2001年7月1日(通巻136号)



2001年度活動方針案 目次
1 2000年度における活動経過
2 調査研究活動をめぐる情勢と課題
3 2001年度の事業計画
4 研究所活動の拡充・改善




2001年度活動方針案


1 2000年度における活動経過

 2000年度定例総会は労働総研発足から10年にわたる事業・活動を総括するとともに、21世紀初頭の情勢を展望しつつ、「21世紀初頭の研究活動にあたっての基本視点」として以下の五点を提起し、研究所活動を21世紀にふさわしく強化発展させていく方針を採択した。
 @労働者状態の体系的・全面的把握
 A資本蓄積条件の再構築
  =搾取強化の体系的な把握
 B情勢分析のための組織的・集団的研究
 C経済の民主的改革を展望した、要求と政策のあり方についての調査研究
 D国際労働運動の動向とそれとの連携条件の把握である。
 研究所はこの1年間、新しい執行体制のもとで上記方針の具体化に取り組みつつ、以下の諸活動をおこなった。

(1)定例研究例会
 @「日経連・労問研報告と成果主義賃金」
 報告者・金田豊常任理事、コメンテーター・川辺平八郎会員、2001年1月19日、於・北とぴあ、参加者25人
 A「緊急経済対策・国家的リストラにどう立ち向かうか」
 報告者・今宮謙二会員、コメンテーター・熊谷金道(全労連)、国吉昌晴(中小企業家同友会)、原紀昭(銀労研)、2001年4月28日、 於・グリーンホテル御茶ノ水、参加者50人

(2)研究部会・プロジェクト活動
 1)各研究部会・プロジェクトの月別開催状況は(資料@)2000年8月から2001年7月までの間の累計78回であり、毎月平均6.5回の研究会がおこなわれた。
 各プロジェクト・研究部会の開催状況は、@地域政策研究=8回、A賃金・最低賃金=7回、B労働時間=10回、C労働法制=0(特別な事情であり口頭報告)、D社会保障=5回、E青年問題=8回、F女性労働=10回、G不安定就業=4回、H中小企業=6回、I国際労働=6回、J政治経済動向=9回、K関西圏=5回、などである。なお、この他に“日産問題緊急チーム”が4月から5回もたれている。
 2)研究部会・プロジェクト責任者会議(3月24日)が開催され、当面する研究活動を充実・発展させるために、@各部会間の交流を活発にする、A固定されたメンバ−だけでなく、一般会員が部会研究会に参加できる道を開く、B若手研究者の参加を促進する、Cいくつかの研究部会における改善・拡充を急ぐ必要がある、などの点をめぐって、活発な意見が交わされた。
 3)前記Cとの関連で、国際労働研究部会における新メンバ−の補充がおこなわれた。

(3)出版・広報活動
 @「日本的労使関係プロジェクト」の研究成果をまとめた『グローバリゼーションと日本的労使関係』が発刊された。(2000年10月30日刊・新日本出版社)
 A労働総研クォータリー・労働総研ニュース・英文ジャーナルなど3種の定期刊行物について、年間を通じての編集方針の策定と編集体制整備による紙面充実をすすめた。
 B政治・経済動向研究部会における研究課題と関連して“動向四季報”を紙面に掲載し会員・読者の動向把握の参考に供してきた。
 C海外向けに労働総研の存在と役割を発信するため労働総研ジャーナルNo.33、2001年春季号で「労働総研とは」を特集した。

(4)研究体制の整備・拡充
 @会員デ−タの整備、研究所活動改善のために個人・団体会員アンケートを実施した。回答数は個人会員39、団体会員12であった。
 A回答に記載された要望・意見の概容は資料のとおりである。

(5)全労連活動との協力
 @定期協議は2000年10月6日におこなわれた。
 A全労連主催による第3回国際シンポジュームが2000年10月30日から11月2日に箱根湯本でおこなわれ、労働総研として6人、個人会員数名が自主参加した。
 B全労連編「2001年国民春闘白書」の編集・執筆に協力した。
 C以上のほか、「ビクトリーマップ・2001年版」、「世界の労働者のたたかい」、「全労連資料史」、「月刊全労連」への執筆、「新人事制度と成果主義賃金」への助言、諸団体も参加する各界懇談会による“ナショナル・ミニマム確立”提言素案作成、「目標と展望」をめぐる意見交換など労働総研・研究部会および会員研究者による協力がおこなわれた。

 以上を概括すれば、2000年度の研究所活動は、急速に変転する情勢に対応しつつ、いくつかの積極的な前進を開始することができたとはいえ、日本の労働運動が求めている調査研究課題に的確に応える上では、まだ不充分なものであったといえよう。

2 調査研究活動をめぐる
  情勢と課題

(1)小泉内閣の登場と国家的リストラの推進
 日本経済は2000年秋以降から新たな後退局面に入ったが、年末にはアメリカの「ITバブル崩壊」も加わり「デフレスパイラル」の状況となってきた。また、アメリカでの軍需産業・石油独占の“申し子”であるブッシュ政権誕生により、日本に対するアメリカの軍事的・経済的・政治的圧力がさらに強まるようになった。
 このような状況下に、「改革」を看板に登場した小泉内閣は、これまでの自民党政治に対する国民の不満と怒りを逆手にとって高い「支持率」を獲得し、欺瞞的な手法で、国民に「痛み」を押しつける国家的リストラを一気に強行しようとしている。
 この点で、@小泉内閣に正面から政策論争を挑むのは日本共産党だけとなったこと、A「野党共闘」を構成してきた共産党以外の各野党は、小泉内閣の応援部隊となったり無批判となったりして、自民党政治の大枠から抜け出せない政治的・政策的弱点を露呈するようになったこと、B政権与党の公明党が、宗教団体と一体となって、いよいよファッショ的な言論攻撃の暴力集団と化してきたこと、C多くのマスコミが“小泉人気”に追随する論調を展開してきたこと、Dこうした状況下に、労働者の間にも「小泉人気」のかなりの広がりが見られること等は、注目すべき動向である。
 しかし、小泉内閣の「改革」が、アメリカや大企業の言いなりに国民生活の破壊をおしすすめる、きわめて危険なものであることは、国会論戦や都議選、参議院選などを通じて次第に浮きぼりになってきており、マスコミをもふくめて世論の動向は変化しつつある。研究所は全労連をはじめとする労働運動とともに、小泉人気形成の社会的諸条件を解明しつつ、とりわけ次のような諸点で小泉「改革」の反国民性を明らかにしていく必要があろう。
 @対米公約である大銀行の不良債権処理〜中小企業の倒産と失業の激増〜
 A集団的自衛権による戦闘行動への直接参加〜明文改憲と民主主義破壊〜
 B内閣報償費・外交機密費追及の不徹底〜自民党政治の汚職・腐敗体質の隠蔽・温存〜
 C“どけん国家”・巨額な公共事業費問題〜政財官にアメリカまで加えた、末端までの利権構造〜
 D社会保障・生活関連予算切捨てと消費税率引き上げ〜財政・税制による大衆収奪の飛躍的強化〜
 E省庁・公務員制度再編・地方自治体の統合や公的機関の民営化〜有事法制など国民無視の支配体制強化と、大学・郵政を含む公的機関に対する大企業支配・介入と新たな高収益機会の創出〜

(2)労働者・国民の状態悪化と意識変化
 完全失業が年平均で300万人・4%台を超えたのは1999年(317万人・4.7%)であったが、2001年5月現在でもそれは348万人・4.9%とまったく改善のきざしを見せておらず、今後はさらに増加するとみられている。最近の失業をめぐる事態の深刻さは、失業期間の長期化と求職活動を断念して「非労働力人口」と化した失業者の増加に端的に示されている。「労働力調査特別調査」(2001年2月)によれば、失業期間が1年以上の完全失業者は全体の4分の1近い83万人であり、「非労働力人口」4,263万人のうち就業希望者は982万人に上っている。無収入状態にある実質的失業者数は、政府統計における完全失業者を上回ってさらに多いと推測される。
 現役労働者の賃金・収入の低下と支出の減少も深刻である。毎月勤労統計による実質賃金指数は96年度の101.8から99年度の98.5と3年連続で低下した。2000年度では99.6とやや持ち直したが回復したとはいえない。勤労者世帯の家計支出も減少しており、2001年4月現在における前年同月比で名目−5.0%・可処分所得は−2.2%と大幅に低下した。また各種の社会保障・福祉制度の相次ぐ改悪による給付削減と自己負担増加も、消費低迷をもたらす要因となっている。
 また、失業の大幅増、所得の低下とともに、雇用構造の変化による影響も大きな問題である。「労働力調査」による2000年平均の週間就業時間階級別雇用者数を見ると、1〜35時間就業が95年・896万人から2000年1,053万人へと157万人増加する一方、35〜48時間就業は2,855万人から2,718万人へと137万人減少している。フルタイマーの「正規雇用」からパートタイマーなど短期的な不安定雇用への置き換えが進んでいる。これが賃金水準の切り下げなど労働条件の低下と一体であることは言うまでもない。
 労働者状態の悪化を生み出している今日の国家的リストラは、中小企業の経営を軒並み悪化させ、倒産の激増など国民の状態を悪化させている。行財政「改革」による公的責任・サービス後退や社会保障・社会福祉切捨てが労働者・国民の生活不安を高めている問題もある。国民に平然と痛みを押しつける自民党政治こそ今日の「デフレスパイラル」と生活危機を生み出している最大の要因であることが、いよいよ鮮明になってきている。また、今日進行しつつある「IT革命」は、労働者・国民の労働・生活を激変させつつあるが、現状ではそれが、多くの点で格差拡大と弱者切捨てをおしすすめる方向に作用しており、国民の将来不安を高める要因ともなっている。
 こうした状況のもとで、労働者・国民の意識は大きく変化してきている。職場でも地域でも、労働者・国民を拘束してきた反共主義・労資協調主義・特定政党支持がいっそう後退するなかで、自覚的な活動家たちと広範な労働者・国民各層との対話が広がっている。ただし、この点では、参議院選挙における非拘束名簿方式導入にともない、組織内候補への支持強要が広がるなど、新たな巻き返しの策動が見られることに注意する必要がある。
 そのなかでは、労働者・国民の今日直面している生活危機と将来への不安がきわめて大きく深刻であること、そしていまや圧倒的多数の国民が自民党政治を大元から変える「日本改革」を切望するようになっていることが、浮き彫りになってきている。各種世論調査における小泉内閣への高い「支持率」の根底にあるのが、こうした「世直し」への切実な要求と自民党政治に対する怒りであることを見失ってはならないだろう。

(3)「構造改革」イデオロギーの展開と
  市場万能論批判の国際世論の高まり

 小泉内閣の政策は、これまでの自民党政治を継承するものであり、従来にも増してアメリカと大企業の利益を優先し、国民生活に過酷な犠牲と負担を強要するものである。経済財政諮問会議が決定した「基本方針」は、多くの点で小渕内閣当時における経済戦略会議の提言内容とうり二つであり、アメリカの要求に従ってすすめる金融の量的緩和や大規模な「不良債権」整理強行の政策は、国際投機資本奉仕の売国的な政策となっている。しかし、その本質と具体的内容を「骨太の方針」なる名の下に隠蔽し、あたかもそれが自民党政治の解体をめざす、中長期的な国益のための政策であるかのように見せる、欺瞞的な世論操作のもとに展開している、というのがその政策の特徴である。イデオロギー的な争点となっている主要な事項としては、以下の諸点を挙げることができよう。
 @グロ−バル化・「IT革命」のもとでの、国内外にわたる新たな独占支配=高蓄積体制の構築と、アメリカン・スタンダードによるくらしと労働の全面的再編成
 A「規制緩和」政策による公的責任の棚上げ・社会保障・社会福祉の権利剥奪と公的分野の全面的営利市場化
 B少子高齢化・社会保障危機論等を動員した、財政・税制および国・地方自治制度の反国民的「改革」と消費税率大幅引き上げなど国民大収奪政策の推進
 C「自助・自立」原則の導入、「セ−フティネット」論の推進などによる生存権保障の剥奪
 D「構造改革」と国民への“痛み”強要
 E反国民的な行革推進のもとでの“首相公選”論
 Fブッシュ政権の中国敵視政策と連動した集団的自衛権発動問題と、各種の改憲策動
 などである。
 今日のイデオロギー闘争においては、グローバルな視点が不可欠であるが、特にこの点では、@小泉「改革」が、1990年代のアメリカを無批判にモデルとしていること、Aヨーロッパにおいてもアジアにおいても、すでに市場万能論にもとづく諸政策は時代錯誤なものとなっており、そのことをわが国支配層はひた隠しにしていること、Bすでに国際労働運動は、アメリカ労働運動をもふくめて、一握りの大株主や投機家が世界経済を左右するような経済システムに対して、それを民主的に規制する方向での国際連帯行動を具体的に発展させつつあること、に留意する必要があろう。

(4)労働組合の社会的地位後退と労働組合
  の社会的存在意義再認識への動き

 バブル経済崩壊と90年代の長期不況のもとで、日本の労働組合運動は総体としてその社会的地位と影響力を急速に後退させた。その背景には、生産拠点の海外移転による産業の「空洞化」、地域経済の衰退、「情報化」「サービス経済化」などによる産業構造の変化とともに、資本と政府による大規模なリストラ・労働力流動化政策推進によるパートなど不安定・無権利労働者の激増がある。しかし、同時にそこには、情勢に対応する労働組合の主体的力量の低下・弱体化や立ち後れがあることも否定できない。そのことは、次のような90年代の労働組合運動に関する主な指標にも示されている。
 @労働組合組織率の低下=90年・25.2%→2000年・21.5%
 分母である雇用労働者総数が約5,000万人で同じ組織率を維持したとするならば、この10年間におよそ200万人の組合員が減少したことになる。
 A最低水準を更新する春闘賃上げ率=90年・5.95%→2000年・2.06%
 賃上げ率には約2%とされる定期昇給分も含まれるため、最近時点では毎年の賃上げは 事実上ゼロである。この間の消費者物価は比較的に安定していたが一時金削減などにより3年連続で実質賃金の低下が続いている。
 Bストライキ件数・参加人員の減少=件数・人数、85年・4,230件・135.5万人→90年・1,698件・66.9万人、99年・419件・10.6万人
 基本的人権として憲法と法律で公認されている労働三権でとりわけ重要なストライキ権の行使がほとんど行われていないことは重大である。このことは同時にストライキ参加を経験した労働組合幹部や職場組合員の減少となっている。
 しかし、こうした労働組合運動の「後退」は、他方で、労働組合の社会的存在意義をあらためて再認識し強調する動きをともなっている。
 具体的には、@支配層の情け容赦のない労働者攻撃が、「連合」をもふくめて、たたかう労働組合の必要性を痛感させていること、Aそごう、雪印、三菱自動車などの多発する大企業不祥事や大企業のモラル・ハザードの広がりが、健全な産業活動にとっても労働組合の存在と役割が不可欠であることに、あらためて光をあてることとなっていること、B全労連・春闘共闘のたたかいが、リストラに対するたたかいのなかで次第に成果をあげるようになってきたこと、C「連合」の運動の中でも、組合員の利益を守る運動を強化する動きが見られるようになってきたこと、Dここ数年来、全労連と「連合」との間の「総対話・共同」が、さまざまなレベルで発展し、労働者の統一した運動の必要性と重要性が認識されるようになってきていること、E政府・労働省(厚生労働省)が全労連をナショナル・センターの一つとして「認知」するようになったことに伴い、今後、三者構成の各種委員会・審議会へ全労連および傘下単産・地方組織が参加していく可能性が従来以上に高まり、労働組合としての社会的責任を担う諸活動を、大幅に拡大していく展望が開かれたこと、などである。注目されるのは、こうしたなかで最近は、不安定雇用労働者の間でも、組合結成への動きが次第に広がりつつあることであろう。

(5)全労連運動の前進と「連合」との
  「総対話と共同」の広がり

 全労連が97年以降に提起し全国的に取り組まれた「総対話と共同」「10万人オルグ運動」は、労働組合の枠をこえ、中立組合を含めた切実な要求実現を目指す労働者・労働組合の多様な協力と共同行動を発展させている。こうしたもとで全労連と「連合」の事実上の共同行動が99年の労働基準法改悪(母性保護規定の廃止)に反対する国会行動となり2000年には年金法改悪反対行動となった。 また、地域最賃引き上げや大型スーパー進出阻止など地域社会を守る運動では地方財界との対話も進んでいる。
 全国的に取り組まれている地方・地域労連による労働相談110番は、「連合」職場や未組織の中小企業労働者とパート労働者もふくむ退職強要・賃下げ・賃金未払いなど切実な要求解決に成果をあげ、新たな労働組合結成も年間400を超えている。職場と地域の要求と運動は99年からの緊急地域雇用対策の実施・2001年4月からのサービス残業規制など国政上の成果を勝ち取ることとなった。
 全労連が2000年定期大会で提起した21世紀初頭に実現を目指すとする「目標と展望」における3つの課題=解雇規制など大企業の民主的規制 ・全国一律最賃制確立などナショナル・ミニマム確立・国民本位の政治への転換が広範な労働者と国民の共感と支持を広げるとともに労働組合の社会的地位と役割発展に大きな展望を広げている。

 国際的にも異常な日本の「労働とくらし」の状態悪化と労働組合の社会的地位の低下が続き、資本と政府の攻撃がさらに強まるなかで、労働者と国民の大きな共同をめざす全労連の新たな取り組みがはじまっている。情勢にふさわしい労働総研の研究活動の発展が求められている。

3 2001年度の事業計画

 2000年度定例総会で決定した「21世紀初頭における情勢の特徴と研究課題」にもとづく第2年次の実践として、各研究部会の活性化を基礎とし、以下の諸点に留意した諸活動に取り組むこととする。
 @基礎理論の創造的発展にまで立ち返った理論構築を重視する。
 A激増する底辺就業者の実態に焦点を当てることによって今日の労働問題の核心をえぐりだす。
 B政治・経済・社会をめぐる今日の反動攻勢を打破するため、調査研究面からも民主的な国民的共同に寄与する。
 C研究者と運動家との共同研究・合同討論を発展させる環境をつくりだす。
 D調査・政策活動における国際的な情報交換や交流を発展させる。

(1)プロジェクト・研究部会の
   課題と目標

 2000年度から継続する各研究部会の2001年度における「課題と目標」は以下のとおりである。

1)賃金・最低賃金問題研究部会
@成果主義賃金の検討
 ○民間大企業において流行している成果主義賃金について、最近における矛盾の顕在化、その手直しの意味を解明する。とくにグローバル化した企業における人事=賃金制度の新たな展開の意味を解明する。また、成果主義賃金への対抗策を検討する。
 ○公務員における成果主義賃金導入の動きについて、提案内容を解明し、そのねらい、労働者・労働組合への影響について批判的検討をおこなう。
A賃率問題の検討
 賃金問題は、最近、サービス残業・正規雇用と非正規雇用との賃金格差・裁量労働など労働時間問題との関連を深めている。以上の問題を解明するキーワードは賃率(wage rate)の問題である。部会としては労働時間問題研究部会とも連携して、このテーマにも接近していく予定である。
B研究成果の公表
 以上の研究課題の検討が一定段階に達し、研究成果が社会的にも要請されていると判断される場合、出版を計画する。

2)労働時間問題研究部会
 今年度は過去2年間の研究・討論のまとめとして第3集目の出版物を目標に取り組む。内容の中心は、T、特集ワークシアリング問題〈・グローバリゼーションのもとでのリストラ・「合理化」問題、A時短・ワークシアリングをめぐる国際的労働運動の歴史・到達点・課題、Bフランスの週35時間法の成立と意義、Cワークシアリングの「オランダモデル」、Dワークシアリングと日本の労働行政、E日経連の「柔軟なワークシアリング」政策とのたたかい〉、U、サービス残業をなくすたたかいの前進と今後の課題、V、有給休暇・長期休暇をめぐる問題、などを予定している。


3)労働法制研究部会
 会社分割法制と労働契約承継法が施行された。さらに営業譲渡と労働契約承継に関する研究も進められている。小泉首相は、解雇の容易化、有期雇用の拡大、派遣期間の緩和など、雇用制度を抜本的に見直す「構造改革」を標榜し、法規制改変を進めようとしている。早急に部会を再編成し、関連した研究課題に取組みたい。

4)社会保障研究部会
 大月書店から刊行予定の『社会保障・社会福祉・「構造改革」政策と社会保障運動の課題』の内容をつめ、早期に刊行を実現することである。目下、小泉内閣の「構造改革」基本方針の主要な一環として社会保障構造改革が一層解体的な改悪構想を盛り込んで追求されつつある中で、その批判的分析と国民啓発活動を推進することが課題とされているので、それにこたえる内容の研究活動と成果の発表がもとめられている。

5)青年問題研究部会
 今期は社会階層の分化が青年層にどのようにあらわれ、どのような問題を提起しているか、また提起してくるかについて分析を深めたい。情報化にともなう技術労働者の状態・要求・動向、大学再編と「エリート」教育についてはすでに討議をはじめている。日本的経営の再編が青年の社会的構成にあたえるインパクト、青年政策、とくに大学政策をとおしての青年のエリート層の育成、それはどの程度に可能か、また大企業の経営組織の再編成による「学識ある中堅層」の造出、成果主義賃金をめぐる動向、他方青年の大多数の不安定雇用労働者化のその後の動向が、研究課題である。

6)女性労働研究部会
 男女雇用機会均等法の改定、男女共同参画社会基本法制定等を経て、各分野での女性活用の促進、ファミリーフレンドリー対策の導入など一定の前進的側面が見られる一方、個別・成果主義管理による競争原理の強化、女性の不安定就労拡大、社会保障制度の後退などにより、雇用における男女平等のあり方、政策的アプローチがあらためて問われている。今年度はこうした女性労働の新たな局面、その実態把握を部会活動の一つの柱にすえ、いくつかの産業、企業を対象に聞き取り調査をおこなう。
 併せて旧年度に引き続き、フェミニズムの理論と運動からの問題提起やそれらも取り込みつつある財界・政府の女性労働に係わる諸政策を検討し、労働運動における賃金その他の平等実現への具体的政策提起に寄与し得るよう、研究活動をおこないたい。

7)不安定就業・雇用失業問題研究部会
 ○小泉政権の雇用対策が非正規雇用の活用による雇用創出を掲げている点を重視し、研究会で分析を深める。また、今日の情勢にみあった公的就労事業のあり方についても検討する。
 ○1997年秋に加藤佑治・内山昂編著『規制緩和と雇用失業問題』を部会として刊行して以来4年近く経過しており、新たな出版計画の具体化をすすめる。部会メンバーの問題関心が多様化している現状を考慮すると、複数のテーマを掲げてプロジェクト方式を採用することも考えられる。

8)中小企業労働問題研究部会
 長期にわたる不況と経済・産業のグローバル展開のもとでの中小企業問題を引き続き研究課題とする。
 政府の中小企業対策は、これまでの「保護政策」を打ち切り、「自助努力」と「規制緩和」による完全自由競争の方向に大転換している。「緊急経済対策」や経済財政諮問会議の「基本方針」では「不良債権の早期処理」が経済対策の中心になり、これによって向こう2〜3年の間に、20万社を超える中小企業が倒産するとの予測もある。各金融機関はこれまでの「貸し渋り」に加えて、早期回収の「貸しはがし」を強めつつあり、下請け中小企業の選別、単価切り下げなどの切捨て策を強めている。
 中小企業の健全な発展をめざす政策提起、労使による対政府交渉や親会社への要請、地域に根ざした経営展開、さらに共同研究、協業化などの自主的取組もすすんでいる。当部会ではこうした中小企業分野の政策研究を深め、運動発展に寄与するとともに、必要な段階に研究成果をまとめていく。

9)国際労働研究部会
 引き続いて『世界の労働組合運動』(第8集)の作成を活動の柱にする。『世界の労働組合運動』の出版にはこれまで7人の会員と全労連国際局の共同作業でおこなってきた。しかし会員の不幸などによる減員もあり、また部会員にも作業体制の拡充・強化を求める声が出ていた。これに対応するため常任理事会の支援を受け、2001年からは新たに3人程度の補充をすることになり、2001年6月から2人の新会員の参加を得て活動することになった。

10)政治経済動向研究部会
 経済・政治動向に関する情勢分析や関係資料を“動向四季報”として発表してきたが引き続き、運動に役立つ情勢分析や資料の敏速な提供に努める。また、「21世紀初頭」における「ルールなき資本主義」改革との関連で、労働運動の見地からの経済政策のあり方について検討をすすめ、成果の公刊を目指す。さらに、労働運動の中長期的な政策課題について討議する「労働フォーラム」の具体化については、部会としても積極的に協力していく。

11)関西圏産業労働研究部会
 日本資本主義の「構造改革」について検討する。より具体的には、以下のことを目標としたい。@日本資本主義の将来構想として提起されているいくつかの議論を批判的に検討しつつ、日本資本主義の現状とよりましな資本主義の将来像を考察する。A諸外国(とくにEU諸国)の資本主義のあり方との比較の視点を取り入れる。Bできる限り現場の労働者の協力も得て、労働の現場の変化について分析する。C研究会の成果についてニュースを発行して普及をはかる。

 なお、地域政策研究プロジェクトは、2000年度に計画されていた4つの地方労連(福島・埼玉・神奈川・大阪)への聞き取り調査が、参議院選挙のために先送りされていたが、条件が整い次第早急に実施されることとなった。

(3)出版・広報事業
 @三種類の定期刊行物とホームページの充実をし、読者拡大と労働総研の存在と役割を社会的にアピールする。
 A各研究部会等の研究成果を取りまとめた刊行物発行を計画的に準備する。また定期刊行物への重要論文とあわせて関係研究者・運動家の協力を得て内容の充実をはかる。

(4)全労連との連携強化
 全労連が2000年7月の第19回定期大会で提起した『21世紀初頭の目標と展望』(案)は、21世紀初頭(2010年)までに実現をめざす中期目標として、@大企業の民主的規制、人間らしく働くルールの確立、A国民生活の最低保障(ナショナル・ミニマム)の確立、B憲法と基本的人権の擁護、国民本位の政治への転換、という3つの課題を掲げている。
 これらの課題は、労働総研が発足以来10年間の活動を通じて追求してきたものであり、2000年度定例総会で決定した「21世紀初頭の研究課題・目標」とも合致している。全労連は今日、それぞれの分野について「目標と展望」を具体化する作業をすすめているが、2001年度の研究所事業計画のなかでは、こうした全労連の取り組みにも呼応して、さまざまなレベルでの全労連運動と研究所活動との連携を強化し発展させていく。
 あわせて、@全労連の定期的刊行物(国民春闘白書・ビクトリーマップなど)への協力、A政府・財界の動向や労働者と国民生活に関連する諸問題などをテーマとした研究例会の開催、B時代の変化に対応する基礎理論研究や労働問題の民主的な改革を目指す政策・教宣活動などを通じて、全労連運動との日常的な協力関係を発展させていく。

4 研究所活動の拡充・改善

 以上の諸事業を成功裡にすすめていくためにも、研究所の運営や活動のあり方を、いっそう民主的かつ今日的なものに改善・強化していく必要がある。
 その場合、留意すべき点としては、@研究部会の運営を可能なかぎり会員に開かれたものとする、A研究部会の調査研究活動をより多様で創造的なものに発展させるとともに、複数の研究部会が共同で集中的な調査研究をおこなえるようにする、B財政実状に則したより合理的近代的な運営をはかる、C研究成果の刊行や定期刊行物での重要論文の発表にあたっては、できるだけ関係の研究者・運動家の協力もえて、内容の充実に努めることとする、D諸事業の実施にあたっては、労働運動の状況を十分留意し、全労連とのきめ細かな連携のもとにすすめる、E研究所活動が首都に限られている現状を改善する、等の点であろう。

(1)個人・団体会員の拡大
 2000年度総会決定において2005年度末までに個人会員を500人とする目標を掲げたが、この間の新規加入者と、主として会員の高齢化による死亡・退会とがほぼ同数であり、実数の変化とならなかった。アンケートにおける推薦リストによる加入を積極的のすすめるとともに、定期刊行物への執筆・各種事業や各研究部会活動を通じて新たな会員獲得を意識的に追求する。

(2)「労働総研クォ−タリ−」読者の拡大
 定期読者が会員となる例がある。また、掲載内容により頒布部数の増加もある。財政面だけではなく定期読者は会員拡大の基盤となることにも留意して積極的に推進する。

(3)地方会員の活動参加
 現状における研究活動への参加が首都圏中心であり地方の会員・研究者には活動へ参加する機会がほとんどない。財政的事情もあり研究所のみの努力では限界があるが、地方労連との連携を密接にするなど改善を目指す。また、中央・地方における各種公的委員会・審議会などへの労働者委員とともに公益委員として参加していく上でもその対応を準備しなければならない時期にきているといえよう。

(4)事務局体制の整備・強化
 年間を通じて労働総研の活動に専従している事務局員は、マスコミや他の研究機関との接触の窓口でもある。代表理事との緊密な連絡のもとに事務局会議を充実させるとともに、常任理事会・理事会と事務局とのチームワーク強化をはかっていくことが、労働総研の活動にとっても引き続き重要な課題となっている。