2002年7月1日(通巻148号)

2002年度活動方針案 目次
1 2001年度における活動経過
2 調査研究活動をめぐる情勢と課題
3 2002年度の事業計画
4 研究所活動の拡充と改善




2002年度活動方針案


1 2001年度における活動経過

 2001年度総会で決定された活動方針における事業計画の重点課題は、次の諸点であった。

[1]基礎理論の創造的発展
[2]底辺労働者の実態に焦点を当て今日の労働問題の核心をえぐる
[3]調査研究面からも民主的な国民的協同へ寄与する
[4]研究者と運動家の共同研究発展の環境づくり
[5]国際的な情報交換・交流の発展
 などであり、以下の諸活動に取組まれた。

(1)政策・提言
[1]2001年3月期決算による「日産自動車の赤字から黒字への転換の内容分析―日産リバイバルプラン(NRP)とリストラ―」を2001年10月に発表した。(『労働総研ニュース』138・139合併号、英文ジャーナル35・36合併号掲載)
[2]建交労の委託研究として「『緊急地域雇用創出特別交付金』を活用し、改善を求める緊急提言」を、2002年1月に発表した。(労働総研ホームページにも掲載)8月中には「公的雇用・就業拡充による雇用創出のための提言」を発表する予定で作業を急いでいる。

(2)研究部会・プロジェクト活動
1)2001年8月から2002年7月までの研究会開催延べ数は81回であり、1ヵ月当たり平均は6.75回であった。

 部会・プロジェクト別では、[1]賃金・最賃部会=10回、[2]労働時間部会=9回、[3]社会保障部会=7回、[4]中小企業部会=7回、[5]女性労働部会=8回、[6]青年問題部会=8回、[7]国際労働部会=5回、[8]政治経済部会=9回、[9]不安定就業部会=3回、[10]関西圏部会=5回、[11]地域政策プロジェクト=3回、[12]基礎理論プロジェクト=5回、[13]不安定雇用プロジェクト=2回、などであった。
2)なお、地域政策研究プロジェクトは2001年9月に4つの府県労連の調査結果をとりまとめ2002年3月に終結し、報告書は本総会で配布される。(労働総研ホームページに掲載する)
3)研究部会・プロジェクト責任者会議が2002年3月30日におこなわれた。年度内の研究活動の内容・経過、今後の活動計画などは事前に文書提出され、討論の主題を各研究部会テーマとも関連する2つのプロジェクト研究が実りある成果をあげるための協力をどのようにすすめるかとし、討議の結果確認された。
 また、各研究部会などが年1回は固定メンバー以外の会員が参加できる“オープン化”についても確認された。

(3)緊急シンポジウム
 「大リストラと大量失業を告発する緊急シンポジウム」を2001年12月15日に、中央大学市ヶ谷キャンパスでおこない40人が参加した。
 コーディネーター・牧野富夫代表理事
 パネリスト・大須真治常任理事、境繁樹JMIU日産自動車支部書記長、岩崎俊通信労組委員長、金子紀興大田区労協副議長(『労働総研ニュース』141・142合併号掲載)

(4)全労連の政策研究への協力
[1]全労連からの要請に応えて「社会保障・税・賃金とジェンダー―世帯単位から個人単位へ―」政策研究プロジェクトメンバーとして川口和子・金田豊常任理事が参加している。
[2]全労連パート臨時労組連絡会によるパート労働者アンケートの回答集約した1万4000の集計と分析への協力依頼に応えて大須真治常任理事があたっている。

(5)出版活動等
[1]社会保障研究部会・大月書店刊・『社会保障構造改革・今こそ生存権保障を』が2002年7月に刊行された。
[2]政治経済動向研究部会・新日本出版社刊・『日本経済の変容と「構造改革」─労働運動からの分析と提言』が2002年7月に刊行された。
[3]その他、恒例の全労連との協力による『2002年版国民春闘白書』・『2002年版ビクトリーマップ』・『世界の労働者のたたかい 2002・第8集』の編集と執筆に協力した。

(6)財政執行など
 財政執行を効率化するため2002年1月から常任理事会などの機関会議・各研究部会参加者のうち首都圏内の交通費等を改定した。なお、この準備として2001年中にすべての研究部会メンバーに対して事前に主旨の説明を行い、了承を得た。

2 調査研究活動をめぐる情勢と課題

(1)大きく変化した内外情勢
 前回総会いらいの短期間に、労働運動をとりまく内外情勢は大きな変化を見せている。

 第一に、世界資本主義の局面が転換し、アメリカ経済の破綻が明白になるとともに、アメリカのグローバル戦略があらゆる面で行き詰まりに直面するようになったことである。とりわけ、エンロン事件をはじめとする一連の巨大企業不祥事を通じて、アメリカ資本主義に対する信用が失われたこと、ブッシュ政権のテロ報復戦争をテコとする世界制覇政策が「サミット」においてさえ孤立するに至ったことは、深刻である。アメリカ支配層の存立基盤を揺るがす事態が進行する一方で、新自由主義の経済政策に対する批判が、EUをはじめ、アジアをもふくめて、世界的に高まっていることにも注目しなければならない。

 第二に、上記との関連で、日本資本主義の諸矛盾がいよいよ収拾がつかないほどに激化し先鋭化してきたことである。とくに、輸出の減少、株安と円高の急進展、不良債権の膨張と企業倒産の増加、財政赤字の深刻化、等がすすむなかで、経済破綻の可能性が現実のものとなってきたこと、また、産業空洞化の急速な進行にともなう地域経済の崩壊と産業技術の破壊によって、日本経済の存立基盤が失われる危険性も指摘されていることを、われわれは重視しなければならない。

 第三に、「世論」の圧倒的な支持で発足した小泉政権がわずか1年で国民のきびしい批判にさらされるようになり、いまや「構造改革」の破綻が誰の目にも明らかとなってきたことである。言論統制諸法や有事立法に対する批判の盛り上がりに見るように、小泉政権の危険なタカ派的体質にも、国民は拒否反応を示すようになってきている。それとともに今日では、支配層の中枢が「思考停止」状態におちいり、支配機構がいたるところで機能しなくなる事態さえ引き起こされている。こうした状況下に、労働組合運動の分野においても、政治的課題での統一行動が大きく前進しつつあるが、これは近来にない出来事である。

 しかし、第四に、中小企業・零細業者の経営や労働者・国民の生活状態が、生存の危機にも及ぶますます深刻な事態におちいっていることである。国民の大半が低所得・不安定就業者と化し、その大多数が労働組合にも業者団体にも組織されていない中で、消費の萎縮・削減がすすみ、長期失業、ホームレス、自殺者とその遺児、放置される高齢困窮者、中途退学学生・生徒、凶悪犯罪、などが増加し、生活不安・社会不安がかってなく高まっている。そのことは、最近の労働相談・生活相談の激増とその相談内容の深刻化に、端的に示されている。

 第五に、上記のような状況の下で、戦後民主主義の成果を根底から剥奪するような、労働者・労働組合に対する権利攻撃が開始されたことである。実際、小泉政権成立いらい「02春闘」を経て今日にいたる労働政策の動向を見ても、「ワークシェアリング」論をテコとした不安定雇用の政策的拡大、労働組合を無視した一方的協約破棄、集団的労使関係からの非正規従業員および「裁量労働」ホワイトカラー労働者の排除、これと連動した労働基準法など労働法制適用除外の大幅拡大、労働組合機能を空洞化させる賃金決定個別化の徹底、雇用保険改悪による事実上の失業保障否定、等々の画策が、公然と推進され、実施に移されるようになってきている。「日経連」解散=「日本経団連」発足(5月28日)の動きのなかには、こうした労働組合や「労使関係」そのものに対する攻撃のねらいが隠されている、と言わねばならない。
 労働運動の前進に資する諸政策の研究にあたっては、以上に概観した情勢変化に留意してすすめる必要があろう。

(2)悪化する労働・生活状態と労働者の要求
 すでに見たように、労働者・国民の状態悪化が急速にすすんでいるが、そのなかで労働者の要求の焦点となっているのは、どのような点であろうか。運動の中で確認されてきているのは、主として次のような諸点だと言ってよいであろう。

 第1は、リストラ反対、雇用・失業の悪化をどうくい止めるか、という問題である。
 完全失業率は2001年いらい5%の大台に乗っているが、「求職あきらめ組」を含めた実質的な失業率は、その約2倍の10%前後に上る。過去3年間を見ても、企業の約半数が人員削減をともなうリストラを実施しており(JIL調査)、失業悪化の主因が大企業を先頭とするリストラ解雇にあることは明白である。また、「終身雇用にこだわらない」という企業が48.6%に上っている(厚生労働省による企業調査)ように、企業が不安定雇用を急増させる政策をとっていることも、失業問題を深刻化させる大きな要因となっている。これらの動きに歯止めをかけるとともに、失業者の生活・就労保障をどう前進させるかが、緊急の要求課題となっている。

 第2は、賃金の顕著な悪化をどう跳ね返すかという問題である。
 労働者が今日直面しているのは、露骨な「賃下げ」である。「総額人件費管理強化」の名のもとに、諸手当・一時金・福利厚生費(企業福祉)の削減が顕著である。賃金体系の「成果主義」化・「能力主義」化も急激である(前掲厚労省調査によれば「能力主義を重視する」と回答した企業が初めて過半数の55.9%となった)。それらの賃金攻撃は「賃金決定の個別化」と相まって推進されている。「産業別の賃金決定」を「企業別の賃金決定」に、さらには「個人別の賃金決定」に個別化するという攻撃は、労働組合の存在意義そのものを失わせようとする攻撃に他ならない。「賃下げ」を跳ね返すたたかいは、労働組合の基本的諸権利を守るたたかいと一体のものとして進められなければならなくなっている。

 第3は、医療・年金など社会保障・福祉の後退や、消費税アップの増税策動など、労働者・国民の生活不安を高める諸政策をどう阻止し、生活安定への展望を切り開いていくか、という問題である。
 日本リサーチ総合研究所の本年1月発表の調査によると、今後1年間の暮らし向きの見通しを示す「生活不安度指数」が158となった。前回調査から5ポイント悪化し、1977年の調査開始以来、最悪を更新している。また、昨年12月の同調査では、今後1年間の自分または家族の収入に関して「減る」という回答が42.9%と過去最高に上昇した。「自分や家族が失業する不安」を訴える回答も71.6%と高水準が続いている。さらに、朝日新聞の「定期国民意識調査」によれば、「揺らぐ生活不安」が顕著である。「どれだけ不安を感じているか」の問いに対して、「大いに」と「少しは」を合わせた不安感は、いずれも6割を超えている。

 労働者が求めているのは、医療制度改悪などの当面の生活不安増大を阻止するだけでなく、消費税の引き下げなどによって、生活不安がさらなる生活不安・社会不安をよぶ不安の連鎖を断ち切り、生活状態悪化の流れを変えるような闘争の発展である。

 第4は、アメリカの戦争に日本と国民を強制動員する有事関連3法案に反対し、民主主義を守る世論を、どうやって大きくつくり出していくか、という問題である。
 新聞社等の調査結果を見ても、言論統制や戦争への不安は広がっており、また、政府・財界のアメリカ追随政策やアジア無視の政策に対する批判も高まってきている。労働組合運動のなかで、これらの点で広範な共感と要求の一致が見られるようになってきているのも、最近の特徴である。求められているのは、この広範な労働者・国民の意思を一つの力に結集し、それに明確な表現形態を与えることである。その点でも、陸・海・空の運輸労働者や医療・建設労働者の統一行動に見るように、新たな共同が発展しつつあることは特筆すべきことであろう。
 労働総研の調査研究活動は、研究プロジェクトについても部会研究会についても、以上に見た労働者の要求や願いにできるかぎり応えるようすすめられねばならない。

(3)問われる労働組合運動の主体的力量
 以上に見た情勢や労働者状態の下で、民主的大衆運動の中心となっている労働組合への期待は、政策のうえでも、実践的なたたかいのうえでも、非常に大きなものとなっている。全労連運動をはじめとして、わが国の労働組合運動は、すでにリストラ「合理化」への反撃や職場における人権擁護のたたかいで成果をあげはじめ、医療や平和の課題では広範な国民共同の運動を発展させてきており、不安定雇用労働者の組織化でも地域を中心に前進をはじめている。全労連、連合をふくむ労働組合運動の統一行動が前進していることもある。しかし、期待されている課題の大きさからすれば、主体的力量の不十分さや弱点を、従来にも増して痛感せざるをえない状況にあることも事実である。

 主体的力量の不十分さや弱点は、春闘における要求提出率の低さ、要求実現上の困難の増大、ストなど争議行動の減少、一方的賃金・労働条件切り下げの横行、組織率の低下、などに端的に表れている。あるいは、企業主義的な労働組合の運動や組織運営が、産業構造の変化や労務政策の変化にますます対応できなくなってきた、という問題もある。リストラ関連の早期退職・出向・転籍等の際にしばしば見られるように、労働組合に対する労働者たちの不信がきわめて根深いものとなっており、きびしい情勢の下での労組の存在感の希薄化が、その不信に拍車をかけているという事情もある。さらには、教育の荒廃や反動化もあって、若い世代の間で、労働組合や労働者の基本的権利に関する認識が決定的に欠如しているという、恐るべき事実もある。

 2002春闘では、「春闘崩壊」現象が一段とすすんだ。労働組合の本質は「要求」の実現であるが、労働者の要求を真剣に取り上げ、その要求実現に具体的現実的な道筋をつけていく運動に、自信をもてないでいる組合も少なくない。何がそのような事態をもたらしているのか、その原因・背景を深く解明しながら、労働者階級こそは日本社会を改革し歴史を創造する中心的勢力であることを、あらためて広範な労働大衆の確信にする必要があろう。この点でも、労働総研の調査研究は、積極的な役割をはたすよう期待されているのである。

3 2002年度の事業計画

 「21世紀初頭における情勢と研究課題」(2000年度定例総会決定)にもとづき、2001年度に、「基礎理論研究プロジェクト」と「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」の2つのプロジェクトが発足した。2002年度はこうした活動をさらに広め・強化していくことを基本としていく。

 今日、労働者の労働と生活条件をめぐっては、これまでに経験したことのない新しい状況が展開され、新たに解明されなければならない課題があいついで発生している。こうした状況を踏まえて、2つのプロジェクトは設立された。「基礎理論研究プロジェクト」は、労働組合運動が理論的に解明を迫られている課題を集中的に検討し、理論的な発展をはかることを目的としている。「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」は、近年、多様な展開をしている不安定雇用労働者の実態を、「人権」とのかかわりで、調査・研究することを目的としたものである。

 これら新しい2つのプロジェクトは、労働組合運動が当面する重大な問題を、前者は原理的に、後者は実態調査を通じて解明して行くものであり、両者は、現在の労働組合運動の抱えている重要課題を解明する、事実上1つのプロジェクトの2つの側面とも言うべきものとなっている。

 本研究所の2002年度の研究活動は、この2つのプロジェクトのテーマに各部会・研究会活動を関連させ、研究所が一体となった研究活動を強化していくことを基本としていくこととする。これによって労働組合運動から解明を要請されている理論的・実証的課題に、研究所がより積極的かつ機敏に対応していける体制を構築していく。

 こうした一体的な研究活動を保障していくものとして、部会・研究会活動の公開を実現していく。2つの研究プロジェクトは、その研究活動をできる限り、いろいろな方法により研究所内に報告し、部会・研究会あるいは研究員の意見を求められるようにする。部会・研究会は、少なくとも年1回は公開の研究会を開くこととし、公開研究会の開催について、時間的な余裕をもって企画し、実施について事務局と緊密な連絡をしながら準備をすすめるようにする。

(1)プロジェクト・研究部会の課題と目標
 A)基礎理論プロジェクト
 このプロジェクトは、複雑な情勢のもとで、解明を必要とするテーマがあいついで生起するなかで、それらを科学的社会主義の立場からどう理解・解釈・整理し、どのような対応(実践)すべきか、について基礎理論に立ち返って研究する必要がある、という要請・事情から結成されたものである。テーマは、情勢の新展開のもとでの労働力の価値の理解に関わる問題、課税最低限など税制に関わる問題、「個」の尊重など一定の積極性をもつ現代フェミニズムの評価・対応に関わる問題、デフレ下での春闘=賃金に関わる問題、間接賃金・社会保障の理論的問題、社会の枠組みの変化を人類の再生産というスケールからとらえるなど、研究の方法・スタンス・観点に関わる問題など多岐にわたる。結論的に、マルクス経済学における労働力の価値論に関わって、「家族賃金論」、「個人賃金論」を巡る当面の問題を、基礎理論に立ち返って研究・解明することにする。

 B)不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト
 研究計画の骨子は、二つの大きな柱からなっている。
第[ I ]:不安定就業の実態に関する調査研究
1.解明すべき課題
1.失業者の増大と並行して非正規労働者が増加しているメカニズム
2.非正規雇用の今日的特徴について、雇用形態ごとに(権利状況も含めて)
3.非正規労働者の組織化、運動
4.国際比較
第[ II ]:不安定雇用労働者の人権論から見た調査課題
1.不安定雇用労働者の諸類型
[1]有期雇用型
[2]特殊な雇用形態型
[3]「不安定企業」の従業員の位置付け
2.人権論の状況について
[1]人権状況の実態把握
[2]法解釈論上の問題
[3]立法政策上の問題
3.解明すべき課題
[1]不安定雇用組織化の手がかりを求める
[2]雇用保障の問題に関連して、もともと不安定雇用なのに雇用保障が必要なのか

1)賃金・最低賃金問題研究部会
 [1]成果賃金の動向
 このテーマは2002年度も引き続き検討していく。成果主義賃金については、すでにその導入がかなり進展している状況にかんがみ、実態に即した内容的批判、その矛盾の解明、労働者・労働組合からの対抗策を事例に沿って積上げる段階に到達している。このような観点から、引き続きこのテーマに接近していく。
 [2]賃率・報酬問題の検討
 問題の解明を解明し、パートなど非正規雇用労働者との「公正処遇」問題や「契約労働」(ILOの言葉では「保護を必要とする労働者」)の内外の実態や報酬における「公正処遇」について、ILOの動きや海外の規制のあり方を意識して研究を継続していく。
 [3]ナショナル・ミニマム問題について
 ナショナル・ミニマム問題は全国一律最低賃金制の確立の展望をベースとしつつ、失業時の生活保障、生活保護基準、公的年金、課税最低限、自家労賃など、労働者階級だけでなく、国民諸階層に幅広く影響する重要なテーマである。当面、部会としては所得保障のナショナル・ミニマムに限定してこの問題を取り上げたい。なお、最近日本で注目されている公契約における委託労働者の賃金水準引き上げ(いわゆる日本版リビングウエッジ)は、最賃制問題とも密接な関連をもっているので、部会の研究課題としたい。

2)労働時間問題研究部会
 ワークシェアリング問題が、わが国の実践上の緊急課題として急浮上し、日経連をはじめ社会産業生産性本部、厚生労働省、連合、政党、その他学者・研究者個人を含め、さまざまな調査報告、研究発表、政策提起、主張、論文などが相次いで出され、マスコミも連日のように報道し、02年春闘の1つの焦点となってきた。当部会も出版物の内容とも関連させて、昨年秋の検討につづいて、この問題のさらなる検討から始めることになった。さまざまな見解の検討とあわせて、大きな問題としてオランダ・モデルの評価をめぐる見解の相違がある。この問題は部会で検討中である。03年春にむけ第3弾の出版物刊行について全力を投入する。

 その際、ただ働きの告発(新婦人調査による家庭からの告発を含む)、過度労働の告発、最底辺と考えられる不法入国外国人労働者の労働時間実態などを、取材もしくは当事者による執筆を確保して掲載することにしている。

3)労働法制研究部会
 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクトに集中することとし、その期間は休止する。

4)社会保障研究部会
 2001年度はこれまでの研究成果の出版に集中してきたためテーマ定めての研究活動ができなかった。すでに政府が「骨太の方針・第2弾」を出してさらなる社会保障・福祉切り捨てを強行するもとで、この第2弾を集中的に検討することから研究活動を再開する。
 また、2003年には02年の健保・医療制度につづく年金制度とともに、介護保険の再検討も予定されている。さらに石原都政による老人施設をはじめとする公的福祉施設の全面的民営化も強行されようとしている。
 労働運動とともに広範な国民の要求と運動発展に貢献できる研究成果を目指したい。

5)青年問題研究部会
 02〜03年度は新テーマを設定し、深い活動を再編することにした。現在、報告準備のための作業を、つぎのようなテーマで進行中である。[1]日本的職業訓練の性格、[2]日高教「技術職業教育の提言」、[3]ドイツ・フランス・イギリスの職業教育・訓練の特徴とわが国との比較−青年労働者の権利の角度から、[5]フリーターの現状、内部区分、全体としての評価

 『労働総研クォータリー』で発表した最初の部会報告で、日本の教育・職業訓練の研究はタテ割り行政によって教育研究と職業訓練教育が分離しておこなわれてきた経緯があり、その結果民主的教育学の内部でも職業訓練の軽視が長年にわたって支配的であり、それがいわゆるIT革命をともなう根本的な構造変化、直接には最近の失業の深化のなかでの民主的教育の対応の弱さにつながっていることを指摘した。

 本年冒頭の部会で予定した研究者からも、戦後における教育概念や「教育をうける権利」の解釈の狭さが指摘されている。英語文献の教育の定義では、教育は「転職や仕事のために訓練やインストラクションによって資格をとること」と必ず技能習得の問題が含まれている。こうした問題をも視野に入れて日本の教育観そのものの根本的転換の必要性は、労働者と労働組合にいま教育とは何かを、深刻に問いかけている。

6)女性労働研究部会
 政府の「構造改革」をはじめ財界・政府の相次ぐ戦略的提起は、男女平等要求と運動の前進への対応も含めて、女性労働力の新たな「有効活用」策をその一環として組み込んでいることが一つの特徴である。内閣府・男女共同参画会議は「ライフスタイルの選択と税制・社会保障制度・雇用システム」について、厚生労働省は「パートタイム労働の課題と対応の方向」について等、具体的課題での報告書とともに広く意見募集も行っている。とくに、賃金、税制、社会保障の「個人単位化」の動向には研究者からの多様な意見も出されており、当研究所の基礎理論プロジェクトで、また全労連も検討プロジェクトを新たに設置し検討を進めている。

 2002年度の当部会は、基礎理論プロジェクト、全労連プロジェクトとの連携を重視して研究を深め、政府審議会等の意見募集にも対応する方向を検討する。

7)不安定就業・雇用失業問題研究部会
 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクトに集中することとし、その期間は休止する。

8)中小企業問題研究部会
[1]21世紀初頭の中小企業は、きびしい経済情勢に加え、政府の中小企業切捨て策、税金・社会保障負担増、大企業の市場支配、金融機関の貸し渋り・貸し剥がしなど、かつてない困難な経営環境にさらされている。特に、倒産や赤字転落が急増し、規模別格差の拡大などがすすんでいる。
[2]こうしたもとでの中小企業労働組合運動は、個別企業内での要求実現、問題解決がきわめて困難であり、業種別・産業別に結集して協力・共同を強め、対政府・財界・業界にたいし組織力を背景にした交渉で、経営環境の改善にむけた制度的な要求実現を迫る必要がある。
[3]部会ではこの間、中小企業労働組合運動の前進に資するため、新たな出版物の政策を視野に研究をすすめてきた。いますすめている「中小企業問題と労働運動の課題」研究は、新たな出版物の骨格をなすもので、年度内を目途に発行するために努力する。

9)国際労働研究部会
 『世界の労働者のたたかい 2002』を発刊することができた。02年度も『世界の労働者のたたかい 2003』編集のための部会活動が中心となる。『世界の労働者のたたかい 2002』発行を契機に、全労連の共催をも視野に入れた「公開部会」を適当な時期に開催することをも検討している。その理由は、[1]日本に紹介されている各国独自の制度などを歴史的・社会制度的に理解する必要があるが、それらのことを『世界の労働者のたたかい』で記述することは紙数の関係から不可能にちかいこと、[2]研究部会員間にもニュアンスの違いがあること、[3]『世界の労働者のたたかい』の活用と実践的な要望を知る必要があること、などの点からも、『2002年 世界の労働者のたたかい』の執筆者を報告者にした公開研究部会、あるいはパネルディスカッションなどを、全労連との共催をも視野に入れて、おこなうことなどが議論されている。

10)政治経済動向研究部会
 01年度の研究活動の集大成でもある『変容する日本経済と「構造改革」−労働運動からの分析と提言−』を7月、新日本出版社から刊行した。02年度は、激動の時代に突入した21世紀初頭、特に、アメリカの一国覇権主義の「ゆらぎ」と日米関係を焦点に置きつつ、国際的・国内的政治経済情勢に機敏に対応した研究活動を進めることを当然の前提としつつも、激動する現象の解明にとどまらず、その根本原因にまで踏み込んだ、深く掘り下げ、全労連をはじめとする労働組合・国民共同に寄与できる研究活動に留意する。研究部会活動の成果は、「労働総研ニュース」や『労働総研クォータリー』などで引き続き、「四季報的」分析を発表していくことに努める。

11)関西圏産業労働研究部会
 02年度は、01年度に引き続いて、以下の目標で研究活動をおこなう。
[1]関西圏に現われている日本資本主義の矛盾の局面、特に地域の企業のリストラの状況や失業問題の状況を分析すること。
[2]これらの問題に関わる諸議論を批判的に摂取すること。
[3]できるだけ、現場の労働者と意見交換をすること。

(2)出版・広報事業
[1]労働総研クォータリー・労働総研ニュース・ジャーナル(英文)など3種の定期刊行物の編集・企画を充実させ、読者拡大と労働総研の存在と役割を労働運動をはじめとして社会的にアピールする。
[2]各プロジェクト・研究部会が年1回は公開することとなったのを効果的に生かす上からも会員とともに、会員になってもらえる研究者や労働組合の活動家の参加を広める。
[3]研究部会等の研究成果をとりまとめた出版物の発行とともに、必要に応じて政策提言を発表する。その際は印刷物だけでなく労働総研のホームページも活用する。

(3)全労連との連携強化
[1]全労連と傘下単産の定期大会や公開される討論集会などへ会員・研究者が可能な限り参加することとし、日時・場所・テーマなどを早期に伝えることとする。また、都道府県労連の同様な集会については地方在住会員の自主的な努力とともに、情報を提供し参加できるようにする。
[2]これまでもおこなってきた全労連との共同による「国民春闘白書」や、全労連の刊行物である「ビクトリーマップ」「世界の労働者のたたかい」などへの協力とともに、各種の調査活動・政策研究に積極的に協力する。
[3]これらを効果的に進めるために全労連との定期協議をおこなう。

4 研究所活動の拡充と改善

(1)個人・団体会員の拡大
 ここ数年の状況は個人会員の新規加入とほぼ同数が高齢による死亡・退会により会員総数が固定している。知人・友人はもとより各研究部会の活動や定期刊行物への執筆依頼などにより会員拡大を意識的に追求する。

(2)『労働総研クォータリー』読者の拡大
 クォータリーは編集・企画によって頒布部数が増加する。内容の充実を図ると同時に定期購読者の増加をめざす。

(3)地方会員の活動参加
 現状は会員の研究活動参加は首都圏中心であり、地方会員の機会がほとんどない。財政的事情もあり一挙に改善するのは困難であるが地方労連との連携など活動に参加できるようにするなど改善を目指す。
 また、今後は中央・地方における各種公的委員会・審議会への労働者委員とともに公益委員として参加することへの対応も準備しなければならない。

(4)事務局体制の整備・強化
 労働総研の活動に専従する事務局員は1994年度以来の3人体制が2002年度2人体制となる。事務局活動は日常的には定期刊行物の印刷・発送、常任理事会などの機関会議の連絡と会議資料の作成、研究会通知文書の発送と交通費やゲストとの連絡や費用の準備、これらの記録保存や会計資料整理などの実務が大部分である。同時に個人・団体会員間の各種の連絡調整とともに他団体やマスコミからの問合わせや資料提供、執筆依頼への適格な対応を処理している。

 こうした事務局の機能と役割が労働総研の諸活動を効率的・効果的にすすめると同時に社会的な存在と貢献を発揮することとなる。3人体制から2人体制となったとしてもこれらの機能と役割をさらに強化しなければならないことは当然であり、常任理事会からの適切な指導と援助のもとにチームワークによって労働総研活動の拡充・発展に努める。