2001年6月1日(通巻135号)



目   次
巻頭言

 参院選と結んで働くルール確立を…………………………大木  寿

論 文

 グローバリゼーション下、雇用における男女平等…………川口 和子 

5月の研究活動ほか



参院選と結んで働くルール確立を

大木 寿

 21世紀は経済民主主義と人権が確立される時代にしたいものである。社会的な力関係が大きく変化してきている。昨年、日立争議が30年を超えるたたかいで勝利し、ハンセン病患者が半世紀に及ぶたたかいで人権を認めさせた。時代を象徴する画期的な勝利である。怒りを持ってたたかい、世論を動かしてこそ、勝利できることを教えている。
 90年代、経済のグローバル化、構造改革で雇用と賃金と権利と社会保障が破壊され、中小企業と地域経済が破壊されてきた。倒産・廃業、解雇、賃金不払い、賃下げ、過労自殺が増え続け、サービス残業などの法律違反、人権蹂躙が横行している。国民は雇用・生活・労働・人権侵害の四重苦にある。大企業はリストラで利益を急蓄積しているが、中小企業は悪化の一途をたどっている。国税庁の99年度「法人企業の実態」によれば、欠損率が69.9%である。昨年の倒産件数は18,769件、96年以降の廃業率は5.6%(30万社)と急増し、18社に1社が廃業している。
 日本経済と雇用を支えてきた中小企業・地場産業が危機に立たされている。にもかかわらず、小泉内閣は緊急経済対策で大規模に中小企業を強制倒産させ、大量の失業者を発生させ、労働者の四重苦を大規模に拡大しようとしている。緊急経済対策は日本経済と国民の状態をさらに深刻化させる亡国の政策である。しかし、その危険極まりない内容が職場と地域に広く知らされていない。全労連の組合はもとより、あらゆる中小企業の労働組合、中小業者・中小企業団体に広く働きかけ、「緊急経済政策ノー」、「雇用を守れ、中小企業と地域経済守れ」の国民的なたたかいにしていくことは急務である。とりわけ、参議院選挙で小泉内閣に厳しい審判を下し、国民犠牲の構造改革を変えていかねばならない。巨大企業だけに富が集中するしくみを変えるために、働くルール確立と、日本経済と中小企業・地域経済の再生をめざす運動を国民とともに進めていくことが強く求められている。

(全労連・全国一般労働組合書記長)





グローバリゼーション下、
雇用における男女平等

川口 和子


はじめに

 人権、民主主義の一環としての男女平等の実現は、国連特別総会「女性の2000年会議」(2000年6月・ニューヨーク)の合意文書が示すように、21世紀国際社会の不可欠の共通課題とされている。
 男女平等をめざすこうした国際的な理念と運動の高まりを背景に、日本でも「男女雇用機会均等法」の制定(1986年施行)、改定(99年施行)、「男女共同参画社会基本法」制定(99年施行)など国内法の改定が行われてきた。しかし実際は根深い男女差別の是正は進まず、国際比較でも、日本女性の政治、経済活動での意志決定への参加や所得格差など「ジエンダー・エンパワーメント指数」は、上位50国中の41位(「国連開発計画」2000年。対象174カ国)にある。
 とりわけ、90年代初頭からの長引く不況と経済のグローバル化に対応する企業の国際競争力強化をめざす財界・政府の「21世紀戦略」の推進によって、労働者全体の雇用、賃金、労働条件は悪化しつつあり、雇用における男女平等実現の運動も新な局面を迎えている。
 国際比較を交え、日本の雇用における性差別の現状、諸特徴を考察する。

(一)男女差別の現状

 1、賃金の男女格差と、性別分離構造
 現在、日本の労働者の4割が女性であり、高学歴化がすすみ(新規学卒採用者は、大学卒=33.4%、短大卒=30.3%)、技術革新の進展による労働内容の変化もあって女性の職域も拡大している。また深夜、時間外労働等を制限してきた女性の特別保護も、均等法改正に伴い撤廃された。
 このように学歴構成や職域、労働時間など男女間の差は縮小しているにもかかわらず、女性の平均賃金は男性の約6割(パートを含めれば49%)にすぎない。オーストラリアの9割、フランス、イギリス、オランダの8割、ドイツの7割などに比べ、賃金の男女格差は際立っている。また格差是正のテンポも、例えば90年以降イギリスでは約10%縮小したのに比べ、日本は僅か3%の縮小にすぎない(図1参照)。
 大企業、および高齢者層ではむしろ男女格差は拡大する傾向にあり、とくに女性が従業員の過半数を占める金融・保険業では、90年以降年々格差が広がり、2000年時点での女性の賃金は男性の52.1%と、男女格差は平均を上回っている。
 いわゆる“ガラスの天井”、女性の昇進差別も大きい。管理職に占める女性の割合は、部長相当職では1.2%、課長相当職では2.4%、係長相当職でも7.8%にすぎない(労働省「女性雇用管理基本調査」1998年)。法制度上は男女平等をタテマエとしている国家公務員でも、課長級以上の幹部職員に占める女性比率は、欧米諸国では20%前後に達しているのに対し日本は僅か1%である。女性の国家公務員採用の割合自体が32%にすぎず、イギリス(58%)、アメリカ(47%)に比べ大きな差がある(図2参照)
 また民間大企業では均等法制定前後から、基幹的職務を担当し管理職へ昇進可能な「総合職」と、定型的職務に従事する“ヒラコース”の「一般職」に男女労働者を選別し、賃金、昇給に格差をつける複線型の人事管理を導入する企業が増えた。この「コース別管理」は性別によらない仕事の差というタテマエだが実際は、例えばY電気会社の場合、総合職の割合は大卒男性の99.9%、高卒男性の34.4%に対し、女性は大卒の48.0%、高卒では僅か2.3%にすぎない。
 こうした採用や昇進、職位の性別分離が、賃金の男女格差をもたらす大きな要因となっていることは明らかである。
 2、性別役割分業を再生産している、長時間・過密労働と低福祉
 伝統的な性別役割の廃止が男女平等の実現に不可欠であり(国連「女性差別撤廃条約」など)、仕事も家庭責任も男女が共に担い、あらゆる分野の活動に共に参画する社会をめざすことが今日の国際理念であり、日本でも新たな国内法も制定された。
 しかし日本女性の年齢階層別労働力率は、出産、育児期に当たる30歳代前半をボトムとするM字型カーブを描き、欧米諸国の逆U字型カーブとの差が際立っている(図3参照)。これは、家事では87%が、育児も56%が女性が負担している(総理府「男女共同参画社会に関する意識調査」2000年)男女の性別役割分業の存在、即ち女性にとって仕事と家庭責任の両立して就業を継続することが困難な日本の現状を物語るものにほかならない。
 そしてこのことが男女間の勤続年数や能力発揮の差を生み、勤続年数を主たる基準とする年功制と終身雇用を柱としてきたこれまでの「日本的経営」のもとでは、企業側の「女性は勤続が短いので基幹業務には配置できない。教育訓練など男女差を設けるのはやむをえない」など差別の有効な口実とされてきた。
 しかし前掲の総理府調査では、男性も家事や育児に参画すべきと考える者が増えている男女の意識変化が見られ、そのために必要なこととして20〜40歳代の働きざかりの男性が求めているトップは労働時間の短縮である。この数値が示すように性別役割分業の要因は、日本社会の戦前からの民主主義の未熟によるおくれた意識や慣習の残存だけでなく、むしろそれ以上に“カローシ”に象徴される長時間・過密労働が男性に家庭責任を放棄せざるを得ない状況、そして女性に二重の負担を強いている日本の現状にある。
 こうした現状を放置したままでの深夜・時間外労働などの女性保護規定の撤廃は、女性の仕事と家庭責任との二重負担をさらに過酷化し、就業継続をいっそう困難にし、異常出産などの母性破壊を深刻化している。
 それに加えて、医療や年金、保育や高齢者福祉など社会保障制度の後退が進行し、保育所に子供を預けたくても空きがなくて利用できない、いわゆる待機児童が全国に約3万3000人もいる。男女共に対象とする育児・介護休業法は施行されたが休業中の所得保障が少ない(賃金の25%)、とくに介護休業は期間が短い(3か月)等から充分に活用されていない等、こうした低福祉の現状も相まって性別役割は固定、再生産されてをり、雇用における性差別に連動する一方、急ピッチで進む少子化の要因ともなっている。

(二)均等法改正と性差別の再編

 今日、財界・政府一体で推進しているグローバリゼーション対応戦略のもとで、企業側は従来の年功制や終身雇用慣行を見直し、「競争原理」による人件費削滅と労働力の効率的活用へ「日本的経営」の再編をすすめている。この新たな搾取強化の手法によって性差別は、高まる平等要求を逆に利用し女性労働力を有効活用する巧妙な手法に再編、強化されつつある。
 1、個別・成果主義管理と人事査定による性差別
 その一つは、賃金、昇進等の基準を従来のように性別や学歴などで一括せず、労働者一人一人の仕事の業績や成果、即ち「働きに応じて収入が大幅に増減する仕組みによって、従業員の意欲を引き出す」(日経連「労働問題研究委員会報告」2001年)処遇へ、人事管理の転換である。
 個々人の業績、成果は、経営目標に則して労働者に課される仕事の達成度等を企業側が査定(多くは5段階評価)し、それによって昇給や昇格、昇進、あるいは昇給ストップや降格が決まる。この「個別管理」「成果主義管理」は表向きは“男女機会均等”であるが、もともと人が人を査定するには主観や恣意が避けがたい上に、人件費削減を至上命題とすることから、女性にたいする差別が査定を通して温存され、しかもそれは仕事や働きぶりの差とされ、差別が見えにくいものに再編されている。
 例えば大阪の金融機関で総合職として働くYさんは、査定によって同期同学歴の男性に比べ2段階の昇格差がつけられ、貸金差は月額11万円余に及んだ。その理由を会社側は仕事の差と、掃除やお茶くみをしないなど勤務態度にあるとした。これを不服として大阪地方裁判所に提訴(1997年)したが、「原告が求める資格の男性と比較して劣らないことの立証がない」として敗訴した。
 また日本航空のスチュワーデス25名が、改正均等法に依拠して昇格、昇進の差別是正を求めた調停申請(1999年)に対し、労働省東京女性少年室の調停案は人事査定に立ち入ることを避け、企業側には「申請人への査定の結果、及び昇進、昇格への具体的な努力目標の充分な説明」を、申請した女性達には「会社の制度、方針に沿った職務遂行実績を挙げる努力」を求めるに止まった。女性達が調停案の受諾を拒否したのは当然であった。
 なお個別・成果主義管理は、こうした性差別の巧妙な再編の一方で、男女間、女女間の競争を激化し、有給休暇や育児・介護休業などの権利も放棄せざるを得ない状況をつくり出すことによって、男女労働者の“自主的”労働強化を促進する役割も果している。
 2、女性の不安定就業の増加、雇用形態に隠れた性差別
 もう一つは、第3次産業の拡大や「IT革命」による単純労働分野の増加に対応し、「必要なところへ、必要な時だけ、必要な人材配置を」(日経連「新時代の日本的経営」1995年)と、パート、派遣労働、臨時、契約社員、そして在宅ワークなど低賃金の不安定雇用を増やし、多様化し、基幹的職務以外は専門職も含めて正規労働者と置き換える雇用の弾力化、労働力の流動化戦略の推進である。
 すでに述べたように、女性のM字型就労、その出産、子育て後の再就職は大部分がパート雇用である。また個別・成果主義管理は、競争に勝ちぬいた女性には男性なみの昇進と高賃金への道を開いたが、その一方で過酷な労働強化に耐えがたい多くの女性、とくに既婚女性をパートなど不安定就労への誘導を促進する。そのため実際にも多機な不安定雇用形態の主力であるパート労働者の7割強が女性であり、既婚者であることが日本の特徴である。また他の形態もふくめた非正規雇用労働者の割合は、今日女性労働者全体の46.4%とほぼ半数にせまりつつあり、男性の場合の14.9%と著しい差がある(労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」1999年)。
 そして最近政府は、日本経済の再生に女性労働力の活用が不可欠とし、そのための施策として「仕事と家庭を両立しやすい多様な働き方の推進」と称し、これらの不安定就労への誘導を強めている。
 これら非正規雇用は雇用契約期間を限定した短期・有期雇用、即ち景気や企業の都合で解雇しやすい不安定な雇用であることに加えて、その平均月額賃金は約14万800円で、これは高卒女性正規労働者の初任給14万8300円を下回る水準である。多くが労働組合に未組織であることもあってボーナス、退職金、社会保険、および出産休暇や育児・介護休業などの諸権利もほとんど保障されていない。正規労働者との団結権や安全衛生等の同一保障や、賃金の時間比例原則などを内容とするILOの「パートタイム労働条約」(1994年採択)も日本政府はいまだに批准せす、国内法の「短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律」は、こうした現状の改善に無力である。
 こうした正規労働者との著しい格差を放置したまま、低賃金、無権利の不安定就業が女性を主力として急速に増加しつつあることは、雇用形態の差に隠蔽した性差別の形態と言えよう。
 3、改正均等法の限界
 改正された均等法は、募集、採用から配置、教育訓練、定年、退職、解雇まで、雇用の全ステージにわたり「女性であること」を理由とする差別をすべて禁止規定とした。新たにセクシャルハラスメント防止、ポジテプアクション(差別是正のために講じる女性に対する特別優遇措置)の推進も加え、すべて罰則を伴わない努力義務規定ではあるが差別への規制と是正措置を旧法よりも強化した。
 しかし前述のように、成果主義管理や雇用形態などによってつくり出されている“間接差別”について均等法は無力である。「外見上は中立的な条項、基準または慣行」によるこうした“間接差別”も差別として明確にし、均等待遇に係わる労使紛争における挙証責任は企業側にあるとしているEU指令(「性に基づく差別事件における挙証責任に関する指令」2001年施行)等に比べ、日本の法的水準の劣位も大きい。

(三)男女平等の実現へ、運動の現状

 これまで終身雇用、年功制と共に「日本的経営」の支柱となってきた企業内労働組合、その多くの労組の労資協調的傾向は、企業の利潤追求に不可欠な性差別に対する職場での闘いを困難にしてきた。そのため性差別の是正、撤廃の運動の多くが裁判闘争の形態をとってきた。すでに60年代から相次いだ結婚、出産による女性だけの退職制度などあからさまな性差別については勝訴してきたが、最近は法の不備もあってその闘いも新たな困難に直面していることはすでに述べたとおりである。
 しかしこれまでにない新たな運動の前進も見られる。
 労働組合(全労連加盟)のバックアップのもとに貸金と昇進・昇格における男女差別是正を求めた芝信用金庫の女性労働者(原告13名)の14年にわたった裁判闘争は、男性と同等の地位への昇格(賃金に連動する)を命じる地位確認の判決を初めてかちとった(2001年、東京高等裁判所)。これは差別は認めても損害賠償金の支払いに止まってきたこれまでの判例から大きく前進した画期的な判決であった。ただし会社側は最高裁に上告し、闘いはなおつづいている。
 また長野県の金属情報機器労組丸子警報機支部(全労連加盟)の女性パート(原告28名)は、正社員との賃金格差の是正を求めた6年余の闘いで勝利和解した。これまでのパートの闘いの殆どが不当解雇の問題に終始してきたことからの大きな前進であると共に、判決内容も「人はその労働に対し等しく報われなければならない」とする普遍的均等待遇の理念(上田地裁判決)とともに、これまでの賃金格差に対応する特別昇給、今後の賃金、ボーナス等の正社員との同一基準化を内容とする(東京高裁判決)画期的なものであった。
 これらは多くの女性達を励ましており、均等法、パート労働法の改正や、職場での性差別チェック、セクハラの告発などの運動も広がりつつある。また全労連、連合ともに執行部に男女平等推進委員会を設置したり、パートと正社員の均等待遇をめざし今春闘ではパートの時間給引き上げに積極的に取り組むなど、これまで女性部まかせにしてきたこれらの問題を、男女共通の労働組合全体の課題とする方向に向かいつつあることも新たな特徴である。
 とくに全労連が、財界、政府の“弱肉強食”のグローバリージェーション戦略への対抗軸として推進している、労働時間短縮、深夜、時間外労働の男女共通規制など労働基準法改正、解雇規制法の制定、全国一律最低賃金制度の確立と地域最賃の引き上げなどの「人間らしく働くルール確立」政策と、そのための企業や組織の違いをこえた「対話と共同」の運動は、根深い日本社会における真の男女平等実現のためにも、不可欠で重要な運動である。またこうした新たな運動の前進は、日本の労資協調的企業内組合を民主的、階級的に再生する契機ともなる可能性を内包するものである。

(常任理事・女性労働問題研究者)




 5月の研究活動
5月10日  労働時間問題研究部会=報告・討論/EUのワークシェアリングの動向/サービス残業をなくす取り組みの現状
      青年問題研究部会=報告・討論/最低賃金制―その現状と課題
  11日  国際労働研究部会=今後の研究部会の進め方
      地域政策プロジェクト=アンケート調査の進め方
  12日  不安定就業・雇用失業研究部会=書評『グローバリゼーションと日本的労使関係』/報告・討論ドイツの非正規雇用をめぐって
  16日  中小企業問題研究部会=報告・討論/韓国金属産業労働者連盟の結成とその行方
  19日  関西圏産業労働研究部会=報告・討論/グローバル下でのドイツ労働市場の柔軟化/イギリスにおける社会保障改革
  21日  賃金・最賃問題研究部会=報告・討論/成果主義賃金の問題点(富士通の事例)/ナショナルミニマム
  23日  女性労働研究部会=報告・討論/フェミニズムと労働組合運動



 5月の事務局日誌
5月1日 第72回メーデー
  8日 事務局会議=編集委員会・企画委員会・常任理事会の準備など
     福祉保育労南部支部学習会(草島事務局長)
  13日 第3回編集委員会
  15日 ナショナルミニマム懇談会(草島事務局長)
  18日 行革・規制緩和実態報告集会(藤吉理事)
  19日 第8回企画委員会
     第5回常任理事会
  21日 ナショナルミニマム懇談会(草島事務局長)
  29日 事務局会議=第1回理事会会議議案などについて