2001年3月1日(通巻132号)



目   次
巻頭言

 歴史の呼動がきこえる…………………………………小川 善作

論 文

サービス残業──労働法の視点から── ……………萬井 隆令 
今日の労働者状態………………………………………河村 雄二 




歴史の呼動がきこえる

小川 善作

 「労働総研」にかかわった多くの方々のご支援のなかで、「戦争と抑圧の20世紀」といわれたその最後の瞬間に、石川島播磨重工や日立製作所の長期争議に関係し、あの最高裁の不当な判決をもくつがえすほどの、勝利の舞台を演じあげて、その手で屈辱の世紀の幕を引くことができた。
 世紀の変り目といういま、多くの識者が、20世紀、とりわけその後半世紀におかれた労働者の苦汁の状態をふりかえって、長時間労働や過労死、無権利状態とストライキの激減・皆無にふれながら、新しい希望の世紀には「労働組合の活力を回復するように」と強く期待されている。
 私たちは、その期待に応えるというより、労働者自体の自覚において新しい世紀を展望し、決意し、実行しなければならない。
 率直にいって、1980年代の右翼労戦再編いらい20年、日常のくらしも、職場生活も悪化の一途をたどりやられにやれてきた。
 労使癒着のもとでのリストラ「合理化」や、差別支配のなかで、労働者はみな、じっと我慢しているだけではダメだ、たたかわなければ…というところまでは考えるが、たたかうための団結体をみずから手にしようというところまでは考えないままできた。
 「正義の味方」としての役割りを発揮するために、どうするのか、それが問われている21世紀だと思う。
 職場の労働条件一つ見ても、基準法は最低基準であるから労使関係当事者は、日々向上に努めなければならないと責任を負わされているのに、労働者の権利を「日々剥奪」してきたのがいまの右翼労戦の役割を荷負っている者達だ。彼等関係当事者は、まさに法違反者であり、労働者と国民の利益に反する犯罪者である。そこを追及し支配をくつがえさなければならない。
 労働者が協定したり、慣行として得てきたものはもう労働者のふところに入った財産である。それを規定の改廃とかで低下させることは略奪であり強盗だ。これに似た行為が繰返されてきたのに、その悪業の手を縛ることさえできなかった。しかし、新しい歴史の時代がよびかけているような気がする。
 いままでのままでよいのか!と。

 (会員・造船連絡会)




サービス残業
――労働法の視点から――

萬井 隆令 

 昨年6月末、労働省労働基準局は、フレックスタイム制を採っている大手電機メーカーに対しサービス残業問題に係る是正勧告等を行った。同『電気機械器具製造業におけるフレックスタイム制を導入している事業場に対する監督指導結果について』によると、サービス残業が発生するパターンは、残業を自己申告制にしておき、他方で、@時間外手当の「予算が決められている」、A残業の「削減通達」がある、あるいはB「一定の時間外労働時間を超えると賞与の減額がある」の3種類で、いずれも自己申告時間を一定時間内にせざるを得ないようにし向けている。企業は労働時間管理あるいは人件費管理に過ぎないと弁明するのであろうが、現実にはサービス残業を誘導ないし強制する効果を持っているのである。当初からその効果を狙っているとすればきわめて悪質である。
 電機産業に限らず、サービス残業が業種を問わず蔓延している。しかも、かなりの長時間に及んでおり、労働者一人で平均年間に300時間を上回っていると見られる。それを一掃するだけで雇用労働者を90万人増やすことができるという経済生産性本部の推計もある。他方で、サービス残業は過労死を生む要因でもある。したがって、違反を取り締まる監督体制の強化が行政上の緊急の課題であるが、労働現場の日常的な労務管理の中で日々発生する問題であるだけに、その廃止は労働組合運動の初歩的であると同時に主要な課題とされなければなるまい。サービス残業を黙認したり、放置しているようでは労働組合の存在意義が問われる。
 サービス残業は、残業をさせておきながらそれに対する手当を支払わないことだから、法律的には労基法24条、37条に違反し、119条により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される犯罪行為である。つまりサービス残業は法律的には論外の問題であるが、ただ、少し仔細に見ていくと、構造的にサービス残業を容認する裁量労働(みなし時間)制ーこれについては、独自の分析が不可欠であるー以外にもサービス残業に関連する法律上の問題が少なくない(詳しくは、萬井・脇田・伍賀編『規制緩和と労働者・労働法制』(旬報社)を参照されたい)。

1.「残業」と思わないで行っている
サービス残業について

 労働時間の途中にある手待ち時間が「労働」時間に含まれることは今や常識になっている。
 始業時刻以前および終業時刻以後の行為について、最高裁は、使用者の指揮命令下にあり、「就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内で行うことを義務付けられ、又はこれを余儀なくされた」時間を「労働時間」と見る、指揮命令説を採った(三菱重工長崎造船所事件・平12.3.9)。具体的には、使用者から実作業にあたり義務づけられている作業服、保護具などの装着に要する時間および作業終了後にその脱離等を終えるまでの時間、そして更衣所と準備体操場や作業現場の間を往復する時間は、社会通念上必要と認められる限り、労働時間にあたるとした。「副資材の受出し及び散水」も労働時間と認めている。しかし、始業前・終業後の門と更衣所の間の移動、終業後の洗面、洗身・入浴、通勤服への着替えなどは労働時間には含まれない、と判断した。要するに、休憩時間を除き、通勤着を脱いで作業着を着始める瞬間から、作業着を脱いで通勤着を着始める瞬間までを労働時間とする、というのである。
 かつて、国鉄の電車区の検修作業により機械油、車輌に付着した糞尿・鉄粉などが作業服だけでなく手足・頭髪などに付き、洗身・入浴しなければ通勤着に着替えられない状況の下では洗身・入浴も「労働」にあたるとした例(国労田町電車区事件・東京地判昭40.3.8)がある。上記最高裁も、「特に洗身しなければ通勤が著しく困難である」場合には、それも労働時間と認められる余地がある、としている。  従来、「労働」と思わないでいた行為で、厳密には「労働」とみなされ、したがって(当然、それまでは賃金が支払われていないであろうから)サービス残業に該当するものがないか、点検・見直しが必要であろう。

2.“自発的残業”について

 「労働」は使用者の指揮命令にしたがったものでなければならない。労働者が職場で自発的に行っていることでも、会社のパソコンを利用した私的な文書作りとか、時間外にグループで行っている語学研修などは「労働」とは見なされない。しかし、一見、自発的と見られる行為でも、@業務上必要な作業を行っており、会社が黙認(その存在を知りながら、放置)していた場合、A時間内では処理し切れないほどの業務を命じ、それ自体が残業の指示も含んでいると見られ、実際に行われた残業を使用者が知らなくても、黙示の指示があったと認められる場合には、指揮命令にしたがった時間外労働とみなされる(新日鐵名古屋事件・半田労基署指導−92.3.8赤旗)。
 一般には、労働者が文字どおり“自発的に”残業を、しかも手当なしで行う、ということは常識ではあり得ない。その都度、明示的な指示はなくても、労働者の残業は原則として上の2つのいずれかに該当すると推定されるべきであろう。

3.労働時間把握義務について

 日本共産党は昨年3月に、いわゆるサービス残業根絶法案を国会に提出した。主たる内容は、@使用者に労働時間管理台帳の作成と日々の始業・終業時刻(労働時間)の把握を義務づけ、A労働者の同台帳閲覧権を認め、B時間短縮措置法上、時間外労働等管理計画の作成を使用者の義務とし、かつ未払い賃金の支払いに加えるべき制裁金を同計画の必要記載事項とする、というものである。また、中基審の建議を受けて、厚生労働省は労働時間の正確な把握を指導するための通達を準備中である。いずれも積極的な意義をもっている。
 しかし、既に現行法上、使用者は日々の労働時間について把握義務を負っていることが軽視されてはならない。労基法32条は法定労働時間を定め、「使用者は労働者に…(それを)超えて、労働させてはならない」と義務づけているが、同条を遵守するためには、使用者は日々、個々の労働者毎に「八時間を超えて、労働させて」いるか否かについて常に把握していなければならないからである。ちなみに、労基法108条は使用者に賃金台帳の作成を義務づけており、同台帳には「賃金計算の基礎となる事項…を賃金支払いの都度遅滞なく記入しなければなら」ず、月給制の場合には「賃金の支払いの都度」毎の労働時間を記録する義務がある。月間の総労働時間数はいうまでもなく日々の労働時間の総合計であり、同条もまた、使用者に月間の総労働時間数の基礎となる日々の労働時間を把握し記録する義務を事実上負わせている、といえよう。
 使用者は時間把握義務を負っていることからすると、残業の自主申告制は使用者の労働時間の把握業務を労働者に肩代わりさせるものであって、それ自体が労働者にサービスを強制していることになる。ましてや、残業時間についての自主申告制を、既述のように“自主”という名に隠れて、申告内容を押さえ込む手法として利用することなど、もっての他と言うべきである。

4.労働時間の端数処理について

 通常の労働時間制の下では、始業・終業時刻が定められているから、それと現実の出勤・退勤時刻との差があるとしても、上述1の例を除けば、それ自体が問題となることはない。
 しかし、フレックスタイム制の下では始業・終業の時刻の決定は労働者に委ねられており、使用者はその時刻、したがって労働時間数を把握する義務がある(昭63基発150号)。実施例の中には、時刻を1分単位で正確に把握する例は少なく、多くは30分単位で“把握”することにしている。そこで当然、現実の始業・終業の時刻と"把握"上のそれとの時間差(端数)が生じる。その場合、30分未満の端数については、@切り捨て、A四捨五入的扱い、3切り上げ、という3つの処理方法があるが、@の切り捨て処理を行う企業が少なくない。
 元来、フレックスタイム制は清算期間内に契約時間だけ労働することを約すものであり、したがって、1日ごとの労働時間の長短や標準労働時間との差(端数)を「処理」する必要はどこにもない。つまり、1日毎に端数処理をすることはフレックスタイム制になじまない。ましてや、端数処理の結果、現実の労働時間よりも短く、労働者に不利なように"把握"するようなことは違法である。

5.管理職に対する労働時間制の適用排除(労基法41条2号)について

 労基法41条2号は、管理監督者についての労基法上の労働時間、休憩等に関する規定の適用除外を定めるが、内容が曖昧で、濫用を誘発する危険性が高い。
 労働省は、同条項を、労働時間の「規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要から認められた」適用除外と解している(同『全訂新版・労働基準法』547頁)。しかし、同条の本来の趣旨は、「経営者と一体的な立場にあり、出勤退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量を有する者」(静岡銀行事件・静岡地判昭53.3.28労働判例297号)、つまり、労働時間法制によって保護する必要がない者については適用を除外する、ということである。労働省も、「これらの者の地位からして規制外においても労働条件に及ぼす影響が比較的少ない」と弁明的に解説している。いずれにしても、「管理監督者」の範囲は実態に即して判断されるべきである。
 しかし実際には、法の趣旨に反し、さらに労働省の解釈にさえ反して、「管理監督者」に該当しないにもかかわらず時間外手当を支払わない例が大変多い。つまり、勤務時間は自由裁量ではなく労務管理上の権限もなく、僅かな役職手当と引き換えに時間外労働をしても手当はつかない労働者が多数存在している。それもサービス残業の1形態に他ならない。

6.付加金について

 サービス残業は時間外労働に対する手当を支払っていないということであるから、裁判所は、「労働者の請求により…使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払いを命じることができる」(労基法114条)。「できる」というのは、命じても命じなくても良い(裁判所の裁量に委ねる)という意味ではない。賃金の未払いが不可抗力によるものでない限り、裁判所は付加金の支払いを命じなければならない。賃金の未払い防止の効果を狙った、日本には稀な懲罰的損害賠償である。
 付加金は裁判所でなければ命じ得ないが、労働者が使用者に要求することはできるし、要求すべきである。サービス残業の存在が判明した場合、労働者は未払い賃金だけでなく付加金を請求し、仮に使用者が任意で支払わなければ、裁判所に訴えることも検討すべきである。もとより、労働組合はそれを促し励まし、積極的に支援すべきである。
 使用者との交渉なり裁判所の命令によって付加金を支払わせることができれば、労働者は実利を得られるし、使用者にサービス残業をさせると後で却って損がでる、と思い知らせることによって、その後のサービス残業の一掃に結びつく、と考えられるのである。

(常任理事・龍谷大学)




今日の労働者状態

河村 雄二 

 政府発表の経済指標・労働統計を中心にしながら、最近の労働者状態の悪化について分析し、報告する。

1.危機的状況の日本経済

 政府は、3月16日に発表した「月例経済報告」で、景気の改善は「そのテンポがより緩やかになっている」とした2月の景気判断を変え、「景気の改善に足踏みがみられる」と2ヵ月連続で下方修正し、「日本経済は穏やかなデフレにある」という表現で、日本経済がデフレ・スパイラルに陥ったという判断を示した。
 デフレショーンの出現は日本では戦後はじめてであり、発達した資本主義国でもはじめての現象であり、日本経済の深刻さを物語っているといえよう。
 デフレ・スパイラルは、戦後最悪の水準にある失業率・失業者数・雇用不安の増大、賃金抑制などによる消費購買力の低下→物価下落→売上高の減少→リストラ・首切り・人べらし→失業・雇用不安・賃金低下→消費購買力の低下→という経済の悪循環によって生みだされたものである。
 自民党・連立政権は、景気対策と称して、国民生活に犠牲を押し付ける一方で、ゼネコン、大銀行・大企業に対しては、100兆円規模の血税を注入・支援してきたが、景気が回復するどころか、2001年度末には国と地方の累積赤字額が666兆円にも達し、財政は破綻の危機にある。この借金は、国民1人あたり520万円を超える借金を押し付けられていることになる。
 森内閣のもとで、国債の格付けは下がり、株価も1万2000円を割り込み、不況型倒産が多発し、さらには最近のアメリカ経済の減速にともなう輸出の減少・生産の急落などによって、日本経済は危機的状況を深めている。
 今日の労働者状態の悪化は、こうした状況の中で進行しているところに最大の特徴があるといえよう。

2.厳しい雇用情勢と不安定雇用の増大

 労働力人口は99年、2000年と減少し、労働力率は男女とも3年連続で低下している。他方で、非労働力人口は92年以降増加を続けている。
 労働力状態をみると、就業者数は3年連続の減少で、前年10月から増加に転じたが再び増加幅が減少している。雇用者は前年5月から増加に転じたものの、2000年の雇用者増は僅か25万人で、99年の37万人減さえ埋め戻していない。しかも、毎月勤労統計による常用雇用は減少を続けており、特に製造業では減少が著しく、2000年では前年比2.3%も減少している。
 一方、臨時・日雇は際立って増加している。パート・アルバイトはともに増加を続けており、2000年には役員を除く雇用者の23%を占めるなど、不安定雇用者の増大は著しい。  これらの要因として、日経連が指導する多様な雇用形態を組み合わせる雇用ポートフォリオ・新しい労働流動化政策の急展開がある。
 このように、厳しい雇用情勢と不安定雇用の増大が、大企業の利潤第一主義にもとづく横暴きわまりない大規模な首切り・人べらし・リストラ「合理化」によって生み出されていることは明白な事実である。同時に、自民党連合政権と政府が、大企業のリストラ「合理化」を促進するため、労働基準法の全面的改悪を含む、いわば「リストラ推進法」とでも呼ぶべき悪法・制度を、労働者・国民の反対を押し切って作り上げ、全面的に支援していることによっても生み出されていることを重視すべきである。

3.弱まる雇用過剰感のなか横行する
  リストラ・人減らし

 事業所の常用労働者の過不足判断をみると、すでに大量の首切り・人べらし「合理化」が強行されたことを反映して、99年5月頃を境に過剰感が弱まり、前年11月には全体としては過剰感はほぼなくなったが、今年2月では足踏み状態にある。
 職種別には、管理、事務以外の職種では不足状態となっており、特に専門・技術職、販売職での不足が目立っている。このため、雇用調整を実施する事業所割合は低下しているが、今年2月には経済危機を反映し雇用調整を強める動きが再燃している。
 雇用過剰感がなくなってきているにもかかわらず、リストラ・人減らしは依然として横行しているのである。今年1〜2月の実態をみると、新聞報道によるものだけでも(1月:第一火災海上2,000人解雇、ビクター1,600人削減、マイカル2,700人削減、ダイエー4,000人削減、2月:電源開発2,000人削減、NTT西日本3,500人希望退職予定が4,000人応募、三菱自動車グループで9,500人削減、マツダ早期希望退職1,800人に2,213人応募、NTT東西6,700人削減など)、問題企業を含め多くの企業で人減らしが強行されている。

4.史上最悪の完全失業者数・失業率

 2000年の完全失業者数は320万人で、合計、男・女とも史上最多を記録している。離職理由別にみると、非自発的な離職による者は102万人、自発的な離職による者は109万人で、前年比いずれも同数である。
 学卒未就業者は18万人(前年比1万人増)となっている。新たに仕事を探し始めたなど「その他の理由」者で新たに仕事を探し始めた者は80万人(前年比3万人増)である。世帯主の失業者は90万人で史上最多の前年と同数となっている。
 完全失業率は、史上最悪の前年と同じ4.7%である。うち男性4.9%、女性4.5%で、男性は0.1ポイントの上昇となり、最悪の状態を更新し続けている。
 こうした統計上の完全失業者のほかに、非労働力人口には就業希望者が942万人おり、このうち「適当な仕事がありそうにない」と求職をあきらめた者が412万人となっている。これらの事実は、公表されている失業者を上回る膨大な潜在的失業者が存在していることを示すものであり、失業実態は公表されている数字以上により深刻である。

5.依然厳しい労働力需給て

 一般職業紹介状況(新規学卒者を除きパートタイムを含む)によると、2000年平均の有効求人倍率は0.59倍で、99年の0.48倍から上昇している。しかし、求職者1人に対し求人が0.59人しかなく、就職率は27.8%という実態で、依然として厳しい就職状況にあることに変わりはない。
 年平均の有効求人は前年に比べ22.0%増で、有効求職者数は0.9%減となっている。有効求人倍率のうち、パートの有効求人倍率は1.41倍である。したがって、パートを除く一般の有効求人倍率は0.59倍をかなり下回ることになる。なお、2001年1月の有効求人倍率は前月より0.01ポイント下回っている。また、都道府県別にはかなりばらついた状況にあることに注目する必要がある。
 2001年3月卒の新規学卒者の就職内定率をみると、1月末現在、高卒は80.5%、男子は85.2%、女子は75.5%(前年同期をそれぞれ1.2、1.4、0.9ポイント上回る)となっている。
 2月1日現在、大卒は82.3%で、男子83.9%、女子79.7%(前年同期をそれぞれ0.7、0.1、2.6 ポイント上回る)であるが、超氷河期からはやや改善しているといわれているが、依然厳しい就職状況に変わりはない。推計値で、大学・短大生約10万5000人、高校生約4万3000人の就職がいまだ決まっていない。

6.僅かに回復した賃金

 春闘賃上げが史上最低となった2000年の平均月間現金給与総額は、前年に比べ名目で0.5%増加し、実質で1.4%増と3年ぶりに僅かではあれ増加した。内訳(名目)では定期給与が1.0%増、うち所定内給与が0.7%増、所定外給与が4.4%増となったが、特別給与は1.1%減となっている。特別給与の減少は3年連続である。
 一方、企業収益は大幅な改善が続いており、2000年の売上高経常利益率(主要企業)は、3.22%と予測され、前年の2.80%を大幅に上回っている。夏季賞与と売上高経常利益率の関係をみると、最近は従来の比例関係から下方に乖離している(経常利益率が向上しても賞与の増加率は下がっている)など、賃金の回復テンポは企業収益の改善に比べ大幅な遅れが顕著である。

7.長時間労働と健康不安

 2000年の平均月間総実労働時間は、前年比0.5%増の154.4時間と4年ぶりに増加し、所定外労働時間は3.6%増の9.8 時間と3年ぶりの増加となった。うち製造業の所定外労働時間は12.2%増の13.8時間と2年連続で増加した。
 この結果、年間の総実労働時間は1,853時間(30人以上規模1,859時間)となったが、政府の公約である時短目標の年間労働時間1,800時間を53時間も上回っている。しかも、再び労働時間が増加する方向から、長時間労働がさらに顕著になることが懸念される。
 この他、政府統計に現れない年間300時間を超えるサービス残業(不払い残業)があり、事態は深刻である。また、総実労働時間を就業形態別にみると、一般労働者は168.8時間、パートタイム労働者は97.3時間であることから、一般労働者に限ってみると、年間2,026時間の長時間労働となっており、依然として世界最悪・最長の労働時間となっている。
 連合組合員アンケート調査による、サービス残業と「過労による健康不安」の関係をみると、サービス残業を「頻繁にしている」人ほど健康不安を感じる割合が高いことを示している(「ほとんどしていない」人が「健康に不安を感じる」割合は18.0%であるが、「頻繁にしている」人の45.0%が「健康に不安を感じている」)。
 また、人事労務管理の調査研究のアンケート調査によると、企業の人事労務管理の企業側の配慮度と仕事上のストレスの関係は、配慮度の低い企業ほどストレス「あり」とする人の割合が高くなっている事にも着目すべきである。

8.人事労務管理の改定

 日経連の総額人件費管理が徹底されるもとで、終身雇用制と年功賃金制の解体がすすむ一方、成果主義賃金を導入する企業の急増や、賃上げによるコスト増を人事・賃金制度の見直しで対応する企業など、企業の人事労務管理の改定が露骨にすすめられている。
 人事管理では、コンピテンシー(成果を生む行動特性)による人事評価・配置、人材の社内公募制・流動化、FA制による希望部署への配転、短大・高卒正社員採用をやめて契約社員に切替え、行動基準評価による昇格などが強められている。
 賃金管理では、職務を役割や責任度により格付けする報酬制度、管理職の定昇廃止・号級を細分化し、昇格により賃金が上がる制度、ポイント制の給与算定方式、毎年の業績を退職金に反映させる制度を導入するなど、労働者間の競争を激化させる賃金管理が強化されている。
 賃金制度項目の改定状況をみると、今後の改定予定の企業割合で多いのは、「業績・成果に対する賃金部分の拡大」(22.3%)、「職務遂行能力に対応する賃金部分の拡大」(20.8%)である。これらは、労働者を業績・成果、能力の考課査定で競争させ、労働強化でコストダウン達成しようとするものである。

9.労働者家計は火の車

 2000年の勤労者世帯の実収入は、名目、実質とも減少し、3年連続の減収となっている。可処分所得も3年連続の減少となった。一方、消費支出も名目、実質とも減少し、3年連続の減少となった。これらのことは統計史上はじめてのことである。
 平均消費性向は、可処分所得の減少が消費支出の減少を上回ったため、前年の71.5%よりも0.6ポイント上昇して、72.1%となった。
 支出が増えた項目は、支出を押さえることが難しい光熱・水道、交通・通信、教育の3分類だけである。消費者物価が前年比0.7%減と、2年連続で下落したが、上のような消費実態や預貯金への2年連続での減少にも表されているように、労働者家計は火の車状態である。

10.賃金底上げ・雇用保障・時間短縮・
  生活向上で日本経済再建を

 日本経済の危機を打開するためには、何よりもまず、政府が認めざるを得なかったデフレ・スパイラルの原因を取り除くことであろう。そのためには、失業と消費購買力の低迷に歯止めをかけることである。
 つまり、日本の消費購買力の6割を占める労働者の雇用を安定化させ、懐を暖める政策を取ることである。つまり、日本経済の危機打開の道筋は、全労連が2001年国民春闘で提起しているような労働者・国民生活向上によってこそ実現できるものである。
 そのためには、以下のような要求政策を実現することが重要であろう。
 第1は、賃金の底上げで生活を向上させ、消費税を3%に引き下げるなどで、労働者・国民の消費購買力を引き上げることである。
 第2は、企業の勝って気ままな解雇権乱用を規制し、派遣・臨時・パート労働者を含む雇用を守り、ただ働き残業を廃止し、労働時間を短縮して、雇用を増やし、安定した雇用を確保するなど、働くルールを確立することである。
 第3は、日本の政治経済の深刻な行き詰まりを泥沼に陥れている森首相の即時退陣は勿論のこと、大企業の横暴な首切り・人べらし・リストラ「合理化」を支持・促進してきた自民党連合政権に対して、今年夏に行われる参議院選挙で鉄槌をくだし、政治の流れを大企業本位から労働者・国民本位に切り替えるために全力をあげることである。

(会員・労働問題研究者)




 2月の研究活動
2月1日  労働時間問題研究部会=出版計画について
      政治経済動向研究部会=研究部会のテーマ設定について
  9日  中小企業問題研究部会=報告・討議/「財政危機下、地方自治体の中小企業政策の変化について」および「NTTが考える究極の『IT革命』と中小企業への影響について」
  19日  地域政策研究プロジェクト=調査活動の具体化について
  27日  女性労働研究部会=報告・討議/「日立、芝信用金庫など、最近の女性差別差別裁判の判決について」、および「2001年度労働問題研究委員会報告について」



 2月の事務局日誌
2月7日 埼玉・比企地域労連春闘学習会講師(草島和幸事務局長)
  22日 通信労組「持ち株会社の団体交渉について」の研究会(萬井隆令常任理事)