ、職場の労働生活全体を総合的に問題にできないか。
(2) 現行の不安定就業研究部会、労働法制研究部会、青年問題研究部会の成果を土台に、新たに労働政策研究部会(仮称)を構成できないか。
(3) 労働組合運動の研究は、現在、創設15周年記念行事の一つとして全労連と共同して大規模な調査研究として、プロジェクト研究がおこなわれている。今後もこのプロジェクトは、全労連と共同で、具体的にテーマを絞ったプロジェクト研究として位置づけ、追究していきたいい。

iv)「調査研究活動」活性化のための関連施策
 「調査研究活動」の活性化のためには、各種の施策が必要であるが、さしあたり可能でもあり必要でもある施策として、次のような諸事業の継続的発展をはかりたい。
(1) 部会研究会等の研究成果は、単行本だけでなく、研究所発行の「ディスカッション・ペーパー」などとして、できるだけ敏速に発表していくようにしたい。また、常任理事会は、研究成果全体を一覧できる「アニュアル・リポート」をまとめ、対外的に発表するようにしたい。
(2) 諸外国の研究所にくらべ、日本の労働問題関係研究所は、教育機関としての機能をもたないこと、また、国際的な視野が希薄なことが指摘されるが、労働総研は04年度「English Writing School」をスタートさせた。この事業を、調査研究活動とも有機的にむすびつけて発展させていくことが重要である。
(3) 04年度はまた、初めて海外調査団を派遣し、海外労働運動との交流への一歩を踏み出した。部会研究会等とむすびついて、内容のある国際的な情報・意見交換や共同研究をすすめることのできるよう、着実で継続的な努力をすすめたい。
(4) 公開研究会の開催、研究部会相互の交流・共同などを一層推進していきたい。
(5) 調査・政策学校の開催について、全労連と相談して、検討を開始する。

(2)会員拡大

 会員の高齢化に伴い会員が減少する中で、特に若手会員の参加の努力を続けている。若手会員の研鑚の場として魅力ある研究所活動に努めるなどして、会員拡大に積極的にとりくむ。

(3)読者拡大

 『労働総研クォータリー』は、特集によって大きな反響を呼び、単発的ではあるが注文の増加がある。単発読者が定期読者になってもらえるよう、また、会員としても参加してもらえるよう、企画・編集を魅力ある内容に充実し、定期読者の拡大に努力する。

(4)地方会員の活動参加

 全労連と共同で取り組んでいる「労働組合調査」で、地方会員の研究所の調査研究活動に参加の端緒をつくりだしたが、ひきつづき、参加しやすくするための検討を、研究部会のあり方とともに検討していく。今後、中央・地方における各種公的委員会・審議会、労働者側委員など、公益委員として参加することが予想される。それへの対応も準備しなければならない。

(5)事務局体制の強化

 労働総研の調査研究活動を機能的・効率的に推進する上で、総会・理事会の決定を具体化し、代表理事・常任理事会の適切な指導と援助のもとで活動する事務局の役割は重要である。事務局機能の効率的な運営をおこなうため、02年度から実施している、状況に応じた企画委員会、および代表理事をふくむ拡大事務局会議の開催と事務局会議の定例化を定着させ、設立15周年記念事業成功のために事務局体制の強化をはかる。特に、15年間にわたって積上げられてきた申し合わせ事項を含む規定集を完備する。