2001年9月1日・10月1日(通巻138・139合併号)



目   次
論 文

 日産自動車の赤字から黒字への転換の内容分析
  ―日産リバイバルプラン(NRP)とリストラ―
  の発表にあたって      …………………労働運動総合研究所(労働総研)

 日産自動車の赤字から黒字への転換の内容分析
  ――日産リバイバルプラン(NRP)とリストラ――
                   ……………………労働総研日産経営分析チーム





日産自動車の赤字から黒字への転換の内容分析

―日産リバイバルプラン(NRP)とリストラ―
の発表にあたって

2001年10月10日
労働運動総合研究所(労働総研)


 カルロス・ゴーン社長率いる日産自動車は、「史上最大の赤字」経営から「史上最高の黒字」経営へと急激な回復を成し遂げたと喧伝され、日産「再生(リバイバル)」の功労者としてゴーン氏自身をはじめ役員報酬を引き上げた。
 こうしたもとで、労働総研は2001年4月28日、日産経営分析チーム(責任者・熊谷金道常任理事)を発足させた。その目的は以下の2点である。@日産の「史上最高黒字」「再生」を果たしてそのように評価できるのか、A「史上最高黒字」はどのようにしてつくりだされたのか。これらの諸点を解明するため、公表されている財務諸表など経営資料を詳細に分析して、「史上最高黒字」の実態と本質を解明する。
 分析の結果を要約すれば以下の通りである。
 @将来の経営で見込まれる金額を負債として前倒しで計上した。A保有株式、土地、生産部門の売却による経常外収益を増加させ、内部留保7,000億円を取り崩した。B労働者に対する配転、転籍、人員削減、労働時間延長、労働条件の切り下げなどによる搾取強化を一段高い水準に引き上げ、労働コストを大幅削減した。C系列・下請企業の選別切り捨てを強行し、発注単価を大幅に切り下げて、系列・下請に対する収奪と搾取を一段と高い水準に引き上げた。Dこれらの諸要因を土台に「史上最高黒字」が演出されたといえる。しかも重大なことは、E日産自動車の中軸である自動車の製造・販売の面では、日産自動車は自動車の売上が伸びていないどころか、むしろ全体的に減少しているという致命的弱点を克服することができない。この点は、日産自動車の経営の決定的弱点といえよう。
 労働総研日産経営分析チームの分析結果は、日本の独占的大企業の一つである日産自動車の中で、企業の横暴に公然と反対し、すべての労働者の雇用・労働条件と権利など労働者の利益を擁護してたたかうJMIU日産自動車支部の労働者、労働組合、日産へ部品・サービスを納入する中小下請業者・労働者などへの要求運動を支援、激励する内容となっている。

 研究チームメンバーは以下の通りである。
 熊谷金道(労働総研常任理事・全労連副議長)、谷江武士(名城大学短期大学部教授)、金田豊(労働総研常任理事)、草島和幸(労働総研事務局長)、境繁樹(JMIU日産自動車支部書記長)、西村直樹(金属労働研究所)、藤吉信博(労働総研)
 なお、労働総研は1999年11月2日、日産問題プロジェクト(責任者・牧野富夫常任理事)を発足させ、日産自動車が1999年10月18日に発表した、大規模なリストラ計画=「日産リバイバルプラン(NRP)」の分析と批判とたたかいの方向を「日産自動車リストラの特徴と政策課題」として取りまとめ、2000年3月2日、「全労連日産リストラ対策現地闘争本部」(三多摩労連会館内)で記者発表を行った。今回までの経過は、このプロジェクトが予測した分析の結果は大筋で正確であったことを実証している。この報告全文は「労働総研ニュース」号外(2000年3月15日)に収録されており、労働総研のホームページで閲覧することができるので参照していただきたい。
 その概要(目次)は別掲の通りである。

「日産自動車リストラの特徴と政策課題」

目  次(2000年3月2日発表)

1 リバイバルプランによる社会的・経済的影響と問題点
 (1)産業関連分析による雇用者所得・GDP減少と地域経済への影響
 (2)労働時間大幅延長による生産水準水増しと雇用削減
 (3)正規雇用の不安定雇用への置き換えがもう一の狙い
2 下請・中小企業の経営と雇用を守る課題
 (1)最適地購入は日産の下請系列解体とルノーの取引機構への再編成
 (2)始まっている再編成と労働者・中小企業への犠牲転嫁
 (3)関連部品業界の再編成と中小企業の経営と雇用を守る課題
3 日本の自動車産業の位置と政府の責任
 (1)日本の産業構造と自動車産業の位置
 (2)政府の保護と公共事業優先政治のテコとしての自動車産業
 (3)日産自動車における政府と企業責任
4 国際常識としての大企業の社会的責任の実行を
 (1)ベルギー・ヴィルヴォルド工場閉鎖問題の焦点と経過
 (2)ミシュランのリストラ計画と政府の対応
 (3)EUとフランス、ベルギーの解雇制限法制
  1)EUの解雇制限法制
  2)フランスの集団解雇制限法制と特徴
  3)ベルギーの集団解雇制限法制
5 日産リストラに関する当面の要求と課題




日産自動車の赤字から黒字への転換の内容分析

――日産リバイバルプラン(NRP)とリストラ――
労働総研日産経営分析チーム


  目  次

T 日産財務諸表による分析
 1 日産とルノーの資本提携
 2 日産再建計画「リバイバルプラン(NRP)」と収益性回復の要因
  (1)総資本経常利益率の上昇
  (2)総資本経常利益率上昇の要因
 3 購買品・減価償却費、支払利息のコスト削減・資産売却収入とその影響
  (1)購買品のコスト削減
  (2)工場閉鎖・部門売却による特別損失とコスト削減
  (3)有利子負債の削減
  (4)有価証券などの売却収入
  (5)販売費の削減
 4 2000年度の資金調達・運用結果
 5 労働者への影響
 6 筆頭株主ルノーへの巨額の利益配当
 7 「演出」された2000年3月期の赤字決算
U 系列・下請関連企業の状態の変化
 1 系列の選別
 2 主要系列企業のリストラ「合理化」の事例
 3 末端下請企業への犠牲の押し付け
V 労働者犠牲のうわべだけの「回復」
  ──現場からの報告──
 1 「NRP」の労働者への影響
  (1)長時間・過密労働を前提とした生産能力削減
  (2)工場閉鎖で多数が退職
  (3)工場閉鎖で圧倒的多数が単身赴任や遠距離通勤
  (4)信賞必罰の賃金制度の導入とサービス残業の増加
 2 「痛み」を末端に押しつける「再生」はあり得ない
 3 リストラ反対運動の飛躍的拡大をめざして


T 日産財務諸表による分析


 今日、世界の自動車メーカーは多国籍企業化し、国際的にも過剰生産状況のもとで激しい競争を展開している。このため多国籍自動車メーカーは、資本・技術提携などにより再編を進めている。日本の主要自動車メーカーの中で、トヨタ自動車に次ぐといわれた日産自動車(以下、日産と略)は、バブル崩壊以降の不況のもとで収益が低迷し、巨額の有利子負債を抱えたことにより、外資との提携を進め、1999年3月にフランスの主要自動車メーカーであるルノーと資本提携に合意した(図表1)。日本ではマツダに次ぐ2番目の外資との提携となったが、さらに三菱自動車がダイムラー・クライスラー社と資本提携した。日産は1999年10月に日産リバイバルプラン(以下、NRPと略)を発表しリストラを実施した。2000年3月に大幅赤字を出したが、2001年3月期には連結決算で大幅な黒字を計上した。この黒字転換への要因はどこにあったのか。ここでは日産の公表された財務諸表などの資料を用いて明らかにしていこう。


1 日産とルノーの資本提携

 1999年3月27日に日産はフランス大手自動車メーカー・ルノーと資本提携し、併せて日産ディーゼル工業への資本参加で合意した。ルノーは、日産グループに総額6430億円を拠出し、日産への出資比率を36.8%とした。ルノーは事実上の日産の経営権を握り、カルロス・ゴーンを最高執行責任者(COO)として日産経営陣に派遣した。トヨタ自動車に次ぐ日本で2位の日産が外資の傘下に入る資本提携は、ダイムラー・クライスラーの誕生で始まった世界的規模での自動車業界の再編を加速させている。ルノーは、日産が99年5月28日に実施した第三者割当増資(縁故増資)5,857億円を引き受け、筆頭株主となり、同時に5年物のワラント債2,159億円についても、ルノーがワラント部分を買い取った(図表2)。


 日産とルノーとの資本提携は、日産の自己資本にどのような影響を及ぼしたのであろうか。まず単独で見ると、資本金は1999年3月期の2,037億5500万円から2000年3月期の4,966億500万円へと2928億5000万円も増加している。同じ時期に資本準備金も3,774億1200万円から6,902億6200万円へと2,928億5000万円増加している。ルノーの払込金(出資金)は資本金と資本準備金の合計5,857億円である。つまり5,857億円のうち半分を資本金に、半分を資本準備金に組み入れている。またルノーは、日産ディーゼルへ22.5%出資し、日産と並んで筆頭株主となった。
 ルノーからの出資を受けた1999年度の資金調達・運用はどのように行われたか?
 ルノーからの出資5,857億円は、長期借入金の返済531億円と関係会社短期貸付金3,614億円への運用そして短期負債の返済の一部に用いられている。短期負債の返済は、短期投資1,177億円の一部があてられている。また、当期未処理損失7,564億円の増加によって「その他の剰余金」は、前期に比べて8,001億円も減少した。これは、次期以降の将来の支出のために、予め設定した各種の引当金(事業構造改革引当金など)や長期未払年金費用の計上によって生じたものである。この期には設備投資や投融資そして在庫投資は削減されてマイナスとなった。

2 日産再建計画「リバイバルプラン(NRP)」と収益性回復の要因

 NRPは、コスト削減や資産売却によって生み出された経営資源を将来の成長に向けての投資にあてることを基本的な考え方として、次のような目標を設定した(『有価証券報告書』、日産自動車2000年3月期)。
NRPの目標
@2001年3月期の連結当期利益の黒字化を達成
A2003年3月までに連結売上高営業利益率4.5%以上を達成
B有利子負債(自動車事業)を連結ベースで7,000億円以下に半減
 このNRPのもとで、2003年3月期までに、グローバルレベルで21,000人の従業員の削減(連結子会社を含む)と連結ベースでコストを1兆円削減する。この従業員やコスト削減目標を目指した「経営合理化」によって巨額の利益をあげたのである。
 これを図表3の損益計算書(連結・単独)で見ると、2000年3月から2001年3月期かけて、大幅に収益力が回復していることがわかる。それは、NRPの目標である連結当期利益3,310億円をあげたこと、連結営業利益の目標4.5%をこえる4.8%になったこと、そして、既述の有利子負債の削減が行われたことである。次ぎに2000年3月期から2001年3月期にかけての収益性回復の要因を見ると次のことがわかる(図表4)。



(1)総資本経常利益率は、連結・単独ともに上昇した。単独で3.79%、連結で4.37% で急回復した。これは、売上高経常利益率が単独で4.55%、連結で4.63%に上昇したためである。総資本回転率は前期(2000年3月期)とほぼ同じであるが、有形固定資産回転率は有形固定資産の削減(工場の閉鎖や部門の売却など)により上昇している(単独で4.5回から5.52回へ1ポイント上昇)。
(2)総資本経常利益率上昇の要因として売上高経常利益率の上昇があげられるが、これは売上原価率が単独で87.0%から82.86%へと約4ポイントも減少したためである。これは購買コスト(原材料費)が大幅に削減されたことによる(『有価証券報告書』2001年3月期)。「購買コスト削減は11%となりコミットメントの8%、ターゲットの10%以上を上回った」(第102期報告書、2000.3−2001.3)のである。この購買品コストの削減が日産の収益力回復の大きな要因となっている。

3 購買品・減価償却費、支払利息のコスト削減・資産売却収入とその影響

(1)購買品のコスト削減
 次に購買品コスト削減について見よう。この購買品コストの削減によって売上原価を低減させている。NRPでは、20001年3月期に8%の購買品コスト削減の目標をかかげた。この1年間に部品メーカーの絞り込みによる発注などで、このコスト削減は目標を上回る11%に達した。これは日産と部品メーカーとの間の相互にメリットが生じるという。しかしこのメリットは日産と選別に残ったサプライヤーだけにもたらされるものである。日産は部品メーカーの選別を厳しく行った結果、多くのサプライヤーが日産からの受注を受けられなくなった。そして日産はルノーとの購買品の一括購入を行ったのである。原材料などの購買(調達)コスト(図表5)を見ると、2001年3月期の単独の原材料費は、2兆255億3500万円で前年同月期の2兆1367億6800万円に比べると1,112億3300万円も減少した。また外注加工費は経費の中に含まれているが、日産の場合は開示されていないので不明である。このように原材料費などの購買品コスト削減で連結営業利益ベースで2,870億円の増益要因となった。


 この購買品コストなどの削減によって売上原価は、2000年3月期の2兆6072億円から2001年3月期の2兆4693億円へと1,612億円も減少した。このことにより売上総利益率は13%から17.11%へと4ポイントも上昇した。この原材料コスト削減や買入部品の単価引下げによって、鉄鋼メーカーや系列下請けへ大きな影響を与えたのである。
(2)工場閉鎖・部門売却による特別損失とコスト削減  NRPに基づく工場閉鎖・部門売却によって労働者や系列下請企業、取引先へ犠牲を強いている。2000年3月期にリストラ費用を特別損失に計上して赤字を拡大した。つまり事業改革特別損失として総額1,849億3600万円である(図表6)。これらの特別損失の赤字計上とともに、次期以降の支出見込額には引当金を設定した。


 もう一つは「工場のバラ売り日経産業新聞、2000年11月8日)といわれる部門の売却や「コアでない部門」の売却、そして主要工場の閉鎖である。たとえば日産栃木工場で、等速ジョイントドライブシャフトの生産部門をイギリス自動車部品大手のGKNに90億円で売却した。2000年11月1日に同部門はGKN傘下の新会社として再出発した。新会社は日産の同工場の第三製造部長が社長となり、従業員約270人が日産から出向して引き続きドライブシャフトを生産して日産に納入している。また横須賀市の日産追浜工場でもベルギーとフランスの合弁会社イナジーに樹脂製燃料タンクの生産ラインを売却し、約10人の社員はイナジーに出向した。またイナジーは日産九州工場のラインを2001年に取得した。
 また日産村山工場や愛知機械工業港工場(名古屋市)、日産車体京都工場の閉鎖がある。生産設備や製造の移管によって失われた生産台数は一台もないといわれる。しかし、多くの従業員を犠牲にした。栃木工場には、村山から「ローレル」、「スカイライン」、愛知機械から「セレナ」が移管された。こうした生産の集約で設備稼働率を引き上げた。国内工場の設備稼働率は前年度の7工場による51.1%から、今年度の4工場の稼働率(生産計画による)は74.1% になる。そして少量車種の生産は日産車体湘南工場に集約するとしている。
 図表7によると、有形固定資産は2000年3月期から2001年3月期にかけて520億2200万円の減少となっている。この減少のうち土地は271億5100万円である。この有形固定資産の減少によって減価償却費は2000年3月期の865億円から2001年3月期の456億円へと409億円の減少(コスト削減)となっている。このように工場閉鎖や部門の売却などによって売却収入を得るとともに生産の集約によって設備稼働率を高め、資本効率の向上を図ったが、従業員にとって労働強化や退職せざるを得ない状況をつくったのである。


(3)有利子負債の削減
 バランスシートの立て直しのために有利子負債(自動車事業注)の削減を掲げた。2000年3月期の連結有利子負債(自動車事業他)は1兆8348億円であったが、2001年3月期になると、1兆2363億円に減少している。これは1年間に5,985億円も削減したことになる(図表8)。
(注)有利子負債は以下の計算による。
 ・短期借入金+コマーシャルペーパー(CP)+1年内返済長期借入金+1年内償還社債+社債+転換社債+長期借入金+受取手形割引高+従業員預り金
 ・なお、日産の有利子負債の計算では上記計算式から受取手形割引高をのぞいている。
 また、図表9によると99年3月期の連結ベースの支払利息は1,029億円であった。これが2000年3月期となると739億円で289億円も減少し、利子負担を軽くしている。さらに、2001年3月期には422億円余りで317億3800万円の支払利息減少となっている。


(4)有価証券などの売却収入
 有利子負債の返済には、有価証券などの売却収入によっても行われている。単独ベースの有価証券は1999年3月期には2,375億円であったが、2000年3月期には2,011億円と364億円の減少売却収入となっている。2000年3月期の有価証券売却益は126億7100万円である。関係会社有価証券売却益も217億5400万円ほど計上した。
 2001年3月期の有価証券は、前期の2,011億8800万円からわずか800万円へと2,011億8000万円の減少(売却収入)となっている。この売却収入によって関連会社短期貸付金への追加投入が行われたと考えることができる。関係会社短期貸付金は、日産ファイナンスに6,020億円(前期に比べ2,023億円余りの増加)、カナダ日産自動車に184億円(新規)などに投入されている。
 連結ベースの有価証券も、単独の有価証券の場合と同様に大幅に減少(売却)している。2000年3月期の2,602億円から2001年3月期の39億円へと2,562億円の減少となった。  連結ベースの有価証券売却益は2001年3月期には385億9900万円となった。また投資有価証券売却益も、2001年3月期に264億4400万円となった。これらの売却益を含む売却収入は有利子負債の返済にまわされたのである(図表10)。


(5)販売費の削減
 マーケティング、販売に関して日産は、3年間で計画していた営業拠点300の閉鎖を1年間で完了した。地場資本化する予定の18の販売子会社のうち既に10が実施された。欧州ではハブ戦略を導入し、ルノーとともに配給店の整理統合に取り組み、既にスイスとオランダで統合した(2001年5月17日のゴーン社長の決算報告記者会見より)。
 この結果、連結販売費は、2000年3月期の3,480億100万円から2001年3月期には2,813億4100万円へと666億6000万円の削減となった。
 このように2000年度の日産の決算では、コスト削減と有価証券・設備資産などの売却益によって大幅な連結黒字決算となった。これは同時に従業員の労働強化や退職せざるを得ない状況に追い込んだり、健康を害すること、そして下請企業やディーラーの犠牲によって連結黒字決算になったことを示している。

4 2000年度の資金調達・運用結果

 次に単独ベースの2000年度(2001年3月期)の資金運用表(図表11)をみると、設備投資と投融資金の合計2,060億円は、減価償却費とその他の剰余金合計2,382億円によってまかなわれている。関係会社短期貸付金も短期投資によって行われたとみることができる。「その他の剰余金」が1,874億円も増大したのは、大幅な利益が貢献した。こうして日産(単独)は内部留保を増大させた。


5 労働者への影響

 工場閉鎖等による人件費の削減
 日産自動車単独の人件費は1998年3月期の3,416億円から、2000年3月期の2,776億円へと639億円余り削減されている。これは、98年3月期の39,969人から2000年3月期の32,707人へと、7,262人の従業員が減少したことによる。2001年3月期の従業員数は単独ベースで30,747人であるが、これを2000年3月期と比べると2,000人弱も減少している。人件費(単独ベース)は、2000年3月期の2,776億円ら2001年3月期の2,837億円へと60億円増加している。これは年金会計処理方式の変更に伴い、退職給付費用が81億9000万円となり、従来の退職給与引当金繰入8億8300万円よりも73億円余り増加したためである(図表12)。NRPでは現在、年間240万台の国内生産能力を3年間で約30%減らす。


 日産の国内外の従業員数(図表13)を『有価証券報告書』によって見ておこう。企業集団の連結従業員数は、2000年3月期の141,526人から2001年3月期の124,467人へと、17,059人も減少している。他方において企業集団の連結売上高は2000年3月期の5兆7770億円から2001年3月期の6兆896億円へと、1,125億円も増加している。このため、1人当たりの連結売上高は、4,223万円から4,892万円へと669万円の増加となっている。車両生産台数も2000年3月期の226万台から2001年3月期の247万台へと21万台も増加し、車両販売台数も241万台から256万台へと15万台も増加していることから見ても、生産や販売における労働強化が行われていることがわかる。これをより詳細に見ると、日産単独の製造従業員数24,818人と国内子会社の自動車及び部品製造の従業員数12,851人、そして在外子会社の従業員数27,039人を合計すると64,708人である。その他在外の従業員数3,703人(全ての従業員が製造に従事すると仮定)を合わせると、68,411人になる。生産台数が21万台増加しているので1人当たり年間3台ほど多く生産したことになる。


 国内では、日産単独(提出会社)の従業員数が2000年3月期決算から2001年3月期決算にかけて2,382人の減少になっている(実際の退職者は新規採用があるためにこれよりも多い)。また国内子会社の自動車及び部品の製造・販売会社は、2000年3月期から2001年3月期にかけて従業員数が5,980人も減少している。とりわけ、国内子会社のうち、自動車・部品の販売の従業員が5,023人も減少している。このように国内従業員の日産単独と国内子会社の従業員が8,362人も減少しているのに対して、在外子会社の製造工場の従業員数が2,260人増加している。とりわけ北米日産自動車が2,303人、メキシコ日産自動車が1,095人で合計3,398人も増加している。国内生産・販売の集約・縮小化と海外生産の拡大が推進されている。このことは、単なる生産・販売の集約・縮小化ではなく「日産リバイバルプラン」に基づき従業員の労働強化をともなって進められていることを意味している。

6 筆頭株主ルノーへの巨額の利益配当

 ルノーは1898年に設立され、現在プジョーと並ぶフランスを代表する自動車メーカーである。1990年に公団から株式会社に改組したが、フランス政府がルノーの株式を44.2%所有し、筆頭株主となっている。2位はアメリカの年金基金である。このため日産の利益はルノーの持ち分額に対して配当され、さらにフランス政府やアメリカの年金基金に分配される。2001年3月期の日産の利益処分案をみると、未処理損失5,792億9300万円は、別途積立金7,347億4200万円や租税特別措置法に基づく諸積立金129億5900万円の取崩しによって処分可能利益1,684億900万円を計上した。
 この処分可能利益を基にして利益配当金278億4000万円(1株につき7円)などに処分したのち繰越利益1,202億9500万円をだしている。ルノーの所有株式数は14億6425万株(発行済み株式の36.82%)であるので、ルノーへの配当金は102億4900万円になる。この利益処分案にみられるように、未処理損失を内部留保である別途積立金を取崩して精算した上で、株主に対して278億円余りの配当金を支払うとしている(図表14)。労働者の賃上げ要求には内部留保を取崩さないで、ルノーの配当要求に応えて内部留保を取崩している。労働者や下請企業犠牲の配当増加である。

7 「演出」された2000年3月期の赤字決算

 日産自動車の2001年3月期決算の大幅黒字の「V字回復」は「経営陣が先々の損失を可能な限り前の期に計上し、急回復を演出」(日本経済新聞、2001年5月27日)したケースといえる(図表15)。


 「引当金とは将来予想される特定の費用に備えて積み立てるお金のことで、決算上は損失と見なされる。ただ実際は使われないので、先々の増益要因となる。日産が2000年3月期に計上した7,496億円の特別損失の多くがこの引当金だった」(同上紙)といわれる。
 1.2000年3月期に計上した工場閉鎖費用700億円については、村山工場閉鎖は2001年3月29日であり、前倒しで特別損失に計上した。
 2.早期退職割増金の引き当て600億円については、仮に1人1,000万円とすると1人1,000万円×6,000人=600億円になる。これも2001年3月期の退職者への割増金を前倒しで計算した。
 3.会計処理方法の変更や不動産の評価換えもV字回復に使われた。これは有形固定資産の減価償却方法を定額法に変更した。これによって2000年3月期に資産価値を全面的に見直し、465億円の損失を計上した。2001年3月期には287億円の営業利益の増益要因となった。また不動産の損失処理は650億円であったが、2001年3月期では逆に550億円の売却益(特別利益)を出した。
 以上を総合すると、連結最終損益1兆円の改善のうち、少なくとも半分の5,000億円は、こうした「会計マジック」の効果とみることができる(日本経済新聞、2001年5月27日)。
 この「会計マジック」の効果が5,000億円と見ると、2000年3月期の最終赤字は6,843億円から5,000億円を控除した1,843億円に縮小する。前倒として特別損失を計上しておいて、2001年3月に不動産の売却益(特別利益)を出したのである。こうして、2001年3月期に大幅な連結黒字となったが単なる「会計マジック」が発生要因でなく、既に述べた従業員・下請系列企業などの犠牲のもとで連結黒字となったのである。


U 系列・下請け関連企業の状態の変化


1 系列の選別

 日産自動車の3月期連結決算が、過去最高となる3,311億円の黒字と、V字型の急回復を示した主要な要因には、系列企業の再編、関連・系列企業の持株売却、系列解体・再編で、部品・サービス供給業者の30%切り捨て、それをプレッシャーにした価格交渉で、コストカッターの名の通りの単価引き下げを強行し、購買コストの11%削減がある。系列・関連下請け企業と労働者に多大の犠牲を押し付けたことである。
 これについて、ゴーン社長は「取引部品メーカーをいじめているわけではなく、部品メーカーも取引量が拡大し、双方に利益が出る方式だ」としているが、それは選別された一部の企業でしかなく、系列から外した企業は考慮の外に置かれ、また、1次メーカーに部品を納める2次・3次メ−カーは取引先として取り上げられず、そこで倒産が増えても問題にしようとしないからである。
 たしかに日産系部品メーカー17社の決算で、日産の購買コスト削減による購入単価引き下げでは、売上高は軒並み前期より減少したが増益率は高い(図表16)。つまり発注部品企業を切り捨てて絞り込み、選ばれた企業には集中発注による発注量増をてこにした単価引き下げを求め、部品企業はそれをこなすために、激しい人減しや、生産の集中化など効率化追求の生産体制変更などリストラ「合理化」を強行した結果である。


 ゴーン社長は株主総会で、「2000年度に倒産した取引先は10社で、98年度の14社より減っている」と述べたが、厳しい選別に生き残った企業が業績を上げたことの背後には、選別淘汰された多数の関連企業と労働者の犠牲が隠されていることが重要である。

2 主要系列企業のリストラ「合理化」の事例

 これらについて当面マスコミに報じられたいくつかの例をあげておこう。
 (1) カルソニックカンセイでは、4,300億円の売上を上げたが、日産からの値引きによる216億円の売上減少分が生じた。これに対し、VEやVA提案、内製化や資材メーカーなどの調達先の絞り込みによる資材費削減などで220億円の「合理化」を行って吸収したとされる。さらに間接部門の人員削減を進めている。2000年4月にカルソニックとカンセイが合併で生じた間接部門のポスト・人員の重複に対し、間接要員を新規事業分野や、購買・調達部門に投入してきたが、合併後1年たち全体の業務が軌道に乗ったことから、改めて間接部門の効率化に取り組むこととされた。実績評価と業績連動部分の拡大など業績配分比率を高めた給与体制の抜本的改革、別会社採用による完全年俸制、ストックオプションの導入など、人事制度全体の見直しによる効率化の推進に取り組むとしている。
 (2) 日産系列の外装部品メーカー橋本フォーミング工業では、既に日産の販売の落ち込みで98年に横浜工場を閉鎖したが、NRPに基づき製品納入先の愛知機械工業の港工場、日産車体の京都工場の車両生産中止により、名古屋工場での生産を2001年9月までに中止する。同工場はホイールカバーやラジエーターグリルなどの樹脂成型部品を主力生産品目としており、年間生産額は20億円、従業員50人。これらの従業員は藤沢工場、館林工場など、関東地区に配置転換する。ホンダ鈴鹿製作所向けの部品生産も館林工場に移管する。名古屋工場は中部地区の物流拠点とし、グループの運送会社に運営を任せる方針とされている。
 (3) 愛知機械工業では、車両生産が日産栃木工場との並行生産となった結果、11.1%減、主力の手動変速機(MT)がジャトコ・トランステクノロジーから生産委託を受け、前年度比91.2%増とほぼ倍増、エンジンは前年並み、また子会社の愛知機器が米国でホンダ向けATギアを拡販するなどで、売上高は1.5%増の2,172億円だが経常利益は2.2倍の61億円となった。2001年3月期末で車両生産から撤退したため、2002年度の生産は半減するものとして、人員削減を5月までに完了し経営「合理化」を目指し、日産グループ以外の販売比率を引き上げることとしている。2001年3月末で車両製造から撤退し、ユニット専業メーカーとなったのを機に、年功序列的な資格制度を撤廃し、実績主義を徹底する。新制度は日産の賃金制度をモデルとし、課長以上の管理職約140人に年俸制を導入する。各人が目標を明確に定め、その実績をストレートに賃金に反映させ、目標を達成すれば、特別加給が加算されると言うもので、これによる最高と最低の年収差は、部長職で240万円、次長職で160万円、課長職で195万円になるとされる。現在、次長、課長職について試行中であり、2002年4月からの本格導入が目指されている。
 (4) ユニシアジェックスでは、分社化と早期退職優遇制度の活用で1,100人の人員削減を実施。フジユニバックでは、早期退職優遇制度と工場統廃合による「合理化」で経常損益を黒字に転換したが、さらに2001年末までに水窪事業所を閉鎖し、人員を関係会社に移管する計画で、桐生機械では工作機械部門を分社化して「合理化」を図るとしている。
 (5) 日産村山工場に自動車シートを納めていたタチエスは、同工場の生産打ち切りにより、昭島工場を閉鎖し、従業員400人中本社管理部門要員として80名を残し、退職16名、残りは栃木、追浜工場に転勤させられた(2年後には青梅・武蔵工場へ戻す約束)。
 このタチエスは、日産が保有するタチエス株をシート部品メーカーの富士機工に売却、日産系列を離れることとなり、アラコと自動車用シート分野で提携すると発表した。トヨタの子会社でトヨタを主要取引先とするアラコと、日産やホンダとの取引が多いタチエスが組むことで、相互に顧客基盤を拡大し、販売量を増やすことが可能と判断したものとされる。海外では、東欧やインドのアラコの生産拠点を同地域に未進出のタチエスが活用する計画といわれる。
 ス 日産村山工場に車体部品を納めていた藤沢製作所は、東大和工場を閉鎖し、埼玉県の蓮田工場に移転したが、従業員に寮さえ用意せず、多数の従業員が退職に追い込まれた。また、村山工場の西にある砂原塗装工業では、日産からの3割コスト削減の圧力を受けて、2割の賃金カットを従業員におしつけようとして来たが、JMIU支部を結成して闘いが組織された結果、賃金カットを撤回させた。
 セ 日産系プレス部品メーカーのユニプレスでは、NRPに対応し2000年度から国内拠点の閉鎖を含む構造改革を進め、人件費削減や材料費の低減で30億円以上のコストを削減した。他方で栃木と福岡の工場、米国の現地法人に大型プレス装置導入で20億円を投資し、また日産の米、仏の新工場に対応し、2003年に米とフランスに生産拠点を新設する。日産が持つ3割の株の扱いについて、売却先の希望を機会あるごとに日産に伝えている。
 ソ 日産を主要な取引先とするステアリング部品メーカーのリズム(社長はユニシアジェックスから)は、北米現地生産の拡大などで、余剰人員が出ることで、グループの全18社で、従業員の1割100人強が、希望退職に応じ、2000年3月で退職、4月以降は、期間工や派遣などの利用を検討している。
 タ 日産を主要取引先とする駆動系部品メーカーのフジユニバンスは、日産の価格引き下げに対応して、150〜200人の早期退職募集を2000年5〜6月に行った。3年後をメドに、1,200人の従業員を85人程度に減らし、国内生産拠点を2〜3年を目途に集約する。
 チ 日産所有の河西工業株は長瀬産業に譲渡。河西はこれまで連結売上高の70%を占めていた日産グループ向けの比率を、2003年度に50%にすることをめざし、「脱系列」の動きを加速した。米フォードとマツダグループ向けに部品供給をはじめる。マツダが2002年に米国市場に投入する主力セダン「626」(日本名カペラ)向け内装部品、年間約20億円。2003年を目途にフォードのスポーツ車「マスタング」向けに、ルーフトリムを納入、年間約10億円の計画している。
 ツ ユニシアジェックスは、従来日産向けだけだったが、ホンダにバルブ・タイミング・コントロール(VCT)システム部品を納入、生産拡大を目指す。これまで厚木工場と秋田工場で、年間100万台分生産していたが、子会社の「ユニシアいわき」(福島県いわき市)に10億円を投じ、VCTシステム関連部品の生産ラインを新設し、同部品の生産を「ユニシアいわき」に順次移管し、年間生産能力を180万台に引き上げる。米国でも同部品の新たな専用工場を建設中で、2002年稼働の予定である。
 秋田工場では、N型パワーステアリング用ポンプを生産し、日産に供給していたが、日産の原価低減要求に対応するため、タイ工場に移管し、国内工場は新型製品の生産拠点として活用する。秋田工場では、生産設備の40%削減など余剰生産設備を廃棄し、ドイツ部品大手のZFと共同開発した新型部品への切り替えを進め、タイとの分業体制を強化する。さらに、分社化しての合弁会社化を検討されている。

3 末端下請企業への犠牲の押し付け

 このように自動車メーカーと直接取引する大手1次部品メーカーは人員削減や工場統廃合、取引先の絞り込み、日産以外の受注先開拓、調達コスト削減などで対応するが、その負担は規模の小さい2次、3次の部品メーカーや加工専業者など体力のない中小業者に転嫁される。大手部品メーカーは業績回復を示しても、その犠牲は労働者と2次、3次と末端企業中小業者に押し付けられ、それらの経営の悪化と破綻を一層厳しいものとしている。 例えば、「アエラ」2001年6月4日号では、日産の単価引き下げが下請けに玉突き値引きを生じ、下請け間で下請代金法違反で公正取引委員会から勧告を受けることとなった例が報道された。日産の2次下請けのA社(ドア鉄製部品、神奈川)は、取引価格の引き下げを下請けのB社と合意していたのに、B社が代金をA社に請求したところ、A社は当初計画ほど日産の仕事量を確保できず赤字になることを理由に、値引きの上積みを要求し、これを呑まなければ仕事がもらえなくなることを恐れたB社はやむなくこれに応じたが、値引き額は200万円に昇った。こうした下請け代金減額は、下請代金支払遅延防止法違反であり、下請け側からの告発により公正取引委員会が調査の乗り出し、A社に違反是正勧告を出すに至った。日産は仕入れ先を絞って1社当たりの仕事量を増やすからと値引きを求めてくるが、仕事量が増えるのは1次下請けだけで、2次・3次下請けには仕事は増やさず値引きの数字だけが先回りして下りてくる。三つに別れていた部品を一つに統合するなどでコストは下がるが、技術的にも難しくなり、利幅も少なくなる。日産は単価引き下げのために設計段階で部品メーカーから提案を求め、これらにより1次下請け部品メーカーは「3年間で25%削減」を求められたところが多く、2次下請けメーカーに協力させて、1年目はこれに対応した。しかし、日産のグローバルな部品仕入れ先の再編で、仕事を打ち切られるリスクに晒されている。「2年目の不安」は全部品メーカーに共通で、鉄製部品メーカーの東プレが、日産から示された目標は1年目の7%に対して2、3年目が9%づつ拡大する。部品メーカー側は「人員を削減し、仕入れ先にも値下げをお願いしているが、原価低減のネタがだんだん切れてきた。合理化ではカバー仕切れないかもしれない」とし、日産の開発現場からも、「部品メーカーから原価低減の提案が次々とあるが、材料を薄くするなど、苦し紛れのものもあり、リスクを伴う提案は実験で安全性を確認するから、我々も大変だ」「つぎのモデルチェンジで切られると分かっているメーカーは、日産に対して余分な手間を惜しむ姿勢が見え、長い間に築いた信頼関係が崩れて行くのを感じる」との声が出ていることを、同「アエラ」誌は伝えている。
 日産の仕事が売上げの4割を占める孫請けの運送会社D社では、2000年9月、1次下請けの運送会社から2〜5%の運賃引き下げを一方的に宣告された。有料道路は使わないなど細かな経費削減をしても限界があり、窮余の策として時間外手当などを多く受け取った運転手に、燃料費の一部自己負担を認めさせるなどで対処したが、孫受け運送会社のE社でも、運転手の給与をこれ以上減らすのは困難であり、運転手の数を減らせば労働強化に繋がり、事故の危険が増えると訴えている。
 日産は系列解体で、再編された直接取引のある一次下請けのコスト削減と経営状態はとらえていても、それ以下の下請けに、どのような犠牲転嫁が行われているかについては関知しない態度をとっているのである。
 こうして日産の巨額の利益は、2次以下の末端下請け企業の犠牲のうえに達成されたものだが、さらに日産は購買コストの2002年度末の2割引き下げ目標に向け、「モジュール生産」を目指す「合理化」で、内製部品部門を海外の大手部品メーカーに相次いで売却、外注化を図るなど、低コストによる国際的規模の最適地調達のシステム構築を進めており、下請け関連企業の整理淘汰、犠牲の強要は一層強まろうとしている。


V 労働者犠牲のうわべだけの「回復」
−−現場からの報告−−


 99年10月18日、日産自動車のカルロス・ゴーン最高執行責任者(当時)は、5工場の閉鎖、2万1000人の削減、関連企業の半減を柱とする大リストラ計画「日産リバイバルプラン」を英語で発表するなかで、次の部分だけ片言の日本語で述べた。
 「日産リバイバルプランを成功させるためには、どれだけ多くの努力や痛み、犠牲が必要となるか、私にも痛いほどわかっています。でも信じて下さい。他に選択肢はありません。」
 その後の約2年間、氏が実行してきたことはこれまで営々として日産を支えてきた関連企業と労働者に対して、徹底的に犠牲を強いることだった。
 最近のマスコミの多くは、ゴーン社長が日産再生を着実に実行していると報道しているが、とらえ方が一面的に過ぎる。日産自動車労働者にとって「リバイバルプラン」が何をもたらしたのかを客観的にみていくことによって、事実を明らかにしたい。

1.「NRP」の労働者への影響

(1)長時間・過密労働を前提とした生産能力削減
 リバイバルプランが発表される直前まで日産の経営陣は、日産の現有生産能力を200万台とし、実際の生産が170万台でも利益が出る体質に改善することを目標としてきが、「リバイバルプラン」では現有生産能力を一気に240万台だと言い直した。その根拠が、「完全稼動の2シフト」なる生産体制である。これは毎日の残業と月平均3回の休日出勤を前提とし、年間の超過勤務時間が労基法が定めた360時間を大幅に越える。3工場を閉鎖すれば、販売好調時には過酷な生産体制になるという労組の指摘にたいして、氏はフランス流の3シフトを導入することを前提とした「年間5000時間の(設備)稼働時間」を行うとさえ述べた。現実に販売好調なマーチの生産に携わってきた村山、追浜工場の労働者の超過勤務は年間四百数十時間に達している。
(2)工場閉鎖で多数が退職
 1966年に日産が吸収した旧プリンス自動車工業は、東京に荻窪、三鷹、村山の3つの工場をもっていた。その3つの工場が、荻窪98年、三鷹99年、村山2001年と立て続けに閉鎖され、労働者は荻窪から群馬県富岡市(2000年7月に石播に売却)、三鷹から愛知県刈谷市(99年4月に豊田自動織機に売却)、村山から栃木、追浜等の工場へ配転された。その結果、退職・失職した人は村山工場だけで約700名に及び、これらの人の圧倒的多数は、未だに職に就けずに、わずかな割増退職金で生活をつないでいる。
(3)工場閉鎖で圧倒的多数が単身赴任や遠距離通勤
 村山工場、日産車体京都工場、愛知機械港工場(名古屋)の3工場の閉鎖により、労働者は栃木、追浜、座間、日産車体湘南(平塚)等の各工場へ配転され、そのほとんどが単身赴任または遠距離通勤を余儀なくされ、健康破壊、家庭生活破壊がすでに顕在化している。ゴーン氏自身はフランスから妻子を呼び、「ベストファーザー」のひとりに選ばれる子煩悩ぶりが報じられているが、労働者は昭和30〜40年代につくられた独身寮でわびしい一人暮らしを送っている。追浜工場へ単身赴任した工長が、居室で急死していたことが翌日発見されるという痛ましい事件もおきている。
(4)信賞必罰の賃金制度の導入とサービス残業の増加
 「リバイバルプラン」の柱のひとつに、実績重視型の賃金制度の導入が掲げられているが、すでに管理職は年俸制になり、主査クラスは実績にリンクした賃金体系に変えられ、毎年の業務を本人が会社と「コミットメント(必達目標を約束)」して実績を評価するようになった。そのため、残業手当なしで長時間・過密労働を強いられ、部下に対しても残業手当なしの労働を強いるようになっている。
 ゴーン氏自身、朝7時から夜11時まで働くという「セブン・イレブン」の異名を誇りとしており、株主総会で役員報酬の倍加を決定して自らの収入も増加させたが、労働者の低賃金には全く無関心である。

2.「痛み」を末端に押しつける「再生」はあり得ない

 小泉首相は先日、ゴーン社長を招いて「日産再生の手法を国政の参考にしたい」ともちあげた。「構造改革」の痛みを国民に押しつけることを公言してはばからないところは、ゴーン社長と通じるところがある。
 リストラによって企業は回復するのか?
 そうは思われない。2001年上期(1−6月)の生産実績をみると、日産は国内および北米で大きく後退している。すでにみたように、7,347億円の別余積立金を全額取り崩したことは社内では全く説明されていない。労働者、関連企業、地域住民を犠牲にした日産の業績回復は、演出された回復であり、長い目でみればいっそう日産の企業の体力を弱めるだろう。この2年の間、ルノー資本の意を体したゴーン氏のリバイバルプランに対して、全労連・JMIU・JMIU日産支部は、総力をあげて反対運動を組織してきた。その理由は、一言で言えば「労働者犠牲のうえにたった企業の再建策」から、日産および関連企業の労働者の生活を守り、日本全体をおおう「リストラ万能」の風潮をおしとどめ、日本経済の真の回復の方向をめざす全労連をはじめとする労働者と国民の運動に積極的な役割を果たしたいという気概に燃えたからである。
 最近、村山工場の跡地を宗教団体に売却する可能性があることが報道された。「わが亡き後に洪水よ来たれ」まさに資本の姿が示されたような象徴的な出来事である。
 もう一度、「リバイバルプラン」の到達点を振り返ってみよう。「リバイバルプラン」は、
(1)連結ベースで労働者1万4200人削減
(2)部品メーカー30%削減
(3)サービスなどサプライヤー40%削減
(4)販売拠点300店閉鎖
(5)部品購入額3,220億円削減
(6)関連企業保有株式80社。1,460億円も売却
(7)3つの車両組立工場の生産打ち切り
(8)長時間過密労働の強要
 まさに「一将功成って万骨枯る」経営を許すことはできない。

3 リストラ反対運動の飛躍的拡大をめざして

 これに反撃する運動の方向としては、
 まず第一に、「リバイバルプラン」が労働者、国民および国民経済の利益と相反するものであることを解明することである。日産リバイバルプラン発表後、三菱自動車、マツダ、いすゞなど相次いで同様のリストラ策を実施しようとしている。
 最近、NEC、東芝、松下など電機産業で大規模なリストラ計画が発表された。
 これらの資本側の動きに対して、「リストラ合理化」に反対し、労働者の雇用を守り、拡大することは、国民経済の改善に欠かせないものであることが、国内の世論として広がろうとしている。このような情勢のなかで、経験したことを世間に伝えていくことは、日産の労働者としての責務である。
 第二に、このたたかいを通じて獲得した職場労働者の信頼を、具体的な組織の拡大に結実させることである。活動は日産の労働者の共感を得ている。仲間は、栃木、横浜、追浜、座間、村山、日産テクニカルセンターなどに活動の足場をつくることができた。ここを拠点に組織の拡大を追求する。
 第三の課題は、情報交流の強化、共闘の拡大である。前述の通り、いま日本中の企業の中にリストラの嵐が吹き荒れ、これに反撃するたたかいも強化されてきている。多国籍企業の横暴に苦しむ各国の労働者のたたかいの交流も広がっている。
 このような内外情勢の中で、自動車関連の労働者、電機をはじめとする他産業の労働者および海外の労働者との共通の要求に基づく運動を展開していく必要がある。
 第四の課題は国民的共同の課題である。
村山工場をはじめ多くが、地域の産業・経済振興のために、国と自治体が多様な優遇措置をもって誘致した工場であり、それによって地域の関連する商工業の集積ができ、労働者・住民の生活する地域が形成され、自治財政も成り立っている。従って、日産の地域社会に対する責任はきわめて大きい。
 それにもかかわらず、日産は自治体や地域に事前の協議もなく、NRPによる工場閉鎖、大量の人員削減と下請企業の整理淘汰などの強行で、地域社会・経済に深刻な被害を及ぼしていることは、大企業の社会的責任を無視した行為である。しかも、これによって多大な利益を手にしたことは社会的な不公正の拡大である。
 雇用と営業の確保をはじめ、日産の地域社会に対する社会的責任を果たさせることは、日産関連労働者だけでなく地域住民と自治体、地域中小業者の共通の課題となるものである。地域から広範な力を構築して、大企業の横暴を規制する共同行動を強めることが重要であり、この取組みへの糧として、日産の経営分析を活用されたい。