労働総研ニュースNo.152・153合併号 2002年11・12月



目   次
社会保障研究部会公開研究会報告
小泉税制改革と社会保障
             ………………………浦野 広明
全労連・労働総研国際労働研究部会公開研究会報告
ヨーロッパにおける不安定就労の実態と規制の現状
             ………………………宮前 忠夫
あまりにも劣悪なパートタイマーの実態
国際労働基準実現は待ったなしの課題
             ………………………井筒 百子
「ちかくて遠い国、韓国」の労働者と交流して
             ………………………澤田 幸子
イタリアの現状
             ………………………斉藤 隆夫
米国のパート労働者
             ………………………岡田 則男
ILOの動向
             ………………………加藤 益雄
10〜11月の研究活動
10〜11月の事務局日誌



[公開研究会の掲載にあたって] 本号には、10月25日に開催された社会保障研究部会の公開研究会と、11月14日に全労連と共催で開催された国際労働研究部会の公開研究会を掲載しました。社会保障研究部会では、浦野広明立正大学教授による「小泉税制改革と社会保障」の報告にもとづいて討議がおこなわれました。国際労働研究部会では、「ヨーロッパにおける不安定就労の実態と規制の現状」について宮前忠夫会員が基調報告をおこない、日本の実情について井筒百子全労連政策局長が、韓国の実体について澤田幸子神奈川労連事務局次長が報告しました。討論の中で、斎藤隆夫理事がイタリアの現状について、岡田則男会員がアメリカの実状について、加藤益雄全労連国際部長がILOの動向について発言しました。掲載にあたっては、報告者ならびに発言者にお願いして、会場での討論・質疑を考慮して補強していただきました。お礼を申し上げます。

社会保障研究部会公開研究会報告
小泉税制改革と社会保障

浦野 広明

 小泉内閣は社会保障の大改悪をくわだてている。その内容は、 @2002年10月から雇用保険料を月収の1.2%から1.4%に引き上げ、さらに来年度は1.4%までして6000億円、 A医療については、同10月からの高齢者に1割負担を課す(一定以上の所得は2割)、2003年4月から健康保険の本人の窓口負担を2割から3割に上げ、さらに保険料も引き上げて1兆5100億円、 B介護保険料は2003年度から平均で10%引き上げて2100億円、C年金の給付額を2003年年度から9200億円、総額で3兆2400億円という空前の負担増をさせるものである。
 もう一方で庶民に前代未聞の大増税を押しつけようとする。ここでは、税制改革の方向と、税金の払い方・使途に関する納税者の権利について述べることとする。

1.小泉税制改革の方向

 小泉税制改革の方向は、政府税制調査会(内閣総理大臣の諮問機関。以下「税調」という)の中期答申(2000年7月。以下「答申」と略す)、基本方針(2002年6月。以下「方針」という)、2003年度税制改定答申(以下「年度答申」という)が詳しく述べている。日本では税法案の大半が内閣によって提出され、無修正で成立する。税法案が国会に出てからじたばたしても間に合わない。税調の各種文書は、政府が進めようとする税制改定の方向を示している。私たちは、これを実質的な税制改定案として理解し、対応しなければならない。
 小泉税制改革は、私たちが今までに経験していない、想像を絶する広範な庶民大増税をうたっている。
 主なものだけでも、個人所得課税の大増税・退職金増税(退職所得控除・1/2課税の見直し)・相続税増税(基礎控除額の引き下げ、小規模宅地等の評価減の縮減、死亡保険金と死亡退職金の非課税額の縮減、農地の納税猶予特例の見直し等)・消費課税の大増税(税率アップ・「免税点」の大幅縮小・簡易課税制度の廃止を含めた抜本的見直し)・法人課税の強化(中小企業、公益法人等、協同組合等の低税率の廃止、公益法人等・人格のない社団等の収益事業課税を廃止し原則課税。法人事業税の一律導入(赤字法人にも事業税を課す外形標準課税)など枚挙にいとまがない。
 ここではこれらのいくつかについて述べることとする。

2.所得課税の大増税

(1)所得課税の4激痛
 個人所得課税(所得税・住民税)においては、つぎの四つの激痛を走らせようとしている。
 (激痛1=人為的所得増)
 つぎのように課税標準である所得を各所得毎に人為的に増やそうとしている。
 @給与所得の金額は〔収入金額−給与所得控除額〕で求める。
 方針は給与所得控除額の大幅な縮減をねらう。答申は勤務費用を含む給与所得者の必要経費が「平均年収の1割弱」だと試算している。多くの人々は30%前後の控除が適用されている。控除が年収の10%に引き下げられると、給与所得の金額は大幅増となる。
 A公的年均等に係る雑所得の金額は〔収入金額−公的年金等控除額〕で求める。
 方針は公的年金等控除について、「本来不要とも考えられる」とまでいう。公的年金等控除が「不要〈ゼロ〉」となれば、収入金額そのものが所得となる。さらに、配偶者控除や扶養控除などの所得控除は、現在、控除対象配偶者や扶養親族の合計所得金額が38万円以下でなければ適用されない。年金控除額が縮減されれば、今まで扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除などの対象になっていた年金者が控除の対象から外される。
 B事業所得の金額は〔収入金額−必要経費〕で求める。答申は、事業所得者等について必要経費の縮減(交際費は認めない。専従者給与・控除の縮小など)をするとしている。
 C答申は課税所得は大きくとらえるのが原則だとし、非課税所得ももれなく課税すべきという。現在非課税となっているものには、例えば生活保護給付などの社会保障給付、給与所得者の旅費・現物給付、雇用保険上の失業給付などがある。これほどの酷い仕打ちがあろうか。
 (激痛2=所得控除の縮減)
 方針は、所得控除のうち人的控除(障害者・老年者・寡婦・寡夫・勤労学生・配偶者・配偶者特別・扶養・基礎)は、「基本的には、家族に関する控除を基礎控除、配偶者控除、扶養控除にすべき」とし、人的控除の更なる見直しについて、「本人の基礎控除のみとする」という考え方もあると述べている。年度答申は配偶者特別控除の廃止をうち出した。 老年者控除(所得税で50万円・住民税で48万円)は、65歳以上で合計所得が1000万円以下の人に適用される。方針は、この老年者控除について、「大幅に縮減する方向で検討する必要がある」としている。
 社会保険料控除は、納税者が本人や本人の配偶者・親族が負担すべき社会保険料(健康保険・国民健康保険・介護保険・雇用保険・国民年金・厚生年金など)を支払ったときにその支払額全額を控除するものである。方針は社会保険料控除の「対象範囲を吟味しなければならない」と縮減をにおわしている。生命保険料・損害保険料控除は「廃止を含め見直す」としている。これでは、所得控除で残るのは、通常の人の場合、基礎控除だけとなりかねず、課税所得が大幅に増えることになる。
 (激痛3=税額控除〈定率減税〉の廃止)
 1999年以後の所得税・住民税については税額控除制度が採用されている。方針は、「所得税・個人住民税あわせて約4.1兆円の定率減税は、経済情勢を見極めつつ、廃止していく」とする。税額控除適用前の所得税・住民税額が10万円の人は、現在税額控除の適用によってで6万5000円の負担ですむ。税額控除の廃止により、多くの人は所得税・住民税の負担が1.5倍以上になる。
 (激痛4=最低税率適用範囲の縮小)
 所得税の最低税率は10%である(課税所得金額が330万円以下に適用)。住民税の最低税率は5%である(課税所得金額が200万円以下に適用)。方針は、「所得税について見ると、現在、納税者(民間給与所得者)の約8割が最低税率(10%)の適用で済む」、「個人住民税については、納税義務者の約6割が最低税率(5%)のみの適用」となっているとし「最低税率の幅を縮小することが今後の選択肢」だという。
 適用範囲の縮小は、例えば、所得税についていうなら、10%の税率適用者を100万円以下とし、100万円超は20%にするのである。低所得者の税率を上げることになる。

(2)退職金の増税
 退職金には所得税と住民税が課されることがある。退職金は、長年の勤労に対する対価として一時に受けとる退職後の生活資金である。そこで、退職所得控除を設けたり、他の所得と分離して課税するなど税負担が軽くしている。
 退職所得の金額は、(退職金の額−退職所得控除額)×1/2で求める。方針は、「勤続年数に応じて一律に控除額が算出され、また勤続年数が短期間でも所得の2分の1のみにされるなど合理的とは言えない。退職金の課税のあり方を見直す必要がある」という。
 現行税法の下では、30年間勤務した人が退職金を2500万円得た場合、退職所得控除額は1500万円である。退職所得の金額は(2500万円−1500万円)×1/2で求めた500万円。この場合の税負担(所得税・住民税)は、103万円である。税調がいうように長期勤続の「優遇」である1/2課税を廃止したら、前記ケースの税負担(所得税・住民税)は、266万円と大幅に増える。退職所得控除が縮小されればさらに増税となる。

3.消費課税の大増税
 方針は、「税率を引き上げ、消費税の役割を高めていく必要がある」と述べている。
 答申は、「EU諸国においては、標準税率が15%以上25%以下と定められている」と強調していた。本音はEU並みの税率アップであろう。
 年度答申は、「免税事業者の割合を現在の6割強から相当程度縮小させるべく、現行の免税点制度を大幅に縮小する。法人については免税事業者から除外すべきであろう」という。簡易課税は「制度の廃止を含めた抜本的見直しを行うべきである」としている。方針は、販売価格について、「消費者に対し消費税を含めた価格の総額を表示すること(総額表示方式)」を積極的に検討すべきであると述べている。税率アップをすれば、国民の反発は避けられない。そこで、値段の表示において消費税がいくらなどと表現することを禁止しようというのである。消費税を人の目にふれさせない悪巧みである。
 方針は、「地方消費税の充実確保を図っていく」としている。現行の地方消費税は1%の税率であるが、地方税法の改定による税率アップの企ても無視できない。

4.相続税の大増税
 相続税は、相続・遺贈・死因贈与によって得た正味の遺産額が基礎控除額を超えた場合にその超えた額について課される。
 現行相続税の課税最低限(基礎控除額)は、[5000万円+1000万円×法定相続人の数]である。方針は、「基礎控除の引き下げの方向で検討が必要」、という一方で「個人所得課税(所得税37%・住民税13%)の最高税率(50%)との差が大きいので、引き下げることが適当である」と言う。
 答申は「より広い範囲に課税」する必要があるとして次の増税案を示していた。
 @課税最低限である基礎控除額は高すぎるので引き下げる、A小規模宅地の評価減を少なくする(生存権的財産への課税強化)、B現行では死亡保険金・死亡退職金(相続財産と見なされている)などについては、500万円×法定相続人の額が非課税だが、この非課税額を縮減、C農地の納税猶予特例の見直し、D相続税の最高税率の引き下げ、E相続税の補完税である贈与税の基礎控除(年60万円)を引き上げる(すでに、2001年分から110万円に引き上げられている)。
 方針・答申は巨大資産家の相続税負担を大幅に軽減する一方で、現行制度の下で相続税が課されない大多数の庶民に相続税の負担をさせようとしている。

5.租税の民主的原則
 租税の民主的原則は応能負担原則(応能原則)である。その具体的内容は、@直接税(所得課税)中心、A各種所得を総合して所得が多くなるに応じて高い税率で課税(累進税率の適用)、B生計費は非課税、C勤労所得は軽課税、不労所得は重課税、などである。
 これらの原則はブルジョワ革命(市民革命)を経て、人々が運動をして発展させたものである。日本国憲法も応能負担原則をうたっている。その根拠は、13条〔個人の尊重〕、14条〔法の下の平等〕、25条〔生存権〕、29条〔財産権〕などの条項である。法の下の平等の意味は、租税の面では能力に応じて平等であることである。
 例をあげると、所得課税の場合、高所得者には高い負担、低所得者には低い負担。また、同額の所得でも、原則として、給与など勤労所得は担税力(税の負担能力)が低い、利子・配当・不動産などの資産所得は負担能力が高いと考える。つまり、憲法の意図する応能原則からは、単に所得の量的担税力だけでなく、所得の質的担税力をも勘案することになる。この考えの一環として最低生活費非課税の原則が構成される。
 直接税は応能原則を具体化するが、消費税などの間接税は各人の負担能力を考慮せず、税の応能原則に反する。
 先に述べたように、近代税制はフランス革命等のブルジョワ革命のなかで勝ち取られたものである。フランス革命で採択された人権宣言(1789年)13条は、「租税はすべての市民の間でその能力に応じて平等に負担するもの」と応能負担原則を定めている。また、フランス革命やアメリカ独立宣言に大きな影響を与えたイギリスの哲学者・政治思想家ジョン・ロック(1632〜1704年)は、著作『市民政府論』で「政府の目的は、人類の福祉にある」(鵜飼信成訳『市民政府論』岩波文庫)と述べている。
 近代税制の成立と発展のたたかいの教訓は、「税金は能力に応じて払い(応能原則)、支払った税金は福祉に使う」ことを明らかにしたことである。政治とは税金をどのような方法で集め、どのように使うかを決めることだともいえる。
 日本国憲法は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」(30条)、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」(84条)と租税法律主義を定めている。つまり、国税に関する法律は国会で決めるとしている。悪税法を作らせないためには、悪税法を作る議員を国会に送らないことである。
 近代税制の成立には、国王や封建領主などが人民から一方的に税金を取り立てることを禁じ、租税の賦課徴収は、必ず国民を代表する議会の決めた法律によらなければならないとした歴史がある。
 史上空前の庶民大増税を許さないために筋道の立った議論をして、日本国憲法の立場である「税の応能負担と福祉への支出」とする要求の正当性を得ることが急がれる。

(立正大学法学部教授)




全労連・労働総研国際労働研究部会公開研究会(2002/11/14)報告
ヨーロッパにおける不安定就労の実態と規制の現状

宮前 忠夫

1、ヨーロッパでも増え続ける不安定就労

 「グローバル化」の下での競争激化にともなって、ヨーロッパ(=EU〔欧州連合〕、以下同様)各国でも不安定就労(不安定雇用)が急増している。ただし、不安定就労と言われる実態の把握方法、特徴付け、呼び名は、非典型的雇用、非正規雇用、有期(期限付き)雇用、非永久的雇用などさまざまある「不安定就労」は、いわゆる労働市場の弾力化のなかで次々に導入され、今なお導入され続けている各種の雇用・就労形態の漠然とした総称として用いられているのが現状である。そこで、本稿では、一般的総称としては「不安定就労」とよびつつ、各論的には利用できるデータに応じて、ケースバイケースで特徴を押さえていくことにしたい。
 EUでは、有期雇用、派遣労働、臨時・季節労働などを、「非永久的雇用(non-permanent employment)」と総称している。ここではとりあえず、代表的な形態とされる有期雇用と派遣労働の概況を見ることにしたい(なおその際、有期雇用(労働者)は、EUの有期雇用指令では、使用者と労働者の間の直接の雇用契約または関係をもつものであって、その雇用契約または関係の終期が特定の日の到来、特定の任務の完了、または特定の事件の発生のような条件によって決定されている労働者をいう〔ただし、派遣労働者を除く〕、と定義されていることに留意されたい)。
 EU平均で見ると、有期雇用は雇用全体の13.4%(2000年)となっており、1983年の9.1%から4.3%増加した。国別で見るとスペイン、フランス、オランダなどで急増している。
 一方、派遣労働者はEU平均で1.2%(1999年)だが、オランダ、ルクセンブルク、フランスでとくに高い比率を占めている。派遣労働の1992年対比の増加率では、各加盟国において、最低でも2倍化しており、デンマーク、スペイン、イタリア、スウェーデンでは5倍化している。
 こうして、ヨーロッパにおいても全体としては、雇用の多様化、それとセットになった勤務形態の多様化・弾力化(呼び出し労働、テレワーク、信頼労働時間制=一種の裁量労働制など)によって、「従来の非典型的(非正規)雇用が典型的(正規)になった」、「果てしない弾力化」などと特徴づけられる状況になっている。11月9日フィレンツェで、第1回欧州社会フォーラムの閉幕行事として行われたデモ・集会に、青年を中心に100万人もの人々が結集した主要因の一つは「雇用弾力化」と失業に象徴される「雇用の不安定化」への怒りと指摘されている。

2、EUによる主な規制

 周知のとおり、ヨーロッパでは、とくに各種EU指令による労働・労使関係分野での社会的規制が進められている。「労働市場の弾力化」に対応しての差別禁止・均等待遇ルールについても同様であり、均等待遇のルールは、非正規雇用(パートタイム雇用、有期雇用、派遣労働、呼び出し労働、テレワーク、ニセ自営業=経済的従属労働者など)全体について措置がとられつつある。
 ヨーロッパにおけるこうした取り組みは1990年代を通じて、とりわけ派遣労働が急速に増大する非典型的雇用の形態になったという事情を反映して開始され、「雇用・労働条件の弾力性と、雇用と労働者生活の安定性、の両立」の確保(いわゆるフレクシキュリティflexicurity=flexibility+securityからの造語)をめぐる問題として追求されてきた。
 とくに、1995年、欧州委員会がEUレベルの労使関係当事者との間で、「非典型的雇用の三つの形態――@パートタイム雇用、A有期雇用、B派遣労働――に関連した労働時間の弾力性および労働者の安定性」に関する協議を開始して以降、非正規雇用均等待遇のルール確立が本格化した。そして、@〜Bのうち、最初の二つについては、まず、労働協約が締結され、今では、二つともEU指令として整備されている。派遣労働についても今年(2002年)に入って、欧州委員会が指令案を決定・発表し、関係者による審議段階に入り、欧州議会が第一読会を終了するところまで進んだ。さらに、テレワ−クについても、2002年7月、EUレベルの労使関係4当事者(欧州労連、欧州産業連盟、欧州公共企業体センター、欧州手工業・中小企業連盟)間の労働協約「テレワ−クに関する枠組み協約」が締結された。
 以下では、不安定雇用の代表的形態とされている有期雇用と派遣労働に関するEUの規制への取り組みを一瞥したい(パートタイム指令についてはすでに多くの紹介があり、かつ、EU内では「パート労働は短時間の正規雇用」との位置づけが定着しつつある)。

(1)有期雇用指令の主な内容
 EUは97年12月にパートタイム労働指令を成立させたのに続き、1998年3月、有期雇用に関する協議・交渉を開始した。そして、パートタイム指令の場合と同様、まず、労使3者(欧州労連、欧州産業連盟、欧州公共企業センター)間の交渉を経て、1999年3月、欧州レベルの労働協約が締結された。その後、これもパートタイム指令の場合と同様、EUの立法手続きを経て、同年6月、労働協約から指令に転換され、「欧州産業連盟、欧州公共企業センター、欧州労連によって締結された有期雇用労働についての枠組み協約に関する指令」(本節では以下、指令と呼ぶ)が成立した。
 指令は、無期限雇用契約こそが雇用契約の一般的な形であり、かつ将来もそうであり続けることを確認し、同時に、労、使の条件次第では、有期雇用という形が使用者と労働者の双方の必要に応えるものであることを確認した上で、次のような主内容を定めている。
 目的 @常用労働者(正規雇用労働者)との間の均等待遇(非差別)原則の導入により、有期雇用の質を向上させる。A有期雇用の継続使用(反復使用、連鎖契約)による乱用を防止するための枠組みを設定する。
 対象 @各加盟国の法、労働協約等により定義された有期雇用(派遣労働は除外)、A各加盟国は労使との協議にもとづき、試用期間中の者や見習い労働者等を適用対象外と定めることができる。
 均等待遇(非差別)原則 @異なる待遇が客観的に正当化できる場合を除き、有期雇用労働者は有期契約であるということのみを理由として比較可能な常用労働者に比し、不利な待遇を受けない、Aそれが適当な場合は、時間比例の原則を適用する、B特定の雇用条件に関して勤続期間が適用条件とされる場合には、異なる待遇が客観的に正当化される場合を除き、常用労働者と同じ待遇を受ける。
 乱用防止 @有期雇用の継続使用による乱用を防止するため、加盟国は労使との協議を踏まえて、有期契約の更新を正当化する客観的な理由の規定、更新した有期契約の最長期間の設定、有期契約の更新回数の上限の設定、という三つの対策のうちいずれか一つ以上の措置を講ずる、A必要に応じ、加盟国は労使との協議を踏まえ、いかなる条件下で有期雇用が継続されたとみなされるか、期間の定めのない雇用契約とみなされるか、について規定する。以上は有期雇用労働者の、一定の条件下での常用労働者への自動的転換規定を意味する。

(2)派遣労働の均等待遇をめざす取り組み
 派遣労働に関する欧州レベルの労使交渉も2000年7月に開始された。しかし、交渉は主に、派遣労働者と「比較可能な労働者」の規定、および比較・均等化する内容をめぐる対立が解けないことから、2001年春事実上、決裂した。こうした事態を受けて欧州委員会がイニシアチブを発揮し、2002年3月、指令案を提出した(ただし、この時点で加盟15国中、11国はすでに、派遣労働者の均等待遇を法制化していた)。
 指令案(「派遣労働者の労働条件に関する欧州議会・欧州理事会指令案」)は主に次のような内容を規定している。
○非差別原則 「派遣労働者はその派遣期間中、待遇上の差異が客観的理由によって正当化されないかぎり、職務上の年功〔勤続年数〕を含む基本的な雇用および労働条件に関して、少なくとも、利用者企業の比較可能な労働者と同等の有利な待遇を受ける。それが適当な場合、時間比例原則が適用される。」
○派遣労働の質的改善(正規の良質な雇用への参入)@派遣労働者に派遣先での正規採用の機会を与えるために、空きポストについての情報提供を保障する。利用者企業との間での派遣期間終了後の正規採用契約の締結を妨害されない。派遣企業による派遣労働者からの、正規採用見返り手数料の徴収の禁止。派遣労働者への派遣先企業の社会的サービス〔企業がその労働者に関する提供する便宜〕への参加・利用保障。派遣企業と派遣先企業はともに派遣労働者の職業訓練参入の改善に努める。A派遣労働者は、労働者代表制の選出・指名基準に関して、派遣企業の労働者数に参入される。B派遣先企業の労働者代表機関は派遣労働者の採用について通知を受ける。

3、闘いと法制に支えられた「社会的モデル」

 均等待遇ルールについて寸描したような、「欧州型社会的モデル」とも呼ばれるこうしたEU社会のあり方、とくに労使関係を支え、前進させている原動力が労働者・労働組合をはじめとした国民の闘いであることはいうまでもない。そして、闘いの成果は各段階で制度・法制化されている。たとえば、EU基本条約であるアムステルダム条約は第138条2項で次のような二段階の手続きを規定している。@「社会政策分野の提案を行う前に」欧州委員会は「欧州共同体〔=EU〕行為のありうべき方向に関して、労使関係当事者と協議しなければならない」。A「そのような協議の後、欧州委員会が、欧州共同体行為を望ましいものと判断した場合には、委員会は想定される提案の内容に関して労使関係当事者に協議しなければならない」。
 こうして、EUでは、労使関係など社会的分野の重要政策や法規について、その準備段階から社会的対話、欧州レベルでの政労使協調が制度化されている。しかも、多くの加盟国においては、この水準を上回る制度、慣習が確立されているのである。
 その背景には、労働者、労働組合を社会的勢力として民主主義的に、制度的に編入することを含む、こうした意味での政労使協調を確立してこそ、生産性や競争力も、労働条件・生活条件も持続的に向上するとの考え方がある。ディアマントプル欧州委員(雇用社会問題担当、ギリシャ出身の女性)は次のようにのべている。
 「この戦略〔=EUの2010年までの十ヵ年戦略〕を支えているのは、私たちが『欧州の社会的モデル』と呼ぶもの――実際は一つのモデルではなく多数だが――を維持・強化するという私たちの念願である。…それらは結局、次の共通目標をもっている。
■競争力の強化 ■社会的公平 ■社会的連帯、社会的調和、の実現 ■生活水準の向上 ■社会的保護〔=社会保険、解雇制限など〕水準の引き上げ、労働条件向上、生活の質の向上、の実現
 社会的政策への支出はけっして経済への負担ではなく、経済的成長と社会的調和の間の健全なバランスを確保する手段である」。

(国際労働問題研究者)




あまりにも劣悪なパートタイマーの実態
国際労働基準実現は待ったなしの課題

井筒 百子

 パート労働のあり方を検討してきた厚生労働省の研究会は本年7月に、「パートタイム労働研究会最終報告」(以下「最終報告」)を発表した。「最終報告」の前提となっている「多様で柔軟な働き方」の反面には「劣悪な労働条件と雇用の不安定」という重大なリスクがあることを全労連パート・臨時労組連絡会「パート・臨時などではたらくみんなの実態アンケート」(2002年10月発表、14,855人分集計)の結果は如実に示している。
 組合未加入者の約半数が、パートタイム労働法の指針で定められている「雇い入れ時の書面による契約」をされておらず、すべての労働者に権利がある有給休暇は44.7%が与えられていない。賞与(ボーナス)の支給については、47.1%が何もなく、退職金があるのは10.4%にすぎない。リストラの影響では21.1%が就労時間を短くされ、18.6%が自分や職場の仲間が解雇された経験をもっている。22年勤続のパート労働者は「賃金が数年間同じ、社会保険に加入してもらえない、有給休暇の付与日数は勤続年数が経っても変わらない」と述べている。また「有給休暇を取ると皆勤手当をカットされる」などの労働基準法違反が堂々と行われていたり、時間給が600円未満または600円台という明らかな最低賃金違反か最賃ぎりぎりで働くパートが10.5%存在している。ダブルワークをする40代のパート労働者は「労災がない、労組もない、有給がない、通勤手当もない。補償が何もない、先行きがとっても不安である」と訴え、勤続10年になるパート労働者は「10年以上働いてもボーナスが寸志も出ない。会社の都合で“今日は休んでください”と急に言われる」と嘆く。これが日本のパートタイム労働者の姿である。
 パート労働者の「均等待遇」への要求は切実なものがある。
 実態アンケートでは職場での不満では組合に組織されていない人の場合、「賃金が安い」がトップで50%、「休みが取りにくい」が25.9%、「正社員との差別がある」と答えているのが22.2%となっている。これが組合員となると「正社員との差別がある」が35.7%でトップとなる。「仕事にみあった賃金を得ていない」(19.1%)という不満も差別感の表れと見ることができるので、過半数を超える人が日常的に差別感を抱いて仕事をしている。
 今後、さらに深刻な問題となるであろうと考えられるのはダブルワークの問題である。
 実態アンケートでは女性のダブルワーカーは回答者の8.5%、組合未加入者の11.1%、男性は13.2%であった。この数字が特別なものでないことは過日、厚生労働省のパートタイム総合労働実態調査でもほほ同様の数字が示されていることからもわかる。
 その内容は、女性のダブルワーカーは配偶者との離・死別率が通常の女性パートタイマーと比べて4ポイント高く、男性ダブルワーカーは全体として単身者の割合が高い。単身で生活を維持するために、一つの仕事では十分な所得が得ることができない。厚生労働省の毎月勤労統計でもパート労働者の労働時間は縮小傾向が見られるが、質問項目「リストラの影響」の部分でも見られるように、パートの就労時間は短時間化へ進みつつあるといえる。ダブルワーカーの職場における不満・不安では男女とも「労働時間が短い」「正社員になれない」ことへの不満が高い。これはダブルワーカーは本来、一つの職場で正社員として働き、生計を維持したいという要求をもっている事を示している。
 社会保険や雇用保険の加入状況を組合未加入者全体と比べてみる。組合未加入者は社会保険加入が61%であるのに比べ、ダブルワーカーは47.4%、雇用保険は組合未加入者全体で46.0%が加入しているのに比べ、ダブルワーカーは39.5%と低い。これは労働者が複数の事業所で就労しても、現行制度上、所定労働時間は通算されないため、各々の事業所における所定労働時間を適用基準内に抑えているためと見られる。ダブルワーカーは今後、増大するであろうと予想されている。
 現在、厚生労働省労働政策審議会雇用均等分科会で、今後のパート労働対策についての議論が行われており、2003年早々に方向性が出されることになっている。審議会議論ではまず、「フルタイム正社員とパートタイム労働者との間の公正な処遇を実現するためのルールを明確化していく必要性について」議論されたが、この時点から労働側委員、使用者側委員が真っ向から対立した。労働側委員は「均等待遇原則の確立は急務」としてパートタイム労働法の改正を主張したが、使用者側は「労働条件は労使が個別に決定すべきもので、一律に決めるべきではない」と法改正の必要性を断固認めようとしない。
 「最終報告」は、「雇用システム全体の見直し」「日本型均衡ルールの確立」「多様な働き方の行き来ができる仕組みの醸成」「社会保険の適用拡大」などを提起し、これからのパートタイマーの働き方や処遇問題だけでなく、正規労働者を含めたすべての労働者に関わる重大な政策方向を打ち出している。
 そういう点ではさまざまな問題や不十分さをはらんでいるが、格差是正にむけて、具体的水準と方法を示したことはパートタイマーの労働条件改善への一定の前進とみることができる。
 しかし、審議会論議で使用者側の発言はその一定の前進をもご破算にしかねない後退的なものである。
 使用者側委員は「日本型均衡ルール」をガイドラインとして示すことすら、「現行パート法の配慮義務で十分。ルールを作ることには基本的に賛成しがたい」とパート法本体の改正はもちろん、否定し、そのうえ、ガイドラインも示さないとしている。
 一方、均等待遇実現めざして、パートタイム労働法の改正を進める超党派の野党議員連盟が発足し、2003年の通常国会に新しい「パートタイム等労働者と通常の労働者の均等待遇の確保等に関する法律」を議員立法で提出することとなった。
 労働運動の側も連合、全労連、全労協の三つのナショナルセンターが一致して、「均等待遇実現」を掲げて、さまざまな取り組みを展開している。世論はパート・臨時労働者の労働条件改善、「均等待遇」実現への運動を後押ししている。「均等待遇」はEU諸国では当然の流れとなっている。世界第2位の経済力の日本で、こうした国際労働基準を達成してないことが国際社会で批判の的となるのは当然のことである。

(全労連 常任幹事・総合労働局政策局長)




「ちかくて遠い国、韓国」の労働者と交流して

澤田 幸子

 ワールドカップの熱い闘いがおこなわれていた6月29日、「韓国の労働組合・労働者と交流する旅」(主催:神奈川労連)として、真っ赤に燃えているソウルの街に降りたちました。
 今回のツアーでは、韓国が1997年の突然の通貨危機以来、IMF(国際通貨基金)の構造調整計画を受け入れ、新たな「経済改革」をすすめていることが、人々の暮らしに、労働者の闘いに、どのような変化、影響を及ぼしているのか、韓国の労働組合運動を担っている方々と交流することが主な目的でした。短時間の交流で、わたしたちが出会えたのは、民主労総傘下の全教労組対外部長さんと教員の仲間でした。労働組合活動に参加したことで解雇され、8年間の撤回闘争を経て、職場復帰を勝ち取り、ようやく教職員労働組合は公然とした活動が出来るようになってきた話は、日本の労働者のたたかいと共通するものでした。
 大企業のリストラ推進で失業者の増加、正規労働者から非正規労働者(低賃金労働者)の切り替えでパート、臨時職や日雇い職が増加し、全労働者の55.7%も占めていることを知りました。そうした中、民主労総は地域別、業種別、大企業別の3つの形態で組織化している一方、下請けや関連、非正期労働者など、全労働者を視野に入れた運動を進めています。合わせて企業別から、産業別労組に転換することを追及しています。労使間の協議の無視、整理解雇や一方的な労働条件を切り下げに、日本では最近経験しない戦闘的なストライキやゼネストが決行され、それに対して、民主労総が官憲からの様々な弾圧を受けながらも組合員をふやし、要求前進を勝ち取るたたかいが果敢にすすめられていることに、日本の労働運動は韓国の労働運動にもう追い越されているのでないかと思いました。
 韓国には、2つのナショナルセンターがあり、韓国労総は80数万、民主労総は60万人(民主労総はどんどん増えています)となっており、2つのナショナルセンターは全国的・制度的要求闘争、公営企業の民営化反対では共同のストライキで果敢に闘かっています。また、民主労総の取り組みでは「南北の平和統一の促進」の一方、労働者の利益を擁護する政党として「民主労働党」を結成したことも紹介されました。
 ふえつづける臨時・契約職、短時間労働者、派遣労働者、アルバイト、日雇い、呼び出し労働者などさまざまな雇用形態で働く非正規労働者の不公正な差別待遇を改善し、たたかいをサポートするNGO組織・非正規労働者センターを訪問し、スタッフと懇談の機会を得ました。
 このセンターは労働組合活動家、研究者、弁護士の方々が中心になって2つのナショナルセンターを挟んで個人の会費とカンパで運営されているものです。具体的には、非正規労働者の労働組合への組織化促進と制度政策活動、連帯交流活動を幅広く繰り広げていました。インターネットの相談活動、月刊誌の発行、理論と実践を結びつけた運動に感銘を受けました。(詳しくは、韓国非正規労働者センター発行、翻訳・編集:神奈川労連「韓国における非正規労働者の現状と組織化および方・制度改善について」参照)
 韓国から帰国する最後の日に、政府系の「韓国労働研究院」をおとずれ、韓国の2つのナショナルセンター、運動、労使関係について、キム・ジョン博士からレクチャーを受けることが出来ました。印象的だったのは、労使協調路線をすすめる韓国労総は組織率がさがり、逆に階級的労働運動をめざしている民主労総が組合員を増やし、大企業・財閥の労働者も組織化していることが紹介されたことです。
 ストライキに立ち上がった大手ゼネコンの労働者が自らの要求とあわせ、下請けの労働者の労働条件改善が勝ち取れるまで闘争を続けている話に大いに激励をうけました。
 キム博士と同席された若い研究員のかたが「ヨーロッパではEUができて、労働者の交流が盛んである。各国の労働運動の成果、情報が交流、共有化されるシステムが出来ている。多国籍企業の横暴を規制するにも、東南アジアでは、日本や韓国が中心になって交流のネットワークを作る必要がある」と強調されたことに、日本の私たちも大いに共感しました。短い韓国ツアーでしたが、近くて遠かった韓国についてあまりにも知らなかったことを認識できたこと、これを第1歩として韓国と日本の労働者の交流をもっと広げていきたいと思っています。

(神奈川労連事務局次長)




イタリアの現状

斉藤 隆夫

 イタリアのパートタイム規制法制について日本のパート問題を考えるために参考になりそうなことを幾つか述べたい。
 第一は、イタリアでは有期雇用は次の五つのケースに限定して認められていることである。(1)業務の季節性(オリーブの採取など)、(2)病気などで欠勤中の労働者の代替、(3)業務が臨時的・一時的、(4)仕上げ的・補完的作業のため継続的に仕事がない、(5)労働協約で認める場合、である。従って、パートタイムだから有期協約にするということは原則的に認められない。パートとは正社員に比べて労働時間が短いという点だけが違う契約形態なのである。但し、近年、有期契約のパートも認められた。
 第二は、わが国でパートタイムと正社員との均等待遇を論じるときに挙げられる正社員の「拘束性」の問題である。正社員は配転・転勤・時間外労働などに応じなければならないというが、パートにはそうした「拘束性」がないので均等待遇は必ずしも必要とならないという議論がある。しかし、均等待遇原則を採用しているイタリアでも、転勤・配転はある。ただ、経営者は住居を変更しなければならないような転勤を命ずる場合には、技術的・組織的に明確な必要があることを示さなければならないし、配転も企業倒産などで他の会社に移籍するような場合にのみ認められる。わが国の転勤や配転が労働者にとってあまりに過酷であることが問題なのである。
 第三は、パート労働者をどういう職務で何人雇うかは労働組合との協議によって決まるという点である。法律では一般的な規程でしかできないので、個別の産業・業種の事情に応じてパートタイム労働をどのように利用するかを産業別労働協約で定めることにしているのである。
 第四は、法制度は以上のようになっているが、実際には40〜47時間働くパートが8%いるし、48時間以上働いているパートも3.6%いる。労働組合の規制が重要なのである。

(理事・群馬大学教授)




米国のパート労働者

岡田 則男

 米国ではパートタイマーという雇用形態ないしは働きかたが、正規労働者とくらべてあれこれという問題ではなくなってきていると思う。そうしたなかで、フルタイム労働者以外のnon-standard workersとよばれるさまざまな形の労働者の基本的権利、人権をどう守るかが労働運動の一つの大きな課題になってきていると思う。
 non-standard workersは、contingent workersなどともよばれ、いろいろな種類がある。なかでもパートタイム労働は、90年代に「急成長」した。週35時間以下の労働者であるが、米週刊誌「タイム」(93年3月29日号)によれば、このころ一ヶ月に創出された36万5千のうち9割以上がパートタイマーだった。
 このほか中南米からの出稼ぎ労働者を中心とするカリフォルニアの農場などで働く季節労働者、特定の職種の空きを一時的にカバーするためのテンポラリ(テンプ、派遣)、派遣会社が長期に一定の職種を引き受けて労働者を派遣するエンプロイー・リーシング(つまり「従業員貸し出し」)、自宅作業、個人契約(コンピュータープログラミングなど)から、突然電話で呼び出されるオン・コール(飛行機の客室乗務員など)と多様である。
 経営者側からすれば、経費削減のためのフレキシビリティを特徴としている。だが、働くほうからすれば、賃金は正規社員の6割そこそこで、生活設計がたてられないなどの不都合がおおい。が、これが現実であって、こうした、non-standard workそれ自体に反対しても始まらないのは明瞭だ。
 ここでnon-standard労働者の基本的権利をどう守るのかが、米国で大きな課題になってきていることに注目したい。
 なかでも、労働者の団結権は根本的問題である。
 2年前の数字になるが、米国では労働組合への組織率が、フルタイム労働者が15%弱であるのにたいしてパート労働者は6.8%にとどまり、その数はわずか140万人ということだった。
 米国では2000年9月には、日本の中央労働委員会にあたる米労働省の労働関係委員会(NLRB)は、派遣労働者も労働組合に加入する権利があるとの判断をくだした。(ジャーナリスト)




ILOの動向

加藤 益雄

 国際労働機関(ILO)には、加盟国の批准によって実施義務の生じる条約と批准を予定していない勧告という国際労働基準の設定活動、ならびにそれら基準の実施状況の監視活動という、2つの大きな機能がある。
 このうち国際労働基準の設定については、1919年のILO創設から第2次大戦終結までの期間に67の条約と74の勧告が採択され、戦後は1946年から2002年までに117の条約と120の勧告が採択された。これを歴史的に、たいへん大まかに見てみると、第1次と第2次の戦間期は、労働時間に関する1号条約をはじめとしてその多くが労働条件に関するものであり、戦後は、1950年代にかけて、民主主義の発展ということを重要要素として、87号、98号条約など労働基本権に関する条約が生まれてきた。
 さらに、これらの基準はほとんどは正規に雇用された労働者とその労働組合にかかわるものであったが、近年になって、1994年のパートタイム労働(175号)、1996年の家内労働(177号)の各条約・勧告が採択されるなど、非正規の、保護されない労働者が対象とされるようになってきた。98年には、いわゆる契約労働に関して第1次討議が、さらに翌年には、条約・勧告の採択をめざして第2次討議が行われたが、その範囲・定義の入口のところで政労使、各国の意見がまとまらずに頓挫した。これは、2003年に同性質の問題が「雇用契約」の議題のもとに討議される予定である。また、2002年のILO総会では、今後の条約・勧告の採択を予定して、「インフォーマル経済」に関する一般討議も行なわれた。
 このように、臨時、パート、派遣、請負、契約労働など、非正規の労働者、保護の薄い、弱い立場にある労働者を国際的にも保護していこうという流れが、先進国、途上国など各国の労働組合の運動から生まれてきているのが近年の一つの特徴である。

(全労連 国際部長)




第1回常任理事会報告

 02年10月5日、ユニオンコーポ会議室で、大木代表理事を議長に開催された。

報告事項
  1) 事務局体制と節約等について、大須事務局長から報告され、了承された。
  2) 9月17日の全労連表敬訪問について、大江代表理事より、労働総研と全労連の協力関係を新たな段階に発展させるという意味をこめて、大木・牧野両代表理事、大須事務局長、藤吉事務局次長とともに、今回初めて表敬訪問を行った旨の報告がなされた。全労連からは、熊谷議長、大木・駒場・中山・西川の4副議長、坂内事務局長、岩田・国分両事務局次長、寺間総合・労働局長、中島女性局長が出席し、1時間弱の会談であったが、全労連議長や事務局長等から、研究所に対する率直な意見表明もあり、きわめて有意義であったと報告され、了承された。
  3) 建交労からの委託研究の現状について、大須事務局長から報告があり、了承された。
  4) 全労連の「社会保障・税・賃金とジェンダー」検討委員会について、労働総研派遣の金田常任理事から報告があり、中島常任理事が補足報告を行い、了承された。
協議事項
  1) 加入・退会について大須事務局長から報告があり、全員異議なく承認された。
  2) 2名の理事からの辞退願いについて大須事務局長から報告があり、議論の結果、正式には次回理事会と総会で処理することであるが、健康上の事由でもあり、承認された。
  3) 国際労働研究部会責任者の交代について、藤吉事務局次長より報告があり、議論の結果、承認された。
  4) 企画委員会について、大須事務局長から、常任理事会が効果的に、総会決定及び「理事会の決議に基づき業務を処理する」ため、常任理事会の承認の下に企画委員会をも設けて活動してきた経過が報告され、今期の企画委員会を、全労連との協力関係を日常的に強化するため全労連派遣の常任理事を含む7名で構成したいとの提起があり、全員異議なく承認した。
  5) 今期の編集委員会について、大須事務局長から提案され、相澤常任理事の補足発言とともに異議なく了承された。
  6) 『労働総研クォータリー』49(冬季号)等の編集企画について、藤吉事務局次長から提案され、討議の結果、若干補強することで基本的に了承された。
  7) 総会方針実現の課題について、大須事務局長より提起があり、討議の結果、@過半数以上の出席を努力目標にすることを申し合わせ事項として確認した。A02年度定例総会で方針の補充問題が常任理事会に一任されたが、方針の「2 調査研究活動をめぐる情勢と課題」の「(1)大きく変化した内外情勢」最後のパラグラフの前に一項を起こし、「第六に、政府・財界の“21世紀COEプログラム”など『大学構造改革』などの攻撃にも留意する必要がある。」という文言を補強することが、確認された。B研究所会員のデータの整理について、討論の結果、着手することが確認された。
  8) 大須事務局長から、@「基礎理論プロジェクト」「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」の成果を、『労働総研ニュース』等で公表し、全会員との意見交換を行うことができるよう工夫するとの提案があった。討議の結果、その具体化のためにとりくむことが確認された。A各研究部会公開の状況の報告があり、討論の結果、具体化を急ぐことが確認された。B研究例会の開催について、大須事務局長から、地方での開催を検討中であることが報告され、論議の結果、具体化することが確認された。
  9) 大須事務局長より、@政治経済動向研究部会とA国際労働研究部会に各1名ずつの補充が提案され、承認された。
  10) 『国民春闘白書』について、藤吉事務局次長より、全労連と共同編集で発行することが提案され、討論の結果、成功にむけ取り組むことが確認された。『ビクトリーマップ』も、全労連から労働総研への協力要請があり、この要請に応えていくことが確認された。




10〜11月の研究活動

10月 4日 国際労働研究部会−「世界の労働者のたたかい2003」について
7日 賃金最賃問題研究部会−日経連「多立型賃金体系に向けて」について
11日 中小企業問題研究部会−書籍発行について
12日 政治経済動向研究部会−現局面の政治経済動向
15日 労働時間問題研究部会−研究成果のまとめの章立ての検討
16日 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト−IBM聞き取り
18日 女性労働研究部会−「厚生労働白書」ほか
25日 社会保障研究部会(公開・別掲)
26日 基礎理論プロジェクト−全労連「賃金、税制、社会保障等の個人単位化検討プロジェクト」報告の検討
11月 4日 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト─日本電子聞き取り
11日 賃金最賃問題研究部会─「日本人の賃金」について
14日 女性労働研究部会−全労働の「労働行政に関する提案」について
国際労働研究部会(公開・別掲)
22日 中小企業問題研究部会−政府・中小企業政策の新段階と国民的政策実現への展望について
労働時間問題研究部会−「労働時間短縮への国民的運動を」の内容検討について
24日 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト−北辰電気聞き取りほか
25日 青年問題研究部会−「クォータリー」掲載論文について
30日 関西圏産業労働研究部会−著作「今日の賃金問題」の構想

10〜11月の事務局日誌

10月 4日 事務局会議
5日 第2回企画委員会
第1回常任理事会
  11日 2003国民春闘白書第1回編集企画会議
21日 全労連「ビクトリーマップ」打ち合わせ
25日 2003国民春闘白書第2回編集企画会議
11月 8日 事務局会議
9日 働く女性の中央集会(藤吉)
小林宏康・下村三郎さんを励ますつどい(藤吉)
鈴木彰さんを囲む会(藤吉)
22日 加盟単産訪問(大江・大須・藤吉)