2002年 5月1日(通巻146号)



目   次
巻頭言

有事立法による憲法破壊を許してはならない
             ………………………川村 俊夫 

論 文 

研究部会・プロジェクト責任者会議の特集にあたって

「部会・プロジェクト責任者会議」をふまえた研究活動を
             ………………………牧野 富夫
基礎理論プロジェクト研究についての報告
             ………………………小越洋之助
「不安定雇用労働者の実態と人権」
  プロジェクトについての報告…………………大須 真治
部会研究会代表者会議をおえて
             ………………………大木 一訓
4月の研究活動・事務局日誌他
             




有事立法による
憲法破壊を許してはならない

川村 俊夫

 「いま、なぜ有事法制か」との批判にたいし、中谷防衛庁長官は、「国家の当然の責務を、これまで放置してきたこそ問題」と述べてはばからない。たんなる無知ではすまされない。日本国憲法が、なぜ非常事態の規定を置かなかったかこそ重要だからである。
 第九条の存在が、もはや非常事態の規定を必要としなかったのはいうまでもない。しかし、九条のもとでも、「一朝事変にそなえる」非常事態の規定は必要との主張もあり、当時の金森徳次郎国務大臣はこう答えている。「言葉を非常ということにかりて、その大いなる途を残しておきますなら、どんなに精緻なる憲法を定めましても、口実をそこに入れてまた(憲法が)破壊せられるおそれ絶無とは断言し難い」。これは、緊急勅令や非常大権など非常事態規定がふんだんに盛り込まれた明治憲法のもとで「非常事態」が常態化し、ついには明治憲法の機能すら停止して侵略戦争に突入した経験を踏まえたものである。したがって「民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護いたしますためには、左様な場合の政府一存において行いまする処置は、極力これを防止」するため(金森)、「非常事態」の規定は、日本国憲法から意図的に排除されたのである。
 今回の有事法制三法案は、国会を無視し、地方自治体への指示権を認めるなど首相に強大な権限を集中し、すべての国民に対しては、「必要な協力をするよう努めるものとする」と、米軍と自衛隊の戦争への協力を義務づけている。まさに、金森国務大臣の危惧を体現したような憲法を「破壊」する法案である。
 しかも、法案をめぐる国会論戦では、マスコミの統制や集会等の規制が、「国家存亡の危機」においては当然とするような答弁が、つぎつぎと担当大臣の口から出てくる。紛争の平和的解決という戦後世界の大きな流れのなかで、徴兵制を定めているドイツ憲法ですら、「良心上の理由から武器をもってする兵役を拒否する」ことを人権として認めていることと比しても、その異常さは明らかだろう。有事法制は、日本国憲法の平和主義にかわって、軍事優先、国家優先を力づくで公認のイデオロギーにしようとするものでもある。


(憲法改悪阻止各界連絡会議事務局長)



研究部会・プロジェクト責任者会議の特集にあたって

 

3月30日に開催された研究部会・プロジェクト責任者会議は、今後の研究所活動にとって重要な内容を含んでいるので、座長を勤められた牧野富夫代表理事、「基礎理論プロジェクト」の活動状況を報告された小越洋之助プロジェクト責任者、「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」の活動状況を報告された大須真治プロジェクト責任者、および会議のまとめをされた大木一訓代表理事には、多忙な日程を割いて、当日の発言をもとに改めて執筆いただいた。



「部会・プロジェクト責任者会議」
をふまえた研究活動を

牧野 富夫

今回の責任者会議の特徴

 2002年3月30日、研究部会・プロジェクトの責任者会議をおこなった。例年と違って、新しく立ち上げた2つのプロジェクトの研究テーマを中心に、今後(少なくとも2年間)の本研究所の研究活動のあり方を話し合った。新プロジェクトの1つは、「基礎理論研究プロジェクト」であり、当面「家族賃金・個人賃金」論など、解明を迫られている理論問題を集中的に検討すること、いま1つは、「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」であり、近年「構造改革」下で急増しているさまざまな形態の不安定雇用労働者の実態を、とくに「人権」とのかかわりであきらかにすることを確認した。既存の研究グループの活動報告・研究計画等の発表は、例年と違ってこの新しい2大研究プロジェクトのテーマに関連づけた文書発言とした。また、今後の各研究グループ(部会・プロジェクト)の研究も、新しい2大プロジェクトのテーマに意識的に関連づけておこなうことを確認した。

新しい2大プロジェクトのねらい・課題

 「基礎理論プロジェクト」は、つぎのようなねらいのもとに発足した。複雑な情勢の展開のもとで、解明を必要とするテーマがあいついで生起するなかで、それらを科学的社会主義の立場からどう理解・解明し、どのように対応(実践)すべきか、について基礎理論に立ち返って研究すること──これがねらいである。当面まず、労働力の価値にかかわる問題を、「個人賃金」論、現代フェミニズム論、課税最低限など税制にもかかわらしめて解明する(1年計画)。この問題をめぐる「もつれ」状況を解きほぐす作業が第1歩となる。
 「不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト」は、予算との関係もあり、どのようなスケールの研究にするか、目下検討中である。責任者会議でも、労働総研を国際的にアッピールできるほどの大規模調査をめざしたいという意見がだされた一方、予算面を考慮すれば既存の調査も活用した、かなり限定的な調査を手堅くおこなうべきだという意見も強かった。いずれにせよ2年計画の予定。またプロジェクトのメンバーについても、調整すべき点が若干残っている。総会までには研究体制・メンバーともに確定する。

2002年度総会に向けて

 この新しい2つのプロジェクトは、直面する重大問題を、前者が原理的に、後者が調査をつうじ現状から解明するものであり、事実上「1つのプロジェクトの2領域である」という共通の認識が責任者会議で確認された。
 来る2002年度の総会の場で、新しいプロジェクト・テーマについて時間をかけて討論することが望ましいというのが責任者会議の意向であった。常任理事会・理事会で責任者会議の意向が認められることが期待される。プロジェクト推進のため予算面など、理事会・常任理事会での積極的な検討が必要だろう。


(代表理事)




基礎理論プロジェクト研究についての報告

小越 洋之助

 1、基礎理論プロジェクト研究結成の経過

 未曾有の変革期にある現代では、情勢の新展開、社会の枠組みのなかで、新しく解明する課題が次々に生起している。例えば、家族形態の変化のなかでの労働力の価値の理解に関する問題、デフレ下の春闘=賃金闘争のあり方に関する問題、ワークシェアリングなど労働時間と賃金の問題、間接賃金・社会保障の理論的問題、課税最低限の問題、あるいは広く「グローバリゼーション」や環境問題における国民、人類の生存・再生産の問題などなど、変化の激しい複雑な情勢のなかで、21世紀において解明を必要とするテーマが相次いで生起している。このプロジェクトは直面する新たな課題を科学的社会主義の観点において基礎理論に立ち返りながら整理、研究する目的で結成された。
 現実に生起する新たな課題を基礎理論に立ち返り研究するというということは言葉でいうのは易しいが、そのためには高い理論水準と鋭い現実認識の双方を具備さなければならない。しかもその際当該テーマに関する内外の研究成果や運動などの実践の結果をフォローしておかなければならない。そのようなことは一人の研究者による研究ではおのずと限界があり、そこにプロジェクト研究の意義がある。
 しかし他面では、プロジェクト研究は通常一定の期間を区切って一定の研究成果、結果をまとめ、報告する義務を担わされるから、そもそも基礎理論研究ということがプロジェクト研究になじむかどうかは議論の余地はある。そうであるがゆえに、これを実施するさいには最初から明確に課題・テーマを限定して、それにふさわしいプロジェクトメンバーの相互協力により、問題意識を共有させ、一定の期間を区切って研究を継続させ、議論を整理する必要がある。

2、今回のプロジェクトのテーマ・メンバー

 以上から、今回はマルクス経済学における労働力の価値論に関わって「家族賃金」「個人賃金」をめぐる当面の課題をテーマとして研究・解明することとした。この課題は運動の側から現実に対応を要請されているテーマであるが、理論的には現実の家族形態の変化などを前提とした現在および今後の賃金論のあり方や現代フェミニズム論の評価・対応の問題などと密接に関連している。それとともに、従来のマルクス経済学において十分展開されていなかった分析視点や論点はないか、などをも検討することを意図している。
今回のテーマに関するプロジェクトメンバーは下記の通りである。(あいうえお順、敬称略*は当面ゲスト参加)
 相沢 與一(高崎健康福祉大学教授)
 天野 光則(千葉商科大学教授)
 小越洋之助(國学院大学教授)
 金田  豊(労働総研常任理事)
 川口 和子(労働総研常任理事)
 桜井 絹江(労働総研理事)
 清山  玲(茨城大学教授)
 黒田 兼一(明治大学教授)
 辻岡 靖仁(労働者教育協会会長)
*伊藤 セツ(昭和女子大学教授)

3、その他−運営のスケジュールなどー

 期間は1年間を予定している。月1回のペースで、プロジェクトメンバーの報告をまず一巡させ、複数のゲストに報告を依頼した後、テーマに関する基本視点、事実認識を共有させて論点を深める予定である。(2002年4月20日段階で、すでに第3回研究会を実施している)なお、今回のテーマとの関係から、責任者(主)は小越が(副)は川口が担当することになったが、今後この種のプロジェクトが継続し、別のテーマを扱うということになれば、当然ながらプロジェクトメンバー、責任者は変更される。いわずもがなではあるが、付言しておきたい。

(基礎理論プロジェクト責任者)




「不安定雇用労働者の実態と人権」
プロジェクトについての報告

大須 真治

1 プロジェクトの経過

 「不安定雇用労働者の実態と人権」プロジェクトは、不安定就業・雇用失業問題部会と労働法制部会のメンバーを中心に出発するという常任理事会の方針に基づき、2001年12月15日、2002年2月3日、伍賀、萬井、藤吉、大須で、発足の準備を進めてきた。その結果を2月22日の企画委員会、2月23日の常任理事会に報告し、3月3日不安定就業部会の会議で参加メンバー等についての検討を行った。
 これらの経過を経て確認されてきた研究計画の骨子は、ほぼ次のようなものである。
 それは、二つの大きな柱からなっている。
 第1は、不安定就業の実態に関する調査研究であり、第2は、不安定就業者の人権論から見た調査研究である。これらの研究テーマは、これまでそれぞれの研究部会で追求されてきたが、両者をプロジェクトとして結びつけることにより、今日の不安定就業者の問題に新しい分析視点で接近し、問題をより生き生きと捉え、労働運動の現実に役立てられるものとなるよう期待されるものであった。

2 第1の柱の実態に関する調査研究で解明すべき課題

 今日の非正規労働者の増加が失業者の増大と並行して進んでいることについて、その構造を解明する。
 非正規雇用の今日的特徴について、雇用形態ごとに全面的に明かにする。主な雇用形態としては@パートタイマー、A派遣労働者、B個人(請負)契約労働者、C若年非正規雇用(フリーター、アルバイト)、D福祉分野の非正規雇用などが考えられる。
 非正規労働者の組織化について、経験を調査し、手がかりを解明していく。
 非正規労働に関する国際比較を行う。ワークシェアリングやオランダモデルの評価等を行う。
 不安定就業に関する政策提言も視野に入れる。
 具体的な作業としては、差し当たり典型事例について実態調査を行ない、その位置付けは、既存の調査を利用する。

3 第2の柱の人権論から見た調査研究で調査対象となる不安定雇用労働者の諸類型について

a.有期雇用型
(期間の定めのある契約のため、「期間満了による雇用終了」という身分の不安定)
@有期雇用労働者、(a)単なる有期雇用―臨時工、臨時職員、嘱託、(b)労基法14条の特例による雇用―特殊技能保持者などで3年契約、Aパートタイマーの一部、B登録型派遣労働者および常用型派遣労働者の一部、C個人(請負)契約労働者の一部、Dフリーター、アルバイトの一部、E高齢者の非正規雇用(シルバー人材センター)、Fその他
b.特殊な雇用形態型
(雇用契約が特殊なことに伴う、それぞれ独自の問題)
@派遣…派遣元=雇用と派遣先=使用、という使用者責任の分離、A独立事業者・在宅勤務…企業と対等な事業主という法的な位置付け(「労働者」性の否定)と実態の乖離、Bパート…短時間就労に伴う諸問題(年休は解決)、Cシルバー…「労働者」性の認定(労働法適用の可否)が争われる、Dその他

4 「不安定企業」の従業員をどう位置付け

 (営業譲渡、会社分割などの際の身分の不安定さ─親会社などの「使用者」
責任)
 人権論の状況について
 人権状況の実態把握
 @訴訟、判例の上の事実関係―判例集、A当事者および労働組合からの事情聴取、民法協の弁護士さんの事情聴取、B「110番」活動からの情報提供、C新聞などからの事情収集

5 法解釈論上の問題

 @有期雇用労働者の契約更新拒否、A整理解雇の際の、整理対象者を選定する基準のうちで、劣位におくこと、B派遣労働者の派遣先による中途の契約解除―派遣元による解雇、Cパートの低賃金(同一労働、同一賃金の否定)、D派遣労働者、パートなどの年休取得資格、社会保険の適用資格、Eその他

6 立法政策上の問題

 解明すべき課題として、@不安定雇用組織化の手がかりを求める、A雇用保障の問題に関連して、もともと不安定雇用なのに雇用保障が必要なのかという議論にどう対するべきか。
 これらの調査研究を進める体制として、部会との関係については、不安定就業・雇用失業問題部会と労働法制部会のメンバーがプロジェクトの主なメンバーとなるため、不安定就業・雇用失業研究部会、労働法制研究部会の活動は休止する。不安定就業・雇用失業研究部会、労働法制研究部会のメンバーは、随時プロジェクトの研究会に出席できるものとする。
 プロジェクトの完成期間は2年、研究途中で中間報告を行うこととする。

7 討論と意見

 以上の「不安定雇用労働者の実態と人権」プロジェクトの構想について、3月30日の研究プロジェクト・部会責任者会議ではおおよそ次のよう議論が交わされた。
a.「不安定雇用…プロジェクト」の性格づけについて、国際交流の武器となるような研究をめざすべきである。そのためには独自の実態調査をする必要がある。しかるべき予算もつけて活動できるようにすべきである。
 国際比較としては派遣とパートの組織化の研究が必要。フランスでは、派遣の組織化と失業者の組織化がつながっている。
 組織化の問題と結びつけた調査にし、内容については全労連とも連携をとっていくことを考える。
 不安定雇用のそれぞれの形態を、労働者階級の中に位置付ける作業が必要となる。
b.実態調査と予算等に関連して
 予算の現実を考えると、事例研究的な調査は独自に実施し、その位置付けについては、既存の調査によって行う。典型を選んで、量的な把握をする。
 種々の外部資金なども確保するよう努力する。予算の見通しがたてば独自調査をやっていくことも考えるが、予算の無理のないところでも、実行できるように、当面の計画は立てざるをえない。
c.実態調査の進め方について
 全労連の協力を考え、労働組合のヒヤリングを考える。
 自治体での問題として、医療分野(準看護婦、福祉・介護)がある。
 都区一般では不安定就業者の組織化を行っている。働きたいネットの活動、ユニオンの活動に新しいものがある。
 1970年代の『労働運動』誌主催の工場調査のようなものは、今は難しくなっているのではないか。
d.理論的に解明すべき課題について
 用語としては不安定雇用なのか、不安定就労、非典型雇用、非正規雇用などある。
 これらはどのような関係になっていて、どのように考えるべきなのか。
 雇用創出を理由に、不安定雇用の増大がされてきている問題がある。
 在宅労働、家内労働の問題も視野に入れる。短時間・正規労働の問題はどのよう考えるのか。自治労連でも公務員の中での不安定雇用をどのように位置付けるのか理論的に解明すべき問題が出ている。(任用と関連して)
e.人権論の課題に関連して
 人権問題を数量的に把握するのは困難がある。
 外国人労働者の問題はどのように扱うのか。外国人労働者は請負として働いていることが多い。
 雇用の破壊=リストラの中で生存権はどう担保されているのか。人権論の中に生存権が位置付けられていないのではないか。働くことによって生活できる権利はどう位置付けられているのか。生存権を保障しない現在の動向にどう対応していくべきか。
 人権論について若者には異なった問題がある。(新規労働論、青年の試用をどう考えるか)これについて、日高教の調査がある。
 請負の国際比較が必要。有期雇用の雇い止めについて、国連で指標を出している。

(「不安定雇用労働者の実態と人権」プロジェクト責任者)




部会研究会責任者会議をおえて

大木 一訓

 

今回の責任者会議での報告・討論を聞いていて、あらためて痛感したのは、「基礎理論」「不安定就業」のプロジェクト研究が、@今日の情勢や労働運動の状況からしても、切実に解明を求められている諸課題だということ、また、A二つの課題は相互に深いつながりのある課題だということ、さらには、Bそれらの研究課題は、各部会研究会の研究内容とも密接にむすびついており、多面的な研究の深化が必要かつ可能だ、ということである。その意味では、二つの新規プロジェクト研究の問題を代表者会議全体の問題として一緒に討議したのは大変よかったと思う。

 もともと常任理事会がこれらの研究課題への取り組みを決定したときの問題意識としては、次のような点があったと言える。すなわち、@労働問題研究においても労働運動においても、問題や課題への取り組みが個々に分散していて、そのことが今日の支配層のきびしい攻撃と民主勢力の限られた力量のもとで前進への障害となっており、克服広い視野からの総合的統一的な取り組みが求められるようになっていること、Aそのためにも、今日的な労働者階級の状態把握のうえにたって、賃金、所得、労働時間、社会保障、税制などを統一的に把握・解明する研究が求められていること、Bそうした研究をすすめるうえでは、おそらく労働力や賃金・所得などの基礎的カテゴリーや人権についても今日的な研究の深化が求められるであろうこと、Cもちろん、こうした大きな問題を一度にすべて解明していくような研究事業は不可能であろうが、「不安定就業」問題や賃金問題のような、運動の上でも焦点となっている問題への取り組みをつうじて、相当の前進をなしとげていくことができるのではないか、といったものである。しかし、新プロジェクト研究立ち上げの時点では、なにか具体的な成算があってのことではなく、ともかく必要性を感じて意欲的に模索していこうということであったと思うが、今日の報告・討論を聞いていると、会員や運動家のみなさんの努力で、かなり具体的な展望が見えてきた気がする。しかも、直接プロジェクトの参加メンバーになっている人たちだけでなく、研究所全体として協力してこれらの事業を成功させようという雰囲気が生まれてきていることが感じられる。そのことが、なによりも嬉しいことである。

 討議の中でも指摘されたように、事業成功のためには、まだまだ困難や課題が多い。一つは、予算の問題である。その制約を考慮して、研究計画を相当自粛したものにしなければならないのではないか、という御意見もあった。逆に、研究課題の性格からいって、オリジナルな調査研究を推進する、意欲的な事業として展開する必要がある、という御意見も出された。この点では、必要な条件整備が後れていることに、常任理事会として責任を感じている。すでにいろいろ検討や努力はしているが、できるだけ早く研究上不可欠な必要に応えられるような条件整備をすすめたい。二つには、「国際世論に訴えていく武器にもする」という当初の意気込みからしても、研究計画の中にもっと国際的な視角からの研究を組み込むべきではないか、という提起があった。予算上、国際的な比較調査などを組織するところまでは条件整備できないと思うが、視点としては大変重要なことであり、その視点を活かすうえでどんな工夫ができるか、考えてみる必要があると思う。三つには、今後、このプロジェクトを推進するうえでの、部会研究会相互の協力や交流をどうすすめるか、という問題である。この点は、各研究部会でぜひ意見交換をし、積極的な提案をしてほしいと思うが、すでに具体化をすすめている各部会の公開研究会の開催や従来の研究例会の持ち方を工夫するといったことなども検討できるのではないかと思う。

 ともあれ、今回われわれが取り組んでいる課題は、なにかスケジュール的にこなせば成果が出てくるといった問題ではない。じっくりと腰をすえて研究し、とことん討議するなかからはじめて成果が生み出されてくるような、創造的な事業だろうと思う。そういう意味でも、プロジェクト・部会研究会責任者をはじめ関係者の皆さんは大変だと思うが、労働総研のもつ潜在的な力を大いに引き出して、奮闘して下さることを期待したい。

(代表理事)






 4月の研究活動
4月3日  中小企業問題研究部会=中小企業問題と労働運動の課題
  女性労働研究部会=「パート労働研究会中間報告」について
9日 労働時間問題研究部会=左藤一美「大企業が負う社会的責任」の検討
13日 不安定雇用労働者の実態と人権プロジェクト
15日 賃金最賃問題研究部会=「成果・能力主義」拡大への労組の対応
20日 基礎理論プロジェクト=マルクスの賃金概念について
27日 関西圏産業労働研究部会=現代の賃金問題と労働運動



 4月の事務局日誌
4月20日  第5回常任理事会




2001年度・第5回常任理事会協議メモ
日時 2002年4月20日(土)13時30分〜
  1 報告事項 4点の報告を承認した。
2 協議事項
 @ 加入、退会について承認した。
 A 全労連・政策プロジェクトへの派遣は、金田・川口常任理事とした。
 B クォータリー夏季号など編集企画を、一部変更して承認した。
 C 総会に向けての常任理事の人事案件を承認した。
 D 部会・プロジェクト責任者会議の協議結果による“基礎理論”“不安定雇用”のプロジェクトの研究活動の現状と今後の運営等について検討された。
   主な点は、A)“不安定雇用”については短期・中期の研究テーマ、調査活動を早期に具体化し、メンバーの補充もおこなう。B)研究会は、かみ合った討議が必要で実質1時間30分では短いとの指摘があった。C)2つのテーマについて会員の関心も高く、他の研究部会の研究課題とも関連して、どのような協力体制をとるか、中間研究報告など、次期総会に向けて具体化する、などであった。
 E その他、すべての研究部会・プロジェクトが年1回の研究会オープン化について早急に具体化する。