労働総研ニュースNo.158号 2003年5月



目   次

労働運動総合研究所プロジェクト研究部会代表者会議

2002年度研究活動の到達点と2003年度研究活動の基本方向
第3回常任理事会報告他



労働運動総合研究所プロジェクト研究部会代表者会議

2002年度研究活動の到達点と

2003年度研究活動の基本方向

日 時:2003年3月4日(土)
平和と労働センター・全労連会館304+305号室


 2002年度プロジェクト・研究部会代表者会議が、2003年3月29日(土)、平和と労働センター・全労連会館でおこなわれた。会議は、事前に配布されていた2プロジェクトの「報告」と会場で配布された各研究部会の「報告」を前提に議論がおこなわれた。
 当日の討論は、当研究所における2002年度の研究活動の到達点と2003年度研究活動の基本方向を示している点で重要であるので、発言の要旨を収録した。

 司会(大須眞治事務局長)
 今回の代表者会議は、2002年度の総会方針にもとづく各研究活動の到達点をあきらかにし、7月の予定されている2003年度総会方針の研究活動の基本方向を充実させていく上で重要な会議です。牧野代表理事から「あいさつ」をかねて今回の会議の性格と位置づけについて「報告」をお願いします。

「あいさつ」をかねた「報告」
 ―会議の性格と位置づけについて―

 牧野富夫代表理事
 本日の会議にいたった経過を報告しながら、今日の会議で議論していただきたい点についてのべます。昨年から、プロジェクト・研究代表者会議での議論のやり方を変えて、各研究部会報告も2つのプロジェクトにおける研究を深めるという観点から議論をしていただいた。
 そこで議論された論点は、2つのプロジェクトが、一方で、実態の調査研究を深め、他方でそれを基礎理論的に深めているという、いわば表裏一体の関係にある、ということがあきらかになりました。
 そこで、今回は、前半部分をすでにお配りし、検討していただいていることと思いますが、2プロジェクトから「報告」をうけて議論をし、後半では、それぞれの研究部会が到達している状況を、また活動方針がハッキリしていない部会は討議を深める中でハッキリさせていただきたいと思います。
 2001年度の総会から、2つのプロジェクトを中心にすえた研究活動をおこなうことが確認されました。それは労働者をめぐる情勢が急激に変化し、基礎理論にてらして現状を深く掘り下げて理解することが、現状打開のための調査研究活動と政策活動に不可欠になっているからです。労働者状態をめぐる最大の焦点は、賃金問題と、雇用・失業問題です。「基礎理論プロジェクト」は、労働者、労働組合が直面している焦点にしぼって、1年で「報告書」を出す。「不安定雇用プロジェクト」はほぼ2年で「報告書」を出すということを確認して研究活動をすすめてきました。
 今日の参加者は、両プロジェクトの「報告」をすでに読まれていますので、活発な議論をお願いします。

基礎理論プロジェクト

 小越洋之助常任理事
 この「報告書」がどういう経過でつくられたかについて最初に述べます。基礎理論プロジェクトがなぜ「賃金の世帯単位から個人単位へ」を中心に議論したかといえば、おおよそ次のようなポイントがあります。
 (1)21世紀という長期的視野からの均等待遇の位置づけを行うこと(2)財界は低賃金層を拡大しようとしていること、この問題に対して理論的に整理すること(3)運動の側からの理論を発展させる必要があること(4)ジェンダー論、フェミニズム論の意義と限界を明確にすること、などです。
 プロジェクト内部での討論の過程で、このプロジェクトのテーマの性質上、この問題に関わる個人論文も取り上げ、それを評価するということも必要である、としました。プロジェクトメンバー全員の意見が完全に一致しない論点も存在していたので、「報告書」では最終的にはこのプロジェクト責任者の責任と判断で取りまとめることとし、これに関連して問題提起をした研究者の個人論文の評価、あるいは意見の異なる論点などは「付属資料」を設定し、当該執筆者の実名で「論点提示論文」を掲載することにする、という処理をしました。
 『資本論』における賃金論の基本的概念である「労働力の価値」規定の理解については、労働力の価値をSollen(あるべきもの)としてではなくSein(あるもの)とする立場を明らかにしています。
 テーマの中心である賃金の「世帯単位から個人単位化」については、それを促進させている社会的背景として(1)「生活過程の社会化」(2)女性の職場進出(3)家族形態の変化(4)成人男性の雇用不安と賃金の停滞の4点を挙げています。そして現在進行している「個人単位化」を「市場原理主義的個人単位化」と位置づけています。なお、ここではマルクスの「労働力の価値分割」論が「家族賃金」イデオロギーにおかされているかのような一部フェミニズム論者の批判はまったく的外れの論難であるということを、『資本論』の歴史的コンテクストのなかで明らかにしています。
 「報告書」では、「労働力の価値」概念は抽象的一般的レベルだけでなく、現実の競争を前提とした市場価値論としてさらに発展される必要があること、そのさい各部門の個別価値の加重平均が市場価値となるという「加重平均説」の立場をとってそれを展開しています。同時に労働市場における供給過剰がある場合は「限界原理」(最も安い個別価値)によって規定されるという点も明確にしています。そして「労働力の価値」は事実の分析から抽象した概念であるのであるから、日本の現状においてそれは具体的数量的に確定できるという立場から、政府統計による「単独収入世帯(非共働き世帯)」、「共働き世帯」、「単身者世帯」の「労働力個別価値平均」を算出しました。ただし、この水準は現在の勤労者家計で増加している「実支出以外の支出」を除いた数字であることに留意して下さい。
次に「賃金形態」論では「労働力の価値」がなぜ「労働の価格」として現象するのか、ということだけでなく、今日の均等待遇問題との関連を意識して同一労働同一賃金要求の理論的根拠を基本点において展開しています。
 次に賃金の「世帯単位から個人単位へ」の理解に関するジェンダー論と関わる論点を3点に整理しました。それは(1)年功賃金は「性差別賃金」か否か、という点(2)「家族賃金イデオロギー」批判によって、「世帯単位」の賃金が一般に否定されるべきか否か、についての評価(3)現在進行している「市場原理主義的個人単位化」に対して、個人単位化における二つの道―「市場原理主義的個人単位化」と「自立可能な個人単位化」―として、「自立可能な個人単位化」という対概念を提起しています。そして、ジェンダー平等政策としての非正規雇用規制問題を、EUの経験も検討しながら提起しています。
 最後に、「日本における賃金の『自立可能な個人単位化』の展望」について「提言」をおこないました。その際、「前提条件の分析」として「戦後日本の賃金が『家族単位賃金』を中心に展開されてきた歴史的経過」を、(1)敗戦後・占領期の賃金体系の特徴、(2)定昇制度の確立と年功賃金の性格・「家族賃金」との関係、(3)職務給、職能給政策の展開と年功賃金との関係、(4)「家族単位」賃金から「個人単位」賃金が求められる2つの方向性とその狙い、という4つの角度から検討・解明しました。
 その分析の上に立って、(1)生計費を充足する賃金の確保を基礎にすること、(2)全国一律最賃制の確立が「個人単位」で自立した生活を営む基本的課題であること、(3)「均衡待遇」ではなく、均等待遇・同一(価値)労働同一賃金原則の現実化を目指すこと、(4)成果主義・考課査定による賃金の個別化を許さないこと、(5)雇用の多様化・柔軟化・流動化への規制緩和を許さないこと、(6)個人単位賃金への転換にかかわる生活関連手当の問題と社会的条件の整備、(7)女性・若者が働き続けられる労働条件と社会的環境の整備、(8)企業内運動からの脱皮、という角度から「差別を排除した『自立可能な個人単位化』の条件構築の展望」について「提案」しました。
 最後に、このプロジェクトの残された課題を挙げています。今回のプロジェクト研究が資本主義の現実の変化を踏まえた理論問題の発展という難題におけるそのごくごく一分野の検討ではありますが、それをわずか1年間でまとめるという時間的制約のなかで、未検討の課題、ないし理解しておくべき情報の必要性が続出してきたこと、そのことを踏まえています。さしあたり(1)基礎理論の体系的展開(2)国際比較研究の課題を挙げています。以上が「報告書」の本体の大要です。
 個人名を挙げて論評する必要が生じた点は、全体的な「報告書」にはなじまないと判断し、「論点提示論文」として、個人の責任において論じています。それは(1)「家族賃金か、個人賃金か―論点整理の手がかりとして、中川氏の見解を中心に」(川口和子)、(2)「賃金の本質と現象をめぐる問題」(辻岡靖仁)、(3)「女性賃金差別是正をめぐるいくつかの論点」(黒田兼一)の3論文です。

不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト

 「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」は、昨年春に発足して以来、いままで8回の研究会を開きました。全労連が昨年実施したパート・臨時労働者に関する実態調査をはじめ非正規・不安定雇用に関する調査報告書や実態に詳しい方の話などをもとにさまざまな角度から検討を行いました。引き続き現状に即した調査を行い、来年春にはプロジェクト報告書を提出できるようにしたいと考えています。
 報告書の構成は、(1)今日の日本における不安定雇用問題の位置、(2)不安定雇用の代表的形態の分析、(3)人権論から見た不安定雇用問題、(4)運動論―不安定雇用組織化の経験と展望、(5)アメリカ、ドイツの不安定雇用問題、ということになると思われます。
 グローバル経済のもとでの多国籍企業の国際競争戦略のなかで、日本の労働基準(働き方のルール)を引き下げる圧力が強まっていますが、これによって日本の雇用の形態が大きく変容し、失業者も著しく増加しています。政府の進める「労働市場の構造改革」はこうした状況をさらに促進する役割を果たしています。(1)ではこれらの点を実態に即して明らかにします。
 今日の雇用構造の変容について、全体的動向はおおよそ把握できるのですが、正規雇用と非正規雇用(パート、アルバイト、派遣労働者など)が企業レベルでどのように編成されているのかなど、具体的な実態について捉えることはなかなか容易ではありません。できるだけ実態を明らかにできればと思います。
 このプロジェクトには労働法の専門家も加わっていますので、人権論の角度から今日の不安定雇用の問題を解明したいと考えています。特に、労働法の分野でも非正規・不安定雇用の活用を積極的に推進する議論が強まっていますので、これらを理論的に批判したいと思います。あわせて厚生労働省の政策も資料に即して分析する予定です。
 さらに、不安定雇用労働者のなかの取り組みについても注目し、組織化の経験や今後の展望についても分析したいと考えています。これまで知られてこなかった各分野や各地の多様な取り組みを掘り起こすことができればと思います。
 また、外国の不安定雇用労働者の現状や組織化について、先進的事例を積極的に紹介するつもりです。アメリカでは不安定雇用労働者の労働条件の引き上げや組織化をめざす草の根の運動が繰り広げられており、EUレベルでも派遣労働に関する法令を制定する動きがあります。こうした運動の最新動向を正確に把握するようにしたいと考えています。
 以上のように、プロジェクトの課題はたくさんあり、実施するには困難なことも多いのですが、何とか来春にはゴールインできるようにしたいと思います。

 司会
 休憩の後に各研究部会から報告を受けたいと思いますが、休憩の前に、2つの報告についてのご質問があれば、ご発言ください。

 小林宏康常任理事
 情報提供です。長野で、偽装派遣の労働者が相談にきてJMIUに加入し、闘いになっているケースがある。神奈川では春闘アンケートに多数の偽装派遣労働者が回答してきた。この人たちからの聞き取りも可能かもしれません。
 基礎理論プロジェクト報告にかかわって、経過では60年代に臨時工制度撤廃闘争がある。財界新戦略では賃金の加齢による上昇廃止が30歳代に移ってきている。労働力価値の規範的解釈の部分はもっと丁寧に、誤解を招きかねない。「自立可能な個人単位化」の道という表現、一考できないか。企業内運動が対象外にしてきた分野への挑戦が求められている。

 川口和子理事
 不安定雇用プロジェクトの報告は大変興味深く聞きましたが、現在の不安定就労は量的にも拡大していますが、多様化しているところに特徴があるように思います。在宅ワーク、外国人労働者、研修労働者などです。運動論と組織化の展望には大きな期待をしています。

 小越洋之助
 企業内運動からの脱皮の問題は言わんとされていることはよくわかります。企業内、産別では解決できないという問題がでてくるでしょう。その意味で社会政策も重要です。労働力の価値の「規範」の規定は丁寧にということは、討論が必要ですから具体的問題領域で議論したい、と考えます。原理のレベルではこれが正しい、という認識です。臨時工の展開や非正規雇用の問題がドロップアウトしているといえますが、私たちに与えられた課題が何であったかをよく理解していただきたい。非正規雇用のプロジェクトは別に動いています。なお、非正規雇用問題を賃金の領域で見るのか、雇用形態の問題、(たとえば正社員化の条件を整えるという問題)なのかという論点もあります。賃金が30歳から減っていくという問題は、「報告書」での展望のところと関連して深めたいと考えます。「自立可能な個人単位化」の概念は財界側の政策への対抗軸との関係で打ち出したものです。単身者的低賃金層が増大しているとき、政策的にはそれを全員正社員にして世帯賃金を保障する、という選択肢がありますが、現実の力関係でそれができず、その層が増大していく場合、あるいは労働者の多くが世帯自体を構成できない、またはしないという問題をどう考えるのか。個人単位でも世帯構成の展望を可能にさせる、そのようなことをここでは「自立可能な個人単位」と位置づけています。「報告書」全体の詳細を吟味していただくことを切望します。

 休憩後、出席者の自己紹介も兼ねながら、両プロジェクト「報告」と関連させて、事前に各研究部会から提出された、現時点における研究活動状況と到達点、今後の研究活動計画などについて、「報告書」に基づいて、各研究部会の代表者からそれぞれ報告がおこなわれた。

社会保障研究部会

 相澤與一常任理事
 『社会保障構造改革』を昨年8月出版して以降、社会保障との関係で税金問題での公開研究会をもちましたが、休眠状態です。しかし、国保の保険料未納による保険証取り上げ問題と生活保護が攻撃の次のターゲットにされており、社会保障の最後の一線を守るたたかいとして国民的緊急課題となっていますので、再開に向けて話し合っているところです。基礎理論プロジェクトは雇用問題とは一応別の枠組みでレールを敷いたという経緯がありますから、現在の到達点に立って統合しあう課題が残っています。

関西圏産業労働研究部会

 上滝真生
 本年度の研究活動を通じて、今日の賃金の全般的な低下に労働運動が対抗していく上で、賃金問題の理論的・実践的分析を深化させることが必要であるという共通認識が生まれました。そこで、来年度は、地域の労働者の協力も得、関西圏の実態を中心にすえ、賃金問題を中心に研究活動をすすめたいと考えています。

賃金・最低賃金問題研究部会

 小越洋之助
 02年度の研究活動は、2つのプロジェクト研究と関わってそれぞれの研究部会が意識的に研究する、という労働総研全体の方針に沿って、1つは均等待遇問題に関連させて成果主義賃金の新たな動向の検討、およびパートなど非正規雇用労働者の問題を取り上げ、不安定雇用の権利保障との関連でナショナルミニマム問題を議論しています。今後の研究テーマとしては、財界の新たな戦略を当部会の課題との関連で分析することですが、基礎理論プロジェクトで残されたテーマをどう扱うか、非正規雇用の賃金の実態分析、ナショナルミニマム問題などを検討したいと考えています。

 丹下晴喜(関西圏産業労働研究部会)
 来年度におこなおうとしている賃金問題研究では、単に賃金形態の問題だけではなしに、今日における剰余価値率、搾取問題を中心に据えて分析をおこないたいと話し合っています。

 小越洋之助
 おっしゃる通りそうした角度からの分析は今日の日本経済分析とも関連して重要なテーマだと思います。その上で、賃金決定の仕組みや賃金形態の分析をやる必要があるのではないでしょうか。

 中嶋晴代常任理事(全労連女性局長)
 全労連では皆さんのように高尚な議論をしているわけではありませんが、基礎理論プロジェクトの川口和子先生、金田豊先生に参加していただき、「税・社会保障・賃金の『個人単位化』『ライフスタイルの選択に中立な社会制度』に対する考え方の素案」を2月に、修正の余地ありという形で発表しました。

 大江洸代表理事
 基礎理論プロジェクトの報告は、賃金論を全体として展開しているわけではないとことわってありますが、活動家は丁寧に読まないので、あれがないこれがないというように理解しがちです。賃金問題は労働組合運動の最重要課題の一つですから、全労連側との意見交換を是非やってください。

 中嶋晴代
 賃金の「個人単位化」というときには、正規の女子労働者をイメージしていると思いますが、女性労働者の半分以上は非正規です。非正規労働者の均等待遇をどうしていくかが重要です。正規労働者の差別の現状については「ガラスの天井」というパンフレットをつくりましたが、全労連としては賃金プロジェクトに引き継がれる課題です。
 小越洋之助 皆さんからさまざまな要望・意見が出されておりますが、内容的にみれば、さまざまな論点をすべて集約して説得的論証ができているかどうかという意味では「中間報告」的とならざるをえず、その意味では完成品ではありません。しかしながら、このプロジェクトは当初からテーマを限定してきたこと(テーマを限定しないかぎり、「基礎理論」と「プロジェクト」は両立しません)、また、非正規労働については、視点としては十分認識して進めてきました。与えられた期間において、全体としての論旨を一貫させ、問題提起的に作成した「報告書」という点では「完成した」(その表現が不適切であれば、一区切りをつけた)報告書と考えています。もちろんわれわれにおいても誤まった指摘や見落した論点もありうるかも知れません。この報告書に対して、思いつきでなく、ここは現実とかけ離れているとか、あるいはもっと新しい論点があるのではないか、など積極的な問題提起がなされるならば、われわれはそこから大いに学ばなければなりません。

政治経済動向研究部会

 藤吉信博常任理事
 02年度の労働総研の中軸的な研究テーマとして2プロジェクトが位置付けられているわけですから、基礎理論プロジェクト報告を完成していく上でも、研究所会員の英知を反映することが重要だと思います。そうした工夫の一形態として、公開研究会をおこなってはいかがでしょうか。政治経済動向研究部会は、昨年7月『日本経済の変容と「小泉構造改革」』を出版して以降、地方での初の研究例会となった大阪労連の全面的協力でおこないました「これでいいのか日本資本主義」のシンポジウムや兵庫労働総研設立記念シンポジウムなどへの協力をおこなってきましたが、来期は産業「空洞化」問題の分析と政策提言など3つのテーマについて検討していますが、6月までにはテーマを絞り込むことにしています。

女性労働研究部会

 川口和子
 基礎理論プロジェクトと全労連の税・社会保障・賃金の「個人単位化」プロジェクトの議論と関わりが深いため、部会も並行して議論してきました。
 この問題も、男女平等問題の現局面であり、財界・政府は平等要求、自立志向を逆に利用して女性労働力の選別活用策を強めています。従って今後の研究テーマとして主な産業別に、新たな企業戦略とその一環としての女性活用策、それがもたらしている現状、問題点などを検討したいと考えています。3月の部会ではその第1弾として自動車産業をとりあげました。
 小越洋之助 繰り返しになりますが「報告書」は賃金プロパーで、すべての問題を突っ込んで分析していません。その点はご理解いただきたいと思います。

青年問題研究部会

 小林宏康
 民主的青年運動と連携した総合的な青年研究が、60年代末から数年毎に行われてきましたが、82年の出版を最後にバッタリとまってしまった。『労働総研クォータリー』に何度か部会の共同討議の成果を発表してきました。02年秋号に「日本の技術・職業教育と職業訓練」を載せています。95年(阪神大震災ボランティア、HIV闘争)世代が活動家として出てきている。就職難・失業・不安定就労との関わりで青年問題が社会的テーマになっています。日本社会の階級的分化と国際情勢との関わりで、青年を相互に結びつける「環」の分析を今後のテーマとしたいと思っています。
 萬井隆令常任理事 質問ですが、私のHP『バイト学生110番』に、学生に限らず、フリーターの青年を含めて、労働条件が劣悪なため辞めたいけれど、経営者が「契約違反」だといって辞めさせてくれないという事例が最近増えています。そのあたりはどうなっていますか。
 小林宏康 JMIUでは、(駅頭などで)労働相談型未組織宣伝を50歳過ぎのベテラン活動家と民青の若い人が共同でやっている例がある。世代間の連帯、運動の継承という点でも興味深い活動だと思います。

国際労働研究部会

 斎藤隆夫理事
 全労連の国際局と協力して毎年『世界の労働者のたたかい』を発行しています。今年度で第9集になります。メンバーの変動もあり、この仕事に最初から携わってこられた小森良夫理事から、編集の原点をお聞きしました。(1)各国労働者が掲げる要求と政策、(2)運動・闘争形態と戦術、(3)運動の到達点と成果について、客観的に分析する、という3原則を再確認しました。全労連から、その際可能な限り、(1)賃金・労働時間、(2)雇用・失業、(3)社会保障、(4)組織化、(5)政治問題の5分野についても解明して欲しいとの要望があり、その努力をいたしました。当部会の研究活動においても二つのプロジェクトを意識しており、昨年11月に全労連と共催で「不安定就労の実態と規制の現状」をテーマに、欧米・韓国・日本についての公開研究会を開催しました。日本では同一労働同一賃金の原則に立った運動が弱いように思います。職種別熟練度別賃金もその上にあると思います。不安定雇用問題でも有期雇用の問題で大きな違いがありますが、外国の研究をする場合、日本の運動上の論点を深く把握しておく必要がありますので、他の研究部会の成果に学びながら研究活動をすすめたいと考えています。『世界の労働者のたたかい』第9集が出た段階で、全労連と共催で公開研究会を開く予定にしています。
 小越洋之助 諸外国、とくに西欧、北欧諸国における均等待遇の捉え方、対処の仕方は日本とは著しく違うように思われます。それとの関連で横断賃率論の再検討も必要ではないでしょうか。

中小企業問題研究部会

 中島康浩
 96年に『中小企業の労働組合運動―21世紀への挑戦』を出版しましたが、当時と現在は情勢が激変しているので、経済民主主義を実現する労働組合運動の課題と方向を示し、中小企業における労働組合の運動や役割を解明するために、情勢に見合った新版を出すための議論を中心に活動してきました。グローバル化の下での「アジア経済圏構想」の評価や企業・地域、産業・業界、国と自治体の3つのレベルにおける経済民主主義の運動と結びつけた雇用と生活を守る運動、アジアの運動との連帯などの問題を、21世紀は地域・中小企業がキーワードであるという見地から公正取引原則と大企業の社会的責任の確立を結合して分析を深めようと議論しています。全労連のキャラバン行動の中でも、首長との懇談で地域経済を守るという点では一致するわけです。雇用確保、中小企業に仕事を回すことがポイントになることを実践的に解明しながら、来年度中には出版する予定です。

議論のまとめ

 牧野富夫
 「基礎理論プロジェクト」の「報告」に関してはいくつかの要望・意見が出されましたが、「自立可能な個人化」をどのように理解するかがポイントではないかと思います。現在の力関係では自立できないことはあきらかです。そこをキチントしないで「自立可能な個人化」といっても潰されてしますと思います。どういう前提条件が満たされるならば自立が可能なのかという目標といいますかプロセスをハッキリして運動を強めていく必要があるでしょう。そんなことをいっているからダメだというジェンダー論からの批判もあるでしょうが、この点をはっきりすることが重要なのではないでしょうか。「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」ではさまざまな労働力・雇用形態の多様化が、労働組合運動をまったく否定したところで成立しているということが強調されたと思います。これはプロジェクト研究の中間段階の報告ですから、来年の3月末頃には成果を取りまとめるということですし、相澤さんが二つのプロジェクトとをかみ合わせることが必要であると強調されましたが、日本型ワークシェアリングの問題や国際競争力強化のイデオロギー攻撃と人件費問題など、常任理事会としても両プロジェクトのかみ合わせに努力したいと思います。「基礎理論プロジェクト報告」の取り扱いについては、7月の定例総会前に公開研究会をおこない、会員の意見、運動面からのご意見をもいただいて、総会後目に見えるような形で発表できるよう常任理事会で責任をもちたいと考えます。

閉会あいさつ

 大江洸
 長時間活発なご議論をいただきありがとうございました。今年度の総会後、全労連への表敬訪問を皮切りに団体加盟していただいている単産を表敬訪問しております。表敬訪問での懇談では、日頃私どもが経験することのできない、ご苦労やがんばっておられる実態に感動するわけでありますが、労働総研に対して、大きな期待と実践的な要望も数多く出されています。今日の議論もそうした期待や要望に応えるものとしていく必要があると思っています。いずれにいたしましても、労働総研の調査研究活動の成果をさらに発展させて、来年度の運動方針をさらに豊なものとするために、今日の皆さんのご議論を方針に反映させるべく常任理事会も奮闘する決意を述べまして閉会のあいさつといたします。




第3回常任理事会報告

 第3回常任理事会は、03年2月22日、ユニオンコーポ会議室で、大木一訓代表理事を議長に開催された。
 常任理事会に先立ち、相澤與一編・労働総研監修『社会保障構造改革 今こそ生存権保障を』について、相澤常任理事から当該書籍の内容について報告され、日野秀逸常任理事がコメントをし、討論を行った。

I 報告事項
 1)常任理事会決定の遂行状況や一連の事務処理について、藤吉事務局次長が報告し、了承された。
 大江代表理事から、全教・生協労連への表敬訪問(12月9日)と東京地評・年金者組合・福祉保育労への表敬訪問(2月21日)が有意義であったと報告があり、了承された。
 2)2月8日、東京以外で初めて開催された研究例会=「これでいいのか 日本資本主義」シンポジウムが、大阪労連の全面的な支援で、170名の参加を得て成功したことが、藤吉事務局次長から報告があり、大木・大江両代表理事から、この経験を今後の研究所活動に活かす立場からの補足報告があり、了承された。
 3)全労連と共同編集した『2003年国民春闘白書』が1月23日に発行されたことについて、藤吉事務局次長が報告した。討議の結果、内容は充実したが、発行期日を遅らせないように、編集委員会の立ち上げを早期に行うなどの議論が出され、次回の『春闘白書』に活かすことが確認された。
 4)研究部会関連の活動状況について藤吉事務局次長が報告し、公開研究会を積極的に開催することが確認された。
 5)国内外の対外関係活動について藤吉事務局次長が報告し、了承された。
 6)刊行企画の遂行状況について藤吉事務局次長が報告し、討議の結果、若干補強することで、基本的に了承された。

II 協議事項
 1)全労連との関係強化について、大須事務局長から提案があり、第2回常任理事会確認事項(話題提供型調査)の具体化について、金田常任理事から議論の中間報告が行われ、討論の結果、それを具体化するための準備小委員会を立ち上げることが確認された。
 2)プロジェクト・研究部会代表者会議を3月29日することについて、牧野代表理事から提案され、討議の結果、当日の体制を含む一連の準備作業を進めることが確認された。
 3)2プロジェクトの進行状況と今後の展望について、担当の常任理事からそれぞれ報告があり、規定の方針で研究活動を進めることが確認された。
 4)春闘をめぐる情勢と関連して「定昇廃止」・賃金・諸条件切り下げに反対する研究所の緊急な取り組みについて、 大木代表理事より提案があり、討議の結果、「定昇廃止」をめぐる緊急研究例会を3月上旬に開催するため、労働組合にも申し入れを行うことが確認された。
 5)いのちと健康全国センターと共催する日独研究交流集会(3月26日)を、研究例会として位置づけることについて、藤吉事務局次長が報告し、大木代表理事が補足提案を行った。討議の結果、成功を目指して準備することが確認された。
 6)公開研究部会について、大須事務局長から提案があり、討論の結果、未開催のプロジェクト・研究部会は積極的に取り組むことが確認された。
 7)加盟団体への表敬訪問について、大須事務局長から提案があり、大江代表理事からの補足発言を受けて論議し、表敬訪問を最後まで行うことが確認された。
 8)編集委員会の補強人事と編集企画について、相澤常任理事から提案があり、討議の結果了承された。

4月の研究活動

4月 3日 国際労働研究部会―「世界の労働者のたたかい2003」の反省と今後の予定
  12日 政治経済動向研究部会―久留間健著『資本主義は存続できるか―成長至上主義の破綻』をめぐって
  14日 賃金最賃問題研究部会―日本経団連「活力と魅力あふれる日本をめざして」
  19日 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト(公開)―「不安定雇用の立法課題」他
  22日 女性労働研究部会―「男女賃金差別をなくす会」浅倉むつ子氏報告について他
  25日 中小企業問題研究部会―新しい中小企業労働組合運動の書籍の具体化
  28日 青年問題研究部会(公開)―青年問題研究の問題点について

4月の事務局日誌

4月 5日 事務局会議
  12日 拡大事務局会議
  15日 事務局会議
  18日 労働法制中央連絡会議(西村)
  22日 第6回企画委員会
加盟単産訪問(大江・大須・藤吉)