2002年8月1日(通巻149号)



目   次
巻頭言

鮮明となった小泉「構造改革」の危険な本質
             ………………………三好 正巳 

論 文 

明らかになったメガバンクの脆弱性
 ─みずほシステム破壊の真の原因─
             ………………………田中  均
2002年度定例総会報告




鮮明となった小泉「構造改革」の危険な本質

三好 正巳

 7月30日、野党4党は、共同で小泉内閣に対する不信任決議案を衆議院に提出した。決議は衆議院本会議で採択、否決された。この決議案は、小泉内閣がすすめてきた、また、これからもすすめようとしている「改革」の本質をめぐる対決であったといってよかろう。しかし、192日におよぶ通常国会は、腐敗政治があいついで暴露される「疑惑国会」のもとで、医療改悪など「改革」を強行採決する与党の姿勢がきわだった。

 小渕、森、小泉内閣とつづく「改革」プロセスの流れの中で見てみると、今日の小泉内閣がすすめている「構造改革」の危険な性格がより鮮明になる。そして、いわゆる「構造改革」の本質を探るには、つぎの2点について留意する必要がある。

 すなわち第1は、景気の動向についてである。わが国の景気の現局面を「不況」と呼ぶか「恐慌」と呼ぶかにかかわらず、いずれにしても資本にとっては過剰資本を処理(資本減価)しなければ、資本は循環軌道に戻れないということである。資本減価は、減価の損失を誰がどのように負担するかであり、貧乏くじを引くのは誰かということである。大量失業にしても医療改革にしても大衆に負担させるという話でしかない。資本家や資産家に負担させることになるのは、政治情勢が激動する状況がなければ困難である。

 第2は、為替の変動相場制と市場開放を迫るグローバル・スタンダードであり、株主重視のアングロアメリカン・ビジネスルールである。こうしたスタンダードやルールが幅を利かせ、エンロン問題もこうした金融経済偏重の風潮のもとで起きたことである。スキャンダラスな資本主義よ。

 以上の2点をあわせたところで、リストラは進行し、「対テロ戦争」なるものにむけた「準戦時体制」づくりに血道をあげる小泉内閣の本質があらわになっている。

(立命館大学名誉教授)



明らかになったメガバンクの脆弱性

――みずほシステム破壊の真の原因――

田中  均

1.問題意識

 今年4月1日、みずほフィナンシャルグループは、企業統合・分割を行い、99年8月に公表された三行(第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行)の持ち株会社方式による企業統合を終了した。99年におけるこの三行の企業統合の合意は、その後の大手銀行の合併・再編を引き起こし、日本の巨大金融機関の四大グループ体制を現出させる直接のきっかけとなった。また、みずほフィナンシャルグループ単独で、総資産の合計は140兆円となり、その時点で世界最大だった、ドイツ銀行(約97兆円)の1.4倍の総資産を持つ巨大金融グループが誕生することになった。

 このように、内外に大きな影響を与えた統合計画だったが、周知のようにその出発点から、前例のない大規模なシステムトラブルを発生させ、多数の利用者に影響を及ぼし連日、新聞やテレビで報道される事態を引き起こした。

 この事件について、さまざまな解説がなされているが、金融労働運動の立場から基本的な問題を論じているものは、あまりない。金融労働運動の立場から、この事件を見ていくとき、この数年、かってなかった規模とスピードで進められている金融産業の巨大再編の基本的な問題点を確認していく必要を痛感する。その点を以下に論じていきたい。

2.システムトラブルの内容

 まず「トラブル」の概要をみておこう。みずほグループの統合・分割は第一段階として、2000年9月に、持ち株会社「みずほホールディングス」を設立し、第一勧銀、富士銀行、日本興業銀行の三行を、そのままの形で、「みずほホールディングス」の子会社とした。そして、今年の4月に、この三行をみずほ銀行とみずほコーポレート銀行の二行に分割・統合し、系列信託銀行、証券会社を加えてみずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ証券、みずほ信託の4社に持ち株会社を加えた五社を中核とするみずほフィナンシャシャルグループとしてスタートした。

 システム障害が問題となっているのは、旧三行を合併・分割してスタートしたみずほ銀行とみずほコーポレート銀行の二行である。今回のシステムの統合では、三行のこれまでのオンラインシステムを一気に単一のシステムに統合するのではなく、過渡的に三行のシステムをリレーコンピューターでつなぐ方式がとられている。そのリレーシステムのソフトに欠陥があったために、ATM(現金自動預払機)に障害が生じ、旧富士銀行のカードは旧富士銀行のATMでしか使えないなどのトラブルが発生。また、ATM操作によって現金を通帳から引き出したように記録されるのに、現金の引き出しができないという事例も発生している。

 次に、電話料金など企業の集金業務を銀行が代行する口座振替について、大規模なトラブルが発生した。通常、口座引き落としを依頼する企業は、引落し日の数日前に引落しの対象となる口座名、口座番号、金額、取引支店名、支店番号などを入力したデータを磁気テープなどの形で銀行へ持ち込む。銀行は、このデータをコンピュータにかけて自動的に処理する。

 今回のみずほの統合・分割に伴って、取引先支店名や支店番号の変更が大量に必要となったが、このデータ変更にさいしてのミス入力が予想を大きく上回り、コンピュータへの負荷が過大となりトラブルを発生させた。その結果、口座からの振替が期日どおりに行なわれず、最大時250万件が期日どおりに振替えられず遅れを出した。さらに、1度引落しを行なったデータを、再度コンピュータにかけてしまうという作業ミスが加わり、4月上旬の時点で3万件程度の二重引落しが2回発生した。振込先の誤りなどのために誤送金も5000件程度発生した。

 通常、銀行では一日の業務終了時に勘定をつき合わせる。それが合わない場合「不突合」として、合わない原因を徹底的に追究する。これは、お金の入出金を主要な業務とする金融機関として、確実に行なわれなければならない必須の作業である。ところが、特に混乱のひどかったみずほコーポレート銀行で、この「不突合」が発生し、不一致の金額が4月下旬には2400億円に上り、不一致は2ヶ月以上続いた事が報じられている。

 これは、口座振替の引落しはみずほ銀行で行なわれ、その引落とされた金額がみずほコ−ポレートの企業の口座に入金されるべきところ、口座振替に前述のように大量の障害が生じた結果発生したとされる。この点について銀行側は「銀行の内部勘定の問題」としているが、金融庁や日銀の検査では「大きな事務リスクを内包し、不祥事件を惹起しかねない」と指摘している。

3.システムトラブルの原因

 こうした大規模なシステムトラブルが発生した原因は何か。金融庁は、6月19日にみずほグループに対して業務改善命令を出した。金融庁のホームページ上に公表された業務改善命令には、金融庁による検査や、銀行が提出した報告書から明らかになった「事実関係」が付記されている。その中で、システム障害の原因については、まず、第一に「システムの機能を確認するシステムテストや運用テストが適切に実施されていなかったなど、最低限必要な準備ができていなかった」点を上げている。システムテストなど「最低限必要な準備」ができないまま、4月1日、新銀行がスタートしてしまった点については、新聞なども詳しく報じている。

 例えば、口座振替取引のうち、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行をまたぐ複雑な流れで業務を行うものについては、データ受付から引落し結果の返却まで、全行程を通す本番を想定したテストが必要であるが、実施されなかった。これには、口座振替を依頼している企業の側も不安を抱き、例えば東京電力は、今年の2月に2度にわたり、実際のデータを使って口座振替のテストを行うようにみずほ側に求めていたが、みずほ側はこれを「環境が整わない」と拒否したと報じられている(「朝日」4月24日)。

 ところで、こうした「最低限必要な準備ができていなかった」のは、別にコンピュータシステムだけのことではない。内部の労働者は、口をそろえて、伝票や帳票類の準備、新銀行として事務処理を行なう上で必要となる事務手続きのマニュアルの準備、支店名が変わり、支店番号が変更されるに際して対照するために必要となる店舗一覧表等の準備等々、統合に必要となる様々なものが間に合わなかったり、間に合ったものも、十分推敲されていないずさんなもので、職場はかえって大混乱を引き起こしたことを明らかにしている。

 こうした混乱の中で、業務を遂行せざるを得なかった職員、特に管理職層からは業務改善命令によって、統合の方法の問題点が明らかにされたのに「そのしわ寄せを受けているわれわれに誠意ある謝罪がないのはどういうことか」など怒りの声が出されていると言う。

4.システムトラブルの背後にある問題

 この合併時の労働現場における大混乱は、みずほに始まった問題ではない。昨年4月の三井住友銀行のスタート時点でも、今年1月のUFJ銀行のスタートにさいしても、内部の労働者から同じような訴えが出されていた。したがって、マスコミが集中的に報じた「システム」障害を、労働現場の声を踏まえて見直すなら、これはシステムの問題ではなく、これまで進められてきた巨大合併そのものの進め方の問題であることが明らかとなる。

 99年8月のみずほグループ三行の統合合意発表を引き金として、同年10月さくら銀行と住友銀行が合併合意を発表し、翌2000年3月、前年10月に持ち株会社設立に合意していた東海銀行とあさひ銀行の構想に三和銀行が合流し(あさひは同年6月にこの構想から脱落)、同4月には三菱グループが持ち株会社設立による統合を発表し、4大金融グループが形作られた。ひとつの合併が次の合併を引き起こし、それがさらに次の統合を引き起こすというかたちで、先を競い合いながら再編が進められてきた。

 しかも、例えばさくら・住友は自分たちの合併発表後に、東海・三和の統合、三菱グループの持ち株会社設立が発表されると、合併予定を1年前倒して2001年4月とした。東海・三和のUFJグループ(2000年7月に東洋信託が合流)では、三和が参加した時点で、統合理念に「スピード」が付け加えられ、合併予定日を2002年4月から1月へ早めて、システムの統合も企業合併と同時に行なうことを決定。合併・統合を競い合うだけではなく、その進捗のスピードをも激しく争って進められてきている。

 さらに、この巨大再編の波を引き起こした背景には、97年11月の北海道拓殖銀行の経営破たんに象徴される金融危機があり、株価や、格付け機関の格付けなど「市場の評価」の急落=経営破たんという強迫観念が統合・合併の大きな要素となっていた。こうして、先を争い、スピードを争って進められる統合・合併はまた、リストラを進め収益を上げ、不良債権を処理することの「スピード」をも求められている。

 この間、金融機関はすさまじい勢いでリストラ、人減らしを進めてきている。みずほグループ三行で見るなら、97年に3万8千人いた従業員が、01年には3万2千人へと6千人減らされ、06年3月までに2万5千人体制とするリストラ計画を進めていた。一方で猛烈に人減らしを進めながら、他方で統合を急ぎ、システム移行という大作業を進めていったのである。

5.システム統合における過労死

 システム統合が、労働者に想像を超える負担をかけることを象徴的に示す事件が、北海道の北洋銀行で起きている。北洋銀行は、北海道拓殖銀行(拓銀)が破たんした後、拓銀の北海道内の営業を引き継いだ。営業を引き継いだ後に、コンピュータシステムは拓銀のほうが進んでいたので、銀行は拓銀のシステムに統合することを決定。このシステム移行の作業の中で、ベテランの女性課長が過労死している。

 システムを拓銀にあわせるためには、行内用語、業務プロセス、事務処理のやり方を全て拓銀の方式に切り替えていく必要がある。そうでなくとも従来から人減らしが進み、通常の業務を処理するだけでやっとの人員配置だった。その中で、移行作業をすすめ、部下を旧拓銀支店へ操作の習得に行かせる。そのための負担が増え、さらに自らもマニュアルを自宅に持ち帰り、操作をマスターするために深夜まで読み込み、朝は早朝からの出勤を余儀なくされる。銀行は、新システムへの移行時期を当初2001年1月としたが、後に2000年5月へと大幅に前倒しを行なった。この前倒しは、システムを開発した日本IBMも北洋銀行のシステム部も準備期間が足りないと反対したが強行された。これが労働者の負担を短期間に集中し、緊張を極限まで高めたのである。

 女性課長は、極度の緊張と過密労働の中で5月の統合作業を終えた後に、7月19日の夕方、支店のATMに現金を装てんする作業中に容態が急変し、2日後にくも膜下出血で死亡している。女性課長は、銀行労連北洋銀行労組の組合員であり、同労組は北洋銀行内で少数派の組合だが、同僚組合員は自ら同じように過酷な統合作業を行なった経験と、女性課長のなくなるまでの様子から、明らかに過重労働による過労死であるとして、組合一丸となって、労働災害の認定を勝ち取るための取り組みを行なっている。

 この北洋銀行の過労死の事例は、合併・統合が巨大金融機関から信金・信組にいたるまで大規模に急激に進んでいる金融の職場の現実を象徴している。合併・統合の結果として人員削減をするのではなく、それ以前に大幅に削減を進めており、すでに余裕のない状態で合併・統合を進める。しかも、技術的な条件を無視して、まず統合の期日が設定され、それがさらに前倒しで進められる。そうした非人間的な作業が、労働者の犠牲において強行される。

 こうした、労働現場の実態から見るなら、今回のみずほのシステムトラブルはひとつの現象に過ぎない。もちろん、これだけ大規模なシステムトラブルが発生したこと自体は、きわめて深刻な問題である。しかし、労働現場の現実から見るなら、通常の銀行労働のあり方から極度に逸脱した事態が、みずほに限らずいたるところで行なわれているのである。

6.合併・統合における主導権争い

 金融庁の業務改善命令では、システムトラブルの原因として、先の「最低限必要な準備ができていなかった」という問題に続けて「テストが不十分であった等の重要な情報が、一部の開発責任行のシステム開発部門内にとどまっていたことなど、グループ内での報告・連絡態勢に重大な問題があり、十分なチェックが働かなかったこと」をあげている。この点に関連して、新聞や雑誌などでも、みずほの三行統合の問題として、次の点が指摘されている。4大金融グループの中で、みずほは母体となった富士銀行、第一勧銀、興銀の三行の力が拮抗していた結果、システムの一本化が遅れた。その結果が、今回のトラブルにつながっているという指摘である。ほかの金融グループは、例えばUFJでは、基本的に旧三和銀行のシステムに一本化されている。しかし、UFJの場合も、統合後に、18万件もの二重引落しをするなど、システムのトラブルを発生させている。そこには、限度を超えた人減らしと、諸条件無視の統合におけるスピード競争が第一の問題としてある。

 ただ、みずほのトラブルの原因を、旧三行の主導権争いの結果だとする議論については、労働運動の立場からはきちんと考えておく必要があるだろう。まず、これまでに見てきたように合併・統合における異常な混乱は、旧企業間の主導権争いとは別の原因で、多数の合併企業で発生している。しかし、みずほの今回のシステムトラブルには、金融庁の言う「重要な情報が、一部の開発責任行のシステム開発部門内にとどまっていたことなど、グループ内での報告・連絡態勢に重大な問題」があり、それが大きな要素となっていることも事実だろう。

 企業の合併時に、旧企業が相互に主導権争いをする。それは、それぞれ旧企業に属する従業員の将来的な処遇にも影響を及ぼすものとして激しい対立を生み出す。それが、システム統合計画にも影響を及ぼし、事前にトラブルの発生が予見できていたのに、4月1日のスタートとなりトラブルの発生となったという指摘である。そうした旧企業間の対立が、影響を及ぼしたというのは、事実だろう。

 しかし、それではそうした対立を生み出す余地のない、強者による弱者の吸収合併、一方が他方を完全に支配する形で進む合併のほうが、より合理的な経営を生み出すといえるだろうか。労働運動の立場からは、答えはNOである。そうした合併は、存続企業側主導の大規模なリストラが強行され、まず第一に、買収された側の従業員が犠牲となる。それは、結果として企業内にとどまった「勝ち組」の買収側企業の労働者の労働条件の引き下げや、更なる人員削減へとつながっていく。そのようにリストラを比較的容易に進めうることが、本当の意味で合理的な経営を保証する根拠は何もない。

7.金融機関の合併に際してのILOの指摘

 ここで、労働運動の立場から、合併のあり方について考えておきたい。ILOは2001年2月「銀行と金融サービス部門における合併・買収が雇用に与える影響に関する三者構成会議」を開催した。ILO事務局は、この三者構成会議に向けて、報告書を作成している。報告書の中では、世界中で大規模に、急速に進みつつある金融再編、合併・統合について詳細に分析し、その雇用や労働に及ぼす影響と問題を指摘している。

 報告書では、金融機関の買収・合併に関する多数の研究や報告書を引用し、金融機関の買収・合併が必ずしも経営者の期待する合併効果をあげていない、買収・合併の3分の2は失敗に終わっているという指摘を紹介する。

 なぜ多くが失敗に終わっているのか。報告書ではまず、合併する企業間の企業文化の相違をいかに融合させるかという面への配慮が欠如していることをあげる。そして、多くの買収・合併がコストの削減、収益の増大など財務的な目的から行なわれるが、スタッフが単なるコスト変数として見られることを指摘する。そして、次のように述べている。

 「一部の経営専門家は、M&A失敗の可能性を軽減するために、人的資本をM&Aプロセスの中心に据えるか、少なくとも経済的・財務的事項と同等の比重で配慮するよう提言している。この考え方によれば、このように方向を転換することが、買収企業に人的資源の観点から最も適切な買収目標を選択することを可能にし、統合を遙かに容易にすることができるのである。

 労使間で毎日率直なコミュニケーションを交わすことは、M&Aに伴う不安をある程度解消し、意欲喪失による組織の漂流現象を回避することに役立つ。仮に人員削減が行なわれる場合には、その人員削減がどのように決められるのか、また労働組合あるいは職員代表がこのプロセスでどのような役割を果たしうるかを、職員に早い時期に情報提供すべきである。また買収される組織の職員が、以前の使用者の下で認められていた諸権利の尊重を保障されることも重要である。さもなければ紛争が生じる可能性が高い」。

 合併・統合を経営的な意味でも成功させるためには、人的要素つまり、そこに働く労働者の要素を重視し、異なった企業文化の融和を図り、権利を保障し、コミニュケーションを図ることが必要だとILOは指摘する。そして、社会的対話の必要性を強調する。金融機関の合併・統合とりわけ巨大金融機関のそれは非常に大きな社会的な影響を持つ。今回のシステムトラブルは、金融機関の合併が、単に個別企業の問題ではないことをシステム面で改めて示した。

 みずほの問題をめぐるマスコミの批判には、こうした見方と、まったく逆の方向へ推し進めようとする議論が多い。旧企業間の経営者による主導権争いが、それがトラブルのひとつの要因となったと批判するのはいい。しかし、そこからこれまでまったく異なった企業風土の中で働いてきた労働者の背景を無視した経営施策が展開されるなら、職場における権利の侵害と混乱は一層ひどくなりかねない。

 すでに、みずほグループは先に見た2006年までに2万5千人とするリストラ計画を2年間前倒しして進めると報じられている。みずほのシステム統合は、これから基幹システムの一体化へと本格化していく。それをさらに人減らしを加速して進めていくというのである。「システム障害で失われた信頼を回復する対策」としての措置だという。しかし、これまで見てきたように、これは問題の再発の可能性を拡大する措置といわなければならない。みずほに続いて、三井住友銀行も、7月にシステム統合を行なった。職場の混乱は相当なもので、昨年1年間の在職死亡が14人だったのに対して、今年は7月までにすでに13人の在職死亡が発生している。職場における権利確立の一層の取り組みが求められている。

 以上に概括したとおり、21世紀の日本の労働条件は大変劣悪な状況を強制されてきた。しかし少なからぬ成果を日本の労働者・労働組合はあげてきている。

 資本の脅迫に負けずにたたかいを挑む労働者にたいして、人権を無視する暴虐な攻撃がかけられたが、NCR、日本IBM、セガなどでこれをはねかえすことに成功してきた。これらの成果は日産自動車やNTTのリストラ「合理化」攻撃に対して連合の労働者への大きな激励をあたえてきた。また連合系大手の中で、住友金属和歌山での転籍強要拒否、三菱電機伊丹でのただ働き残業の規制、スズキ自動車での年休取得条件の改善などの成果もかちとられてきた。これらのたたかいの成果の表現が最近の厚生労働省の一連の通達などに見えている。

(銀行労働研究会事務局長)



2002年度定例総会報告

 .労働運動総合研究所2002年度定例総会が、7月27日、東京・グリーンホテル水道橋で開催された。

 .総会議長に儀我壮一郎理事を選任し、同議長により議事録署名人として川口和子理事、金田豊理事の2名が諮られ、承認された。

 .総会成立を確認し、議事に入った。大江洸代表理事が主催者あいさつをおこなった。

 .熊谷金道新全労連議長が来賓あいさつをおこなった。(以下は、あいさつ主旨)

 労働者状態の悪化が国民諸階層との要求を接近させており、共同の条件が強まっている。こうしたもとで、全労連大会は、いくつかの新機軸を打ち出している。

 @全労連は、前回の大会で「21世紀初頭の目標と展望」をうちだし、1年間の討議を経て決定した。今大会では、それをどう具体化していくかについて、それぞれの分野で具体的な目標を打ち出した。

 A'95年の大会で、「総対話と共同」の方針を打ち出した。それを一回り大きくするために、あらゆる社会勢力との「対話と共同」を強化する方針を打ち出した。たとえば、医療改悪反対闘争で、日本医師会との共同が、有事法制反対闘争では日弁連との共同ができたが、これらの共同を本格的に探求したい。

 B国際路線でも、一歩発展させた。結成以来の方針である「二国間交流」を踏まえて、国際組織との交流や連帯、アジアとの関係強化、国際活動の強化などに積極的に取り組む。

 C「組織拡大基金」を創設し、組織の拡大に本格的に取り組む。

 今回の方針書には、「全労連幹事会、単産・地域代表にくわえ、労働総研の学者・研究者の協力も得て『全労連賃金専門委員会』の強化をはかる」とか、「労働総研との連携をいっそう強化しながら、政府・財界方針の正確な分析と対策、全労連の政策立案機能の強化、学習・教育活動の抜本的な強化にむけて努力する」とか、「労働総研の協力を得て発行している年報『世界の労働者のたたかい』を継続・充実させるとともに、活用と普及のための学習会を開催する」など、いくつかの箇所で労働総研に対する期待と要望を表明している。労働総研への期待は大きい。

 全労連が労働組合のナショナルセンターとして労働運動固有の問題で本格的に活動を強める必要がある。全労連運動を魅力あるものにしていくためにも、労働総研の力を貸して欲しい。課題は山積している。労働総研からも積極的な提案をして欲しい。労働総研の研究が目に見えるものにして欲しいと思う。全労連の側からも労働総研の側からも大いに協力して、いっしょにやっていきたい。

 .議事は、文書で提案された、@活動方針案のうち2001年度活動経過と、A2001年度会計収支報告等を草島和幸事務局長が、B2001年度監査報告を儀我議長が山口孝・岩田幸雄両監事が所要で欠席のため、両監事の会計監査報告書に基づいて行い、いずれも了承された。

 .つづいて、@「調査研究活動をめぐる情勢と課題」、A「2002年度の事業計画」、B「研究所活動の拡充と改善」など2002年度の労働総研活動方針案を、牧野富夫代表理事が、情勢論との関連で、政府・財界の「大学構造改革」問題を補足しつつ提案した。なお、この補足の取りあつかいについては、第一回常任理事会に一任された。

 .討論では延べ13人が発言した。討議では「2002年度の事業計画」との関連で、2つのプロジェクト活動について、小越、大須、伍賀、萬井会員から補足報告が行われ、全労連との連携強化などを含む研究所活動、常任理事会を含む会議運営の民主的・効率的あり方など、をめぐって議論が行われた。

 .つづいて、2002年度予算案について、@諸般の事情で収入が減少するが、A事務局員を1人減すなど諸経費を節約をするが、B調査研究活動費は前年よりも増加させたなど、草島事務局長が提案し、承認された。

 .2002〜2003年度役員について、大木代表理事が提案し、承認された。大須真治常任理事が事務局長に選任された。

 10.以上で予定されたすべての議事が終了し、最後に大木一訓代表理事が閉会のあいさつを行った。あいさつの中で、@常任理事会を含む機関運営は、民主的で効率的に行い、全会員の英知を結集するために最大限努力する、A労働総研設立の原点に立ち返り、全労連との連携をさまざまな次元で強化し、情勢が求める研究所活動の社会的使命を果たす、B2研究プロジェクトおよび各研究部会へ、地方の会員が参加できるよう最低年1回の公開研究部会を実施するための具体化な手立てを講じる、ことなどを強調した。




2002〜2003年度役員

<理事>

 相沢 与一(高崎健康福祉大学教授)

 天野 光則(千葉商科大学教授)

 一ノ瀬秀文(大阪市大名誉教授)

 伊藤 セツ(昭和女子大教授)

 上田 誠吉(弁護士)

 内山  昭(立命館大学教授)

 内山  昂(元国公労連委員長)

 宇和川 邁(労働問題研究者)

 江口 英一(中央大名誉教授)

 江尻 尚子(新)(元日本医労連委員長)

 大江  洸(元全労連議長)

 大木 一訓(日本福祉大教授)

 大須 真治(中央大教授)

 小川 政亮(日本社会事業大名誉教授)

 置塩 信雄(神戸大名誉教授)

 小越洋之助(國學院大教授)

 小沢 辰男(武蔵大名誉教授)

 小田川義和(国公労連書記長)

 角瀬 保雄(法政大教授)

 上条 貞夫(弁護士)

 金沢 誠一(佛教大教授)

 金田  豊(労働問題研究者)

 唐鎌 直義(専修大教授)

 川口 和子(女性労働問題研究者)

 儀我壮一郎(大阪市大名誉教授)

 木元進一郎(明治大名誉教授)

 黒田 兼一(明治大教授)

 草島 和幸(労働問題研究者)

 伍賀 一道(金沢大教授)

 小林 宏康(新)(労働者教育協会常任理事)

 斎藤 隆夫(新)(群馬大教授)

 桜井 絹江(女性労働問題研究者)

 桜井  徹(日本大教授)

 椎名  恒(北海道大教授)

 塩田庄兵衛(都立大・立命館大名誉教授)

 島崎 晴哉(中央大名誉教授)

 下山 房雄(九州大名誉教授)

 清山  玲(茨城大教授)

 芹沢 寿良(高知短大名誉教授)

 高木 督夫(法政大名誉教授)

 竹内 真一(明治学院大名誉教授)

 辻岡 靖仁(労働者教育協会会長)

 仲野 組子(同志社大非常勤講師)

 永山 利和(日本大教授)

 西岡 健二(自治労連中央執行委員)

 西村 直樹(金属労研事務室長)

 長谷川正安(名古屋大名誉教授)

 浜岡 政好(佛教大教授)

 浜林 正夫(一橋大名誉教授)

 春山  明(労働問題研究者)

 日野 秀逸(東北大教授)

 藤田  実(桜美林大教授)

 藤吉 信博(労働問題研究者)

 前川 昌人(日本医労連書記長)

 牧野 富夫(日本大教授)

 松丸 和夫(中央大教授)

 山田 信也(名古屋大名誉教授)

 八幡 一秀(中央大教授)

 吉田 敬一(駒沢大教授)

 吉田 健一(弁護士)

 萬井 隆令(龍谷大教授)

(全労連)

(全労連)

<監事>

 山口  孝(明治大名誉教授)

(全労連)

<顧問>

 黒川 俊雄(慶応大名誉教授)

 戸木田嘉久(立命館大名誉教授)
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代表理事・常任理事・事務局長等

<代表理事>

 大江  洸

 大木 一訓

 牧野 富夫

<常任理事>

 相沢 与一

 天野 光則(新)

 大須 真治

 小越洋之助(新)

 金田  豊

 唐鎌 直義

 伍賀 一道

 小林 宏康(新)

 桜井  徹

 永山 利和

 浜岡 政好

 日野 秀逸

 藤吉 信博(新)

 萬井 隆令

(全労連)

(全労連)

<事務局長>

 大須 真治(新・非専従)

<事務局次長>

 藤吉 信博(新)


第2回理事会

 定例総会前に、2001年度第2回理事会が開かれた。議長の牧野代表理事が、開催要件を満たしていることを確認した後、草島事務局長が、2002年度定例総会に提出する方針案の柱にそって説明し、承認された。