労働総研ニュースNo.164・165・166号 2003年11月・12月、2004年1月



目   次

・自衛隊のイラク派兵に反対する
・米国の侵略戦争と日本の侵略戦争の歴史的な合流の構造
・財界戦略の新展開と労働運動
・常任理事会報告他




自衛隊のイラク派兵に反対する

2004年1月3日 労働運動総合研究所(労働総研)
代表理事 大木 一訓  大江 洸  牧野 富夫

 小泉自民党・公明党連立内閣は、「イラク復興と人道支援」の名の下に、自衛隊のイラク派兵を決定した。そもそもイラク戦争は、国連決議を無視し、「大量破壊兵器の隠匿」や「テロの根絶」を口実に、「9.11」への報復の意図を込めて、アメリカに同盟する国の一部を巻き込んで、ブッシュ米大統領が一方的に戦端を開いた侵略戦争である。イラクへの自衛隊派兵は、この侵略戦争に加担することであり、日本を再び侵略国家への道に引き入れるものである。自衛隊のイラク派兵は、イラク国民の意思による復興の道を閉ざし、国連中心の復興を求める国際世論にも背を向けるものである。
 小泉首相は、自衛隊派兵を合理化する根拠に「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という日本国憲法前文を厚かましくも引き合に出した。しかし、自衛隊派兵は「戦争の放棄・戦力及び交戦権否認」を国際社会に厳粛に誓約した日本国憲法第9条に反する行為であり、日本国憲法を破壊するものに他ならない。理不尽なアメリカの侵略戦争に、日本国民を強権的に引き込むことは、日本国民にイラク国民を殺傷することを強制し、日本国民にイラクの地で傷つき死ぬことを強要するものである。
 さらに戦争への荷担は、日本国民に多額の戦費を、長期に負担させるものである。2004年度政府予算案を見ただけでも、イラクへの自衛隊派兵にかかわる直接予算をはじめ、ミサイル防衛費などを含む4兆9,030億円が、対米従属の軍事予算として計上されている。軍事費が優先されるのに対して、国民のための予算は大幅に切り詰められている。サラリーマンの厚生年金保険料の増額、消費税の免税点引き下げ、将来的に税額の引き上げ、酒税、たばこ税の引き上げ、所得税、住民税の配偶者特別控除の廃止など国民から可能な限りの徴収を行い、生活保護についても老齢加算の段階的廃止、国民金融公庫の貸付戸数の削減など、7兆円もの国民負担増を国民に押し付ける、国民窮乏化予算である。ここまでしても、国の借金である国債残高はさらに増え続け、サミット7ヶ国中最悪の約700兆円に達している。アメリカの侵略戦争への加担と、国民生活優先の政治が互いに相容れないものとなっていることを、2004年度政府予算案は端的に示している。
 われわれは、政府に対して、アメリカのために金も人も差し出す政策をやめ、国民本位の政策をとるよう強く要請する。今、政府が行おうとしている自衛隊のイラク派兵に反対し、“憲法9条守れ”の国民の声を大きく、強くしていくため、労働問題の調査研究にたずさわる全ての研究者・活動家の方々に、そのために共に全力をあげて奮闘されるよう訴える。われわれも、そのための一翼を担うことを決意するものである。


米国の侵略戦争と日本の侵略戦争の

歴史的な合流の構造

儀我壮一郎

I 米国の戦争と侵略の歴史的文脈

 米国の歴史は、独立戦争(1775年開始、1776年独立宣言)を含む戦争と侵略の歴史である。米国の領土拡張と経済発展は、(1)アメリカ・インディアンなどの先住民の駆逐と、(2)奴隷としての黒人の拉致・連行、の上に成立った。東海岸から始まった「西漸運動」が進み、1803年ルイジアナ、1845年テキサスを獲得して太平洋岸に到達した。1867年アラスカを得、スペインとの戦争によって、1898年、ハワイとフィリピンを領有。次の目標はアジアである。
 151年前の1853(嘉永6)年のペリー率いる4隻の黒船の来航と、翌年の日米和親条約は、約200年の日本の「鎖国」の「終りの始まり」となった。米国にとっては、アジア侵略の有力な拠点の確保である。
 このペリーの一族は、J.P.モルガン一族、ロスチャイルド一族、そしてブッシュ大統領一族などと姻戚・親戚関係にある。クリントン前政権の国防長官であったウィリアム・ペリーもその一族であり、北朝鮮のミサイルと核兵器をめぐって最も活発な動きを続けてきた。また、彼は、米国のミサイル防衛計画の強力な推進者であり、対北朝鮮政策・ミサイル防衛の両面から小泉政権の動向に、大きな影響を与えている。
 ペリー提督以来、ペリー一族とその親戚・姻戚は、150年以上にわたって、日本の政治・軍事・経済を左右する策略を続け、イラク侵略戦争への自衛隊の参加を強要したのである(儀我「日米関係の歴史的重層構造」『月刊国民医療』2003年12月号参照)。
 「軍部を軸としたワシントン政策は、……外国との議論を拒否するかたくなな外交路線を曲げない。他人を説得できる論理もない野蛮行為であることを自ら知っているためだ」(広瀬隆『アメリカの保守本流』集英社新書、2003年9月、13ページ)。
 侵略戦争によって、ブッシュ政権中枢部と「政・官・財」が権力と利益を独占する構造と人脈は、広瀬隆『アメリカの経済支配者たち』同『アメリカの巨大軍需産業』(集英社新書)をも参照していただきたい。ブッシュ大統領の再選を目指す野望とイラクの侵略戦争との関係などなどは、すでに別稿「アメリカ帝国主義と新しい戦争」(『労働総研クォータリー』2003年春季号)と「生物・化学兵器と多国籍製薬企業」(『経済』2003年6月号)で詳論したとおりである。

II 日本の戦争と侵略の歴史的文脈

 1945年(昭和20年)8月の敗戦までの侵略戦争は、日中戦争、15年戦争、太平洋戦争、第2次世界大戦などとよばれてきたが、まだ、確定していない。丸山静雄氏は、『日本の70年戦争』(新日本出版社、1995年)の中で、台湾への出兵(1874・明治7年5月)に始まる「71年にわたる一貫した戦いであった」と捉えている。さらにさかのぼれば、豊臣秀吉の「文禄・慶長の役」(1592〜93年、1597〜98年)と称する侵略戦争と島津藩による琉球王国への侵攻(1609年)以来の侵略の歴史がある。
 福沢諭吉は、「脱亜入欧」を主張したが、その真意は「遅れたアジア諸国の隊列から脱出して、欧州諸国と同じように、アジア諸国を侵略支配しよう」ということである。(安川寿之輔『福沢諭吉のアジア認識』高文研、2000年、同『福沢諭吉と丸山真男』高文研、2003年、参照)。2004年、新紙幣が発行されるが、1万円紙幣に、「奪亜入欧」(儀我)の福沢諭吉の肖像が続けて用いられることの歴史的な含意を見落としてはならない。自衛隊のイラク派兵がこれに重なり、小泉首相の靖国神社参拝がこれに重なる。アジア諸国の反撥と批判を招くのは当然である。
 小泉政権はどのようにして生まれたか。「根っからの親米派」の小泉純一郎候補を、「父親ゆずりの親中派」の田中真紀子氏が、熱烈に応援したからこそ、自民党総裁・首相になり得たのではないか。親米と親中のバランスは、小泉首相の田中外相解任によって完全に崩れ去った。イラクへの自衛隊派兵によって、中近東における日本への信頼も大きく揺らぎ始めた。アメリカ帝国主義の侵略戦争の側に立つのか、アラブ諸国の人民と全世界の平和勢力の側に立つのか。小泉政権は、平和憲法を踏みにじりつつ、最悪の道を進んだ。けっして許すことのできない歴史的な重大犯罪である。ブッシュ米政権の単独行動主義は国際的孤立化という自滅的な結果を生み出しつつある。藤村信氏は、鋭く指摘する。
 「いかにアメリカが正義の戦争をとなえても、それは大国テロリズムとしか、うけとれない。ましてや、ミサイルや破壊兵器をうちこんできて、良民の犠牲を『付随的損害』などと言って片づける神など、聞いたこともない。アメリカが行使しようとする十字軍テロリズムは、各種のテロリズムを世界のいたるところに繁栄させる最上の手段であろう。テロリズムを武力で征服しようとする戦争に、勝利の出口はない。敵と瓜ふたつのテロリズムになるだけである」(藤村信『新しいヨーロッパ 古いアメリカ』岩波書店、2003年11月、248ページ)。「武力信仰の文化を維持するアメリカが、五千年の文明を誇るオリエント諸国に対して、文明の名において語る資格があるだろうか」(同上、290ページ)。日本がこのような野蛮なアメリカに従属しながら、侵略の歴史的文脈で合流し、一心同体であるとして、中近東の人民と世界の平和勢力に敵視されてはならないのである。

III イラク戦争の将来を展望する

 まず、戦争の歴史を大づかみに見て、イラク戦争の将来を展望しよう。
(1)  地上戦。ナポレオンも、ヒトラーも、一時は欧州大陸の大部分を占領下に置いたが、モスクワ侵攻に失敗し、転落への歩みが始まる。伸びきった輸送・補給路と「冬将軍」の威力、そしてロシア人民の抵抗が、勝敗を左右した。また、ナポレオンも、ヒトラーも、ドーバー海峡を制圧できず、英国の反撃を抑えきれなかった。征海権が重要問題となる。
(2)  海戦。スペインの無敵艦隊が、1588年、英国艦隊に惨敗。ナポレオン主導のフランス・スペイン連合艦隊が1805年、ネルソン指揮の英国艦隊に敗北。以後、英国の制海権掌握と産業革命により、「大英帝国」が19世紀の覇者となる。
(3)  空中戦。「太平洋戦争」期の日米の陸軍は、旧式の整備と精神主義、海軍は「大艦巨砲」神話の域を出ず、航空母艦・制空権重視の米国に圧倒された。空を制する者が優位に立つ。長距離ロケット・ミサイルも登場する。
(4)  宇宙戦。現在は(3)の「高度化」として、盗聴・盗撮を含む軍事衛星主導の「宇宙戦争」重視の段階に入った。(『労働総研クォータリー』2003年春季号の藤岡惇氏の論文参照)。
(5)  情報・通信戦。イラク戦争開始の口実となった偽情報、米軍・米国政府による徹底した情報操作など、人心撹乱が重大問題となり、戦局を左右する。また、たとえば米国防省の通信・指令のネットワークへのハッカー侵入の可能性や暗号解読、ウィルスの高度化などなど、知能戦争の勝敗は、予測困難となりつつある。
(6)  ゲリラ戦、パルチザン戦、レジスタンス。「テロに対する新しい戦争」とは何か。逆にいえば、イラク戦争の現局面は、米占領軍に対するテロ・戦争、レジスタンスのどれに当たるのか。同じく、アフガニスタンにおける現局面も、「テロに対する戦争」と単純化できるのかどうか。パレスチナ人民の行動を、国連決議無視、「オスロ合意」破棄のイスラエルのシャロン首相と同調して「テロ」と名づけて片付く問題かどうか。少なくとも11世紀初頭の十字軍以来の長く複雑な歴史を想起しなければならない。
(7)  全世界の反戦平和努力の勝利。ブッシュ米政権のイラク侵略の暴挙と占領の横暴に抗議して、米・英・スペインなどの参戦諸国の国内も含む、史上空前の反戦平和運動が高揚し拡大しつつある。労働運動総合研究所の「自衛隊のイラク派兵に反対する声明」も、その力強い一環である。真の自主独立を目指すイラク人民と全世界の反戦平和勢力が、劣化ウラン弾などを多用する反人道的、侵略的ブッシュ政権に対する最終的な勝者となることは、歴史の必然である。ベトナム戦争の教訓からあらためて学ぶべき時である。
 戦後、ベトナムを訪れたマクマナラ元米国防長官に、対談したベトナムの指導者は、「ベトナム戦争の勝者は、ベトナム人民と米国内のベトナム戦争に反対した人々である」と語り、マクマナラは、返す言葉を失った。ブッシュは、「十字軍」と叫び続けることができず、イラクの武装勢力に向かって「かかってこい(ブリング・ゼム・オン)」と怒鳴ったが、それに対するきびしい回答は、日に日に明らかになりつつある。
 小泉政権の自衛隊イラク派兵は、アメリカ帝国主義に従属しながら、1945年の敗戦までの侵略戦争を再現する第1歩となる。日本の多国籍企業がアジア諸国に資本輸出を続けている現在、次の段階では、在外資産を「守り」、在留日本人を「救出」するために自衛隊を派兵するという「いつか来た侵略の道」さえも予見されるのである。平和憲法をまもりイラク派兵に反対するために全力を尽くすべき時である。

(2004年1月5日)
(理事・大阪市立大学名誉教授)


 財界戦略の新展開と労働運動

──日本経団連「経労委報告」の特徴とねらい──

大木一訓

はじめに

 最近の奥田財界は、あまりにも慢心が過ぎるのではなかろうか。『文藝春秋』の本年1月号に、奥田碩「死に物狂いで成長を実現せよ」が掲載されているが、それを読むと、奥田氏はまるで小泉内閣を後見し国民に教訓をたれる「専制君主」のようである。国民の批判にさらされている小泉総理や日本経団連を擁護しようとするのはよいとしても、「消費税増税反対」や「医療費患者負担の軽減」を主張する人々を「異星人」呼ばわりし、全国の企業経営者に対してばかりか公務員や国民に対しても、財界の言う「民間主導の改革」に従って経済成長を「死に物狂いで実現せよ」と命ずる人物を、われわれは専制者と呼ばずして何と呼ぶべきであろうか。そこには、民意を尊重しようとする謙虚さや民主主義的感覚は微塵も感じられない。残業不払い、脱税、国家試験問題漏洩などで、自らも不祥事を引き起こしてきている責任や反省は、どこ吹く風である。こうした傲慢さで、消費税を一日も早く引き上げよ、年金保険料引き上げの厚生省案には絶対反対だ、年金未納者には健康保険証取り上げなどのペナルティを課せ、中国企業に負けない技術革新に全力をあげよ、産業空洞化を恐れず「MADE“BY”JAPAN」に発想転換せよ、「政界と財界との間に一つの道をつくる」政治献金は21世紀の日本のために必要だ、等々といった自己主張を、国民が公認し実現すべき責務として列挙するのであるから、その厚顔さにはあぜんとするほかない。
 実は、2002年5月に経団連と日経連が「統合」して日本経団連が発足し、その初代会長にトヨタ会長の奥田氏が就任した当初から、奥田財界が民意を顧みない専制的な影響力行使に走るのではないか、という危惧があった。一つは、「統合」直前の2002年春闘で、日経連が、労働組合の存在を無視するような、一方的な賃金・労働条件の決定に踏み出したことである。高収益企業をもふくめ、全産業にわたって賃上げゼロ回答を労働者に押しつけたばかりでなく、電機に見られたように、春闘での妥結協定を実質的に反古にする、賃金・労働条件の一方的切り下げを妥結後に強行したのである。それを指導したのが当時日経連会長の奥田氏であった。二つに、「経営者よ、リストラするなら腹を切れ」との一文を発表し(『文芸春秋』1999年10月号)、「人間の顔」をして華々しく財界にデビューした奥田氏は、実際には規制緩和・国家的リストラ推進の先頭に立ち、自らの二枚舌に何の痛痒も感じない言動を展開していた。事実、日本経団連は、発足総会の翌日には政府に72項目の規制緩和を要求している。そして、財界総理となった奥田氏は、小泉首相に直属する経済財政諮問会議の中心的「議員」として直接政権に参画し、政界にも大きな影響力を行使するようになるが、彼の言動は当初から、経営者・産業界全体を代表するというよりも、これまで以上に一部巨大企業=多国籍企業の利益を代弁するものとなっていたからである。
 奥田財界は、専制的な政治支配推進の下に、多国籍企業の利益を公然と国民の利益の上に置こうとするのではないか。この危惧は、いまや現実のものとなった。「二大政党」買収作戦だけではない。そのことは、日本経団連が昨年12月16日に発表した「2004年版経営労働政策委員会報告」(以下、「経労委報告」という)を見ても歴然としている。この「報告」は、日本経団連が2003年元旦に打ち出した新ビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」(俗に「奥田ビジョン」と言われる)を下敷きにし、その後の日本経団連の一連の報告(「産業力強化の課題と展望」2003年4月22日、「アジア地域における労使関係」2003年7月22日、「外国人受け入れ問題に関する中間報告」2003年11月、など)の内容をも組み込んで、「経営労働政策」にかかわる財界戦略を提示したものであるが、そこでは、多国籍企業本位の驚くべき日本社会改造政策が、労使一体で取り組むべき課題として提唱されているのである。

1 「04経労委報告」の異常な賃金切り下げ政策

 「2004年国民春闘共闘委員会」の「春闘方針」は、「経労委報告」を特徴づけて、こう述べている。その内容は「『春闘終焉』『労働法制の全面改悪』『賃金切り下げと総額人件費削減』などを叫び、『ベースダウンも労使の話し合いの対象になる。定昇廃止・見直し、降給もありうる』などと従来の労使関係をつぶし、労働者の切実な要求に真っ向から挑戦するものである。そればかりか、教育、社会保障、税制など『構造改革』路線を全面的に推進する財界の姿勢をむきだしに示したものとなっている」と。たしかに、その通りである。賃下げや賃金制度見直しについても、春闘や労働組合の変質を迫る攻撃についても、さらには労働法制の改悪についても、今年の「経労委報告」が昨年の場合よりも一段と踏み込んだを労働者・労働組合攻撃を展開していることについては、誰もが認めるところであろう。
 問題は、今年の「攻撃」が、昨年までの攻撃をその延長線上でさらに強化したという範囲のものなのか、それとも従来にない重要な質的変化をむ含むものなのか、という点である。もし前者なら、「春闘連敗」で鍛えられている労働組合の幹部・活動家にとっては、とりたてて問題にすべきほどの事ではない、ということになるかも知れない。だが、事態ははるかに重大であるように思われる。
 今年の「経労委報告」が提唱している政策内容をつぶさに検討していくと、それらが論理的な整合性も経済の合法則性も社会的公正も無視した、一連の異常な政策提起となっていることに気付く。たとえば、賃金政策をとってみると、(1)「付加価値生産性上昇率」に連動した賃金水準決定を主張し、上昇率がマイナスのときは賃下げが当然と言いながら、それがプラスの時は、なるべく投資や株主への還元にまわし、やむを得ず賃上げの場合も一時金・賞与で処理せよ、として、なにがなんでも賃金水準の上昇を回避する政策を主張している、(2)個別企業ごとの賃金決定や労働者個々人ごとの賃金決定に固執して、労働市場を通じての企業横断的な賃金決定(賃金相場)や労使の団体交渉による集団的賃金決定を認めようとしない、(3)パートの賃金は「企業へのトータルな貢献度を個別に評価」すれば低いはずだと、理解不能な理由をあげてパートの均等待遇に反対し、不正規労働者の低賃金改善を認めようとしない、(4)従来のリストラではなお不十分だとして、「賃金水準の適正化と年功型賃金からの脱却」、「複線的賃金管理」の導入、退職金にまで及ぶ「成果主義の徹底した適用」などによって、人件費のさらなる大幅削減を強行しようとしている、といった具合である。一方で「経労委報告」は、日本経済がようやく景気回復に向かっていること、また企業収益の大幅改善がすすみ、史上最高益を出す企業が増加していることも認めているのであるから、そのガムシャラな賃金切り下げ政策の異常さはいっそう際立つのである。
 この異常さの背後には何があるのか。それを、一般的な日本資本主義の貪欲さや弱体化した労働組合運動を前にした大企業の増長などに帰するだけでは説明できないであろう。それらの条件が、ここ一年ばかりの間に急変したとは言えないからである。全労連・春闘共闘の運動に即していえば、リストラ反対、不払い残業一掃、未組織の組織化、地域経済再興などのたたかいで、運動はむしろ前進しはじめているからである。
 今年の「経労委報告」を、先に挙げた「奥田ビジョン」をはじめとする日本経団連の最近の提言・報告と合わせて検討してみると、背後にあるのは、次のような2025年を目標とする財界戦略であることがわかる。個々の労働政策も、それとの関連で見るとき、はじめてそのもつ意味の重大さが浮かび上がってくるのである。

2 奥田財界による「労働と生活」の大改造計画

 「04経労委報告」から読みとることのできる財界戦略の「骨格」は、次のようなものである。

(1)日本社会の「自由経済圏」への統合
 第一に、日本社会を、多国籍企業の経済論理が全面的に作用するような「自由経済圏」へと、早急に再編・統合していこうと言う政策である。具体的には、(1)「Made in Japan」から「Made by Japan」への発想の転換、あるいは「貿易立国」から「交易立国」への転換によって、また、(2)「東アジア自由経済圏」の確立と日本の「内なる国際化」の推進によって、カネ、モノ、人、情報が自由にアジアと日本を行き来するような社会づくりを、早急にすすめていくべきだ、というのである。
 「Made by Japan」とか「交易立国」というのは(英語としても日本語としても問題のある使い方だが)、「日本の技術や資本を海外に投入し、世界各国の富の創造に貢献し、あわせてそこで得られた利益を国内にも還元し、次なるイノベーションを生むための資金とする」(国民生活の向上に役立てる、とは言わない−筆者)ことであり、「輸出のみならず、輸入や対外・対内直接投資を一層促進すること」だ、と説明されている。「東アジア自由経済圏」の確立は、WTOを通じた自由貿易推進とともに、ASEAN諸国やNIESとの間でFTA(自由貿易協定)締結をすすめることで、貿易・投資の自由化を加速させていこうとするものである。そして、「内なる国際化」とは、「外国からの直接投資の促進、さらには人の移動の自由化を進め、ヒト、モノ、カネをふくめた多様な経営資源を日本に受け入れる体制の構築」「外国企業、外国人が事業を行いやすい環境の整備」を急務としてすすめることである、という。
 要するにそれらは、多国籍企業の活動にたいする規制を全面的に撤廃せよ、中小企業・小零細業者は裸で海外企業とも巨大企業とも競争せよ、労働者も国の内外で直接アジアの労働者たちと競争せよ、という政策である。それにともなう農業・中小企業の切り捨てや、国内産業や地域経済の破壊・空洞化を甘受せよ、大量失業の発生や低賃金・貧困層の急膨張も避けられない「痛み」として受け入れよ、外資による国内企業・産業の買収・支配を容認せよ、という含意である。こうした政策は、内容的にはすでに「小泉構造改革」として実施に移されてきているものであるが、国際的にも国内的にも、多国籍企業支配の経済システムを一つの社会体制として確立してしまおうとする点で、その破壊的影響力はケタ違いのものとならざるをえない。
 企業会計不正疑惑が広がるなか、国際社会が多国籍企業に対する監視・規制強化に乗り出しているときに、奥田財界は、逆に従来以上の、全面的な規制緩和と貿易・投資の自由化に乗り出していこうというのである。昨年発表の「新ビジョン」にくらべ、今次「経労委報告」では、その政策展開をいっそう性急に、前倒しで進めようとしていると言ってよい。

(2)賃金・労働条件のアジア並み切り下げ
 第二は、上記の「自由経済圏」づくりとそれへの日本社会の再編・統合に対応して、労働者の賃金・労働条件や国民の生活水準をアジア並みに平準化させ、調整していこうとする政策である。この政策を、「高付加価値化」を実現するうえで不可欠な、当面の緊要な課題として提起しているところが重要である。
 「アジア並み平準化」というのは筆者の表現であって、もちろん「経労委報告」にはそのままの文言は出てこない。しかし、内容的にはまさにそうした政策を提唱しているのであって、そのことは、次のような政策を提唱していることからも明らかである。
(1) 日本社会の「アジア自由経済圏」への統合のもとで、労働力についても自由な国際的移動を促進していく。
(2) 海外労働力の本格的導入をすすめ、専門的・技術的分野をふくめ、職業能力のある外国人が日本でその能力を発揮できるよう条件整備をすすめる。
(3) 個別企業の労務管理においても、内外にわたる「本社・グループ企業を含めた人事制度一体化」をすすめる。
(4) 「アジア自由経済圏」に参加できるように、日本の賃金・物価水準は切り下げられねばならない。
 「自由化」の進行にともなう平準化には、もちろんアジア諸国の賃金・所得水準の上昇による平準化という側面があり、アジア経済全体の実際の動向としては、むしろこの側面が主流である。だが「経労委報告」は、「世界的なデフレ」がアジアをもおおっているかのような欺瞞をふりまきながら、平準化は、アジアの低賃金・低所得が今後も持続することを前提に、主としてわが国賃金・生活水準の切り下げによってなされる他ない、と主張するのである。このようなアジア的水準への「調整」として行われる賃金・所得の切り下げは、現行為替水準を前提とするかぎり、少なくとも平均水準の3〜4割にもおよぶ相当大幅なものとならざるをえないであろう。ドル安にともなう円高が進行すれば、なおさらのことである。

(3)不安定・無権利・低所得労働の飛躍的拡大
 第三は、「多様性人材立国」などという、訳の分からない「日本語」で提起されている、「雇用・就業形態の多様化」推進という形での、不安定無権利低所得労働の思い切った拡大策である。水準の切り下げは、思い切った労働力構成の組み替えと表裏一体をなして進められるのである。
 具体的には、(1)「ダイバーシティ・マネージメント」とか「自社型雇用ポートフォリオの高度化」とか称して、女性、高齢者、外国人をふくむ多様な非正規雇用を一段と活用すること、(2)雇用形態の多様化だけでなく、請負、委任、ボランティアなど、労働法制による規制対象とならない就業形態も、多様に開発・活用すること、(3)企業に雇用を守らせる政策から、積極的に企業からの離職・労働移動を促進する政策へと転換し、企業の労働力構成をたえずもっとも安上がりで効率的な状態に維持すること、(4)民営職業紹介や労働者派遣事業の規制緩和をいっそうすすめ、公共職業安定所を縮小・廃止して、労働市場の公正な枠組みを破壊すること、(5)高失業に対しては、実効のない「新規産業育成」策や若年層のインターンシップなどを掲げるだけで、特段の有効策をとらず、基本的に放任すること、といった諸政策である。
 これらの政策は、無権利な未組織労働者・就業者を大量に創出することを前提としている。また、職場でも地域でも、労働者階級の中に、外国人労働者をもふくむいくつもの大きな階層格差をつくりだすことを意図している。それは、これまでのわが国の労働市場や労働法制を成り立たせてきた社会的な基盤や枠組みを、根底から瓦解させてしまう政策だと言わねばならない。

(4)労働者・国民の生活内容のリストラ
 第四は、労働者・国民の生活内容にまで立ち入って「家計リストラ」を推進し、労働力の再生産費を削減して、賃金・所得水準切り下げの円滑な実現をはかるとともに、その過程で新たな国民収奪の機会をつくり出そうという政策である。
 具体的には、(1)「自分らしい生き方・暮らし方」につながる「消費支出のあり方の模索」とか「家計消費の選択肢と自由度の拡大」とか称して、労働者・国民の個人的な生活内容にまで介入し、生活の階層化をはかりながら、全体として安上がりな生活内容の開発・普及をすすめる、(2)「わが国の家計は、特に住宅ローンと教育費の負担が重いことが特徴」だとし、その負担軽減のために「安価な住宅ストックの形成と流通を促進する一連の施策」や「教育現場への健全な競争原理の導入」をすすめる、(3)社会保障制度全体にわたって「給付の削減と負担の引き上げ」という改革を断行し、輸出企業に還付される逆進的な高率消費税を導入する。それによって、企業の支払う間接賃金や税負担を軽減するとともに、国民を社会保障の活用から遠ざけて「自助努力」を強めさせ、社会保障費の削減をはかる、(4)年金、医療、介護保険等の「改革」過程では、私的年金への支援策拡充、株式会社などの医療分野への参入、施設介護サービスへの民間事業者参入などにより、新たな需要創出の場をつくりだす、といった政策である。
 平たく言えば、これは、持ち家をやめさせ、進学率を低下させ、医者にはかかれなくさせて、「年収300万円でも生活できる社会」(森永卓郎『年収300万円時代を生き抜く経済学』2003年3月、光文社、参照)をつくり出そうということであり、そうした国民の生活改造を、借家、塾、私的年金、民間営利医療などへの需要拡大につなげて、新たな高収益確保の草刈り場をつくろう、という策略である。ここにはもはや、国民の生活と文化をゆたかに発展させようと言う人間的な意欲はまったく感じられない。存在するのは、あらゆるものの犠牲のうえに、ただただ高収益を追い求める巨大企業の貪欲さだけである。

 以上のような「労働と生活」の大改造計画は、昨年冒頭発表の「奥田ビジョン」ではまだ明らかにされていなかった。すでに「Made by Japan」戦略の推進とか「東アジア自由経済圏」の実現という課題は提起されていたが、それらは一般的抽象的な政策方向として個々に提起されていたにすぎず、「交易立国」という一つの社会体制にまとめられ、当面の現実的課題として提起されるものではなかった。また、それらの政策が国民にどういう「労働と生活」をもたらすことになるのかも、明らかにされてはいなかった。その点、今年の「経労委報告」は(もちろん財界文書の常で、さまざまな粉飾やデマゴギーで真意を覆い隠してはいるものの)奥田氏の慢心に助けられてか、かなり率直にその意図するところを明らかにしている。
 それにしても、そこから見えてくる日本の未来とは、NAFTA(北米自由貿易協定)のもとで「強者の論理」の貫徹に苦しむメキシコ経済を想起させるものではないだろうか。たしかに多国籍企業と化した日本の巨大企業は、アメリカを中心とする国際独占との従属的提携のもとに、自由な国際資本投資とこれまで以上に徹底した「世界最適地生産」を実践し、大幅なコストダウンを実現して、史上最高の高収益記録を更新しつづけるかも知れない。しかし、そこでは疑いもなく、国民生活は荒涼たる貧困の淵に追いやられ、国民経済の存立基盤が回復困難なまでに破壊されていくことになろう。そうした「絶対的貧困化」と国民経済崩壊の過程を、財界の売国行為を、日本の労働者・国民が、労働運動が、黙って受け入れることはありえない。

3 労使関係の抜本的再編と労働法制のさらなる改悪

 財界も、労働者・国民の抵抗とたたかいを予想しているのであろう。「労働と生活」の改造とならんで、「経労委報告」がいま一つ大きなねらいとしているのは、労使関係の抜本的改変と労働法制のさらなる改悪をテコとして、労働者・労働組合の抵抗やたたかいを挫き押さえ込むような諸政策の推進である。
 労使関係については、(1)春闘を「春討」あるいは「春季労使協議」へと変え、今次「春討」は、企業存続についての危機意識醸成と中期的話し合いの出発点にする、として、実質的に団体交渉を拒否する、(2)団体交渉の代替物としての「労使協議制」を広め制度化する、(3)非正規従業員の比重が高い職場では、ノン・ユニオンの「新たな労使関係」構築する、 (4)「労使一体」の企業別組合をいっそう重視し、その協力を得て労働者の抵抗や組織化への動きを押さえ込む、といった政策が打ち出されている。
 「経労委報告」が認めるのは、会社派組合のもとでの「労使一体」的な労使関係だけであり、実質的には労働組合も団交権も否定する立場に立っている。「自由経済圏」のもとでは、ノンユニオンの労使関係を構築していかねばならない、というのが奥田財界の政策だと言ってよいであろう。
 労働法制については、(1)裁量労働制のさらなる要件緩和や、ホワイトカラーへの労働基準法適用を排除する「エグゼンプション」制導入など、労働者の基本的諸権利を剥奪する、(2)民営職業紹介や労働者派遣事業のいっそうの規制緩和、労災保険の民営化など、職業生活にかかわる社会的規制や公的制度を縮小・廃止していく、(3)パートの均衡処遇、定年年齢延長、障害者雇用未達成企業名の公開、などへの反対に見るように、公正な社会的規制に対しても個別企業の経営権や「労使自治」を持ち出して反対する、といった政策が示されている。(さらに、文面には出てこないが、(4)すでに政府は財界の要請をうけて、労働基準法や労働組合法の見直し検討を開始したと伝えられていること、(5)また、国労・JR不採用事件での最高裁敗訴や労働審判制創設への動きともかかわって、労働委員会制度の再編問題が浮上していることにも留意する必要がある。)
 奥田財界は、前述の「労働と生活」大改造をにらんで、労働法制の全面的な見直し・再構成を考えている、と見てよい。その点で参考になるのは、奥田氏の日本経団連会長への就任に際して作成された、愛知経営者協会「今後の労使関係のあり方検討委員会」の報告書『変革の時代における労使関係』(2002年5月)である。そこでは、従業員の圧倒的多数が非正規=未組織労働者や個人就業者となり、労働組合には一部の正規従業員が加入するにすぎなくなる状況のもとでの、労働基準法、労働組合法、団交および労使協議制度、苦情処理制度などのあり方が検討されている。労働法制の前提や構造は一変することになると想定されているのであるが、変化のベクトルは、本質的に21世紀ではなく19世紀を向いている、と言わねばならないものとなっている。「経労委報告」の内容にも、われわれはそれと共通のベクトルを看取するのである。

4 財界流「社会改造」策の弱点と労働運動の課題

 エンゲルスにならって言えば、社会のありようは労働者階級の状態によって基本的に決まってくる。賃金・労働条件は国民生活の内容や水準を規定する最大要因であるし、民主的な労働組合や労使関係の存在いかんは、一国の民主主義の成熟度を決定的に左右する。その意味では、「経労委報告」が検討対象としている諸政策は、まさに日本社会改造政策だと言わねばならないものである。
 しかし、今回、「経労委報告」をはじめとする一連の財界文書を読んでみて痛感するのは、そのあまりの教養の無さ、指導的人物の手になるとは思えない思想の貧しさと志の低さである。それは、社会改造という、歴史的にも社会的にも広い視野のもとに論じられるべき論議などには、とうていなりえない代物であった。巨大企業の「サバイバル」と収益拡大にしか関心をもたない人物、庶民と共に夢を語れない人物に、社会改造を語る資格などはじめから無いのである。
 「経労委報告」はたんなる提言ではない。それは、バックに巨大資本の力を擁する、人々に指示し命令する力をもった文書である。それは現実を反映しているし、巨大資本による実際の戦略展開には、すでに財界提言の先を行っているものも少なくない。だから、「経労委報告」を軽視することは許されないし、労働組合は財界の意図するところを十分視野にいれながら運動をすすめる必要があるが、同時に、それが致命的な弱点をもっていることもわれわれは忘れてはならないと思う。つまり、財界文書、とくに今回の「経労委報告」は、その内容が正確に伝われば伝わるほど、国内においても国際社会においても、反発され孤立するしかない政策提言だということである。(奥田氏は、たとえば、この文書をILOにもっていって紹介したら、どんな反応が返ってくるか、想像してみたことがあるだろうか。)
 ここ数年、労働組合は、好業績のもとでも賃上げゼロ回答を押しつけられ、さらには定昇ストップや一方的な賃金・労働条件の切り下げを強行されてきた。業績が改善しても繰り返しリストラが強行され、正規労働の非正規への切り替えで、賃金水準の切り下げは歯止めもないままに猛烈に進行している。いまや企業収益の増加と賃金・労働条件向上との間には何のつながりもない。あるとすれば、むしろ反比例の関係である。少なくとも大企業については、「パイの理論」も「トリックル理論」も通用しなくなっているという事実を、多くの労働者・労働組合が臍をかむ思いで肝に銘じているのが、今日の実態である。そうした労働者・労働組合に、今回の「経労委報告」は、儲かっても賃金への「分配」などありえない、と念を押すように宣言しているのであるから、奥田氏が「死に物狂いで成長を実現せよ」と絶叫しても、だれもそれについて行くお人好しなどいないのである。実際、「経労委報告」に対しては、全労連・春闘共闘はもちろん、連合も金属労協も強く反対せざるをえなかった。いまではますます多くの労働者が、局面を打開できるのはたたかいだけだ、大衆運動だけだと自覚するようになってきているのである。
 奥田財界戦略は、非正規労働者がますます膨張し、しかも未組織無権利な労働者にとどまっていてくれることを前提にしている。また、アジア諸国が将来も低賃金未組織労働者を大量に供給しつづけてくれるものと期待している。さらには、労働組合の多くが「労使一体」の会社派組合として、労働者・労働組合の権利を骨抜きにする「労働改革」に協力してくれることを当てにしている。しかし、最近の情勢のなかでは、これらの前提や期待が次々に覆されてきている。非正規労働者の間での組合結成機運の高まり、アジアでの労働組合運動の発展と日本多国籍企業に対する批判の高まり、全労連・春闘共闘運動の影響力の広がり、など、最近の運動動向の特徴を見ても、財界戦略の前途は多難である。
 労働運動が、財界に取って代わって、ゆたかな日本への現実的な社会改造プランを示し、非正規労働者の組織化を推進力に、労働者各層、国民各層の間の統一と共同を発展させるならば、財界戦略は絵に描いた餅となってしまうだろう。いま労働運動に求められているのは、自らと仲間への信頼である。 (本稿は、1月15日に開催された国民春闘・単産地方代表者会議での講演記録を整理・加筆したものです。)

(労働総研代表理事・日本福祉大学教授)


第1回常任理事会報告

 2003年度第1回常任理事会は、03年10月25日(土)午後1時30分から5時30分まで、ユニオンコーポ会議室で、牧野富夫代表理事を議長に開催された。
 常任理事会に先立つ研究会で、牧野富夫著『構造改革は国民をどこに導くか』(新日本出版社・03年10月刊)を取り上げた。天野光則常任理事がコメンテーターとして報告し、牧野氏が、“本書で述べたかったこと”について報告した後、討論を行った。

I 報告事項

 2003年度定例総会決定の実施状況および一連の研究所の活動と事務局の活動状況などについて、藤吉信博事務局次長が、(1)03年度定例総会議事録の作成、(2)「基礎理論・理論問題プロジェクト」の準備状況、(3)「労働運動史研究部会」の準備と発足状況、(4)名古屋研究例会「これでいいのか日本資本主義シンポジウム」、(5)事務局の強化、(6)「2004年国民春闘白書」編集状況、(7)編集委員会の活動状況、(8)事務局の活動状況、(9)各研究部会活動状況、(10)埼玉県労連との共同調査、および(11)会員拡大などについて報告した。「春闘白書」について内容上の補強意見が出され、報告は了承された。

II 協議事項

 大須眞治事務局長より入会および退会について報告があり、了承された。論議のなかで、代表理事の努力で新団体会員が入会し、各位の推薦で新個人会員もかつてなく増えているが、会員の高齢化と死去にともなう退会も少なくないので、新規入会についての努力を一段と強める必要性が確認された。
 大須眞治事務局長より、2003年度定例総会決定の具体化の問題として、(1)「調査研究活動のあり方検討委員会の設立」、(2)「人事検討委員会」について提案された。討議の結果、「調査研究活動のあり方検討委員会」の責任者を大木一訓代表理事として発足させ、全労連とも協議しながら、より実践的・効率的な調査研究活動のあり方を具体化していくことを確認した。「人事検討委員会」の責任者を牧野富夫代表理事し、検討に入ることを確認した。
 続いて、大須眞治事務局長より、「基礎理論・理論問題プロジェクト」について報告があり、討議の結果、浜岡政好常任理事を責任者として、研究活動に取り組むことなどが確認された。また、労働運動史研究部会のメンバーと中小企業研究部会の責任者の交代について報告があり、了承された。
 続いて、大須眞治事務局長より、全労連との協力・共同の強化の問題として、(1)組織拡大推進基金カンパへの協力、(2)共同の具体化について、などについて報告され、組織拡大推進カンパに積極的に応えていくことが確認された(下記のような「全労連『組織拡大推進基金』カンパへのご協力のお願い」を全会員へ発送した)。共同の具体化については、全労連と協議することが確認された。

全労連「組織拡大推進基金」カンパへのご協力のお願い

 皆さんのご奮闘に心から敬意を表します。また、労働総研の諸活動に日頃からご支援、ご協力いただいていることに深く感謝申し上げます。
 全労連は、労働者・国民諸階層の深刻な状態悪化を打開し、「人間らしく働き、生活するためのルール確立」を実現するために、労働組合の組織率低下に歯止めをかけ、労働組合の社会的責任を果たしうる力量を発揮できるよう、組織拡大に全力を尽くす方針を、7月の第33回評議員会で決定し、その保障となる「組織拡大推進基金」カンパを別添資料にあるように、全労連運動を支持するすべての人々に呼びかけています。
 労働総研第1回常任理事会は、代表理事の提案を受け、討議した結果、全労連との「密接な協力・共同のもとに、運動の発展に積極的に寄与する調査研究・政策活動をすすめる」ことを目的に設立された当研究所が、全労連が取り組む組織拡大推進運動を積極的に支援することは当然であると考え、「組織拡大推進基金」カンパに全面的に協力し、皆様に訴えることを確認いたしました。労働総研は、全労連結成の1ヵ月後、1989年12月に設立され、来年は15年を迎えます。労働総研が、労働運動に関する調査研究・政策提案の活動で、一定の社会的評価を築けたのは、会員の皆さんのご支援、ご協力とともに、全労連による全面的な支援、協力によるものです。大企業は、大量な首切り・人減らし・リストラ「合理化」攻撃を強行し、小泉自民党・公明党連立内閣は連続して悪法を可決し、大企業のリストラを支援・促進しています。その結果、戦後最悪の水準にある中小企業の倒産、未曾有の失業と雇用不安、労働諸条件の切り下げなどが、日本経済の国民的基盤を破壊し、日本経済に深刻な危機的状況をつくりだしています。情勢は、小泉首相がアメリカの侵略戦争に日本と国民を動員するため、憲法改悪を日時をきって強行するという重大な局面を迎えています。このような情勢は、政治革新の展望と結びつけて、労働者・国民の生活と権利を発展させる政策「21世紀初頭の目標と展望」を掲げて、国民的共同で中軸的役割を果たすために奮闘している全労連が大きく発展することを強く求めています。
 年末・年始で何かと出費の多い時期ではありますが、なにとぞ、会員各位のご理解をいただき、積極的にカンパに応じてくださいますよう、心からお願いするものです。なお、大学や研究所、職場や地域の周りの皆さんにもカンパを呼びかけていただきますよう、重ねてお願いいたします。
 向寒の折、健康には十分ご留意ください。


2003年11月21日(全労連結成の記念の日に)

労働運動総合研究所代表理事
大江 洸 大木 一訓 牧野 富夫
労働運動総合研究所 常任理事会

全労連より感謝寄せられる
引き続きのご協力を

 労働総研会員各位の皆さんが、代表理事・常任理事が、全会員に呼びかけた「全労連『組織拡大推進基金』カンパへのご協力のお願い」に積極的に応えていただいています。
 全労連から、「全労連『組織拡大推進基金』カンパへのご協力のお願い」に応えて、2003年12月末までに、約50万円のカンパが寄せられているとの感謝の連絡がありました。代表理事・常任理事一同、会員各位が積極的にカンパをお寄せいただいていることに対し、心から感謝申し上げますと共に、さらに引き続きカンパへのご協力をお願いいたします。

(郵便振替 00120-8-553791 全国労働組合総連合)


10・11・12月の研究活動

10月 4日 名古屋研究例会─「これでいいのか日本資本主義」(ニュース前号参照)
8日 労働時間問題研究部会─主要な産業別労働組合の労働時間政策の紹介と批判について
15日 労働運動史研究部会─今後の研究計画
20日 賃金最賃問題研究部会─職種別賃金問題について
29日 青年問題研究部会─神奈川の職業訓練
31日 国際労働研究部会─最近のドイツ労働運動の動向
女性労働研究部会─大沢真理「男女共同参画社会をつくる」について
11月 12日 労働時間問題研究部会─独占資本の新しいイデオロギーについて
17日 賃金最賃問題研究部会─年齢別横断賃率の可能性について
22日 関西圏産業労働研究部会─今日の賃金制度の動向と社会的収入の再分配
24日 政治経済動向研究部会─今年度の研究計画
28日 中小企業問題研究部会(公開)─自治体における地域経済振興のとりくみ
国際労働研究部会─イギリスの労働運動の現状
12月 1日 賃金最賃問題研究部会─労働組合の年齢別横断賃率規制について
2日 女性労働研究部会─兼松商社の判決について・生協労連「正規とパ─トの均等待遇推進」政策案について
10日 労働時間問題研究部会─日本の時短闘争はなぜ発展しないのか
青年問題研究部会─アメリカ労働運動と新世代
13日 理論問題プロジェクト─今後の研究計画
17日 労働運動史研究部会
20〜
21日
不安定雇用労働者の実態と
人権プロジェクト─報告書について
26日 国際労働研究部会─イタリアの労働運動の現状

10・11・12月の事務局日誌

10月 8日 自交総連第26回定期大会へメッセ─ジ
14日 話題提供型調査打ち合わせ
17日 事務局会議
18日 第1回編集委員会
24日 事務局会議
25日 第1回常任理事会
29日 2004年国民春闘共闘委員会発足総会(藤吉)
11月 21日 事務局会議
12月 5〜
6 日
春闘討論集会(藤吉)
16日 事務局会議
27日 第1回調査研究活動のあり方検討委員会

寄贈図書

*戸木田嘉久著「労働運動の理論発展史(上・下)」
 03年9月・10月・新日本出版社
*猿田正機著「福祉国家・スウェーデンの労使関係」
 03年10月・ミネルヴァ書房
*江藤俊介・七里和乗著「自民党・創価学会・公明党」
 03年10月・学習の友社
*北海道NTTリストラ裁判を支援する会・通信労組北海道支部編「ここまでやるのかNTT」
 03年10月
*牧野富夫著「構造改革は国民をどこに導くか」
 03年10月・新日本出版社
*中村隆典著「仕事が終わらない 告発・過労死」
 03年10月・新日本出版社
*全印総連労働組合テキスト編集委員会編「組合って何だろう?」
 03年11月・全印総連