2001年1月1日(通巻130号)



目   次
巻頭言

 二十世紀の労働者状態をふり返って…………………藤本 武

論 文

 日本政治の将来決する参院選挙………………………遠山 稔

 研究部会・プロジェクト活動報告@ 中小企業問題研究部会




二十世紀の労働者状態をふり返って

藤本 武

 映画化され評判となった「ああ野麦峠」にえがかれた製糸女工さんたちの非人間的な労働条件は、二十世紀初頭の日本の典型的な労働条件だった。その後労働運動が勃発し、労働保護法もつくられはしたものの第二次大戦終了までは本質的な変化はなかった。それが大幅に改善されたのは第二次大戦後の民主化の進展、とくに労働組合運動の発展におうものであるが、改善のみられたのは主に1970年代の初めまでで、その後の労働運動の右翼化、総評の解体、連合の結成以降は、ストライキは激減し、賃金・労働条件改善の歩みはストップに近く、「過労死」といわれる異常な事象が広範にみられるようになったし、実質賃金の上昇はストップに近い状態におちいっている。
 わが国では年次有給休暇の日数は格段に少ないし、残業が多く、年間実働時間はアメリカについで長い。最近の「過労死」は「過労自殺」にまで深刻化してきたが、労働基準法による残業規制の不適切さと経営の強権的体質、労働組合の弱体化によるものであって、世界でも珍らしい「カローシ」という言葉がそのまま用いられるようになっている。
 賃金は世界一高いという日経連の言葉をそのまま信用してはならない。円レートが上昇してきたので名目上は高くなったが、消費者物価は高いので、実質賃金が高いわけでは決してない。しかも、付加価値中に占める利潤の割合は日本では相当に高くなって、剩余価値率の上昇がデータによって示されている。
 または日本の賃金では、賃金格差がことのほか大きい。企業規模による格差、産業別あるいは勤続別の格差、男女の性別格差などはは先進工業国のなかではずばぬけて大きい。また法定最低賃金制度はあるにはあるが、それの平均賃金に対する比率はわずか25%でアメリカの38%、イギリスの41%、フランスの72%に比べると格段に低く、その有効性に乏しい。
 日本で賃金・労働条件の改善に役立ってきたストライキは、近年極度に少くなって、ストなし国に近い状態であって、こんなに少い国は先進諸国では例がないくらいだ。これでは賃金・労働条件の改善は勝ちとれない。労働組合の活力の回復を期待してやまない。 (2001年1月9日)

(労働総研理事)




日本政治の将来決する参院選挙
――野党は日本経済再建の主導権を

遠山 稔 


 21世紀最初の日本の重要政治イベントは、7月29日投票(予定)の参院選である。前世紀末に日本の政治を覆っていた閉塞状況のなかで蓄積された変革へのエネルギーが、参院選挙で爆発する可能性がある。別の言い方をすれば、冷戦の終焉と共に始まった日本の保守政治の崩壊過程が、ある意味で完結する歴史的な年になるかもしれない。参院選で日本の政治はどう変わるのか。自公保政権に代わって、遂に改革志向政権が誕生するのか。それとも新たな合従連衡により一段と混迷を深めることになるのか──。

森早期退陣でも政策は不変

 今年の日本の政治は、7月の参院選前と参院選後のふたつに大きく分けることができる。さらに前半は新年度予算成立前と成立後のふたつに分けられる。森首相は昨年末の自民党非主流派(加藤派・山崎派)による「政変」と、その後の内閣改造をなんとか乗り切ったものの、政権基盤の脆弱さは隠しようがない。それでも人材払底の保守陣営としては、とにかく予算成立までは森首相を支え、その後のこと、つまり参院選を森首相で戦うかどうかは、予算が成立した時点で考える──というのが現時点での基本認識とみられる。
 ただし、不祥事が発覚すれば森首相は予算成立前であっても退陣せざるを得まい。だが、たとえ森首相が早期に退陣しても、後継が「もう一人の森首相」(いわゆる「3K」の一人)であれば、自民党主流派の枠組みも、連立与党の枠組みも変わらないから、基本的にこれまでと同じ政策が維持されよう。より正確に言えば、これまでの派閥の利害関係を尊重し、連立の継続を保障するような後継でしかまとまらない、ということである。「3K」とは河野洋平外相、高村正彦法相、小泉純一郎元厚相である。小泉氏は一般的には他の2人より改革マインドが強いとみられているが、郵政3 事業の民営化を巡って橋本派と利害が対立することから、後継に選出される可能性はあまり大きくないだろう。
 市場は、日本の連立政権が政策的に完全に行き詰まっていることを見透かしている。すでに何度も繰り返された「景気対策」で財源は枯渇しており、仮に今一度「景気対策」を打ってみても、これまでと同じような対策では効果はない。しかし、「一兎のウサギ」(景気回復)を捕まえることを公約した連立政権にとっては、このウサギの後をどこまでも追い続けるしかない。

橋本氏再登板は本当にあるのか?

 3K以外では、橋本行革・沖縄担当相の可能性が囁かれている。橋本再登板説が急浮上したのには2つの理由がある。ひとつは昨年末の内閣改造で表面化したいわゆる主流派内の対立であり、もうひとつはアメリカの対日経済戦略の変化である。
 まず、今回の組閣で、亀井派は橋本派と閣僚ポストをめぐって鋭く対立したが、これは公共事業予算の奪い合いが原因である。亀井派は新幹線予算を増額するために橋本派が押える道路財源に手を突っ込もうとして橋本派を激怒させた。亀井氏らのこうした動きを警戒する橋本派が、亀井派への傾斜を強める森政権を見放しても不思議はなかった。加藤氏らのクーデター未遂はその絶好のチャンスであった。ところが橋本氏自身の入閣と、橋本氏自身を含めて橋本派から5名も入閣したため、逆に橋本派が森内閣への支援姿勢を強めたかのような印象を与えた。しかし、実際は森首相が退陣に追い込まれた場合、橋本派が直ちに政権を引き継ぐ体制が整ったとみるべきであろう。その場合、橋本派は単独では森・江藤-亀井連合に数で劣るが、YK (山崎-加藤)と連合すれば引き続き多数派を形成できる。
 YKにとっても、橋本再登板は起死回生のウルトラCになる。橋本氏が総裁に名乗りを上げれば、山崎氏は加藤氏とともに橋本支持に回り、一気に主流派入りを目指す考えだと言われる。ところが橋本氏は小泉氏とも悪くない。さらに、孤立を恐れる亀井氏も同調する可能性がある。亀井氏は森首相の後継に一時、橋本氏の可能性を野中幹事長(当時)に打診した経緯がある。亀井氏が同調すれば、参院選に向けて総主流派・挙党体勢が整う。
 ただ、橋本派には現時点で明確な政権戦略があるわけではない。橋本氏の入閣も、何か特別な政策的意味があってのことではなく、加藤氏のクーデターを鎮圧して派閥に凱旋した野中氏の存在が疎ましく思えたというのが本当の理由ではないか。さらに、橋本氏で参院選を戦えるのかどうかとなると、当の橋本派にも自民党にもコンセンサスはない。橋本氏は前回参院選挙で敗北した責任を取って退陣した。その橋本氏でまた参院選挙を戦うことには躊躇する声が多いし、最近の株価下落で再燃した景気減速懸念は、デフレを強く連想させる橋本氏の選択を一層難しくしよう。橋本氏のスキャンダルもくすぶっている。

ブッシュ新政権も日本の財政赤字を重視

 一方、海外投資家の間からは、橋本元首相の入閣は、日本が経済政策の方向を転換しようとしていることを示すものであり、その背景には米新政権の対日戦略があるとの見方が出ている。確かに、新政権の経済政策担当者の発言をみると、米国政府の対日政策はクリントン政権の「内需拡大」重視から「財政再建」重視へと、明確にシフトしつつある。たとえばリンゼー(Lawrence B. Lindsey)大統領特別補佐官(経済問題担当)はAEI(共和党系シンクタンク) での講演「U.S.-Japan Relations in the Next Administration (新政権下での日米関係)」(2000年12月1 日)のなかで、大要次のように述べている。

1.民主党政権は国内では財政黒字が米国の経済成長に不可欠と言いながら、日本に対しては「内需拡大」を主張し、日本の財政赤字を拡大させるような政策を要求してきた。新政権はこのような欺瞞的な政策はとらない。
2.日本の財政赤字は極めて深刻な状態にあり、米国は日本の財政再建への協力を惜しまない。
3.日本が財政再建に踏み出せば、対米輸出に拍車がかかるが、新政権は前政権のように日本叩きや為替調整に走らず、対米輸出の増加を容認する(つまり国内対策で対応する)。
4.一方で、財政構造改革は日本からの対米資本流出を加速させる。これは米国の資産市場を支えるため、米国の利益になる。

 興味深いのは、ブッシュ政権の経済政策責任者が“親日度”を強調する一方で、日本からの資本流出によりドル資産価格が維持できるというホンネを率直に語っていることである(事実、FRBの2日連続の利下げにも拘わらず、ドルは対円で上昇している)。いずれにせよ、米新政権が日本の財政赤字問題とその国際金融市場への影響を重視し始めたことは間違いなく、橋本再登板は、連立政権が実体はともかく、イメージ的に「日本の政策転換」を海外にアピールできるという点では一定のメリットがあるのかもしれない。

建設族が自民党執行部を支配

 しかしながら、現時点では森連立政権が軌道修正したとみるべき証拠は何もない。6人もの閣僚を留任させたことひとつをとってみても、第二次森改造内閣のメッセージが「変化」や「改革」ではなく、あくまで「現状維持」にあることは明白である。内閣改造後も森内閣の支持率が上昇していないのは、まさにそのためであろう。
 こうした見方は、2001 年度の税制改正大綱と予算案によっても裏付けられる。連立与党は2001 年度の減税額を、前年度の当初予算ベースの減税規模を上回る1,900 億円(2000年度は1,400億円)とすることで合意した。同時に2002 年度に連結納税制度を導入することも初めて明記した。これは実質的な大企業優遇税制である。他方で、たばこ税と酒税の引き上げ、及び外形標準課税の導入は見送った(政府税調は外形標準課税の導入は「早急に対処すべき課題」であるとの答申を行ったが、与党はこれを事実上、無視した)。
 さらに、自民党三役の顔ぶれをみても、同党が本気で財政再建に乗り出すなどということは考えにくい。古賀誠幹事長は建設族の大物であり、同じく建設族の村岡兼造総務会長とは近い。村岡氏は言うまでもなく道路族の大ボスであり、亀井静香政調会長は鉄道族(「新幹線男」の異名も)の大ボスである。森首相も北陸新幹線の早期完成を選挙公約に掲げている。こうしてみると、米新政権の「意向」がどうであれ、自民党には公共事業を削減し、本気で財政再建に取り組む気持ちなどまったくないのは明らかである。つまり、バラマキあっての自民党であり、バラマキを止めた自民党はもはや自民党ではない。森内閣の退陣を求めた加藤氏でさえ、バラマキ批判の強かった昨年の補正予算に反対することはなかった。

参院選挙の結果と予想されるシナリオ

 だからこそ、森首相の後継が誰になろうとも、参院選が連立与党、とりわけ自民党にとって極めて厳しい選挙になるのは、当然のことなのである。選挙技術的にも、単純過半数(124議席)を維持するためには、連立与党は64議席を確保(非改選60議席)しなければならない。だが前回98年の選挙で自民・公明が獲得した議席は54議席に過ぎなかった。前回並みなら過半数割れになる。現状は、前回並すら難しいというのが大方の見方である。
 与党が過半数を維持すれば、現連立政権は2004年まで存続するだろう。財政・経済政策は基本的にこれまでの延長に過ぎず、2004年までのどこかで日本の資産市場は崩落しよう。
 与党が過半数割れした場合は、次のようなケースが想定される。
1. 三党で過半数をわずかに下回る;無所属議員などの一本釣りで過半数確保
2. 自由党を加えて「自自公保」政権復活
3. ねじれ継続
4. 自民・民主の大連立
5. 民主党中心の野党連立政権
 1番目は現状維持。2番目は自自公連立崩壊の経緯を考えると可能性は小さい。3番目の片肺飛行は長くは続かない。参院選後の最初の臨時国会で連立内閣は早くも立ち往生し、首相は解散総選挙か総辞職に追い込まれよう。だが解散はリスクを伴う。過半数割れすれば政権を失う。総辞職では衆参のねじれ現象は解消されない。総選挙を回避しながら、ねじれ問題を解決するには、民主党と大連立を組むしかないであろう。この時、自民党の総裁が加藤氏であれば、民主党の抵抗も小さくなろう。野中氏が「政変」後に加藤氏を「お構いなし」としたのは、こうした場合のために加藤カードを温存しておきたいという気持ちがあったからではないか。ただ、加藤派の分裂がさらに進むようだと、加藤首班による大連立の可能性はなくなる。

民主党が拒否すれば、どうなるか

 民主党が大連立を拒否すれば、総選挙になる。総選挙前の段階では拒否する可能性の方が大きい。総選挙で連立与党が過半数を失えば、民主党を中心とする連立政権が誕生しよう(この場合共産党が政権に参加するかどうかが最大の焦点になる。参加しなければ少数政権になる可能性がある)。逆に総選挙後も連立与党が過半数を維持した場合、事態は何も変わらず、ねじれはやはり次の参院選まで続く。それまでにまた解散総選挙になるかもしれないが、この段階で民主党は、政治的混乱を避けるために総選挙前には拒否した大連立に同意するかもしれない。
 これは取り敢えずの安定を意味するかもしれないが、経済政策では、かつての金融国会でみられたように、自民党の政策を補完する結果に終わる危険性が大きい。そしてその行き着く先は、消費税率の大幅引き上げである。しかし、これは日本経済を長期のリセッションに導く。
 民主党が総選挙後も大連立を拒否すれば、自民党は片肺飛行を続けながら「部分」連合(法案ごとの連合)を模索しなければならなくなる。これは極めて不安定であり、早晩、再び解散総選挙につながる。
 はっきりしているのは、すでに「自民党の時代は終わった」(山崎元政調会長)ということである。自民党の経済政策は破綻し、財政は崩壊し、人材は払底している。自己改革の力もない。日本の悲劇は、そのような政党が、少数政党をたぶらかしていつまでも政権の座に居座り続けていることである。そうした不幸な状況は一日も早く終わらせなければならない。その重要なチャンスが、数ヵ月後に迫った参院選挙なのである。参院選挙で野党勢力が連立与党を過半数割れに追い込めなかったならば、おそらく市場が反乱し、その被害は甚大なものになるだろう。日本がそうした最悪の事態を回避できるかどうかは、ひとえに野党勢力の力量にかかっている。(2001年1月10日)

(政治評論家)




中小企業労組が輝くために
学識者と組合役員の英知を実践へ


 研究部会・プロジェクト活動報告@ 中小企業問題研究部会


1.中小企業問題研究部会の構成と特徴

 労働総研の数ある研究部会・プロジェクトのなかで、どうも中小企業問題研究部会は異色の存在のようだ。どこが違うかといえば、委員の大半を学者・研究者で占める他の部会と違い、当部会は現職の中小企業関係単産役員が半数近くを占めていることである。相田部会長(現在は英国留学中につき松丸氏が代理)も事務局も、労組委員の役に立つテーマの設定や資料提供に留意している。
 したがって、今日学んだことは、明日から現場の活動指針として生かされるという大きなメリットがある。反面、多岐にわたる中小企業の存在を反映して、たまには委員間の意見の違いも出てくる。お互いの意見を尊重しながら一致点で運営しているが、全労連の民間単産のほとんどが中小企業に立脚した組合であることから、「中小企業労働組合運動の前進のために」の基準でまとめている。会議のたびに議論は尽きず、終了後も部会長を囲んで仲良く交流する習慣も定着して、出ればためになり、たのしい部会になっていると思う。

2.経過とおもな研究活動

 1)政策づくりから出発
 中小企業研究部会の発足は、1993年5月で初代部会長・福島久一氏の尽力による。当時は、部会の目的である「中小企業政策づくり」と「中小企業問題を系統的に研究し、その成果を定期的(2年〜3年に1回程度)に発表する」ために、まず関係する学識者の集まりが先行し、関係単産としてどこに委員を委嘱するかの議論からはじまった。すべての民間単産を対象にしても意味がなく、結局、大産業別グループのなかから選出してもらうことになった。指名を受けた単産から月に1回のペースで順次、産業事情や運動方針、問題点などの説明を受け、中小企業団体の実態や要求を聞く機会も重ねた。
 この研究を通じて、各産業別中小企業、労働組合運動の特徴や問題点を掌握していった。とりわけ、統一労組懇時代からの懸案事項であった「中小企業家の二面性」問題にも解決の見通しが立ってきた。それは、89年11月の全労連結成を前後して、当時の運輸一般や全労連・全国一般、全印総連が「中小企業問題」を全面的に見直してくれたことが大きく貢献したと思う。
 同時に、「中小企業白書」の分析などは、毎年の研究テーマとして定着しているし、全労連からの緊急要請(例えば、ILO「中小企業における雇用創出の奨励のための一般条件」への意見書起草など)への対応、全労連・労働総研共催の「地域政策研究交流集会」への協力、労働総研編「豊かな国民生活のために──産業空洞化に抗して」の原稿の検討などでも積極的な役割を果たしてきた。

 2)「中小企業の労働組合運動」の発行
 各単産・団体報告と問題点の整理がすすみ、94年12月の泊り込み会議で、中小企業政策を柱とする書籍「中小企業の労働組合運動──21世紀への挑戦」(学習の友社)発行の章建てや執筆分担を決めた。以降は、@レジュメにもとづく討論、A粗原稿にもとづく討論、B完全原稿にもとづきまた討論という繰り返しで作業をすすめた。  全体討論の結果、各章とも相当に手直しされた。とくに、執筆段階で政府・財界の「21世紀戦略」が次つぎと発表され、中小企業の「整理、淘汰」の方向がはっきりしてきた。学識者が良かれと思って記述した内容も、労組委員からみて「甘い」「違う」と判断されると削除、訂正されたりもした。こうして刊行されたのは96年7月になったが、政策論から出発して運動論、組織論まで提起する総合的な内容に仕上げることができた。  出版が終わると、つぎは普及にも一定の責任を負い、関係単産に購読要請したり、学習会の開催をお願いし、各委員が講師を引き受け普及に協力してきた。学習の友社によると、初版2500部はほぼ完売に近く、同社に赤字の迷惑はかけていないとのことである。

 3)中小企業基本法の改悪をめぐって
 政府は、「21世紀戦略」の目玉としての「産業構造改革」をすすめ、99年には中小企業政策の見直しに着手した。同年8月に発表された「中小企業審議会中間答申」は、中小企業基本法の全文に謳われていた「大企業との不利是正」「格差是正」の政策をやめ、「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」、創業・ベンチャー支援へと方向転換し、既存の中小企業を保護する諸施策を切り捨てるというものであった。
 中間答申の発表を前後して、緊張した部会が数回もたれ、各団体ごとに意見書を提出するよう呼びかけることになった。これには、全労連をはじめJMIU、運輸一般、全印総連、全労連・全国一般、全労連繊維、商サ連が対応してくれた。最終答申から秋の「中小企業国会」といわれた基本法・関連法案の審議期には、これらの単産を中心に団体署名にとりくみ、全商連などとともに衆参両院商工委員への要請行動、委員会傍聴などが数次にわたって展開された。こうした運動もあって、付帯決議には「既存の中小企業に対する施策」「小規模企業や個人事業者の配慮」などが盛り込まれた。

3.2000年度定例総会以降のとりくみ

 1)総会の方針と研究活動
 2000年7月に開催された労働総研の定例総会にあたり、中小企業部会は「21世紀初頭における具体的な研究課題」として、つぎのような事業計画案を提出した。
 それは、「景気の低迷や経済・産業のグローバル展開のもとでの中小企業がキーワードになる。政府は2001年までに、これまでの中小企業『保護政策』を打ち切り、自助努力と規制緩和による完全自由競争の方向に大転換している」ことから、下請代金支払遅延等防止法の改悪などが取り沙汰されており、ひきつづき法律研究などをすすめるとした。あわせて、「大企業のリストラ競争と政府の支援策、さらには『IT革命』がすすむもとで、中小企業分野の政策研究を深め、運動発展に寄与するとともに、必要な段階に研究成果をまとめていく」というものである。
 こうした計画にもとづき、7月の定例部会では「中小企業白書を読む──その特徴について」(報告者=松丸部会長代理)をメインに、この間の各委員の研究・活動報告について交流した。これには「建交労の『中期構想』5カ年計画」「長期不況下の中小製造業と新しい運動展開」が報告され、終了時刻が迫ったところで、「産業別労働協約と労使関係」の研究報告がつづいた。このため、8月の部会では「日本の産業別労働協約の特徴と可能性」(報告者=浅見委員)について、イギリスとの比較研究の詳細な報告を受けた。
 10月の定例部会では、日経連の「新日本的経営」の中小企業版である「『21世紀を展望した活力ある中堅・中小企業』批判」を外部の研究者に特別報告してもらった。報告と討論を通じて、大企業ですすめられている賃金・人事の成果主義導入は、中小では危険すぎるとの結論になった。しかし、日経連は2001年春闘にむけて、書籍の普及とともに、産業別・地方別に具体化をはかり、多くの中小企業に導入を求めていくであろう。それに対して、私たちは警戒する必要があることを改めて意思統一した。

 2)今後の研究テーマについて
 定例総会の事業計画を念頭に、委員の希望として、@NTTの究極的「IT戦略」と中小企業への影響について、A中小企業基本法の改悪から1年、その影響について、B地方分権と広域統合問題、自治体の中小企業政策の変化について──などを研究してほしいとの意見が出されている。順次、具体化したいと思っているが、「相田部会長の留学中にあまり沢山の研究を始末しないほうがよい」との慎重論もある。また、「研究成果をまとめる次の出版物をどうするか」との兼ね合いでテーマを設定するようにしていきたい。

(報告者 中島康浩 会員)



 第3回常任理事会協議確認事項
 第3回常任理事会が1月13日(土)13時30分〜16時におこなわれた。


報告事項の承認
 @第4回企画委員会(12月22日)の協議事項などの報告。
 A全国一律最賃制の今後の取り組みについての全労連熊谷副議長との協議(12月27日)結果について。
 B各研究部会等の活動状況の報告。


協議事項
 @加入・退会を承認した。
 A研究例会について意見交換をおこなった。
 B3月18日に来日するフランスの雇用問題研究者フレシネ氏との意見交換の機会について、不安定雇用研究部会のゲストとし、参加者も拡大して行うこととした。
 Cアクションプログラムは企画委員会で若干の補足を行い、3月24日の研究部会責任者会議で検討することとした。



 12月の研究活動
12月4日  青年問題研究部会=「法律における青年の規定について」報告・討論
  9日  社会保障研究部会=出版企画についてのについての調整
 政治経済動向研究部会=「95年細川連合政権と対比してみた現局面の政治動向の特徴について」報告・討論
  15日  女性労働研究部会=「税制、社会保障、賃金等の“世帯単位”から“個人単位”への転換論について」報告・討論
  18日  国際労働研究部会=2001年版年報の進行状況についての報告・討論



 12月の事務局日誌
12月2日 埼労連春闘討論集会(草島事務局長)
  22日 第4回企画委員会
  30日 島津千利世理事通夜(藤吉理事)