労働総研ニュースNo.154・155合併号 2003年1・2月



目   次
『これでいいのか日本資本主義』シンポジウム
第2回常任理事会報告他
12〜1月の研究活動
12〜1月の事務局日誌



労働運動総合研究所大阪研究例会
『これでいいのか 日本資本主義』シンポジウム

2003年2月8日(土) 大阪社会福祉指導センター
主 催:労働運動総合研究所
後 援:全大阪労働組合総連合


〈主催者代表挨拶・大江洸(労働総研代表理事)〉

 今日は、土曜日の午後という時間帯にもかかわらず、こんなに多くお集まりいただき、心から感謝申し上げます。労働総研の研究例会、これまで東京以外で開催したことはありません。今日のような大規模な研究例会が行われたこともありません。今日この大阪で、これだけ大きな研究例会を皆さんと一緒に持てましたことを、研究所活動の大切なエネルギーとして活用させていただきたいと思います。
 いま、日本の雇用関係、失業問題が深刻な国民的なテーマになっています。この問題は、労働組合が自らの問題として、実践的に国民的なたたかいにしていくことを抜きに解決しませんし、日本の国民生活の再生もないと思います。最近、トヨタ自動車の労働組合が連合の中でも批判を受ける、つまり春闘からの脱落行為を行いました。そのことを考えて見ると、日本の労働組合運動が、国民的、あるいは全国的な闘争ができない一つの問題として、企業内組合主義の体質を克服していないという重大な弱点を持ったまま今日を迎えていることと関係していると思います。雇用問題、失業問題という国民的な課題を考えても、戦後続いてきた企業内組合の体質、運動のあり方を前進的に解決をしながら、全国的な闘争を行える日本の労働組合運動をつくり上げる必要があるのではないか。そんなことを強く感じながら、今日の大きなテーマでの研究会で、皆さんがどんなお話をされるのか、労働組合運動にどのように役立っていくのか、私も大変楽しみにしています。
 全国のたたかいのリーダー的な役割を果たしておられる大阪労連の皆さんの今後のいっそうのご活躍を心から期待をしまして、開会のご挨拶とさせていただきます。(拍手)。

〈コーディネーター・服部信一郎(大阪労連副議長)〉
 今日は大勢の皆さんにお越しいただき、本当にありがとうございます。大きな会場を取ったことがずっと不安だったのですが、会場一杯のご参加をいただてホッとしております。今日のパネラーは、大木先生以外の3名の人は、大阪でも非常にユニークな方ですので、今日のこの大きなテーマを果敢にこなして貰えると思います。
 早速大木先生に基調的な報告をお願いします。

 今日のシンポジウムは「これでいいのか、日本資本主義」という大変大きなテーマになっておりますが、このテーマを提案してくださったのはここにいる服部さんです。それを聞きまして、大阪の運動の問題意識に感銘しました。
 最近の日本の経済情勢は非常に緊迫しています。このまま行けばチリを上回る惨憺たる破綻を迎えることは、ほぼ確実だといってよい事態が進行しています。私たちはこの状況をそのままにしていていいのでしょうか。思い出すのは、レーニンが革命前夜、1917年10月に書いた、『さし迫る破局、それとどうたたかうか』という論文です。レーニンは、まだ革命政権が確立してはいない第一次大戦下の危機的状況の中で、ソビエトという民主主義的な大衆の力に依拠しながら、どうやってロシア社会の破局を自分たち自身の手で打開していくかという気迫溢れる論文を書きました。いまの日本の経済状況はそれを思い出さざるをえないほど深刻化してきています。
 昨日(2月7日)の志位さんの見事な国会質問の中でも浮き彫りになったように、日本の国民生活が破綻状態に陥ってきているのに、小泉自民党連立政権は何の手も打とうとしない。それどころか、破綻をいっそう破局的にする政策をとっている。志位さんの表現を借りれば、「坂道で転がりだしている人を後ろからドンと突き飛ばして、さらに蹴落とす」という行為をいまの日本資本主義はやっているのです。私たちは、日本の経済破綻がどこまで来てしまっているのか、それはどういう形で破局を引き起こしつつあるのかをはっきりさせ、私たちに何ができるのかについて真剣に考えなければいけない時を迎えているのではないかと痛切に感じています。
 お配りした資料1の世界各国の2003年経済成長予測からもわかるように、日本の「長期不況」の深刻さは世界経済の中でも突出しています。アジアは引き続き高成長の道を辿り、ヨーロッパは回復に向かい、アメリカはイラク戦争との関連で先行き不透明という中で、日本経済は「政策不況」による大変な破局へと突っ込んで行こうとしているのです。
 経済破綻は、どのような局面に噴出しつつあるでしょうか。第一に、中小零細企業の倒産・廃業が雪崩をうって拡がっている問題があります。倒産できるのはまだいい方で、廃業が非常に多い。資料2でもわかるように、日本資本主義の歴史のなかでも例のない自営業主・家族従業者数の絶対的減少が大規模にひきおこされています。第二は、失業者の激増です。先日、私は青森の失業者集会に参加しました。そこで聞いたのは、「収入がまったく途絶えてしまった」「年寄りの僅かな年金に家族丸ごと頼って何とか生きている」「いったいこの先どうしたらいいのかわからない、助けてください」といった失業者たちの悲痛な叫びでした。すでに労働者の10人に1人以上がそうした失業状態におちいっている。第三に、そういう状況下で、青年たちの仕事がない。高校生の半分も就職できない状況です。日本の工業生産力、産業労働を支えてきたのは、高卒や専門学校出の人たちが中心ですが、この人たちが仕事に就けない。日本の将来の工業労働力がどんどん根底から失われる状況が進んでいます。
 さらに、産業「空洞化」の問題があります。先日、東大阪の「空洞化」問題をテレビで詳細にレポートしていました。日本は「モノづくり」によって生きるしか道がないわけですが、日本の「モノづくり」を根底から担っていた中小零細企業が、製造業をはじめとしてなくなってしまう。技術開発力を含めた工業生産力の中枢を実際に担ってきたのは中小企業とその緊密な協力関係です。その中小企業をどうやって豊かに発展させるかが日本経済の将来にとって決定的に重要なのに、それが回復不可能な形でつぎつぎに破壊されている。いまヨーロッパなどでは、自動車産業におけるモジュール生産の普及に見るように、トヨタ生産方式を乗り越える生産方法の発展が中小企業に依拠して追求されるようになってきているのですが、日本の大手メーカーはそうした21世紀における技術発展の基盤を自ら破壊したり外資に売り飛ばしたりしています。
 しかし、最近とくにひどいのは、金融破綻の進行です。すでに日本の国債も株式も日銀に買い支えてもらわなければ価格を維持できなくなっているわけですが、資料3の新聞切り抜きのように、いまや「インフレターゲット」論まで登場するようになっています。「インフレターゲット」政策は、紙幣増発によって無理やり物価を引き上げ、収益悪化を防ごうとする政策だと言われます。いまでも紙幣がだぶついて仕方がないほど増発していて、それでも物価が下がるという不況状態なので、「インフレターゲット」政策など何の効果もないという経済学者もいます。しかし実際の狙いは、別の所にあります。つまり、日銀に増発した紙幣で、日本の国債や株式をさらに買い増しさせるだけでなく、アメリカの国債や株式も買わせよう、それによって日本の為替レートを切り下げて物価を上げようという、とんでもない計画です。これは、日本国民の血税を双子の赤字のアメリカに注入する政策であり、日本の財政破綻を加速させ、悪性インフレに道をひらく政策です。こうした売国的政策推進の先頭に立っているのが竹中経済財政政策・金融担当相です。彼は最近、投資信託のファンドを「必ず儲かりますから買ってください」「閣僚は率先して買いましょう」などと発言して物議をかもしていますが、そこには国民生活を守る責任感などまったく見られません。
 一連の政策によって、労働者に対する搾取・収奪はひやく的に強められています。労働法制の全面改悪については梅田さんからお話があると思いますが、いまや産業民主主義を根本的に否定し、無謀な賃金労働条件を押しつける政策が罷り通ろうとしています。
 小泉政権によって、靖国参拝や教科書問題など、殊更にアジアから孤立する政策がとられていることも大きな問題です。中国への進出を中心にアジアへの日本企業の進出はものすごいし、アジア経済なしの日本経済は考えられません。最近ではアメリカへの輸出よりも中国やアジアへの輸出の方が多くなっている状況の中で、わざわざアジアから孤立化し、アジアの活力を日本の国内の経済に取り込むことができないような政策を推進しているのです。
 そういう状況が進む中で、一番問題なのは、日本の為政者たちが事実上統治能力を喪失していることでしょう。国民の利益にそった実効性のある政策は何一つ実施することができない。そのことは多かれ少なかれ皆わかっているのです。あの連中に任せていたら日本は駄目になってしまう、日本の経済は本当に破綻して地獄の底を見ることになると、ほとんどのエコノミストが言っています。言っているけれども、残念なことに、そういう事態に真っ正面から立ち向かって、自ら事態を打開するために力をつくそうという人はごく少数です。服部さんからの「これでいいのか」という問いは、日本資本主義の破綻状況を的確に認識する必要性と同時に、その打開への取り組みをめぐる無責任状況をもふくめて、「これでいいのか」と問うているのだと思います。
 ところで、日本経済の今日の破綻的状況を生み出している根源は何でしょうか。要因はいろいろありますが、なかでも問題なのは、日本資本主義をアメリカ型の資本主義に強引に統合・再編しようとする財界・小泉政権の政策です。そこでは、一握りの大株主や巨大多国籍企業の利益を最優先して、すべてをそれに従属させる政策が強行されています。また、短期的な高収益確保をもとめて、次々と人員整理や企業整理や生産・事業移転を繰り返す経営が展開されています。あるいは、メーカーをふくむほとんどの大企業が、多国籍化し、ますます危険な投機活動に参入して、国民や途上国を収奪するようになっています。
 しかし、1999年のWTOシアトル会議での国際抗議行動いらい顕著となり、新しい世紀に入っていよいよはっきりしてきたのは、こうしたアメリカ的資本主義に対する世界的な批判の高まりです。参考文献に挙げた“Globalization-capitalism & its alternatives,third edition”などに見られるように、世界の世論はアメリカ型の投機的な資本主義と訣別して、それとは違った、経済成長と国民の福祉や環境問題と両立させるような「持続可能な経済成長」を追求するようになってきています。そして、実際にそういう観点を意識的取り入れた経済運営が、現にEUやアジアの国々では行われるようになってきています。
 資料3は一昨日(2月6日)の日本経済新聞の「企業統治 欧米流に」という記事ですが、これはヨーロッパでフランスが先頭に立って、アメリカとは異なった企業統治方式の導入を意識的に進めているという記事です。実はアメリカでも、参考文献の“The new corporate cultures”にありますように、80年代からのアメリカの大株主優先の企業経営、国民を収奪して憚らないやり方がいかに間違いかということを、アメリカの経営学者や企業会計士・経営コンサルタントたちが調査にもとづいて明らかにし、それに代わるべき公正な経営を提唱する、ということが行われています。かれらはエンロンなどの破綻を予見して、アメリカ的な「株主資本主義」を改革する必要性をアメリカ国内で提起し訴えています。
 日本では、ソニーをはじめ多くの大企業が、こうした国際的反省に逆行して、アメリカ型の企業統治を導入し広げている状況があります。こういう状況を変えさせていくことを含め、私たちは民主的規制への具体的な手だてを採っていく必要があります。私たちが直面している課題は、当面さし迫っている経済破綻状況の中で、労働者や地域住民の暮らしと権利を、あるいは中小企業の経営を、どう守るかという課題と、全労連が『21世紀初頭の目標と展望』で提起しているような、日本資本主義の異常な性格と構造を改革するという中長期的な問題を、しかし出来るところから直ちに是正させていくという課題と、二重の課題にいま直面しています。
 私はこうしたたたかいに展望が出てきていると思います。『労働運動』誌3月号の座談会で、服部さん、埼労連の原富さんと議論したのですが、資本主義のゆがみを労働者・国民本位の立場で変えていく運動が、地域・自治体を一つの核にしながら、いま出てきています。また、全国的にも、いろんな団体・広範な業者団体との連携が、具体的な課題でできるようになってきているし、共同も前進しはじめています。そのことはなにより大阪の運動が示していると思います。大阪で研究例会をやりたいと考えた一つ理由は、東大阪などの経験も含めて、資本主義の極端な不公正を是正していく運動が可能であることを、全国でも一番学ばしていただける地域ではないかと思ったからです。
 ここで問題となっているのは、かつてウエッブが問題にした「産業民主主義」をどう深め発展させるかという問題です。あるいはまた、アジアの国々、諸国民との共生関係を具体的にどのように構築するのか、そういうことを視野に入れた地域経済のあり方、あるいは国民経済のあり方を、どうやってつくり出していくのかという問題です。今日では保守層といわれる人々も、私たちと一緒に真剣にこうした問題を考えるような状況が、いろいろな局面で生まれています。2003年の全労連の春闘方針は「国民的総決起」を呼びかけていますが、国民的な運動の政策や共同の条件を一つひとつ具体的につくりだしていくなら、たたかいは国民春闘として大きく発展するにちがいありません。
 レジュメには「日本資本主義の改革課題」となっています。これは、かつての「構造改革」論や「忍び寄る社会主義」論のような、部分的改造を重ねて資本主義を社会主義に変えようといった議論ではありません。そうではなくて、同じ資本主義ではあっても、それを切実な国民の要求に応えるような社会経済システムとして構築し直し、経済破綻を回避していくことは可能なはずだ、国民的な協力・共同の大きな力で、誰でもが納得できる日本資本主義の是正方向を実現していこう、という意味です。現に、「ただ働き残業」の問題にしても、あるいは政治献金問題にしても、私たちはかなりの是正を実現してきています。さし迫る経済破綻を打開するためには、そうした意味での「日本資本主義の改革」を一つひとつ具体的に早急に実現していく手立てを、労働運動は何としてでも考え実行していかなければならなくなっている。そんな情勢ではないかと思います。(拍手)

〈コーディネーター・服部〉
 大木さんの報告で、日本資本主義のゆがみ、産業民主主義の否定、それをどう改革するかという話が出されました。関西財界や電機産業などを中心にした大阪の独占資本の動きについて、大木さんと東京で話をして、このテーマになっていったのですが、理論的に抑えた問題提起をしていただきました。
  次に、アメリカの銀行などの分析などを軸にして、大阪・関西で非常にユニークな問題提起をされる大阪の若手研究者という立場で桜田先生にお願いします。


日本経済のゆがみを増幅する「株式資本主義」

桜田 照雄(阪南大学教授)

 私の研究分野は、会計学をベースにした銀行経営分析なので、大木先生のような大きな話はできませんが、銀行の監督とか銀行の経営という側面から議論に参加します。
 トヨタの経常利益が1兆5千億円になるという新聞記事を読んで、私はびっくりしました。というのも、バブルが崩壊した直後の1992年に、トヨタの経常利益は3千700 億円でした。つまり、この10年間で、しかも平成大不況という長期不況のもとで、経常利益を4倍以上にした。そういう不況下の儲けぶりを知らせる記事だからです。だからこそ、1兆5千億円も儲けている会社だということで、トヨタ賛美論がマスコミを賑わしているわけですね。
 私がこれから話そうと考えているのは、「株主資本主義」という考えが、さまざまな局面で企業経営や日本経済に「ゆがみ」をもたらしているのか、ということです。「株主資本主義」という考え方は、株主の利益を絶対視する見方なのですが、そうしますと、この長期不況のなかで、1兆5千億円も稼ぐ企業は、いい会社に違いありません。ですが、豊田の労働基準監督署が乗り込んだそうですが、トヨタで横行している長時間労働やサービス残業といった労働の質、あるいは経営の質を、アメリカ流「株主資本主義」は見ようとはしませんね。財務諸表、バランスシートに表れた数字の良否で企業を評価するのがアメリカ的な「株主資本主義」の基本的考え方だからです。
 大木先生の資料にフランスの企業統治の記事があります。監査役機能強化という記事なのですが、これとの関わりで「株主資本主義」という考え方を少しお話しますと、監査役というのは、企業の「儲ける力」、つまり、利益の規模や効率性という考えとは別の角度から企業を評価しなければなりません。たとえば、法律に従った企業経営をちゃんとしているかとか、先ほどのサービス残業などはあってはならんだとか、労働の質を高めなければならないだとか、そういうことを求めるさまざまな法律は日本にもあるし、フランスやアメリカにも当然あるわけですが、そういう法律を守った、ルールを守った経営をきちんとやっているかどうかをチェックする。そこに監査役が果たすべき役割があるわけです。
 アメリカ流の「株主資本主義」は、業績という数字、1兆5千億円も稼いだからその会社は、いい企業に違いないとみます。フランス流の企業統治は、その儲けの中身について、どういう儲け方をしているのか、法律に違反する行為はないのか、非人間的な労働をやってないのか、こういうことと合わせて、企業の質、企業の評価を考えようとしているわけです。
 1兆5千億円も儲ける会社はほかにどこにあるのか、皆さんパッとお気づきになるでしょうか。日本の銀行がそうです。東京三菱、三井住友、UFJ、みずほなどは業務純益で見れば、1兆2千億円とか1兆5千億円もの利益を稼いでいます。ところが、不良債権を処理する際に生まれてくる貸倒引当金によって、決算の最後は赤字に転落する。業務純益でみれば大儲けしているにもかかわらず、貸倒引当金があるから赤字決算になって、それが長らく続いているものだから、銀行の経営が大変だと騒がれているのです。貸倒引当金というのは、企業会計で言えば、減価償却費と同じものですから、キャッシュが動いているわけではない。赤字で大変だといいつつも、トヨタに匹敵する利益を生み出す仕組みは、ちゃんと作り上げている。ここをよく見ておくことが大事だとおもいます。
 さて、「株主資本主義」という考え方が、銀行経営や銀行監督のあり方を変えてきたのだということを述べたいと思います。「株主資本主義」というのは株主の利益を最大限に優先しようという考え方なのですが、株主の利益を満たしていこうとすれば、株主の利益の最たるものは配当やキャピタルゲインですから、儲けを増やして、配当を増やすか株価をあげることに経営は集中します。儲からなければ話にならんというわけですね。銀行の経営でも、この考え方がクローズアップされておりまして、いま以上に儲かる仕組みを生み出すのが使命だと、どの銀行の経営者もこぞって主張しております。
 そうした銀行経営のキーワードが、「リスクに見合った金利を」というものです。リスクに見合った金利を設定して商売をする、これが銀行経営の基本的な方針です。「リスクに見合った金利」という主張は、一見すれば至極当然のように思えません しかし、「リスクとはいったい何なのか」とか、「そもそもリスクに見合う」と言ったときの「見合う」とはどういうことなのか、いろいろ考え始めると、さまざまなからくりがあるようにも思えます。
 まず、「リスク」というのは、銀行が「貸したお金が返ってこない可能性」を言います。「中小企業はリスクが高い」から「金利を引き上げてくれ」という銀行の言い分は、大企業だったらきちんと返してくれるであろうが、中小企業は大企業より返ってこない可能性が大きいという考え方にもとづいています。
 本当にそうなのでしょう 考えてみてください。一般的に大企業と中小企業と並べていますが、お金の貸し借りというものは、一件ごとに「個性」があります。A社とB社とが同じ中小企業であったとしても、業種が違えば商売のやり方もちがいます。東京の商売が大阪でそのまま通用するものでもありません。儲けるにしても、儲ける工夫もちがいます。
 大企業と中小企業とを比べてみても、ゼネコンにお金を貸したのと、ピカイチの中小企業に貸すのとでは、いくら大企業といっても、あぶなっかしいのではありません一つ一つには個性があるのだから、「中小企業だからリスクが高い」なんてことは、すぐに言えるものではありません。
 銀行融資というものは、そういう個性なり、個別的な条件や、さまざまな特殊的な条件にきちんと合わせて商売をやってきたんです。「日本のモノづくり」に見られるような創意工夫やきめ細かさは、伝統的に日本の銀行業の強みであったと思います。「株主資本主義」あるいは「利益追求第一主義」。これらが、銀行の良さを台無しにしつつある。とりわけ中小企業金融の現場では,、これが懸念される最大の問題だと、私は思っています。
 銀行監督という側面から、最近の変化を見てみます。こうした潮流にたいして、行政はどのように対応しようとしているのか、それをお話しします。
 銀行の業務は銀行法という法律に基づいて行われています。この法律は、昭和恐慌のおりの1927(昭和2)年にできて、1981(昭和56)年に改正された法律です。銀行の経営の在りようを記した行政のガイドラインとなる法律です。
 1981年の改正をリードした官僚で、銀行総務課長(当時)であった小山嘉昭という方が『銀行法』という本を記しています。その中の一節に「銀行業務の公共性」という考えが述べられています。銀行法の第一条に述べられているのが、「銀行業務の公共性」という言葉であり、彼の解説本の中にも「銀行業務の公共性」という考えについて、多くが咲かれています。小山氏は、「一般に銀行が公共性を持つといわれる所以は」という問題をたてまして、結論をいいますと、「銀行は国民の財産を預かって、それで銀行の経営を成り立たせている、商売をしているのだ。銀行業務の基礎は国民大衆の財産なのだから、経営陣の思うがままに委ねてはならないのだ。だから国が監督するのだ」と述べているわけです。
 ところが最近、住専処理だとか、銀行の経営破綻が相次ぐ中で、行政の銀行に対する考え方も変化してきています。一つは、銀行法の中に「銀行業務の公共性に鑑み」という文言は残っていますが、金融検査庁のトップの弁を見ますと、銀行の公共性はもう取り上げない、あれは中身のない言葉なのだと、変わってきています。銀行法は公共性について何も言ってないというのがトップの考え方です。
 また、銀行業務の健全性は市場規律と自己責任によって果たされるという考えも,今日的なものです。市場規律とは業績であり株価なんですね。業績がいい銀行は株価が高くなり、その銀行はよい銀行。株価の高低で銀行の健全性をとらえるように,行政スタンスは変わってきているのです。銀行は国民の財産を預かって商売をしているという意識・感覚が、行政においても、後景に退いてしまっている。市場規律で業績がよければ健全であって、儲かればいいのだという経営を、行政はむしろ推進しています。儲かればいい式の経営が、これ以上行われていけば、バブル時代の地上げだとか、さまざまな銀行不祥事に表れた弊害が多発するということを忘れてはならないと思います。大木先生の話にあった「株主資本主義」、「産業民主主義」の破壊が行政あるいは銀行経営者どう表れているかということで、報告しました。(拍手)

〈コーディネーター・服部〉
 労働組合運動や具体的な労働者問題、状態について、岩佐さんお願いします。


多国籍企業の規制と働くルールの国際基準を

岩佐 敏明(全労連副議長・大阪労連議長)

 今日は労働組合の運動方針の話とは違って、テーマに関わって、私は理論家ではありませんので、感じていることを大まかに言ってみたいと思います。
 日本の資本主義もアメリカもそうですが、いまの状況を見ていると、桜田先生の話にもあったのですが、金融の世界では「カジノ経済」化しています。経済は何のためにあるんだという根本問題に突き当たらざるをえません。昔、「人間の顔をした社会主義」ということが言われました。ソ連崩壊以降、全世界がある意味では資本主義という制度をとっていますが、私は「人間の顔をした資本主義」をつくらなくてはいけないと思います。人間が生きていくために経済の仕組みはあるのであって、その逆ではないことを、もう一度考えなければならない時代に入ったのです。これは日本だけではないと思います。
 私が非常に関心がある問題はEUの実験です。これは長いこと続いているのです。最終的に成功するかどうかわかりません。EUはご承知のようにイギリスなどを除けばみんな大陸で、300 年間ぐらいにわたって、攻めたり攻め込まれたりしてお互いに戦争をやってきた所です。二つの世界大戦、とくに20世紀を越えて、やっぱりそういうことではいけないという方向にいき、石炭・鉄鋼共同体から出発して、50年以上の努力の結果、大きな地勢的な枠組み、人、物、金、そして政治についてもお互いにルールをつくっていこうとしているのです。もちろん、いろいろな問題、矛盾を抱えています。しかしこれは、人類の発展にとってはもの凄く大きな一つの実験です。これに反論する人もたくさんいますが、私はそう思っています。
 EUの特徴の一つは、日本やアメリカとは違って、働くルールをEU指針という形で、さまざまな水準がありますが、きちっとしていこうということ、あるいは国民生活全般で言えば社会保障など一定の水準にしていこうということです。リトアニアなどが加盟してくるという状況も含めて、企業の行動を調整し、一定の企業行動の規範をつくっていかないと弱肉強食の再来になるという議論が、さまざまな所で進められつつあると思います。資本主義ですから、アメリカ型とまったく逆とはいいませんが、人間を大事にする資本主義を目指そうとしていると思います。
 私はグローバル化の問題は避けて通れないと思っています。金融、物、貿易、人の移動、技術の問題など含め、グローバル化は現実に拡大しています。そういう意味では、孤立的な一国の国民経済というものは存立が難しいと思っています。つねに世界と向き合わざるを得ない状況は今後広範に進んでいくでしょう。海外に出ていく企業を規制しないで日本の産業「空洞化」は収まらないといくら言っても、これだけグローバル化が進んでいる状況の下では、やっぱり進むと思います。最近、日本企業は中国へどんどん出ています。大企業だけではなく中小企業もどんどん出ています。私は化学出身ですかが、大阪で約50社ほどの化学会社が、組合員のいる会社もあるのですが、中国に直接投資をして工場をつくって物を造っているのが6社ぐらいあります。技術提携とか組合員が技術指導に行っているのを入れると10社を越えます。これは中国市場における潜在需要の拡大を当然睨んでの話ですが、中小企業でもそういう状況です。中国と較べて、日本の賃金は10倍以上という状況の下では、一定の技術移転が成ったら、中国から安い製品が日本へ入ってくることは避けられない問題です。水際で阻止するという鎖国経済は成り立たないと思うのです。
 ではどうするかという問題です。中国に進出した経営者は、大阪の拠点工場を閉鎖したいと組合に言うのです。そうした場合、労働組合は一つの企業内組合としてどのような要求を出すかが問題です。中国に行けない者については雇用を保障するために規模を縮小したとしてでも、何らかの形で工場の存続を求めるわけです。技術開発等は日本でもちゃんと行えと要求を出します。労働組合としては当然のことです。私は、日本の資本は低賃金の労働者を利用するだけではく、相手国に対しても、共生とか共存共栄、技術移転も含めて行わなくてはならないと思います。相手の国の国民経済や労働条件の向上にも寄与する。技術の発展にも寄与する。そのことがたとえば中国ではもの凄い大きな潜在需要を抱えているのですから、お互いに共生することに結びつくのです。
 同時に、日本は新しい世界的な最先端技術の開発をする以外、日本の「空洞化」は止まらないのではないかという皆心配しているのです。ここはどうするのか。私は専門家ではありませんが、たとえば企業が海外に出ていくのであれば、何らかの形で日本の労働者の雇用を守る義務を果たさせるとか、海外で上げた利益を何らかの形で必ず日本の技術開発などに投資することを義務づけるなど、制度的な要求をしていかないといけないと思います。これが多国籍企業の民主的規制かどうかわかりませんが、そういうものを目指さないと、この問題はなかなか解決しないでしょう。EUでも農業国も含めて企業に一定の社会的責任を果たさせて、空洞化の進行を止めようという議論が始まりつつあります。私は日本の場合、アジア的なベースでも当然考えなくてはならんと思っています。もっと大きく言えば、本当の意味での国際的基準、あるいは規制力を本当にどうつくるかということが問われる時代に21世紀は否応なしになります。当然のことながら国際的規制という点では、政治の分野では国際連合があるわけです。国連は諸国間の紛争問題とか民族独立の問題などかいろいろ取り扱っています。そして、アメリカが一国主義で国連を無視して行動していることに世界世論が反発しています。やっぱり規制、標準は必要なのです。地球環境問題、温暖化問題、CO2 の排出問題を国際的なベースで規制しないと地球は大変なことになります。廃棄物の問題も国際的な規制が必要です。日本とアメリカの独占資本はそれを嫌だと言っているけれども、これを国際的にどう押さえ込むかが問われています。
 働くルールの問題、労働者の問題は、ILOが一定の役割を果たしています。しかし、日本みたいに発達した国であってもILOの基準を守らせることができていません。今後、最大の問題は多国籍企業の規制です。多国籍企業は資本を直接投資するわけですから、資本の国際的移動に関する多国籍企業の規制に関するルールを本当につくりあげていく方向を目指ざさなければいけないと思います。労働運動が直接的に対応する問題は働くルールの問題です。官公労働者の労働基本権の問題、パート労働者の均等待遇の問題、世界の労働者が理解しがたい不払い残業の問題などでILOの基準を守らせる運動を本当にやり切ることが必要です。社会保障分野でも国際的な基準を守らせることは当然です。こうした基準を、日本から外国へ進出していく大企業を中心としたグループに対してもどう責務を果たさせるのかという問題についても本当に議論していく必要があります。一定の政策化を労働総研などにぜひお願いしたいと思いますが、労働組合をも含めてお互いに検討もする時代に入ってきたと思います。
 冒頭、大江さんが非常にズバッと言いましたが、こういうたたかいをやるには企業の中だけのたたかいではできません。日本の労働組合は企業内主義の弱点から抜けきれていないのです。そういう点を含めて、政府や財界に対して日本国内において、働くルールの国際基準を守らせる、あるいは多国籍企業に対する新たな国際基準をつくらせていくために、に私たちが本当に全力を結集するような運動をどうつくり上げるが問われていると言うことを、申し上げて発言を終わります。(拍手)

〈コーディネーター・服部〉
 法律家の梅田さんは、非常に熱心に労働争議など含めて、大きな役割を果していただいていますが、労働運動に対する意見を終始お持ちなので、この場に是非ご登場をとお願いしました。今日は弁護士という肩書でなく、問題提起をお願いしたいと思います。


全体に共通する普遍的要求や権利から出発して

梅田 章二(弁護士)

 20年ほど前に『ジャパン アズ ナンバーワン 』という本がもてはやされました。オイルショック以降真先に立ち直った世界最強の経済大国である日本を支えている三種の神器、終身雇用制、年功賃金、企業内組合を非常に持ち上げた本でした。日本経済がこれほどボロボロになるとは、当時はまったく予想していませんでした。私は、1995年から2年間、大阪の民主法律協会の事務局長をしましたが、その年に日経連が『新時代の日本的経営』を打ち出しました。終身雇用制や年功賃金はすでに揺らいでいたのですが、これをきっかけにして瞬く間に崩して行くのを目の当たりにしました。
 労働者をめぐる状況は、この10年間で様変わりしました。その一つは「新時代の日本的経営」であり、もう一つは、リストラ、「規制緩和」、ビッグバンです。その二つの歯車で今日こういう事態になっています。リストラ等の関係で言いますと、国家的な法律制度に保護された形で進められているのが特徴です。持株会社の解禁、金融二法、産業再生法、民事再生法、会社分割法制など、リストラを推進する法制度の中で、法律の援護射撃によって労働者の首が切られるという事態が生まれています。
 もう一つは労働法制の改悪です。労働法制の改悪はリストラを促進するだけでなくて、日経連の方針にしたがって法制化していくということです。これは労働法制が改悪される度に一貫しています。日経連が終身雇用制をなくすと言えば、労働者三分論で、正規型の労働者をだいたい2割から3割にし、契約社員、大半が派遣とかパート、アルバイトの労働者にするという方針に従って、雇用期間を1年から3年ないし5年に延長して、契約社員を増すという形の労働法制にしました。また、今までは違法だとされていた派遣を、すべて合法派遣にする派遣法の改悪、残業代を踏み倒すと言いますか、支払わなければならない残業代を払わなくてもよろしいという形で労働時間法制を改悪する。経営者に都合のいい社会をつくるために、国家的な法律的整備が側面援助をしているのです。
 アメリカでは経営者は労働者を自由に解雇できるようですが、労働者の側も自由に自分の能力を高めて転職できると言われています。日本の場合は、終身雇用制や年功賃金制度のもとで、会社も労働者も不自由であると言われてきました。つまり、日本では、労働者は終身雇用や年功賃金で安定した地位をもつ代わりに、会社の言うままに職種や勤務場所の変更に応じなければならないということでした。しかし、昨今のリストラは、終身雇用制や年功賃金という安定した身分をなくし、さらに経営者が自由に労働者の首を切れるという状況を生み出しています。要するに、解雇されても自由に泳いで他の仕事に就けるというアメリカとは違って、労働者をロープでぐるぐる巻きにして川に放り込んで、さぁ泳いでみろというのが日本であると三和総研の森永卓郎さんもおっしゃっています。
 先ほどらい「日本的」という表現を使っていますが、この10年らいの攻撃は、決して日本の労働者だけが受けているわけではありません。グローバリゼーションとかディレギュレーション、そしてビッグバンあるいはリストラと、片仮名ばっかりですけれども、これは世界的に共通して労働者が受けている攻撃です。もう一つ足りない片仮名の言葉があります。わかりますか皆さん。これは世界にあって日本にない言葉なのです。ゼネストという言葉です。ヨーロッパ、アメリカや韓国などでは、ビッグバン、ディレギュレーション、グローバリゼーションに対して、ゼネストで対抗してきています。日本の場合はどのようにグローバリゼーションに対抗しているでしょうか。これまた凄まじいのです。98年以降毎年3万人以上の日本人が自殺をしています。そして犯罪件数が増加しています。これが抵抗といえば抵抗です。組織的抵抗もありますが、何百人の集会、何千人の集会にしかすぎません。ゼロが1つも2つ足りないという状況です。国際的に肩を並べるような形での組織的抵抗あるいは対向軸というものは日本には見られません。なぜそうなのか真剣に考える必要があります。
 この10年間の攻撃の中で、正社員の数が減り、非正規型の労働者が増大し、能力賃金型賃金になり、退職金もなくなってしまうというように、状況が大きく様変わりしてきました。これまでの日本の企業別労働組合の特徴は、非正規型の労働者、パート、アルバイト、派遣、事業場内下請などの労働者を組織の外に置いてきたわけですから、労働者構成の急速な変化の中で、正規型を中心にした企業内労働組合というものの将来はますます狭いものとなっていきます。 労働者の生活もますます不安定となり、かなり厳しい状況になっていかざるをえないと思います。
 そういう状況で新たな展望を切り開いていく必要が生じるわけですが、自分たちの企業内の要求しか考えなかった企業内労働組合の存在が消滅していくわけですから、労働者を企業内に閉じ込めていた殻がなくなっていくという、企業の殻にこだわらずに自由に活動できるという土俵も広がっていくという新たな条件も生まれてきます。すなわち、三種の神器がすべて崩壊することになります。そういう土俵で新しい労働運動の構築の条件が客観的に生まれてくるわけです。
 その場合に重要なことは、権利の再構築だと思います。従来の労働者の権利の構造はやはり企業内労使関係を前提にした枠組です。すべての労働者の権利の底上げのための権利の再構築が必要となります。昨年、民主法律協会の国際交流委員会からヨーロッパ労働調査団を派遣しました。その報告書「ヨーロッパの熱い10月」も完成しました。ローマでは、10月18日に解雇規制法の緩和に反対するゼネストがあり、私たちもゼネストのデモに参加してきました。ヨーロッパではご承知のように企業内組合運動などはありません。実際にパリで労働セミナーをし、ローマでゼネストに参加した私の実感として言えることは、企業内労組か産業別労組かの組織的な形態の違いではなく、もっと根本的に違う点です。ヨーロッパでは、個別企業内要求からスタートするのではなく、労働者全体の共通した普遍的な要求や権利からスタートして、その底上げに力を入れているという点です。企業内の物取り主義で満足している間に労働者全体の要求や権利が脅かされているのに気づかず、気がついたときには、皆バラバラになって全滅するというようなことをしてきたのが、これまでの日本的な労働組合ではなかったかという実感です。
 労働者の権利の再構築は第一番目にスト権を考えたいと思っています。これまではスト権といえば労働組合の権利であるというのが一般的理解ですが、一人ひとりの労働者にスト権を与えるべきではないかと思います。日本の場合は、スト権は、企業内での労使関係でのみ成立する関係になっており、政治ストとか同盟ストは判例上も認められていません。それらを解禁する必要があります。フランスではCGTなどナショナルセンターが組織する労働者の組織率は全部合わせても20%もないのに、なぜ彼らはゼネストができるのかと言えば、やはり個々の組合に入っていない労働者もスト権があるからです。だから僅か10数パーセントのCGTが、ゼネストをやるぞと言ったら他の組合の人たちも、非組合員たちもその日に集まってゼネストが成立するのです。個々の労働者にスト権があるという法制を勝ち取っていくことが必要です。
 国際労働基準の問題では、日本はILO全体で183の条約がありますが、日本が批准しているのは45です。他方アメリカは14です。ヨーロッパは100以上批准しています。国際労働基準に対して日本の労働組合の取り組みがあまりにも弱いのも、これまで企業内の物取り主義に終始してきたからだと思います。
 グローバリゼーションの中で、世界中の労働者が苛められているのですから、国際的な労働組合権あるいは労働権を取り組もうという動きが出てきています。2001年6月、ジュネーブでICLR(International Commission for Labor Rights )という労働者の権利のための国際委員会ができました。ILOやICTURと関係しています。全労連もその場に出席して参加をしている筈です。こういうところが、世界的に発信をして、国際的な労働基準を広めようと取り組みをしています。日本の労働運動も企業内にとじこもるタコ壺のような運動をせずに、島国根性を捨てて、世界的なレベルで運動をするような議論をしていただきたいと思います。(拍手)


地域から大企業を規制する運動に眼を向けて

コーディネーター・服部 信一郎

 いまの梅田さんの非正規、パート労働者の問題は後半の実践的な討論にからむと思いますが、資本主義社会の中での一番陽が当たらない労働者に陽を当てようというのが、全労連やわれわれの取り組みです。第2回目の発言では、会場の皆さんの質問や発言に応えるような形でお願いしたいと思います。その点で、私の方から前触れ的にお話しておきたいのは、資本のほうも非常に矛盾が広がっているという問題です。大阪で有名な松下電器の副社長が、「このリストラと成果主義が進む下で、松下電器の中で現場は立ち腐れ状態にある」と言っています。これは幹部社員を前にした発言ですが、ここには自らがやっているリストラや効率化に自信を持っていないことが表現されています。NTTのいまの構造改革路線は凄まじいものですが、それを誰が信じて誰がやっているのか。自信がないどころか、その将来性さえ疑問を持っているのです。先日も関経連、同友会が、その種のセミナーをやっていましたが、発表されている内容は、今日のシンポジウムのテーマのように、資本主義をどうするかという大きな問題ではないのです。本来あるべき社会の姿すら語られていません。
 先月27日に、大阪府と大阪市と商工会議所と関経連4者で「産業・雇用緊急アピール」を出しました。その中で初めて産業空洞化を防止しようということがうたわれました。東京への一極集中、海外への移転の問題は猶予ならない事態を関西経済にもたらしているという意味合いを、初めて文書でもって四者が出しました。それから今までベンチャーだとか新産業、観光都市政策などを出していましたが、既存の中小企業の健全な発展方向ということもアピールに出されました。この意味合いをどう取るかというのはいろいろ議論があるにしても、彼らなりに足元を外して産業戦略だけを追いかけての収益というのは、やっぱり躓き始めたのではないのかなと思います。
 もう一つは運動論です。一斉地方選挙ということもあり、いま政策議論が大いにやられていますが、一つの例を上げれば、八尾市が今から3年前に経済振興条例をつくりました。これは西日本で初めての経済振興条例です。これは民商とか地域労連だとか共産党が中心になって、全会派が賛成した条例です。去年の夏にコクヨが八尾工場閉鎖を打ち出したのです。条例の中に、大企業が社会的に役割を果たさなければならないという条例で入っているので、コクヨの社長が八尾市長に会いに行って説明をせざるをえなかったのです。松下が守口市長や寝屋川市長に会いに行くかというと、リストラ問題では一切しません。逆に市長側が会社に行って要請しなさいと住民や議会から言われても、民間の経済活動の問題に自治体や役所が介入すべきでないと言って、放置されるままで大阪は日本の中でも一番ひどい状況になっていっているわけですが、八尾市の市長はコクヨの社長に再考してくれということを言っているわけです。それはまだ結論は出ていません。これはたたかいと結びつかなければコクヨの問題は解決しないのですが、運動やたたかいの中で下からの力で自治体や地域を核にしてそのような動きが起きてきているということは注目しておくべきだと思います。国政や財界など中央では混迷と矛盾、行き詰まりを深めていますが、われわれはまだ少数的な力関係だけれども、動きとすれば非常に面白い、鋭い対立、対決、住民側、労働者側の世論の方が相手の攻撃を打ち負かそうとする動きや方向性が、この1、2年の間に、この大阪を中心にした動きでもスケッチできると思います。
 休憩の後、会場からの質問や発言をお願いしますが、「これでいいのか 日本資本主義」のシンポに参加されている皆さんは、このままではよくないという立場で来ているわけですから、大木先生からも提案があったような、資本主義の改革はどこをポイントにして具体化するかなど、もう少し問題提起をいただきながら全体のシンポジウムがまとまっていったらいいのではないかと思いますので、2回目のご発言をよろしくお願いします。


会場からの発言

〈金融労働者・大塚孝雄〉
 大木先生は金融アセスメント法をどう考えますか。不良債権の処理問題ととの関係はどうなっているのでしょうか。銀行は儲けているという話がありました。たしかにその通りです。不良債権処理と絡んで非常に大きな問題です。政策的に銀行が儲けさせていっていることを抑えることが大事です。

〈自治労連・中居多津子〉
 差別という点では、日本の労働組合運動における女性労働者の位置づけの問題があります。差別されて大変な底辺にある労働者を労働組合運動の中でどう位置づけるか、労働組合運動の中でそのエネルギーをどう発揮をさせるかといった組織論的位置づけが必要だと思いますので、労働総研でも是非論議の俎上に載ってください。企業内労働組合の弱点を脱皮していく上でも、非正規労働者を労働組合運動の中で組織的に位置づけていく論議を是非お願いをしたいというのが、私の意見です。

〈井上佳映〉
 『資本論』を読んで、労働組合が自分のためだけでなく、他人のため、もっとも虐げられた人のためにたたかうことが大事だといつも教えられるのですが、日本の労働運動はここが弱いと思います。

〈西山逸雄〉
 経済破綻がチリを上回るというあたりをも少し詳しくお話しください。

〈税理士・清家裕〉
 インフレターゲットの狙いの話で、為替レートや外債の問題とか出ました。そこをもう少し詳しく伺いたい。大不況の中でトヨタは連結経常利益が1兆5千億円の儲けを上げているお話がありました。1兆5千億円の中身は日本での儲けと輸出での儲け、海外での儲けの合計だと思うのですが、岩佐さんはグローバル化で多国籍企業が海外に出て行って、海外で儲けることは止められないといわれました。私もそう思うのですが、海外での儲けを日本国内に還流させ、日本国民や中小企業、日本経済をよくしていくために使わせるお話も出ましたが、トヨタは税金を何千億と減税されているのです。その下でまた大儲けをしています。ここをどう直すかについて教えてください。

〈電機労働者懇談会・西野健一〉
 私どもは、1年間議論をして、2月23日に「電機産業の空洞化をさせないために」という提言をまとめます。学者の先生とも何回かお話をしました。おっしゃったことは、海外進出なりグローバル化は基本的には止められないということです。私どもは、海外進出を止めなければいけないとの思いでしたが、それは出来ないとなると、何をしなければいけないかという点で、今回提言の中にも見なし外国優遇税の控除の問題とか、企業撤退税を創る、ローカルコンテンツ法の逆の発想で、外国で物を造る場合、日本国内の部品をある一定以上の率で使うことを義務付ける、企業が外国に出て行く場合、八尾市のように地方公共団体と協議を義務付けるといった規制を実現していく運動を進めていくことが大事ではないかなというような方向性を出そうとしています。私たちは、産業の空洞化に対して、労働組合に対する要望も含め、職場における労働組合の力の重要性を強調しつつ運動を進めていこうと考えています。

〈地域労組大阪書記長・浜元英嗣〉
 急速な雇用形態の変化に労働組合の対応が遅れています。失業者を含めた不安定労働者の受け皿作りが遅れています。大阪労連の労働相談センターだけで労働相談が1年に2千件ぐらいに増えてきています。解雇され、解雇予告手当も払ってもらえない、あるいは未払い賃金がある失業者も含めて組合に組織化を進めていますが、多くの組合ではその対応はまだ出来る状態にありません。全労連はすべての地域労連に地域労組をという方針で頑張り、大阪ではいま19労組800 以上を組織していますが、先進的な組合幹部が、その組織化のために力を発揮していただくということが求められていると思います。パートや派遣、中小・零細の労働者を、今後どう組織していくかと言う点で、お考えを聞かせてください。


〈コーディネーター・服部〉
 いまご発言いただいた方々の問題提起を受け止めてもらいながら、順次パネラーの方にご発言をお願いします。

「万国の労働者は団結せよ」を今こそ輝くスローガンに

梅田 章二

 地域労組は釣りで言えば入れ食いです。竿を垂らせば魚がつくという状況です。真剣に取り組みさえすれば組合員数はもの凄く増えると思います。僕はそのように痛感していますが、腰が重いというのはどうしようもない組合みたいですね(笑)。組合員が増えれば組合収入が増えます。組合収入が増えればさらに専従を確保でき、拡大再生産になります。私はそう思います。
 空洞化の話が出ましたが、私はそれは外国人労働者の問題と裏返しだと思います。日本は外国人労働者を排除していますから、その裏返しとして日本の企業が外国へ逃げるという構造です。ヨーロッパは空洞化ではなくて外国人労働者問題で悩まされています。グローバリゼーションの中での苦悩という面では、空洞化を阻止するという認識の前提として、世界が共通している問題だという認識がいると思います。
 アメリカの弁護士と話をしたときに、グローバリゼーションはアメリカナイゼーションではないかという話をしたら、即座に、何を言っているのだ、日本こそがグローバリゼーションの先兵じゃないか、お前らこそが犯罪者だという自覚がない、と即座に怒鳴りつけられたことを覚えています。アメリカのお先棒を担ぎ、その先兵となって世界中の労働者を苦しめているのが日本だということを、日本で働いている労働者がどれだけ自覚しているのかが問われていると思います。
 仮に、隣の国で日本の10の1の賃金で働いているとします。日本の労働者が外国旅行に行き、円が高いと言って喜んでいるとします。そこが間違いなのです。10分の1の賃金で働いている労働者の労働条件が向上しない限り、日本の労働者の繁栄もないというふうに考えないといけないのです。1944年のフィラデルフィア宣言には、「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」とありますし、ILO憲章にも、「いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないということは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となる」と書かれています。古典的な言い方かも知れませんが、「万国の労働者は団結せよ」というスローガンは、いまのグローバリゼーションの中で輝くスローガンになるのではないでしょうか。皆さん方の意識改革を求めたいと思います。


「業績」だけでは企業の評価はできない

桜田 照雄

 不良債権処理と税との関係を話そうと思います。結論からいいますと、私は、「銀行は儲けては いけない産業なのだ」という議論をなんとか展開したいと考えています。「え」と思われるかも知れませんが、公共料金というのはそういう性格を持ち合わせているように思います。電力料金を算定するときには、「適正利潤率」や「適正原価」という考え方を用いるわけですが、この考え方をもちいながら金利を公共料金のように考えることはできないか、というのがその趣旨です。
  不良債権問題がかくも深刻になったのか。いろいろ要因はありますが、その一つは、税法の存在だと私は思います。税法は、銀行の貸倒れも一般事業会社の貸倒れも同じと見るのです。しかも、国税当局が設定しているルールは、貸倒れの償却は絶対にさせないに等しい、そういうルールです。会社が倒産したぐらいでは貸倒償却はできないのです。倒産して、清算が済んではじめて、貸倒償却を認める。ガヂガヂのルールが銀行業界の実情をどれだけ反映しているのかと、疑問もでてきます。たとえば、貸倒引当金や貸倒償却の規模が、一般事業会社のそれと銀行のそれとではまったく異なるわけですし、経営への影響も違えば、経済的な意味も異なるわけですね。それを統一ルールで縛っている。そういう税のあり方が日本の金融問題を非常に複雑なものにしているという気がします。
 公共料金化にかかわって申しあげますが、銀行の競争が問題になるところは東京や大阪ぐらいです。奈良に行ったら南都銀行がガリバーだし、岡山に行けば中国銀行とトマト銀行。北海道では地元の信金が頑張っている。そうした地域では競争していないのです。マスコミで言われるような銀行間競争、収益競争が繰り広げられているのはごく限られた地域だけです。
 金融とはそのようにローカルなものです。東京の商売のやり方は大阪では通用しません。大阪の商売は京都で通用しない。商慣行も違えば決済慣行も違うし、伸びる会社、儲かる会社、損をしない、ロスを抱え込まされない会社の見極めも地域によって全部違うのです。
 アメリカに行きますと手形なんてものはないわけで、現金決済がメインです。アメリカには返品という考え方もない。返品は基本的に許されないし認められない世界です。ところが,日本では、たとえば、伝統的な京都の和装産業では売上原価は計算できない。いつどれだけの物が返品になってくるのか、「売れ残れば返品する」「500万円を決済してもらうには、1000万円の商品を売り掛けで納品しなければならない」、こういう商慣行が残っているわけですから、原価が把握できません。そんな違いを一切全部無視して、業績だけであの企業は○、あの企業は×と評価できません。こうした個性や地域性に目を向けないと金融という機能はうまくワークしないと思います。
 最近の金融審議会の答申をみますと、間接金融ではもはや駄目だ、日本経済はもうフロントランナーになったのだから、銀行だけがリスクを抱えるような金融システムはもはや維持できない、だからリスクと言いますか、「ツケ」をまわせるのは国民にだと、これが21世紀に向けた当面の金融システムの課題なのだと宣言しています。
  経済産業大臣を勤められていた堺屋太一さんは、審議会のレポートで、競馬やパチンコの隆盛をみていると、国民は博打好きで、競馬やパチンコにつぎ込む金を投資にまわす仕組みをつくれと述べています。いやしくも大臣まで務めた人が、ギャンブルを持ち出して、政府の審議会で堂々と主張する、このことに私は、違和感を持ちます。竹中大臣が、TVの画面で、国民が皆見ている前で、「この投資信託は絶対儲かります」などと言いましたが、あれは明らかに証券取引法違反です。金融の責任者が絶対に儲かると言えば、これは国家的なインサイダー疑惑を引き起します。こういう感覚をあからさまにして、憚ることがない、厚顔無恥と言いますか、こういうことを本気で考えているというところに、日本の経済政策のもの凄い腐朽ぶり、堕落した経済政策の本質をみる思いがします。
 不良債権処理の問題では税の仕組みを使って、金融機関の経営不安をあぶりだすことがまかりとおっています。大阪弘容という信用組合は、金融庁からいきなり760億円もの貸倒引当金を積み増せと言われて債務超過になりました。同じ大阪の相互信金は不動産担保の評価額を操作することによって、債務超過の宣告を受けました。
 「株主資本主義」による金融システムの「健全化」というものが、国民や中小企業経営者が求める金融システムのあり方といかにかけ離れているか、その基礎には税制という、マスコミの批判が及んでいない問題があることを指摘しておきたいと思います。


セ・パ団結を基本にすえた運動強化を

岩佐 敏明

 当面の日本経済の活性化、不況克服という点で、皆さんのほとんどが内需の拡大を基本に転換していく、財政政策や税制もなどもそういう方向に転換すべきだと言われました。それで私も当面は凌げるのではないか、転換は可能だと思います。私はよく結構小さい国に行くのですが、人口が1千万人に満たないような国でも、空港を持ち、議会も持ち、農業国と工業国といろいろ違いはあるけれども結構やっているのです。日本の力は今でも世界2位のGDPがあるわけで、この活力はいくら空洞化が進んでいるとは言え活性化可能です。労働組合の当面の政策としては、内需拡大を基本に国民生活の最低限規制を社会保障から賃金にいたるまで、きちっとしろというところに焦点を置いているのです。
 ただ、もう少し長いサイトで見れば、グローバル化の問題は避けて通れないということで発言したので、誤解がないようにしておいてほしいと思います。その問題を解決する以外、日本は立ち上がれないということを言ったわけではありません。グローバル化、産業の空洞化の代表は電機や自動車だったのです。城下町をつくって大量の下請け企業群を抱え、労働者も抱えている。これがグローバル化の中で、日本の大企業が多国籍企業化し始めるということです。多国籍資本というのは化け物みたいなもので、自分の国のことはあまり考えない。だから、国際的な規制、国内の規制を強化するという運動を、利益の還流の問題も含めて本格的に強化しないと、強いものは徹底的に強くなり、弱い者はどうしようもなくなります。この分野では、われわれの方が遅れていると思う。われわれもその問題について、政策問題等も含めてきちんとした取り組みを本格的に強めなければいけないと思います。
 不良債権の処理は桜田先生から話もありましたが、私は端的に言って中小企業を潰すということだと思います。小泉首相や竹中金融相などが言っている不良債権の加速処理とは、アメリカと日本の多国籍化している独占企業の利益擁護を徹底的に考えるということです。国民生活型の日本経済の再建ということからいえば、中小企業が80%の雇用を維持しているわけですから、資本主義ですから潰れるところもあればまた立ち上がっていくところもあるけれども、中小企業を本当に維持することが重要です。
 パートなど非正規労働者の組織化問題ですが、パート労働組合として独立して結成しているところもありますし、既存の正規労働者と一緒に組合をつくっているところもあります。大阪では推定で7千人ぐらい大阪労連の傘下の組合員がいます。これは生協、自治体、教職員、その他民間含めて部会をつくって運動していますが、組織形態のあり方はいろいろあっていいと思います。
 地域労組の主な任務は中小・零細で働く労働者の組織化です。そこが組織化の中心になって、大企業でも組合がないところや、連合系の一人で頑張っている労働者の争議を受け入れるなど、いろいろやっていますが、いまはまだ取っかかりに入った段階だと思うのです。私は組織化の問題を考える場合、梅田先生に逆らうわけではありませんが、正規労働者は没落の運命にあると一概には言えないと思います。日本の労働組合は、いろいろ言ったところで、企業別に組織され、正規労働者が軸になって現状の運動を担っているというのも厳然たる事実です。したがって私は、いまの段階で重要なことは、生協労連の合言葉でもあるのですが、「セ・パ(正規とパート)が団結する」のが基本だと思います。搾取の話も出ましたが、大阪のパート部会が春闘の学習集会をやりました。夜の9時まで吉井さんの話や職場の報告を含めてもの凄く真剣でした。昔、労働組合を組織して1年目ぐらいのときは、皆ああして一所懸命だったということを思い出しながら、私も最後まで参加しました。
 正規も非正規も同じように差別をされ、搾取もされているのです。相互の批判も一定あるかもしれません。もともと差別的な制度は資本がつくったのです。これを変えるための均等待遇だという運動を本当にやることです。困難のなかで頑張っている労働者の組織化に、私たち正規の労働組合がいまようやく手を差し伸べつつあるというのが現状だと思います。正規の労働組合が非正規の組織化のために本当に手を差し伸べることが出来るかどうかがいま問われていると思います。当面そういう方向に皆が団結しながら頑張ることによって、非正規労働者の組織化を図っていく中で、組織の内部ではどういう位置づけをすべきか、どういう役割を果してもらうかということがおのずから出てくると考えております。


活動家といっしょになって問題解決の政策を考えたい

大木 一訓

 トヨタや銀行の儲けの話が出ましたが、この儲けの内容が以前とずいぶん違ってきていることに注目する必要があると思います。
 今日のトヨタは、賃金の抑制、労働強化、ただ働き残業、下請け単価の切下げ、など、自動車生産での搾取強化によって収益を拡大しているだけではありません。最近ますます比重を高めているのは、金融部門からの収益です。トヨタは自前の金融投資部門を拡充し、あるいはさまざまな金融機関に出資して、内外で投機的な資金運用を展開しています。こうした産業資本と金融資本との融合、投機的な投資活動への参入という傾向は、ほかの生産メーカーでも広がっています。
 銀行の場合には、貸出金利による収益の比重がますます低下して、それでは経費もまかなえなくなっている。ではなんで儲けているかというと、一つは手数料収入です。口座開設料とか両替手数料とか、会計処理やいろんな情報提供サービス料金などの収入です。いま一つ、収益のますます大きな部分を占めるようになっているのが、国債の購入による利子収入であり、株式や公社債への投資収益です。要するに、寄生的で投機的な儲けに依存する部分が非常に多くなってきているのです。
 ヘッジファンド的な外資が日本の金融市場を支配するようになるなかで、メーカーも金融機関も、その企業経営のあり方が非常に不健全なものになってきている。ここに非常に大きな問題があるわけです。
 次に、不良債権処理の場合に私たちが注意しなければいけないのは、不良債権処理によって儲けている人たちがいることです。それは「焼け太り」の方法でもあって、借金を棒引きされる大企業にとってはもちろんのこと、銀行や「禿げ鷹ファンド」呼ばれる外資にとっても、非常な高収益を手にする絶好のチャンスになっているという実態があるわけです。たとえば、政府の審議会なんかにも顔を出している木村剛というのが、日本の危ない企業100社のリストをつくり、それを「禿げ鷹ファンド」に売り込んで儲けるなどという商売が成り立つのも、そういう環境があるからです。いまの日本には、不良債権の直接処理をうんと増やすことによって大儲けできる人たちがいます。だからこそ、昨日の志位さんの質問ではありませんが、黒字企業まで不良債権処理の対象にしていくわけです。「長期不況」によって不良債権が増えているということもあるけれども、国家機関まで動員して人為的政策的に不良債権を増やしているということもあるわけです。
 それから、「インフレターゲット」政策が登場する背景ですが、いま国際金融の大問題は、これまで世界中からアメリカに流入していた資本が、あまり流入しなくなったばかりか、アメリカから引き上げるようになってきていることです。エンロンのような粉飾会計のこともありますし、昔のように戦争が起こればドルの値打ちが上がるというような時代じゃありません。貿易赤字や財政赤字がまたひどくなるなかで、いつドルの暴落が起きても不思議ではない状況になってきた。危なくて仕方がないというので、ヨーロッパの資本もオイルダラーもアジアの資本も引き上げていく。こうして、世界中から借金をしまくることによって維持されてきたアメリカ経済がもたなくなってきた。そういうなかで日本の資金のアメリカへの還流を維持し拡大することが至上命令になっている、という事情があると思います。
 この間NHKの番組でもやっていましたが、いまアメリカのヘッジファンドに一番資金を提供しているのは誰かと言ったら日本です。日本の年金基金や信託基金が軒並みヘッジファンドの運用資金に流れていっています。しかし、そうした民間ベースの流れだけでは足りないのです。日銀の市場操作によってアメリカへ資金を還流させていく政策として、円安誘導によるインフレ促進、ということが提唱されているのだと思います。これは「日本売り」であり、悪性インフレになりかねないきわめて危険な政策なので、通貨の安定をめざす日銀が簡単の呑める話ではありません。そこで小泉内閣は、日銀総裁に自分たちの言うことをきく者を就任させようとやっきになっているわけです。
 それから、中小企業家同友会の方々が中心になって取り組んでおられる金融アセスメント法の問題は、中小企業や地域経済の振興をすすめるうえでも非常に重要だと思います。ただ、それが十分な成果をあげるためには、労働組合なんかも一緒に参加する地域振興のたたかいを、総合的に強化していく必要があるのではないかと思います。たとえば昨日の国会質問で志位さんが、山形の地域金融機関が中小企業の経営建て直しに4年がかり5年がかりで取り組んで成果を挙げているという話を紹介されてましたけれども、そういう直接的な経営相談活動などもふくめて、関係者全体の協力・共同を大きく前進させるような総合的な努力というものがあって、アセンスメント法も確たる成果をあげていくのではないか。そんな風に感じるわけです。
 それから電機懇の方から、空洞化の問題で、グローバリゼーションも海外進出も止められない、と学者から言われたというお話があって、いささか心配です。グローバリゼーションは避けられないというような言い方は、簡単にしないでほしいと思います。グローバリゼーションというのは中身はいろいろあるのです。具体的に考えてほしいと思います。たとえばいまの海外進出は、余力ができたから海外に進出するというのではない。国内でちゃんと利益が出ている黒字企業が、海外へ行けばもっと収益を増やせるというだけの理由で、国内を閉鎖して従業員・下請け企業を整理し、地域経済に多大な打撃を与えて出て行くわけでしょう。そこには利己的な高収益追求があるだけで、企業の負っている社会的責任については何の自覚もない。それは、国際的な協業・分業関係の発展に支えられて地球規模的な経済発展がすすむという意味での「グローバリゼーション」とは全然違ったものです。国際的な経済交流の主体となるべき中小企業や地域経済を切り捨てつぶしておいて、何が「グローバリゼーション」でしょうか。利己的な海外進出は、進出先でも低賃金ばかり追求し、現地の人々の利益に沿った社会貢献はほとんど何も行わず、より低コストの投資先が見つかればまたすぐ「渡り鳥企業」となってどこかへ移転してしまいます。国の内外にわたるこうした無責任な企業の行動に対しては、これをきちんと民主的に規制することができるし、現にEUでもアメリカ(州レベル)でも、部分的には日本でも、民主的規制は実現してきています。
 ですから「海外進出」についても一般論にしては駄目なのです。具体的にどんな海外進出が社会的に許されないのかをはっきりさせてたたかう必要があるし、そのたたかいを通じて野放しの空洞化の進行を抑えることは十分できることです。
 その場合、グローバリゼーションの時代だからこそ地域というものが大事になってくる、改めて国というものの役割が非常に重要になってくるという関係があると思います。いわば政治の力で生活の基本的な枠組みや基礎的な単位をいかに守っていくかということを抜きにして、グローバリゼーションの時代に労働者や地域住民が自分たちの生活や権利を守ることはできない。政治が非常に大事な時代なんじゃないかと思うのです。
 最後に、非正規労働者の組織化の問題です。これは皆さんの方が専門家だと思いますが、私はかつて総評時代に経験した二つの失敗を思い出します。一つは、弱者救済の国民春闘(弱者と言われる人たちの利益を総評が代行してたたかういう運動)をやって大変不評だったことです。もう一つは、中対オルグという未組織の組織化を専門的にすすめるオルグ集団をつくって、中小企業労働者や未組織の人たちの組織化をすすめたのですが、十分な成果が上がらないままに、オルグ集団を解散せざるをえなくなったことです。いずれの場合も、一番肝心な、組織化の対象になっている人たち自身が、自分たち自身の要求と努力で運動を発展させるという点が弱かった、という問題がありました。
 そういう点でこれからは、請負でも代行でもない非正規労働者自身の運動と、正規労働者の運動とが大きく連帯するなかで組織化がすすんでいくのではないかと思います。
 どうも長くなってしまいましたが、労働総研は設立趣旨でも明確にしているように、「労働運動の必要に応え、その前進に理論的実践的に役立つような調査研究所」でありますから、今日ここで出された問題を深く受けとめ、共同して政策問題の発展に寄与したいという決意を述べて、お答えとします。


地域という角度から運動と政策を考えることの重要性

コーディネーター・服部 信一郎

 最後に私からもお礼も含めて一言発言させてもらいます。今日は凄いですね。50団体170人がご参加されました。日頃このテーマの議論はあんまり出来ないのです。賃金だとか雇用などはっきりしているテーマで議論していても、私たちは、いつも資本主義という社会のシステムそのものに悩まされているという問題意識をずっと持っていたのですが、今日はこういうシンポジウムという形で少し花開いたのではないかと思います。労働総研は今日のシンポを『労働総研ニュース』に掲載して、全国に発するそうですので、全国でもこの種の議論がさらに理論的にも運動的にも前進していくことが期待さます。
 一言だけ申し上げたいのは、地域という問題から資本主義を見る角度は、非常に面白い現状が生まれています。トヨタ本社は、豊田町1丁目1番地ですね。池田市のダイハツ町1丁目1番地にダイハツの本社があります。独占資本はそのような形態で自分の町にし、支配を昔からもやってきた側面があるのですが、これがうまく行かなくなってきているのです。去年ダイハツの企業丸抱えの市会議員、川西市長選挙で、連合お抱え、企業丸抱えの候補者が落選をしました。リストラOK、賃下げOKの組合に対する批判もありますが、独占資本の地域を支配がうまくいかないという側面の一つの表れ方でもあると思います。
 失業、雇用問題も重大な問題になっています。今日も参加している大阪労連の上松くんが調査をしてくれましたが、大阪で失業率だとか失業者数というとわかりにくいのですが、大阪では9世帯に1人、9軒に1軒、90世帯のマンションには10人の、政府が言う失業者が住んでいるのです。地域では失業はそういう形で見えるのです。われわれは、いま行政に対して公的就労事業をやれということを突破口にして運動を進めています。運動はNPO関西とも一緒にやりますが、このNPO、NGOの活動も地域です。今日も話題になったパート問題も地域では面白いですね。市長さんなども、わが町に住むパートであり、就労労働者だという点で、均等待遇の問題でも非常に前向きで、われわれの呼びかけに応えるのです。これも地域の一つ特徴になっています。スーパーマーケットのようなサービス業などは、雇っているパートは同時に消費者であり、お客さだという意識が経営者にありますから、50円の引き上げ、時間給はそろそろ1,000円の時代ですよと言えば、否定するどころか納得もするのです。われわれは、大阪でこういうシンポジウムを開いたわけですが、ヨーロッパでも問題になっている経済の持続可能な発展を企業がどう行うかの問題も含めて、地域という角度からもっと見る必要があると思います。梅田さんからも正規型からもっとパートや未組織に重点を置くことが強調されましたが、地域というキーワードがなければ、その発想にも繋がっていかないと思います。
 大企業に対する業者の団体交渉権は実践的課題になっています。来週も全信労が中心になって、保守層の人たちを含め400人の原告団を結成して、相互信用金庫破綻問題で出資金を取り戻すたたかいを、国と相信相手に裁判闘争を開始します。これは全国にはない一大闘争を労働者と業者とが組んで、国を相手にした裁判がいよいよ今月から始まります。これも地域からのたたかいです。労働者と住民、業者が一体となったたたかいとして注目もされるのではないかと思ってなりません。
 一斉地方選挙は4月でございます。大阪では10の市長選挙がたたかわれると同時に、議員選挙がたたかわれるわけですが、非常に厳しい定数減だとかさまざまあります。しかし大阪でも、吹田のように民主党の議員の方が辞められて、共産党と明るい会の支援を受けて、尼崎以上の政治的な新しい自治体らしい自治体をつくる動きが大きくなっています。府下全体の一斉地方選挙に向けた前進も、今日のテーマと結びついた私たちの目の前にある課題としては、本当に重要な問題です。春闘、一斉地方選挙が当面の課題でもありますが、ここを乗り越えながらなんとしても、いまの狂っている日本の資本主義制度そのものを国民本位にただしていく課題に挑戦をして行きたいものだと思ってなりません。シンポジウムは、皆さん方のご協力が大きく成功したと思います。ありがとうございました。(拍手)。




第2回常任理事会報告

 02年12月7日、ユニオンコーポ会議室で、大木代表理事を議長に開催された。
 常任理事会に先立ち、大木一訓監修・労働総研編『日本経済の変容と「構造改革」』について、大木代表理事から当該書籍についての内容が報告され、小林宏康常任理事がコメント報告をし、討論を行った。

報告事項
  1) 常任理事会決定の遂行など一連の事務処理について、藤吉事務局次長が報告し、了承された。11月22日に行った、自治労連、日本医労連、自交総連、国公労連への表敬訪問について、大江代表理事から有意義であったとの報告があり、承認された。
  2) 全労連からの要請に応えていくつかの部会等への研究者の派遣や「03春闘白書」共同編集などについて、藤吉事務局次長が報告し、全労連との関係強化が確認された。
  3) 研究部会関係の活動状況について、藤吉事務局次長が報告し、すでに公開研究部会を開催した社会保障研究部会公開研究会、国際労働研究部会公開研究会に引き続き、公開研究会を充実させることが確認された。
  4) 12月2日に開催された「公的雇用創出のための政策提言」発表と懇談の夕べについて、大須事務局長が報告し、大木代表理事が補足報告を行い、承認された。
  5) 国内の対外関係活動について、藤吉事務局次長が報告し、了承された。国際関係活動について、小越洋之助常任理事が報告し、承認された。
  6) 刊行企画の遂行状況について、藤吉事務局次長が報告し、討議の結果、若干補強することで、基本的に了承された。
協議事項
  1) 全労連との関係強化について、大須事務局長から、提案があり、討議の結果、全労連と共同でタイムリーな調査を行うための検討委員会を立ち上げることなどを含めて確認された。
  2) 常任理事会冒頭の研究会の運営などについて、開催について、大須事務局長から、提案があり、討論の結果、確認された。
  3) 2月8日、大阪労連後援で、大阪で開催する研究例会の準備などについて、大須事務局長から、提案があり、討論の結果、成功のため準備することが確認された。
  4) 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクトの責任者交代について、大須事務局長より報告があり、討議の結果、確認された。
  5) 常任理事が不在の研究部会と常任理事会との意思疎通を強化する措置について、大須事務局長から提案があり、討論の結果、確認された。
  6) 春闘白書の点検体制について、大須事務局長から提案があり、確認された。
  7) 次回の日程などについて、大須事務局長より提案があり、検討の結果、第3回常任理事会の日程調整および3月29日にプロジェクト・研究部会責任者会議開催が確認された。




12月〜1月の研究活動

12月 7日 国際労働研究部会−「世界の労働者のたたかい2003」について
9日 賃金最賃問題研究部会─ダイバーシティーマネージメントについて
青年問題研究部会─最近の青年問題の傾向と特徴
13日 国際労働研究部会─「世界の労働者のたたかい2003」について
17日 女性労働研究部会─労働政策審議会について
24日 労働時間問題研究部会─研究成果のまとめ
1月 20日 賃金最賃問題研究部会─ナショナル・ミニマム問題と地域調査
22日 女性労働研究部会─厚生労働省「男女間の賃金格差問題に関する研究会報告書」
青年問題研究部会─就職連絡会の経過と現状
29日 労働時間問題研究部会─研究成果のまとめ
中小企業問題研究部会─出版物の検討

12月〜1月の事務局日誌

12月 2日 「公的雇用創出のための政策提言」発表&懇談会
6日 加盟単産訪問(大江・大須・藤吉)
  7日 第2回常任理事会
第4回企画委員会
13日 全労連民間部会学習会(牧野代表理事講師)
愛知自治労連学習会(藤田宏会員講師)
19日 大阪自治労連学習会(大木代表理事講師)
  27日 事務局会議
1月 8日 全労連旗開き(大江・牧野・藤吉)
9日 2002年度教育研究全国集会へメッセージ
17日 第5回企画委員会
事務局会議
18日 第2回編集委員会
25日 石川氏励ます会・酒井氏励ます会(藤吉)長野県労連・春闘共闘学習会(相澤常任理事講師)
富山国公労連学習会(佐々木昭三会員講師)